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リチウム硫黄電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

リチウム硫黄電池
― 「理論値の高さ」と「実際のセルの重さ」のあいだにあるもの

リチウム硫黄電池は、正極に硫黄、負極にリチウム金属を使う電池です。理論エネルギー密度は約2,600 Wh/kg(材料基準)と、リチウムイオン電池を大きく上回ります。 ところが、硫黄は充放電のあいだに電解液に溶け出し、体積が約8割変わり、負極のリチウム金属は劣化します。 そして実際のセルでは、電解液の量(E/S比)が、重さとエネルギー密度をほとんど決めてしまいます。

構成:査読論文(2026年のオープンアクセスの総説を含む)、フラウンホーファー研究機構 ISI の2026年の調査、企業の取引所開示を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

硫黄と炭素を組み合わせた正極材を調製する例です
概念画像(ImageGenで生成)。硫黄と炭素を組み合わせた正極材を調製する例です。黄色と黒の試料は原料を見分けるための表現です。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
この記事の構成
  1. リチウム硫黄電池とは何か(3行でつかむ)
  2. 反応 ― S8 から多硫化物を経て Li2S へ
  3. 本稿の計算:理論容量・理論エネルギー・体積変化
  4. シャトル効果と、体積変化
  5. 素材技術者の視点①:硫黄は「電解液に溶ける活物質」である
  6. リチウム金属負極との組み合わせ
  7. 評価条件 ― E/S比、硫黄担持量、N/P比
  8. 本稿の計算:電解液の量が、重さと体積を決める
  9. 素材技術者の視点②:論文の数字を読む4つの質問
  10. 質量エネルギー密度の高さと、体積密度・寿命のトレードオフ
  11. 実用化の状況 ― 企業の発表と、独立の調査
  12. 課題
  13. 評価・標準の読み方
  14. 用語集
  15. 参考資料(一次情報)
  16. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。企業の発表は「企業の主張」であり、独立した検証とは区別しています。 電池の数値は、材料の値か、セルか、パックか、初回の放電か化成後か、電解液の量はどれだけかで別の数字になります。本文では必ず基準を添えます。

1. リチウム硫黄電池とは何か(3行でつかむ)

リチウム硫黄電池(Li–S電池)は、「硫黄を正極の活物質にし、リチウム金属を負極に使う二次電池」です。 リチウムイオン電池のように、イオンが結晶の中に出入りする(挿入型)のではなく、硫黄そのものが化学変化する「変換型」の電池です事実(Chan ら[1])。

  • どれだけ高いか:硫黄の理論容量は1,675 mAh/g、リチウム金属は約3,860 mAh/gで、組み合わせた理論エネルギー密度は約2,600 Wh/kgとされます事実[1・2]。これは材料基準の値です。
  • 何が難しいか:反応の途中でできる多硫化物が電解液に溶けて負極側へ移動し(シャトル効果)、硫黄と硫化リチウムの体積差は約80%あり、どちらも電気を通しません事実[1]。
  • 実用化の状況:フラウンホーファー研究機構 ISI は2026年6月、「広く入手できる量産車向けのLi–Sセルは、いまのところ見当たらない」と述べ、最初の市場はドローン・航空・宇宙・防衛など、重さが特に重要な分野だろうとしています事実[5]。
この記事でいちばん大事な一行

リチウム硫黄電池の「2,600 Wh/kg」は、電解液も炭素も集電体も外装も入っていない数字です。実際のセルでは、電解液の量だけで質量エネルギー密度が数分の1になります。 だから研究の評価は、「電解液/硫黄の比(E/S比)が5 µL/mg以下、硫黄担持量が5 mg/cm²超」のような実用条件で行う必要がある、というのが2026年の総説の立場です事実[1]。 素材技術者にとっては、論文の数字を読む前に、その電解液の量を確かめることが、いちばん役に立つ習慣です(本記事による解説)。

