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原子力電源 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

原子力電源
― RTG のしくみ、出力の減り方、核分裂炉の計画、安全規制と打ち上げ承認の読み方

太陽の光が届きにくい場所や、2週間も続く月の夜では、太陽電池と電池だけでは電気が足りません。そこで使われるのが原子力の電源です。ただし、ここでいう原子力電源は、発電所の原子炉とは別のものが中心で、宇宙で最も実績があるのは、プルトニウム238が自然に出す熱を電気に変える RTGです。 この記事は、宇宙の知識がなくても読めるように、①なぜ原子力が選ばれるのか、②RTG のしくみと、出力が時間とともに減ること、③ストーリング方式や、月面向けの核分裂炉の研究段階、④安全の考え方と、打ち上げ承認の制度、の順に、図と小さな計算で説明します。 安全を断定することも、不安をあおることもしません。公的な資料に書かれていることを、確認できたこと/計画/確認できなかったことに分けて書きます。個別のミッションの安全性は、各ミッションが公開する環境影響評価と安全解析で確かめてください。

構成:NASA の RPS プログラムのページ・ファクトシート・NASA Glenn の資料、JPL の発表、査読論文(Nuclear Technology など)、米国の大統領覚書(NSPM-20)、国連宇宙部(UNOOSA)の原則と安全枠組み/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月17日

放射性同位体の熱を電気に変えるRTGの説明用模型です。核分裂炉とは異なります。熱源は密封され、熱電素子と放熱部が別の役割を担います。
図1 概念画像(ImageGen生成)。放射性同位体の熱を電気に変えるRTGの説明用模型です。核分裂炉とは異なります。熱源は密封され、熱電素子と放熱部が別の役割を担います。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. なぜ原子力が選ばれるのか:遠さと長い夜
  3. RTG のしくみ:プルトニウム238の熱を、電気にする
  4. 出力は減っていく:ボイジャーの例
  5. ストーリング方式と、月面向けの核分裂炉:研究の段階
  6. 安全をどう考えるか:設計の層と、事故の歴史
  7. 打ち上げ承認と国際的な枠組み
  8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)
  9. 評価・標準の読み方
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出・整理した値
未確定/将来=計画・設計検討・研究中で実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値と安全の書き方

出力・効率の数値は、打ち上げ時か、現在か、設計検討か、試験かを添えたものだけを載せています。「NASA は〜と述べている」は NASA の主張であり、第三者の検証とは区別します。 安全については、「安全だ」とも「危険だ」とも断定しません。NASA 自身が、事故の際に放射性物質が放出される可能性があること、放出されれば長期のがんの確率が上がりうることを記しており、同時に、層をなす設計・審査・数値の目安があることも記しています。この記事は一般的な解説で、法的助言や、個別の施設・ミッションの安全評価ではありません。 この分野は変化が速いため、計画や制度の状態には確認日(2026年10月17日)を付けています。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • RTG は「原子炉」ではなく「原子の電池」:RTG(放射性同位体熱電発電機)は、プルトニウム238が自然にくずれるときに出す熱を、熱電素子で電気に変えます。連鎖反応は使いません事実[参考資料2・5]。NASA は、これまでに27のミッションで46基の RTG が飛んだと述べています[参考資料2]。
  • 出力は時間とともに下がる:ボイジャーの RTG は、打ち上げ時(1977年)に1基あたり約158 W、2023年11月には探査機全体で225 W に下がっています事実[参考資料3・4]。燃料の半減期は88年です[参考資料5]。
  • 月面向けの核分裂炉は、計画・設計検討の段階:NASA Glenn の2024年の資料では、月面の核分裂電源は40 kWe・寿命10年の設計検討が示されています未確定/将来[参考資料8]。小型炉の地上実証(KRUSTY、2018年)は完了しています[参考資料9]。月面での運用実績は、この記事の出典の範囲では確認できませんでした。
この記事を読む前に知っておくこと

前提知識はありません。「熱から電気を作る」「放射性の物質は自然にくずれて熱を出す」程度で十分です。熱電素子の材料(Bi₂Te₃、PbTe など)の話は、本シリーズの『熱電変換材料』編にまとめています。太陽電池が遠い場所で不利になること、電池が日陰を支えることは、『宇宙用太陽電池』編と『宇宙用電池』編をご覧ください(この記事でも必要な点は短く説明します)。放射線の単位は、1 Sv = 100 rem(1 rem = 10 mSv)と読み替えてください。

シリーズの中での位置

宇宙環境の「5つの敵」のうち、原子力電源は、遠さ(弱い太陽光)や長い夜(大きな温度変化)に強い電源です。一方で、「燃料そのものが出す放射線」と「打ち上げの安全」という、別の課題を抱えます。この記事は、『宇宙用太陽電池』『宇宙用電池』の次に読むと、「発電」「蓄電」「原子力」の3つの選択肢が見渡せます。月の資源や基地の電源は『月面探査とアルテミス』『月面資源とISRU』編、国際的な宇宙の規則は『各国の宇宙戦略と規制』編に関係します。

2. なぜ原子力が選ばれるのか:遠さと長い夜

太陽電池の弱点は、光が弱いところと光がないときです。『宇宙用太陽電池』編のとおり、太陽からの距離が5倍の木星では、光は25分の1になります。JPL の発表(2016年1月13日)は、Juno が太陽電池で木星に行った最初の探査機であり、それ以前に木星まで行った8機の探査機は、すべて原子力の電源を使っていたと述べています事実[参考資料6]。

もう一つは夜の長さです。NASA Glenn の資料(2024年4月)は、月の夜は最長で地球の14.5日の長さになり、夜の気温は場所によって約50〜100 K(約−220〜−170℃)になると述べています事実[参考資料8]。同じ資料は、国際宇宙ステーションの日陰は約35分で、それを支えるのに24個のリチウムイオン電池(合計で約4,735 kg、1個あたり197 kg)が要ると述べ、これを月の夜の長さに単純に拡大すると、電池の質量は約320万 kg になると見積もっています[参考資料8]。本稿で同じ考え方を確かめると、14.5日(348時間)は35分(0.583時間)の約597倍で、4,735 kg × 597 ≒ 約280万 kgです本稿の計算(NASA の見積りと数字が違うのは、前提の違いによると考えられます)。つまり、長い夜を電池だけで越えるのは、質量の面で現実的でない、というのが NASA の整理です。

