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宇宙用ポリイミド 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

宇宙用ポリイミド
― 金色のフィルムは、真空・酸素原子・放射線の中でどう持ちこたえるか

宇宙機を包む金色のフィルム、曲がる配線の土台、薄い太陽電池の基板。その多くはポリイミドです。地上では「熱に強い丈夫なフィルム」として知られていますが、宇宙に出ると、別の試験を受けることになります。真空で水を吐き、低い軌道では酸素の原子に少しずつ削られ、紫外線と放射線で色づき、配線に使うと傷から火花が走ることもあります。 この記事は、宇宙工学を知らない素材技術者に向けて、ポリイミドが宇宙で受ける試練を、図と小さな計算で順に説明します。何が実測で、何が計算で、何が確認できなかったかを分けて書きます。

構成:NASA の技術報告書(NASA Technical Reports Server)、NASA Goddard のアウトガスデータベース、ECSS・ISO・NASA の標準の公式ページ、JAXA の公開資料、メーカーのカタログを使用/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月17日

金色の外観そのものではなく、薄い反射層を重ねたMLIに注目します。放熱面や観測窓は意図的に露出させています。
図1 概念画像(ImageGen生成)。金色の外観そのものではなく、薄い反射層を重ねたMLIに注目します。放熱面や観測窓は意図的に露出させています。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. 前提:低軌道と「5つの敵」
  3. どこにポリイミドが使われているか
  4. 敵① 真空:水を吐く(アウトガス)
  5. 敵④ 原子状酸素:低軌道で、表面が削られる
  6. 守り方:置き場所・重ね方・コーティング・材料の設計
  7. 敵② 紫外線と放射線:色づきと、もろさ
  8. 電線の被覆で起きること:アークトラッキング
  9. 無色のポリイミドとソーラーセイル
  10. 限界と、確認できなかったこと
  11. 評価・標準の読み方
  12. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・草案・改訂中など、確定していない事項
このほか、素材分野への読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値の読み方

第5章の「厚さが消えるまでの時間」と第4章のRMLは、本稿が計算した説明用の値です。軌道上の実測値(侵食収率など)は、NASA の報告にある条件(国際宇宙ステーションの外側、約4年)での値で、別の軌道・向き・年には当てはまりません。地上の模擬試験の結果は、実際の宇宙での値ではありません。メーカーの値は「メーカー公称」と書き、規格は題名・適用範囲・状態の確認にとどめています。この分野は変化が速いため、規格の状態には確認日(2026年10月17日)を付けています。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • 金色のフィルムは、衛星の「毛布・配線・基板」:アルミを蒸着した薄いポリイミドの膜を何枚も重ねた多層断熱材(MLI)、曲がる回路、薄い太陽電池の基板などに使われています事実[参考資料3・5・9]
  • 敵は3つに絞れる:①真空で水などの気体が出る、②低軌道では酸素原子(原子状酸素)に表面が削られる、③紫外線と放射線で色づき、もろくなる。NASA の飛行実験では、基準になるポリイミド(Kapton H)の侵食収率は 3.0×10⁻²⁴ cm³/原子と報告され、厚さ 25 µm のフィルムなら数か月で消える計算になる条件があります事実本稿の計算[参考資料1]
  • 対策は「材料を変える」だけではない:守る層を外側に置く、金属を蒸着する、コーティングする、材料の分子設計を変える、試験で確かめる。配線では、平常時の性能ではなく傷がついたときの挙動も見られます事実[参考資料3・13・8]
この記事を読む前に知っておくこと

ポリイミドそのものの合成(二段合成)や Kapton の物性、無色にしにくい理由は、本シリーズ「ポリイミド」編(高分子・樹脂の分野)で詳しく説明しています。ここでは繰り返しません。宇宙の用語は、出てきたときに説明します。「軌道」「低軌道」「真空」の言葉がぼんやりしていても読めるように、第2章でまとめます。

シリーズの中での位置

この記事は、シリーズ「宇宙産業」の材料編の1つです。先に「宇宙環境と材料への影響」編を読むと、5つの敵の全体像がつかめます。MLI のしくみと放熱の全体は「宇宙機の熱制御」編、ポリイミドより耐熱性の低い樹脂(PEEK など)の宇宙での使い方は「宇宙用スーパーエンプラ」編で扱います。

2. 前提:低軌道と「5つの敵」

まず、ポリイミドが置かれる場所を確かめましょう。人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)は、なぜ地上に落ちてこないのでしょうか。

答えは、「落ち続けながら、横に十分速く進むので、地面に当たらない」からです。大砲の弾を、どんどん速く横に撃ち出すところを想像してください。ある速さを超えると、弾は地面に落ちる前に地球の丸みの向こうへ進み続けます。これが軌道(ニュートンの思考実験)です。たとえの限界:実際には、薄い大気の抵抗や重力の分布のずれで、軌道は少しずつ変わります。

NASA の報告によると、ISS は高度約400 kmを、おおよそ秒速7.7 kmで飛んでいます事実[参考資料1]。高度400 kmの円軌道を仮定して周期を計算すると、1周は約92分、1日に約15〜16周になります本稿の計算。つまり、約90分ごとに日向と日陰を行き来することになります。

本稿の計算:高度400 kmの円軌道の周期

地球の半径を 6,371 km、地球の重力定数を 3.986×10⁵ km³/s² とすると、軌道の半径は a = 6,371 + 400 = 6,771 km です。周期 T = 2π√(a³/μ) = 2π√(6,771³/398,600) ≒ 5,540 秒 ≒ 92.4 分。速さは √(μ/a) ≒ 7.67 km/s で、NASA の報告の「7.7 km/s」と合います。1日(1,440分)あたりでは 1,440 ÷ 92.4 ≒ 15.6 周。前提と限界:円軌道・高度一定を仮定した教科書的な計算で、実際の軌道要素ではありません。

この「低軌道(LEO:Low Earth Orbit)」では、宇宙は「何もない真空」ではありません。高度400 km付近にも、ごく薄い大気が残っています。その主成分が、次に出てくる酸素の原子です。本シリーズでは、宇宙環境を5つの敵として整理します。ポリイミドは、そのうち下の図の5つすべてに出会います。

宇宙の「5つの敵」と、ポリイミドの膜に起きること 敵 ポリイミドの膜に起きること 本稿で扱う場所 ① 真空 熱が逃げにくい・ガスが出る 吸っていた水や、接着剤の成分が気体になって出る (アウトガス)。近くの光学面などに付くと汚染になる 第4章(図4) ② 放射線 電子・陽子などの粒子 分子の鎖が切れ、色づきやすく、伸びにくくなる。 変化は徐々に積み重なる 第7章(図8) ③ 大きな温度変化 日向と日陰のくり返し 伸び縮みをくり返し、金属蒸着層や接着層との間に ずれが生じうる。熱真空サイクル試験で確かめる 第11章(表) ④ 原子状酸素・紫外線 低軌道で表面が劣化する 酸素原子で表面が削られ、膜が薄くなる。 紫外線は色づきを進める。いちばん効く敵 第5〜7章(図6・8) ⑤ 微小重力・デブリ 微小な粒子の衝突 微小隕石やデブリの衝突で、膜に小さな穴や裂け目。 微小重力そのものは、この膜では主な問題ではない 第5〜6章(図7)
図2 概念図(ベクター作図)。宇宙の「5つの敵」のそれぞれが、ポリイミドの膜に何をするかを整理した図です。右端は、本稿で扱う章と図の番号です。重さの順位ではなく、説明のための整理です。
よくある誤解:「真空だから、材料は劣化しない」

真空の中は、空気による酸化も水分もないので、材料は長持ちしそう、と考えがちです。これは誤りです。低軌道には酸素の原子が飛び交い、ポリイミドの表面を削ります。紫外線と放射線は、真空でも分子の鎖を切ります。さらに真空は、材料が吸っていた水や成分を気体にして引き出します。宇宙は「材料に優しい静かな場所」ではなく、地上にはない種類の負荷が重なる場所です。

