COMPANY PROFILE / 半導体後工程
ラピダス
― 売上ゼロの会社が、後工程で「業界初」を出している
Rapidusは2022年設立、2027年度後半の2nm量産を目指す日本の半導体メーカーです。 まだ製品を売っておらず、売上高も公表していません。 それでも後工程の記事に名前が出るのは、 北海道千歳市の後工程拠点RCSが、600mm角パネルでのRDLインターポーザ試作を「業界初」として公表したからです。 何が確定していて、何がまだ確定していないのかを、同社の公表資料だけで切り分けます。
- 30秒でわかるRapidus(基本データ)
- ロゴと社名の表記について
- 何をしている会社か ― RUMSという一貫モデル
- 企業規模 ― 売上高は非公表。代わりに資本を見る
- 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置
- 拠点と工場のある国
- 半導体後工程における主力製品とそのシェア
- 直近の投資計画
- 提携している大手企業
- 今後のこの分野における存在感
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるラピダス
(ファウンドリ)ただし後工程まで自社で一貫して行う方針
Rapidusはまだ何も売っていません。売上高も損益も公表されておらず、 他社の記事と同じ枠組みで比較することはできません。 それでも後工程の話題で名前が出るのは、 「2nm世代半導体のチップレットパッケージ設計・製造技術開発」という NEDOの委託プロジェクトを2024年3月から担っており、 その成果物が具体的な形で公表されているからです 事実。 この記事は「実績のある会社」ではなく「これから何をしようとしている会社か」として読んでください。
2. ロゴと社名の表記について
Rapidusのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行いません。 掲載する場合は公式サイトから取得した正規のロゴ画像を上の枠に設置してください。
表記の注意:社名は英字で Rapidus、日本語では「ラピダス」と読みます。 社名はラテン語で「速い」を意味し、同社が掲げる「サイクルタイム短縮」という事業方針に対応しています。 法人格は「Rapidus株式会社」で、カタカナ表記の法人名ではありません。
公式サイト:https://www.rapidus.inc/3. 何をしている会社か ― RUMSという一貫モデル
Rapidus自身の説明によれば、同社はファウンドリに分類されます。 ただし従来のファウンドリとは異なり、 設計支援・前工程・後工程を1社で一貫して提供するビジネスモデルを掲げています。 これを同社は RUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service) と呼んでいます 事実。
Rapidusの主張は「速さ」です。同社は前工程に枚葉プロセス(300mmウェーハを1枚ずつ処理する方式)を採用し、 そこで得られたデータをAIで解析して設計側に返す、と説明しています 事実。 一般的なバッチ処理(複数枚をまとめて処理)に比べて枚葉は生産性で不利ですが、 1枚ごとの履歴データが取れるという利点があります。 材料・プロセス開発の立場からは、これは「歩留まり改善の速度を、生産性と引き換えに買う」という選択に見えます。 多品種少量を前提にするなら合理的ですが、数量が出る製品では成立しにくい設計思想です。
4. 企業規模 ― 売上高は非公表。代わりに資本を見る
Rapidusは非上場で、有価証券報告書の提出義務がありません。 売上高・営業利益・総資産といった財務数値は公表されておらず、 過去5年の売上高を示すことはできません 未確定/将来。 代わりに、同社が公表している資本金・資本準備金の推移を示します。 現時点でRapidusの規模を示す唯一の公表数値がこれだからです。
| 時期 | できごと | 金額 | 出し手 |
|---|---|---|---|
| 2022年8月 | 設立時の出資 | 73億円 | トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、MUFG銀行の8社 |
| 2026年2月27日 | 情報処理推進機構(IPA)からの出資 | 1,000億円 | 政府(経済産業省所管の独立行政法人) |
| 2026年2月27日 | 民間32社からの増資 | 1,676億円 | キヤノン、日本政策投資銀行、富士通、NTT、ソフトバンク、ソニーグループなど32社 |
| 2026年6月5日 | IPAからの追加出資 | 1,500億円 | 政府 |
| 合計 | 資本金・資本準備金 | 4,249億5,000万円 | うち政府2,500億円(58.8%)、民間1,749.5億円(41.2%) 本稿の計算 |
従業員は1,024人(2025年12月1日現在)です。 参考までにTSMCの従業員は90,557人で、Rapidusはその約88分の1にあたります 本稿の計算。 規模としてはまだ「1つの工場を立ち上げている途中の組織」です。
5. 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置
