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宇宙用半導体とCOTS 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

宇宙用半導体とCOTS
― 耐放射線品と民生品の考え方、SiC・GaN の期待と課題、宇宙で動く計算機

「宇宙用の半導体」と聞くと、特別に放射線に強いチップを思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、「宇宙用」という言葉には、品質の保証のレベルと、放射線への強さという、別々の2つの意味が混ざっています。さらに近年は、性能・電力・価格に優れた民生品(COTS)を、対策と組み合わせて使う流れが広がっています。 この記事は、宇宙や半導体の知識がなくても読めるように、①部品の「保証のレベル」の分け方、②品質の保証と放射線への保証は別であること、③民生品を使うときの考え方と、NASA が進める評価の仕組み、④SiC・GaN などワイドバンドギャップ半導体の期待と課題、⑤宇宙で動く計算機の選択肢、の順に、図と小さな計算で説明します。 特定の企業や製品の優劣はつけません。公的な標準や NASA の資料で確認できたことを、確認できたこと/計画/確認できなかったことに分けて書きます。

構成:ECSS の標準の公開本文(EEE 部品、民生部品、放射線耐性保証、ディレーティング)、NASA の標準ページ・NESC 報告・発表資料(2026年6月)・小型衛星の技術資料(2026年)、査読論文(Pearton ら、Neudeck ら)/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月17日

外観だけで民生品・宇宙用・耐放射線を判別する図ではありません。選定では素子の性能と、ロット・試験・保証の情報を合わせて確認します。
図1 概念画像(ImageGen生成)。外観だけで民生品・宇宙用・耐放射線を判別する図ではありません。選定では素子の性能と、ロット・試験・保証の情報を合わせて確認します。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. 「宇宙用」の部品とは何か:保証のレベル
  3. 品質の保証と、放射線への保証は別
  4. 民生品(COTS)の考え方:NASA の評価の仕組み
  5. 耐放射線設計:回路・工程・システムで守る
  6. SiC・GaN:期待と、宇宙での課題
  7. 宇宙で動く計算機の選択肢
  8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)
  9. 評価・標準の読み方
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出・整理した値
未確定/将来=草案・パイロット・開発計画など、確定していない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値と企業・製品の扱い

NASA の表に載る製品の性能は、NASA 自身が「独立に検証していない」と注記しており、メーカー公称の値として扱います。企業・製品の名前は、NASA の資料にある例を示すためにのみ使い、優劣はつけません。ECSS の標準は公開されている本文を読みましたが、ESCC・MIL-PRF・JAXA-QTS・AEC・JEDEC などは、題名・番号・適用範囲の確認にとどめ、本文は確認していません。数値例は説明用の例示で、特定の部品の値ではありません。 この分野は変化が速いため、標準・制度・計画の状態には確認日(2026年10月17日)を付けています。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • 「宇宙用」には2つの意味がある:部品の品質・工程の保証(ESCC・MIL-SPEC などの規格に沿って作られ、選別・試験されている)と、放射線への強さです。NASA は、「部品のレベルを選んでも、放射線への強さや対策を意味しない」と明記しています事実[参考資料3]。
  • 民生品(COTS)は、条件つきで使われる:NASA の NESC(技術・安全センター)は、一流の民生部品メーカーは、データシートの範囲で使えば MIL-SPEC 部品と同等以上に信頼できる部品を供給できる、と評価しています。ただし、放射線耐性は、この評価の対象に含まれません事実[参考資料5・6]。
  • SiC・GaN は期待が大きい一方、宇宙では課題がある:重イオンによる恒久的な劣化や致命的な故障への弱さが、宇宙用への採用を妨げている、と Pearton らは総説で述べています事実[参考資料7]。
この記事を読む前に知っておくこと

前提知識はありません。「半導体チップは、いろいろな種類があり、パッケージ(容器)に入っている」程度で十分です。放射線が電子部品に与える影響(TID、SEE など)は、本シリーズの『放射線と電子部品』編にまとめています(この記事でも必要な点は短く説明します)。放射線の用語が出てきたら、そちらを参照してください。

シリーズの中での位置

この記事は『放射線と電子部品』編の次に読む記事で、「放射線を知ったうえで、部品をどう選ぶか」を扱います。宇宙で計算機を動かす話は『軌道上コンピューティング』編、エッジ側で AI を動かす話は『エッジAIとオンデバイスAI』編に続きます。SiC・GaN の電力用途は、『宇宙用電池』『宇宙用太陽電池』編の電力系にも関係します。

2. 「宇宙用」の部品とは何か:保証のレベル

宇宙機に載せる電子部品は、ふつう、「保証のレベル」で分けて選びます。保証が強いほど、部品の製造工程の管理、選別(初期不良を取り除く試験)、ロットごとの試験が厳しくなり、価格は高くなります。分け方は、機関によって違います。

部品の「保証のレベル」の分け方(ECSS と NASA の例) 保証が強い 保証が弱い ECSS(欧州) 3つのクラス クラス1 保証が最も高く、 リスクが最も低い。 調達費は一般に最も高い クラス2 中間 クラス3 保証が最も低く、 リスクが最も高い。 調達費は一般に最も低い NASA-STD-8739.10 4つの保証レベル レベル1 最も厳しい工程管理と選別 (宇宙品質) レベル2・3 段階的に緩くなる(選別・ ロット受入試験) レベル4 民生品(COTS)。 最も少ない選別 EEE-INST-002(NASA Goddard) 3つの品質レベル レベル1 低リスク・長期(5年超) のミッション向け レベル2 1〜5年の中間のミッション 向け レベル3 標準化された試験のない民生 品。短期・リスクを許容でき る用途向け 3つの分け方は、一対一には対応しない。どの区分も「放射線への強さ」を表すものではない(次の図)。 NASA は、どの保証レベルを使うかを、機能の重要さと故障解析に基づく「リスクに応じた選択」として決める、と説明している。
図2 概念図(ベクター作図)。ECSS の3つのクラスは ECSS-Q-ST-60C Rev.4(2025年4月30日)、4つの保証レベルは NASA-STD-8739.10(2017年6月13日、有効)、3つの品質レベルは EEE-INST-002 の説明(NASA Goddard の2026年6月の発表資料)に基づく本稿の整理です事実[参考資料1・2・3]。図の並べ方は対応を示すものではありません。
  • ECSS(欧州の宇宙標準):ECSS-Q-ST-60C Rev.4(2025年4月30日)は、EEE 部品(電気・電子・電気機械部品)を3つのクラスに分けます。クラス1が保証が最も高くリスクが最も低く、クラス3が保証が最も低くリスクが最も高い。調達費は、一般にクラス1が最も高く、クラス3が最も低い、と述べています事実[参考資料1]。クラス1の品質レベルとして、たとえば気密の集積回路では、ESCC 9000、MIL-PRF-38535 のクラス V、JAXA-QTS-2010 が表に挙げられています[参考資料1]。
  • NASA:NASA-STD-8739.10 "Electrical, Electronic, and Electromechanical (EEE) Parts Assurance Standard"(2017年6月13日、有効)は、4つの保証レベルを定めます。レベル1が最も厳しい工程管理と選別、レベル4が民生品(COTS)で最も少ない選別、と NASA の発表資料は整理しています[参考資料2・3]。NASA は、特定の用途にどのレベルを使うかは標準が決めるのではなく、機能の重要さと故障解析に基づくリスクに応じた選択だ、と述べています[参考資料3]。
  • NASA Goddard の EEE-INST-002:2003年に公表され、2008年に追加があり、18の部品の種類を扱い、3つの品質レベル(長期のミッション向けのレベル1、中間のレベル2、標準化された試験のない民生品のレベル3)に分けます[参考資料3]。これは、NASA-[TBD]-8739.11 に置き換わる予定(草案、承認の手続き中)と述べられています未確定/将来[参考資料3]。
つまずきやすいところ:「ミッションの重要度」と「部品のレベル」