1 kgあたりのエネルギーは、桁がちがう 10^5 10^6 10^7 10^8 10^9 10^10 10^11 10^12 10^13 10^14 1 kg あたりのエネルギー(J/kg)― 横軸は対数目盛り(1目盛りで10倍) リチウムイオン電池(セル、250 Wh/kg の例) 9.0 x 10^5 液体酸素+液体水素(化学エネルギー) 1.35 x 10^7 ウラン235の核分裂(理論上、全量が反応した場合) 8.2 x 10^13 核分裂と液体酸素・液体水素の比:約6,070,000倍(本稿の計算) これは燃料そのものの理論値で、実際の装置は燃料を使い切らず、遮蔽・熱交換・構造の質量も加わる(解説)。 → 「少ない質量で長く」が必要な場所で、原子力が選ばれる理由の一つ
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。液体酸素・液体水素の1.35×10⁷ J/kg と、ウラン235の核分裂の8.2×10¹³ J/kg は NASA Glenn の資料(2024年)の値事実[参考資料8]。リチウムイオンの250 Wh/kg は NASA が挙げるセルの例(メーカー公称)[参考資料1]を、1 Wh=3600 J で換算した本稿の計算です本稿の計算。棒の長さは対数に比例しています。

原子力が「少ない質量で長く」使える理由は、1 kg あたりのエネルギーが桁違いに大きいことです。NASA Glenn の資料は、液体酸素と液体水素の化学エネルギーを1.35×10⁷ J/kg、ウラン235の核分裂を8.2×10¹³ J/kg としています[参考資料8]。比は約600万倍です本稿の計算。ただし、これは燃料そのものの理論値で、実際の装置は燃料を使い切らず、遮蔽や熱交換器などの質量も加わります(解説)。

つまずきやすいところ:原子力は「いつも」選ばれるわけではない

NASA Glenn の資料も、太陽電池は技術の成熟度、実績、費用の面で、通常は選ばれる理由がある、と述べています[参考資料8]。国連の「原子力電源の利用に関する原則」(1992年)は、さらに、原子力電源の利用は、原子力でない電源では合理的に運用できない宇宙ミッションに限るとしています事実[参考資料12]。原子力は、太陽が届かない・夜が長いなど、必要なところで使う電源、という位置づけです。

3. RTG のしくみ:プルトニウム238の熱を、電気にする

RTG の中身は、大きく2つです。熱源と、熱を電気に変える熱電素子です。NASA のファクトシートによると、熱源はプルトニウム238(Pu-238)を含み、熱電素子は、異なる2種類の導体を閉じた回路でつないで2つの接合部に温度差をつけると電圧が生じる、というゼーベック効果(約150年前にドイツのゼーベックが発見)を使います事実[参考資料2]。熱電素子の材料と ZT の話は、『熱電変換材料』編に詳しくあります。

(1) 燃料:セラミックのプルトニウム酸化物

NASA によると、RPS(放射性同位体動力システム)の燃料はプルトニウム酸化物で、アルファ粒子を出します。アルファ粒子は、紙1枚ほどの薄さの物質で止められる放射線です。Pu-238 は、核兵器に使われる種類のプルトニウムではなく、原子炉の燃料としてもうまく働きません事実[参考資料5]。宇宙用の同位体に必要な条件として、NASA は、水に溶けにくいこと、化学的な毒性が小さいこと、中性子・ベータ線・ガンマ線の放出が少ないこと、高温で安定なこと、半減期が十分に長いこと(15〜100年)、出力密度が高いことを挙げ、これらを一貫して満たしてきた同位体は Pu-238(半減期88年)だけだと述べています[参考資料5]。

よくある誤解:「RTG は、小さな原子炉だ」

正しくありません。RTG は、連鎖反応を起こしません。Pu-238 が自然にくずれるときに出す熱を、そのまま電気に変えるだけで、スイッチで止めたり、出力を上げたりすることはできません(熱は常に出続けます)。NASA は、Pu-238 は原子炉の燃料としてはうまく働かない、と述べています[参考資料5]。一方、核分裂炉は、ウランなどの核分裂の連鎖反応を制御して熱を作る装置で、出力を制御できます(第5章)。両者は、燃料も、しくみも、安全の考え方も違います。

(2) 構造と数字:MMRTG の例

火星探査車 Curiosity と Perseverance に載っている MMRTG(多目的 RTG)について、NASA のファクトシートは次のように述べています事実[参考資料2]。熱源は8個の GPHS(汎用熱源)モジュールで、プルトニウム酸化物を合計4.8 kg(10.6ポンド)含み、打ち上げ時に約2,000 W の熱と約110 W の電気を出します。熱電材料は PbSnTe、TAGS、PbTe で、1976年に火星に着陸した2機の探査機バイキングと同じ種類です。大きさは直径約64 cm(フィンの先端から先端)、高さ約66 cm、質量約45 kg で、設計の目標は、最低14年の寿命です。

①密封した熱源、②温度差を電気に変える熱電素子、③余熱を捨てるフィンです。RTGは核分裂の連鎖反応を利用する装置ではありません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。①密封した熱源、②温度差を電気に変える熱電素子、③余熱を捨てるフィンです。RTGは核分裂の連鎖反応を利用する装置ではありません。 [参考資料2]実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
RTG の中身(概念図) 熱電 素子 熱電 素子 熱源(GPHS×8) Pu-238 の酸化物 熱は外へ流れ、温度差が熱電モジュールで電気になる 外側のフィンから、宇宙や火星の大気へ熱を捨てる 放熱フィン MMRTG の熱の使われ方 熱 約2,000 W 電気 約110 W(約5.5%) 残りは熱として出る (約1,890 W) → ローバーの保温にも使える(NASA) 打ち上げ時の値。数値は NASA の資料

元SVGの説明:本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。構造は説明用の模式図で、実際の設計・寸法ではありません。MMRTG が打ち上げ時に約2,000 W の熱と約110 W の電気を出し、8個の GPHS モジュールを熱源とすることは NASA の ファクトシートに基づきます事実[参考資料2]。5.5%(110÷2000)と約1,890 W は本稿の計算です本稿の計算。

110 ÷ 2000 = 約5.5%、つまり熱の大部分は電気にならず、熱として出ていきます本稿の計算。電気にならない熱も、探査車の保温に使われます(NASA は、Curiosity と Perseverance が MMRTG で「電力を得て、温められている」と説明しています[参考資料3])。重さあたりの電気は、110 W ÷ 45 kg = 約2.4 W/kg です本稿の計算。『宇宙用太陽電池』編の、アレイの比出力(実際に飛んだ例で約30 W/kg 付近)より小さい数字ですが、太陽が届かない場所では、この比較自体が成り立ちません。

