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アストロスケール 企業解説

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COMPANY PROFILE / 宇宙産業

アストロスケール
― 「宇宙ゴミ」に実際に近づいた民間会社が、寿命延長・燃料補給・除去の「継続受注」を目指す

Astroscale(アストロスケール)は、役目を終えた衛星や宇宙ゴミ(スペースデブリ)に近づき、観測・捕獲・燃料補給などを行う「軌道上サービス」を事業にする東京の会社です。 2024年に、実際の宇宙ゴミ(H-IIAロケットの上段)に約50mまで接近して周回観測し、最後は約15mまで近づいたと会社は説明しています(民間企業として世界初という会社の主張を含みます)。 一方で、売上はまだ小さく、営業損失が続いています。 本稿では、宇宙でどんな役割を担う会社か、何を投じ、誰と組み、何を目指しているかを、有価証券報告書と会社の最新の開示資料だけで整理します。

構成:有価証券報告書(第8期・2026年4月期、2026年7月29日提出)、2026年10月の事業説明会資料、適時開示などの一次情報/確認日 2026年10月17日(この分野は変化が速いため、機体・ミッション・契約・企業構造の記述は確認日時点です)

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるAstroscaleと、宇宙産業での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 宇宙産業の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. 宇宙産業にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は宇宙産業で何を目指しているか
  9. 宇宙産業分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるアストロスケールと、宇宙産業での立ち位置

正式名称株式会社アストロスケール
ホールディングス
英文名 Astroscale Holdings Inc.。グループの創業は2013年(シンガポール)
本社東京都墨田区錦糸。英国・米国・フランスなどにも拠点
上場東証グロース 186A2024年6月5日に上場。決算は4月期(IFRS)
この分野での区分衛星・軌道上サービス衛星を作って、軌道上で動かし、サービスを提供する
主な実証ELSA-d(2021年)
ADRAS-J(2024年)
デブリ除去の技術実証と、実際のデブリへの接近・観測
2026年4月期の売上収益5,940,615千円前期比141.8%増。補助金収入を足した「プロジェクト収益」は11,506,710千円(会社の参考値)
従業員(連結)593人2026年4月30日。約7割がエンジニア。臨時雇用の平均は別に41人
次の打ち上げAPS-R
2027年4月期中
米国宇宙軍向けの燃料補給の実証(会社予定)。未確定/将来
まず押さえるべき1点

宇宙産業の企業は「ロケットで運ぶ会社」「月や宇宙ステーションへ行く会社」「軌道で衛星やサービスを動かす会社」「宇宙機の部品やシステムを作る会社」に分けると理解しやすくなります(後述の図1)。 Astroscaleは「軌道で衛星やサービスを動かす会社」で、自分で衛星を設計・製造し、打ち上げはロケット会社に委託し、宇宙で顧客の衛星やデブリにサービスを行います。 有価証券報告書は、事業を5つの軌道上サービス(観測・点検、寿命延長・燃料補給、修理・改修、既存デブリの除去、運用終了時の除去)に整理し、 2030年までにそのうち3つ(観測・点検、寿命延長・燃料補給、デブリ除去)で複数のミッションを打ち上げる計画だと書いています 事実。 ただし、収益はまだ政府機関などからの開発・実証の契約が中心で、会社は「事業の黒字化には継続受注の獲得が不可欠」と説明しています (2026年10月の事業説明会資料)。

2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、公式サイトの見出し部分に使われているロゴを img/astroscale_logo.svg として設置しています(元が単色のため、白抜きにして濃紺の地に置いています)。

表記の注意:上場している持株会社は 株式会社アストロスケールホールディングス(Astroscale Holdings Inc.)で、日本の事業会社の株式会社アストロスケールとは別法人です。 英国は Astroscale Ltd、米国は Astroscale U.S. Inc.、フランスは Astroscale France SAS が事業を行います。 本稿では、特に断らない限り「Astroscale」はこのグループ全体を指します。

公式サイト:https://www.astroscale.com/

3. 宇宙産業の世界で、この会社はどこにいるか

はじめに、この分野で出てくる言葉を3つだけ説明します。 デブリ(スペースデブリ)は、役目を終えた衛星やロケットの上段、その破片など、宇宙にただよう「宇宙ゴミ」のことです。秒速7〜8kmという速さで飛ぶので、数mmの破片でも衛星に当たると大きな被害が出ます。 低軌道(LEO)は高度2,000km以下の軌道で、静止軌道(GEO)は高度約36,000kmで地上から見て止まって見える軌道です。 サービサーは、他の衛星やデブリに近づいてサービスを行う側の宇宙機(捕獲機)のことです。

