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アノードフリー構造|全固体電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

アノードフリー構造とは何か
― 「作らない負極」が、工場から何を消すか

負極を作らずに電池を出荷し、最初の充電でその場に作らせる。 材料の話に見えますが、影響がいちばん大きいのは製造工程です。 塗って、乾かして、プレスする——その一連が丸ごと無くなります。 かわりに、これまで脇役だった集電体の表面が主役に回ります。

構成:QuantumScape・Samsung SDI の公表資料を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

鏡のように滑らかな金属箔が一枚だけ置かれ、その上にはまだ何も塗られていない状態を表した概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。何も載っていない集電箔を表現したものです。実際の材質・表面状態・寸法を示すものではありません。
この記事の構成
  1. アノードフリー構造とは何か(3行でつかむ)
  2. 3つの負極構成を、製造の目で並べる
  3. 工場から消える工程
  4. 素材技術者の視点①:主役が「負極材」から「集電体の表面」へ移る
  5. 素材技術者の視点②:出荷されるセルは、未完成品である
  6. 数字で見る ― 900 Wh/L が意味すること
  7. 産業側の現在地
  8. 課題
  9. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=各社の公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標であり、量産実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。

関連記事との分担

本シリーズには「リチウム金属負極」編があり、そちらでは 材料としてのリチウム金属(理論容量、なぜ入れ物が要らないのか、析出したリチウムの性質)を扱っています。 この記事は同じ技術を構造と製造の側から見ます。重複を避けるため、 容量の比較や析出メカニズムはそちらに譲り、ここでは工程・設備・品質保証に絞ります。

1. アノードフリー構造とは何か(3行でつかむ)

アノードフリー構造とは、 「負極の活物質を作らずにセルを組み立て、最初の充電で負極をその場に生成させる構造」です。

QuantumScape は自社設計をこう説明しています事実。

QuantumScape の記載(原文は英語)

「The QuantumScape design is 'anode-free' in that the battery is manufactured anode free in a discharged state, and the anode forms in situ on the first charge.」
(放電状態で負極なしに製造され、負極は最初の充電でその場に形成される)

負極については 「a pure lithium-metal anode with zero excess lithium」(余剰リチウムがゼロの純リチウム金属負極) (QuantumScape 技術ページ)

  • 作らないもの:負極活物質。黒鉛も、リチウム箔も、出荷時には存在しない
  • 載っているもの:集電体(金属箔)だけ。あとは固体電解質と正極
  • いつ負極ができるか:最初の充電。正極から移動したリチウムが集電体の上に析出する
呼び方が2つあります

QuantumScape は anode-free、Samsung SDI は anode-less という語を使っています事実。 日本語では「アノードフリー」「アノードレス」「無負極」などが混在します。 本記事では、記事本文で最も多く使われている「アノードフリー」に統一します(本記事による整理)。

2. 3つの負極構成を、製造の目で並べる

負極の作り方には3通りあります。電池の性能ではなく、工程の数で並べてみます。

負極を用意する3つの考え方

黒鉛負極、リチウム金属箔、出荷時に負極材を置かないアノードフリー構造を並べた概念図
  1. 黒鉛負極:集電体に黒鉛層を設ける
  2. リチウム金属負極:集電体に薄いリチウム箔を置く
  3. アノードフリー:出荷時は負極材がなく、初回充電で析出する
図1 AI生成の概念図。3方式の違いを材料の有無に絞って示しています。層厚・空隙・形状は模式的で、実際のセル断面や観察像ではありません。

3. 工場から消える工程

アノードフリーで本当に効くのは、ここです。 負極を作らないということは、負極を作るための設備が要らないということです。

負極をつくる工程が、まるごと消える(本記事による整理) 従来(黒鉛負極) 負極材の調達黒鉛・バインダー スラリー混練溶媒に分散 集電体へ塗工厚みを均一に 乾燥溶媒を飛ばす プレス密度を上げる スリット幅を切り出す アノードフリー 集電箔を用意する 表面をつくり込む この区間の工程・設備・材料が不要になる 塗工機、乾燥炉、溶媒回収、プレス機、スリッター 消えるのは工程だけではありません 負極材のサプライチェーン、乾燥に使うエネルギー、溶媒の回収設備、そして工場の床面積も減ります。
図2 概念図(ベクター作図)。工程の並べ方と「消える」という整理は本記事によるものです。各社が公表した工程図ではありません。実際に必要な工程は設計・材料系によって異なり、アノードフリーでも別の工程が加わる場合があります。
素材技術者の読みどころ:これは材料の話ではなく、設備の話です