素材技術者の視点①:熱源は「セラミック」と「多層の保護材」でできている

NASA の安全の説明は、燃料がセラミックの形(NASA は、コーヒーカップに使われる材料に似た形、と説明)に作られており、割れたときに、吸い込める細かい粒ではなく、大きな破片になりやすいこと、燃料は水に溶けにくいこと、GPHS では燃料のまわりに、再突入の高温に耐える丈夫な材料を含む複数の保護層があること、MMRTG の熱源モジュールには、地面への衝突や再突入に対する追加の保護材があることを述べています事実[参考資料5・11]。解説:材料の目で見ると、「放射性物質を、壊れにくく、粒になりにくく、水に溶けにくい形に作り、高温と衝撃に耐える容器で包む」設計です。ここでの評価は、発電性能(ZT、効率)ではなく、事故のときに閉じ込められるかという材料の信頼性が中心になります。

(3) 熱だけを使う:RHU

電気ではなく、熱だけを使う小さな熱源がRHU(放射性同位体ヒーターユニット)です。NASA は、RHU が宇宙機を、深宇宙の寒い環境で暖めるために使われると説明しています[参考資料3]。ボイジャーは9個の RHU で温められています[参考資料3]。アポロ11号が月に置いた初期の実験パッケージ(EASEP)は、太陽電池で動き、RHU で保温されて、月の過酷な環境でも動作しました[参考資料3]。

4. 出力は減っていく:ボイジャーの例

RTG の出力は、時間とともに下がります。理由は主に2つ考えられます。燃料が減る(Pu-238 は半減期88年でくずれていき、熱が減る)ことと、熱電素子などが劣化することです。NASA の資料によると、ボイジャー1号・2号は、1977年に打ち上げられ、MHW-RTG(数百ワット級の RTG)は打ち上げ時に1基あたり約158 W を出し、3基の RTG が電気を供給しています事実[参考資料3・4]。2023年11月の電力は225 Wで安定していると、NASA は述べています[参考資料3]。電力が減るにつれ、機器を順に止めて、需要が供給を超えないようにしている、とも述べています[参考資料4]。

RTG の出力は、時間とともに下がる 0 100 200 300 400 500 0 10 20 30 40 50 打ち上げ(1977年)からの年数 電気出力の合計(W) 打ち上げ時 約474 W(158 W×3基) 2023年11月 225 W(NASA) 2023年11月に燃料の減衰だけなら約329 W(本稿の計算) 青い破線:半減期88年の燃料の減衰だけを考えた曲線 差(約104 W)は、燃料の減衰だけでは説明できない分。熱電素子などの劣化も関わると考えられる(推測)。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。各 RTG が打ち上げ時に約158 W、RTG が3基、2023年11月の電力が225 W は NASA の資料、Pu-238 の半減期88年は NASA の説明に基づきます事実[参考資料3・4・5]。曲線は474 W × 0.5^(年数÷88)の本稿の計算で、実測値ではありません本稿の計算。

打ち上げ時の合計は158 W × 3 = 約474 W です。燃料の減衰だけを考えると、46.2年後には 0.5^(46.2÷88) ≒ 0.695倍、つまり約329 W のはずです本稿の計算。実際の225 W はそれより約104 W 低く、推測:熱電素子などの劣化も、出力の低下に関わっていると考えられます(NASA の資料では、内訳までは確認できませんでした)。

つまずきやすいところ:なぜ「半減期」で出力が決まらないのか

半減期88年は、「燃料の熱が88年で半分になる」という意味です。しかし、電気の出力は、熱の量だけでなく、熱電素子が温度差をどれだけ電気にできるかにも左右されます。素子の材料が長い年月のあいだにゆっくり変化すると、同じ熱でも電気が減ります(『熱電変換材料』編)。たとえの限界:「カイロが少しずつ冷める」という図は燃料の減りを表しますが、素子の劣化までは表しません。

燃料の確保も、課題の一つ

NASA によると、米国での Pu-238 の生産は1980年代の終わりに止まり、ロシアからの購入も終わりました。2011年から、議会の予算で、エネルギー省(DOE)が国内での生産を再開しています。プルトニウム酸化物はオークリッジ国立研究所で作られ、ロスアラモス国立研究所で熱源のペレットに加工され、アイダホ国立研究所で保管される、と説明されています事実[参考資料5]。また、核物質と RPS は DOE が所有し、設計と開発を直接管理します[参考資料17]。

5. ストーリング方式と、月面向けの核分裂炉:研究の段階

(1) 動的な RPS:熱電素子の代わりにエンジン

RTG の効率(MMRTG で約5.5%)を上げる方法として、ストーリングエンジンで熱を電気にする「動的な RPS」が研究されています。NASA の説明では、自由ピストン形のストーリング変換器は、ガスを熱して膨張させ、ピストンを動かし、その動きを発電機で電気にします。可動部があるため、摩擦を避ける構造(ガス軸受やフレクシャー軸受など)で長寿命を狙います。ブレイトン方式という、小さなタービンを使う方式もあります。NASA は、将来の動的 RPS のために、いくつかの概念を成熟させている段階と述べています未確定/将来[参考資料14]。

(2) 核分裂炉:KRUSTY(2018年)

核分裂炉は、ウランの核分裂の連鎖反応を制御して熱を作ります。NASA の資料によると、米国が宇宙で飛ばした原子炉は、1965年の SNAP-10A の1つで、熱電方式でした[参考資料8・11]。その後、NASA と DOE が小型の宇宙用原子炉「Kilopower」の地上実証 KRUSTY を行いました。Poston らの論文によると、KRUSTY は5 kW(熱)の Kilopower 炉の試作の核試験で、28時間連続で、熱出力は1.5〜5.0 kW、燃料の温度は最高880℃で運転されました。80 W(電気)定格のストーリング変換器1基が約90 W を出し、変換器の効率は約35%、システム全体では約25%でした事実[参考資料9]。この試験は2018年3月21日にネバダの施設で完了し、Gibson らは、宇宙用の核分裂電源として50年以上ぶりの炉の試験だった、と述べています[参考資料16]。Kilopower 計画は、小さな核分裂電源を技術成熟度5(TRL 5)で実証することを目標に2015年度に始まりました[参考資料15]。

(3) 月面の核分裂炉:設計検討の段階

NASA Glenn の資料(2024年4月)は、NASA が DOE とその研究所と協力して、月面の核分裂電源(FSP)を確立しようとしていると述べています。設計検討の主な特徴は、40 kWe(電気)・120 V 直流、着陸機に載る大きさ、運んで設置し、最大1 km 離れた利用者へ送電すること、10年の寿命(最初の1年が実証)、火星にも拡張できる設計、です。ただし、要求は設計検討のためのもので、飛行用には変わりうると明記されています未確定/将来[参考資料8]。同じ資料は、2021年11月に公募が始まり、3社と第1段階の設計契約を結び、2023年10月に第1段階が完了し、第2段階(飛行用システムの開発)の契約は未定(TBD)と記しています[参考資料8]。2024年4月以降の状況は、NASA の公式ページがリダイレクトの不具合で開けず、この記事では確認できませんでした。

