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宇宙用電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

宇宙用電池
― 日陰を支える電池の大きさ、真空・温度の影響、安全、全固体電池など次世代の段階

人工衛星や宇宙ステーションは、太陽電池で発電しますが、地球の影に入ると発電できません。その時間を支えるのが電池です。宇宙の電池は、地上のスマートフォンや自動車の電池と同じ仕組み(リチウムイオン電池)が主流ですが、毎日十数回の充放電、真空、大きな温度差、そして人が乗る機体での安全という条件が加わります。 この記事は、宇宙の知識がなくても読めるように、①なぜ電池が要るのか(日陰の長さを計算します)、②リチウムイオン電池がどう使われているか、③電池の大きさの見積り、④宇宙環境の「5つの敵」との関係、⑤安全と標準、⑥全固体電池など次世代の研究段階、の順に、図と小さな計算で説明します。 新しい電池を「もう使える」とも「地上の話にすぎない」とも言わず、確認できたこと/計画/確認できなかったことを分けて書きます。

構成:NASA の技術資料・記事、NASA/TM-2009-215751(リチウムイオン電池の指針)、査読論文(Aerospace、Batteries)、ISO・ECSS の規格ページを使用/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月17日

セルに加えて、固定・接続・温度計測・監視回路をまとめた電池パックです。宇宙用途では構造と熱設計も含めて評価します。
図1 概念画像(ImageGen生成)。セルに加えて、固定・接続・温度計測・監視回路をまとめた電池パックです。宇宙用途では構造と熱設計も含めて評価します。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. なぜ宇宙で電池が要るのか:日陰の長さを計算する
  3. いまの主役はリチウムイオン電池:ISS の電池交換と小型衛星
  4. 電池の大きさの見積りと、寿命を決める「使い方」
  5. 宇宙環境の「5つの敵」と電池:真空・温度・放射線
  6. 安全:熱暴走と、有人機で求められること
  7. 全固体電池など次世代:月の夜に向けた研究の段階
  8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)
  9. 評価・標準の読み方
  10. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出・整理した値
未確定/将来=計画・目標・研究中で実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値の読み方

電池の性能値(Wh/kg、サイクル数、温度範囲)は、セルかパックか、メーカー公称か実測か、どんな条件かを添えたものだけを載せています。NASA の表に載るメーカーの値は、NASA が独立に検証したものではない、と NASA 自身が注記しています。 条件の違う数字(別の化学系、セルとパック、地上試験と軌道上)を並べて優劣はつけません。全固体電池などの新しい電池は研究・実証の段階であり、効果や価値を断定しません。電池の安全は、個別の機器・設計・運用で決まります。この記事は一般的な解説であり、特定の製品の安全性を保証したり、取り扱いの助言をしたりするものではありません。 この分野は変化が速いため、状態には確認日(2026年10月17日)を付けています。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • 電池は「日陰の電気」を担う:低軌道では、約92分の1周のうち最長で約36分、地球の影に入ります(高度400 kmの円軌道での本稿の簡易計算)本稿の計算。その間、太陽電池は発電できないので、電池が機器に電気を送ります。ISS は1日に16周するので、電池は毎日16回、充電と放電をくり返します事実[参考資料7]。
  • いまの主力はリチウムイオン電池:NASA は、リチウムイオン電池などが、従来のニッケルカドミウムやニッケル水素に代わって、現代の航空宇宙の標準になったと整理しています[参考資料1]。ISS では、2017年から2021年にかけて、48個のニッケル水素電池が24個のリチウムイオン電池に交換されました事実[参考資料4・5]。
  • 次世代は「固体の電解質」で、まだ研究・実証の段階:全固体リチウムイオン電池は、ISS の船外で434日・562回の充放電試験を行い、特性に大きな劣化は見られなかったと報告されています(140 mAh級、1種類の電池)事実[参考資料2]。月の南極の夜(約−200℃)を想定した NASA の試作セルは、2026年に始まった研究です事実[参考資料3]。主電源としての運用は、この記事の出典の範囲では確認できませんでした。
この記事を読む前に知っておくこと

前提知識はありません。「電池は電気をためて、必要なときに出す部品」程度で十分です。リチウムイオン電池の中身(正極・負極・電解液・セパレータ)は、本シリーズの『リチウムイオン電池の基本』編に、熱暴走の仕組みは『熱暴走と電池の安全』編にまとめています(この記事でも必要な点は短く説明します)。軌道については、「落ち続けながら、横に十分速く進むので地面に当たらない」状態と考えてください(大砲の弾を、とても速く撃ち出すたとえ。たとえの限界:実際は、薄い大気の抵抗や重力の分布で、軌道は少しずつ変わります)。

シリーズの中での位置

宇宙環境の「5つの敵」(①真空、②放射線、③大きな温度変化、④原子状酸素・紫外線、⑤微小重力・デブリ)のうち、電池がおもに戦うのは③温度と①真空、そして安全(熱暴走)です。この記事は、太陽電池と対になる記事で、先に『宇宙用太陽電池』編を読むと、「発電」と「蓄電」のつながりが分かりやすくなります。月の夜のように長い暗闇では、電池だけでは足りず、原子力電源(『原子力電源』編)が検討されます。

2. なぜ宇宙で電池が要るのか:日陰の長さを計算する

太陽電池は、光が当たっている間しか発電できません。地球を回る宇宙機は、1周のうちに、地球の「影」に入る時間があります。地球が太陽の光をさえぎるためです。その間は、あらかじめ電池にためた電気で、機器を動かします。

①日照中は太陽電池から負荷へ給電し、余剰で蓄電。②食の間は電池が負荷を支える考え方です。電源回路は省略した概念です。
図2 概念画像(ImageGen生成)。①日照中は太陽電池から負荷へ給電し、余剰で蓄電。②食の間は電池が負荷を支える考え方です。電源回路は省略した概念です。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
1周ごとに、「発電する時間」と「電池でしのぐ時間」がある(低軌道の例) 日照 約56分 日陰 約36分 1周 約92分(高度400 kmの円軌道で、最も日陰が長い場合。本稿の計算) 日照中:太陽電池が、負荷と電池の両方に電力を送る 太陽電池 負荷(機器) 電池(充電) 日陰中:電池だけが頼り 電池(放電) 負荷(機器) 太陽電池:発電なし ISS(NASA):1日に16周し、16回の日の出と日の入りを経る。元の8枚のアレイが昼間に作る電力の約半分は電池に蓄えられる。 → 電池は「毎日16回、充電と放電をくり返す」使い方になる

