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ロケットの基礎 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

ロケットの基礎
― ロケット方程式を、図と数値の例でやさしく

ロケットは、燃料を燃やして軽くなりながら進む乗り物です。なぜ巨大なのに荷物は少ししか運べないのか、なぜ段を切り離すのか、比推力(燃料の「燃費」)とは何か。この記事は、ロケット方程式を式の暗記ではなく、具体的な数値の例で確かめながら説明します。実在の機体(Falcon 9)の公称値と、打ち上げの流れも見て、素材技術者にとって「質量1 kg」がなぜ重いのかまで、図でつなげます。

構成:NASAグレン研究センターの教材・SpaceXの製品ページとユーザーズガイド(メーカー公称)・JAXA・ISO・FAA(eCFR)の公式ページ/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月17日

円筒の段と段をつなぐ接合面を見ます。拡大枠は荷重を受ける接合部と配線で、実物の大きさとは分けています。
図1 概念画像(ImageGen生成)。円筒の段と段をつなぐ接合面を見ます。拡大枠は荷重を受ける接合部と配線で、実物の大きさとは分けています。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. ロケットはどう進むか:噴いた分の反作用
  3. 比推力:推進剤の「燃費」
  4. 軌道に乗るために必要な速さ
  5. ロケット方程式:数値の例で確かめる
  6. 段を分ける理由:荷物の割合の計算
  7. 実在の機体で見る:Falcon 9の公称値
  8. 打ち上げの流れ
  9. 素材技術者の視点:軽さの価値は、段で違う
  10. 評価・標準の読み方/限界/用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標など、確定していない事項
このほか、素材分野への読み取りは「解説」として区別します。推測は太字で示します。たとえ話には必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値の読み方

第4〜6章の「必要な速さ9.4 km/s」「構造の割合8 %」「比推力300・350・450秒」は、説明のために置いた仮定の値で、実在の機体のものではありません。実在の機体の数値は、Falcon 9のメーカー公称値(SpaceX)、H3のJAXAの紹介ページのものだけを使い、条件(機体・軌道・日付)を添えます。異なる機体の数値を並べて優劣はつけません。確認日は2026年10月17日です。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • ロケットは「噴いた分の反作用」で進みます。推力は、排気の質量の流れと排気の速さの積です。空気を押すのではないので、真空でも進めます[参考資料1]事実。
  • 軌道に乗るには、質量の大半が推進剤になります。必要な速さを9.4 km/s、比推力を350秒と仮定すると、質量比は約15.5。打ち上げ時の質量の約94 %が推進剤で、荷物と構造に回せるのは約6.5 %です本稿の計算。
  • だから段を切り離します。同じ仮定で、構造の割合を8 %とすると、1段では荷物ゼロでも軌道に届かず、2段なら荷物は約3.6 %になります本稿の計算。実在のFalcon 9の公称値は、打ち上げ質量に対する低軌道への荷物が約4.2 %です[参考資料5]事実本稿の計算。
この記事を読む前に知っておくこと

前提知識はありません。軌道の考え方(「落ち続けながら横に進む」)と、低軌道の速さ(約7.7 km/s)は、シリーズの入口「宇宙産業概論」編で説明しています。式は2つだけ(推力と、ロケット方程式)で、使うときは文章で意味を説明し、数値の例で確かめます。

シリーズの中での位置

この記事は、入口の「宇宙産業概論」編の次に読むとつながりやすい記事です。次は「再使用ロケット」編(回収と再使用で何が変わるか)、続いて「ロケットエンジンと推進剤」編(各エンジンの比推力など実機の値)、「液体水素」編、「軽量構造材料」編、「宇宙用CFRPと複合材料」編に進むと、この記事の「軽さの価値」の話が、材料の話につながります。

2. ロケットはどう進むか:噴いた分の反作用

スケートボードに乗って、重いボールを後ろへ投げると、自分は前へ動きます。ボールが重く、速く投げるほど、自分は強く押されます。ロケットは、これと同じことを、高温の排気ガスを後ろへ噴き続けて行います。