2. 反応 ― S8 から多硫化物を経て Li2S へ

放電では、固体の硫黄(S8)が、電解液に溶ける長鎖の多硫化物(Li2S8 → Li2S6 → Li2S4)に変わり、最後に溶けない硫化物(Li2S2/Li2S)として固体で析出します。 充電はその逆です。全体の反応は S8 + 16Li⁺ + 16e⁻ → 8Li2S と書かれます事実[1]。硫黄1原子あたり2個の電子を受け取り、電位は約2.1 V(対 Li/Li⁺)です事実[2]。

左は固体の硫黄、中央は溶けた中間体、右は析出した硫化リチウムを示す模型です
図1 概念画像(ImageGenで生成)。左は固体の硫黄、中央は溶けた中間体、右は析出した硫化リチウムを示す模型です。色・粒子数は説明用で、反応量や電位を示しません。 [1] 形状・色・寸法は説明用です。数値と原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る
放電の反応段階:固体 → 液体(溶解)→ 固体(概念図) ※ 化学種の並びは総説[1]の記述にもとづく模式図です。各段階の電位・量は示していません。 S8 固体の硫黄 電気を通さない Li2S8 電解液に溶ける Li2S6 電解液に溶ける Li2S4 電解液に溶ける Li2S2 / Li2S 固体で析出 電気を通さない 溶けた多硫化物が負極側へ移動できる区間(シャトル効果の原因) 放電 → ※ 多硫化物はLi2Sn(4≦n≦8)の総称。ここでは代表的な3種を示しています[1]。 ※ Li2Sの充電方向の酸化は、絶縁性のため速度が遅く、始動に大きな過電圧が必要とされます[1]。 ※ 硫黄はおよそ10⁻³⁰ S/cm、Li2Sはおよそ10⁻¹³ S/cmの電子伝導度という記述が総説にあります[1]。 ※ 電解液にはエーテル系(DOL・DME)にLiTFSIとLiNO3添加剤を使うのが標準的です[1]。
図1 概念図(ベクター作図)。硫黄の放電反応が、固体→溶解→固体の三段階で進むことを示した模式図。化学種と性質は2026年の総説[1]の記述によります。各段階の電位や量を示すものではありません。

3. 本稿の計算:理論容量・理論エネルギー・体積変化

本稿の計算

公表されている物性値から、「2,600 Wh/kg」と「約80%」を確かめます本稿の計算。

前提:原子量は S 32.06、Li 6.94。硫黄1原子あたり電子2個、ファラデー定数 96485 C/mol(26801 mAh/mol)。密度は S8 2.07 g/cm³、Li2S 1.66 g/cm³(標準的な物性値)。平均電圧は2.1〜2.2 Vを仮定。これらは材料基準の値です。

項目計算式結果
硫黄の理論容量2 × 26801 ÷ 32.06約1,672 mAh/g(文献は1,675)
Li2S の式量2 × 6.94 + 32.0645.94 g/mol
Li+S の合計質量あたりの容量2 × 26801 ÷ 45.94約1,167 mAh/g
理論エネルギー密度(材料基準)1,167 × 電圧(2.1〜2.2 V)約2,450〜2,570 Wh/kg(文献は約2,600)
体積変化S:32.06 ÷ 2.07 = 15.5 cm³/mol
Li2S:45.94 ÷ 1.66 = 27.7 cm³/mol
27.7 ÷ 15.5 = 1.79(約+79%)

計算は本稿の計算。「理論容量1,675 mAh/g、約2,600 Wh/kg」は文献の値[1・2]、「体積変化約80%」は総説の記載[1]で、いずれも事実。

硫黄1 molが硫化リチウムになるときの体積(本稿の計算) ※ 正方形の面積を体積に比例させた作図(等方的に膨らむことを表すものではありません)。 S(硫黄) 15.5 cm³/mol Li2S 27.7 cm³/mol 放電 体積は約1.79倍(約+79%) 充放電のたびに、電極が 約8割ふくらみ、縮む リチウム金属の体積変化は別(第6章) ※ 密度 S8 2.07 g/cm³、Li2S 1.66 g/cm³、式量 S 32.06、Li2S 45.94 から計算。「約80%」は総説の記載[1]と一致します。 ※ これは材料基準の体積変化で、多孔質の電極全体の厚みの変化とは同じではありません。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。硫黄1 molあたりの体積の変化。計算は本記事、約80%という値は総説[1]と一致します。電極の厚み変化を示すものではありません。