元SVGの説明:本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。日照約56分・日陰約36分は、高度400 kmの円軌道で、軌道面が太陽方向を含み日陰が最長になる場合の簡易計算(地球の影を円柱とみなし、半影は無視)本稿の計算。1日に16周・16回の日の出と日の入りは NASA の ISS 解説、昼間の発電量の約半分を電池に蓄えることは NASA の記事に基づきます事実。

日陰の長さを、簡単に見積ってみましょう。高度400 kmの円軌道(例)では、軌道の半径は約6771 km、周期は約92.4分です。太陽光が平行で、地球の影が円柱だとみなすと、影に入る弧の角度は 2×arcsin(地球の半径÷軌道の半径)≒ 140.4度、周回の約39%で、最長で約36分です本稿の計算(NASA は、ISS が約90分で地球を1周し、1日に16周すると説明しています[参考資料7])。静止軌道(高度約3万6千 km)では、影の弧が約17.4度と小さく、最大でも約69分、しかも春分・秋分ごろの限られた季節だけです本稿の計算。

低軌道(高度400 km) 静止軌道(高度 約35,800 km) 地球 太陽光 地球の影 周期 約92分 最長の日陰 約36分(周回の約39%) 濃い青の弧=影の中にいる区間 地球 太陽光 地球の影 周期 約24時間(1436分) 春分・秋分ごろの日陰 最大 約69分(約4.8%) 日陰になる日は、1年のうちの限られた季節 どちらも円軌道・赤道面・太陽光が平行・影は円柱という簡易計算(半影と軌道の傾きは無視)。左右で縮尺が違います。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。地球の半径6371 km、地球の重力定数398,600 km³/s²を使い、影の弧の角度を 2×arcsin(地球の半径÷軌道半径)で求めて周期に掛けました本稿の計算。低軌道は約36分(周期約92.4分)、静止軌道は最大約69分(周期1436分)です。実際の日陰の長さは、軌道の傾き・高度・季節・半影で変わります。
つまずきやすいところ:なぜ低軌道のほうが、影の「割合」が大きいのか

低軌道は地球のすぐ近くを回るので、地球が空の大きな部分をさえぎり、1周の約4割が影になります。静止軌道は地球から遠く、地球が小さく見えるので、影に入るのは1周のごく一部(約5%以下)です。ただし、静止軌道は1周が約24時間なので、1回の日陰の長さは、低軌道より長くなります(最大約69分)。たとえの限界:この計算は、軌道の傾きや太陽の高さ(季節)、半影を無視した簡易版です。実際の日陰の長さは、これらで変わります。

さらに、NASA の ISS の記事によると、元の8枚の太陽電池アレイが昼間に作る電力の約半分は、電池に蓄えられます[参考資料8]。電池は、非常用の予備ではなく、毎日の運用の、ほぼ半分の電気を受け持つ主役です。

3. いまの主役はリチウムイオン電池:ISS の電池交換と小型衛星

宇宙で使う電池は、使い捨ての一次電池と、充電できる二次電池に分かれます。NASA の資料によると、リチウム系の一次電池(LiSO₂、LiCFx、LiSOCl₂ など)は高いエネルギー密度が好まれるものの寿命が短く、短いミッションに使われ、最先端の蓄電方式とは見なされていません。充電できる二次電池では、リチウムイオン(Li-ion)とリチウムポリマー(LiPo)が、従来のニッケルカドミウム(NiCd)やニッケル水素(NiH₂)に代わって標準になった、と整理されています事実[参考資料1]。

(1) 有人の大きな機体の例:ISS の電池交換

ISS は、太陽電池の電気をためる電池として、長くニッケル水素電池を使っていました。NASA の記事によると、2017年1月に、新しいリチウムイオン電池と取り付け用のアダプター板への交換作業が始まり、ロボットアームでの作業と船外活動で進められました[参考資料5]。2021年2月1日の NASA の記事は、48個のニッケル水素電池を24個のリチウムイオン電池に交換する作業が完了したと述べています事実[参考資料4]。なお、48個を24個に置き換えたということは、新しい1個が古い2個に相当することを示します(本稿の計算48 ÷ 24 = 2)。推測:軽くて小さい電池に替えることが、有人の大きな施設でも利点になったと考えられますが、交換の理由の詳細は、この記事で開いた NASA の記事では確認できませんでした。

(2) 小型衛星の例:市販の円筒形セル

小型衛星では、市販の円筒形の18650セル(直径18 mm、長さ65 mm)が、もっとも使われる部品の一つです。NASA の資料は、その多くが複数の宇宙機で飛んでいる、と述べ、表に飛行実績を挙げています。たとえば、Sony の US18650VTC4(250 Wh/kg)は火星ヘリコプター Ingenuity、Panasonic の NCR18650B(243 Wh/kg)は MarCO や BioSentinel など、LG Chem の INR18650-MJ1(260 Wh/kg)は NASA の PACE ミッションで使われています事実[参考資料1]。数値はメーカー公称のセル単体の値で、NASA が独立に検証したものではない、と注記されています。

つまずきやすいところ:Wh/kg は「セル」か「パック」か

NASA は、市販のリチウムイオンのエネルギーセルが150〜270 Wh/kg(平均電圧3.6 V)、研究室や高高度の機体では450〜500 Wh/kgに達した例がある、と整理しています[参考資料1]。ただし、この数字はセル単体の値です。宇宙機に載せるときは、ケース・配線・保護回路・ヒーターなどが加わり、パックでは小さくなります。「Wh/kg」の分母に何が入っているか(活物質・セル・パック)の読み方は、『リチウムイオン電池の基本』編をご覧ください。

4. 電池の大きさの見積りと、寿命を決める「使い方」

では、日陰を支える電池は、どれくらいの大きさになるのでしょうか。例として、1 kW(1000 W)の機器を、36分の日陰のあいだ、電池だけで動かす場合を考えます。必要なエネルギーは、1000 W × 36/60 時間 = 600 Whです。

ここで大事なのが、放電の深さ(DoD:depth of discharge)です。DoD は、電池の定格容量のうち、1回の放電でどれだけ使うかの割合です(NASA の指針は、たとえば70%まで充電した電池を40%まで使えば、エネルギーの30%を使うので DoD は30%、と説明しています事実[参考資料6])。宇宙機では、寿命を延ばすために、電池の容量の一部だけを使うように設計することがあります(解説)。浅く使うほど、同じ600 Wh を出すのに、大きな電池が要ります。