宇宙産業に関わる企業の4つの類型 同じ「宇宙の会社」でも、宇宙で担う役割で、強みと課題が違う 打ち上げ 探査・有人・月面 衛星・軌道上サービス 部品・システム ロケットで宇宙へ運ぶ 月や宇宙ステーションへ 軌道で働く・作る 宇宙機を支える SpaceX/Blue Origin Rocket Lab/Firefly Axiom Space/Intuitive Machines ispace/Astrobotic Astroscale/Varda Synspective/Starcloud Northrop Grumman/BAE Systems Microchip/Redwire 打ち上げ能力と再使用 月・ISSへの到達力 新しい用途と市場 実績と信頼性 失敗と日程の遅れ 資金と日程の不確実 実証が途上・収益化 認定と納期に時間 Astroscaleは「衛星・軌道上サービス」の枠にいる。衛星を作り、軌道上でサービスを行う 宇宙ゴミの観測・除去、衛星の寿命延長・燃料補給を軌道上で提供する(2026年4月期 有価証券報告書)
図1 宇宙産業に関わる企業の4類型と、Astroscaleの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。衛星を自社で設計・製造し、軌道上で観測・除去・寿命延長などのサービスを行う点は、2026年4月期の有価証券報告書の記載に基づきます。
宇宙ゴミの何が問題か(やさしく)

有価証券報告書は、ESA(欧州宇宙機関)の資料を引いて、2026年6月時点で大きさ10cm以上の観測可能なデブリが約54,000個、数cm級を含めると約120万個、稼働中の衛星が約15,800機と書いています 事実 (ESAの数値を会社が引用したもの)。 自動車や飛行機には「点検・修理・廃車」の仕組みがありますが、宇宙の衛星は長く「使い捨て」で、壊れたものも軌道に残り続けてきました。 Astroscaleは、この「宇宙のアフターサービス」を事業にしようとしています。 デブリの技術の細部は、本シリーズの技術解説「軌道上サービスとスペースデブリ」を参照してください。 なお、有報には軌道上サービスの市場規模の推計(調査会社のもの)が載っていますが、本稿は調査会社の推計を使わない方針のため、採用しません。

4. 会社の規模

上場企業なので、規模は法定開示で確認できます 事実。 決算は4月期(5月〜翌年4月)で、国際会計基準(IFRS)の連結、金額は千円です。

指標(千円)2024年4月期2025年4月期2026年4月期
売上収益2,852,5612,456,9565,940,615
営業損失―(本稿では集計せず)(18,755,004)(9,975,386)
税引前当期損失(9,219,842)(21,550,288)(6,695,854)
親会社の所有者に帰属する当期損失(9,181,329)(21,551,603)(7,114,985)
資産合計24,990,80933,625,29132,121,830
現金及び現金同等物(期末)14,196,22721,300,86410,021,823
営業活動によるキャッシュ・フロー(12,822,877)(12,250,750)(12,485,991)
従業員数(人)494577593
ここで注意

2026年4月期は売上収益が前期の2倍以上に増えましたが、営業損失は約99.8億円で、黒字化には至っていません。 会社は、損失が続く理由を「多額の先行投資と長期の開発期間を要する衛星・宇宙機器の研究開発に従事しているため」と説明しています 事実。 「プロジェクト収益」(売上収益に、プロジェクトに係る政府補助金収入を足した会社独自の参考値。2026年4月期は11,506,710千円)は、IFRSが定める指標ではなく、会社自身が「他の指標の代替として考慮されるべきではない」と注記しています。 また、2026年4月期の営業損失が前期より小さいのは、寿命延長衛星LEXI-Pの製造費用の扱いが変わった(費用ではなく資産として計上を始めた)ことが主因だと会社は書いています。 損失が減ったことが、事業そのものの採算が改善したことを意味するとは限りません。