4. シャトル効果と、体積変化

総説は、リチウム硫黄電池の本質的な課題を三つ挙げています事実[1]。

  • シャトル効果:溶けた多硫化物が負極側へ移動し、リチウム金属と反応して、活物質の損失・負極での副反応・クーロン効率の低下を起こします。
  • 絶縁性:硫黄も硫化リチウムも電子を通さないため、反応が遅く、導電助剤の添加が必要で、硫黄の含有率を上げにくくなります。
  • 体積変化(約80%):硫黄と硫化リチウムの体積差で、電極に絶えず機械的な応力がかかり、構造が壊れていきます。
正極側の溶けた中間体がセパレーターを越えて負極側へ移るシャトル効果の模型です
図3 概念画像(ImageGenで生成)。正極側の溶けた中間体がセパレーターを越えて負極側へ移るシャトル効果の模型です。膜がすべての化学種を止めるわけではありません。 [1] 形状・色・寸法は説明用です。数値と原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る
セルの構成と、シャトル効果(放電時の概念図) ※ 層の厚み・粒子の数は模式化したもので、実際の寸法比ではありません。 リチウム金属 負極 セパレータ 硫黄/炭素の正極 電解液を含む Al箔 灰:炭素ホストと硫黄/Li2S 長鎖が拡散 短鎖が戻る 黄の点:溶けた多硫化物 ① 放電で溶けた長鎖の多硫化物が、 セパレータを通って負極側へ拡散 ② リチウム金属と化学反応し、 短鎖の硫化物と、負極表面の 不安定な層をつくる ③ 短鎖が正極へ戻り、再び酸化 (充電中に繰り返す=シャトル) ※ LiNO3を電解液に加えると、リチウム表面に保護層ができ、副反応が抑えられて充放電効率が99%超になる、と総説は述べます[1]。 ※ 多硫化物を正極側に閉じ込める策として、炭素ホスト、触媒的なホスト、結合剤、セパレータ上の層が挙げられています[1]。 ※ 反応の詳しい経路・各段階の速度は、ここでは扱いません。
図3 概念図(ベクター作図)。溶けた多硫化物が負極側へ移動し、リチウム金属と反応する(シャトル効果)の模式図。総説[1]の記述にもとづきます。実在のセルの断面ではありません。

5. 素材技術者の視点①:硫黄は「電解液に溶ける活物質」である

素材技術者の読みどころ:電極の「中」だけでは反応が閉じない

リチウムイオン電池の活物質は、結晶の中にイオンを出し入れするだけで、電極の外へは出ていきません。 リチウム硫黄電池の硫黄は、途中で電解液に溶け、電極の外に出ます。つまり、正極の設計は、粒子や電極の構造だけでなく、電解液・セパレータ・負極まで含めた「セル全体の物質移動」の設計になります(本記事による解説)。

素材技術者にとって、これは材料の役割分担を変えます。

  • 炭素ホスト:硫黄の導電経路をつくり、多硫化物を物理的に閉じ込める。2009年の秩序メソポーラス炭素への硫黄の含浸が、大きな節目として総説に挙げられています事実[1]。細孔の大きさと量は、載せられる硫黄の量と、電解液の必要量を同時に決めます。
  • 結合剤:体積変化(約80%)に耐える接着と、多硫化物への親和性の両方が求められる、と総説は述べています[1]。
  • 触媒的なホスト:Li2Sの酸化・多硫化物の変換を速める金属系・化合物系の材料が研究されています[1]。
  • セパレータ・インターレイヤー:多硫化物の移動を抑える層。ただし、追加した層の分だけ重さと体積が増え、セルのエネルギー密度が下がることに注意が必要です(本記事による解説)。

総説は、実用性の評価に高い硫黄含有率(60 wt%超)、高い担持量(5 mg/cm²超)、少ない電解液を同時に求めています事実[1]。 導電助剤・ホスト・結合剤・触媒は、どれも重さを増やす添加物ですから、「機能を増やすほど、実際のセルのエネルギー密度が下がる」という矛盾が材料設計に常につきまといます(本記事による解説)。