0 5 10 15 20 電池セルの質量(kg) 20.0 12.0 放電の深さ(DoD)20% 必要な容量 3,000 Wh 13.3 8.0 放電の深さ(DoD)30% 必要な容量 2,000 Wh 10.0 6.0 放電の深さ(DoD)40% 必要な容量 1,500 Wh セルの比エネルギー 150 Wh/kg セルの比エネルギー 250 Wh/kg 1 kW の負荷を、36分の日陰のあいだ電池だけで支える(必要なエネルギー 600 Wh) 浅く使うほど(DoDが小さいほど)、同じ日陰を支えるのに大きな電池が要る。セルだけの質量で、パック・ヒーター・構造は含まない。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。容量=600 Wh÷DoD、質量=容量÷セルの比エネルギーの本稿の計算です本稿の計算。DoD の20・30・40%は例示(実際の設計値ではありません)。比エネルギー150・250 Wh/kg は、NASA が「市販のリチウムイオンのエネルギーセルは150〜270 Wh/kg」と整理した範囲から選んだ例示です事実[参考資料1]。充放電の効率・温度・劣化の余裕は含みません。

この例では、DoD を20%にすると容量3000 Wh、40%にすると1500 Wh が必要です。セルの比エネルギーを150 Wh/kg とすると、それぞれ20 kg、10 kg、250 Wh/kg とすると12 kg、6 kg です本稿の計算。この図の DoD の値は例示で、実際の設計値ではありません。パックにすると、ケースやヒーターなどが加わって、さらに重くなります。

寿命は「使い方」と「置き方」で決まる

では、なぜ浅く使うのでしょうか。NASA/TM-2009-215751 は、温度と放電の深さが、充放電を重ねたときに取り出せる容量に影響すると述べています[参考資料6]。さらに、充電の状態と温度は、保管中の劣化にも影響します。同じ資料は、ある市販セルを1年保管したとき、充電0%・0℃では容量の減りが2%未満、充電100%・40℃では約13%だった、という例を挙げています事実[参考資料6]。

使い方で寿命が変わる(傾向のみ) 放電の深さ(DoD)→ 深い 使える充放電の回数 ↑ 浅く使う → 回数が多い 深く使う → 回数が少ない 形は説明用で、数値は書かない(電池ごとに異なる) 保管でも減る:充電状態と温度 ある市販セルを1年保管したときの容量の減り(NASA の資料) 2 未満% 充電0%・0℃ で保管 約13% 充電100%・40℃ で保管 → 「いつ充電しておくか」「何℃に置くか」も寿命の設計の一部 低軌道のISS:16周×365日=1年に約5,840回(本稿の計算)
図5 概念図(ベクター作図)。左の曲線は傾向だけを示す模式図です。温度と放電の深さが、充放電を重ねたときに取り出せる容量に影響することは NASA/TM-2009-215751、右の「1年で2%未満/約13%」は同資料が挙げる一例(ある市販セル)です事実[参考資料6]。1年に約5,840回は、NASA の「1日16周」に365日を掛けた本稿の計算です本稿の計算。

低軌道の ISS では、1日16周なので、1年に約5,840回(16 × 365)の充放電になります本稿の計算。5年なら約29,200回です。地上のスマートフォンの電池が、1日1回ほどの充電であることと比べると、使われ方がまったく違います。NASA の資料も、宇宙機の電池は、ミッションに即した条件での寿命試験が不可欠だと述べています[参考資料1]。

つまずきやすいところ:試験の条件は、どこまで「宇宙」に近づけるか

Cook らの研究(2021)は、低軌道の小型衛星(CubeSat)で使う市販の円筒形セル3種を、3つの条件で、低軌道の電力パターンで充放電しました。「標準」(101 kPa、20℃)、「低温」(101 kPa、10℃)、「低軌道」(0.2 kPa、10℃、真空槽を使用)です。結果は、標準や低温の条件では、低軌道で起こる容量の低下を代表できず、真空を含む「低軌道」条件でメーカーのデータシートに近い結果になった、というもので、一部だけを再現する試験は勧められないと結論しています事実[参考資料9]。解説:試験条件が違えば、同じ電池でも結果が変わる、ということです。メーカーのデータシートを見るときは、どんな条件で測ったかを確認してください。

5. 宇宙環境の「5つの敵」と電池:真空・温度・放射線

電池の部品は、多くが機体の内部に置かれます。そのため、太陽電池ほど直接に宇宙の環境にさらされるわけではありません。それでも、真空・温度・放射線は、電池に影響します。次の図に、出典で分かることと、本稿の解説・推測を分けて整理しました。

宇宙環境の「5つの敵」と電池 敵 電池への影響(出典で分かること) 対策の方向 ① 真空 液体の電解質は蒸発するおそれ(NASA 2026)。セルの密閉の漏 れを真空で確かめる(NASA/TM-2009-215751) 密閉セル、漏れ検査、固体電 解質 ② 放射線 全固体電池は8 Mradのガンマ線の照射後も放電特性に異常なし(地 上、2025年の論文)。液体系は確認できなかった 照射試験、電子回路の放射線 対策は別の記事 ③ 温度変化 低温で電解液が固化してリチウムが析出するおそれ。実用の動作範囲は5 〜40 ℃(論文の記述) ヒーター、熱制御、固体電解 質 ④ 原子状酸素・紫外線 電池は機体の内部に置かれることが多く、直接の影響は小さいと考えられ る(解説・推測) 筐体、断熱材で覆う ⑤ 微小重力・デブリ 対流がなく、電池の熱が逃げにくい(解説)。デブリは筐体で受ける 伝熱の設計、遮蔽 灰色の文字の行は、出典で確認した事実ではなく、本稿の解説・推測
図6 概念図(ベクター作図)。出典:NASA の SPEARS の記事(2026年10月14日)、NASA/TM-2009-215751、Miyazawa ら(2025)。④⑤は一次情報で確認できなかったため、本稿の解説と推測です。

真空:液体は蒸発し、袋は膨らむ?