5. 宇宙産業にかけているリソース

「人・金・外部への投資と買収・公的機関との契約」の4点が、一次情報で確認できたかを表にします。

リソースの種類確認できた内容区分
人連結593人(2026年4月30日)。内訳はエンジニアリング部門が日本158人・海外279人、全社共通が日本71人・海外85人。エンジニアは従業員の約7割。拠点は日本(墨田区の本社と横浜の地上局)、英国、米国、フランス、イスラエル事実
金:研究開発費2026年4月期 7,533,569千円。うち、政府補助金を受けるプロジェクト(APS-R、ISSA-J1、REFLEX-Jなど)の開発費が6,892,872千円、受注前の先行開発が257,970千円。補助金案件の費用は、政府補助金収入として別に収益に計上される事実
金:設備投資2026年4月期 7,054,716千円(無形資産を含む)。主なものは米国子会社の寿命延長衛星LEXI-P(衛星バス、捕獲機構、推進器などの調達・製造)事実
金:資金調達2025年5月に海外募集の新株発行で10,985百万円(手取り概算10,660百万円)。2026年5月に、ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債と第三者割当などで30,600百万円。2026年4月期の財務活動によるキャッシュ・フローは7,236,403千円の増加事実
外部への出資・買収・合弁・売却2020年6月に、イスラエルの子会社が Effective Space Solutions R&D Ltd. から寿命延長サービス事業を譲り受けた。子会社の設立(英国2017年、米国2019年、イスラエル2020年、フランス2023年)。提携先への出資案件としての記載は、本稿の一次資料では確認できなかった事実(出資は確認できず)
公的機関との契約・連携JAXA(商業デブリ除去実証 CRD2)、文部科学省のSBIR基金、科学技術振興機構(JST)の経済安全保障重要技術育成プログラム、JAXAの宇宙戦略基金、ESA、英国宇宙庁、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、NASA(2026年1月、NASAとの初の直接契約)、米国宇宙軍、日本の防衛省、英国国防省など。金額は、受注総額・既受注・見込みを区別して表に示す(下の表)事実
大学・研究機関との連携本田技術研究所と、燃料補給用の「給油口接続システム」を共同開発(REFLEX-J)。大学との共同研究は、本稿の一次資料では確認できなかった事実(大学は確認できず)

主な公的資金・契約の位置づけ(確認日 2026年10月17日。金額は会社資料。為替は会社の前提:1米ドル=155円、1ユーロ=180円、1英ポンド=205円)

プロジェクト内容金額状況
ADRAS-J(JAXA CRD2 フェーズI)実際のデブリの観測・点検19億円(受注総額、一部拠出)実証完了(2026年3月)
ADRAS-J2(JAXA CRD2 フェーズII)同じロケット上段を捕獲して軌道を下げる実証約120億円(全額拠出、契約期間は2025〜2029年度)開発中。打ち上げは2028年4月期(会社予定。未確定/将来)
ELSA-M(ESA・Eutelsat OneWeb「Sunrise」)運用を終えた通信衛星の除去(運用終了時の除去サービス)31.6百万ユーロ(フェーズ2〜4の合計。フェーズ4は13.95百万ユーロ、一部拠出)開発・地上試験中。打ち上げは2028年4月期(会社予定)
ISSA-J1(SBIR基金)大型衛星などの観測・点検総額120億円(フェーズ2は65億円。フェーズ3は未契約。2026年10月に、フェーズ2の契約金額が249百万円増額)開発中。打ち上げは2027/28年度(会社予定)
REFLEX-J(JST・宇宙戦略基金)協力衛星への燃料補給技術総額108億円(初年度・2年目分の契約済み。3年目以降は見込み)開発中。打ち上げは2030年度(会社予定)
CNES案件(Exotrailと共同)OneWebの衛星を磁石で捕獲して除去する実証13.2百万ユーロ(約23億円)2026年8月以降に契約。打ち上げは2029/30年度(会社予定)
CAT-IOD(英国)デブリ除去の軌道上実証の準備段階フェーズAは0.59百万ユーロ。後続は50〜60百万ユーロ(会社の見積り。未受注)未確定
APS-R(米国宇宙軍)静止軌道での燃料補給の実証金額は本稿の一次資料で確認できなかった(会社は一部拠出と説明)2027年4月期中の打ち上げを予定(未確定/将来)
ここで注意(受注と「見込み」を混ぜない)

上の「総額」には、まだ契約していない後続フェーズや、会社の見積りが含まれるものがあります(ISSA-J1のフェーズ3、REFLEX-Jの3年目以降、CAT-IODの後続)。 会社自身も、見込みの金額は受注が確約されたものではないと書いています。 また、日本の補助金・基金は、審査で金額が変わる場合があります。 防衛機関からの案件も受注していると会社は説明していますが、本稿は防衛利用の詳細を扱いません。

主要な機体・ミッション・製品の状況(確認日 2026年10月17日)