噴き出すガスと逆向きに機体が力を受けます。燃料と酸化剤を持つため、空気を押して進む仕組みではありません。矢印は力や流れの模式です。
図2 概念画像(ImageGen生成)。噴き出すガスと逆向きに機体が力を受けます。燃料と酸化剤を持つため、空気を押して進む仕組みではありません。矢印は力や流れの模式です。 [参考資料1]実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
進むしくみは「噴いた分の反作用」 身近な例:後ろへ物を投げると前へ動く 投げる 進む 投げた物の「質量×速さ」の分だけ、自分が反対向きに押される。 ロケット:排気ガスを後ろへ噴く 推力 F 排気(質量の流れ ṁ) NASAは、推力を F = ṁ × V_eq(排気の質量の流れ × 等価な排気速度)と表します。空気を押すのではなく排気の反作用なので、真空でも進めます。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。進むしくみは「噴いた分の反作用」。左は身近な例、右はロケット(概念図)。推力の式はNASAグレン研究センターの教材[参考資料1]による。

NASAグレン研究センターの教材は、ロケットの推力を、F = ṁ × V_eq と書きます。ṁ(エムドット)は、排気の質量が1秒あたりどれだけ出るか(質量の流れ)、V_eq は等価な排気速度(排気の速さに、ノズル出口の圧力の効果を足したもの)です[参考資料1]事実。つまり、推力を大きくするには、たくさんの排気を、速く噴くのです。

つまずきやすいところ:「空気がないと、押すものがなくて進めないのでは?」

ロケットが押しているのは、空気ではなく、自分が噴いた排気です。排気の反作用で進むので、真空でも進めます[参考資料1]。スケートボードの例では、床ではなく、投げたボールが「押す相手」にあたります。たとえの限界:ボールは何度か投げると手元からなくなりますが、ロケットは、排気を毎秒、大量に噴き続けます。そのため、質量がどんどん減っていきます(第5章)。

3. 比推力:推進剤の「燃費」

推進剤が少なくて済むロケットのほうが、荷物をたくさん運べます。その効率を表す量が比推力(I_sp)です。NASAグレン研究センターの教材は、I_sp = F ÷ (ṁ × g₀)、つまり I_sp = V_eq ÷ g₀ と定義します。g₀ は標準の重力加速度(9.80665 m/s²)です[参考資料1]事実。

単位は「秒」です。比推力が大きいエンジンは、同じ量の推進剤で、より大きな推力を出せる、効率のよいエンジンです[参考資料1]事実。数値で確かめます。比推力が300秒なら、等価な排気速度は 300 × 9.80665 ÷ 1000 ≒ 2.94 km/s、350秒なら約3.43 km/s、450秒なら約4.41 km/s です本稿の計算。

比推力=推進剤の「燃費」 比推力 300 秒(例示) 排気速度 約2.94 km/s 比推力 350 秒(例示) 排気速度 約3.43 km/s 比推力 450 秒(例示) 排気速度 約4.41 km/s 0 1 2 3 4 5 等価な排気速度 V_eq(km/s)= 比推力 × 9.80665 ÷ 1000 比推力 I_sp = F ÷ (ṁ × g₀)。単位は「秒」で、1 kgの推進剤が、1 kg分の推力を何秒出せるか、という意味です(NASA)。高いほど少ない推進剤で済みます。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。比推力と排気速度。300・350・450秒は、説明のために置いた例示の値で、実在のエンジンの値ではありません。換算式はNASAの教材[参考資料1]による。実在のエンジンの比推力は「ロケットエンジンと推進剤」編で扱います。

実在のエンジンの例を1つ挙げます。Rocket Labは、Electronの第1段(海面)の比推力を311秒、第2段(真空用エンジン)を343秒と示しています(メーカー公称)[参考資料7]事実。この記事で例示に使う300〜350秒は、この桁を参考に置いた値です。実在のエンジンの比推力は、海面か真空かで違うので、数字を見るときは条件を確認します。

よくある誤解:「比推力が大きい=推力が大きい」

比推力は効率(推進剤1 kgあたりの働き)で、推力の大きさではありません。推力は、エンジンの大きさと、推進剤をどれだけ流すか(ṁ)で決まります。「燃費」にたとえると、比推力は燃費、推力はエンジンの馬力のようなものです。たとえの限界:車の燃費は「距離÷燃料の量」で、比推力の単位(秒)とは別物です。また、比推力は、海面と真空で値が変わります(ノズル出口の圧力の効果がV_eqに入るため[参考資料1])。数値を見るときは、海面か真空かを必ず確認します。

4. 軌道に乗るために必要な速さ

低軌道を回るための、横向きの速さは、シリーズの入口の記事で計算したとおり約7.67 km/s(高度400 kmの円軌道。ISSは約90分で1周[参考資料4・3]本稿の計算)です。ロケットは、地上で止まった状態から、この速さまで加速しなければなりません。