NASA は、ミッションを重要度・寿命・複雑さなどからクラスA〜Dに分け(NPR 8705.4B)、クラスAのような重要なミッションには保証レベル1、クラスDのような試験的なミッションには保証レベル4を使えるようにしています。ただし、高いレベルの部品がすでにあれば追加の試験なしで使えるが、不必要にレベルを上げることは勧めない、とも述べています[参考資料3]。たとえの限界:「保険の等級」のたとえは、保証の強さと費用の関係を表しますが、保証される内容(放射線を含むか)までは表しません。次の章で説明します。

3. 品質の保証と、放射線への保証は別

ここが、この記事でいちばん大事な点です。NASA Goddard の発表資料(2026年6月)は、次のように整理しています事実[参考資料3]。

  • EEE-INST-002 などの部品のレベルは、放射線耐性のレベルを示さない。レベル1・2・3のどれを選んでも、放射線への強さや、放射線の影響の軽減を意味しない。
  • MIL-SPEC の部品は、TID の性能を示す放射線の表示(RHA の表示)を含むことも、含まないこともあり、SEE には弱いことがある。
  • RHA(放射線耐性保証)のない部品は、宇宙の放射線に対する耐性が設計・最適化されていないことが多く、ロット間のばらつきが大きいことがある。
  • RHA の軽減策は、部品単体の強さだけに頼らず、システム全体の工夫を含める必要がある。
「品質の保証」と「放射線への保証」は、別の軸 放射線への保証(試験・データ)→ あり 品質の保証 ↑ 強い 宇宙品質で、放射線の保証もある RHA(放射線耐性保証)が付いた MIL-SPEC・宇宙用の部品。 ロット間のばらつきが小さい傾向 宇宙品質だが、放射線の保証は別 MIL-SPEC でも、TID の表示がない・SEE に弱いことがある。品質レベルは放射線 の強さを意味しない 民生品だが、放射線を試験して特性を確認 NASA の PEAL が、民生・ 車載グレードの部品の放射線特性を測る (試験計画) 民生品で、放射線の情報がない データシートに放射線の記載がない。 放射線は設計・最適化されていないこと が多く、試験か対策が必要 NASA(2026年):「部品のレベルを選んでも、放射線への強さや対策を意味しない」。対策は部品だけでなく、システムでも行う。
図3 概念図(ベクター作図)。「部品のレベルは放射線耐性を意味しない」「MIL-SPEC 部品は TID の表示を含むことも含まないこともあり、SEE に弱いことがある」「非 RHA 部品はロット間のばらつきが大きいことがある」「システムレベルの対策が必要」は、NASA Goddard の発表資料(2026年6月)が示す NASA の整理に基づきます事実[参考資料3]。PEAL の試験計画も同資料の記載です。
よくある誤解:「宇宙用の部品とは、放射線に強い部品のことだ」

そうとは限りません。「宇宙用」と呼ばれる部品の多くは、まず品質と工程の保証(選別、ロット試験、気密の封止など)を意味し、放射線への強さは別に確認するものです。逆に、民生品でも、放射線を試験して特性を確認すれば、使い方の判断材料になります。大事なのは、「宇宙用か民生品か」の名前ではなく、その部品について、品質のデータと放射線のデータが、それぞれ手元にあるかです(放射線の試験と余裕の考え方は『放射線と電子部品』編)。

4. 民生品(COTS)の考え方:NASA の評価の仕組み

民生品(COTS:商業的に入手できる市販品)は、性能・電力効率・価格で優れ、先端の技術が使える一方、放射線に弱い傾向があります。NASA の小型衛星の資料(2026年)は、COTS 部品は、耐放射線品より性能・エネルギー効率・価格に優れるが、放射線への感受性が高い傾向がある、と述べています事実[参考資料4]。小型衛星では、民生部品を先に選び、耐放射線の支援用の電子部品(誤り訂正 ECC、ウォッチドッグタイマー、スクラビング、冗長)を組み合わせる方法が、伝統的な方法だった、とも述べています[参考資料4]。

民生品(COTS)と耐放射線品:何を得て、何を失うか 民生品(COTS) 耐放射線品(rad-hard) + 性能・電力効率・価格で有利 - 放射線への感受性が高い傾向 + 先端の技術を使える - ロットごとのばらつきが大きいことがある + 信頼性が高く、放射線に強い、予測しやすい動き - 処理能力は控えめ(マイコンなど) + 飛行の実績がある設計が多い - 価格が高く、種類が限られる 小型衛星では「民生品を先に選び、耐放射線の支援用電子部品(誤り訂正、ウォッチドッグ、スクラビング、冗長)で補う」のが伝統的な方法(NASA) もう一つの流れ:民生の製造工程の中で、回路やレイアウトを工夫して耐性を上げる RHBD(設計による耐放射線化) → どちらが「正しい」ではなく、ミッション・環境・用途・寿命(MEAL)で選ぶ
図4 概念図(ベクター作図)。COTS は性能・電力効率・価格で優れるが放射線に弱い傾向があること、耐放射線のマイコンは処理能力が控えめだが頑丈なこと、民生品を先に選び支援用の耐放射線品で補う方法、RHBD の広がりは、NASA の小型衛星の技術資料(2026年)に基づきます事実[参考資料4]。ロット間のばらつきは NASA Goddard の発表資料(2026年6月)に基づきます[参考資料3]。