電池の中の電解液は、液体です。NASA の SPEARS の記事は、従来のリチウムイオン電池の液体を宇宙の真空にさらすと蒸発する、と述べています事実[参考資料3]。そのため、宇宙用の電池は、密閉の漏れがないかを確かめます。NASA/TM-2009-215751 は、飛行用の電池の受入試験として、真空での漏れ検査と充放電の機能確認を挙げています事実[参考資料6]。NASA グレン研究センターのペイロードの例として、0.1 psi(約0.7 kPa)の真空に6時間さらす試験も記されています[参考資料6]。

素材技術者の視点①:電池は「密閉された積層フィルムの容器」

リチウムイオンポリマー電池は、アルミを貼ったプラスチックの袋(パウチ)にセルを入れて作られる、と NASA/TM-2009-215751 は説明しています[参考資料6]。解説:袋の中に気体が残っていれば、外が真空だと内側から押されて膨らみます。袋の封止部分の強さ、封止材の透過性、電解液の蒸気圧が、宇宙での信頼性を左右します。円筒形や角形の金属ケースでも、封止部(ガスケットや弁)が真空での漏れの要になります。試験で見るのは、「中身の化学」だけでなく、「容器の材料と封止」です。

温度:電池は「暑がりで寒がり」

宇宙は「寒いから、電池は冷やす必要がない」と思われがちですが、電池は、使える温度範囲が狭い部品です。Miyazawa らの論文は、電解液に有機溶媒を使う従来のリチウムイオン電池について、低温では電解質が固化してリチウムが析出するおそれがあり、実用の動作範囲は安全と性能のため5〜40℃に限られると述べています事実[参考資料2]。NASA の資料も、宇宙の電池は大きな温度変化と高い充電電圧にさらされて劣化が早まる、と述べています[参考資料1]。そこで、電池にはヒーターや熱制御が付きます(『宇宙機の熱制御』編)。

よくある誤解:「宇宙は寒いから、電池は冷やさなくてよい」

正しくありません。宇宙には空気がなく、熱は放射でしか逃げません。電池は充放電で熱を出すので、熱の逃がし方を設計しないと温度が上がります。一方で、日陰では冷え切ります。電池は、決まった温度範囲に保つことが必要で、そのための熱制御が、電池システムの重さの一部になります。「宇宙は○○度」と一括して考えず、軌道・日照・機器の発熱で温度が決まる、と考えてください。

放射線:電池そのものより、周辺の電子回路

放射線の影響は、電池の項目では、出典で確認できたことが限られます。全固体電池については、単セルに2 Mrad と8 Mrad のガンマ線を照射した試験で、8 Mrad までの照射の前後で、25℃の放電特性に異常はなかった、と Miyazawa らが報告しています事実[参考資料2](8 Mrad は80 kGy に相当、本稿の計算)。液体電解質の電池の放射線影響は、この記事の出典の範囲では確認できませんでした。電池の充放電を管理する電子回路は、放射線の影響を受けうる別の部品で、『放射線と電子部品』編で扱います。

6. 安全:熱暴走と、有人機で求められること

リチウムイオン電池は、エネルギーが高く、電解液が燃えやすいため、安全の設計が欠かせません。NASA の資料は、液体電解質を使う電池は、損傷・過熱・過充電・水の浸入・製造上の欠陥などで熱暴走が起こり、火災や爆発に至る可能性がある、と述べています事実[参考資料1]。NASA/TM-2009-215751 は、リチウムイオン化学は、高い比エネルギーと可燃性の電解質のため、非常に高エネルギーであり、特に人が関わる宇宙用途では、この指針を参照して設計・試験・ハザード制御を行うことを勧めています[参考資料6]。熱暴走の仕組みと、地上の火災安全規格は、本シリーズの『熱暴走と電池の安全』編で詳しく扱います。

何を試験で確かめるのか

NASA/TM-2009-215751 は、電池レベルの安全試験として、少なくとも過充電、過放電、過熱、過圧、セル内部の短絡、外部短絡の条件で検証すること、また、1つのセルの故障が隣のセルや部品に広がる可能性(伝播)を評価することを挙げています事実[参考資料6]。セルレベルの乱用試験としては、過充電、過放電、外部短絡、内部短絡・圧壊、過熱による開放、振動、落下、開放・破裂の圧力の決定が挙げられています[参考資料6]。

素材技術者の視点②:安全は「電池の外」にも作り込まれる

NASA/TM-2009-215751 は、セルに内蔵された安全機構(たとえば PTC、電流遮断装置、シャットダウンセパレータ)を理解して特性を確認すること、電池に付く保護回路(ヒューズ、過充電・過放電の保護スイッチ)の特性を理解することを求めています[参考資料6]。解説:安全を材料で見ると、セパレータは温度が上がると孔をふさぐ(シャットダウン)、ケースは内圧が上がったときに計画的に開く、などの「材料に作り込まれた安全」があります。宇宙では、これらの機能が真空・低圧でも期待どおりに動くかが重要で、試験で確かめます。

有人機では、機体ごとに承認を受ける

NASA/TM-2009-215751 は、有人の宇宙飛行について、NASA ジョンソン宇宙センターの要求の要約を載せています。それによると、すべての電池は、その検証・スクリーニングのプログラム、軌道上での使い方、飛行後の処理を、電力系の電池技術者またはペイロード安全審査パネルが評価・承認する必要があり、特定のハードウェアでの承認は、一般的な認証とは見なされず、ハードウェアの構成ごとに電池の使用の承認を得る必要があるとされています事実[参考資料6]。同資料は、有人機向けの NASA の文書『Crewed Space Vehicle Battery Safety Requirements』(JSC-20793、同資料が引くのは Rev. B、2006年4月)を参考文献に挙げています[参考資料6]。この文書の最新の版は、この記事では確認できませんでした。

7. 全固体電池など次世代:月の夜に向けた研究の段階

NASA の記事は、月の南極の夜は約−200℃(−328°F)まで下がり、月の昼は約100℃(212°F)になると述べています事実[参考資料3]。従来のリチウムイオン電池は、液体の電解質が凍る・蒸発する・熱すぎると動かない、という弱点があります。そこで、液体を固体のセラミックやポリマーに替える「固体電池」が研究されています。