ただし、必要な速さの合計は、7.67 km/sより大きくなります。地球の自転が助けてくれる分もありますが(赤道上で東向きに打てば、地面はすでに秒速約0.47 km動いています。2π × 6,378 km ÷ 恒星日86,164 sで計算[参考資料3]本稿の計算)、一方で、上昇しながら重力に逆らう分と、空気抵抗で失う分が加わります。この損失の大きさは、機体・軌道・日で変わり、実機の公式な値は確認できませんでした。そこで本記事では、合計が約9.4 km/sになるように、損失を約2.2 km/sと仮定して、例を進めます。

必要な速さの内訳(仮定を含む例) ① 横向きの軌道速度(高度400 km) +7.67 ② 地球の自転の助け(赤道・東向き) -0.47 ③ 上昇と空気抵抗の損失(仮定) +2.20 合計 約9.4 km/s(例) 0 2 4 6 8 10 速さ(km/s) ①は第1章の計算、②は赤道の自転速度(本稿の計算)。③は実機の公式値を確認できなかったため、合計を約9.4 km/sに合わせるために置いた仮定です。実機では機体・軌道・日で変わります。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。必要な速さの内訳(仮定を含む例)。①7.67 km/sは第1章の計算[参考資料3]、②−0.47 km/sは赤道の自転速度(本稿の計算)、③+2.2 km/sは仮定。合計約9.4 km/s。
つまずきやすいところ:なぜ「高さ」より「速さ」が問題なの?

「宇宙は高度100 kmあたりから」と聞くと、真上に100 km上がればよいように思えます。しかし、そこで止まれば落ちてきます。宇宙機が地球に落ちてこないのは、「横に十分速く進んでいる」からでした(宇宙産業概論編)。ロケットのエネルギーの大半は、高さではなく、横向きの速さをつくるために使われます(本記事による解説)。

5. ロケット方程式:数値の例で確かめる

ロケットは、推進剤を噴くと、その分だけ軽くなります。軽くなるほど、同じ推力で加速しやすくなります。この「軽くなりながら進む」効果を計算に入れた式が、ロケット方程式(ツィオルコフスキーの式)です。NASAグレン研究センターの教材は、重力や空気抵抗を無視した場合の速さの増加を、Δv = V_eq × ln(m₀ ÷ m₁) と導いています[参考資料2]事実。m₀ は噴き始める前の全質量、m₁ は推進剤を使い切った後の質量、ln は自然対数です。

式を逆にすると、必要な速さ Δv に対して、質量比 m₀ ÷ m₁ = e(Δv ÷ V_eq) が必要だと分かります。Δv = 9.4 km/s として、比推力ごとの質量比を計算すると、300秒(V_eq ≒ 2.94 km/s)で約24.4、350秒(≒ 3.43 km/s)で約15.5、450秒(≒ 4.41 km/s)で約8.4 です本稿の計算。

Δvと質量比の関係(比推力3例) 1 10 100 0 2 4 6 8 10 12 300 s 24.4 350 s 15.5 450 s 8.4 9.4 km/s(例) 必要な速さの増分 Δv(km/s) 質量比(縦軸、対数目盛)
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。Δvと質量比の関係。比推力300・350・450秒(例示)について、質量比 = e^(Δv/V_eq) を計算した曲線(縦軸は対数)[参考資料2]。Δvが2倍になると、質量比は2倍ではなく「2乗」になるため、曲線は急に立ち上がります。

350秒の例(質量比 約15.5)を、質量で読み替えます。打ち上げ時の質量を100とすると、推進剤を使い切ったあとに残る質量は 100 ÷ 15.5 ≒ 6.5 です。推進剤が約94、残りは荷物と、空になったタンク・エンジンなどの構造のすべてです本稿の計算。構造がこの6.5より軽くないと、荷物は積めません。

つまずきやすいところ:「速さを2倍にするには、燃料は2倍で足りる?」

足りません。式の「ln」を指数にすると、速さを2倍にすれば、質量比は「2乗」になります。たとえば、4.7 km/sの質量比が約3.9なら、2倍の9.4 km/sでは約15.5(3.9の2乗)です本稿の計算。これが、ロケットの質量の大半が推進剤になる理由です。たとえの限界:実際の上昇では、機体が軽くなるにつれて、重力や空気抵抗の影響も変わるため、方程式は「理想」の目安です(NASAの教材も、これらを無視した導出としています[参考資料2])。

6. 段を分ける理由:荷物の割合の計算

質量比が約15でも、問題は、空になったタンクとエンジンの重さです。推進剤が燃え尽きたあとも、タンクとエンジンは重い「空き箱」として一緒に加速され続けます。そこで、燃え尽きた部分を切り離して、残りを軽くして、次の段で加速を続けます。これが段(ステージ)です。