(1) 欧州の考え方:使う理由を、数字で示す

ECSS-Q-ST-60-13C Rev.2(2025年4月30日)は、民生の EEE 部品の選定・管理・調達・使用の要求を定める標準で、ECSS-Q-ST-60C と合わせて使います。この標準は、システムの応用で、既存の宇宙用部品では達成できない、または質・量の両面で代償を払わないと達成できない技術的な条件を満たす民生部品にだけ適用される、と述べています。そして、その代償を、機能・部品点数・消費電力・動作周波数・処理効率・配線の複雑さ・質量・体積などの定量的な指標で明記することを求めています事実[参考資料13]。対象は、チップのセラミックコンデンサ、固体タンタルコンデンサ、ディスクリート部品(トランジスタ、ダイオード、フォトカプラ)、ヒューズ、磁気部品、マイクロ回路、チップ抵抗、サーミスタです[参考資料13]。

(2) NASA の考え方:NESC の提案と、ILPM

NASA の NESC は、2020年(Phase I)と2022年(Phase II)に、民生の EEE 部品の使い方の提案をまとめました。Phase II の報告は、NASA がこれまで、ある種類の MIL-SPEC 部品を「標準」として追加の試験なしで使い、それ以外(民生品を含む)には選別とロットごとの受入試験を課してきたこと、一方で、一流の民生部品メーカーは、製造・統計管理・技術の改善で、データシートの範囲で使えば MIL-SPEC 部品と同等以上に信頼できる部品を作れるようになったこと、宇宙科学・探査のニーズが、MIL-SPEC 部品にない技術を求めていることを述べています事実[参考資料6・14]。

これを受けて NASA の NEPP(電子部品・パッケージ計画)は、ILPM(Industry Leading Parts Manufacturer)と「確立された民生部品(Established COTS Part)」の一覧を整備しています事実[参考資料5・17]。確立された民生部品の条件は、次の図のとおりです。

NASA の「確立された民生品(Established COTS Part)」の条件 1 製造の工程が1年以上安定している 2 大量生産:同じデータシートの部品の累計販売数が 100万個超 3 出荷前に全数の電気試験(データシートの条件)と、 量産前の複数ロットの特性評価 4 自動化された製造ラインで、統計的な工程管理と、 工程内の試験(ウェハー検査など) 5 その技術の世代として適切な、安定した歩留まりの推 移 製造企業側の条件(ILPM) ・品質・信頼性の文書(DPPM、  FIT)を持つ ・部品の品質・信頼性のデータを  NASA と共有する ・強い顧客関係を保つ(現地訪問が  望ましい) ・NASA や主契約企業と協力す  る 重要:放射線への耐性は、この評価の対象に含まれない(NASA の ILPM のページ)。 この条件は、品質・信頼性についての NESC の提案で、NASA は「認証には使わない」と明記している。 2024年に最初の製造企業が追加され、2026年度は22社以上と作業中(NASA Goddard、2026年6月)。 データシートの範囲で使う前提(範囲外の追加試験は逆効果になりうる、と NASA は述べる)。
図5 概念図(ベクター作図)。5つの条件は NASA NEPP の ILPM のページ(NESC Phase II 報告 NASA/TM-20220018183 に基づく)、製造企業側の4つの条件と ILPM の進み方は NASA Goddard の発表資料(2026年6月)に基づく整理です事実[参考資料3・5・6]。

NASA の ILPM のページは、MIL-SPEC の追加の選別は、データシートの限界を超える条件を使う場合、有益より有害になりうると述べ、また、ILPM と確立された民生部品の用語は、NASA の認証に使うことを意図していない、と明記しています[参考資料5]。そして一覧のページは、電離放射線への耐性は、ILPM の評価の過程に含まれないと注記しています[参考資料17]。NASA Goddard の発表資料によると、2024年に最初の製造企業が追加され、2025年と2026年に試験計画(パイロット)が行われ、2026年度は22社以上の製造企業と作業を進めています未確定/将来[参考資料3]。同じ試験計画(PEAL)では、車載グレードや強化プラスチック封止の民生部品(チップ抵抗、コンデンサ、MOSFET、30種類以上のマイクロ回路、DC-DC コンバータなど)の信頼性と放射線の特性を調べる、と述べています[参考資料3]。

つまずきやすいところ:「車載グレード」と「宇宙で使える」は別

車載の電子部品の規格には、自動車電子部品評議会(AEC)の AEC-Q100(集積回路の故障メカニズムに基づくストレス試験による認定)、AEC-Q101(ディスクリート半導体)、AEC-Q200(受動部品)があります[参考資料15]。NASA の資料(2024年)は、車載グレードの部品が、高い認定要求をもつ一方で、ユーザーは製造企業の工程のすべてを見られないこと、MIL-SPEC に代わる部品として使われ始めていることを述べています[参考資料16]。車載の認定は、放射線の試験ではありません。ILPM の評価に放射線が含まれないのと同じ理由で、車載グレードだからといって、宇宙の放射線に強いとは言えません。

素材技術者の視点①:「容器」「はんだ」「ボンドワイヤ」が、宇宙では問題になる

NASA Goddard の発表資料は、宇宙用の部品の要求が、歴史的に、気密の封止、燃えにくさと脱ガスへの耐性、厳しい外観検査、保守的なディレーティング、放射線への耐性などだったこと、2000年代の供給網の変化で、鉛フリー化(RoHS)によるスズウィスカーの対策、気密でないマイクロ回路の封止、民生品・車載グレードの宇宙での利用、銅のボンドワイヤなどが課題になったことを挙げています事実[参考資料3]。ECSS-Q-ST-60C のクラス1の表も、集積回路を「気密」と「非気密」で分け、非気密にはクラスが違う規格(ESCC 9030 のクラス P、MIL-PRF-38535 のクラス Y など)を挙げています[参考資料1]。解説:民生品の多くは樹脂で封止されており、気密の金属・セラミック容器とは、水分・脱ガス・熱サイクルでの応力・材料の純度の面で挙動が違います。素材の立場では、「チップ」だけでなく、封止樹脂、はんだ、金属配線、基板が、宇宙の温度サイクルと真空に耐えるかが、信頼性を決めます(『宇宙環境と材料への影響』編)。

5. 耐放射線設計:回路・工程・システムで守る

放射線への強さを高める方法は、大きく3つあります。製造工程で強くする、回路・レイアウトの設計で強くする(RHBD)、システムで守る、です。

  • 工程で強くする:Schwank らの総説(2008)は、先進的な民生の技術では、総線量への強さが、寄生的な素子分離の酸化膜や SOI の埋め込み酸化膜にたまる電荷で決まることが多い、と述べています事実[参考資料18]。そのため、酸化膜や素子分離の作り方(工程)で、耐性が変わります。
  • 設計で強くする(RHBD):NASA の資料は、トランジスタ・ゲート・物理的なレイアウトを変えて、チップ自体を放射線に強くする RHBD が、民生の製造工程の中で広がりつつあると述べています。特殊な回路の構成、強化された標準セルのライブラリ、放射線を意識したレイアウトで、SEU、SET による誤動作、機能の中断、ラッチアップから守ります。高性能プロセッサでは、最も弱いブロックだけを選択的に強化し、冗長は必要なところだけに使う、と述べています事実[参考資料4]。
  • システムで守る:誤り訂正(ECC)、ウォッチドッグタイマー、スクラビング(メモリを定期的に読んで訂正する)、冗長、選択的な電源の入れ直し、ソフトウェアでの故障の切り分けなどです[参考資料4]。NASA Goddard の資料も、RHA の軽減策は部品単体の強さだけに依存してはいけない、と述べています[参考資料3]。