月の夜と昼、真空:液体の電解質は何が困るか 条件 液体電解質(従来のリチウムイオン) 固体電解質(開発・実証の段階) 低温 (月の極の夜 約−200 ℃) 液体が凍って、電池を傷めるおそれ 凍らない。試作セルは−60 ℃で動作、−80 ℃でも 性能は下がるが動作。−170 ℃に曝しても損傷なし( NASA SPEARS) 高温 (月の昼 約100 ℃) 熱すぎると冷やすまで動かない 試作セルは80 ℃まで動作(SPEARS)。硫化物系 の全固体電池は−40〜+120 ℃を動作範囲とする( JAXA・日立造船の論文) 真空 液体が蒸発するおそれ 蒸発する液体がない。ただし、温度の伸び縮みによる材料 の応力など別の課題が残る(NASA) 注意:固体側の数値は、試作の小型セルや1種類の電池での結果で、容量・寿命・量産性は別の課題。 「温度の値」は、出典の記述をそのまま写したもので、実際の月面の場所・時期で変わる。
図7 概念図(ベクター作図)。月の夜の約−200 ℃・昼の約100 ℃、液体の凍結・蒸発、SPEARS の試作セルの試験結果は NASA の記事(2026年10月14日)に、−40〜+120 ℃は JAXA と日立造船らの論文(2025年)に、熱膨張の不一致などの課題は NASA の資料に基づきます事実[参考資料1・2・3]。

(1) NASA の SPEARS:試作の小型セルの熱真空試験

NASA の SPEARS(Solid Power for Extreme Environment Adaptability and Resilience in Space)は、2026年に始まった研究で、NASA グレン研究センターが主導します。NASA ラングレー研究センターの熱真空試験では、試作の小型セルが、80℃まで、−60℃まで正常に動作し、−80℃までは性能がやや下がりつつ動作しました。さらに、100℃から−170℃の温度にさらしたあとも損傷がなかった、とされています事実[参考資料3]。なお、固体電池でも−170℃(−274°F)では動かないが、液体のように凍らないので生き残り、小さなヒーターで動作温度まで温めれば再び働く、という説明です[参考資料3]。同記事は、まず技術開発に集中し、その後、商業との協力に移る可能性がある段階と述べています未確定/将来。

(2) ISS の船外での実証:434日・562回

Miyazawa らの論文(2025)によると、硫化物系の固体電解質、ニッケル・コバルト・マンガン系の正極(三元系)、黒鉛系の負極をもつ140 mAh級の全固体リチウムイオン電池が、ISS の船外(暴露部)に434日置かれ、基本の充放電特性の確認に加えて562回の充放電サイクル試験が行われ、充放電特性にも外観にも大きな劣化は見られなかったとされています事実[参考資料2]。この電池の動作温度範囲は−40〜+120℃とされ、地上の事前試験では、温度・真空・機械的な耐久性とガンマ線を確認したうえで、宇宙での実証に進んだ、と述べています[参考資料2]。同論文は、地上の充放電特性から全固体電池の寿命特性を推定できることが確かめられたと述べていますが、これは1種類・小容量の電池での結果で、大容量化や月面での長期運用は、この記事の出典の範囲では確認できませんでした。

素材技術者の視点③:固体電解質は「界面」と「熱」の問題に変わる

固体電解質は、液体の問題(凍結・蒸発・可燃性)を解決する一方で、新しい課題があります。NASA の資料は、固体電解質は熱伝導率が低く、熱がこもって局所的な高温部(ホットスポット)ができ、材料を劣化させうること、電池内の各材料の熱膨張率の違いが温度変化で応力を生み、構造や性能を損なう可能性があること、リチウム金属の負極ではデンドライト(針状の析出)を防ぐ慎重な設計が必要なことを挙げています事実[参考資料1]。Miyazawa らの論文は、硫化物系の固体電解質は室温で高いイオン伝導度と加工のしやすさをもち大容量化に向く一方、酸化物系は化学的な安定性と安全性が高いが、高温の処理が要り、電極との接触性が低く、数Ah級への大容量化が難しい、と整理しています[参考資料2]。解説:つまり、固体電池では、固体どうしの界面をどう密着させるか、熱をどう逃がすか、伸び縮みの違いにどう耐えるかという、素材・プロセスの課題が中心になります。

(3) その他の研究対象

NASA の資料は、リチウムイオンの後継として、リチウム金属、リチウム硫黄、シリコンを多く含む負極、高電圧の正極、固体電池などを挙げ、エネルギー密度は有望だが、サイクル寿命や安定性とのトレードオフがあるとしています[参考資料1]。固体電池の表には、Solid Power のリチウム金属セル(440 Wh/kg)や QuantumScape の NMC セル(300 Wh/kg、予測値)など、メーカーの値が載っています事実[参考資料1]。これらはメーカーが公表した値で、NASA が検証したものではなく、宇宙での運用を示すものでもありません。また、シリコン負極の Amprius の電池が、成層圏の高高度擬似衛星で67日間、450 Wh/kg で飛行したことも NASA の資料に載りますが[参考資料1]、これは宇宙空間ではありません。

宇宙用電池の種類別の段階(確認日 2026年10月17日) 地上の研究 地上の宇宙環境試験 短時間の飛行 軌道上で暴露 主電源として運用 リチウムイオン (液体電解質) シリコン負極など 高エネルギー型 - - - 全固体リチウムイオン (硫化物系、140 mAh級) - - 固体電池 SPEARS (試作の小型セル) - - - 再生型燃料電池 (URFC) - - - - この記事の出典で確認できた 「-」は出典の範囲では確認できなかった(行われていない、という意味ではない) 記号は「段階」であり、性能の優劣ではない。「地上の宇宙環境試験」は熱真空・ガンマ線などの試験を指す。
図8 概念図(ベクター作図)。判定は、NASA「State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology」(2026年5月7日版)、ISS の電池交換に関する NASA の記事、Miyazawa ら(2025、ISS 暴露実験)、NASA の SPEARS の記事(2026年10月14日)に基づく本稿の整理です本稿の計算。シリコン負極の電池は成層圏の高高度擬似衛星での飛行(67日)が NASA の資料に載りますが、宇宙空間ではありません。
よくある誤解:「全固体電池なら、宇宙では安全で寿命も長く、もう使える」

いまのところ、そうは言えません。固体電解質は、燃えにくく温度範囲が広いと期待されていますが、NASA の SPEARS は2026年に始まった研究で、熱真空試験の対象は小型の試作セルです。ISS の暴露実験は、140 mAh級の1種類の電池で、期間も434日です。主電源に必要な大容量・長寿命・量産性を、宇宙環境も含めて示した例は、この記事の出典の範囲では確認できませんでした。「地上の電気自動車用の話」と「宇宙用の話」も、分けて読んでください。

日陰で使う電池は、蓄える量だけでなく温度を保つ仕組みも必要です。探査車と電池の拡大断面は縮尺が異なり、実在機の夜間生存実績を示しません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。日陰で使う電池は、蓄える量だけでなく温度を保つ仕組みも必要です。探査車と電池の拡大断面は縮尺が異なり、実在機の夜間生存実績を示しません。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。