10 W 100 W 1 kW 10 kW 100 kW 1 MW 電気出力(対数目盛り) MMRTG(打ち上げ時) [運用実績] ボイジャーの RTG 1基(打ち上げ時) [運用実績] Juno の太陽電池(木星で) [運用実績(太陽電池)] KRUSTY が目指した規模(電気) [地上試験(2018年)] 月面核分裂炉の設計検討(NASA) [設計検討・未確定] ISS の元の太陽電池(最大) [運用実績(太陽電池)] 色:緑=運用実績(原子力)/青=運用実績(太陽電池)/黄=地上試験/紫=設計検討(未確定) 原子力電源は、数十〜数百ワットの RTG から、数十キロワットの核分裂炉の構想まで、規模が数桁ちがう。
図5 概念図(ベクター作図)。MMRTG の約110 W は NASA ファクトシート、ボイジャーの RTG の約158 W は NASA の資料、Juno の約500 W は JPL の発表、KRUSTY の1 kW級は Kilopower 計画の論文(目標)、月面核分裂炉の40 kWe は NASA Glenn の設計検討の資料(2024年、要求は飛行時に変わりうる)、ISS の最大約160 kW は NASA の記事に基づきます事実[参考資料2・3・6・7・8・15]。条件の違う値(打ち上げ時、設計検討、最大)を並べており、優劣を示すものではありません。
つまずきやすいところ:kWe と kWt

kWeは電気の出力、kWtは熱の出力です。KRUSTY の「5 kW(熱)」は熱の量で、電気にすると、効率約25%なら約1.3 kW 程度の規模になります(本稿の計算:5 × 0.25 = 1.25 kW、ただし試験では1.5〜5.0 kW(熱)の範囲で運転)。月面の「40 kWe」は電気の出力なので、数字だけで KRUSTY と比べないでください。

素材技術者の視点②:炉は「温度」と「材料」が全てを決める

KRUSTY の燃料は最高880℃になりました[参考資料9]。NASA Glenn の資料は、DOE が、金属水素化物の減速材、遮蔽、計装・制御の開発を進めていること、NASA が、電力変換、電子機器の放射線対策、電力の配電の開発を進めていることを述べています[参考資料8]。解説:炉の材料は、高温・中性子・長期という3つの条件に耐える必要があります。月面では、さらに、14.5日の夜(約50〜100 K)と昼の温度差があります。炉の材料と、周辺の電子回路の放射線耐性は、『放射線と電子部品』編と関係します。

6. 安全をどう考えるか:設計の層と、事故の歴史

RTG の安全は、「燃料が出す放射線」と「打ち上げや再突入の事故」の2つに分けて考えます。NASA は、RPS が、通常の運転と、さまざまな事故の条件で、燃料を閉じ込めるように設計され、試験されていると述べています[参考資料11]。

安全は、層を重ねて確かめる(NASA の説明の整理) 国際的な枠組み:国連の原則(1992年)、安全枠組み(2009年、任意の指針) 国の審査:環境影響の審査(NEPA)、打ち上げ承認(NSPM-20 の3段階) システムの設計:事故時にも燃料を閉じ込めるように設計し、試験する 熱源モジュール(GPHS):燃料のまわりに多層の保護材 燃料:セラミック状の プルトニウム酸化物 (大きな破片になりやすい) NASA は、事故で燃料が放出される可能性は小さいが、ゼロとは言えず、放出されれば長期のがんの確率が上がりうる、と同じページで説明している。 だから「安全だ」とも「危険だ」とも一括せず、層ごとの設計・審査・公開された基準を見る。
図6 概念図(ベクター作図)。層の整理は、NASA の「Radioisotope Power Systems Safety and Reliability」と「About Plutonium-238」、国連宇宙部(UNOOSA)の原則と安全枠組みの文書に基づく本稿の模式図です事実[参考資料5・11・12・13]。層の大きさに意味はありません。

(1) 事故の歴史(NASA の記載)

NASA は、RPS を搭載した3つのミッションが、電源とは無関係の故障で、早期に中止されたとし、いずれも電源は設計どおりに動いた、と述べています事実[参考資料11]。

  • 1964年4月:航法衛星 Transit 5-BN-3 の打ち上げが上昇中に中止。RTG は再突入で燃え尽き、設計どおり、プルトニウム燃料は上層大気に拡散した。
  • 1968年5月:気象衛星 Nimbus B-1 の打ち上げが中止。RTG は燃料を閉じ込め、燃料容器は無傷で回収され、Nimbus III に再利用された。
  • 1970年4月:アポロ13号。月面の実験用の RTG を積んだ月着陸船が、地球に戻り、太平洋の深い海に落ちた。この件による放射線の放出は検出されていない。

NASA は、これまでの RPS の使用や関連する打ち上げで、一般の人も NASA の職員も傷害を受けたことはない、とも述べています事実[参考資料11]。これは NASA の記述です。

(2) NASA が認めていること

同じ NASA のページは、事故が起きる可能性は小さいが、燃料が放出され、拡散し、人が被ばくする可能性はあること、その場合、特定のがんなどの長期の確率が上がる可能性があることも、はっきり記しています。そのうえで、燃料が割れても大きな破片になりやすい(吸い込める細かい粒になりにくい)セラミックであること、水に溶けにくいこと、保護層があることで、放出の可能性を小さくしている、と説明しています事実[参考資料11]。また、打ち上げ前に、連邦・州・郡の緊急対応機関と連携し、放射線の監視チームを配置する、緊急時の計画(Radiological Contingency Plan)を準備する、とも述べています[参考資料11]。

つまずきやすいところ:「安全だ」「危険だ」と一括しない読み方

この分野の情報は、「絶対に安全」「危険な毒」のどちらかに偏りがちです。公的な資料は、そのどちらでもなく、「事故の確率を小さくする設計・審査の層があり、数値の目安が公開されている。一方で、放出の可能性はゼロとは言えない」という書き方をしています。読むときは、①どんな設計の層があるか、②どんな審査を経るか、③公開された基準は何か、を個別のミッションごとに確かめてください。本稿は、特定のミッションの安全性を保証も否定もしません。

7. 打ち上げ承認と国際的な枠組み

(1) 米国:環境影響の審査と、NSPM-20 の3段階

NASA によると、RPS、RHU、原子炉を使うミッションは、国家環境政策法(NEPA)に基づく包括的な環境審査を受けます。さらに、2019年8月20日に署名された国家安全保障大統領覚書20(NSPM-20)が、3段階の安全審査に基づく打ち上げ承認を求めています事実[参考資料11]。NSPM-20 の条文は、方針として、宇宙原子力システムが探査や運用能力を安全に可能にし、高める場合に、米国がそれを開発・利用する、とし、エネルギー長官が、安全解析を含む能力を維持する、としています[参考資料10]。