機体・ミッション種別主要な諸元(会社公称)実績段階・日付出典
ELSA-dデブリ除去の技術実証衛星(EOL)捕獲機と模擬デブリのペア。磁石とドッキングプレートで捕獲2021年3月に高度550kmへ打ち上げ。2021年8月に模擬デブリの捕獲に成功。約2年以上運用実績(完了)出典1
ADRAS-Jデブリ観測・点検の実証衛星Rocket Labの Electron で打ち上げ2024年2月18日に打ち上げ。対象はH-IIAロケット15号機の第2段(2009年1月打ち上げ)。2024年5月23日に約50mまで接近、7月に周回観測、11月30日に約15mまで接近。2026年3月25日に全実証を終え、軌道降下を開始実績(完了)出典1
ELSA-M衛星コンステレーション向けの運用終了時の除去(EOL)複数の衛星を除去できる設計。磁石で捕獲2025年6月に詳細設計審査(CDR)を完了。2023年の構造試験で一部部品の構造上の脆弱性が判明し、開発に遅れ(会社の説明)開発中(2028年4月期の打ち上げ予定。Isar AerospaceのSpectrumで打ち上げ契約。未確定/将来)出典1・2
ISSA-J1観測・点検の衛星インドのNewSpace Indiaとの契約でPSLVロケットで打ち上げ予定―開発中(2027/28年度。未確定/将来)出典1・2・3
APS-R燃料補給の実証衛星―地上試験中開発・試験(2027年4月期中の打ち上げ予定。未確定/将来)出典1・2
LEXI-P寿命延長衛星の初号機(民間向け)ロケットと衛星をつなぐ円形の構造物(PAR)をつかむ捕獲機構想定顧客と契約締結に向けて最終段階。契約は未締結開発(2028年4月期の打ち上げ予定。未確定/将来)出典1・2
ドッキングプレート衛星に付ける磁石式の捕獲用プレート識別マーカーつきの磁性体の板搭載衛星は軌道上に571機(第三者製を含む、有報提出日現在)。Eutelsat OneWebの2020年12月以降の全衛星に搭載。将来の搭載衛星は1,000基超の見込み運用(実績)出典1
素材技術者の視点:磁石で「つかむ」と、構造材の弱点が試験で出る

Astroscaleの捕獲には2つの方式があります 事実。 磁石式は、衛星にあらかじめ付けたドッキングプレート(識別マーカーつきの磁性体の板)に、サービサーの磁石が吸着します。 アーム式は、プレートがないデブリをロボットの腕でつかみます。 磁石式は、プレートが安い部品で済み、捕獲の難しさが下がると会社は説明しています。 また、寿命延長衛星LEXIの捕獲機構は、ロケットとの接続部にあるペイロード・アダプター・リング(PAR)をつかむ設計で、軽量で様々なサイズに対応できるとされています。 素材・構造では、ELSA-Mの構造試験(2023年4月)で、一部の部品に構造上の弱点が見つかり、追加試験で開発が遅れたことが、有報に書かれています。 宇宙機の構造は、打ち上げの振動と衝撃に耐える必要があり、新しい形状の機構ほど、試験で初めて弱点が出ることがあります。 会社は、品質保証に航空宇宙の品質マネジメント規格(AS/EN/JIS Q 9100)に準拠した規定を使うと書いています (技術は、本シリーズの技術解説「軌道上サービスとスペースデブリ」「宇宙機の熱制御」「宇宙環境と材料への影響」を参照)。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2013年5月岡田光信氏がシンガポールで創業。デブリ除去を目的とする最初の民間企業と会社は説明デブリ除去から出発した会社
2015〜2019年日本(2015年)、英国(2017年)に子会社を設立。2018年11月に東京で持株会社を設立し、2019年1月の組織再編で親会社に東京を本社とする体制へ
2020年6月イスラエルの子会社が寿命延長サービス事業を譲り受け低軌道だけでなく静止軌道のサービスへ
2021年3月ELSA-dを打ち上げ(英国宇宙庁のミッションライセンスを取得)デブリ除去の一連の技術を実証する最初の衛星
2021年8月ELSA-dが模擬デブリの捕獲に成功磁石とドッキングプレートによる捕獲を実証
2024年2月18日ADRAS-Jを打ち上げ(ニュージーランドのマヒア半島、Rocket Lab Electron)JAXA CRD2のフェーズI
2024年6月5日東証グロース市場に上場資金調達の手段
2024年5〜11月ADRAS-Jが、実際のデブリの約50m後方への接近と定点観測、周回観測、約15mまでの最終接近に成功。接近の途中で、衝突を避ける自動退避(アボート)の働きも確認と会社が説明民間企業として世界初と会社が主張(会社の調査にもとづく主張)
2024年8月JAXAとADRAS-J2(デブリの捕獲と軌道降下)の契約を締結観測から捕獲へ
2025年5月海外募集で10,985百万円を調達。COSMICフェーズ2を完了―
2025年6月ELSA-Mの詳細設計審査(CDR)を完了―
2026年1月NASAの調査案件(Habitable Worlds Observatoryへの軌道上サービスの検討)に採択。NASAとの初の直接契約米国の宇宙科学機関との直接取引の始まり
2026年3月ADRAS-Jが全実証を終え、軌道降下の運用を開始。ELSA-Mの打ち上げ事業者としてIsar Aerospaceと契約実証の区切り
2026年5月転換社債と第三者割当などで30,600百万円を調達継続受注に向けた成長投資
2026年10月ISSA-J1フェーズ2の契約金額の増額を開示(249百万円)。同月の事業説明会資料は、英国のデブリ除去プログラムCOSMICの後続ミッションについて「失注」と記載見込み案件が1つ外れた。会社は、政府案件の見込み総額(約610億円)はCOSMICに関係なく変わらないと説明
ADRAS-Jの「近づき方」をやさしく