8. いまどこまで来たか(2026年10月17日確認)

この分野は変化が速いので、一次情報で確認できたことを、確認日つきで整理します。企業の主張は、その企業の主張として書きます。

項目確認できたこと区分
主力の電池NASA の整理(2026年5月7日版)では、リチウムイオンとリチウムポリマーが、ニッケルカドミウムやニッケル水素に代わって標準。市販のリチウムイオンのエネルギーセルは150〜270 Wh/kg(セル単体)[参考資料1]事実
有人施設の電池ISS は、2017年から2021年にかけて、48個のニッケル水素電池を24個のリチウムイオン電池に交換(NASA の記事、2021年2月1日付で作業完了)[参考資料4・5]事実
全固体電池の軌道上試験140 mAh級の硫化物系全固体リチウムイオン電池を ISS 船外に434日、562回の充放電、大きな劣化なし(2025年の論文、1種類の電池)[参考資料2]事実
月の夜向けの固体電池NASA の SPEARS(2026年開始)。試作の小型セルが、熱真空試験で80℃〜−60℃で動作、−80℃でも性能低下つきで動作、100℃〜−170℃の曝露で損傷なし。技術開発の初期段階(NASA の記事、2026年10月14日)[参考資料3]事実
全固体電池の主電源としての運用宇宙機の主電源として全固体電池が運用された例は、この記事の出典の範囲では確認できなかった。液体電解質の電池の放射線影響も確認できなかった未確定/将来
電池に特化した規格ISO 17546:2024(宇宙機用リチウムイオン電池の設計と検証の要求)は発行済みで、改訂中(ISO/CD 17546-1 と -2 が開発中)。ECSS の有効な標準の一覧に、電池を題名にした標準は見当たらなかった[参考資料10・11]事実

確認日は2026年10月17日。ロードマップや研究の目標は、達成済みの事実とは別です。

この記事のまとめ(現状)

宇宙の電池は、日陰の電気を担い、毎日十数回の充放電をくり返します。主力はリチウムイオン電池で、ISS でも24個に交換されました。電池の大きさと寿命は、「放電の深さ」「温度」「置き方」という使い方で決まり、試験は、宇宙の条件をできるだけ再現して行います。固体電池は、月の夜のような極端な環境を狙った研究・実証の段階で、主電源としての実績は、まだ確認できていません。

9. 評価・標準の読み方

宇宙用電池の良し悪しは、1つの数字では測れません。「Wh/kg」は、セルか、パックかで意味が変わります。「サイクル寿命」は、放電の深さ・温度・充電の電圧とセットで見ます。「安全」は、過充電や短絡などの乱用試験で確かめます。そして「本当に宇宙で使えるか」は、規格に沿った認定(qualification)と、真空・熱真空などの環境試験、実際の飛行実績で判断します。これらの「ものさし」が何を測り、何を測っていないかを、確認できた範囲で表にします。

評価項目代表的な試験・評価手法(名称・出典)標準・指針(ISO・ECSS・NASA など)読み方の注意
エネルギー密度(Wh/kg)セルの定格容量と質量から算出。NASA の表は、メーカーの公表値を整理[参考資料1]事実確認できなかった(NASA は、表の値を独立に検証していないと注記)セル単体かパックか。メーカー公称か実測か。『リチウムイオン電池の基本』編の「分母を3回確かめる」を参照
寿命(サイクル・保管)ミッションに即した条件での寿命試験(NASA の資料は不可欠とする)[参考資料1]。Cook らは、真空・低温を含めた低軌道の条件でないと代表できないと報告[参考資料9]事実ISO 17546:2024 "Space systems — Lithium ion battery for space vehicles — Design and verification requirements"(ISO/TC 20/SC 14、第2版、2024年2月、Published。性能・安全・物流の観点から設計と最小限の検証の要求を規定。本文は有料で未確認)[参考資料10]事実DoD・温度・充電状態をそろえて比べる。一部だけを再現した試験は勧められない(Cook ら)
安全(乱用試験)NASA/TM-2009-215751:電池レベルで、過充電・過放電・過熱・過圧・セル内部の短絡・外部短絡の検証と、セル間の伝播の評価。セルレベルの乱用試験(過充電、過放電、外部短絡、内部短絡・圧壊、過熱による開放、振動、落下、開放・破裂の圧力)[参考資料6]事実NASA/TM-2009-215751(NESC-RP-08-75、2009年。指針であり、標準ではない)[参考資料6]。有人機向けの JSC-20793(同資料が引くのは Rev. B)。ISO 17546:2024(上記)「指針」と「要求」は別。有人機では、ハードウェアの構成ごとの承認が必要(NASA/TM-2009-215751 の要約)
真空・熱真空飛行用電池の真空での漏れ検査(受入試験)。NASA グレンのペイロードの例では、0.1 psi の真空に6時間[参考資料6]事実。全固体電池の熱真空・ガンマ線の試験[参考資料2]ISO 17546:2024(上記)。ECSS:電池そのものを題名にした標準は、有効な標準の一覧に見当たらなかった(ECSS-E-ST-20-20C は、LCL/RLCL による主バスの電力の配電が対象で、電池を対象とする記載は適用範囲に見当たらない)[参考資料11・12]事実熱真空の温度範囲・サイクル数・真空度が試験ごとに違う。結果は、その条件での値
放射線全固体電池の単セルへの2 Mrad・8 Mrad のガンマ線照射と、放電特性の前後比較(地上、2025年)[参考資料2]事実電池に特化した放射線試験の標準は確認できなかったガンマ線の総線量の試験は、宇宙の電子・陽子の影響そのものではない。液体系は確認できなかった
輸送(打上げ前)UN 38.3(輸送)。『熱暴走と電池の安全』編で整理UN 38.3 の本文は、本稿では確認していない輸送の試験は、宇宙での運用や熱伝播の試験ではない
軌道上の実績ISS のリチウムイオン電池24個(2021年に交換完了)[参考資料4]。全固体電池の434日・562回の暴露[参考資料2]事実該当する標準は確認できなかった。JAXA の技術標準(JERG)に該当項目があるかは、サイトにアクセスできず確認できなかった軌道・期間・温度が違えば結果も違う。1種類の電池の結果を一般化しない

