COMPANY PROFILE / 半導体後工程
イビデン
― 岐阜の電力会社から、AI半導体を載せる「土台」の世界トップ級へ
イビデンはICパッケージ基板――半導体チップを載せ、外の回路とつなぐ小さな多層基板――のメーカーです。 2026年3月期には、売上の29.4%をNVIDIA1社が占めるところまで来ました。 味の素のABFのような絶縁材を買って基板に組み上げる側であり、 チップを基板に載せて封止するOSATとも違います。その立ち位置を、同社の法定開示書類と公式IR資料の数字だけで追います。
- 30秒でわかるイビデン(基本データ)
- ロゴと社名の表記について
- 何をしている会社か ― パッケージ基板という部品
- 企業規模 ― 過去5年の売上高
- 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置
- 拠点と工場のある国
- 半導体後工程における主力製品とそのシェア
- 直近の投資計画
- 提携している大手企業(=開示されている顧客)
- 今後のこの分野における存在感
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるイビデン
名古屋証券取引所 プレミア市場証券コード 4062。発行済株式総数 281,721,114株(2026年3月31日時点)
(416,201百万円)営業利益 620億円。決算期は3月末
(ICパッケージ基板)材料も作らず、チップの組立もしない。基板そのものを作る会社
イビデンの2026年3月期の売上のうち、NVIDIA向けが1,224億70百万円(29.4%)、Intel向けが753億19百万円(18.1%)。 この2社だけで売上の47.5%を占めます 本稿の計算。 しかもこれは推計ではなく、有価証券報告書に顧客の実名と金額が載っている数字です 事実。 半導体のサプライチェーンでは取引先を明かさない会社が多いなか、イビデンは法定開示の基準(総販売実績の10%以上)に従って 顧客名を出しています。「AI半導体の基板を誰が作っているのか」を一次情報で追える、数少ない会社です。
2. ロゴと社名の表記について
イビデンのロゴは同社の登録商標です。
表記の注意:社名は片仮名の「イビデン」が正式で、漢字表記はありません。 もとは1912年設立の揖斐川電力株式会社で、「揖斐川電気」を縮めた「イビデン」が1982年に正式社名になりました。 英文表記は IBIDEN CO.,LTD. です。
公式サイト:https://www.ibiden.co.jp/3. 何をしている会社か ― パッケージ基板という部品
イビデンの報告セグメントは3つです。2026年3月期の外部売上高で見ると、内訳はこうなります 事実。
| セグメント | 主な製品 | 売上高(百万円) | 構成比 | 営業利益(百万円) |
|---|---|---|---|---|
| 電子 | ICパッケージ基板 | 243,316 | 58.5% | 45,248 |
| セラミック | ディーゼル微粒子フィルター(DPF)、触媒担体保持材(AFP)、特殊炭素製品(FGM)、EVバッテリー用安全部材 | 82,554 | 19.8% | 7,646 |
| その他 | 建設・建材、樹脂加工、食品加工、情報サービス、運送、電力 | 90,330 | 21.7% | 8,964 |
| 合計 | ― | 416,201 | 100% | 62,027 |
※合計の営業利益には調整額等168百万円を含みます。構成比は会社開示の補足資料の値です。
半導体に関わるのは1つめの電子セグメントで、作っているものは1種類――ICパッケージ基板です。 セグメント区分の説明も「電子は、パッケージ基板の製造販売を行っております」の一行だけで、 ここには材料も装置も含まれません 事実。
パッケージ基板とは何か
半導体チップ(ダイ)は、そのままでは基板にはんだ付けできません。 髪の毛より細い電極を、人間が扱えるサイズの端子に「広げてつなぐ」中継部品が必要になります。それがパッケージ基板です。 作り方は、絶縁樹脂の層と銅配線の層を1層ずつ積み上げていく「ビルドアップ工法」。 イビデンはこの積み上げの層数と面積を増やし続けることで、AI向けの大型チップに対応してきました。
どのくらい大型化しているかは、会社の決算説明会資料に世代ごとのロードマップとして示されています 事実。
| 項目 | CY2025 | CY2026 | CY2028 | CY2030以降 |