3. どこにポリイミドが使われているか

ポリイミドは、薄くて軽く、耐熱性が高いフィルムです。宇宙機では、次の場所で使われていることが、一次情報で確認できます。

①フレキシブル回路、②電線の被覆、③多層断熱材では、同じポリイミド系でも役割と構成が違います。
図3 概念画像(ImageGen生成)。①フレキシブル回路、②電線の被覆、③多層断熱材では、同じポリイミド系でも役割と構成が違います。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
衛星の中で、ポリイミドのフィルムが使われる場所 衛星本体 金色の毛布(MLI)で包む 太陽電池 太陽電池 回路基板 ソーラーセイルの膜 (別の機体の例) 1 2 3 4 5 6 1 多層断熱材(MLI) アルミを蒸着した薄い膜を何枚も重ねる 2 フレキシブル回路・ヒーター 曲がる絶縁フィルムの上に銅の回路を作る 3 太陽電池の基板・収納部材 薄い膜に電池を載せる/フォームを膜で覆う 4 電線の被覆 軽くて熱に強い。異常時の挙動に注意(第8章) 5 ソーラーセイルの膜 IKAROS は厚さ7.5 µm のポリイミド膜 6 粘着テープ・ラベル 固定と識別。粘着剤の出ガスに注意 ※ 配置は説明用で、特定の衛星の構造ではありません。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。衛星の中でポリイミドのフィルムが使われる主な場所。配置は説明用で、特定の衛星の構造ではありません。各用途の根拠は、下の表に示します。

番号用途確認できた一次情報主に戦う敵
1多層断熱材(MLI)NASA の報告:LDEF(回収型の実験衛星)のトレイ F-9 は、アルミを蒸着した Kapton の MLI に覆われていた。最外層は厚さ0.076 mm、その下に厚さ0.0076 mm の両面アルミ蒸着 Kapton が15層。層の間はポリエステルのネット事実[参考資料3]。NASA のデータベースにも、MLI 用途の記録がある事実[参考資料5]④原子状酸素、①真空、⑤デブリ
2フレキシブル回路・ヒーターNASA のアウトガスデータベースに、用途が「フレキシブル回路基板」の Kapton 材料(金メッキ銅の導体とアクリル接着剤、2003年、記録 GSFC28414)と、用途が「ヒーター」の Kapton 製品(1974年、記録 GSFC06212)の記録がある事実[参考資料5]①真空、③温度変化
3太陽電池の基板・収納部材Space Station Freedom の柔軟な太陽電池アレイの基板材料として、Kapton H に SiOx の保護膜を付ける技術(1991年)事実[参考資料14]。ISS の太陽電池アレイの収納箱では、ポリイミドのフォームを覆う Kapton が軌道上で劣化していた事実[参考資料16]。IKAROS は、ポリイミド膜(厚さ7.5 µm)に薄膜太陽電池(厚さ25 µm)を載せた事実[参考資料9]④原子状酸素、②放射線
4電線の被覆NASA ジョンソンの試験報告(1990年)は、スペースシャトル・オービタの配線が主に Kapton 絶縁であると書く事実[参考資料24]。1994年の発表資料も Kapton 電線を扱う[参考資料8]異常時の挙動(第8章)
5ソーラーセイルの膜JAXA:IKAROS の膜は対角20 mの正方形、厚さ7.5 µm のポリイミド(打ち上げ前の設計値)事実[参考資料9]②放射線、紫外線
6粘着テープ・ラベルNASA のデータベースに Kapton テープの記録がある(3M Tape #1205、2019年)事実[参考資料5]①真空(粘着剤)

表の「主に戦う敵」は、各出典の内容から本稿が整理したもの(解説)です。宇宙機での採用の量や割合は、本稿では確認していません。

素材技術者の視点①:同じ材料でも、置かれた場所で「求められる性質」が違う

MLI の外側に出る面は、紫外線や酸素原子を正面から受けます。内側の層は、外の層に守られるので、軽さと反射率、そして真空で出るガスの少なさが主な仕事です。配線の土台なら、熱と折り曲げ、絶縁です。同じ「ポリイミド」でも、地上のカタログ値(引張強さなど)より、その場所で何に出会うかが選び方を決めます(本記事による解説)。地上でフィルム、基板、ワニスを扱ってきた人ほど、宇宙の仕様書に「アウトガス」「原子状酸素」「アーク」の項目があることに気づくはずです。

4. 敵① 真空:水を吐く(アウトガス)

まず、いちばん身近な敵から見ましょう。ポリイミドは、空気中の水分を吸いやすい高分子です。打ち上げて真空になると、吸っていた水が気体になって出ていきます。水だけでなく、接着剤や可塑成分も出ます。これがアウトガスです。

なぜ問題なのでしょうか。出たガスは、近くの冷たい面(レンズ、ミラー、センサーの窓、太陽電池のカバー)に付いて、曇りや膜になるからです。そこで宇宙機の材料は、地上の真空装置でアウトガスの試験を受けます。

試験は何を測るのか

NASA は、アウトガスの試験が、真空中での質量の減り(全質量損失、TML)と、気体になって出たあと別の冷たい板に凝縮した量(CVCM)を測る、と説明しています。試験法は ASTM E 595 です事実[参考資料1・5]。ヨーロッパの標準 ECSS-Q-ST-70-02C も、同じ考え方の試験を定めています。その条件は、試料を温度 (22±3) ℃・湿度 (55±10) %で調整したあと、真空(10⁻³ Pa 以下)で 125 ℃・24時間置き、冷却した集積板(25 ℃)に付いた量を測るというものです事実[参考資料4]。

つまずきやすいところ:TML・RML・WVR・CVCM は何が違う?

4つの略語を、「風呂上がりのタオル」のたとえで整理します。タオルを乾燥機に入れると、重さが減ります(TML:全部の減り)。減りの多くは水分です。ところが、取り出してしばらく置くと、また湿気を吸って重くなります(WVR:吸い戻した水の量)。そこで「水を除いた、本当に抜けた量」は RML = TML − WVR と書きます。最後に、乾燥機の窓に付いた曇りが CVCM(凝縮したもの)です。窓に付くのは、水より厄介な油分などです。たとえの限界:宇宙機ではタオルの水分は「無害」とは限りません。冷たい光学面の近くでは、水そのものが問題になることもあります(ECSS も、条件つきで水を問題にしない扱いを認めているにすぎません)。

判定の目安として、ECSS-Q-ST-70-02C は、材料選定の最低限のスクリーニング値として RML < 1.0 %、CVCM < 0.10 % を挙げています。さらに、ポリイミドのフィルムのように水が速く抜ける材料は、条件を満たせば TML が 1.0 %を超えても RML が 1.0 %未満なら受け入れてよい、と書いています(冷たい部分に-100 ℃以下の機器がないこと、高電圧機器がないこと、地上で乾燥ガスをパージして水の再吸収を制御すること、などの条件つき)事実[参考資料4]。

アウトガスの試験結果:全質量損失(TML)と、水を除いた分(RML) アルミ蒸着 Kapton 1 mil GSFC31198 TML 0.95 / WVR 0.88 / CVCM 0.00 0.95 0.07 アルミ蒸着 Kapton 5 mil GSFC31195 TML 1.08 / WVR 1.06 / CVCM 0.01 1.08 0.02 黒色 Kapton 1 mil(熱ブランケット用) GSFC30781 TML 1.34 / WVR 1.15 / CVCM 0.01 1.34 0.19 MLI用 アルミ/Kapton+ガラススクリム GSFC33466 TML 0.54 / WVR 0.33 / CVCM 0.03 0.54 0.21 Kapton テープ(アクリル粘着剤) GSFC36516 TML 1.61 / WVR 0.42 / CVCM 0.14 1.61 1.19 CVCM 0.14 > 0.10 Kapton HN/Kevlar 積層 GSFC36108 TML 5.06 / WVR 2.39 / CVCM 0.28 5.06 2.67 CVCM 0.28 > 0.10 RML 1.0 % TML(全質量損失。吸った水も含む) RML(水を除いた質量損失)= TML − WVR(本稿の計算) 単位 %。赤い点線は RML の上限の目安(ECSS)
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。NASA Goddard のアウトガスデータベースにある Kapton 関連の6件の記録(左下の番号は記録の識別名)。TML・WVR・CVCM はデータベースの値、RML は本稿が TML−WVR で計算した値です。記録ごとに試料の厚さ・前処理・試験機関が違うので、記録どうしの優劣は示しません。確認日 2026年10月17日。
素材技術者の視点②:フィルムそのものは「ほとんど水」、問題は積層品と粘着剤

