INSTITUTION PROFILE / 細胞培養技術
PMDA
― 日本で売る細胞製品を「審査し、製造所を調べる」機関
PMDA(医薬品医療機器総合機構)は厚生労働省が所管する日本の独立行政法人で、自分では薬も細胞も作りません。 役割は、企業が出した承認申請の資料を審査し、製品を作る製造所を調査して、その結果を厚生労働大臣に伝えることです。 iPS細胞から作る細胞製品やCAR-T細胞のような再生医療等製品も、抗体医薬のような細胞培養で作るバイオ医薬品も、 日本で売るならこの審査と調査を通ります。 本稿では、PMDAが細胞培養技術にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるPMDA
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 細胞培養技術で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 審査を経た製品と企業
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるPMDA
医薬品医療機器総合機構英文 Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
PMDAは審査をする機関で、承認を出す機関ではありません。 医薬品医療機器等法(薬機法)は、再生医療等製品の製造販売には「厚生労働大臣の承認」が要ると定め(第23条の25)、 そのうえで厚生労働大臣が審査と調査をPMDAに行わせることができ、その場合は大臣が自分では審査せず、 PMDAが通知する結果を考慮して承認すると定めています(第23条の27) 事実。 つまり最終判断は厚生労働大臣ですが、申請資料を読み込み、製造所に出向いて調べる実務はPMDAが担います。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
細胞培養技術の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では細胞も製品も作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 細胞培養技術で何をしているか
PMDAの業務のうち、細胞培養技術に関わるのは次の5つです 事実。
| 業務 | 中身 | 実績・対象 |
|---|---|---|
| 再生医療等製品の承認審査 | 生きた細胞や遺伝子を使う製品の品質・有効性・安全性を審査。品質が均一になりにくい製品向けの条件及び期限付承認の審査も行う | 令和7年度に承認された品目の総審査期間(中央値)は優先品目8.9か月、通常品目11.1か月 |
| 治験・開発の相談 | 医薬品等を開発する企業や大学・研究機関に、治験の内容や申請資料について助言する | 医薬品だけでなく再生医療等製品の分野も対象 |
| GCTP適合性調査 | 再生医療等製品の製造所が、製造管理・品質管理の基準(GCTP)に合っているかを書面と実地で調べる | 対象は国内外の製造所。令和7年度の実地調査は8件(海外3件・国内5件) |
| GMP適合性調査(バイオ医薬品) | 細胞培養技術応用医薬品や遺伝子組換え医薬品を作る製造所がGMPに合っているかを調べる | 国内は生物学的製剤などを作る製造所、海外は医薬品の製造所が対象(それ以外の国内製造所は都道府県が担当) |
| 細胞培養加工施設の調査 | 再生医療等安全性確保法にもとづき、医療機関向けに細胞を加工する施設(特定細胞加工物等製造施設)の構造設備を調べ、立入検査も行う | 2025年5月の法改正で対象が広がり、令和7年度に新しい対象の施設の調査を始めた |
GCTP調査の対象は、PMDAの業務範囲の説明では「再生医療等製品を製造する国内外の製造所」です。 培地や培養装置、シングルユースのバッグを作るメーカーそのものが調査の対象と書かれているわけではありません 事実。 ただし製造所は、使う資材も含めて製造管理と品質管理を説明できなければ調査に通りません。 資材メーカーから見ると、PMDAの影響は顧客である製造所を通して間接的に届く形です 本稿の計算。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | PMDAが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 申請資料の審査と、製造所の書面・実地の調査。結果を厚生労働大臣に通知する | 承認・許可そのものを出す権限(厚生労働大臣)。保険で払う価格を決める権限(厚生労働省と中央社会保険医療協議会) |
| 地域 | 日本の市場。日本に輸出される製品なら、海外の製造所もGCTP・GMP調査の対象になる | 他の国での承認や販売を左右する権限 |
| 国際的なつながり | ICH(医薬品規制調和国際会議)に日本の規制当局代表の一員として参加。PIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)には、厚生労働省と合わせて1つの参加当局として2014年7月に加盟 | 国際的な指針を単独で決める権限(ICHでは各国当局と業界が合意して作る) |
| 規模 | 全職員1,053人(2025年4月1日現在)。国内は東京本部と関西・北陸支部、海外はタイとワシントンD.C.に事務所 | 再生医療等製品だけを担当する人数は、業務実績報告書に独立した数字がない |