|---|---|---|---|---|
| ダイサイズ(レチクル換算) | 3.5 | 5.0 | 7.5 | 9超 |
| 基板サイズ(mm) | 80×80 | 90×90 | 110×110 | 130×130超 |
| SAP層構成 | 9-X-9 | 10-X-10 | 12-X-12 | 14-X-14 |
※SAPはセミアディティブプロセス。「9-X-9」はコア層の上下にそれぞれ9層を積むという意味です。会社は同じ資料で、ガラスコア(反り対策)、シリコンブリッジ型、光電変換への対応を開発項目として挙げています。
上の表を材料側から読むと、5年で面積が約2.6倍(80×80→130×130)、片側層数が9層から14層へ増えます。 工程数は層数にほぼ比例し、歩留まりは工程数に対して累乗で効きます。 つまり大型化・高多層化は、同じ製造ラインで作れる「良品の枚数」を急速に減らす方向に働きます。 会社はこれを生産負荷という指標で表現していて、 AIサーバー向け基板1枚あたりの生産負荷(SAP換算)は2024年を1.0として、2026年に1.8倍、2028年に2.5倍になる見通しだとしています 事実。 ラインを1.8倍に増やしても、出てくる基板の枚数は増えない。 「AI半導体で基板が足りない」と言われるとき、その中身はたいていこの負荷倍率の話です。
4. 企業規模 ― 過去5年の売上高
| 決算期 | 売上高(百万円) | 経常利益(百万円) | 親会社株主帰属当期純利益(百万円) | 連結従業員数(人) |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期(第169期) | 401,138 | 74,394 | 41,232 | 12,958 |
| 2023年3月期(第170期) | 417,549 | 76,176 | 52,187 | 12,744 |
| 2024年3月期(第171期) | 370,511 | 51,140 | 31,490 | 11,375 |
| 2025年3月期(第172期) | 369,436 | 47,890 | 33,704 | 11,168 |
| 2026年3月期(第173期) | 416,201 | 60,822 | 63,713 | 11,105 |
※従業員数は臨時雇用者を含みません(2026年3月期の平均臨時雇用者は2,104人)。5年間で売上は+3.8%にとどまる一方、従業員数は1,853人減っています 本稿の計算。
この表で目を引くのは、5年で売上がほとんど伸びていないことです。 2023年3月期の4,175億円がピークで、2026年3月期の4,162億円はまだそれを超えていません。 ただし中身は大きく入れ替わっていて、電子セグメントの売上は2025年3月期の1,972億円から 2026年3月期に2,433億円へ+23.4%、同セグメントの営業利益は268億円から452億円へ+68.5%伸びました 事実。 減っているのは自動車排気系のセラミックとパソコン向けです。
そして会社が示す2027年3月期の見通しは、売上5,500億円・営業利益1,270億円(2026年8月4日の上方修正後)。 うち電子セグメントが売上3,750億円・営業利益1,100億円で、営業利益の87%を電子が占める計画です 未確定/将来。
5. 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置
カテゴリーはメーカー(部品メーカー)です。ここがいちばん誤解されやすいので、工程順に並べます。
| サプライチェーン上の位置 | やっていること | 代表的な企業 |
|---|---|---|
| 材料メーカー | 層間絶縁材・銅箔・封止材・接着剤などを供給する | 味の素、住友ベークライト、三井金属 ほか |
| パッケージ基板メーカー (イビデンはここ) | 上記の材料を買い、絶縁層と銅配線を積み上げて基板そのものを製造する | イビデン、Unimicron、Kinsus、新光電気工業 ほか |
| OSAT/ファウンドリ | 完成した基板にチップを載せ、封止し、検査する | ASE Group、Amkor、TSMC ほか |
| 半導体設計会社 | チップを設計し、上記に製造を委託する | NVIDIA、AMD、Intel ほか |