6. リチウム金属負極との組み合わせ

リチウム硫黄電池の理論エネルギー密度の高さは、硫黄だけでなく、リチウム金属負極(約3,860 mAh/g)に支えられています事実[1]。 そのため、リチウム金属負極の課題は、そのままこの電池の課題になります。

  • 反応性:リチウムの標準電極電位は−3.04 V(対標準水素電極)で、電解液の成分や溶けた多硫化物と反応しやすく、SEIの生成と分解が続いて界面抵抗が上がります事実[1]。
  • デンドライトと不活性リチウム:不均一な析出が、枝状の成長(デンドライト)と、電気的につながらない「デッドリチウム」の蓄積を招き、安全性とサイクル寿命を損ないます事実[1]。
  • N/P比:実際のセルの重さを減らすには、薄いリチウム箔(N/P比=負極の容量÷正極の容量が小さい)が必要です。総説は、N/P比が5未満の薄いリチウム箔が、実際的な評価に不可欠になっていると述べます事実[1]。薄いほど、わずかな劣化が寿命に響きます。

リチウム金属負極そのものの詳細(なぜ容量が大きく見えるか、アノードフリーという考え方、析出リチウムの性質)は本シリーズ『リチウム金属負極』編、デンドライトの成長機構と対策は『デンドライト』編で詳しく扱います。 リチウム硫黄電池では、そこに「溶けた多硫化物が負極を攻撃する」という、リチウム金属だけの電池にはない劣化要因が加わります(本記事による解説)。 電解液の溶媒は、エーテル系(DOL、DME)が標準ですが、揮発しやすく可燃性という弱点があります事実[1]。

7. 評価条件 ― E/S比、硫黄担持量、N/P比

リチウム硫黄電池の論文の数字は、どの条件で測ったかで意味が変わります。総説は、多くの学術研究が「低い硫黄担持量、厚いリチウム箔、過剰な電解液」で行われ、これらの条件はサイクル安定性を見かけ上高めるが、実際のデバイスの制約を反映しない、と指摘しています事実[1]。

グローブボックス内で電解液を計量して加えています
図4 概念画像(ImageGenで生成)。グローブボックス内で電解液を計量して加えています。量が性能とセル質量に関わることを示し、適切な注液量を指定する図ではありません。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
評価条件実用を見据えた目安(2026年の総説)よくある学術研究の条件数字への影響
硫黄担持量5 mg/cm²超低い担持量厚い電極ほど抵抗・拡散・応力の問題が出て、利用率とサイクルが下がる[1]
硫黄含有率(電極中)60 wt%超導電炭素を大量に配合含有率が低いほど、電極全体のエネルギー密度が下がる[1]
E/S比(電解液/硫黄)5 µL/mg未満(E/C比も5 µL/mAh未満)10 µL/mgを超える過剰な電解液電解液が多いと多硫化物が薄まり安定して見えるが、実際のエネルギー密度は大きく下がる[1]
N/P比(負極/正極の容量比)5未満の薄いリチウム箔リチウムを大量に余らせるリチウムが余るほどサイクルが安定して見え、負極の劣化が隠れる[1]
面積あたりの容量2〜4 mAh/cm²―エネルギー密度は10〜15 mWh/cm²に相当する目安[1]

すべて事実(Chan ら 2026[1]の記述。「目安」は同総説が実用性の評価に必要としている条件)。

総説は、E/S比が5 µL/mg未満の「貧電解液」条件では、多硫化物の濃度が急に上がり、物質移動が拡散に支配され、正極の濡れが悪くなり、硫黄と硫化リチウムの変換が遅くなると述べています事実[1]。 つまり、少ない電解液は、エネルギー密度のためには必須でも、寿命と出力にとっては最も厳しい条件です。

8. 本稿の計算:電解液の量が、重さと体積を決める

本稿の計算

電解液の量(E/S比)が、セルの質量・体積エネルギー密度にどれだけ効くかを、簡単なモデルで見積もります本稿の計算。実在のセルの設計ではなく、前提を置いた概算です。