計算で確かめます。1つの段について、構造(空のタンク・エンジンなど)の質量の割合を ε(イプシロン、構造の質量 ÷(構造+推進剤))、段の質量比を R とすると、その段が運べる「上の質量(荷物+次の段)」の割合は λ = (1 ÷ R − ε) ÷ (1 − ε) になります(本稿の導出)。ε = 0.08(仮定)として、1段と2段(それぞれΔv = 4.7 km/s)を比べると、次の表になります本稿の計算。

比推力(秒、仮定)V_eq(km/s)1段の質量比1段の荷物の割合2段の各段の質量比2段の荷物の割合
3002.9424.4不可能(荷物ゼロでも届かない)4.941.8 %
3503.4315.5不可能(荷物ゼロでも届かない)3.933.6 %
4504.418.44.2 %2.908.3 %

本稿の計算Δv = 9.4 km/s(仮定を含む)、ε = 0.08(仮定)、2段は同じΔv(4.7 km/s)ずつ、各段の比推力と構造の割合は同じ、とした。荷物の割合 = λ(1段)、λ²(2段)。

1段と2段の荷物の割合(本稿の計算) 荷物(ペイロード)が打ち上げ質量に占める割合 比推力 300 秒 1段:荷物ゼロでも軌道に届かない 2段:1.8 % 比推力 350 秒 1段:荷物ゼロでも軌道に届かない 2段:3.6 % 比推力 450 秒 1段:4.2 % 2段:8.3 % 必要な速さ9.4 km/s(仮定を含む)、構造の割合8 %(仮定)、2段は同じ速さずつ受け持つ、とした本稿の計算。1段で足りるのは、比推力が高い(450秒)場合だけでした。ただし、水素のタンクは大きくなるため、構造8 %は楽観的な仮定です(本記事による解説)。
図6 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。1段と2段の荷物の割合。上の表の作図。2段にすると、同じ仮定でも荷物を運べる(350秒で約3.6 %)。1段で足りるのは、比推力が高い場合だけ(450秒で約4.2 %)。
素材技術者の視点:「構造の割合8 %」の重み

表のとおり、構造の割合 ε は、荷物の割合を左右します。ε が仮に8 %から10 %に増えると、350秒・2段の荷物の割合は、λ = (1 ÷ 3.93 − 0.10) ÷ 0.90 ≒ 0.171、その2乗で約2.9 %になり、約3.6 %から18 %ほど減ります本稿の計算。タンクの壁を薄くする、軽い材料に替える、といった素材の改良が、荷物の量に直結することが分かります(本記事による解説)。くわしくは「軽量構造材料」編、「宇宙用CFRPと複合材料」編で扱います。

7. 実在の機体で見る:Falcon 9の公称値

実在のロケットでは、数字はどうなっているのでしょうか。SpaceXの製品ページ(メーカー公称、確認日 2026年10月17日)は、Falcon 9を、高さ70 m、直径3.7 m、質量549,054 kg、低軌道への荷物22,800 kg、静止トランスファー軌道(GTO)へ8,300 kgと示しています[参考資料5]事実。荷物を打ち上げ質量で割ると、22,800 ÷ 549,054 ≒ 4.2 %です本稿の計算。第5〜6章の仮定の計算(2段・350秒で約3.6 %)と同じ桁です。

同じページは、第1段が9基のMerlinエンジン(海面で1基845 kN)とアルミ・リチウム合金のタンク(液体酸素とRP-1)、第2段が真空用Merlin 1基(推力981 kN、燃焼時間397秒)、フェアリングが炭素複合材で、約3分で切り離されると述べています[参考資料5]事実。第1段の推力は 9 × 845 = 7,605 kN で、ユーザーズガイドにも同じ値があります[参考資料6]。重さ(549,054 kg × 9.80665)は約5,384 kNなので、推力÷重さは約1.41です本稿の計算。1を超えなければ、ロケットは浮き上がれません。