米国の打ち上げ承認:3段階(NSPM-20、2019年8月20日) 第1段階(Tier I) 放射性物質の量が小さい打ち上 げ(IAEA の A2 値の 10万倍まで) 承認者:主管する機関の長 第2段階(Tier II) 10万倍を超える量。または第 1段階でも、5〜25 rem の被ばくの確率が100万分 の1以上。低濃縮ウラン(20 %未満)の核分裂炉など 承認者:機関の長(追加の安全 審査を経る) 第3段階(Tier III) 25 rem 超の被ばくの確 率が100万分の1以上。また は低濃縮ウラン以外の燃料の核 分裂炉 承認者:大統領(連邦政府の打 ち上げの場合) NSPM-20 が掲げる安全の目安(事故が起きた場合の公衆の被ばくの確率の上限) 25ミリレム〜5 rem 未満 100分の1 を超えない 5〜25 rem 1万分の1 を超えない 25 rem 超 10万分の1 を超えない これらは、計画の審査で「そうなるよう確保を求める」目安で、実績の確率ではない。
図7 概念図(ベクター作図)。NSPM-20(国家安全保障大統領覚書20、2019年8月20日)の条文に基づく整理です事実[参考資料10]。第3段階の大統領の承認は連邦政府の打ち上げの場合で、商業打ち上げの許認可は運輸長官が担うなど、条文には他の規定もあります。1 rem は 10 mSv に相当します(本稿の換算)本稿の計算。

NSPM-20 は、計画の審査で確保を求める目安として、事故による公衆の被ばくの確率の上限を示しています。25ミリレム〜5 rem 未満は100分の1、5〜25 remは1万分の1、25 rem 超は10万分の1を超えないこと、です[参考資料10]。これは「確保を求める」目安で、実績の確率ではありません。1 rem は10 mSv なので、25 rem は250 mSv、5 rem は50 mSv に相当します本稿の計算。条文はまた、核分裂炉の宇宙での運用については、追加の安全指針が適切かもしれないとして、NASA が1年以内に、非地上(軌道・惑星表面)での安全な運用の指針を報告するよう求めています[参考資料10]。この報告の内容や、その後の制度の変更は、この記事では確認できませんでした。

(2) 国連:原則(1992年)と安全枠組み(2009年)

国連総会の決議47/68(1992年)として採択された「宇宙空間における原子力電源の利用に関する原則」は、原子力電源の利用を、原子力でない電源では合理的に運用できないミッションに限ること、打ち上げ前に徹底した安全評価を行い、その結果を打ち上げ前に公開すること(原則4)、通常の運転で公衆が不当な被ばくを受けないこと、事故時の被ばくを、主な限度(年1 mSv)に収まるように設計すること、などを定めています事実[参考資料12]。原子炉については、惑星間ミッションや十分に高い軌道での運転、軌道に着くまで臨界にしないこと、燃料に高濃縮ウラン235だけを使うこと、などを規定し、RTG などの放射性同位体発電機については、再突入の熱と空力に耐える容器で保護し、衝突後も放射性物質が環境に飛び散らないようにすることを求めています[参考資料12]。同決議は、この原則が、新しい原子力の応用に合わせて将来改訂が必要になる、とも述べています[参考資料12]。

2009年には、国連の科学技術小委員会と国際原子力機関(IAEA)が共同で、「宇宙空間における原子力電源の応用のための安全枠組み」(A/AC.105/934)をまとめました。この文書は、任意の指針であり、国際法上の法的拘束力はないと自ら述べています[参考資料13]。推測:1992年の原則の「燃料に高濃縮ウランだけ」という規定と、NSPM-20 が低濃縮ウラン(20%未満)の炉を扱う条文の違いは、制度が新しい炉の設計に合わせて進化している途中であることを示していますが、両者の関係の公式な整理は、この記事では確認できませんでした。

8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)

この分野は変化が速いので、一次情報で確認できたことを、確認日つきで整理します。計画は、達成済みの事実とは別に書きます。

原子力電源の段階(確認日 2026年10月17日) 地上の研究 地上の実機試験 宇宙での飛行 繰り返しの運用実績 RTG(熱電) RHU(ヒーター) 動的な RPS(ストーリング等) - - - 宇宙用の核分裂炉(過去の SNAP-10A) - 小型炉の地上実証(KRUSTY、2018年) - - 月面用の核分裂炉(40 kWe の設計検討) - - - この記事の出典で確認できた 「-」は出典の範囲では確認できなかった(行われていない、という意味ではない) 記号は「段階」であり、優劣ではない。月面用の核分裂炉は、この記事の出典の範囲では計画・設計検討の段階(確認日 2026年10月17日)。
図8 概念図(ベクター作図)。判定は、NASA の RPS プログラムのページ、NASA Glenn の核分裂表面電源の資料(2024年)、KRUSTY の論文(2018・2020年)に基づく本稿の整理です本稿の計算。米国が RPS 搭載の2ダース超のミッションと1つの原子炉システムを飛ばした、という NASA の記述に基づきます[参考資料8・9・11・14]。
項目確認できたこと区分
RTG の実績米海軍が1961年に最初の RPS を打ち上げ、1969年以降、24の NASA ミッションが RPS で飛んだ。Curiosity と Perseverance は MMRTG で運用中、New Horizons、Voyager 1・2も飛行中(NASA のページ)[参考資料3]事実
次の RTG ミッション土星の衛星タイタンへの Dragonfly は MMRTG を使う計画で、打ち上げは2028年ごろとされ、開発中の将来ミッション(NASA のページ。確認日 2026年10月17日)[参考資料3]未確定/将来
Pu-238 の供給米国の国内生産は、2011年から DOE が再開。オークリッジで生産し、ロスアラモスで加工、アイダホで保管[参考資料5]事実
動的な RPSNASA は、将来の動的 RPS のためにいくつかの概念を成熟させている段階[参考資料14]未確定/将来
小型炉の地上実証KRUSTY(5 kW 熱)は2018年3月に完了。28時間の運転、システム効率約25%[参考資料9・16]事実
月面の核分裂炉NASA Glenn の資料(2024年4月):40 kWe・10年寿命の設計検討、第1段階は2023年10月に完了、第2段階の契約は未定。2024年4月以降の状況は確認できなかった[参考資料8]未確定/将来
制度NSPM-20(2019年8月20日)が NASA のページで、現行の打ち上げ承認の枠組みとして記載されている。国連の原則は1992年、安全枠組みは2009年(任意の指針)[参考資料10・11・12・13]事実