前提(すべて仮定):可逆容量1 Ahあたりで計算。硫黄の利用容量は1,000 mAh/g(理論の約6割)で、硫黄は1.00 g。電極の硫黄含有率は70 wt%で、残り30 wt%(導電炭素・結合剤、0.43 g)は密度2.0 g/cm³とする。リチウム金属は3,861 mAh/g、N/P=2(0.518 g、密度0.534 g/cm³)。電解液の密度は1.1 g/cm³(E/S × 1.00 g × 1.1)。集電体・セパレータ・外装などの不活性部材は1.0 g/Ah(体積は含めない)。平均電圧は2.1 V。

E/S比(µL/mg)活物質+電解液+不活性部材(g/Ah)質量エネルギー密度(Wh/kg、概算)体積(cm³/Ah、活物質+電解液のみ)体積エネルギー密度(Wh/L、概算)
36.253364.67450
58.452496.67315
1013.9515111.67180
1519.4510816.67126

本稿の計算(上記の仮定)。体積は硫黄・炭素・リチウム・電解液の体積の合計で、集電体・セパレータ・外装・空隙は含みません。セルの値でも、予測値でもありません。

電解液の量(E/S比)と、概算の質量エネルギー密度(本稿の計算) ※ 前提を置いた概算で、実在のセルの値ではありません(前提は第8章の枠内)。 0 100 200 300 400 Wh/kg E/S = 3 µL/mg 336 E/S = 5 µL/mg 249 E/S = 10 µL/mg 151 E/S = 15 µL/mg 108 約240(NCR18650B、2015年の基準) ※ 破線の約240 Wh/kgは、Hagenらが2015年にLi–Sの目標として使ったリチウムイオン電池(Panasonic NCR18650B)の値[4]。 ※ この仮定では、E/S比が約5 µL/mg以下でないと240 Wh/kgに届きません。総説の「5 µL/mg未満」という目安と整合します[1]。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。E/S比と、概算の質量エネルギー密度。前提(硫黄利用容量1,000 mAh/g、硫黄含有率70 wt%、N/P=2、不活性部材1.0 g/Ah、2.1 V)を置いた概算で、実在のセルの値ではありません。基準の約240 Wh/kgは文献[4]の値です。

この計算から読めること(本記事による解説)は、三つです。

  • 電解液が重さの大半になる。E/S = 5 µL/mg のとき、電解液は活物質+電解液+不活性部材の約65%(5.5 ÷ 8.45)を占めます本稿の計算。硫黄そのものは約12%(1.0 ÷ 8.45)にすぎません。
  • 電解液の体積は、硫黄の体積の約10倍。E/S = 5 µL/mg では、硫黄1 gが占める体積(2.07 g/cm³ なので約0.48 cm³)に対し、電解液は5 cm³です本稿の計算。体積エネルギー密度が伸びにくい理由です。
  • 理論値の約1割にとどまる。E/S = 3 でも約336 Wh/kgで、2,600 Wh/kgの約13%です本稿の計算。実際のセルでは、集電体・セパレータなどの重さがこの仮定より大きければ、さらに低くなります。

ここで使った前提(利用容量1,000 mAh/gなど)は、実在のセルの値とは限りません。数字そのものより、「電解液の量で数分の1に変わる」という感度を読み取ってください。 Hagenらの2015年の論文も、18650セルについて、硫黄担持量・硫黄利用率・電解液/硫黄比を変えた場合のセルのエネルギーとコストを計算し、274件の論文の統計と比べて、研究の現状と、高エネルギーセルに必要な値の「ギャップ」を示しています事実[4](抄録の記載。具体的な数値は本稿では確認していません)。