Falcon 9の質量・推力・段の公称値 打ち上げ時の質量 549,054 kg(SpaceXの公称) 推進剤・タンクなどの構造・上段・エンジン 低軌道への荷物 22,800 kg(公称)= 全体の約4.2 %(本稿の計算) 離陸の推力と重さ 第1段:Merlin 9基 × 845 kN(海面)= 7,605 kN(公称) 重さ:549,054 kg × 9.80665 ≒ 5,384 kN(本稿の計算) 推力 ÷ 重さ ≒ 1.41。1を超えないと浮き上がれない。 2段のしくみ(公称) 第1段:アルミ・リチウム合金のタンク、液体酸素と灯油系燃料(RP-1) 第2段:真空用のMerlin 1基、推力981 kN、燃焼約397秒 フェアリング:炭素複合材。約3分で切り離す
図7 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。実在の機体で見る:Falcon 9の公称値。数値はSpaceXの製品ページ[参考資料5](メーカー公称)。割合と推力÷重さは本稿の計算。公称の荷物は、軌道・条件(再使用か使い捨てか)で変わります。ページには条件の詳細がないため、ここでは公称値の一例として読んでください。

もう1つ、日本のH3ロケットのJAXAの紹介ページは、標準のH3-24Lを、長さ63 m、全備質量574トン(荷物を除く)と示し、第1段のエンジンLE-9が膨張ブリード・サイクルであること、3Dプリンターを使って構造を簡単にしたことを述べています[参考資料8]事実。異なる機体の数値は、条件が違うため、並べて優劣をつけません。

8. 打ち上げの流れ

ここまでの話を、時間の順に並べてみましょう。SpaceXのユーザーズガイド(2025年5月)には、GTOとLEOの2つの例示の時刻表があります。打ち上げの3秒前にエンジンが始動し、離陸(T+0)、最大動圧(max Q:機体が空気から受ける力が最大になる時刻)は67〜74秒、第1段のエンジン停止(MECO)は145〜147秒、段分離は148〜151秒、第2段の点火は156〜158秒、フェアリング分離は195〜222秒、第2段の最初の燃焼停止(SECO-1)は484〜514秒です[参考資料6]事実。ガイドは、「各飛行の計画は固有で、これらの例と異なる」と断っています。

打ち上げの流れ:主な出来事の時刻 0 100 200 300 400 500 打ち上げからの時間(秒) 2つの例示の時刻表(GTOとLEOの例)の範囲 max Q 67–74 s MECO 145–147 s 段分離 148–151 s 第2段点火 156–158 s フェアリング分離 195–222 s SECO-1 484–514 s SpaceXのユーザーズガイド(2025年5月)の例示の時刻表。「各飛行の計画は固有で、例と異なる」と書かれています。このガイドでは、段分離時の速さの数値は確認できませんでした。
図8 概念図(ベクター作図)。打ち上げの流れ:主な出来事の時刻。SpaceXのユーザーズガイド(2025年5月)[参考資料6]の2つの例示の時刻表の範囲。棒の幅が、2つの例の差です。メーカー公称の例で、実際の飛行とは異なります。
つまずきやすいところ:「max Q」とは?

機体が速くなるほど空気から受ける力は強くなりますが、高く上がると空気は薄くなります。この2つの兼ね合いで、空気から受ける力(動圧)が最大になる時刻があり、これがmax Qです(本記事による解説)。機体の構造に最も大きな負荷がかかる時期の一つで、材料の強さが試されます。

9. 素材技術者の視点:軽さの価値は、段で違う

「機体を1 kg軽くすると、荷物が1 kg増える」とよく言われますが、これは上の段だけの話です。本稿のモデル(2段が同じ速さを受け持ち、比推力350秒、推進剤の質量と必要な速さを固定)で計算すると、第2段の乾燥質量(空の質量)を1 kg減らすと、荷物は1 kg増えます。第1段を1 kg減らした場合は、約0.25 kgしか増えません本稿の計算。第1段の軽量化の効果が小さいのは、第1段のあとに残る質量のうち、荷物が占める割合が小さいためです(本記事による解説)。

段ごとの軽量化の価値(本稿のモデル) 荷物が増える量(kg) 上段(第2段)の乾燥質量を1 kg減らす 1.00 kg 第1段の乾燥質量を1 kg減らす 0.25 kg 本稿のモデル:2段が同じ速さを受け持ち、比推力350秒、推進剤の質量と必要な速さを固定して計算。上段は1 kg分がそのまま荷物になりますが、第1段は約0.25 kg分にしかなりません。実機の値は設計で変わります(本記事による解説)。
図9 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。軽くすることの価値は、段で違う。本稿のモデルによる計算。実機の値は設計で変わります。
素材技術者の視点:上段・フェアリング・タンクは「軽さの勝負」