図4の上の4件(アルミ蒸着 Kapton、黒色 Kapton、MLI 用の積層)は、TML が 0.54〜1.34 %で、そのほとんどが WVR(水)でした。水を除いた RML は 0.02〜0.21 %で、小さい値です。TML だけを見ると 1 %を超える例(1.08、1.34)もあるので、TML と RML のどちらで見るかで判定が変わります。一方、下の2件(アクリル粘着剤つきの Kapton テープ、Kapton と Kevlar の積層)は、水を除いても RML が 1.19 %と 2.67 %、CVCM が 0.14 %と 0.28 %で、上の基準を超えています。データベースの記録には内訳(粘着剤や接着層の成分)の記載がないため、原因はこの記録からは分かりません。推測:粘着剤や接着層の成分が効いている可能性があります。いずれにせよ、ポリイミドの膜が単体のときと貼り合わせたときで、評価が別になることは記録から読み取れます(本記事による解説)。地上では「フィルムの物性」を見ますが、宇宙では貼り合わせた後の全体が試験の対象になります。

実務では、試験に通る材料でも、組み立てたあとに真空炉で焼いて(ベーク)、ガスを出し切ってから打ち上げます。ECSS の同じ規格は、構造部品、ハーネス、電子機器、熱ブランケットのような重要な部品を、許容できる最高温度で数日間ベークするのが標準的な慣行になりつつある、と書いています事実[参考資料4]。NASA の MISSE 実験でも、アウトガスの基準(TML 1.00 %未満、CVCM 0.10 %未満)に合わない試料は、飛行前に真空で加熱処理されました事実[参考資料1]。

試料から出た成分が別の面に付着することを調べる考え方です。試験温度・時間・捕集面の条件は、本文の規格説明と合わせて読みます。
図5 概念画像(ImageGen生成)。試料から出た成分が別の面に付着することを調べる考え方です。試験温度・時間・捕集面の条件は、本文の規格説明と合わせて読みます。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。

5. 敵④ 原子状酸素:低軌道で、表面が削られる

酸素の原子は、どこから来て、何をするのか

低軌道の大気は薄いのですが、そこには酸素の原子(原子状酸素:AO、Atomic Oxygen)がたくさんあります。NASA の報告によると、太陽からの短い波長の紫外線が、上層大気の酸素分子(O₂)を2つの原子に分けて生まれます。低軌道(約1,000 km 以下)では、この酸素原子が主成分です事実[参考資料1]。

地上の空気中なら、酸素の原子はすぐ他の原子と結びついて分子に戻ります。しかし高度400 kmでは、原子が他の分子にぶつかるまでの平均の距離が約10⁴ m(10 km)もあるため、原子のまま漂っています事実[参考資料1]。

そこへ、秒速7.7 kmの衛星が突っ込みます。衛星から見ると、酸素原子が正面から高速でぶつかってくることになります。NASA の報告は、進行方向に正面を向けた面(ram 面)への流れを約 5.23×10¹³ 原子/cm²・秒(高度400 km、11年の太陽周期の平均)、衝突するときのエネルギーを平均 4.5 eV と書いています事実[参考資料1]。

つまずきやすいところ:「削られる」とは、砂吹きのようなこと?

近いのは「表面が少しずつ燃えて気体になって逃げていく」イメージです。酸素の原子が高分子の表面と反応して、最後は一酸化炭素や二酸化炭素などの気体になり、材料が減ります。NASA の報告は、ほとんどの高分子で最終の生成物が気体になるため、表面が侵食される、と説明しています事実[参考資料1]。たとえの限界:炎のような高温ではありません。酸素原子の速度で決まる4.5 eV の衝突エネルギーと、化学反応が働いています。砂吹きのように削り飛ばしているのでもありません。

「侵食収率」というものさし

では、どれくらい削られるのでしょうか。NASA は侵食収率(erosion yield)というものさしで表します。酸素原子が1個ぶつかったとき、何 cm³ の材料が減るか(cm³/原子)です。値が小さいほど、削れにくい材料です事実[参考資料1]。

ここで、ポリイミドは特別な位置にあります。Kapton H の侵食収率 3.0×10⁻²⁴ cm³/原子は、軌道上の酸素原子の総量(フルエンス)を測る「ものさし」として使われてきました。NASA の報告は、Kapton H が低軌道での侵食収率がよく分かっている材料だから、フルエンスの校正に使う、と書いています事実[参考資料1]。JAXA の大学との共同研究の資料にも、この値は1982年のスペースシャトル(STS-8)の実験で最初に測られたと書かれています(高度225 km)事実[参考資料12]。つまり、ポリイミドは「削れる材料」であると同時に、「削れ具合を測る基準の材料」でもあるわけです。

実測:ISS の外側に41種類の高分子を出した実験

NASA は、国際宇宙ステーションの外側に41種類の高分子を約4年置く実験(MISSE 2 の PEACE Polymers)を行いました。実験は、ISS の Quest エアロックの外側の試料トレイで、2001年8月16日から2005年7月30日までの3.95年間続き、回収は2005年7月30日のスペースシャトル(STS-114)の船外活動で行われています事実[参考資料1・2]。Kapton H の試料の質量の減りから求めたフルエンスは 8.43×10²¹ 原子/cm² でした事実[参考資料1]。

左:軌道上の実測(侵食収率) 右:厚さが消えるまでの時間(本稿の計算) MISSE 2 の実測(国際宇宙ステーション外側、3.95年) 単位 10⁻²⁴ cm³/原子。小さいほど削れにくい Kapton H 3.00 Kapton HN 2.81 UPILEX-S 0.92 CP1(無色) 1.91 PMR-15 ≥3.02 PEEK 2.99 FEP 0.20 PTFE 0.14 青:ポリイミド 橙:PEEK 緑:フッ素樹脂 点線の棒(≥)は試料が一部または全部なくなり、真の値はもっと大きい 試料の厚さや前処理は試料ごとに違う(NASA/TM-2006-214482 の表4) 厚さが消えるまでの時間(本稿の計算) MISSE 2 の試料と同じ削れ方(約64 µm/年)が続くと仮定 7.5 µm 約1.4か月 12.5 µm 約2.3か月 25 µm 約4.7か月 50 µm 約9.4か月 125 µm 約23.4か月 11年平均のモデル値(正面を向く面、高度400 km)なら約50 µm/年 面の向き・高度・太陽活動で大きく変わる。 低軌道の話で、惑星間空間には当てはまらない
図6 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。左:MISSE 2 の PEACE Polymers で報告された侵食収率の例(NASA/TM-2006-214482 の表4。ポリイミドは青)。右:削れ方が一定という仮定で、フィルムの厚さが消えるまでの時間を本稿が計算した値。右の仮定(約64 µm/年)は、この実験の Kapton H の厚さの減り(約253 µm、3.95年)から出したもので、他の軌道・向きには当てはまりません。
本稿の計算:厚さはどれくらい減るのか

侵食収率 E = 3.00×10⁻²⁴ cm³/原子、フルエンス F = 8.43×10²¹ 原子/cm² だと、減った厚さ = E × F = 3.00×10⁻²⁴ × 8.43×10²¹ = 2.53×10⁻² cm = 約253 µm です。MISSE 2 の Kapton H の試料は、厚さ127 µm の膜を3枚重ねた、合計381 µm でした事実[参考資料1]。253 µm は 381 µm の約3分の2に当たります。NASA は、この実験の試料を、最低3年は軌道上でもつように、膜を何枚も重ねて作ったと書いています[参考資料2]。
年あたりに直すと 253 ÷ 3.95 ≒ 64 µm/年。この速さが続くとすれば、厚さ 25 µm のフィルムは 25 ÷ 64 ≒ 0.39 年(約4.7か月)、125 µm なら約1.95年(約23か月)で削れてなくなります。別の見方として、11年平均のモデル流量 5.23×10¹³ 原子/cm²・秒を使うと、3.0×10⁻²⁴ × 5.23×10¹³ = 1.57×10⁻¹⁰ cm/秒 ≒ 約50 µm/年です(1年=3.156×10⁷ 秒)。
前提と限界:正面を向く面で、侵食収率が一定、削れ方が時間によらず一定、という単純化です。実際は、面の向き(正面・側面・後ろ向き)、高度、太陽活動、近くの部材の影、紫外線との組み合わせで大きく変わります。