PMDAの権限は日本の法律にもとづくので、届く範囲は原則として日本です。 ただし、日本で売りたい製品を海外で作る企業にとっては、自社の海外工場にPMDAの調査員が来ることになります。 令和7年度のGCTP実地調査8件のうち3件は海外でした 事実。 さらにPIC/Sの枠組みでは、他国当局との間で査察結果をやり取りしています(令和7年度は6件のGMP調査結果などを他国当局に提供) 事実。
5. 審査を経た製品と企業
2025〜2026年度に審査を経た主な細胞加工製品
| 製品(企業) | 承認日・種類 | 中身(PMDAの一覧の記載から要約) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|---|
| アムシェプリ(住友ファーマ) | 2026年3月6日 条件及び期限付承認 | 健康な成人の血液から作ったiPS細胞を培養・分化させたドパミン神経前駆細胞の塊。パーキンソン病の運動症状の改善に使う。先駆け審査指定品目 | 住友ファーマの企業解説 |
| リハート(クオリプス) | 2026年3月6日 条件及び期限付承認 | 同種iPS細胞から分化させた心筋細胞のシート。虚血性心筋症による重症心不全に使う | 本シリーズでは扱っていない |
| アロステムシート(イシンファーマ) | 2026年4月3日 承認 | 健康な成人の皮下脂肪から取った間葉系幹細胞を培養しシート状にした製品。表皮水疱症に使う | 本シリーズでは扱っていない |
| セイビスカス注(富士フイルム富山化学) | 2026年5月8日 承認 | 患者自身の膝の滑膜から取った細胞を培養した間葉系幹細胞の懸濁液。半月板損傷に使う | 本シリーズでは扱っていない(富士フイルムグループの別会社) |
| アクーゴ脳内移植用注(サンバイオ) | 2025年12月8日 一部変更承認 | 2024年7月に条件及び期限付承認。治験で使った製品と市販品の品質の同等性が評価され、「承認されるまで出荷しない」という承認条件が削除された | 本シリーズでは扱っていない |
※アクーゴの例は、PMDAの審査が培養した細胞の品質が治験のときと同じかまで見ていることを示しています。細胞を培養して作る製品では、作り方が少し変わるだけで製品が変わりうるためです。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| iPS細胞由来の2品目は、期限内に改めて承認申請し、PMDAの審査を受け直すことになる。そのときに有効性を示せるかが次の山場 | 薬機法第23条の26は、条件及び期限付承認の期限を7年以内(延長は3年以内)とし、期限内の再申請を義務づけている。2品目の承認は2026年3月 | 推測 |
| 医療機関向けに細胞を加工する施設の調査が、PMDAの業務として増えていく | 2025年5月の再生医療等安全性確保法の改正で対象が広がり、PMDAは令和7年度に新たな対象の施設の調査を始めた | 推測 |
| 海外で作られる細胞製品が増えるほど、PMDAの海外製造所の調査の比重が上がる | GCTP調査は国内外の製造所が対象で、令和7年度の実地調査8件のうち3件が海外。PMDAは2024年にタイと米国に事務所を開いた | 推測 |
7. 用語集
- 再生医療等製品
- 人や動物の生きた細胞・組織を加工した製品と、遺伝子治療用の製品。医薬品や医療機器とは別の区分として薬機法に定められている。
- 条件及び期限付承認
- 品質が均一でない再生医療等製品について、有効性が推定され安全性が確認されれば、条件と7年以内の期限を付けて早く承認する仕組み。期限内に改めて申請する必要がある。
- GCTP
- 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準。医薬品のGMPにあたる。
- 特定細胞加工物
- 医療機関で行う再生医療に使う、培養などの加工をした細胞のうち、承認された再生医療等製品ではないもの。
- PIC/S
- 医薬品のGMP査察について各国の当局が協力する国際的な枠組み。日本は厚生労働省とPMDAが合わせて1つの参加当局。
8. 出典
- PMDA PMDAとは(名称・設立・法人の種別・業務)。 https://www.pmda.go.jp/about-pmda/outline/0001.html
- PMDA 業務案内(2025年5月発行。厚生労働省所管の独立行政法人であること、条件及び期限付承認制度、GCTPの定義、関西・北陸支部、アジア事務所とワシントンD.C.事務所の設置)。 https://www.pmda.go.jp/files/000219906.pdf
- PMDA 業務実績報告書(令和7年度)。所在地、全職員数、再生医療等製品の総審査期間、GCTP実地調査の件数、特定細胞加工物等製造施設の調査開始、PIC/Sにもとづく調査結果の提供。 https://www.pmda.go.jp/files/000282524.pdf
- PMDA GMP/QMS/GCTP適合性調査業務(PMDA・都道府県・第三者認証機関の分担、GCTPは国内外の製造所が対象)。 https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/0001.html
- PMDA 再生医療等安全性確保法に関する適合性調査(特定細胞加工物等製造施設の構造設備の調査と立入検査)。 https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/ensure-safety-regen/0001.html
- PMDA 2025年度承認品目一覧(再生医療等製品)。アクーゴ、リハート、アムシェプリなど。 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf
- PMDA 2026年度承認品目一覧(再生医療等製品)。アロステムシート、セイビスカス注など。 https://www.pmda.go.jp/files/000282058.pdf
- e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(第23条の25 承認、第23条の26 条件及び期限付承認、第23条の27 機構による審査等)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
- e-Gov法令検索 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(第35条 特定細胞加工物等の製造の許可、第38条 機構による調査、第53条 機構による立入検査)。 https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000085
- PMDA ICH 医薬品規制調和国際会議(PMDAは日本の医薬品規制当局代表の一員として参加)。 https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0014.html
- PIC/S Members(日本は厚生労働省とPMDAで1参加当局、2014年7月加盟)。 https://picscheme.org/en/members
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、英文名、設立2004年4月1日、3組織の業務の統合 | 事実 | 出典1 https://www.pmda.go.jp/about-pmda/outline/0001.html |
| 厚生労働省所管の独立行政法人、条件及び期限付承認制度の説明、再生医療等製品の分野を含む相談業務、関西・北陸支部、アジア事務所(2024年7月)とワシントンD.C.事務所(2024年11月) | 事実 | 出典2 https://www.pmda.go.jp/files/000219906.pdf |
| 全職員1,053人(2025年4月1日)、総審査期間 優先8.9か月・通常11.1か月、GCTP実地調査8件(海外3・国内5)、特定細胞加工物等製造施設の調査開始、他国当局への6件の調査結果提供 | 事実 | 出典3 https://www.pmda.go.jp/files/000282524.pdf |
| GCTP調査は国内外の製造所が対象、GMPでは細胞培養技術応用医薬品などを作る国内製造所と海外製造所が対象、それ以外は都道府県 | 事実 | 出典4 https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/0001.html |
| 特定細胞加工物等製造施設の構造設備調査と立入検査 | 事実 | 出典5 https://www.pmda.go.jp/review-services/gmp-qms-gctp/ensure-safety-regen/0001.html |
| アムシェプリ・リハートの条件及び期限付承認(2026年3月6日)、アクーゴの一部変更承認と承認条件の削除 | 事実 | 出典6 https://www.pmda.go.jp/files/000280052.pdf |
| アロステムシート(2026年4月3日)、セイビスカス注(2026年5月8日)の承認 | 事実 | 出典7 https://www.pmda.go.jp/files/000282058.pdf |
| 承認は厚生労働大臣、審査・調査はPMDAに行わせることができ大臣はその結果を考慮する、条件及び期限付承認の期限(7年以内・延長3年以内)と再申請義務 | 事実 | 出典8 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 |
| 特定細胞加工物等の製造許可は厚生労働大臣、調査と立入検査はPMDAに行わせることができる | 事実 | 出典9 https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000085 |
| ICHへの参加 | 事実 | 出典10 https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0014.html |
| PIC/Sへの加盟(厚生労働省と合わせて1参加当局、2014年7月) | 事実 | 出典11 https://picscheme.org/en/members |
| 機関の4つの型の区分、図2の品目の抜粋 | 本稿の計算 | 本稿による整理(品目は出典6・7から選んだもの) |
| 資材メーカーへの影響は製造所を通して間接的に届く | 本稿の計算 | 出典4の調査対象の定めからの本稿の解釈 |
| 再生医療等製品だけを担当する職員数 | 未確定/将来 | 出典3に独立した数字なし。本稿では推計しない |
| 第6章の見通し3項目 | 推測 | 出典2・3・8の制度と実績からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年9月24日/Troy Technical
本稿の数値はPMDAの公式サイト・業務実績報告書・承認品目一覧と、e-Gov法令検索の条文に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。