上の計算から、上段のタンク・構造、荷物を包むフェアリング、衛星そのものは、軽くする価値が特に高い部分だと分かります(本記事による解説)。実在の機体でも、Falcon 9は、第1段のタンクにアルミ・リチウム合金、フェアリングに炭素複合材を使うと述べています[参考資料5]事実。一方、第1段は、強さ・耐久性・再使用を考える部分で、軽さだけでは決まりません(「再使用ロケット」編)。材料の選び方は、段ごとの「軽さの価値」と、コストと信頼性で決まります。

10. 評価・標準の読み方

ロケットの性能は、いくつかの数字で語られます。推力(海面か真空か)、比推力(秒。海面か真空か)、打ち上げ質量、荷物の質量(どの軌道・傾斜角に、再使用か使い捨てか)、打ち上げの成功率です。数字だけを並べて比べると、条件の違いで誤解します。実在の機体の数字は、メーカーの公称(ペイロードユーザーズガイド)か、機関の公式ページか、第三者の記録かを区別します(確認日 2026年10月17日)。

評価項目代表的な数字・出典標準・指針読み方の注意
推力・比推力F = ṁ × V_eq、I_sp = V_eq ÷ g₀(NASAグレン研究センターの教材)[参考資料1]事実ISO 16694:2024「Space systems — Measured parameters at firing bench and flight tests of liquid rocket engines」(燃焼試験・飛行試験での測定項目)[参考資料9]事実海面と真空で値が変わる。メーカー公称か、燃焼試験の測定か、を確認する
荷物の質量SpaceX Falcon User's Guide(2025年5月9日、メーカー公称)[参考資料6]事実。「公称の性能は、軌道・傾斜角・条件で変わる」ISO 14303:2026「Space systems — Launch-vehicle-to-spacecraft interfaces」/ISO 17401:2023「Space systems — Spacecraft interface requirements document for launch vehicle services」[参考資料9]事実「LEOへ○kg」は軌道・傾斜角・再使用か使い捨てかで変わる。条件の記載を確認する
構造・荷重・試験機体の荷重(max Qなど)と、静的な認定試験ISO 14622:2025「Space systems — Structural design — Loads and induced environment」/ISO 14953:2024「Structural design — Determination of loading levels for static qualification testing of launch vehicles」/ISO 24917:2020「General test requirements for launch vehicles」[参考資料9]事実規格は要求の枠組みで、特定の機体の安全を保証するものではない
安全・許可ロケットペイロード安全標準(JMR-002)、射場運用安全技術基準(JERG-1-007)、スペースデブリ発生防止対策の設計・運用マニュアル(ロケット編、JMR-003-HB002)(JAXA、題名のみ確認)[参考資料10]事実14 CFR Part 450「Launch and Reentry License Requirements」(米国の打ち上げ・再突入の許可の要件。eCFRの現行版で存在を確認)[参考資料11]事実法令・許可の中身は本記事では確認していない。法的助言ではありません
成功率・実績メーカーの公称の数字(SpaceXの製品ページ、2026年10月17日確認:完了した飛行693回)[参考資料5]事実確認できなかった(成功率の算定を定めた標準は、本稿の調査範囲で特定できなかった)「完了した飛行」は成功の数ではなく、失敗・部分成功の内訳は公式の調査報告・当局の発表で別に確認する

本稿の計算表の整理は本稿。ISOの番号・題名・年・状態は標準の一覧で確認(確認日 2026年10月17日。ISO 14303:2026・ISO 14622:2025は発行済み(60.60)、ISO 24917:2020は確認済み)。JAXAは一覧で題名のみ確認、FAAはeCFRで題名の存在のみ確認。規格・法令の本文は確認しておらず、要求事項は書いていません。ASTMの規格は扱っていません。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 地上の計算と実機は違います:ロケット方程式は、重力や空気抵抗を無視した理想の式です[参考資料2]。損失の大きさは機体・軌道・日で変わります。
  • メーカー公称と第三者の検証は違います:荷物の質量や飛行回数は、メーカーの公称値です。第三者の記録や、機関の公式資料と、あわせて読んでください。
  • 標準は「推奨」か「要求」か、確認してください:ISOの規格は法的な拘束力を持ちません。打ち上げの許可(FAAの14 CFR Part 450など)は、法令に基づく許可です[参考資料11]。
  • 計画と達成は別です:新型機の性能、再使用の計画、打ち上げ頻度は、変わることがあります。本シリーズでは計画を未確定/将来として区別します。