ひとことで言えば、基板メーカーは「土台を作る」会社、OSATは「土台にチップを載せる」会社です。 OSATが引き受けるのは、ウェハを切る(ダイシング)、チップを基板に接合する(ボンディング)、 樹脂で覆う(モールド)、電気的に検査する(テスト)といった組立工程。 そこで使われる基板は、OSATが自分で作るのではなく、イビデンのような基板メーカーから買います。 つまり両者は競合ではなく、基板メーカーがOSATの上流にいる関係です。 工程がぜんぶ「後工程」と呼ばれるので混ざりがちですが、設備も歩留まりの効き方もまったく違います。
6. 拠点と工場のある国
ICパッケージ基板(電子セグメント)を作っている工場は、日本・フィリピン・マレーシアの3か国です 事実。 このうち先端品はすべて岐阜県内にあります。
| 拠点 | 国 | セグメント | 従業員数(人) | 帳簿価額(百万円) |
|---|---|---|---|---|
| 大野事業場 | 日本(岐阜県大野町) | 電子 | 533 | 130,783 |
| 河間事業場 | 日本(岐阜県大垣市) | 電子 | 26 | 36,933 |
| 大垣中央事業場 | 日本(岐阜県大垣市) | 電子 | 1,015 | 27,939 |
| 大垣事業場 | 日本(岐阜県大垣市) | 電子 | 1,003 | 25,469 |
| 青柳事業場 | 日本(岐阜県大垣市) | 電子・セラミック | 647 | 1,865 |
| イビデンフィリピン | フィリピン(バタンガス) | 電子 | 1,638 | 11,733 |
| イビデンエレクトロニクスマレーシア | マレーシア(ペナン) | 電子 | 934 | 24,991 |
| セラミック系(国内3・海外3) | 日本・ハンガリー・韓国・メキシコ | セラミック | 3,074 | 36,158 |
※2026年3月31日現在。帳簿価額は建設仮勘定111,793百万円を含みません。セラミック系の行は大垣北・衣浦・神戸の3事業場とハンガリー・韓国浦項・メキシコの3工場を本稿で合算したものです 本稿の計算。
台湾・韓国・中国・シンガポール・米国・オランダにも子会社がありますが、 電子セグメントではいずれも販売会社で、基板の製造はしていません 事実。
工場の世代構成は決算説明会資料に整理されています。1998年稼働の大垣工場(Cell2/3)から、 2007年・2020年の中央工場(Cell4/5)、そして2025年度第2四半期に稼働を開始した大野工場(Cell8)へと続き、 河間工場(Cell6)が次の番です 事実。 有価証券報告書の沿革でも「2025年10月 大野事業場を開設」と記載されています。
上の表で、2025年に開設したばかりの大野事業場の帳簿価額が1,307億円と、既存の大垣・大垣中央の合計(534億円)の2.4倍になっています 本稿の計算。 さらに、この表に入っていない建設仮勘定が1,117億93百万円あります――まだ資産として動き出していない、建設途中の設備です。 材料を納める側から見ると、これは今後2〜3年で岐阜県内に新しいラインがまとまって立ち上がるということであり、 そのとき絶縁材・銅箔・薬液の要求仕様は既存ラインのものではなく、新ラインの世代に合わせて決まります。 納入実績があることと、次の世代で採用されることは別の話になります。
7. 半導体後工程における主力製品とそのシェア
製品は事実上1種類
電子セグメントの製品はICパッケージ基板だけです。用途別には、会社は次の4区分で説明しています 事実。
- AIサーバー向け
- GPUやAI用ASICを載せる基板。大型・高多層で、いま最も伸びている領域。大野工場(Cell8)が担う。
- 汎用サーバー向け
- データセンターの一般的なサーバーCPU用。2026年3月期は緩やかな回復基調だったと会社は説明している。
- スイッチIC向け
- サーバー間・データセンター間をつなぐネットワーク用スイッチのチップに使う基板。2025年度から量産支援を開始。
- パソコン向け
- 従来の主力。2026年3月期は想定を下回った。フィリピン工場が担当。
シェアについて ― ここは正直に書きます
イビデンはICパッケージ基板の市場シェアを数値で開示していません。 決算説明会資料にあるのは「最先端半導体向けを中心とした能増により、ハイエンド市場でのトップシェアを維持する」という 会社自身の目標表現までで、何%という数字はありません 事実。 「パッケージ基板の世界シェアは○%」といった数字は調査会社の推計であり、本稿では採用しません 未確定/将来。 なお、同社の説明会資料に載っている市場規模のグラフにも「外部調査会社の情報を基に推定」と注記があるため、 本稿ではそれらの市場数値も使用していません。