MLI で起きたこと:LDEF の実例

計算の答え合わせになる実例があります。LDEF(Long Duration Exposure Facility、スペースシャトルで打ち上げ・回収された長期曝露の実験装置)は、1984年4月から1990年1月まで低軌道にありました事実[参考資料12]。その実験トレイ F-9 は、正面近くから 8.32×10²¹ 原子/cm² の酸素原子と、11,100 等価太陽時間の紫外線を受けました。トレイを覆っていた Kapton の MLI は、最外層の厚さ0.076 mm(76 µm)の Kapton と、その下のポリエステルのネットの多くが失われ、色も Kapton の青銅色から、アルミ蒸着の銀色に変わっていました事実[参考資料3]。

上の式で計算すると、3.0×10⁻²⁴ × 8.32×10²¹ ≒ 2.5×10⁻² cm = 約250 µm です。これは76 µm の外層を削り切って余るので、報告の「外層の多くが失われた」と矛盾しません本稿の計算。

6. 守り方:置き場所・重ね方・コーティング・材料の設計

削られるのが分かっているなら、どう守るのでしょうか。大きく4つの考え方があります。

MLI の構成:宇宙で約6年さらされた例と、守りを固めた設計 LDEF のトレイ F-9(NASA の報告) Space Station WP-2 の標準ブランケット(設計) 酸素原子 …(全部で15層) 最外層 Kapton 0.076 mm 多くが酸素原子で消失(赤の点線) 0.0076 mm の両面アルミ蒸着 Kapton(穴あき)を15層 層の間はポリエステルのネット アルミ層が残り内側を守った 結果:宇宙で約6年さらされた後も、 ブランケットは機能を保った(報告の記述)。 この結果が右の設計に生かされた。 酸素原子 …(内側の反射層) 外カバー:ベータクロス (ガラス繊維布) 内カバー:Kapton 0.076 mm 両面アルミ蒸着・穴あき 0.0076 mm の両面アルミ蒸着 Kapton とダクロンのネット 外カバーを環境に強い布にして、 軌道上で30年もつ設計とされる。 数字は NASA 報告の値。実機の保証ではない ※ 厚みは実寸比ではない概念図。層の数・厚さは NASA の報告(参考資料)の記述による。
図7 概念図(ベクター作図)。左:LDEF のトレイ F-9 の MLI の構成と結果。右:その結果を生かした Space Station WP-2 標準ブランケットの設計。層の数・厚さは NASA の報告[参考資料3]の記述で、厚みは実寸比ではありません。「30年もつ」は設計上の見込みで、実機での実績ではありません。
  1. 犠牲層を外側に置く:LDEF の MLI は、最外層の Kapton が削られても、内側の層は残り、ブランケットは機能を保ちました。アルミを両面に蒸着した内側の Kapton 層は、アルミが剥がれず、Kapton を宇宙環境から守っていたと報告されています事実[参考資料3]。
  2. 外カバーに強い布を使う:その結果を生かした Space Station WP-2 の標準ブランケットは、外カバーを、内面だけアルミを蒸着したベータクロス(ガラス繊維布)にし、内カバーに0.076 mm の両面アルミ蒸着・穴あきの Kapton を使います。内側の反射層は厚さ0.0076 mm の両面アルミ蒸着 Kapton で、層の間にダクロン(ポリエステル)のネットを入れます。これらの構成は NASA の報告の記述です事実[参考資料3]。このブランケットは低軌道で30年もつ見込みと書かれていますが、設計上の見込みで、実績ではありません未確定/将来。
  3. 表面にコーティングをする:Space Station Freedom 用に開発された、Kapton H への SiOx(二酸化ケイ素に近い膜)の保護膜は、酸素原子の衝突から基材を守るためのものでした事実[参考資料14]。ただし、膜に傷、ピンホール(針穴)、表面の粗さがあると、膜自体は酸素原子に強くても、下の高分子が膜の下で削られ(アンダーカット)、薄い高分子フィルムが壊れることがある、と NASA の報告は述べます事実[参考資料13]。
  4. 材料自体を変える:日鉄ケミカル&マテリアルの BSF シリーズは、シロキサン(ケイ素と酸素の鎖)をブロックとして入れたポリイミドで、酸素原子と反応して表面に SiO₂ の層ができ、削れを防ぐ、とカタログに書かれています。損傷を受けても、酸素原子との反応で SiO₂ 層が再生する(自己修復)という説明です(メーカー公称)事実[参考資料11]。
素材技術者の視点③:「AO に強くする」と「Kapton らしさ」は引き換えになる

BSF のカタログには、BSF-30 の値として、ガラス転移温度 187 ℃、熱線膨張係数 100 ppm/K、弾性率 1.4 GPa、伸度 15 %、破断強度 53 MPa が載っています(メーカー公称。試験法は書かれていません)。一方、本シリーズ「ポリイミド」編で示した Kapton HN のメーカー公称値は、引張強さ 231 MPa、引張弾性率 2.5 GPa で、融点はなく、ガラス転移は 360〜410 ℃付近とされています。試験法や出典が違う数字を並べたものなので、優劣は決められません。それでも、柔らかいシロキサンの鎖を入れることで、剛直さが下がる傾向は読み取れます推測。ポリイミドの強みである耐熱性・剛直さと、AO への強さは、分子設計の上で両立が難しい項目です。さらに、BSF のカタログには、環状シロキサン成分のアウトガスについて、BSF-30 は「含む」、他の2グレード(BSF-NCS#2、#3)は「なし」という欄があります。第4章のアウトガスと同じく、守るための成分が、別の敵(汚染)の原因になりうることを示す例です。

BSF についてカタログは、JAXA による宇宙曝露試験の実績として、2009年のきぼう日本実験棟での曝露(8.5か月)、2012年からの熱制御材料の曝露試験(SDS-4)、2015〜2016年の ExHAM、2017〜2019年の超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)を挙げています(メーカーの資料に基づく記述で、JAXA の一次資料の数値は本稿では確認していません)事実[参考資料11]。

つばめ(SLATS)の話:高度が低いほど、削れは速い

神戸大学の発表資料(JAXA 主催のワークショップ、2020年)は、ISS の軌道に比べて、SLATS の軌道では原子状酸素の密度が約1000倍で、劣化の速さも約1000倍、と書いています(発表者の記載)。また、地上の原子状酸素試験は、エネルギーの分布、含まれる粒子(未解離の酸素分子など)、パルス動作など、宇宙とは違う環境で行われており、地上試験と軌道上試験の結果は必ずしも一致しない、とも書いています事実[参考資料12]。NASA の報告も、地上のプラズマ試験の侵食収率を軌道上の値と比べて補正する研究を行っています事実[参考資料2]。

7. 敵② 紫外線と放射線:色づきと、もろさ

ポリイミドの膜は、もともと琥珀色(金色)です。この色は、太陽光を吸収する量(太陽光吸収率 α)と深く結びついています。MLI の外側に出る膜は、α が大きいと日光で温まり、熱の設計が変わります。さらに宇宙では、紫外線と粒子線(電子・陽子)が、分子の鎖を切ったり、色の原因(発色団)を増やしたりして、α が時間とともに上がることがあります(本記事による解説。試験結果は下に示します)。

用語を整理しておきます。α(太陽光吸収率)は、太陽の光をどれだけ吸収するか。ε(放射率)は、赤外線としてどれだけ熱を放つか。α も ε も、数字が大きいほどその性質が強いことを表します。測り方は ECSS-Q-ST-70-09C が、分光器による方法などを定めています事実[参考資料21]。

模擬の宇宙放射線を当てた試験

Boeing などの研究チームは、太陽―地球系のラグランジュ点(L1、L2)付近で5年過ごす環境を、地上の真空装置で模擬しました。試験した薄いフィルム(厚さ12.5 µm、片面にアルミ蒸着)には、Kapton E・HN、UPILEX-S、無色ポリイミドの CP-1・CP-2 などがありました事実[参考資料6]。結果は次のとおりです。