表の整理は本稿の計算(整理)。規格の番号・題名・状態は ISO・ECSS の公式ページで確認(確認日 2026年10月17日)。ISO 規格の本文は有料で未確認のため、題名・適用範囲の記載にとどめています。ASTM International の規格・サイトは参照していません。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 地上試験と軌道上の実績は別です:NASA の指針の試験(振動・熱真空・漏れ検査)や、ガンマ線の照射試験は、宇宙環境を単純化したものです。ISS 暴露の結果も、1種類の電池・約1年の期間の結果です。
  • メーカー公称と第三者の検証は別です:NASA の表のメーカーの値は、NASA が独立に検証していません[参考資料1]。SPEARS の試験結果は、NASA の研究チームの報告で、試作の小型セルのものです。
  • 指針は「要求」ではありません:NASA/TM-2009-215751 は指針で、法的な拘束力のある標準ではありません。ISO 17546 は、本文を確認できていません。「規格に準拠」という表現は、どの規格のどの項かを確認してください。
  • 計画と達成は別です:SPEARS は2026年に始まった研究で、「月の夜に使える電池」の完成を示すものではありません。

10. 用語集

日照/日陰(食)
太陽の光が当たる時間/地球などの影に入る時間。日陰では太陽電池が発電できない。
一次電池/二次電池
一次=充電できない(使い捨て)。二次=充電して繰り返し使える。
リチウムイオン電池
リチウムイオンが正極と負極のあいだを行き来して充放電する電池。宇宙の主力。
ニッケル水素(NiH₂)/ニッケルカドミウム(NiCd)
リチウムイオンの前に宇宙で使われていた二次電池。
電解質(電解液)
電池の中でイオンが動く媒体。従来は液体、固体電池では固体。
比エネルギー(Wh/kg)
重さあたりに蓄えられるエネルギー。セルかパックかで意味が変わる。
放電の深さ(DoD)
定格容量のうち、1回の放電で使う割合。
充電状態(SOC)
いまの充電の程度(満充電を100%とする)。
サイクル寿命
充電と放電を1回とした、使える回数。
熱暴走
電池の内部で熱と反応が連鎖して、温度が急に上がる現象。『熱暴走と電池の安全』編で詳しく扱う。
乱用試験
過充電、過放電、短絡、圧壊、過熱など、わざと過酷な状況にして安全を確かめる試験。
パウチセル
アルミを貼ったプラスチックの袋にセルを入れた電池。
18650セル
直径18 mm・長さ65 mmの円筒形セル。市販品が小型衛星でよく使われる。
COTS
Commercial off-the-shelf。民生の市販品。
熱真空試験
真空中で温度を上下させ、動作と耐久性を確かめる試験。
真空漏れ検査
密閉されたセルや電池が、真空中で漏れないかを確かめる検査。
全固体電池
電解質(とセパレータ)を固体に置き換えた電池。
硫化物系/酸化物系
固体電解質の2つの代表的な種類。前者は加工しやすく、後者は安定性が高い。
デンドライト
リチウム金属の負極で、充電のときに針状に析出する結晶。内部短絡の原因になりうる。
Mrad/kGy
放射線の吸収線量の単位。1 Mrad = 10 kGy(8 Mrad = 80 kGy)。
認定(qualification)
規格に沿った試験で、ある製品の設計が要求を満たすことを確かめること。受入試験とは別。

11. 参考資料(一次情報)

  1. NASA "State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology, 3.0 Power"(2026年5月7日版。確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/power-subsystems/
  2. Miyazawa Y. ほか "Space Demonstration of All-Solid-State Lithium-Ion Batteries Aboard the International Space Station", Aerospace 12, 514 (2025), DOI 10.3390/aerospace12060514 — doi.org/10.3390/aerospace12060514
  3. NASA "NASA Develops Batteries to Power Humanity's Return to Moon"(Joe Atkinson、2026年10月14日) — nasa.gov/centers-and-facilities/langley/nasa-develops-batteries-to-power-humanitys-return-to-moon/
  4. NASA 宇宙ステーションブログ "Spacewalkers Wrap Up Battery Work and Camera Installations"(2021年2月1日) — nasa.gov/blogs/spacestation/2021/02/01/spacewalkers-wrap-up-battery-work-and-camera-installations/
  5. NASA 宇宙ステーションブログ "Astronauts Complete First of Two Power Upgrade Spacewalks"(2017年1月6日) — nasa.gov/blogs/spacestation/2017/01/06/astronauts-complete-first-of-two-power-upgrade-spacewalks/
  6. McKissock B., Loyselle P., Vogel E. "Guidelines on Lithium-ion Battery Use in Space Applications", NASA/TM-2009-215751(NESC-RP-08-75/06-069-I、2009年5月) — ntrs.nasa.gov/citations/20090023862
  7. NASA "Space Station Facts and Figures"(確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/international-space-station/space-station-facts-and-figures/
  8. NASA "New Solar Arrays to Power NASA's International Space Station Research"(2021年1月11日。確認日 2026年10月17日) — nasa.gov/missions/station/new-solar-arrays-to-power-nasas-international-space-station-research/
  9. Cook R., Swan L., Plucknett K. "Impact of Test Conditions While Screening Lithium-Ion Batteries for Capacity Degradation in Low Earth Orbit CubeSat Space Applications", Batteries 7, 20 (2021), DOI 10.3390/batteries7010020 — doi.org/10.3390/batteries7010020
  10. ISO "ISO 17546:2024 Space systems — Lithium ion battery for space vehicles — Design and verification requirements"(ISO のページ。状態は Published、第2版。確認日 2026年10月17日) — iso.org/standard/83872.html
  11. ECSS 有効な ECSS 標準の一覧(確認日 2026年10月17日) — ecss.nl/standards/active-standards/
  12. ECSS "ECSS-E-ST-20-20C – Electrical design and interface requirements for power supply (15 April 2016)"(規格ページ。適用範囲を確認) — ecss.nl/standard/ecss-e-st-20-20c-space-engineering-electrical-design-and-interface-requirements-for-power-supply-15-april-2016-2/