6. SiC・GaN:期待と、宇宙での課題

SiC(炭化ケイ素)と GaN(窒化ガリウム)は、シリコンよりバンドギャップ(電子を動かすのに必要なエネルギーの幅)が広いワイドバンドギャップ半導体で、高い電圧や高い温度に向くとされます。Pearton らの総説(2021)は、SiC と GaN はすでに車載・無線・産業の電力用として商用化されている一方、宇宙・航空用への採用は、重イオンによる恒久的な劣化と致命的な故障への弱さに妨げられている、と述べています事実[参考資料7]。

SiC・GaN(ワイドバンドギャップ半導体):期待と、宇宙での課題 期待されること 地上では、車載・無線・産業の電力用として実 用化されている(Pearton ら) 高温に強い:SiC の JFET 集積回路が、金星の表面の模擬環境(約460 ℃、約9.3 MPa)に、冷却も保護パッケ ージもなしで60日間さらされて動作(地上の 試験槽、NASA Glenn) Ga₂O₃ は、はじき出し損傷に GaN・ SiC より強いと期待される(結合の強さか ら) 宇宙での課題 宇宙用への採用は、重イオンによる恒久的な劣 化と致命的な故障への弱さで妨げられている( Pearton ら) GaN・SiC のトランジスタは、 宇宙を模した条件で、定格電圧の約50%で故 障の感受性が見られた ECSS は、SiC・GaN のダイオード、SiC MOSFET、 GaN FET を、SEE の評価が必要な部品の族に挙げ、LET しきい値を再計算するよう求める どちらも「素子の種類と条件で違う」報告。SiC・GaN 全体の優劣や、特定の製品の合否を示すものではない。 金星の試験は地上の模擬環境で、宇宙の放射線の試験ではない。
図6 概念図(ベクター作図)。商用化と、重イオンへの弱さ、定格電圧の約50%での故障の感受性、Ga₂O₃ の見通しは Pearton ら(2021)、金星の模擬環境での60日間の動作は Neudeck ら(2019)、SEE の評価が必要な部品の族は ECSS-Q-ST-60-15C Rev.1 に基づきます事実[参考資料7・8・9]。

(1) 宇宙環境での実績と課題

期待を示す例として、NASA Glenn の Neudeck らは、4H-SiC の JFET 集積回路(175トランジスタのもの2個)を、金星の表面を高い忠実度で再現した試験槽(約460℃、約9.3 MPa の化学的に反応しやすい環境)に、冷却も保護パッケージもなしで60日間さらして、動作を確かめました事実[参考資料8]。これは地上の試験槽での結果で、宇宙の放射線に対する試験ではありません。

課題を示す例として、Pearton らは、宇宙を模した条件で、GaN と SiC のトランジスタが定格電圧の約50%で故障の感受性を示し、SiC のショットキーダイオードでは、致命的な SEB などが定格動作電圧の約40%で、漏れ電流の劣化が約20%で観測されたと述べています[参考資料7]。また、ECSS-Q-ST-60-15C Rev.1 は、SiC・GaN のダイオード、SiC MOSFET、GaN FET を SEE の評価が必要な部品の族に挙げ、シリコン以外の材料では LET しきい値を再計算することを求めています[参考資料9]。

「定格の何%で壊れうるか」を電圧で見ると 0 200 400 600 800 1000 1200 電圧(V) 定格650 Vの素子(例) 650 V 定格1200 Vの素子(例) 1200 V 定格の20% 定格の40% 定格の50% 20%/40%/50%の電圧(本稿の計算):650 V:130 V/260 V/325 V ; 1200 V:240 V/480 V/600 V 報告された「定格の約◯%」を、2つの定格に当てはめた例示。個々の素子の SEB の電圧は、素子・イオン・条件で違う。 → このため、宇宙用の高電圧素子では、動作電圧を定格よりずっと低く抑える(ディレーティング)ことが検討される
図7 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。定格の約50%(GaN・SiC のトランジスタ)、約40%(SiC ショットキーダイオードの SEB)、約20%(漏れ電流の劣化)は Pearton ら(2021)の報告事実[参考資料7]。650 V と 1200 V の定格は説明用の例示で、各電圧は本稿の計算です本稿の計算。ECSS-Q-ST-30-11C Rev.2(2021年6月23日)は、FET のドレイン・ソース間電圧を「定格の80%、または SEE の安全動作領域のどちらか低い方」に抑え、SEE の放射線特性が評価された MOSFET だけを宇宙で使うと定めています[参考資料10]。

この「定格の何%」を電圧に直すと、たとえば定格650 Vの素子では、約50%が325 V、約40%が260 V、約20%が130 V、定格1200 Vの素子では、600 V、480 V、240 V です本稿の計算(定格は例示)。ECSS-Q-ST-30-11C Rev.2(2021年6月23日)は、EEE 部品のディレーティング(定格より低い負荷で使うこと)を定める標準で、FET のドレイン・ソース間電圧を「定格の80%、または SEE の安全動作領域のどちらか低い方」に抑えることを求め、SEE の放射線特性が評価された MOSFET だけを宇宙で使うと定めています事実[参考資料10]。つまり、高電圧の素子では、「定格どおりに使えない」ことを前提に設計します。

素材技術者の視点②:ワイドバンドギャップは「結晶・界面・絶縁膜」の品質の問題

Pearton らは、超ワイドバンドギャップの Ga₂O₃ は、平均の結合の強さから予想されるとおり、はじき出し損傷に GaN や SiC より強いように見える、ダイヤモンドは放射線に非常に強い材料で、放射線検出器に理想に近い、と述べています[参考資料7]。解説:バンドギャップが広いことは、高電圧・高温に有利ですが、SEB のように「高い電界の中を重イオンが通る」条件では、素子が大きな電界の下で動作すること自体が、弱点になりえます。また、SiC MOSFET は MOS 構造をもつため、総線量での酸化膜への電荷(『放射線と電子部品』編)にも注意が要ります。ECSS-Q-ST-60-15 は、MOS(Si、SiC)と GaN の電力素子を、TID の評価が必要な部品の族に挙げています[参考資料9]。結晶欠陥、界面、絶縁膜の品質が、放射線への強さにも直結します。

よくある誤解:「ワイドバンドギャップ半導体は、放射線に強いから宇宙に向く」

一概には言えません。総線量やはじき出し損傷への強さが期待される材料でも、パワー素子では、重イオンによる SEB のような致命的な故障が課題として報告されています(Pearton ら)。また、強さは、素子の種類・構造・電圧・イオンの種類で違います。SiC・GaN を一括して「強い」「弱い」と言わず、素子ごとに、SEE の試験データと、動作電圧の余裕を確かめることが大切です。