模擬の宇宙放射線を当てた後の太陽光吸収率(概数) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.30 0.37 Kapton E・HN 0.35 0.41 UPILEX-S 0.20 0.50 CP-1・CP-2(無色) 照射前 照射後(5年分相当) 試験条件(地上の模擬) ・厚さ 12.5 µm、片面にアルミ蒸着 ・紫外線 約1000 等価太陽時間 ・陽子 1.0E15 個/cm²(40 keV) ・電子 8.0E15 個/cm²(40 keV) 結果(論文の記述) ・無色系は吸収率が2倍以上に増加 ・Kapton は約+0.07、UPILEX-S は約+0.06 ・引張の破壊応力は全種類で低下 ・Kapton の破断ひずみは大きく低下 棒の高さは論文本文の記述(約0.3→+0.07 など) から読んだ概数で、個々の測定値ではない。 実際の宇宙環境での値ではない
図8 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。地上の模擬試験(Russell らの論文)で報告された太陽光吸収率の変化。棒の高さは論文の記述(「Kapton は約0.3から約0.07増加」「UPILEX-S は約0.35から約0.06増加」「無色系は約0.2からほぼ0.5へ」)から読んだ概数です。実際の宇宙での測定値ではありません。
フィルム太陽光吸収率 α の変化引張特性の変化
Kapton E・HN約0.3から約0.07増加(その場測定での変化は0.1未満)破壊応力は低下するが、保持率は高い。破断ひずみは「大きく」低下
UPILEX-S約0.35から約0.06増加最も強い部類で、強度の保持率が高い
CP-1・CP-2(無色系)約0.2からほぼ0.5へ。飽和せず増え続けたもともと弱く、強度の低下も大きい

すべて事実(Russell ら、AIAA-2001-1414[参考資料6])。試験条件:紫外線は約1000等価太陽時間、陽子は 1.0×10¹⁵ 個/cm²(40 keV)、電子は 8.0×10¹⁵ 個/cm²(40 keV)。

素材技術者の視点④:「無色」は紫外線・放射線に強い、とは限らない

無色のポリイミドは、アンバー色の Kapton に比べて、もともとの α が小さい(約0.2)のが売りです。ところが、この試験ではα の上昇が最も大きく(ほぼ0.5まで)、しかも飽和しませんでした事実[参考資料6]。一方、NASA Langley の St. Clair らは、無色ポリイミドのフィルムを、300等価太陽時間の紫外線と 1 MeV の電子で照射したあとでも、同じ厚さの市販のポリイミドより2〜2.5倍透明だった、と1985年に報告しています事実[参考資料7]。2つの報告は矛盾していません。照射の種類・量、フィルムの種類、測るもの(透過か、吸収率か)が違うからです。無色化と耐久性は別のものさしで測る、と覚えておくと、メーカーの「透明」「耐放射線」の言葉を読むときの助けになります(本記事による解説)。

外側の層の高分子が受けるのは、ポリイミドだけではありません。ハッブル宇宙望遠鏡の MLI は外層がアルミ蒸着のテフロン FEP で、約19年の軌道上のあと、回収された外層は高度にもろくなり、1〜8 %のひずみでガラスのように割れる、と NASA は報告しています事実[参考資料15]。宇宙に出た高分子は、どれも「年数とともに変わる」ことを前提に設計する、という点は共通です。

8. 電線の被覆で起きること:アークトラッキング

ここまでは、フィルムの話でした。ポリイミドは、電線の被覆にも使われます。軽くて、熱に強く、擦り傷にも強いからです。ところが、この用途では、材料の「平常時の性能」とは別の、異常時の挙動が問題になりました。

NASA ジョンソン宇宙センターの Van Laak は、1994年の NASA の配線ワークショップで、Kapton 電線の問題を整理しました。発表資料によると、航空宇宙の電気系の拡大に伴い、細い導体、薄い絶縁、高い耐熱性、耐摩耗性という新しい要求が生まれ、Kapton の電線は耐熱性と耐摩耗性の面で採用が広がりました。その一方で、当時は十分に認識されていなかった新しい故障の形が持ち込まれました。それが「アークトラッキング」で、導電性の炭(char)の形成を伴い、被覆の損傷という「きっかけ」から、アークが電線を伝わって広がり、束(ハーネス)全体が機能を失うことがありえる、とされています事実[参考資料8]。資料には、防衛関連で500件以上、NASA で5件以上のアーク伝播の故障履歴がある、との記載があります(資料のテキスト抽出に基づく読み取り)。NASA 本部の調査は、このリスクがスペースシャトル・オービタにとって現実的な脅威だと結論したうえで、当面の飛行継続の根拠も示しています。

Kapton 電線の「アークトラッキング」:傷から束全体へ ① きっかけ 被覆の傷・損傷 ② アーク放電 傷の所で火花のような電 気の放電 ③ 炭化 被覆が焦げて、電気を通 す炭ができる ④ 伝わる 導電性の炭を伝って隣の 線へ広がる ⑤ 束が故障 束(ハーネス)全体が機 能を失うことがある NASA ジョンソン宇宙センターの発表資料(1994年)が述べた点 新しい電力回路には使わない 宇宙ステーションの新造では、 MIL-W-81381 の Kapton 電線を 電力の回路に使わない、と提案 Kapton の全面禁止ではない 低電力の信号線、構造用のブランケット、 組み合わせ構造の電線などは可、 としている フレキシブル回路にも注意 太陽電池アレイのような用途は、 アークトラッキングを起こしやすいと 示された、と述べている ※ 1994年の資料の整理で、現在の NASA の配線要件ではありません(確認できていない)。流れの図は説明用です。
図9 概念図(ベクター作図)。Van Laak の発表資料[参考資料8]の記述を、本稿が5つの段階に整理した流れ図です。段階の名前と言い回しは本稿のもので、資料の用語そのものではありません。下の3つの枠は、資料の提言の要点です。
注意:これは「Kapton はだめ」という話ではない

同じ発表資料は、新しい宇宙ステーションの電力回路には MIL-W-81381 の Kapton 電線を使わないよう提案する一方、Kapton の使用を全面的に禁止することは勧めていません。低電力の信号線や、構造用のブランケットのような用途には使え、適切に設計した混成の電線構造なら安全に使える、と述べています。また、太陽電池アレイのようなフレキシブル回路は、アークトラッキングに弱いことが示された、と書いています事実。これは1994年時点の1つの発表資料で、現在の NASA の配線要件ではありません。NASA ジョンソンは、1990年にも Kapton 電線のアークトラッキング試験(手順 KWATT BB01)をまとめています[参考資料24]。

素材技術者の視点⑤:材料の選定は、「平常時」と「異常時」の両方の物性で行う

被覆材の耐熱性や絶縁破壊電圧は、平常時の性能です。アークトラッキングは、被覆に傷がつく、という異常が起きたあと、どう広がるかの性質で、電線の構造や環境(資料は、湿った状態と乾いた状態の2種類があると書いています)と関わります[参考資料8]。推測:被覆の化学構造(炭化の仕方)も影響すると考えられますが、本稿ではその根拠となる一次情報を確認していません。地上の電子機器でも、トラッキング(絶縁面を炭化した電路が伝う現象)は絶縁材料の古典的な課題です。宇宙機では、故障したときに修理できないため、異常時の広がり方が設計の主題になります(本記事による解説)。

9. 無色のポリイミドとソーラーセイル

「薄くて軽い大きな膜」が欲しい用途では、ポリイミドは特に魅力があります。その代表がソーラーセイル(太陽の光の圧力で進む帆)です。

IKAROS:厚さ7.5 µm の膜

JAXA の小型ソーラー電力セイル実証機 IKAROS(2010年5月21日打ち上げ)は、対角20 mの正方形の膜面を持ち、膜はポリイミドで、厚さは7.5 µm(0.0075 mm)です。膜面には、厚さ25 µm のアモルファスシリコンの薄膜太陽電池が付いていました(打ち上げ前のパンフレットの設計値)事実[参考資料9]。JAXA の運用記録によると、2011年1月26日に定常運用を終了し、帆による航行と薄膜太陽電池による発電の検証は達成された、とされています。その後、太陽からの距離で発電が足りなくなる時期(10か月の公転周期のうち7か月)は休止状態になり、2015年5月の5回目の休止の時点で、地球から約1.1億 km、異常は見つかっていない、と報告されています事実[参考資料10]。2015年5月以降の状況は、確認できませんでした。

本稿の計算:200 m² の膜は、どれくらいの重さか

対角20 mの正方形の面積は、20² ÷ 2 = 200 m² です。厚さ7.5 µm で、密度を Kapton の公称値 1.42 g/cm³(本シリーズ「ポリイミド」編で示したメーカー公称値。IKAROS の膜の密度は確認できていません)と仮定すると、膜の体積は 200 m² × 7.5×10⁻⁶ m = 1.5×10⁻³ m³ = 1,500 cm³ なので、質量は約 1,500 × 1.42 ≒ 2.1 kg です本稿の計算。薄膜太陽電池や制御用の部品を含みません。前提と限界:密度の仮定を含む概算で、実機の質量ではありません。