ただし、シェアの代わりになる一次情報が2つあります。ひとつは顧客別の売上実績(第9節)。 もうひとつは、質疑応答で社長らが語った世代交代時の挙動です 事実。
2026年5月12日の決算説明会で、インターポーザー型の競争環境を問われた同社はこう答えています。 「世代交代によって、新世代製品が立上がったタイミングは100%に近いシェアを獲得し、 3ヶ月〜半年ほど経つとシェアが2割から3割程度落ちることが想定される」。 また、シリコンブリッジ型については「シリコンブリッジの裏側の接続難易度がかなり高く、 少なくとも2030年までは技術的な優位性を維持できると考える」としています。
これは数値のシェア開示ではありませんが、 最先端世代はほぼ独占で立ち上げ、量産が安定すると他社が入ってくるという業界構造を、 当事者自身の言葉で説明したものです。
8. 直近の投資計画
2026年2月3日のリリースで、会社は「2026年度から2028年度の3ヶ年で電子事業への、総額約5,000億円規模の投資計画を決議」 と明記しています。目的は「高機能ICパッケージ基板(AIサーバー、及び高性能サーバー向け)の生産能力増強」です 事実。 この5,000億円は2月3日(河間・約2,200億円)と2月26日(大野・約2,800億円)の2回に分けて具体化されました。
有価証券報告書の「設備の新設、除却等の計画」には、より広い範囲の案件が並びます 事実。
| 会社・事業所 | セグメント | 投資予定額(百万円) | 既支払額(百万円) | 着手/完了予定 |
|---|---|---|---|---|
| イビデン 大野事業場 | 電子 | 192,800 | ― | 2026年3月/2029年6月 |
| イビデン 河間事業場 | 電子 | 179,500 | 56,087 | 2022年3月/2029年6月 |
| イビデンエレクトロニクスマレーシア | 電子 | 122,700 | ― | 2026年2月/2029年6月 |
| イビデン 大垣事業場(2026年着手) | 電子 | 36,100 | 0 | 2026年2月/2029年6月 |
| イビデン 大垣中央事業場 | 電子 | 32,600 | 1,202 | 2026年2月/2029年6月 |
| イビデン 大垣事業場(2023年着手) | 電子 | 12,900 | 4,196 | 2023年3月/2026年4月 |
| 合計 | ― | 576,600 | 61,485 | ― |
※2026年3月31日現在。合計は本稿で合算したものです 本稿の計算。会社は「完成後の増加能力は算定が困難であることから記載を省略」としており、この投資で生産能力が何倍になるかは公表されていません 未確定/将来。マレーシア工場に1,227億円の電子投資が計画されている点は、先端品の岐阜集中とは別の動きとして注目されます。
売上4,162億円の会社が3年で5,000億円を投じるという計画について、決算説明会で資金手当てを問われた同社は 「基本的には顧客と契約を締結して投資相当額を負担いただき、一部は前払いで受領する。 追加の資金調達については、現時点では考えていない」と回答しています 事実。 つまりこの増設は、需要予測に賭けた投資ではなく顧客との契約で裏づけられた投資だという説明です。 ただし契約の相手方・金額・期間はいずれも非開示です 未確定/将来。
9. 提携している大手企業(=開示されている顧客)
イビデンには資本提携や合弁の開示はありません。代わりに、この会社には 日本の法定開示ルールによって顧客の実名と売上高が載るという、後工程企業としては例外的な特徴があります。 総販売実績の10%以上を占める相手先は名前を出す必要があるためです 事実。
| 相手先 | 2025年3月期(百万円) | 割合 | 2026年3月期(百万円) | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| NVIDIA Corp. | 75,077 | 20.3% | 122,470 | 29.4% |
| Intel Corp. | 76,709 | 20.8% | 75,319 | 18.1% |
| Advanced Micro Devices Inc. | 40,707 | 11.0% | ― | 10%未満のため省略 |
※いずれも電子セグメント。会社はこの3社を「主な相手先」として開示しているだけで、契約内容・期間・価格条件は非開示です。