7. 宇宙で動く計算機の選択肢

宇宙の計算機には、いくつかの選択肢があります。NASA の小型衛星の資料(2026年)は、次のように整理しています事実[参考資料4]。

  • 耐放射線のマイコン:処理能力は控えめだが、頑丈で、決まった時間内に動く(リアルタイム性)。機体の管理、センサー、制御に向く。
  • 高性能のプロセッサ:処理能力・効率が大きく、画像処理や圧縮、意思決定にも向く。耐放射線のマルチコアなどがある。
  • SoC(システム・オン・チップ):CPU、アクセラレータ、メモリコントローラ、プログラマブルロジックを1つのシリコンにまとめ、小型・軽量・低電力で高い計算能力を得る。
①制御用、②専用処理、③大きな計算という役割の例です。見た目や計算性能から、放射線耐性・消費電力・宇宙適合を決める図ではありません。
図8 概念画像(ImageGen生成)。①制御用、②専用処理、③大きな計算という役割の例です。見た目や計算性能から、放射線耐性・消費電力・宇宙適合を決める図ではありません。 [参考資料4・11・12]実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
宇宙で動く計算機の選択肢(概念図) 耐放射線のマイコン 処理能力は控えめだが、頑丈で動きが予測しやすい。機体の管理・センサー・ 制御向け(NASA) 耐放射線のプロセッサ 例:火星探査車 Perseverance の中枢は BAE RAD750(PowerPC 750 系、最大200 MHz、 メモリはフラッシュ2 GB・DRAM 256 MB。NASA) 次世代の耐放射線マルチコア NASA の HPSC:現在の最先端より2桁近い性能向上を目指す耐放射線 のマルチコア(開発計画、2018年の資料) 民生の SoC + 対策 民生のプロセッサ・FPGA 内蔵の SoC などに、誤り訂正・冗長・ 再起動・遮蔽を組み合わせる。小型衛星で増えている(NASA の表: システムの TID は数 krad〜100 krad の記載、 メーカー公称) 並べたのは「選択肢の種類」で、優劣の順ではない。NASA は、掲載製品の性能が独立に検証されていないと注記している。 各製品の優劣は評価しない。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。耐放射線マイコン・民生 SoC+対策・TID の記載は NASA の小型衛星の技術資料(2026年)、RAD750 の仕様は NASA の Perseverance のページ、HPSC の目標は NASA の2018年の資料に基づきます事実[参考資料4・11・12]。HPSC は開発計画で、運用実績は確認できていません未確定/将来。

代表例として、NASA の火星探査車 Perseverance の計算機は、耐放射線の BAE RAD750(PowerPC 750 アーキテクチャ)を中枢のプロセッサとし、最大200 MHz で、前代の探査車 Spirit・Opportunity の約10倍の速度、メモリはフラッシュ2 GB、DRAM 256 MB、EEPROM 256 kB とされます。同じ計算機を2系統もち、「常に予備の脳がある」とも説明されています事実[参考資料11]。一方、次世代として、NASA の HPSC(高性能宇宙機計算)は、現在の最先端より約2桁の性能向上をめざす耐放射線のマルチコア・プロセッサ(チップレット)の開発で、NASA の STMD・SMD と米空軍が資金を出し、JPL が管理し、Boeing が試作品を開発していると、2018年の資料は述べています未確定/将来[参考資料12]。HPSC の運用実績は、この記事では確認できませんでした。

つまずきやすいところ:「速い計算機」ほど、放射線に弱い?

NASA は、遠くへ行くほど、搭載する計算能力が放射線への感受性を高く持つことになる、と述べ、ウォッチドッグタイマー、選択的な電源の入れ直し、ソフトウェアによる故障の隔離が、頑健さを高めると述べています[参考資料4]。また、NASA の製品表は、システムの TID として数 krad〜100 krad の値や、「COTS に SEE の対策」と記載した製品を含み、これらはメーカー公称で、NASA が独立に検証したものではないと注記しています[参考資料4]。たとえの限界:「細かい仕事をする職人は、揺れに弱い」というたとえは、微細な素子の弱さを表しますが、冗長や訂正で守れる点までは表しません。

筐体による遮蔽、回路の冗長化、異常検出を組み合わせる考え方です。どれか一つの対策だけで全ての宇宙環境に耐えるという意味ではありません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。筐体による遮蔽、回路の冗長化、異常検出を組み合わせる考え方です。どれか一つの対策だけで全ての宇宙環境に耐えるという意味ではありません。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。

8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)

この分野は変化が速いので、一次情報で確認できたことを、確認日つきで整理します。企業の主張は、その企業の主張として書きます。

項目確認できたこと区分
ECSS の部品の標準ECSS-Q-ST-60C Rev.4(2025年4月30日)が EEE 部品の3つのクラスを規定。ECSS-Q-ST-60-13C Rev.2(2025年4月30日)が民生の EEE 部品の使用を、「既存の宇宙用部品では達成できない条件があり、代償を定量的に示す」場合に限る形で規定[参考資料1・13]事実
NASA の部品の標準NASA-STD-8739.10(2017年6月13日、有効)が4つの保証レベルを規定。EEE-INST-002 は NASA-[TBD]-8739.11 に置き換わる予定(最終決定の前、24の節、4つの保証レベル)[参考資料2・3]未確定/将来
NASA の民生品の取り込みILPM の制度:2024年に最初の製造企業を追加。2025年(SMD)と2026年(ESDMD)の試験計画。2026年度は22社以上と作業中。放射線耐性は ILPM の評価に含まれない[参考資料3・17]未確定/将来
SiC・GaN地上で商用化。宇宙用への採用は、重イオンによる恒久的な劣化・致命的な故障への弱さが妨げと報告(2021年の総説)。SiC の IC が金星の模擬環境で60日間動作(地上の試験槽)[参考資料7・8]事実
宇宙の計算機Perseverance は RAD750(最大200 MHz)。HPSC は開発計画。小型衛星では、民生品に支援用の耐放射線品と対策を組み合わせる方法が伝統的で、RHBD が広がりつつある[参考資料4・11・12]事実
個別の製品の合否どの製品が宇宙で使えるかは、ミッションごとの仕様と、品質・放射線のデータで決まる。個別の製品の保証や優劣は、この記事では確認できなかった解説

確認日は2026年10月17日。NASA-[TBD]-8739.11 の番号は発表資料で「未定(TBD)」と表記されています。標準の版は、各機関の公式ページで確認してください。

この記事のまとめ(現状)