デブリは、位置を知らせてくれず、くるくる回っていることもあります。 それで、近づくこと自体が難しいのです。 ADRAS-Jは、遠くから少しずつ近づき(数百m→約50m)、赤外線カメラで形や向きを見ながら位置を推定する「相対航法」を使ったと会社は書いています 事実。 途中で自動的に離れる「アボート」の機能が働くことも確かめました。 最後に、将来のADRAS-J2で捕獲する場所として想定している、ロケットと衛星をつなぐ台座(PAF)の下に回り込み、約15mまで近づきました。 ここまでが「観測」で、捕獲そのものは次のADRAS-J2で行う計画です。

7. 今後の計画

APS-R2027年4月期中米国宇宙軍向けの燃料補給の実証。地上試験中
ISSA-J12027/28年度観測・点検。PSLVで打ち上げ予定
ELSA-M・LEXI-P2028年4月期運用終了時の除去/寿命延長の初号機(会社予定)
ADRAS-J22028年4月期デブリの捕獲と軌道降下の実証

会社は有価証券報告書で、2030年までに、観測・点検、寿命延長・燃料補給、デブリ除去でそれぞれ複数のミッションを打ち上げ、2035年までに部品交換・修理にまで広げる、と書いています 事実。 これらはいずれも会社の計画で、開発・試験・打ち上げ機の都合や契約で変わりうるものです。 たとえばELSA-Mは構造試験の結果で遅れた実績があります 未確定/将来。

確認できなかったこと

次はいずれも、本稿が読んだ一次資料に確定した記載がありません 未確定/将来。

各ミッションの打ち上げ日(月日)/LEXI-Pの顧客名と契約額/APS-Rの契約額/ELSA-MやADRAS-J2の実際の軌道上での結果/ Astroscale Singaporeを除く各子会社単体の最新の損益の詳細。 報道や第三者のサイトに出ている日付・金額は、一次資料で確認できないため採用しません。

8. この会社は宇宙産業で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
目標は、一品一様の開発・実証から、少数の標準衛星(プラットフォーム)を繰り返し売る事業への転換2026年10月の事業説明会資料が、ELSA-M、APS-R、LEXI、GRPOを「プラットフォーム」と呼び、継続受注での技術の再利用と収益性の向上を目標に掲げている事実(会社の方針)
当面の事業は、政府機関の資金(補助金・基金・開発契約)に強く支えられている2026年4月期のプロジェクト収益11,506,710千円のうち、政府補助金収入が5,566,095千円(約48%)本稿の計算(割合は本稿が割り算)
寿命延長(LEXI)が、民間の顧客を増やすための鍵になる事業説明会資料が、LEXI-Pの軌道上実証の成功後に、20社以上の潜在顧客から2号機以降の受注を目指すと書いている事実(会社の方針)
黒字化の時期は、2028年度以降の補助金案件の収支改善と継続受注の成否に左右される事業説明会資料が、一部拠出の補助金案件が2027年度に完了予定で、2028年度以降は収支の黒字化を期待すると書いている推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