確認日は2026年10月17日。計画の日程や出力は変わりうるものです。NASA の核分裂表面電源の公式ページは、確認時にリダイレクトの不具合で開けませんでした。

月面の原子炉電源は将来構想として描いています。電源・放熱部・送電ケーブル・利用先を分けた配置で、実証済みの月面設備ではありません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。月面の原子炉電源は将来構想として描いています。電源・放熱部・送電ケーブル・利用先を分けた配置で、実証済みの月面設備ではありません。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事のまとめ(現状)

宇宙の原子力電源は、実績のある RTG が中心で、遠い場所や長い夜を支えています。出力は時間とともに減ります。効率の高い動的方式や、月面の核分裂炉は、研究・設計検討の段階で、月面での運用実績はまだ確認できていません。安全は、「燃料の形」「設計」「審査」「公開された基準」の層で扱われ、NASA は、放出の可能性がゼロではないことも認めています。安全を一括して断定せず、個別のミッションの公開資料で確かめることが大切です。

9. 評価・標準の読み方

原子力電源の良し悪しは、1つの数字では測れません。「出力(W)」は、打ち上げ時か、現在か。「効率」は、電気/熱の比です。「比出力(W/kg)」は、太陽が届く場所と届かない場所では意味が違います。「安全」は、設計・試験・審査と、事故時の確率の目安で見ます。そして「本当に使えるか」は、実際の飛行実績で判断します。これらの「ものさし」が何を測り、何を測っていないかを、確認できた範囲で表にします。

評価項目代表的な試験・評価手法(名称・出典)標準・指針(NSPM-20・国連・IAEA など)読み方の注意
出力と効率電気出力(W)と熱出力(W)の比。MMRTG は打ち上げ時に約110 W(電気)と約2,000 W(熱)[参考資料2]事実。KRUSTY:ストーリング変換器の効率約35%、システム約25%(地上試験)[参考資料9]事実確認できなかった(効率や出力を定める標準は確認していない)「打ち上げ時」の値。電気と熱を区別する(kWe と kWt)。地上試験と飛行の値は別
出力の減衰ボイジャーの実測(打ち上げ時1基158 W、2023年11月に225 W)[参考資料3]事実。燃料の半減期88年[参考資料5]。MMRTG の設計目標は最低14年[参考資料2]確認できなかった燃料の減衰だけでなく、素子の劣化も関わる(推測)。設計目標と実績は別
重さあたりの出力MMRTG:約110 W÷約45 kg=約2.4 W/kg(本稿の計算)[参考資料2]本稿の計算確認できなかった太陽電池の比出力と、そのまま比べない。太陽が届かない場所では比較の意味が違う
事故時の閉じ込めNASA:RPS は通常運転と事故条件で燃料を閉じ込めるよう設計・試験。GPHS の保護層、セラミック燃料[参考資料5・11]事実。試験の詳細は確認できなかった国連の原則(決議47/68、1992年)の原則3:放射性同位体発電機は再突入の熱と空力に耐える容器で保護し、衝突後も放射性物質が飛び散らないこと[参考資料12]事実設計の要求であり、個別の機器の適合の結果ではない。適合は各ミッションの安全解析で確認される
事故時の公衆の被ばく各ミッションの安全解析(確率論的な評価)。NASA は包括的な環境審査と3段階の審査を行うと述べる[参考資料11]事実NSPM-20(2019年8月20日):確率の目安(25ミリレム〜5 rem で100分の1、5〜25 rem で1万分の1、25 rem 超で10万分の1)と、IAEA の SSR-6(2018年版)の A2値に基づく3段階[参考資料10]事実NSPM-20 は米国の大統領覚書(政策)で、国際標準ではない。目安であり、実績の確率ではない
打ち上げ承認NEPA の環境審査、NSPM-20 の3段階(第1・2段階は機関の長、第3段階は大統領の承認)[参考資料10・11]事実NSPM-20。商業打ち上げの許認可は運輸長官(同覚書の記載)[参考資料10]承認は他の法令の義務を免除しない(同覚書の記載)
国際的な安全の指針打ち上げ前の安全評価の公開(原則4)[参考資料12]事実国連総会決議47/68(1992年)の原則。「宇宙空間における原子力電源の応用のための安全枠組み」A/AC.105/934(2009年)は任意の指針で法的拘束力はない[参考資料12・13]事実原則と枠組みは、条約ではない。国連の原則は将来の改訂が必要と自ら述べる
材料の評価熱電素子の ZT の評価は『熱電変換材料』編。熱源の材料の試験の詳細は確認できなかった確認できなかった(ISO・IEEE の該当する標準は確認していない)発電の材料評価と、事故時の閉じ込めの材料評価は別物

表の整理は本稿の計算(整理)。制度の番号・日付・内容は、条文(ホワイトハウス記録保管庫)と UNOOSA のページ、NASA のページで確認(確認日 2026年10月17日)。この記事は法的助言ではありません。ASTM International の規格・サイトは参照していません。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 地上試験と軌道上の実績は別です:KRUSTY は地上の試験で、月面での運用ではありません。RTG の数十年の実績も、各ミッションの設計と環境での結果です。
  • NASA の記述と、第三者の検証は別です:「安全の実績が優れている」は NASA の記述です。事故時の放出の可能性を認める記述も、同じ NASA のページにあります。
  • 政策・指針と、拘束力のある規則は別です:NSPM-20 は米国の政策文書、国連の原則は決議の附属、安全枠組みは任意の指針です。「承認された」とあれば、どの承認(どの段階・どの機関)かを確認してください。
  • 計画と達成は別です:月面の核分裂炉の40 kWe・10年は設計検討の要求で、飛行用に変わりうるものです。