11. 限界と、確認できなかったこと

  • 必要な速さの損失(上昇・空気抵抗)の公式値は確認できませんでした:9.4 km/sは、説明のために置いた合計で、実機の値ではありません。
  • 比推力・構造の割合は仮定です:300・350・450秒と、ε = 0.08は例示です。水素のタンクの大きさなど、実機の設計の違いは入っていません。実在のエンジンの比推力は「ロケットエンジンと推進剤」編で扱います。
  • Falcon 9の段の質量、段分離時の速さは確認できませんでした:製品ページとユーザーズガイドの範囲では、各段の推進剤の質量や、段分離時の速さの数値を確認していません。
  • 2つの例示の時刻表のどちらがGTOでLEOかの対応は、表の題名の順にもとづきます:本文では、2つの範囲を示すことで、対応に依存しない書き方にしています。
  • 他の機体との比較はしていません:H3はJAXAの紹介ページの長さと質量だけで、性能の数値は並べていません。

12. 用語集

ロケット
推進剤を後ろへ噴き、その反作用で進む乗り物。
推進剤
ロケットが噴く物質のもと。燃料と酸化剤を合わせて呼ぶ。
推力
ロケットを押す力。F = ṁ × V_eq。
質量の流れ(ṁ)
排気の質量が1秒あたりどれだけ出るか。
等価な排気速度(V_eq)
排気の速さに、ノズル出口の圧力の効果を加えた速さ。
比推力(I_sp)
F ÷ (ṁ × g₀)。単位は秒。推進剤の「燃費」。
g₀
標準の重力加速度 9.80665 m/s²。
Δv(デルタブイ)
必要な速さの増分。
ロケット方程式
Δv = V_eq × ln(m₀ ÷ m₁)。ツィオルコフスキーの式。
質量比
燃え始める前の質量 ÷ 燃え尽きた後の質量。
構造の割合(ε)
空のタンク・エンジンなどの構造の質量 ÷(構造+推進剤)。
乾燥質量
推進剤を除いた、機体の空の質量。
段(ステージ)
燃え尽きたら切り離せる、ロケットの区分。
MECO
Main Engine Cutoff。第1段のメインエンジンの停止。
SECO
Second-stage Engine Cutoff。第2段のエンジンの停止。
max Q
機体が空気から受ける力(動圧)が最大になる時刻。
フェアリング
荷物を空気から守る先端のおおい。上昇の途中で切り離す。
ペイロード
ロケットが運ぶ荷物(衛星など)。
LEO・GTO
低軌道/静止トランスファー軌道(静止軌道へ向かう楕円軌道)。
推力÷重さ
1を超えないと浮き上がれない。
メーカー公称
メーカー自身が示す値。第三者の検証とは別。

13. 参考資料(一次情報)

  1. NASA Glenn Research Center "Specific Impulse" — www.grc.nasa.gov/www/k-12/airplane/specimp.html
  2. NASA Glenn Research Center "Ideal Rocket Equation" — www1.grc.nasa.gov/beginners-guide-to-aeronautics/ideal-rocket-equation/
  3. NASA NSSDC "Earth Fact Sheet" — nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html
  4. NASA "Space Station Facts and Figures" — www.nasa.gov/international-space-station/space-station-facts-and-figures/
  5. SpaceX "Falcon 9"の製品ページ(メーカー公称。確認日 2026年10月17日) — www.spacex.com/vehicles/falcon-9
  6. SpaceX "Falcon User's Guide" (9 May 2025) — content.spacex.com/cms-assets/assets/falcon-users-guide-2025-05-09.pdf
  7. Rocket Lab "Electron"の製品ページ(メーカー公称。確認日 2026年10月17日) — www.rocketlabcorp.com/launch/electron/
  8. JAXA "H3 Launch Vehicle"の紹介ページ(確認日 2026年10月17日) — global.jaxa.jp/projects/rockets/h3/
  9. ISO/TC 20/SC 14 標準の一覧(ISO 14303:2026、ISO 17401:2023、ISO 24917:2020、ISO 14622:2025、ISO 14953:2024、ISO 16694:2024 の題名・年・状態を確認) — www.iso.org/committee/46614/x/catalogue/p/1/u/0/w/0/d/0
  10. JAXA 安全・信頼性推進部「JAXA共通技術文書」の一覧(JERG・JMR) — sma.jaxa.jp/techdoc.html
  11. U.S. Government Publishing Office / eCFR 14 CFR Part 450 "Launch and Reentry License Requirements" — www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-III/part-450