事業説明会資料(2026年10月)は、会社の歩みを「調査案件の獲得」→「実運用ミッションの獲得と技術の軌道上実証」→「継続受注案件の獲得」の3段階で整理しています。 最初の2段階について、「収益は限定的」「低い収益性(一品一様の案件が多い)」と、会社自身が書いています 事実。 ここから、会社は今、実証を成功させて「次も同じ衛星を買ってもらえる」状態をつくることに最優先で資源を使っていると読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。

9. 宇宙産業分野の提携マッピング

Astroscaleを中心とした提携関係 2026年4月期 有価証券報告書と2026年10月の説明資料に記載のある関係のみ。報道だけの関係は含まない Astroscale 軌道上 JAXA・日本政府 ADRAS-J/J2、SBIR基金 ESA・英国宇宙庁 ELSA-M、COSMIC Eutelsat OneWeb ドッキングプレートを搭載 米宇宙軍・NASA APS-R、HWOの調査 CNES・Exotrail 磁石除去の実証(仏) 打ち上げ事業者 Rocket Lab・Isar・NSIL 事業譲受:Effective Space Solutions 契約・共同開発・公的資金 供給・調達(打ち上げ) 事業の譲受(2020年)
図2 Astroscaleを中心とした提携関係。出典:2026年4月期 有価証券報告書、2026年10月16日の事業説明会資料。図に含めたのは提出書類・開示資料に記載がある関係だけで、他にも関係先(本田技術研究所、BAE Systems、Orbit Fabなど)があります。契約の強さや金額の大小を示す図ではありません。

10. 提供している技術・製品・サービス

Astroscaleの中核は、非協力物体(位置を知らせてくれず、自由に動いている物体)に安全に近づく技術(RPO:ランデブ・近傍運用)です。 この技術を応用して、会社は5つの軌道上サービスを開発しています。 下の図解は、デブリ除去で使う2つの捕獲方式の違いを、有価証券報告書の説明をもとに本稿が整理したものです。

①接続を想定した対象と、②その準備のない対象への接近を分けます。対象の形状・運動と接続方式の条件が違い、遠くから何でも吸い寄せるものではありません。
概念画像(ImageGen生成)。①接続を想定した対象と、②その準備のない対象への接近を分けます。対象の形状・運動と接続方式の条件が違い、遠くから何でも吸い寄せるものではありません。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。
元のSVG・数値・出典を確認する
捕獲の2つの方式:磁石式とアーム式 相手の衛星に「ドッキングプレート」が付いているかどうかで、方法と難しさが変わる(有価証券報告書) 磁石式(運用終了時の除去・EOL) 相手:ドッキングプレートを付けた衛星 主に100〜1,000kg。打ち上げ前に装着 捕獲:サービサーの磁石で吸着 1機で複数の故障衛星を除去する想定 例:ELSA-d、ELSA-M 難しさ:比較的低い アーム式(既存デブリの除去・ADR) 相手:プレートのない既存のデブリ 重さ数トンまで。大型のロケット上段など 捕獲:サービサーの捕獲用アーム 回転する相手の動きを推定して近づく 例:ADRAS-J2(計画) 難しさ:高い どちらも、捕獲のあと軌道を下げ、大気圏で燃え尽きさせて除去する

図解 磁石式とアーム式の比較。会社の有価証券報告書の説明を本稿が図にしたもので、実際の機体の形や大きさを示すものではありません。ADRAS-J2は計画段階です 未確定/将来。

分類内容(会社の説明)区分
① 観測・点検(ISSA)故障した衛星やデブリに近づいてカメラなどで観測する。故障の原因分析や、デブリ除去の前の情報取得に使う。ADRAS-J(実証完了)、ISSA-J1(開発中)事実(ISSA-J1は未確定/将来)
② 寿命延長・燃料補給(LEX)燃料が尽きそうな衛星に、ドッキングして自分の燃料を使ったり、燃料を補給したりして、運用を延ばす。静止軌道では毎年20〜30基の衛星が退役すると会社は見込む。LEXI-P(開発中)、APS-R(米国宇宙軍向けの燃料補給実証)、REFLEX-J未確定/将来
③ 修理・改修ロボット技術で、運用中の衛星の部品を交換したり機能を上げたりする。ESAとNASAの調査案件を受注(2025年12月、2026年1月)事実(調査段階。サービスは未確定/将来)
④ 既存デブリの除去(ADR)アームで既存デブリを捕獲して軌道を下げる。主な顧客は政府機関と想定。ADRAS-J2、英国COSMIC(後続ミッションは失注と会社資料に記載)未確定/将来
⑤ 運用終了時の除去(EOL)衛星コンステレーションの故障衛星を磁石で捕獲して除去する。ELSA-d(実証完了)、ELSA-M(開発中)。ドッキングプレートの商業供給も行う事実(ELSA-Mは未確定/将来)
素材技術者の視点:捕獲機構とドッキングプレート