10. 用語集

RPS
Radioisotope Power System。放射性同位体の熱を使う電源・熱源の総称。
RTG
Radioisotope Thermoelectric Generator。同位体の崩壊熱を、熱電素子で電気にする発電機。
MMRTG
Multi-Mission RTG。火星探査車などで使われる RTG。打ち上げ時に約110 W。
RHU
Radioisotope Heater Unit。電気ではなく、熱だけを使うヒーター。
GPHS
General Purpose Heat Source。燃料を入れる汎用の熱源モジュール。安全設計の基本単位。
プルトニウム238(Pu-238)
アルファ線を出して崩れ、熱を出す同位体。半減期88年。
半減期
放射性物質の量(と出す熱)が半分になるまでの時間。
アルファ粒子
放射線の一種。紙1枚ほどで止まるが、体内に入ると影響が問題になる。
ゼーベック効果
2種類の導体の接合部に温度差があると、電圧が生じる現象。
ストーリングエンジン
ガスを熱して冷やすくり返しでピストンを動かし、発電するエンジン。
動的な RPS
可動部をもつ変換器(ストーリング、ブレイトン)を使う RPS。効率が高いが、長寿命が課題。
核分裂炉
ウランなどの核分裂の連鎖反応を制御して熱を作る装置。RTG とは別物。
ウラン235/低濃縮ウラン(LEU)
核分裂に使うウランの同位体。20%未満の濃縮を低濃縮という。
臨界
核分裂の連鎖反応が自分で続く状態。
KRUSTY
Kilopower Reactor Using Stirling TechnologY。小型炉の地上実証(2018年)。
FSP
Fission Surface Power。月面などで使う核分裂電源の計画。
kWe/kWt
kW(電気)/kW(熱)。電気の出力と熱の出力を区別する。
NEPA
米国の国家環境政策法。連邦の事業は環境への影響を審査する。
NSPM-20
宇宙原子力システムの打ち上げ承認を定める米国の大統領覚書(2019年8月20日)。
A2値(IAEA SSR-6)
放射性物質の輸送規則で、同位体ごとに決められた量の基準。NSPM-20 の段階分けに使われる。
rem/Sv
放射線の被ばくの単位。1 Sv = 100 rem、1 rem = 10 mSv。
SNAP-10A
1965年に打ち上げられた、米国の宇宙用原子炉(熱電方式)。

11. 参考資料(一次情報)

  1. NASA "State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology, 3.0 Power"(2026年5月7日版。確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/power-subsystems/
  2. NASA "Multi-Mission Radioisotope Thermoelectric Generator (MMRTG)" NASA Facts — nasa.gov/sites/default/files/files/MMRTG.pdf
  3. NASA "Radioisotope Power Systems Missions"(RPS のミッション一覧。確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/radioisotope-power-systems-missions/
  4. NASA/JPL "Voyager: Spacecraft"(探査機の概要。電力の記述を確認) — science.nasa.gov/mission/voyager/spacecraft/
  5. NASA "About Plutonium-238"(NASA RPS プログラム。確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/about-plutonium-238/
  6. NASA/JPL "NASA's Juno Spacecraft Breaks Solar Power Distance Record"(2016年1月13日) — jpl.nasa.gov/news/nasas-juno-spacecraft-breaks-solar-power-distance-record
  7. NASA "New Solar Arrays to Power NASA's International Space Station Research"(2021年1月11日。確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/missions/station/new-solar-arrays-to-power-nasas-international-space-station-research/
  8. Kaldon L., Presby A.(NASA Glenn) "Fission Surface Power Project"(Space Power Workshop、2024年4月23〜25日の発表資料) — ntrs.nasa.gov/citations/20240003580
  9. Poston D. I. ほか "Results of the KRUSTY Nuclear System Test", Nucl. Technol. 206, (2020), DOI 10.1080/00295450.2020.1730673 — doi.org/10.1080/00295450.2020.1730673
  10. The White House "Presidential Memorandum on Launch of Spacecraft Containing Space Nuclear Systems"(NSPM-20、2019年8月20日。ホワイトハウスの記録保管庫) — trumpwhitehouse.archives.gov/presidential-actions/presidential-memorandum-launch-spacecraft-containing-space-nuclear-systems/
  11. NASA "Radioisotope Power Systems: Safety and Reliability"(確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/planetary-science/programs/radioisotope-power-systems/radioisotope-power-systems-safety-and-reliability/
  12. 国連総会 決議47/68 "Principles Relevant to the Use of Nuclear Power Sources in Outer Space"(1992年。UNOOSA のページ) — unoosa.org/oosa/en/ourwork/spacelaw/principles/nps-principles.html
  13. 国連 COPUOS 科学技術小委員会・IAEA "Safety Framework for Nuclear Power Source Applications in Outer Space"(A/AC.105/934、2009年。UNOOSA 掲載の PDF) — unoosa.org/unoosa/uploads/documents/pdf/publications/iaea-nps-sfrmwrkE.pdf
  14. NASA "Dynamic Radioisotope Power"(NASA RPS プログラム。確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/planetary-science/programs/radioisotope-power-systems/dynamic-power/
  15. McClure P. R. ほか "Kilopower Project: The KRUSTY Fission Power Experiment and Potential Missions", Nucl. Technol. 206, (2020), DOI 10.1080/00295450.2020.1722554 — doi.org/10.1080/00295450.2020.1722554
  16. Gibson M. A. ほか "The Kilopower Reactor Using Stirling TechnologY (KRUSTY) Nuclear Ground Test Results and Lessons Learned", 2018 International Energy Conversion Engineering Conference, DOI 10.2514/6.2018-4973 — doi.org/10.2514/6.2018-4973
  17. NASA "About the Program"(NASA の Radioisotope Power Systems Program。確認日 2026年10月17日) — science.nasa.gov/about-the-radioisotope-power-systems-program/