無色にすると、何が変わるか

太陽の光を反射させたい用途や、透明な基板が必要な用途では、無色に近いポリイミドが研究されてきました。NASA Langley が開発した LaRC-CP1・CP2 という無色のポリイミドについて、NASA の Spinoff 誌(1998年)は、SRS Technologies 社が Langley から生産のライセンスを受けた唯一の企業だと書いています事実[参考資料25]。なぜ無色にしにくいのか(電荷移動による着色)は、本シリーズ「ポリイミド」編に詳しく書いてあります。ここで確認したいのは、宇宙では「無色」は出発点にすぎず、紫外線・放射線のあとにどうなるかまで見る、ということです(第7章の素材技術者の視点④)。MISSE 2 でも、CP1(無色)の侵食収率は 1.91×10⁻²⁴ cm³/原子で、Kapton H(3.00×10⁻²⁴)より小さい一方、ゼロではありません(図6)事実[参考資料1]。

10. 限界と、確認できなかったこと

  • 実機での採用の量と最新の状況:どの衛星のどの部位に、どれだけのポリイミドが使われているかの統計は、一次情報では確認できませんでした。LDEF や MISSE など1980年代〜2000年代の実験が中心で、現在の衛星の設計とは異なる可能性があります
  • 放射線の軌道別の量:静止軌道や放射線帯での、ポリイミドの劣化の数値は扱っていません。第7章の模擬試験は、L1・L2 の太陽風を模擬したものです
  • IKAROS の膜の経年変化:膜の紫外線・放射線による変化を測った公表データは、確認できませんでした
  • BSF などの宇宙での実績:メーカーのカタログの記載にとどまり、JAXA の一次資料の定量データは確認していません
  • 電線の最新の要件:1994年の発表資料と1990年の試験の記載にとどまり、現行の NASA・ESA の配線の要件は未確認です
  • 標準の本文:ISO 規格(有料)の試験条件や要求事項、ECSS-Q-ST-70-04C・70-06C の試験条件は確認していません。ECSS-Q-ST-70-02C は、公開された PDF の該当箇所を確認しました
  • ASTM:ASTM のサイトは開いていません。ASTM E 595 と E 2089 は、NASA の報告に書かれた番号・題名・何を測るかのみです

11. 評価・標準の読み方

宇宙用の材料は、「物性表の値」だけでは選べません。実際の宇宙環境を、地上でどれだけ再現した試験で確かめたかが重要です。ものさしは大きく4つに分かれます。①真空で何が出るか(アウトガス:TML・RML・CVCM)、②低軌道で何が削れるか(侵食収率)、③紫外線と粒子線でどう変わるか(α・ε・引張特性の変化)、④温度変化をくり返してもはがれないか(熱真空サイクル)。それぞれ、ものさしが測っているのは1つの環境要因だけで、実際の宇宙ではこれらが同時に起きます(相乗効果)。ものさしは、材料を比べたり選別したりするための道具で、軌道上の寿命を直接予言するものではありません。

評価項目代表的な試験・評価手法(名称・出典)標準・指針(ECSS・ISO・NASA など)読み方の注意
アウトガス(TML・RML・CVCM)真空・125 ℃・24時間で質量の減りと凝縮量を測る試験。NASA は ASTM E 595 "Standard Test Method for Total Mass Loss and Collected Volatile Condensable Materials from Outgassing in a Vacuum Environment" と呼ぶ事実[参考資料1・5]。結果は NASA Goddard のデータベースで検索できる[参考資料5]ECSS-Q-ST-70-02C "Thermal vacuum outgassing test for the screening of space materials"(2008年)。RML < 1.0 %、CVCM < 0.10 %が最低限のスクリーニング値事実[参考資料4]水を含む TML か、水を除く RML かを確認。フィルム単体か積層・粘着剤つきかで値が違う。スクリーニングは「選別」で、寿命の保証ではない(規格が「選別専用」と記載)
原子状酸素(侵食収率)軌道上:MISSE の PEACE Polymers(Kapton H で校正したフルエンスから求める)事実[参考資料1]。地上:プラズマアッシャーによる試験(NASA は ASTM E 2089-00 "Standard Practices for Ground Laboratory Atomic Oxygen Interaction Evaluation of Materials for Space Applications" を参照)。軌道上の値との比で補正する研究事実[参考資料2]ISO 15104:2025 "Space systems — Environmental testing for spacecraft thermal control materials"(原子状酸素、粒子線、紫外線、熱サイクルの地上試験の方法。熱制御材料が対象。2025年1月、発行済み)事実[参考資料18]。原子状酸素だけの ISO 規格は、本稿の調査では確認できなかった地上の試験とは、粒子の種類・エネルギー・パルス動作が違い、結果は必ずしも一致しない事実[参考資料12]。侵食収率は流量(面の向き・高度)で時間に直す
紫外線・粒子線(α・ε・強度の変化)地上の模擬照射と、前後の分光測定・引張試験。例:Russell ら事実[参考資料6]ECSS-Q-ST-70-06C "Particle and UV radiation testing for space materials"(2008年)事実[参考資料19]。ISO 15856:2010 "Space systems — Space environment — Simulation guidelines for radiation exposure of non-metallic materials"(推奨される方法と実践を示す。2026年に再確認)事実[参考資料17]ISO 15856 は「推奨される方法と実践」を示す指針。紫外線と粒子線を同時に当てるか別々に当てるかで結果が変わりうる(相乗効果)
熱サイクル(真空)真空中で温度変化をくり返し、接着やコーティング、金属化したプラスチックフィルムなどの耐性を見る試験事実[参考資料20]ECSS-Q-ST-70-04C "Thermal testing for the evaluation of space materials, processes, mechanical parts and assemblies"(2008年)事実[参考資料20]範囲の例として「金属化したプラスチックフィルム」が挙げられている。本文の温度や回数は本稿では確認していない
熱光学特性(α、ε)分光器による太陽光吸収率、赤外の放射率の測定法事実[参考資料21]ECSS-Q-ST-70-09C "Measurements of thermo-optical properties of thermal control materials"(2008年)事実[参考資料21]測るのは「その時点の」値。劣化後の値は照射試験のあとに測り直す
材料の選定と採用の手続き材料のデータの整備と、使用許可の管理事実[参考資料22]ECSS-Q-ST-70-71C Rev.1 "Materials, processes and their data selection"(2019年)事実[参考資料22]。NASA-STD-6016 "Standard Materials and Processes Requirements for Spacecraft"(版 C、Change 1、2021年9月30日制定。NASA 認定の標準だが、NASA の必須の標準ではない、と NASA のページに表示)事実[参考資料23]どの規格を適用するかは、プロジェクトごとに契約で決め、調整(テーラリング)される。本文の要求事項は本稿では確認していない
電線のアークトラッキングNASA ジョンソンの試験手順 KWATT BB01(1990年)事実[参考資料24]確認できなかった(このテーマの国際規格は、本稿の調査では確認できなかった)1990年代の NASA の試験であり、現行の要求は未確認

表の整理は本稿の計算(本記事による並べ替え)。規格の番号・題名・状態は、ECSS・ISO・NASA の公式ページで確認(確認日 2026年10月17日)。ASTM は、NASA の報告に書かれた番号と題名のみで、ASTM のサイトは開いていません。ISO 規格の本文は有料のため、題名・適用範囲の確認にとどめています。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 地上試験と軌道上の実績は別物です:原子状酸素は、地上のプラズマで当てると、エネルギーも粒子の種類も宇宙と違います。ポリイミドを基準(Kapton H)にした相対値で補正するのは、このためです[参考資料2・12]
  • 認定(qualification)と受入(acceptance)は別です:ECSS-Q-ST-70-17C(コーティングの耐久性試験)は、評価・認定・受入の各段階で行う試験の種類を分けて書いています事実[参考資料26](コーティングが対象の規格の例)。材料の選定試験と、完成品ごとの受入試験は別の話です
  • 標準は「推奨」か「要求」かを確認します:ISO 15856 は推奨の方法を示す指針です。ECSS の規格は、プロジェクトの契約で「適用する」と決められると要求になり、調整もされます(規格のページに「テーラリングできる」と記載)。NASA-STD-6016 は NASA の必須の標準ではないと表示されています
  • メーカー公称と第三者の測定は別です:BSF のような特殊品の宇宙での実績は、メーカーの資料の記述が中心です。JAXA の一次資料の数値は、本稿では確認できていません