顧客の所在地で見ても同じ変化が読めます。2026年3月期の台湾向け売上は1,114億91百万円で、前期の584億94百万円から+90.6% 本稿の計算。 売上全体に占める比率は15.8%から26.8%へ上がりました。 AI半導体の組立が台湾に集中していることの、サプライヤー側から見た反映です。
イビデンは層間絶縁材を外から買って基板を作る側です。 業界ではその絶縁材として味の素のABF(味の素ビルドアップフィルム)が使われる、と語られますが、 イビデンの有価証券報告書・決算説明会資料・適時開示のいずれにも、味の素やABFという語は出てきません。 会社が述べているのは「主要原材料・部品、エネルギーには、限られた供給元に依存しているものがある」 というリスク記載までです 事実。 したがって本稿では、個別の材料メーカーとの取引関係は扱いません 未確定/将来。
10. 今後のこの分野における存在感
ここは予測になるので、判断の根拠となる事実と、そこから導かれる見通しを分けて書きます。
事実として確定していること
| 事実 | 後工程への含意 |
|---|---|
| 電子セグメント売上が前期比+23.4%(2,433億円)、営業利益+68.5%(452億円) | AI向け基板が実数として効いている。利益の7割超を1セグメントが生む構造 |
| NVIDIA向けが売上の29.4%、Intel向けが18.1%(実名開示) | AI半導体の主要プレイヤーの基板を実際に供給している裏づけ |
| 2026〜2028年度に電子事業へ約5,000億円を投資決議 | 年間売上を上回る規模の増設。需要の継続を前提に置いている |
| 増設分は「顧客と契約を締結して投資相当額を負担いただく」と説明 | 投資リスクの一部を顧客が持つ形。裏を返せば顧客の計画に強く縛られる |
| AIサーバー向け基板の生産負荷が2024年比で2028年に2.5倍 | 能力増強しても供給枚数は比例して増えない |
| 2027年3月期の会社計画は売上5,500億円・営業利益1,270億円(上方修正後) | 会社自身が過去最高の更新を見込んでいる |
見通し
未確定/将来 上の事実から素直に読めば、イビデンの後工程における存在感は当面強まる方向です。 理由は、AI向けの大型・高多層基板を量産できる事業者が世界に数社しかなく、 そのうち日本勢の先頭がイビデンだからです。 会社自身も、2024年度対比で2030年度に売上を倍増させる中期目標を掲げ、 その内訳としてAIサーバー向け+250%、汎用サーバー/ASIC向け+150%という成長率を示しています 事実。
未確定/将来 一方で、この構図が崩れるとすれば方向は2つです。 ひとつは顧客側の設計変更。売上の47.5%を2社が占めるため、 その2社が次世代で別の実装方式(たとえばガラスコアや、基板を介さない接続)を選べば、影響は直撃します。 もうひとつは競合の追い上げで、会社自身が「新世代の立ち上がりから3ヶ月〜半年で2〜3割のシェアが落ちる」 と説明しているとおり、先行者利得は世代ごとにリセットされます。 2030年度の売上倍増目標は、この2つを乗り越え続けることを前提にした数字です。
11. この企業が抱えるリスク
イビデン自身が有価証券報告書で挙げているリスク要因を、後工程の文脈で重要なものに絞って整理します 事実。
| リスク | 内容 | 裏づけとなる数字 |
|---|---|---|
| 顧客集中 | 会社は「テクノロジーの変革・移行」の項で、サーバー・パソコン市場の技術革新や製品ニーズが大きく変化する可能性を挙げている。顧客2社で売上の半分近くを占める構造がこれを増幅する | NVIDIA 29.4%+Intel 18.1%=47.5% 本稿の計算 |
| 設備投資の回収 | 会社自身が「当初予想した受注量を確保できない場合には、経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性」と明記。2027年3月期の設備投資計画は2,100億円で、売上計画の38.2%にあたる | 設備投資÷売上計画=38.2% 本稿の計算 |
| 減損 | 会社は減損会計をリスクとして挙げており、実際に2025年3月期には電子セグメントで185億87百万円の減損損失を計上している | 有価証券報告書のセグメント別減損損失 |
| 原材料の供給元集中 | 「主要原材料・部品、エネルギーには、限られた供給元に依存しているものがある」と会社が明記。供給遅延・停止は生産に直結する | 「事業等のリスク」(4)の記載 |