電極の塗工は、リチウムイオン電池の製造でもっとも設備を食う工程のひとつです。 スラリーを混ぜ、箔に均一に塗り、長い乾燥炉を通し、溶媒を回収し、プレスで密度を整える。 負極が無ければ、この列が半分になります。

Samsung SDI は、アノードレス技術を 「innovative anode-less technology to reduce the volume of the anode and increase the energy density」 (負極の体積を減らしてエネルギー密度を上げる革新的なアノードレス技術)と説明しています事実。 公表されているのは体積とエネルギー密度の話ですが、 体積が減るということは、その体積を作っていた工程も減るということです(本記事による解説)。

本シリーズの「ドライ電極」編では、硫化物電解質が水に弱いために溶媒が選べず、乾式へ向かう話を扱いました。 アノードフリーは、負極側でその問題を「工程ごと消す」という解き方をしています。 溶媒をどうするか悩むより、塗らなければよい——という発想です(本記事による解説)。

4. 素材技術者の視点①:主役が「負極材」から「集電体の表面」へ移る

負極材が無くなると、責任の所在が動きます。 リチウムがどこに、どう析出するかを決めるのは、受け止める面だけになるからです。

薄い金属箔の表面を斜めから見た様子で、均一で滑らかな質感だけがあり、その上には何も載っていない概念イメージ
図3 概念図(AI生成イメージ)。負極活物質が載っていない集電箔を表現したものです。実際の材質・表面粗さ・処理の有無を示すものではありません。顕微鏡像でもありません。
集電体に求められるものが変わります

従来の集電体(銅箔)の役割は、電気を集めることと、塗った活物質を保持することでした。 求められるのは、導電性・強度・活物質との密着性です。

アノードフリーでは、そこに「リチウムを均一に受け止める」という役割が加わります。 これは性質がまったく違う要求です(本記事による解説)。

  • 核生成の均一性:析出が特定の点に集中すれば、そこが厚くなり、やがて短絡の起点になります
  • 濡れ性:リチウムが面に広がるか、玉になるか。広がらなければ接触が失われます
  • 表面の清浄度:酸化膜や汚れが核生成の分布を変えます
  • 可逆性:放電時にリチウムが「きれいに剥がれる」こと。残れば、次の充電で不均一の種になります

つまり集電体は、電気を運ぶ部品から、析出を制御する機能面へ変わります。 本シリーズの「界面抵抗」編で扱った「接触が性能を決める」という話が、 ここでは毎回ゼロから接触をつくり直すという形で現れます(本記事による解説)。

核生成を助ける層を置くという考え方

集電体の表面そのものを作り込むかわりに、薄い中間層を置くという設計があります。

Samsung Advanced Institute of Technology らは2020年、Nature Energy 誌に 「High-energy long-cycling all-solid-state lithium metal batteries enabled by silver–carbon composite anodes」 (銀–炭素複合負極による高エネルギー・長寿命の全固体リチウム金属電池)という論文を発表しています事実。

この論文について、本稿で書けること・書けないこと

本稿の調査時点で、この論文の本文は出版社サイトで認証が必要であり、 要旨および数値を直接確認できませんでした。 したがって本記事では論文の題名・掲載誌・発表年のみを記載し、 層の厚み・エネルギー密度・サイクル数といった数値は一切引用していません。

また、Samsung SDI の公式ページはアノードレス技術について 負極の体積を減らす技術としか説明しておらず、負極に使う材料の組成を明示していません事実。 本記事は、同社製品の負極材料を特定していません。