「宇宙用」の部品は、まず品質と工程の保証で、放射線への強さは別に確かめます。民生品は、性能・電力・価格で優れ、データシートの範囲で、信頼できる製造企業の部品なら使える、という考え方が NASA で制度化されつつありますが、放射線への耐性は別に確認が要ります。SiC・GaN は期待が大きい一方、重イオンへの弱さが課題で、動作電圧を下げる設計が前提になります。計算機は、耐放射線のプロセッサと、民生の SoC に対策を加える方法が併存しています。

9. 評価・標準の読み方

半導体部品が宇宙で使えるかどうかは、1つの数字では測れません。「宇宙用」という名前でなく、保証のレベル(品質)、放射線のデータ、使い方の余裕(ディレーティング)、実績を、別々に確かめます。これらの「ものさし」が何を測り、何を測っていないかを、確認できた範囲で表にします。

評価項目代表的な試験・評価手法(名称・出典)標準・指針(ECSS・NASA・AEC など)読み方の注意
部品の保証レベル(品質)選別(初期不良を除く試験)、ロット受入試験、評価試験[参考資料1・3]事実ECSS-Q-ST-60C Rev.4 "Electrical, electronic and electromechanical (EEE) components"(2025年4月30日。3つのクラス。クラス1の品質レベルは ESCC 9000、MIL-PRF-38535 クラス V、JAXA-QTS-2010 など)[参考資料1]事実。NASA-STD-8739.10 "EEE Parts Assurance Standard"(2017年6月13日、4つの保証レベル)[参考資料2]事実。EEE-INST-002(2003年、2008年の追加、3つの品質レベル)[参考資料3]事実分け方は機関ごとに違い、一対一には対応しない。どの区分も、放射線への強さを意味しない
民生品の評価NESC の提案(データシートの範囲で使えば同等以上に信頼できる、MEAL に基づく選択的な試験)[参考資料6・14]事実。ILPM と確立された民生部品の条件[参考資料5・17]事実ECSS-Q-ST-60-13C Rev.2 "Commercial electrical, electronic and electromechanical (EEE) components"(2025年4月30日)[参考資料13]事実。AEC-Q100(集積回路)・AEC-Q101(ディスクリート半導体)・AEC-Q200(受動部品)[参考資料15]事実車載の認定は放射線の試験ではない。ILPM の評価は放射線を含まず、認証ではない(NASA)
放射線への強さTID・はじき出し損傷・SEE の照射試験、RHA の流れ(『放射線と電子部品』編)[参考資料9]事実ECSS-Q-ST-60-15C Rev.1 "Radiation hardness assurance – EEE components"(2025年3月20日)[参考資料9]事実RHA のない部品はロット間のばらつきが大きいことがある(NASA)。システムでの軽減が必要
使い方の余裕(ディレーティング)定格より低い負荷で使う。FET のドレイン・ソース間電圧は、定格の80%、または SEE の安全動作領域のどちらか低い方[参考資料10]事実ECSS-Q-ST-30-11C Rev.2 "Derating – EEE components"(2021年6月23日)[参考資料10]事実SEE の特性が評価された MOSFET だけを使う、という要求もある。SiC・GaN は素子ごとに確認
ワイドバンドギャップ(SiC・GaN)重イオン照射試験での SEB の電圧、総線量試験[参考資料7・9]事実SiC・GaN に特化した宇宙用の標準は確認できなかった。ECSS-Q-ST-60-15C Rev.1 が、SEE と TID の評価が必要な部品の族に挙げ、LET しきい値を再計算させる[参考資料9]事実強さは素子・構造・電圧で違う。「定格の約50%」などは報告の一例
計算機性能・TID・TRL の記載(メーカー公称)[参考資料4]事実。RAD750 の仕様(NASA)[参考資料11]事実計算機に特化した宇宙用の標準は確認できなかった(NASA は、アビオニクスの TRL が機種ごとに違い、一律の TRL の適用が難しいと述べる)[参考資料4]製品の性能は NASA が独立に検証していない。TRL は用途・環境で変わる
軌道上の実績宇宙での実証(TRL 9)[参考資料4]事実確認できなかったある用途での実績は、別の用途に当てはまらないことがある(NASA の注記)

表の整理は本稿の計算(整理)。ECSS の標準は公開されている本文、NASA の標準は標準のページ、AEC は文書の一覧のページで、番号・題名・版・日付を確認(確認日 2026年10月17日)。ESCC・MIL-PRF・JAXA-QTS の本文、AEC の本文は未確認です。ASTM International の規格・サイトは参照していません。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 「宇宙用」という名前を鵜呑みにしないでください:品質の保証と、放射線の保証は別です。どちらの資料が手元にあるかを、部品ごとに確認します。
  • 民生品の「信頼性」と「放射線耐性」は別です:ILPM や AEC-Q の認定は、放射線の試験を含みません。放射線は、ミッションの環境(MEAL)に応じて、別に試験・解析します。
  • メーカー公称と第三者の検証は別です:NASA の表の製品の性能や TID は、NASA が独立に検証していません。
  • 標準は「手順」であって「合格の保証」ではありません:ECSS の標準は、プロジェクトが採用して初めて要求になり、調整(テーラリング)もできます。計画と達成も別です(NASA-[TBD]-8739.11、ILPM の試験計画、HPSC は未確定)。

10. 用語集

EEE 部品
電気・電子・電気機械部品(Electrical, Electronic, Electromechanical)。抵抗、コンデンサ、トランジスタ、IC など。
COTS
Commercial off-the-shelf。商業的に入手できる市販の部品。
rad-hard(耐放射線品)
放射線への強さを保証・設計した部品。
RHA
放射線耐性保証。部品の放射線への強さを、環境・試験・余裕で確かめる計画。
RHBD
設計による耐放射線化。回路やレイアウトの工夫で耐性を上げる。
保証レベル(Assurance Level)
部品の工程管理・選別・試験の厳しさの区分。
MIL-SPEC/QML
米国の軍用規格の部品。QML は認定された製造企業の一覧。
ESCC
欧州宇宙部品調整機構の規格。ECSS-Q-ST-60 が参照する。
選別(スクリーニング)
初期不良の部品を取り除くための、全数の試験。
ロット受入試験(LAT)
製造ロットから抜き取って行う、受入れのための試験。
MEAL
Mission, Environment, Application, Lifetime。ミッション・環境・用途・寿命。
ILPM
Industry Leading Parts Manufacturer。NASA が品質・信頼性のデータを確認した民生部品メーカー。
確立された民生部品(ECP)
工程が安定し、大量生産され、統計的な管理がある民生部品(NASA の条件)。
PEAL
Parts Evaluation and Analysis Laboratory。NASA の部品の評価・解析の試験所(試験計画中)。
DPPM/FIT
100万個あたりの不良品の数/時間あたりの故障率(Failures in time)。
AEC-Q100/Q101/Q200
自動車電子部品評議会の認定規格(IC/ディスクリート半導体/受動部品)。
ディレーティング
部品を定格より低い負荷で使い、寿命と信頼性を上げること。
バンドギャップ
半導体で電子を動かすのに必要なエネルギーの幅。広いほど高電圧・高温に向く。
SiC/GaN
炭化ケイ素/窒化ガリウム。ワイドバンドギャップ半導体。
SEB
単一事象焼損。パワー素子が、重イオン1個で壊れる現象。
SoC
システム・オン・チップ。CPU、メモリ制御、論理を1つのチップにまとめたもの。
HPSC
NASA の高性能宇宙機計算。耐放射線のマルチコア・プロセッサの開発。
スクラビング
メモリを定期的に読み、誤りを訂正して書き戻す対策。
PEM
樹脂封止のマイクロ回路(Plastic Encapsulated Microcircuit)。