| 生産拠点の集中 | 先端品の工場は岐阜県内に集中。会社は大規模自然災害と地政学リスクを別項で挙げている | 電子の国内生産拠点は岐阜県内の5事業場 |
| 為替 | 海外売上比率が高く、円換算の影響を大きく受ける。2026年3月期の前提は1ドル149円、2027年3月期通期予想は158円 | 決算短信補足資料の為替レート |
イビデンの決算を「売上高」で追うと、セラミックとその他事業の変動に紛れて本筋を見失います。 四半期ごとに見るべきは、電子セグメントの売上高と営業利益率の2つです。 2026年3月期は18.6%、2027年3月期第1四半期は27.6%、通期計画は29.3%―― この利益率が、製品ミックス(AI向けが増えているか)をほぼそのまま映します 事実。 材料を納める立場では、利益率が上がっている局面は高難度品の比率が上がっている局面であり、 要求される材料特性(低伝送損失、低熱膨張、薄物ハンドリング)もそこで切り替わります。 受注残高も有価証券報告書に載っていて、2026年3月末で390億70百万円(前期比+27.8%)でした。
12. 用語集
- ICパッケージ基板
- 半導体チップを載せ、外部の回路基板とつなぐための小さな多層基板。チップ側の微細な電極を、実装できる大きさの端子へ広げる役割を持つ。
- ビルドアップ工法
- 絶縁層と銅配線層を1層ずつ積み上げて多層基板を作る製法。層を増やすほど工程数が増え、歩留まりが落ちやすくなる。
- SAP
- Semi Additive Process(セミアディティブプロセス)。薄い下地の上に必要な配線だけをめっきで足していく方式。微細配線に向く。
- レチクル
- 露光装置が一度に焼き付けられる最大面積の単位。「ダイサイズ3.5レチクル」は、その3.5倍の面積のチップという意味。
- インターポーザー
- 複数のチップを載せて相互配線する中間基板。パッケージ基板の上にさらに載る。
- シリコンブリッジ
- チップ間の接続が必要な部分にだけ小さなシリコン片を埋め込み、配線を通す方式。インターポーザー全面を使うより低コストだが、裏側の接続難易度が高い。
- ガラスコア
- 基板の芯材(コア)に樹脂ではなくガラスを使う方式。大型化に伴う反りを抑える狙いがある。イビデンは開発項目として挙げている。
- OSAT
- Outsourced Semiconductor Assembly and Test。基板にチップを載せ、封止・検査する工程を受託する会社。基板メーカーの下流にあたる。
AI生成・概念図13. 出典
- イビデン株式会社 第173期(2025年4月1日〜2026年3月31日)有価証券報告書(2026年6月18日 関東財務局長宛提出)。5年分の売上高・経常利益・純利益・従業員数、沿革、関係会社の状況、セグメント別売上・営業利益、主な相手先別の販売実績、地域ごとの情報、主要な設備の状況、設備の新設計画、研究開発費、従業員の状況、事業等のリスク、生産・受注・販売実績。contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf
- イビデン株式会社 決算短信補足資料(2026年3月期)(2026年5月11日)。連結業績とセグメント情報、構成比・利益率、設備投資額、減価償却費、為替レート、連結子会社数。contents.xj-storage.jp/…/140120260505517291.pdf
- イビデン株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年5月11日)。contents.xj-storage.jp/…/140120260505517290.pdf
- イビデン株式会社 「高機能ICパッケージ基板向け設備投資(固定資産の取得)に関するお知らせ」(2026年2月3日)。2026〜2028年度3ヶ年・総額約5,000億円の投資計画、河間事業場(Cell6)約2,200億円。contents.xj-storage.jp/…/140120260202544768.pdf
- イビデン株式会社 「(経過開示)高機能ICパッケージ基板向け設備投資(固定資産の取得)に関するお知らせ」(2026年2月26日)。大野事業場(Cell8)約2,800億円。contents.xj-storage.jp/…/140120260220566591.pdf