カテゴリーはメーカー(ファウンドリ)です。大学でも政府機関でもありませんが、 資本の58.8%が政府出資で、研究開発費もNEDOの委託事業として支出されているため、 純粋な民間企業とも言い切れません 本稿の計算。
| 比較軸 | 一般的なOSAT | TSMC | Rapidus |
|---|---|---|---|
| 後工程の位置づけ | 本業そのもの | 前工程の付加価値サービス | 前工程と一体の「RUMS」の一部 |
| 収益 | 受託で稼いでいる | 稼いでいる(金額は非開示) | まだない |
| 規模 | 数万人規模 | 90,557人 | 1,024人 |
| 資金の出どころ | 事業収益 | 事業収益+社債+各国の補助金 | 政府出資+民間出資+NEDO委託費 |
| 後工程の対象 | 幅広い製品 | 自社が作ったウェーハが中心 | 2nm世代のチップレットに特化 |
6. 拠点と工場のある国
拠点は日本と米国の2か国です 事実。
| 拠点 | 所在地 | 役割 |
|---|---|---|
| 東京本社 | 東京都千代田区麹町4丁目1番地 麹町ダイヤモンドビル | 本社機能 |
| 千歳事務所 | 北海道千歳市千代田町2丁目16 NTT千歳ビル | 2024年1月開所 |
| IIM-1 | 北海道千歳市美々758-62 | 前工程の製造拠点。2023年9月着工、2025年4月からパイロットライン立ち上げ |
| 解析センター | IIM-1に隣接(北海道千歳市美々) | 物理解析・環境化学分析・電気特性評価・信頼性評価。2026年4月11日開所 |
| Rapidus Chiplet Solutions(RCS) | 北海道千歳市美々758-173(セイコーエプソン千歳事業所内) | 後工程の研究開発拠点。2024年10月から設置開始、2026年4月11日に本格稼働 |
| Rapidus Design Solutions | 米国カリフォルニア州サンタクララ | 営業拠点。2024年4月設立 |
RCSの住所はセイコーエプソン株式会社 千歳事業所内です 事実。 自前の建屋を建てるのではなく、既存の事業所内にクリーンルームを構築するという立ち上げ方をしています。 装置の導入開始が2025年4月、初の試作公表が同年12月、本格稼働が2026年4月。 クリーンルーム確保から試作まで1年半という速度は、 ゼロから建屋を建てる場合と比べて明確に速く、 「サイクルタイム短縮」という同社の方針が組織の作り方にも表れています。 なお、セイコーエプソンは2026年2月の増資に参加した32社にも名前があります。
7. 半導体後工程における主力製品とそのシェア
シェアについて ― 先に結論
Rapidusは量産も販売もまだ行っていないため、この分野におけるシェアはゼロです。 「主力製品」も、市販されている製品という意味では存在しません 未確定/将来。 以下は「開発中の技術として何を公表しているか」です。
チップレットパッケージと600mm角パネル
Rapidusの後工程は、チップレットパッケージ技術を採用すると公表されています。 複数の機能の異なるチップを1つのパッケージに組み合わせる方式です。 同社は「パッケージサイズは2030年には現在の2〜3倍の大きさになる」という予測を示し、 その大型化に対応するために600mm角のパネルレベルパッケージ技術を開発するとしています 事実。
公表されている到達点
| 時期 | できごと | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2024年3月 | NEDO「2nm世代半導体のチップレットパッケージ設計・製造技術開発」に採択 | 後工程プロジェクトの開始 |
| 2024年10月 | セイコーエプソン社内に後工程研究開発拠点を開設 | RCSの設置開始 |
| 2025年4月 | RCSへの製造装置導入を開始 | パイロットライン構築 |
| 2025年12月 | 600mm角パネルでの有機絶縁膜RDLインターポーザ試作(同社は「業界初」と表現) | 後工程での具体的な成果 |
| 2026年4月11日 | RCSと解析センターを開所、本格稼働へ | 経済産業大臣・北海道知事・千歳市長が列席 |
| 2026年度(計画) | 2.xD/3Dパッケージ製造技術開発、チップレットパッケージの設計・テスト技術開発 | NEDOが計画・予算を承認済み |
公表されたのは「600mm角パネルでの有機絶縁膜RDLインターポーザ試作」です 事実。 分解すると、(1) 角型の大判パネル、(2) シリコンではなく有機絶縁膜、(3) RDL(再配線層)だけでチップ間をつなぐインターポーザ——の3つが組み合わさっています。 TSMCのCoWoSが使うシリコンインターポーザは、大面積化するほど反りと歩留まりの問題が厳しくなります。 有機材料+大判パネルはそのコスト構造を変えうる方向で、材料側から見れば 絶縁膜の熱膨張係数、反り、レーザー加工性、銅めっきとの密着性が一斉に問われる領域です。
ただし試作品であり、歩留まりも生産能力も公表されていません 未確定/将来。「業界初」という表現も同社自身によるものです。
8. 直近の投資計画