それでも、この方向には意味があります

「集電体の上に、リチウムが最初に取り付く足場をつくる」という考え方そのものは、 材料設計の対象が変わったことを示しています(本記事による解説)。

従来の負極材はリチウムを蓄える器でした。黒鉛の層間にリチウムイオンが出入りする。 アノードフリーの中間層は蓄えません。蓄えるのは析出したリチウム金属そのものです。 中間層の仕事は「どこに、どう付けるか」を決めることだけ。

容量を持たない材料が、容量を左右する。 これは「接着・封止材」や「機能性材料」の分野では見慣れた構図ですが、 電池の負極でそれが起きているのは新しい事態です(本記事による解説)。

5. 素材技術者の視点②:出荷されるセルは、未完成品である

もうひとつ、製造の考え方が変わる点があります。 QuantumScape の記載を、もう一度読み直してみます。

「the battery is manufactured anode free in a discharged state, and the anode forms in situ on the first charge」事実。

工場から出るとき、そのセルには負極が無い。電池として完成していません。

製造の終わりが、工場の外にある(概念図) 工場でできること 正極をつくる 固体電解質の層をつくる 集電箔を重ねて、封じる この時点で負極は無い 最初の充電でできること 正極からリチウムが移動する 集電箔の上に析出する そこで初めて負極になる 負極の品質は、ここで決まる 出荷 検査すべき対象が「部品の出来」から「工程の再現性」へ移ります 負極そのものを受け入れ検査することはできません。まだ存在しないからです。
図4 概念図(ベクター作図)。「放電状態で負極なしに製造され、負極は最初の充電でその場に形成される」という記載は QuantumScape[参考資料1]によります。工程の分け方と品質保証に関する読み取りは本記事によるものです。
素材技術者の読みどころ:受け入れ検査ができない部品

材料メーカーにとって、これは重い話です。 負極という部品が存在しないので、その品質を出荷前に測ることができません。

では何を保証するのか。集電体の表面と、その上で起きる析出の再現性です。 しかし析出が起きるのは、セルが組み上がって封じられたあと。 中が見えない状態で、初めて負極ができます。

結果として、保証の形はこう変わります(本記事による解説)。

  • 従来:負極を作って、測って、良品だけ組む
  • アノードフリー:集電体の表面仕様を決めて、工程条件を固定し、できたセルの挙動で確かめる

本シリーズの「テスト」編(半導体後工程)で扱ったKGD(Known Good Die)の考え方が使えません。 組む前に良品と分かる部品が、そもそも存在しないからです。 初回充電が、製造工程の最後の一歩になります(本記事による解説)。

6. 数字で見る ― 900 Wh/L が意味すること

Samsung SDI は全固体電池について、具体的な数値を公表しています事実。

項目公表内容
エネルギー密度900 Wh/L。量産中の角形電池より40%高い
負極「innovative anode-less technology to reduce the volume of the anode and increase the energy density」
正極側の効果「anode-less technologies, the latter of which enables higher cathode capacity」
セパレータ「solid electrolytes can replace the role of a separator, the energy density can be increased by removing the separator」
量産時期2027年の量産を目標未確定/将来
パイロットライン水原のR&Dセンターに 6,500 m² の「S-line」。試作サンプルを供給中

すべて事実(Samsung SDI ニュースルーム[参考資料2]およびプレスリリース[参考資料3])。

本稿の計算:40%高いと、体積はどれだけ減るか

公表されているのは900 Wh/Lと量産中の角形電池より40%高いという2点です。 ここから、同じ電力量を積むときの体積を求めます本稿の計算。

  • 比較対象のエネルギー密度 = 900 ÷ 1.40 = 約 643 Wh/L
  • 75 kWh を積む場合の体積
    比較対象:75,000 ÷ 643 = 約 117 L
    900 Wh/L:75,000 ÷ 900 = 約 83 L
  • 差 = 約 34 L。体積は約29%減る

前提と限界:75 kWh は本稿が置いた仮定で、車種により変わります。 また 900 Wh/L はセル単位の体積エネルギー密度であり、 実際の車載パックではモジュール・冷却・筐体が加わるため、 パック全体で29%減ることを意味しません。 40%という比較の基準となる「量産中の角形電池」の具体的な製品名も公表されていません。