12. 用語集

低軌道(LEO)
Low Earth Orbit。ISS が飛ぶ高度約400 km 付近など、地球に近い軌道。薄い大気が残り、酸素原子が主成分。
MLI(多層断熱材)
Multi-Layer Insulation。反射する薄い膜を何枚も重ねた「毛布」。真空での熱の出入りを減らす。
Kapton
DuPont のポリイミドフィルムの商品名。この記事で最もよく出てくる基準材料。
アウトガス
材料が真空で気体を出すこと。水や接着剤の成分など。
TML
Total Mass Loss。全質量損失。水を含む質量の減り。
WVR
Water Vapor Regained。試験後に吸い戻した水蒸気の量。
RML
Recovered Mass Loss。水を除いた質量損失(RML=TML−WVR)。
CVCM
Collected Volatile Condensable Materials。出たガスが冷たい板に凝縮した量。
原子状酸素(AO)
酸素分子が分かれた酸素原子。低軌道で衛星の表面を侵食する。
ram面
衛星の進行方向を向いた面。酸素原子を正面から受ける。
侵食収率
酸素原子1個あたりに減る材料の体積(cm³/原子)。小さいほど削れにくい。
フルエンス
ある面が受けた粒子の総数(個/cm²)。流量(個/cm²・秒)に時間をかけた量。
等価太陽時間(ESH)
Equivalent Sun Hours。紫外線の量を、太陽に何時間当たったことに相当するかで表したもの。
太陽光吸収率 α
表面が太陽の光をどれだけ吸収するか。0〜1。
放射率 ε
表面が赤外線として熱をどれだけ放つか。0〜1。
セカンドサーフェスミラー
透明な膜の裏に金属を付けた構造。光が膜を通って金属で反射する。
ベータクロス
ガラス繊維の布。MLI の外カバーに使われる。
アンダーカット
保護膜の傷の下で、基材が横に広がるように削れること。
アークトラッキング
被覆の損傷から始まり、導電性の炭をたどってアークが電線に沿って広がる現象。
MISSE
Materials International Space Station Experiment。ISS の外側に材料を出す NASA の実験シリーズ。
LDEF
Long Duration Exposure Facility。スペースシャトルで打ち上げ・回収された長期曝露の実験装置(1984〜1990年)。
SLATS(つばめ)
JAXA の超低高度衛星技術試験機。非常に低い軌道で材料の劣化を測った。
ECSS
European Cooperation for Space Standardization。欧州の宇宙標準化の協力組織。

13. 参考資料(一次情報)

  1. de Groh K. K. ほか(NASA Glenn) "MISSE PEACE Polymers Atomic Oxygen Erosion Results", NASA/TM—2006-214482(2006年11月) — ntrs.nasa.gov/citations/20070002707
  2. Stambler A. H. ほか(NASA Glenn) "Ground-Laboratory to In-Space Atomic Oxygen Correlation for the Polymer Erosion and Contamination Experiment (PEACE) Polymers", NASA/TM—2011-216904(2011年1月) — ntrs.nasa.gov/citations/20110006367
  3. Smith C. A., Hasegawa M. M., Jones C. A.(McDonnell Douglas Aerospace) "Space Station WP-2 application of LDEF MLI results", LDEF Materials Results for Spacecraft Applications(NASA Marshall、1993年12月の会議論文) — ntrs.nasa.gov/citations/19940026511
  4. ECSS ECSS-Q-ST-70-02C "Thermal vacuum outgassing test for the screening of space materials"(2008年11月15日。ECSS の公開ページと PDF で確認) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-02c-thermal-vacuum-outgassing-test-for-the-screening-of-space-materials/
  5. NASA Goddard Outgassing Database(真空アウトガスの試験結果データベース。確認日 2026年10月17日) — outgassing.nasa.gov/
  6. Russell D. A., Connell J. W., Fogdall L. B., Winkler W. "Effects of Electrons, Protons, and Ultraviolet Radiation on Thermophysical Properties of Polymeric Films", AIAA-2001-1414(2001年。NASA Technical Reports Server) — ntrs.nasa.gov/citations/20010072172
  7. St. Clair A. K., Slemp W. S.(NASA Langley) "Evaluation of colorless polyimide film for thermal control coating applications"(1985年) — ntrs.nasa.gov/citations/19850007585
  8. Van Laak J.(NASA Johnson) "Kapton wire concerns for aerospace vehicles", First NASA Workshop on Wiring for Space Applications(1994年9月の発表資料) — ntrs.nasa.gov/citations/19950009630
  9. JAXA 小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」パンフレット(膜面の寸法・材料の記載。打ち上げ前の設計値) — global.jaxa.jp/activity/pr/brochure/files/sat28.pdf
  10. JAXA IKAROS プロジェクトのトピックス(2010〜2015年の運用経過。確認日 2026年10月17日) — global.jaxa.jp/projects/sas/ikaros/topics.html
  11. 日鉄ケミカル&マテリアル 原子状酸素耐性ポリイミドフィルム「BSFシリーズ」カタログ(メーカー資料。2510版) — nscm.nipponsteel.com/display/pdf/2510_BSF%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%AD%E3%82%B0(%E5%92%8C%E6%96%87).pdf
  12. 横田久美子、田川雅人(神戸大学) 「宇宙材料劣化研究におけるSLATSミッションのインパクト」、JAXA 第5回 超低高度衛星の利用に向けたワークショップ(2020年1月24日) — satnavi.jaxa.jp/ja/wp-content/uploads/sites/3/2019/12/09_slatsMaterial-tagawa.pdf
  13. Banks B. A. ほか(NASA Glenn) "Issues and Consequences of Atomic Oxygen Undercutting of Protected Polymers in Low Earth Orbit", NASA/TM-2002-211577(2002年) — ntrs.nasa.gov/citations/20020062043
  14. Banks B., Sovey J., Mirtich M.(NASA Lewis) "SiOx Protective Coat For Polyimide Sheet", NASA Tech Briefs 15(4)(1991年4月) — ntrs.nasa.gov/citations/19910000163
  15. de Groh K. K. ほか "Analyses of Hubble Space Telescope Aluminized-Teflon Multilayer Insulation Blankets Retrieved After 19 Years of Space Exposure"(2015年) — ntrs.nasa.gov/citations/20150002706
  16. Finckenor M. M., Albyn K. C., Watts E. W.(NASA Marshall) "Atomic Oxygen Exposure of Polyimide Foam for International Space Station Solar Array Wing Blanket Box"(2006年) — ntrs.nasa.gov/citations/20060020185
  17. ISO ISO 15856:2010 "Space systems — Space environment — Simulation guidelines for radiation exposure of non-metallic materials"(第1版、2010年8月。2026年に再確認。ISO の公式ページで確認) — iso.org/standard/45843.html
  18. ISO ISO 15104:2025 "Space systems — Environmental testing for spacecraft thermal control materials"(第1版、2025年1月。ISO の公式ページで確認) — iso.org/standard/84447.html
  19. ECSS ECSS-Q-ST-70-06C "Particle and UV radiation testing for space materials"(2008年7月31日) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-06c-particle-and-uv-radiation-testing-for-space-materials/
  20. ECSS ECSS-Q-ST-70-04C "Thermal testing for the evaluation of space materials, processes, mechanical parts and assemblies"(2008年11月15日) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-04c-thermal-testing-for-the-evaluation-of-space-materials-processes-mechanical-parts-and-assemblies/
  21. ECSS ECSS-Q-ST-70-09C "Measurements of thermo-optical properties of thermal control materials"(2008年7月31日) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-09c-measurements-of-thermo-optical-properties-of-thermal-control-materials/
  22. ECSS ECSS-Q-ST-70-71C Rev.1 "Materials, processes and their data selection"(2019年10月15日) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-71c-rev-1-materials-processes-and-their-data-selection-15-october-2019/
  23. NASA NASA-STD-6016 "Standard Materials and Processes Requirements for Spacecraft"(版 C、Change 1。2021年9月30日制定、2023年11月15日改訂。NASA Standards の公式ページで確認) — standards.nasa.gov/standard/NASA/NASA-STD-6016
  24. NASA Johnson "Kapton wire arc track testing: Per test procedure KWATT BB01"(1990年の試験の報告。NASA Technical Reports Server) — ntrs.nasa.gov/citations/19910012114
  25. NASA "Thin Film...Large Payoff", Spinoff 1998(LaRC-CP1・CP2 とライセンスの記述) — ntrs.nasa.gov/citations/20020065031
  26. ECSS ECSS-Q-ST-70-17C "Durability testing of coatings"(2018年2月1日) — ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-17c-durability-testing-of-coatings/