11. 参考資料(一次情報)

  1. ECSS "ECSS-Q-ST-60C Rev.4 – Electrical, electronic and electromechanical (EEE) components"(2025年4月30日。公開PDF) — ecss.nl/wp-content/uploads/2025/05/ECSS-Q-ST-60C-Rev.4(30April2025).pdf
  2. NASA "NASA-STD-8739.10 Electrical, Electronic, and Electromechanical (EEE) Parts Assurance Standard"(NASA 技術標準システムのページ。基準版、2017年6月13日、有効) — standards.nasa.gov/standard/nasa/nasa-std-873910
  3. Ochs L. P.(NASA Goddard) "NASA Electrical, Electronic, Electromechanical, Electro-Optical (EEEE) Parts Selection Process"(Symposium on Counterfeit Parts and Materials、2026年6月23〜25日の発表資料) — ntrs.nasa.gov/citations/20260005625
  4. NASA "State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology, 8.0 Small Spacecraft Avionics"(確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/small-spacecraft-avionics/
  5. NASA NEPP "About ILPM Established COTS Parts"(確認日 2026年10月17日) — nepp.nasa.gov/pages/ilpm/about.cfm
  6. NASA NESC "Recommendations on the Use of Commercial-Off-The-Shelf (COTS) Electrical, Electronic, and Electromechanical (EEE) Parts for NASA Missions – Phase II"(NASA/TM-20220018183、2022年12月) — ntrs.nasa.gov/citations/20220018183
  7. Pearton S. J. ほか "Review—Radiation Damage in Wide and Ultra-Wide Bandgap Semiconductors", ECS J. Solid State Sci. Technol. 10, 055008 (2021), DOI 10.1149/2162-8777/abfc23 — doi.org/10.1149/2162-8777/abfc23
  8. Neudeck P. G. ほか "Operational Testing of 4H-SiC JFET ICs for 60 Days Directly Exposed to Venus Surface Atmospheric Conditions", IEEE J. Electron Devices Soc. 7, 100–110 (2019), DOI 10.1109/JEDS.2018.2882693 — doi.org/10.1109/JEDS.2018.2882693
  9. ECSS "ECSS-Q-ST-60-15C Rev.1 – Radiation hardness assurance – EEE components"(2025年3月20日。公開PDF) — ecss.nl/wp-content/uploads/2025/03/ECSS-Q-ST-60-15C-Rev.1(20March2025).pdf
  10. ECSS "ECSS-Q-ST-30-11C Rev.2 – Derating – EEE components"(2021年6月23日。公開PDF) — ecss.nl/wp-content/uploads/2022/07/ECSS-Q-ST-30-11C-Rev.2(23June2021).pdf
  11. NASA "Mars 2020 Perseverance Rover: Rover Components"(Brains の項。確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/mission/mars-2020-perseverance/rover-components/
  12. Powell W. A.(NASA) "High-Performance Spaceflight Computing (HPSC) Project Overview"(2018年11月13日) — ntrs.nasa.gov/citations/20180007636
  13. ECSS "ECSS-Q-ST-60-13C Rev.2 – Commercial electrical, electronic and electromechanical (EEE) components"(2025年4月30日。公開PDF) — ecss.nl/wp-content/uploads/2025/05/ECSS-Q-ST-60-13C-Rev.2(30April2025).pdf
  14. NASA NESC "Recommendations on Use of Commercial-Off-The-Shelf (COTS) Electrical, Electronic, and Electromechanical (EEE) Parts for NASA Missions"(Phase I、2020年12月15日) — ntrs.nasa.gov/citations/20205011579
  15. Automotive Electronics Council AEC 文書の一覧(AEC-Q100、AEC-Q101、AEC-Q200 の題名を確認。確認日 2026年10月17日) — aecouncil.com/AECDocuments.html
  16. Abdullahi Z., Epp Schmidt T.(NASA) "Evaluation of Automotive Grade Resistors for Space Flight"(ポスター、2024年8月) — ntrs.nasa.gov/citations/20240010883
  17. NASA NEPP "ILPM Established Parts"(ILPM と確立された民生部品の一覧のページ。確認日 2026年10月17日) — nepp.nasa.gov/pages/ilpm/establishedparts.cfm
  18. Schwank J. R. ほか "Radiation Effects in MOS Oxides", IEEE Trans. Nucl. Sci. 55, 1833–1853 (2008), DOI 10.1109/TNS.2008.2001040 — doi.org/10.1109/TNS.2008.2001040