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
リチウム系の一次電池は短いミッション向けで最先端の蓄電方式とは見なされないこと。リチウムイオンとリチウムポリマーが、NiCd・NiH₂に代わって標準になったこと。市販リチウムイオンのエネルギーセルが150〜270 Wh/kg(平均3.6 V)、研究室・高高度で450〜500 Wh/kg、Amprius の電池が成層圏の擬似衛星で67日間450 Wh/kg。18650セルの飛行実績(Ingenuity、MarCO、PACE など)と比エネルギー。熱暴走の原因の列挙。宇宙の電池が大きな温度変化と高い充電電圧にさらされ、ミッション条件での寿命試験が不可欠なこと。固体電池の特長と課題(熱伝導率、熱膨張の不一致、デンドライト)、Solid Power・QuantumScape の値(メーカーの値)、リチウムイオンの後継の候補とトレードオフ。NASA が表の値を独立に検証していないことNASA「State-of-the-Art of Small Spacecraft Technology」電力の章(2026年5月7日版)
出典1 https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/power-subsystems/
事実
全固体電池の ISS 暴露実験(434日、562回、大きな劣化なし、140 mAh級、硫化物系・NMC 正極・黒鉛負極)、動作温度範囲−40〜+120℃、従来のリチウムイオンの実用動作範囲5〜40℃、2 Mrad・8 Mrad のガンマ線照射で放電特性に異常なし、硫化物系と酸化物系の違い、地上の事前試験(温度・真空・機械的耐久性・ガンマ線)Miyazawa ら(2025)の要旨・本文
出典2 https://doi.org/10.3390/aerospace12060514
事実
SPEARS(2026年開始、グレンが主導)、月の南極の夜約−200℃・昼約100℃、液体の凍結と蒸発、試作の小型セルが80℃〜−60℃で動作・−80℃でも性能低下つきで動作・100℃〜−170℃の曝露で損傷なし、ヒーターでの再起動、技術開発の初期段階NASA の記事(2026年10月14日)
出典3 https://www.nasa.gov/centers-and-facilities/langley/nasa-develops-batteries-to-power-humanitys-return-to-moon/
事実
48個のニッケル水素電池を24個のリチウムイオン電池に交換する作業が完了したこと(2021年2月1日の記事)NASA ISS ブログ
出典4 https://www.nasa.gov/blogs/spacestation/2021/02/01/spacewalkers-wrap-up-battery-work-and-camera-installations/
事実
2017年1月に始まった、新しいリチウムイオン電池とアダプター板によるニッケル水素電池の交換NASA ISS ブログ(2017年1月6日)
出典5 https://www.nasa.gov/blogs/spacestation/2017/01/06/astronauts-complete-first-of-two-power-upgrade-spacewalks/
事実
DoD の定義と例、温度と DoD がサイクルでの容量に影響すること、保管1年での容量の減り(充電0%・0℃で2%未満、100%・40℃で約13%)、リチウムイオンの危険性と有人用途での指針の使用、電池レベルの安全試験の項目、乱用試験、真空漏れ検査、グレンのペイロードの真空曝露(0.1 psi、6時間)、パウチセルの構造、セルの安全機構と保護回路、有人機での電池の承認の要約、JSC-20793 Rev. B の参照NASA/TM-2009-215751
出典6 https://ntrs.nasa.gov/citations/20090023862
事実
ISS が約90分で1周し、1日に16周、16回の日の出と日の入りを経ることNASA の ISS 解説
出典7 https://www.nasa.gov/international-space-station/space-station-facts-and-figures/
事実
元の8枚の ISS アレイが昼間に作る電力の約半分が電池に蓄えられることNASA の記事
出典8 https://www.nasa.gov/missions/station/new-solar-arrays-to-power-nasas-international-space-station-research/
事実
低軌道の CubeSat 用の市販セルを、標準(101 kPa、20℃)・低温(10℃)・低軌道(0.2 kPa、10℃)で試験した結果と、部分的な再現は勧められないという結論Cook ら(2021)の要旨
出典9 https://doi.org/10.3390/batteries7010020
事実
ISO 17546:2024 の番号・題名・適用範囲・状態(Published、第2版、2024年2月、改訂中で ISO/CD 17546-1 と -2 が開発中)ISO の規格ページ(確認日 2026年10月17日)
出典10 https://www.iso.org/standard/83872.html
事実
ECSS の有効な標準の一覧に、電池を題名にした標準が見当たらなかったことECSS の標準一覧(確認日 2026年10月17日。題名の一覧を確認したもので、本文は確認していない)
出典11 https://ecss.nl/standards/active-standards/
事実
ECSS-E-ST-20-20C の適用範囲(LCL/RLCL による主バス電力の配電。電池を対象とする記載は見当たらない)ECSS の規格ページ
出典12 https://ecss.nl/standard/ecss-e-st-20-20c-space-engineering-electrical-design-and-interface-requirements-for-power-supply-15-april-2016-2/
事実
日陰の長さ(高度400 km で最長約36分・周期約92.4分、静止軌道で最大約69分・周期1436分)、1 kW×36分=600 Wh、容量と質量の概算(3000/2000/1500 Wh、20/13.3/10 kg と12/8/6 kg)、1年に約5,840回(16×365)、5年で約29,200回、48÷24=2、8 Mrad=80 kGy幾何と簡単な式からの計算。仮定は本文と図に明記
本稿の計算
本稿の計算
全固体電池の宇宙機の主電源としての運用例、液体電解質の電池の放射線影響、ISO 17546 の本文、JSC-20793 の最新版、JAXA の技術標準の該当項目、UN 38.3 の本文、ISS の電池交換の理由の詳細本稿の調査範囲でアクセスできた一次資料では確認できなかったため、記載していません解説
「電池は容器の材料と封止で信頼性が決まる」「固体電池では界面・熱・伸び縮みが課題になる」「④原子状酸素・紫外線と⑤微小重力・デブリの電池への影響」という読み取り、大砲のたとえとその限界本稿による解説・推測(出典の事実をもとにした読み取り)解説
図1〜図9が実データの観察ではなく、説明のための作図であること。図1と図9がAI生成の概念画像の枠であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月17日/出典は一次情報(NASA の資料・記事、NASA/TM-2009-215751、査読論文、ISO・ECSS の規格ページ)に限定しています。メーカーの値は「メーカー公称」と明記し、独立に検証されたものとは区別しました。 計算例(日陰の長さ、電池の大きさ、充放電の回数)は本稿が作った説明用の計算で、特定の衛星の設計値ではありません。この記事は一般的な解説であり、電池の取り扱いや安全の助言ではありません。 全固体電池の主電源としての運用例、液体電解質の電池の放射線影響、ISO 17546 の本文、JAXA の技術標準の該当項目については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図9はAI生成画像の枠(画像は未設置)です。実際の施設・製品・外観を示すものではありません。