有価証券報告書は、ドッキングプレートを「あらかじめ識別マーカーを備えた磁性体のプレート」と説明しています 事実。 衛星にこのプレートを付けると、サービサーが相手の識別、動きの推定、接近、捕獲、軌道離脱を比較的しやすくなり、除去の費用を抑えられるとされています。 磁性体の板は、軽く、電力を使わず、故障しにくいことが求められると考えられます(会社は材質を書いていないため、これは本稿の 推測 です)。 素材・部品の観点では、次の点が論点になります。 プレートは、衛星の寿命の間、放射線・原子状酸素・大きな温度変化にさらされても磁性と接着を保つ必要があります (これも本稿の 推測。会社の資料に個別の試験結果は確認できなかった。技術は、本シリーズの技術解説「宇宙環境と材料への影響」「軌道上サービスとスペースデブリ」を参照)。 また、機構を軽くするため、LEXIの捕獲機構は、ロケットとの接続部(PAR)という標準的な構造物をつかむ設計にしています。 相手の構造に合わせて設計するのではなく、業界で広く使われる接続部に合わせるという考え方です。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
赤字と黒字化の時期営業損失が続いている(2026年4月期は9,975,386千円)。会社は「黒字化には継続受注案件の獲得が不可欠」と説明し、黒字化の時期は示していない事実
開発・試験・打ち上げの遅れELSA-Mは2023年の構造試験で一部部品の弱点が見つかり、遅れた。打ち上げは外部のロケット会社に委託するため、その遅れや軌道投入の精度にも左右される事実
実証が成功するかどうかELSA-M、LEXI-P、APS-R、ADRAS-J2などは、これから実際に打ち上げて軌道上で実証する段階。会社は技術開発・実証のリスクを「顕在化可能性:中、影響度:大」と評価している事実
継続受注が得られるか多くの案件が一品一様で、収益性が低かったと会社が説明。見込み案件(パイプライン)は会社の見積りで、受注が確約されたものではない。英国COSMICの後続ミッションは失注と記載事実
政府・補助金への依存プロジェクト収益の約48%が政府補助金収入。補助金は審査や制度の変更で金額が変わりうる事実(割合は本稿の計算)
収益の計上方法原価回収基準(かかった費用の範囲で収益を計上する方法)を使う案件が多く、完了まで利益が出にくい。収益認識の方針自体も会社がリスクとして挙げている事実
為替の影響円換算の収益・費用が為替で変わる。会社は為替変動リスクを「顕在化可能性:高」と評価事実
株式の希薄化増資や新株予約権の行使で、1株あたりの価値が薄まりうる。2025年5月の増資による希薄化は13.28%、2026年5月の調達による潜在的な希薄化率は10.59%と会社が記載事実
市場が立ち上がるか軌道上サービスの市場が想定どおりに創造・拡大しないリスクを、会社が挙げている事実
輸出管理・規制複数国で衛星を開発・製造するため、輸出管理を含む複雑な規制への対応が必要。費用の増加や日程の遅れにつながりうる事実