- イビデン株式会社 2025年度通期 決算説明会資料(2026年5月12日)。ICパッケージ基板の進化ロードマップ(ダイサイズ・基板サイズ・SAP層構成)、生産負荷倍率、5,000億円投資の内訳と生産品目、設備投資額の年度別計画、株主還元方針。ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2025.pdf
- イビデン株式会社 2024年度決算説明会資料(2025年5月9日)。工場ネットワーク(Cell番号・稼働開始年・生産品目)、2030年度の中期業績見通しと24年度対比の成長率内訳。ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2024.pdf
- イビデン株式会社 2026年3月期 通期決算説明会 主な質疑応答(2026年5月12日)。5,000億円投資の資金手当て、世代交代時のシェアの挙動、シリコンブリッジ型の優位性、スイッチIC向け基板。ibiden.co.jp/ir/items/QA_FY25Q4.pdf
- イビデン株式会社 2027年3月期 第1四半期 決算短信補足資料(2026年8月4日)。第1四半期実績と通期予想の上方修正(売上5,500億円・営業利益1,270億円)、電子セグメントの利益率。contents.xj-storage.jp/…/140120260803507041.pdf
- イビデン株式会社 公式サイト(会社概要・ブランド表記の確認用)。https://www.ibiden.co.jp/
14. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、本社所在地、設立年(1912年11月)、社名変更(1982年11月)、上場市場、発行済株式総数 | 事実 | 出典1contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 2026年3月期 売上高416,201百万円、営業利益62,027百万円、経常利益60,822百万円 | 事実 | 出典2contents.xj-storage.jp/…/140120260505517291.pdf |
| 過去5年の売上高・経常利益・当期純利益・連結従業員数 | 事実 | 出典1「主要な経営指標等の推移」contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 5年で売上+3.8%、従業員1,853人減 | 本稿の計算 | 出典1の5期分の数値から算出contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| セグメント別売上・営業利益(電子243,316/45,248、セラミック82,554/7,646、その他90,330/8,964 百万円)と構成比58.5% | 事実 | 出典2・1contents.xj-storage.jp/…/140120260505517291.pdf |
| 電子セグメントが営業利益の73.0%を占める | 本稿の計算 | 出典2の45,248÷62,027から算出contents.xj-storage.jp/…/140120260505517291.pdf |
| 電子セグメント売上+23.4%、営業利益+68.5%、受注残高39,070百万円(+27.8%) | 事実 | 出典1contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 顧客別売上(NVIDIA 122,470百万円/29.4%、Intel 75,319百万円/18.1%、AMDは10%未満で省略) | 事実 | 出典1「主な相手先別の販売実績」contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 上位2社で47.5%、NVIDIA向けの金額が+63.1%、「その他」の比率 | 本稿の計算 | 出典1の開示金額から算出contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 台湾向け売上111,491百万円(前期58,494百万円)と+90.6%・比率26.8% | 本稿の計算 | 出典1「地域ごとの情報」の金額から比率を算出contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 