会社は2026年6月5日のリリースで、 「現在Rapidusは民間投資家又は民間金融機関等からの資金調達の準備も進めておりますが、 今後、国・民間による出資・融資によって資金を確保し、 2027年に予定している2nm世代ロジック半導体の量産へと着実につなげていきます」と述べています 事実。
Rapidusが公表しているのは出資の額であり、設備投資の額ではありません。 IIM-1の建設費、RCSのクリーンルームと装置の投資額、量産までに必要な総投資額は、 いずれも同社の公表資料に記載がありません 未確定/将来。 NEDO委託事業の金額も、同社のリリースには書かれていません。 「Rapidusに総額○兆円」という数字は報道ベースのものが多く、本稿では採用しません。
9. 提携している大手企業
| 時期 | 相手 | 内容 |
|---|---|---|
| 2022年12月 | IBM(米国) | 戦略パートナーシップ締結。2023年4月から米ニューヨーク州のAlbany Nanotech ComplexにあるIBM Albanyへエンジニア派遣を開始 |
| 2022年12月 | imec(ベルギー) | 協力覚書を締結。2023年3月にimecのコアパートナープログラムへ参加 |
| 2023年11月 | Tenstorrent(米国) | IPパートナーシップ合意。2024年2月からエッジAIアクセラレータの開発・製造を推進 |
| 2024年6月 | 北海道大学 | 包括連携協定を締結 |
| 2025年1月 | Preferred Networks、さくらインターネット | 国産AIインフラの提供に向けた基本合意 |
| 2025年3月 | Quest Global | 最先端2nmソリューションの戦略的パートナーシップ |
| 2025年6月 | Siemens | 2nm半導体設計に関する協業 |
| 2025年8月 | Keysight | 歩留まり向上と2nm GAA向け高精度PDKに関する戦略的協業 |
| 2026年2月 | 出資32社 | キヤノン、大日本印刷、デンソー、日本政策投資銀行、富士フイルム、富士通、古河電気工業、北海道電力、ホンダ、日本IBM、JX金属、キオクシア、京セラ、みずほ銀行、MUFG銀行、長瀬産業、NEC、日本通運、能美防災、北洋銀行、NTT、セイコーエプソン、ソフトバンク、ソニーグループ、三井住友銀行、千葉銀行、肥後銀行、北海道銀行・北陸銀行(ほくほくフィナンシャルグループ)、トヨタ自動車、ウシオ電機、ARGO GRAPHICS |
出資と技術提携は性格が違います。32社の出資は資本参加であって、共同開発を意味しません。 一方でIBM・imec・Tenstorrent・Siemens・Keysight・Quest Globalは技術面の提携として公表されています 事実。
10. 今後のこの分野における存在感
事実として確定していること
| 事実 | 後工程への含意 |
|---|---|
| NEDOが2026年度のチップレットパッケージ開発の計画・予算を承認 | 後工程プロジェクトは継続する |
| RCSが2026年4月に本格稼働 | 試作段階からパイロットラインへ移行した |
| 600mm角の有機絶縁膜RDLインターポーザを試作済み | シリコンインターポーザ以外の選択肢を提示している |
| 2026年度に2.xD/3Dパッケージ製造技術開発を進める計画 | 積層も視野に入れている |
| 2026年だけで4,000億円の増資を実施、うち2,500億円が政府出資 | 国が資金面で関与を続けている |
| 量産開始目標は2027年度後半 | 後工程の評価が下せるのは早くてその時点 |
見通し
未確定/将来 後工程に限れば、Rapidusの存在感は「大判パネルレベルパッケージの選択肢を日本国内に作れるかどうか」に集約されます。 600mm角の有機パネルという方向は、TSMCが主導するシリコンインターポーザ路線とは別の系統で、 材料・装置メーカーにとっては新しい要求仕様が生まれる可能性がある領域です。
未確定/将来 一方で、2027年度後半という量産目標は前工程(2nm)と後工程の両方が揃って初めて成立します。 TSMCは2nmを2025年に量産開始しており、時間差は小さくありません。 また顧客が確定したという公表もまだなく、 現時点で「Rapidusが後工程の勢力図を変える」と書ける根拠は一次情報には存在しません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 裏づけ |
|---|---|---|
| 量産実績がない | 2026年9月時点で販売実績も量産実績もない。目標は2027年度後半 | 会社の公表内容 事実 |
| 財務が見えない | 非上場のため売上・損益・キャッシュフローが公表されていない。外部から資金の消費速度を検証できない | 開示なし 未確定/将来 |
| 政府資金への依存 | 資本の58.8%が政府出資。研究開発もNEDO委託事業として年度ごとに計画・予算が承認される仕組み | 会社の公表内容からの試算 本稿の計算 |
| 年度承認方式 | NEDOの承認は年度ごと。中長期の予算が確定しているわけではない | 会社の公表内容 事実 |