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
ECSS の EEE 部品の3つのクラス(クラス1が保証最高・リスク最低、クラス3が最低・最高、調達費の傾向)、クラス1の品質レベル(気密 IC は ESCC 9000、MIL-PRF-38535 クラス V、JAXA-QTS-2010)、非気密 IC の規格(クラス P・Y など)ECSS-Q-ST-60C Rev.4(2025年4月30日)
出典1 https://ecss.nl/wp-content/uploads/2025/05/ECSS-Q-ST-60C-Rev.4(30April2025).pdf
事実
NASA-STD-8739.10 の題名・番号・基準版(2017年6月13日)・有効・OSMA の推奨標準NASA 技術標準システムのページ
出典2 https://standards.nasa.gov/standard/nasa/nasa-std-873910
事実
NASA の4つの保証レベル、リスクに応じた選択、NPR 8705.4B のクラスA〜D、EEE-INST-002(2003年、2008年の追加、18種類、3つの品質レベル、置き換え予定)、NASA-[TBD]-8739.11(草案、24の節、LAT、ILPM)、部品のレベルが放射線耐性を意味しないこと、MIL-SPEC の放射線の表示、非 RHA 部品のロット間のばらつき、システムレベルの軽減、歴史(気密封止、鉛フリー、スズウィスカー、銅ボンドワイヤ)、NESC の COTS 研究、ILPM(2024年に最初の企業、2025・2026年のパイロット、22社以上、PEAL の対象部品)NASA Goddard の発表資料(2026年6月)
出典3 https://ntrs.nasa.gov/citations/20260005625
事実
COTS が性能・電力効率・価格で優れ放射線に弱い傾向、民生品を先に選び支援用の耐放射線品で補う伝統的な方法、RHBD の広がり、計算機の種類、システムの対策、製品表(TID の記載、メーカー公称・未検証)、TRL の注記NASA の小型衛星の技術資料(アビオニクスの章、2026年)
出典4 https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/small-spacecraft-avionics/
事実
ILPM の定義(追加の選別が有害になりうる)、確立された民生部品の5つの条件(工程の安定1年以上、100万個超、全数の電気試験と複数ロットの特性評価、自動化ラインと統計管理、歩留まり)、認証に使わないことNASA NEPP の ILPM のページ
出典5 https://nepp.nasa.gov/pages/ilpm/about.cfm
事実
NESC Phase II の提案(これまでの「標準」と非標準の部品の扱い、一流の民生メーカーはデータシートの範囲で同等以上に信頼できる、MIL-SPEC にない技術の必要)NESC 報告 NASA/TM-20220018183
出典6 https://ntrs.nasa.gov/citations/20220018183
事実
SiC・GaN の商用化と、重イオンによる恒久的な劣化・致命的な故障への弱さ、定格電圧の約50%(トランジスタ)・約40%(SiC ダイオードの SEB)・約20%(漏れ電流)、Ga₂O₃ とダイヤモンドPearton ら(2021)の要旨
出典7 https://doi.org/10.1149/2162-8777/abfc23
事実
4H-SiC JFET IC(175トランジスタ×2)が金星の模擬環境(約460℃、約9.3 MPa)に冷却・保護パッケージなしで60日間さらされて動作したことNeudeck ら(2019)の要旨
出典8 https://doi.org/10.1109/JEDS.2018.2882693
事実
SiC・GaN のダイオード、SiC MOSFET、GaN FET が SEE の評価が必要な部品の族であること、シリコン以外は LET しきい値を再計算すること、MOS(Si、SiC)と GaN の電力素子が TID の評価が必要な族であることECSS-Q-ST-60-15C Rev.1(2025年3月20日)
出典9 https://ecss.nl/wp-content/uploads/2025/03/ECSS-Q-ST-60-15C-Rev.1(20March2025).pdf
事実
FET のドレイン・ソース間電圧のディレーティング(定格の80%、または SEE の安全動作領域のどちらか低い方)、SEE の放射線特性が評価された MOSFET だけを使うこと、ディレーティングの目的ECSS-Q-ST-30-11C Rev.2(2021年6月23日)
出典10 https://ecss.nl/wp-content/uploads/2022/07/ECSS-Q-ST-30-11C-Rev.2(23June2021).pdf
事実
Perseverance の計算機(BAE RAD750、PowerPC 750、最大200 MHz、Spirit・Opportunity の約10倍、フラッシュ2 GB、DRAM 256 MB、EEPROM 256 kB、2系統)NASA の Perseverance のページ
出典11 https://science.nasa.gov/mission/mars-2020-perseverance/rover-components/
事実
HPSC:現在の最先端より約2桁の性能向上をめざす耐放射線のマルチコア・チップレット、資金(STMD・SMD・米空軍)、JPL の管理、Boeing の試作NASA の資料(2018年)。開発計画
出典12 https://ntrs.nasa.gov/citations/20180007636
未確定/将来
ECSS-Q-ST-60-13C Rev.2(2025年4月30日)の適用範囲(既存の宇宙用部品では達成できない条件、代償の定量的な明記、対象の部品の族、3つのクラス)ECSS の標準の公開本文
出典13 https://ecss.nl/wp-content/uploads/2025/05/ECSS-Q-ST-60-13C-Rev.2(30April2025).pdf
事実
NESC Phase I の目的(Commercial Crew Program と NASA センターの COTS の実践と教訓の整理)NESC 報告(2020年12月15日)
出典14 https://ntrs.nasa.gov/citations/20205011579
事実
AEC-Q100(集積回路)・AEC-Q101(ディスクリート半導体)・AEC-Q200(受動部品)の題名AEC の文書の一覧のページ
出典15 http://www.aecouncil.com/AECDocuments.html
事実
車載グレードの抵抗が MIL-SPEC に代わる部品として使われ始めていること、AEC の認定要求が厳しい一方、ユーザーは製造企業の工程のすべてを見られないこと、NASA の研究が量産の民生部品を、厳格な製造管理の証拠があれば使うことを勧めたことNASA のポスター(2024年8月)の要旨
出典16 https://ntrs.nasa.gov/citations/20240010883
事実
電離放射線への耐性が ILPM の評価の過程に含まれないこと、ILPM と確立された民生部品の一覧、MEAL に基づく利用NASA NEPP の一覧のページ(確認日 2026年10月17日)
出典17 https://nepp.nasa.gov/pages/ilpm/establishedparts.cfm
事実
先進的な民生技術で、総線量への強さが寄生的な素子分離の酸化膜や SOI の埋め込み酸化膜にたまる電荷で決まることが多いことSchwank ら(2008)の要旨
出典18 https://doi.org/10.1109/TNS.2008.2001040
事実
650 V の素子の20%/40%/50% は130/260/325 V、1200 V の素子は240/480/600 V(定格は例示)報告された割合を例示の定格に当てはめた計算。仮定は本文と図に明記
本稿の計算
本稿の計算
ESCC・MIL-PRF・JAXA-QTS の規格本文、AEC の規格本文、NASA-[TBD]-8739.11 の最終版、HPSC の運用実績、SiC・GaN に特化した宇宙用の標準、個別の製品の合否や優劣、宇宙の計算機に特化した標準本稿の調査範囲でアクセスできた一次資料では確認できなかったため、記載していません解説
「放射線への強さは、工程・設計・システムの層で守る」「ワイドバンドギャップは結晶・界面・絶縁膜の品質の問題」「民生品の封止樹脂・はんだ・配線の信頼性」という読み取り、「保険の等級」などのたとえとその限界本稿による解説(出典の事実をもとにした読み取り)解説
図1〜図9が実データの観察ではなく、説明のための作図であること。図1と図9がAI生成の概念画像の枠であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月17日/出典は一次情報(ECSS の公開本文、NASA の標準ページ・NESC 報告・発表資料・技術資料、査読論文)に限定しています。NASA の表に載る製品の値は「メーカー公称」と明記し、独立に検証されたものとは区別しました。特定の企業・製品の優劣はつけていません。 数値例(電圧の換算)は本稿が作った説明用の例示で、特定の部品の値ではありません。NASA-[TBD]-8739.11 と ILPM のパイロット、HPSC は計画・草案の段階で、確定した事実ではありません。 ESCC・MIL-PRF・JAXA-QTS・AEC の規格本文、SiC・GaN に特化した宇宙用の標準、HPSC の運用実績、個別の製品の合否については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図9はAI生成画像の枠(画像は未設置)です。実際の施設・製品・外観を示すものではありません。