工場一覧・従業員数・帳簿価額、建設仮勘定111,793百万円、沿革の「2025年10月 大野事業場開設」 | 事実 | 出典1「主要な設備の状況」「沿革」contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| セラミック系6拠点の合算値、大野が既存2事業場の2.4倍という比較 | 本稿の計算 | 出典1の帳簿価額を本稿で合算contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 工場の稼働開始年とCell番号、生産品目、サーバー比率の考え方 | 事実 | 出典7ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2024.pdf |
| 設備の新設計画6件(合計576,600百万円、既支払61,485百万円) | 本稿の計算 | 出典1の各案件の金額を本稿で合算contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| 3ヶ年で総額約5,000億円の投資決議、河間約2,200億円・大野約2,800億円、2027年度より順次稼働 | 事実 | 出典4・5contents.xj-storage.jp/…/140120260202544768.pdf |
| 河間はAI ASIC向け、大野はAI GPU向けという生産品目の区分 | 事実 | 出典6ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2025.pdf |
| 基板の進化ロードマップ(ダイサイズ・基板サイズ・SAP層構成)、生産負荷が2024年比で2028年に2.5倍 | 事実 | 出典6ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2025.pdf |
| 「顧客と契約を締結して投資相当額を負担いただく」「新世代は100%に近いシェア、3ヶ月〜半年で2〜3割落ちる」 | 事実 | 出典8ibiden.co.jp/ir/items/QA_FY25Q4.pdf |
| 2027年3月期の通期予想(売上5,500億円・営業利益1,270億円、電子3,750億円/1,100億円、設備投資2,100億円) | 未確定/将来 | 出典9。会社の業績予想であり実績ではないcontents.xj-storage.jp/…/140120260803507041.pdf |
| 設備投資が売上計画の38.2%、電子が営業利益計画の87% | 本稿の計算 | 出典9の計画値から算出contents.xj-storage.jp/…/140120260803507041.pdf |
| 2030年度に2024年度対比で売上倍増、AIサーバー+250%・汎用サーバー/ASIC+150% | 未確定/将来 | 出典7。会社の中期目標であり実績ではないibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2024.pdf |
| 事業等のリスク(技術変革、原材料の供給元集中、地政学、自然災害、為替、設備投資、減損) | 事実 | 出典1「事業等のリスク」contents.xj-storage.jp/…/S100YC4B.pdf |
| ICパッケージ基板の市場シェア(%) | 未確定/将来 | 会社は数値を開示していない。「ハイエンド市場でのトップシェアを維持する」という目標表現のみ。調査会社の推計は本稿では採用しない |
| 5,000億円投資による生産能力の増加倍率 | 未確定/将来 | 会社は「算定が困難であることから記載を省略」としており非開示。本稿では推定しない |
| 味の素・ABFなど個別の材料メーカーとの取引関係 | 未確定/将来 | イビデン側の一次情報に企業名・材料名の記載がない。本稿では取引先として扱わない |
| 増設分の契約の相手方・金額・期間 | 未確定/将来 | 非開示。会社は「顧客と契約を締結」とのみ述べている。本稿では推定しない |
| 今後の存在感に関する見通し(第10節「見通し」) | 未確定/将来 | 本稿による解釈。事実欄の6項目から導出 |
最終更新:2026年9月21日/Troy Technical
本稿の数値はすべてイビデン株式会社が提出・公表した法定開示書類および公式IR資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。