同じ75 kWhを積むなら(本稿の計算) セル単位の体積で比較したものです。パック全体の値ではありません 約 117 L 約 643 Wh/L 量産中の角形電池(推定) 900 ÷ 1.40 による本稿の逆算 約 83 L 900 Wh/L Samsung SDI の公表値 体積は約29%減る ※ 75 kWh は本稿が置いた仮定です。900 Wh/L と「40%高い」はSamsung SDIの公表値、643 Wh/L と 117 L と 83 L は本稿の計算です。
図5 本稿の計算。900 Wh/L と「量産中の角形電池より40%高い」は Samsung SDI の公表値[参考資料2・3]です。643 Wh/L・117 L・83 L・29%はすべて本記事が算出した値で、公表値ではありません。セル単位の比較であり、車載パック全体の体積を示すものではありません。

7. 産業側の現在地

QuantumScape ― 自分では作らず、作り方を渡す

2026年6月18日、QuantumScape は本田技研工業の研究子会社である株式会社本田技術研究所との共同研究契約を発表しました事実。 同社はこれを「a multi-year plan focused on solid-state battery development and associated manufacturing processes」 (全固体電池の開発と、それに付随する製造プロセスに焦点を当てた複数年の計画)と説明しています事実。 用途については「We see potential for QS technology to add value across a range of applications, including automotive」としています事実。

「製造プロセス」が契約の対象に入っていること

この発表で目を引くのは、共同研究の対象が電池そのものだけでなく「associated manufacturing processes」(付随する製造プロセス)を 明示的に含んでいる点です事実。

第3章で見たとおり、アノードフリーは工程がまるごと変わる技術です。 材料を渡すだけでは成立せず、どう作るかまで一緒に決める必要がある—— 契約の書き方がそれを示していると読めます(本記事による解説)。

本シリーズの「PLP」編や「OSAT」編でも、材料・装置・設計を一体で開発する動き(JOINT3など)を扱いました。 工程が新しいほど、材料単体では売れなくなる。同じ構図です(本記事による解説)。

Samsung SDI ― 2027年の量産を掲げる

Samsung SDI は、アノードレス技術を用いた全固体電池について 2027年の量産を目標として掲げています事実未確定/将来。 水原のR&Dセンターに設けた 6,500 m² の「S-line」で試作サンプルを供給中としています事実。

乾燥した空気に保たれた製造区画で、箔を扱う装置が静かに並んでいる様子を表した概念イメージ
図6 概念図(AI生成イメージ)。電池のパイロットラインを表現したものです。特定企業の設備・配置・規模を示すものではありません。

8. 課題

(1) 逃げ場がない ― 余剰リチウムがゼロであること

QuantumScape は自社の負極を「a pure lithium-metal anode with zero excess lithium」 (余剰リチウムがゼロの純リチウム金属負極)と説明しています事実。

使えるリチウムは、正極が持っている分だけ(概念図) 余剰リチウムがある場合 最初から多めに入れておく 毎回少し失われても、 しばらくは在庫でしのげる そのぶん厚く、重くなる アノードフリー(余剰ゼロ) 在庫が無い 失ったぶんは、そのまま 容量の低下になる だから薄く、軽い 軽さと引き換えに、1回ごとの可逆性が寿命を直接決めます 析出と溶解を何百回も繰り返して、どれだけ取りこぼさずに戻せるか。
図7 概念図(ベクター作図)。「余剰リチウムがゼロ」という記載は QuantumScape[参考資料1]によります。左側の「余剰リチウムがある場合」との対比、および厚み比は本記事による模式表現です。特定製品の設計を示すものではありません。
素材技術者の読みどころ:可逆性が、そのまま寿命になる

余剰リチウムは、いわば在庫です。毎回の充放電で少しずつ失われても、在庫があるうちは容量が保たれます。 かわりに、その在庫のぶんだけ電池は厚く重くなります。

アノードフリーは在庫を持ちません。失ったぶんが、そのまま容量の低下になります。 だから軽い。だから、1回ごとの可逆性が設計の中心になります(本記事による解説)。

ここで効いてくるのが第4章の話です。集電体の表面が悪ければ、析出が偏り、 剥がれ残りが出て、次の回の不均一を呼びます。 表面の仕様が、そのまま寿命の仕様になります。