12. 用語集

軌道上サービス
宇宙で衛星やデブリに行う観測・修理・燃料補給・除去などのサービス。
デブリ(スペースデブリ)
宇宙ゴミ。役目を終えた衛星やロケットの上段、その破片。
サービサー
他の衛星やデブリに近づいてサービスを行う側の宇宙機。
RPO
ランデブ・近傍運用(Rendezvous and Proximity Operations)。他の物体に安全に近づく技術。
非協力物体
位置を知らせてくれず、自由に動く物体(デブリなど)。
低軌道(LEO)/静止軌道(GEO)
高度2,000km以下/約36,000kmで地上から止まって見える軌道。
ドッキングプレート
衛星に付ける、識別マーカーつきの磁性体の板。磁石式の捕獲に使う。
PAR/PAF
ペイロード・アダプター・リング/ペイロード・アタッチ・フィッティング。ロケットと衛星をつなぐ構造物。
アボート
相手との衝突を避けるため、自動的に離れること。
CRD2
JAXAの商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration)。
SBIR基金
日本の、中小企業の研究開発を支援する基金(文部科学省の宇宙分野のテーマなど)。
プロジェクト収益
会社が示す参考値。売上収益に、政府補助金収入を足したもの。
原価回収基準
かかった費用の範囲で収益を計上する会計の方法。
有価証券報告書
上場企業が国に提出する年次の法定開示書類。EDINETで公開される。
接近・観測・接続のための機体と、地上の試験対象を分けています。実証段階や対象の条件は本文で確認します。
図3 概念画像(ImageGen生成)。接近・観測・接続のための機体と、地上の試験対象を分けています。実証段階や対象の条件は本文で確認します。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. 株式会社アストロスケールホールディングス 有価証券報告書(第8期、2026年4月期。関東財務局長へ2026年7月29日提出、EDINET書類ID S100YSZC)。事業内容、沿革、5つの軌道上サービス、ELSA-d・ADRAS-J、財務、研究開発費、設備投資、従業員、リスク。 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YSZC.pdf
  2. 株式会社アストロスケールホールディングス 事業説明会資料(2026年10月)(2026年10月16日)。ミッションの打ち上げ予定、受注の状況、契約の一覧、財務戦略。 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS82438/d184e101/0d1e/4b40/9772/1f7c2f92fb77/140120261016552263.pdf
  3. 株式会社アストロスケールホールディングス 適時開示「日本連結子会社におけるISSA-J1ミッション フェーズ2 契約金額の増額に関するお知らせ」(2026年10月6日)。 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS82438/bd10141b/a32d/47b2/b8bf/aeb825556e47/140120261006546468.pdf
  4. 株式会社アストロスケールホールディングス IRライブラリ(開示資料の一覧)。 https://www.astroscale.com/ja/ir/library
  5. Astroscale 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://www.astroscale.com/en

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、英訳名、本店所在地、設立、上場日、子会社の構成事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YSZC.pdf
売上収益、損失、資産、現金、キャッシュ・フロー、従業員数(2024〜2026年4月期)事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YSZC.pdf
プロジェクト収益11,506,710千円、政府補助金収入5,566,095千円、研究開発費、設備投資、受注高、資金調達事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YSZC.pdf
政府補助金収入がプロジェクト収益に占める割合(約48%)本稿の計算本稿による割り算(出典1の数値)
ELSA-d、ADRAS-Jの経過(日付・距離・対象デブリ)、5つの軌道上サービス、ドッキングプレート事実出典1 https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S100YSZC.pdf
ELSA-M、ISSA-J1、APS-R、LEXI-P、ADRAS-J2の打ち上げ予定と契約金額、COSMICの失注事実(予定は未確定/将来)出典2 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS82438/d184e101/0d1e/4b40/9772/1f7c2f92fb77/140120261016552263.pdf
ISSA-J1フェーズ2の契約金額の増額(249百万円)事実出典3 https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS82438/bd10141b/a32d/47b2/b8bf/aeb825556e47/140120261006546468.pdf
2026年10月までの開示の一覧、有価証券報告書の所在事実出典4 https://www.astroscale.com/ja/ir/library
図1の4類型の区分本稿の計算本稿による整理(企業名は本シリーズの例示)
各ミッションの打ち上げ日(月日)、LEXI-Pの顧客名と契約額、APS-Rの契約額、ELSA-M・ADRAS-J2の軌道上の結果未確定/将来見通し:本稿が読んだ一次資料に確定した記載なし。報道の数字は採用しない
ドッキングプレートの材質、素材の試験結果未確定/将来見通し:会社資料に個別の記載を確認できなかった
提携先への出資、大学との共同研究の有無未確定/将来見通し:一次資料に記載を確認できなかった。存在しないとも断定しない
標準衛星(プラットフォーム)の繰り返し販売への転換という目標の読み推測本稿の解釈(根拠:出典2)
黒字化の時期が2028年度以降の補助金案件の収支改善と継続受注に左右されるという読み推測本稿の解釈(根拠:出典2)
実証の成功を最優先に資源を使っているという読み推測本稿の解釈(出典2の整理からの読み)

最終更新:2026年10月17日/Troy Technical
本稿の数値は、株式会社アストロスケールホールディングスが関東財務局長へ提出した有価証券報告書と、同社の公式な開示資料に基づきます。調査会社の推計値(軌道上サービスの市場規模など)・報道だけの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。防衛利用の詳細、株価・評価額・投資判断には触れていません。