| 競合との時間差 | TSMCは2nmを2025年に量産開始済み。Rapidusの目標は2027年度後半 | 両社の公表内容の対比 本稿の計算 |
| 顧客が未確定 | 先行顧客向けにPDKを提供した段階。量産受注の公表はない | 会社の公表内容 未確定/将来 |
| 組織規模 | 従業員1,024人。TSMCの約88分の1 | 両社の公表値からの試算 本稿の計算 |
| 報道と公表の乖離 | 会社は2025年11月と12月、2026年2月に「憶測に基づく報道」「出資に関する噂」への声明を複数回出している | 会社のプレスリリース一覧 事実 |
12. 用語集
- RUMS
- Rapid and Unified Manufacturing Service。設計支援・前工程・後工程を1社で一貫提供するというRapidus独自のビジネスモデル。
- IIM
- Innovative Integration for Manufacturing。北海道千歳市にあるRapidusの製造拠点の名称。IIM-1が第1棟。
- RCS
- Rapidus Chiplet Solutions。後工程の研究開発拠点。セイコーエプソン千歳事業所内にある。
- チップレット
- 大きな1つのチップの代わりに、機能ごとに分けた小さなチップを組み合わせて1つのパッケージにする方式。
- RDL
- Redistribution Layer(再配線層)。チップの電極の位置を、パッケージ側で使いやすい配置に引き直す配線層。
- インターポーザ
- 複数のチップを載せて相互に配線するための中間基板。シリコン製と有機材料製がある。
- パネルレベルパッケージ
- 円形のウェーハではなく角型のパネル上でパッケージを作る方式。角型のほうが面積の無駄が少ない。
- PDK
- Process Design Kit。設計会社がそのファウンドリ向けに回路設計するために必要な、製造プロセスの情報一式。
AI生成・概念図13. 出典
- Rapidus株式会社 会社概要(社名、設立日、資本金等、従業員数、決算期末、役員一覧、事業所一覧、Rapidusの歩み)。 https://www.rapidus.inc/about/
- Rapidus株式会社 Rapidusの事業と技術(RUMS、Raads、DMCO、枚葉プロセス、GAA、チップレットパッケージ、600mm角パネルレベルパッケージ、パッケージサイズが2030年に2〜3倍という予測)。 https://www.rapidus.inc/business/
- Rapidus株式会社 プレスリリース「Rapidus、解析センターとRCSを開所 〜開発環境をさらに充実し、2027年の最先端半導体量産へ着実につなげる〜」(2026年4月11日)。RCSの所在地と設置経緯、600mm角RDLインターポーザパネルの試作、開所式の列席者。 https://www.rapidus.inc/news_topics/news-info/rapidus-opens-analysis-center-and-rapidus-chiplet-solutions/
- Rapidus株式会社 プレスリリース「Rapidus Secures 267.6 Billion Yen in Funding from Japan Government and Private Sector Companies」(2026年2月27日)。IPAからの1,000億円、民間32社からの1,676億円、出資企業の全リスト、創業時73億円、NEDO委託事業の名称。 https://www.rapidus.inc/news_topics/news-info/rapidus-secures-267-6-billion-yen-in-funding-from-japan-government-and-private-sector-companies-jp/
- Rapidus株式会社 プレスリリース「Rapidusに対して、政府が情報処理の促進に関する法律に基づき1,500億円を追加出資」(2026年6月5日)。追加出資1,500億円、資本金等4,249億5,000万円、今後の資金調達方針。 https://www.rapidus.inc/news_topics/news-info/20260605-2/
- Rapidus株式会社 プレスリリース「NEDO、Rapidusの2つのプロジェクトの2026年度の計画・予算を承認」(2026年4月11日)。RCSのパイロットライン構築、600mm角パネルでの有機絶縁膜RDLインターポーザ試作、2026年度の2.xD/3Dパッケージ開発計画、小池CEOのコメント。 https://www.rapidus.inc/news_topics/news-info/nedo-approves-rapidus-fy2026-plan-and-budget-for-2nm-semiconductor-projects/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月21日/Troy Technical
本稿の数値はすべてRapidus株式会社が公表した会社概要・事業説明・プレスリリースに基づきます。報道ベースの数値、調査会社の推計値は使用していません。