(2) 何が起きているか、外から見えない

負極は封じられたセルの内部で生成します。 析出が均一かどうかを、出荷前に直接確かめる手段がありません。 第5章で述べたとおり、品質保証は工程条件の固定と、セル挙動からの間接的な確認に頼ることになります(本記事による解説)。

(3) 量産実績はこれから

Samsung SDI の量産目標は2027年、QuantumScape とホンダの契約は複数年の共同研究の段階です事実。 本稿の調査時点(2026年9月)において、アノードフリー構造の車載用全固体電池が本格量産に入ったという公式発表は確認できませんでした未確定/将来。

この記事のまとめ
  • アノードフリーとは、負極を作らずに出荷し、最初の充電でその場に生成させる構造です。QuantumScape は「放電状態で負極なしに製造され、負極は最初の充電でその場に形成される」としています事実
  • いちばん大きな影響は製造工程に出ます。負極のスラリー混練・塗工・乾燥・プレス・スリットが不要になります(本記事による整理)
  • 主役は集電体の表面に移ります。核生成の均一性・濡れ性・清浄度・可逆性が、そのまま性能と寿命を決めます(本記事による解説)
  • 出荷されるセルは未完成品です。負極が存在しないので、受け入れ検査ができません(本記事による解説)
  • Samsung SDI は 900 Wh/L・2027年量産を掲げています。同じ75 kWhなら体積は約29%減る計算です本稿の計算
  • 余剰リチウムがゼロなので、1回ごとの可逆性が寿命を直接決めます事実

9. 用語集

アノードフリー
負極活物質を作らずにセルを組み、最初の充電で負極をその場に生成させる構造。anode-free。
アノードレス
同じ構造を指す別の呼び方。anode-less。Samsung SDI はこちらを使う。
集電体
電極で発生した電気を集めて外へ運ぶ金属箔。アノードフリーでは析出の受け皿も兼ねる。
核生成
析出が始まる最初の点ができること。分布が偏ると厚みが不均一になる。
濡れ性
析出したリチウムが面に広がるか、玉になるか。広がらないと接触が失われる。
可逆性
析出したリチウムが、放電時にどれだけ取りこぼしなく戻るか。
余剰リチウム
設計上、最初から多めに入れておくリチウム。失われる分の在庫にあたる。
初回充電
製造後に初めて行う充電。アノードフリーではここで負極ができる。
スラリー
活物質・バインダー・溶媒を混ぜた塗料状の液。電極はこれを箔に塗って作る。
塗工
スラリーを集電体に均一に塗る工程。乾燥炉とセットで大きな設備になる。
Wh/L
体積あたりのエネルギー量。同じ大きさにどれだけ積めるかを表す。
パイロットライン
量産の前に、工程を検証するための試作設備。

10. 参考資料(一次情報)

  1. QuantumScape「Solid State Battery Technology」技術ページ(英語) — quantumscape.com
  2. Samsung SDI「[SDI Focus] 900Wh/L All Solid Battery Becomes Reality」ニュースルーム(英語) — news.samsungsdi.com
  3. Samsung SDI「SAMSUNG SDI to Present Essence of Super-Gap Battery Technology at InterBattery 2024」プレスリリース(英語) — samsungsdi.com
  4. QuantumScape「QuantumScape Announces Agreement with Honda on Solid-State Battery Technology」2026年6月18日(英語) — quantumscape.com
  5. Nature Energy「High-energy long-cycling all-solid-state lithium metal batteries enabled by silver–carbon composite anodes」2020年(本文は認証が必要で、本稿では内容を確認できていません) — nature.com

11. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
「The QuantumScape design is 'anode-free' in that the battery is manufactured anode free in a discharged state, and the anode forms in situ on the first charge.」「a pure lithium-metal anode with zero excess lithium」。QuantumScape が anode-free という語を使っていることQuantumScape 技術ページ[参考資料 1]https://www.quantumscape.com/technology/事実
エネルギー密度 900 Wh/L で量産中の角形電池より40%高いこと。「innovative anode-less technology to reduce the volume of the anode and increase the energy density」。「solid electrolytes can replace the role of a separator, the energy density can be increased by removing the separator」。水原のR&Dセンターに 6,500 m² の「S-line」があること。2027年の量産を目指すことSamsung SDI ニュースルーム[参考資料 2]https://news.samsungsdi.com/global/articleView?seq=203事実
「industry-highest energy density of 900Wh/L」。「anode-less technologies, the latter of which enables higher cathode capacity」。「mass-producing all solid-state battery in 2027」。パイロットラインが水原のR&Dセンターに設置され試作サンプルを供給中であること。Samsung SDI が anode-less という語を使っていることSamsung SDI プレスリリース(InterBattery 2024)[参考資料 3]https://www.samsungsdi.com/sdi-now/sdi-news/3522.html事実
2026年6月18日に本田技術研究所との共同研究契約を発表したこと。「a multi-year plan focused on solid-state battery development and associated manufacturing processes」。「We see potential for QS technology to add value across a range of applications, including automotive」QuantumScape プレスリリース(2026/6/18)[参考資料 4]https://www.quantumscape.com/quantumscape-announces-agreement-with-honda-on-solid-state-battery-technology/事実
Nature Energy 誌(2020年)に「High-energy long-cycling all-solid-state lithium metal batteries enabled by silver–carbon composite anodes」という論文が存在すること掲載ページの存在のみを確認。本文は出版社サイトで認証が必要で、本稿では要旨・数値を確認できなかったため、層の厚み・エネルギー密度・サイクル数などの数値は一切引用していない[参考資料 5]https://www.nature.com/articles/s41560-020-0575-z事実
比較対象のエネルギー密度を約643 Wh/L と逆算したこと。75 kWh を積む場合の体積を約117 L と約83 L とし、差を約29%としたこと本稿の計算。900 ÷ 1.40 による逆算と、75 kWh という本稿が置いた仮定にもとづく単純な割り算。セル単位の体積であり、モジュール・冷却・筐体を含む車載パック全体の体積ではない。比較基準となる「量産中の角形電池」の具体的な製品名は公表されていない本稿の計算
Samsung SDI 製品の負極材料の組成同社の公式ページはアノードレス技術を「負極の体積を減らす技術」としか説明しておらず、材料の組成を明示していない。本記事は同社製品の負極材料を特定していない解説
負極のスラリー混練・塗工・乾燥・プレス・スリットの工程が不要になるという整理。消えるのは工程だけでなくサプライチェーン・エネルギー・床面積も含むという指摘。集電体の役割が「電気を集める部品」から「析出を制御する機能面」へ変わるという読み取り。核生成の均一性・濡れ性・清浄度・可逆性という4要求の整理。出荷されるセルが未完成品であり受け入れ検査ができないという指摘。容量を持たない中間層が容量を左右するという評価。余剰リチウムを「在庫」にたとえた説明と、可逆性が寿命を直接決めるという読み取り。共同研究契約に製造プロセスが含まれることの意味づけ公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社が表明した見解ではない解説
アノードフリー構造の車載用全固体電池の本格量産本稿の調査時点(2026年9月)において、量産開始を宣言した公式発表は確認できなかった。各社の目標・段階は2027年および複数年の共同研究に置かれている未確定/将来
図1・図2・図4・図5・図7が実際の構造図・工程図ではなく説明のための作図であること本記事による注記解説

最終更新:2026年9月21日/出典は一次情報(電池メーカー・電池ベンチャーの公式発表および技術ページ)に限定しています。 構造の整理や製造・品質保証上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 本文が確認できなかった学術論文については、題名・掲載誌・発表年のみを記載し、数値を引用していません。 材料としてのリチウム金属(理論容量、析出したリチウムの性質)は「リチウム金属負極」編で扱っています。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図4・図5・図7はベクター作図、図3・図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・顕微鏡像・製品の実物を示すものではありません。