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
リチウムイオンセルの比エネルギーの例(250 Wh/kg)NASA「State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology」(2026年5月7日版)の表(メーカー公称)
出典1 https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/power-subsystems/
事実
MMRTG:熱源は8個の GPHS、プルトニウム酸化物4.8 kg、打ち上げ時に約2,000 W(熱)と約110 W(電気)、PbSnTe・TAGS・PbTe、約64 cm×約66 cm・約45 kg、最低14年の設計目標、RTG は27ミッション・46基、ゼーベック効果の説明NASA ファクトシート
出典2 https://www.nasa.gov/sites/default/files/files/MMRTG.pdf
事実
米海軍が1961年に最初の RPS を打ち上げ、1969年以降24の NASA ミッション、Voyager の MHW-RTG が1基約158 W・9個の RHU・2023年11月に225 We、Curiosity と Perseverance の MMRTG、Dragonfly が MMRTG を使う計画(2028年ごろ)、RHU の用途、アポロ11号の EASEPNASA のミッション一覧ページ
出典3 https://science.nasa.gov/radioisotope-power-systems-missions/
事実
ボイジャーの電力が3基の RTG で供給され、電力の低下とともに負荷を止めていくことNASA の Voyager 探査機のページ
出典4 https://science.nasa.gov/mission/voyager/spacecraft/
事実
Pu-238:セラミックの酸化物、アルファ粒子、核兵器用ではなく炉の燃料にも向かないこと、必要な条件、半減期88年、安全の層(セラミック形)、生産の再開(2011年から、オークリッジ・ロスアラモス・アイダホ)NASA の About Plutonium-238
出典5 https://science.nasa.gov/about-plutonium-238/
事実
木星の光が25分の1、Juno 以前の木星探査機8機が原子力電源JPL の発表(2016年1月13日)
出典6 https://www.jpl.nasa.gov/news/nasas-juno-spacecraft-breaks-solar-power-distance-record
事実
ISS の元の8枚のアレイが最大約160 kWNASA の記事
出典7 https://www.nasa.gov/missions/station/new-solar-arrays-to-power-nasas-international-space-station-research/
事実
月の夜は最長14.5日・気温約50〜100 K、ISS の日陰約35分・24個の電池(約4,735 kg)、月の夜に拡大した電池質量の見積り(約320万 kg)、液体酸素・水素1.35×10⁷ J/kg とウラン235の核分裂8.2×10¹³ J/kg、SNAP-10A(1965年)、FSP の設計検討(40 kWe・120 V・10年、要求は変わりうる)、2021年11月の公募・3社との第1段階契約・2023年10月の完了・第2段階は未定、DOE と NASA の開発分担NASA Glenn の発表資料(2024年4月)
出典8 https://ntrs.nasa.gov/citations/20240003580
事実
月面核分裂炉の40 kWe の設計検討と第2段階以降の計画(飛行用には変わりうる、2024年4月以降は確認できず)同上(NASA Glenn の資料。計画であり、達成済みの事実ではない)
出典8 https://ntrs.nasa.gov/citations/20240003580
未確定/将来
KRUSTY:5 kW(熱)の試作炉、28時間連続、1.5〜5.0 kW(熱)、燃料の温度最高880℃、ストーリング変換器1基約90 W・効率約35%・システム約25%Poston ら(2020)の要旨
出典9 https://doi.org/10.1080/00295450.2020.1730673
事実
NSPM-20(2019年8月20日)の方針、安全指針の確率(100分の1、1万分の1、10万分の1)、3段階の承認、IAEA SSR-6 の A2値、商業打ち上げの許認可は運輸長官、承認は他の義務を免除しないこと、NASA に非地上での核分裂炉の安全指針の報告を求めたこと覚書の条文(ホワイトハウスの記録保管庫)
出典10 https://trumpwhitehouse.archives.gov/presidential-actions/presidential-memorandum-launch-spacecraft-containing-space-nuclear-systems/
事実
RPS の安全の設計と試験、米国が2ダース超のミッションと1つの原子炉システムを飛ばしたこと、RPS 搭載ミッションの中止3件(1964年 Transit 5-BN-3、1968年 Nimbus B-1、1970年 アポロ13号)、一般の人も職員も傷害を受けていないという NASA の記述、事故時の放出の可能性とがんの確率が上がりうること、NEPA の環境審査と NSPM-20 の3段階の承認、緊急時の計画NASA の Safety and Reliability ページ
出典11 https://science.nasa.gov/planetary-science/programs/radioisotope-power-systems/radioisotope-power-systems-safety-and-reliability/
事実
国連の原則(1992年):原子力電源の利用は原子力でない電源で合理的に運用できないミッションに限ること、原則4(安全評価の事前公開)、原子炉の運用条件、放射性同位体発電機の封じ込め、将来の改訂の必要国連総会決議47/68(UNOOSA のページ)
出典12 https://www.unoosa.org/oosa/en/ourwork/spacelaw/principles/nps-principles.html
事実
安全枠組み(A/AC.105/934、2009年)が任意の指針で国際法上の法的拘束力はないことUNOOSA 掲載の PDF
出典13 https://www.unoosa.org/unoosa/uploads/documents/pdf/publications/iaea-nps-sfrmwrkE.pdf
事実
動的な RPS(ストーリング、ブレイトン)のしくみと、NASA が将来の動的 RPS のために概念を成熟させていることNASA の Dynamic Radioisotope Power ページ
出典14 https://science.nasa.gov/planetary-science/programs/radioisotope-power-systems/dynamic-power/
未確定/将来
Kilopower 計画(2015年度開始、TRL 5 での実証が目標、1 kW 電気級の技術実証機)McClure ら(2020)の要旨
出典15 https://doi.org/10.1080/00295450.2020.1722554
事実
KRUSTY の試験が2018年3月21日に完了したこと、宇宙用の核分裂電源の炉の試験として50年以上ぶりだったことGibson ら(2018)の要旨
出典16 https://doi.org/10.2514/6.2018-4973
事実
DOE が核物質と RPS を所有し、設計と開発を直接管理すること、NASA の RPS プログラムの体制NASA の About the Program
出典17 https://science.nasa.gov/about-the-radioisotope-power-systems-program/
事実
熱の使われ方(110÷2000=約5.5%、約1,890 W)、2.4 W/kg(110÷45)、約474 W と約329 W と差約104 W、約600万倍(8.2×10¹³÷1.35×10⁷)、約280万 kg(4,735 kg×597)、250 Wh/kg=9.0×10⁵ J/kg、1 rem=10 mSv、KRUSTY の約1.25 kW(電気)の目安公表値からの計算。仮定は本文と図に明記
本稿の計算
本稿の計算
2024年4月以降の月面核分裂炉の状況、NASA の核分裂表面電源の公式ページの内容、NSPM-20 に基づく核分裂炉の安全指針の報告の内容、1992年の原則の「高濃縮ウランのみ」と NSPM-20 の低濃縮ウランの扱いの公式な整理、ESA など米国以外の RTG・炉の計画、RTG の熱源の事故試験の詳細本稿の調査範囲でアクセスできた一次資料では確認できなかったため、記載していません解説
「熱源は、壊れにくく粒になりにくい形と容器の組み合わせ」「炉の材料は高温・中性子・長期に耐える必要がある」「素子の劣化が出力低下に関わる」という読み取り、「カイロ」のたとえとその限界、1992年の原則と NSPM-20 の違いについての推測本稿による解説・推測(出典の事実をもとにした読み取り)解説
図1〜図9が実データの観察ではなく、説明のための作図であること。図1と図9がAI生成の概念画像の枠であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月17日/出典は一次情報(NASA・JPL の資料、NASA Glenn の発表資料、査読論文、大統領覚書の条文、国連の文書)に限定しています。「NASA は〜と述べている」は NASA の記述として書き、第三者の検証とは区別しました。 計算例(効率、減衰、質量の見積り)は本稿が作った説明用の計算で、特定のミッションの設計値ではありません。月面の核分裂炉は計画・設計検討で、確定した事実ではありません。この記事は一般的な解説であり、法的助言でも、特定のミッションの安全評価でもありません。 2024年4月以降の月面核分裂炉の状況、NASA の核分裂表面電源の公式ページの内容、非地上での核分裂炉の安全指針の報告の内容、米国以外の計画については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図9はAI生成画像の枠(画像は未設置)です。実際の施設・設備・外観を示すものではありません。