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
推力 F = ṁ × V_eq、比推力 I_sp = F ÷ (ṁ × g₀) = V_eq ÷ g₀、単位は秒、比推力が高いほど効率がよい、g₀ = 9.8 m/s²NASAグレン研究センターの教材「Specific Impulse」
出典1 https://www.grc.nasa.gov/www/k-12/airplane/specimp.html
事実
ロケット方程式 Δv = V_eq × ln(m₀/m₁)(重力・空気抵抗を無視した導出)、V_eq の定義NASAグレン研究センターの教材「Ideal Rocket Equation」
出典2 https://www1.grc.nasa.gov/beginners-guide-to-aeronautics/ideal-rocket-equation/
事実
地球の赤道半径6,378.137 km、GM(軌道速度の計算の元)NASA NSSDC 地球データ
出典3 https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html
事実
ISSは約90分で1周NASAのISS基本情報
出典4 https://www.nasa.gov/international-space-station/space-station-facts-and-figures/
事実
Falcon 9:高さ70 m、直径3.7 m、質量549,054 kg、低軌道22,800 kg、GTO 8,300 kg、第1段にMerlin 9基(海面845 kN)・アルミ・リチウム合金のタンク・液体酸素とRP-1、第2段は真空用Merlin 1基(981 kN、燃焼397秒)、フェアリングは炭素複合材で約3分で切り離し、完了した飛行693回(2026年10月17日確認)SpaceXの製品ページ(メーカー公称)
出典5 https://www.spacex.com/vehicles/falcon-9
事実
第1段の推力7,605 kN、例示の時刻表(max Q 67〜74秒、MECO 145〜147秒、段分離 148〜151秒、第2段点火 156〜158秒、フェアリング分離 195〜222秒、SECO-1 484〜514秒)、「各飛行の計画は固有で異なる」SpaceX Falcon User's Guide(2025年5月9日)
出典6 https://content.spacex.com/cms-assets/assets/falcon-users-guide-2025-05-09.pdf
事実
Electron:第1段(海面)の比推力311秒、第2段(真空)343秒Rocket Labの製品ページ(メーカー公称)
出典7 https://www.rocketlabcorp.com/launch/electron/
事実
H3-24L:長さ63 m、全備質量574トン(荷物を除く)、LE-9は膨張ブリード・サイクル、3Dプリンターの導入JAXAのH3の紹介ページ
出典8 https://global.jaxa.jp/projects/rockets/h3/
事実
ISO 14303:2026、ISO 17401:2023、ISO 14622:2025、ISO 14953:2024、ISO 24917:2020、ISO 16694:2024 の番号・題名・年・状態ISO/TC 20/SC 14の標準一覧
出典9 https://www.iso.org/committee/46614/x/catalogue/p/1/u/0/w/0/d/0
事実
JAXAの共通技術文書の題名:JMR-002、JERG-1-007、JMR-003-HB002JAXA安全・信頼性推進部の一覧(題名のみ)
出典10 https://sma.jaxa.jp/techdoc.html
事実
14 CFR Part 450「Launch and Reentry License Requirements」が連邦規則集に存在することeCFR(現行版)
出典11 https://www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-III/part-450
事実
質量比(9.4 km/sで300秒24.4、350秒15.5、450秒8.4)、推進剤の割合、2段の荷物の割合(構造8 %で、350秒1.8〜3.6〜8.3 %)、1段の荷物の割合(450秒で4.2 %)、λ = (1/R − ε)/(1 − ε)、構造10 %の場合の減少、自転速度0.47 km/s、荷物÷質量(4.2 %)、推力÷重さ1.41、段ごとの軽量化の価値(1 kgと約0.25 kg)、9.4 km/sの内訳(損失2.2 km/sは仮定)本稿の計算(出典の値と仮定を使用)。仮定は実在の機体の値ではない本稿の計算
スケートボードのたとえ、「速さが問題」、max Qの説明、素材技術者の視点(構造の割合の重み、上段・フェアリング・タンクは軽さの勝負、第1段は再使用・耐久性も考える)、実機の損失の公式値は確認できなかったこと公表内容にもとづく本記事の整理・解説解説
図1〜図9が実測ではなく説明のための作図であること。図1がAI画像の枠であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月17日/出典はNASAグレン研究センターの教材・SpaceXの製品ページとユーザーズガイド(メーカー公称)・JAXA・ISO・FAA(eCFR)の公式ページに限定しています。数値例(必要な速さ、比推力、構造の割合、質量比、荷物の割合)は本稿が作った説明用の計算で、実在の機体の値ではありません。実機の上昇・空気抵抗の損失の公式値、Falcon 9の各段の質量と段分離時の速さ、各規格・法令の本文については、確認できなかったため記載していません。