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
ISS の高度約400 km、速度約7.7 km/s。原子状酸素は短波長の紫外線が酸素分子を分けて生まれ、低軌道(約1,000 km以下)の主成分。ram 面の流量 5.23×10¹³ 原子/cm²・秒、衝突エネルギー平均4.5 eV。侵食収率の定義と Kapton H の 3.0×10⁻²⁴ cm³/原子NASA/TM—2006-214482
出典1 https://ntrs.nasa.gov/citations/20070002707
事実
MISSE 2 の PEACE Polymers:41種類、3.95年(2001年8月16日〜2005年7月30日)、フルエンス 8.43×10²¹ 原子/cm²、Kapton H・HN・UPILEX-S・CP1・PEEK・FEP・PTFE・PMR-15 の侵食収率、Kapton H 試料は127 µm×3層NASA/TM—2006-214482、NASA/TM—2011-216904
出典1 https://ntrs.nasa.gov/citations/20070002707
出典2 https://ntrs.nasa.gov/citations/20110006367
事実
LDEF トレイ F-9:8.32×10²¹ 原子/cm²、11,100等価太陽時間。MLI の構成(最外層0.076 mm Kapton、0.0076 mm の両面アルミ蒸着 Kapton 15層)、最外層の多くの消失、機能の維持。WP-2 標準ブランケットの構成と30年の見込みSmith ら(NASA Marshall の会議論文集)
出典3 https://ntrs.nasa.gov/citations/19940026511
事実
アウトガス試験の条件(22±3 ℃・55±10 %RH で調整、125 ℃・24時間、10⁻³ Pa 以下、集積板25 ℃)。RML の定義、RML < 1.0 %・CVCM < 0.10 %、ポリイミドフィルムなど水が速く抜ける材料の扱い、ベークの慣行ECSS-Q-ST-70-02C の PDF と公式ページ
出典4 https://ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-02c-thermal-vacuum-outgassing-test-for-the-screening-of-space-materials/
事実
図4の6件の記録(GSFC31198・31195・30781・33466・36516・36108)の TML・CVCM・WVR の値。用途欄に MLI、フレキシブル回路、ヒーターなどの記録があること。試験法が ASTM E 595 であることNASA Goddard Outgassing Database(確認日 2026年10月17日)
出典5 https://outgassing.nasa.gov/
事実
図4の RML(TML−WVR)、周期92.4分、侵食量253 µm、64 µm/年、各厚さが消えるまでの時間、約50 µm/年、IKAROS の膜の概算質量2.1 kg、LDEF の侵食量の照合本稿の計算(前提は本文に明記)。実測の結果ではない本稿の計算
模擬の宇宙放射線(紫外線約1000等価太陽時間、陽子 1.0×10¹⁵、電子 8.0×10¹⁵、いずれも40 keV)での Kapton・UPILEX-S・CP の α の変化と引張特性の変化Russell ら、AIAA-2001-1414
出典6 https://ntrs.nasa.gov/citations/20010072172
事実
無色ポリイミドが、300等価太陽時間の紫外線と 1 MeV 電子の照射後も、市販のポリイミドより2〜2.5倍透明であることSt. Clair ら(1985)
出典7 https://ntrs.nasa.gov/citations/19850007585
事実
ハッブル宇宙望遠鏡の MLI の外層(アルミ蒸着テフロン FEP)が約19年後に高度にもろくなったことde Groh ら(2015)
出典15 https://ntrs.nasa.gov/citations/20150002706
事実
Kapton 電線のアークトラッキングの懸念と、新しい電力回路には使わない提案、全面禁止ではないこと、フレキシブル回路の感受性。1990年の試験(KWATT BB01)Van Laak(1994)、NASA ジョンソンの試験報告
出典8 https://ntrs.nasa.gov/citations/19950009630
出典24 https://ntrs.nasa.gov/citations/19910012114
事実
IKAROS の膜面(対角20 m、ポリイミド7.5 µm、薄膜太陽電池25 µm)。運用の経過(2011年1月26日に定常運用を終了、2015年5月の5回目の休止、約1.1億 km)JAXA のパンフレットとトピックスページ
出典9 https://global.jaxa.jp/activity/pr/brochure/files/sat28.pdf
出典10 https://global.jaxa.jp/projects/sas/ikaros/topics.html
事実
LaRC-CP1・CP2 の開発と、SRS Technologies 社のライセンスNASA Spinoff 1998
出典25 https://ntrs.nasa.gov/citations/20020065031
事実
SiOx 保護膜(Space Station Freedom の柔軟なアレイの基板用)。保護膜の傷によるアンダーカット。ISS の収納箱の Kapton の劣化NASA Tech Briefs(1991)、Banks ら(2002)、Finckenor ら(2006)
出典14 https://ntrs.nasa.gov/citations/19910000163
出典13 https://ntrs.nasa.gov/citations/20020062043
出典16 https://ntrs.nasa.gov/citations/20060020185
事実
BSF シリーズ(シロキサンブロック、SiO₂ 層の自己修復、BSF-30 の物性値、JAXA での曝露試験の実績の列挙)日鉄ケミカル&マテリアルのカタログ(メーカー公称)
出典11 https://www.nscm.nipponsteel.com/display/pdf/2510_BSF%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%AD%E3%82%B0(%E5%92%8C%E6%96%87).pdf
事実
SLATS での原子状酸素密度(ISS の約1000倍)、Kapton H の侵食収率が STS-8(1982年、高度225 km)で最初に測られたこと、地上試験と軌道上の不一致横田・田川(神戸大学)の発表資料
出典12 https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/wp-content/uploads/sites/3/2019/12/09_slatsMaterial-tagawa.pdf
事実
ISO 15856:2010、ISO 15104:2025 の題名・適用範囲・状態ISO の公式ページ
出典17 https://www.iso.org/standard/45843.html
出典18 https://www.iso.org/standard/84447.html
事実
ECSS-Q-ST-70-04C、70-06C、70-09C、70-71C Rev.1 の題名と適用範囲ECSS の公式ページ
出典20 https://ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-04c-thermal-testing-for-the-evaluation-of-space-materials-processes-mechanical-parts-and-assemblies/
出典19 https://ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-06c-particle-and-uv-radiation-testing-for-space-materials/
出典21 https://ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-09c-measurements-of-thermo-optical-properties-of-thermal-control-materials/
出典22 https://ecss.nl/standard/ecss-q-st-70-71c-rev-1-materials-processes-and-their-data-selection-15-october-2019/
事実
NASA-STD-6016(版 C、Change 1、2021年9月30日・2023年11月15日)の題名・適用範囲・必須の標準ではないことNASA Standards の公式ページ
出典23 https://standards.nasa.gov/standard/NASA/NASA-STD-6016
事実
「宇宙では、貼り合わせた後の全体が試験される」「BSF の剛直さが下がる傾向」「無色化と耐久性は別のものさし」「異常時の挙動で選ぶ」「地上試験と軌道上は別物」という読み取り公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関が表明した見解ではない解説
実機での採用量の統計、IKAROS の膜の経年変化、BSF の JAXA 一次データ、現行の配線要件、ISO 規格の本文、ECSS-Q-ST-70-04C・06C の試験条件、静止軌道・放射線帯での劣化の数値本稿の調査範囲で確認できなかったため記載していない解説
図1〜図9のうち、図1と図5(AI画像の枠)が説明用の概念画像であること。その他の図が実データの観察ではなく説明のための作図であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月17日/出典は一次情報(NASA の技術報告書、NASA Goddard のデータベース、ECSS・ISO・NASA の公式ページ、JAXA の公開資料、メーカーのカタログ)に限定しています。軌道上の実測値は報告の条件での値で、他の軌道・時期には当てはまりません。計算値は本稿が作った説明用の値で、実機の寿命の予言ではありません。 実機での採用量、IKAROS の膜の経年変化、BSF の JAXA 一次データ、現行の配線要件、規格本文の試験条件については、確認できなかったため記載していません。