9. 素材技術者の視点②:論文の数字を読む4つの質問

素材技術者の読みどころ:「Wh/kg」と書いてあっても、4つ確かめる

リチウム硫黄電池の資料に出てくる「○○ Wh/kg」は、条件によって桁が変わります。次の4つの質問で確かめるのが現実的です(本記事による解説)。

  1. どのレベルの値か。活物質、コイン形セル、小さなパウチ、フルサイズ(10 Ahなど)のパウチ、パック、戦略的な目標値のどれか。フラウンホーファー研究機構 ISI も、各社の数字は「活物質、コイン形セル、パウチセル、セルレベル、目標値など、別のレベルを指しうるので、限られた範囲でしか比較できない」と注意しています事実[5]。
  2. 初回放電か、化成後か。Li-S Energy は、初回放電の値は「実用の性能より常に大幅に高い」と述べ、化成サイクルの後の値を報告しています。同社の10 Ahセルは初回放電で498 Wh/kg、化成後で456 Wh/kgです(企業の主張)事実[6]。
  3. 電解液の量はいくらか。E/S比が書かれていなければ、実際のセルの値かどうか判断できません。
  4. サイクル数と容量保持はどうか。総説は、貧電解液・薄いリチウム・高担持量の条件を同時に満たすと、サイクル寿命が縮むと述べています事実[1]。エネルギー密度の数字だけでは、寿命がわかりません。

10. 質量エネルギー密度の高さと、体積密度・寿命のトレードオフ

リチウム硫黄電池は、質量あたりのエネルギー密度の高さが最大の売りです。しかし、同じ条件のもとで、体積あたりのエネルギー密度と寿命は、それと引き換えになりやすい性質があります。

観点わかっていること理由(材料側)
質量エネルギー密度理論は約2,600 Wh/kg(材料基準)[1・2]。各社が主張するセルの値は350〜500 Wh/kg級(企業の主張、レベルは各社で違う)[5・6]硫黄が軽く(原子量32)、1原子あたり2電子、リチウム金属が軽い(第3章)
体積エネルギー密度本稿の概算では、E/S = 5 µL/mg で活物質と電解液だけでも約315 Wh/L。総説は、現在のリチウムイオン電池がセルで700 Wh/L超に達すると述べる[1](基準が違い、直接の比較ではない)本稿の計算電解液が硫黄の体積の約10倍を占める(第8章)。硫黄は充放電で体積が約8割変わるため、電極に空隙の余裕が要る(本記事による解説)
サイクル寿命総説は、高担持・薄いリチウム・貧電解液を同時に満たすと、寿命が縮むと述べる。報告例には、硫黄担持量12 mg/cm²・E/S 4 µL/mgで200サイクル(0.2 C)、6 mg/cm²で500サイクル(C/2)がある[1](原論文は未確認。条件は各報告で異なる)貧電解液で多硫化物の濃度が上がる。薄いリチウムは、わずかな劣化でも枯渇する[1]

表の「事実」は[1][2][5][6]の記述。本稿の計算と記した部分は第8章の前提による概算。

つまり、「軽さ」を取りに行くほど、電解液と負極の量を減らす方向に設計が動き、そのしわ寄せが、寿命と体積に出ます。 このため、ISI は、最初の市場は、体積あたりよりも重さが決め手になる用途(ドローン、航空、宇宙、防衛)だろうとしています事実[5]。 乗用車では、体積あたりのエネルギー密度と、数千サイクルの寿命が重要になるため、競争が厳しくなります(本記事による解説)。

11. 実用化の状況 ― 企業の発表と、独立の調査

最も整理された独立の資料は、フラウンホーファー研究機構 ISI の2026年6月の調査です。要点は次のとおりです事実[5]。

  • リチウム硫黄電池は「有望な高エネルギー技術だが、広く商用化されてはいない」。量産車向けに広く入手できるLi–Sセルは、いまのところ見当たらない。
  • 米国では、Lyten、Zeta Energy、Solidion、NexTech、Sion Power、Conamix などが、防衛・宇宙などの特殊市場を中心に活動。欧州では Theion、Alteva、Gelion Europe/Oxlid などが材料・セルを開発。
  • CATL、LG Energy Solution、Samsung SDI は、Li–Sを「短期の製品化の道筋というより、戦略的な研究/将来の選択肢」として位置づけているように見える。
  • 最初の市場は、乗用車や定置用蓄電ではなく、ドローン・航空関連・宇宙・防衛など、質量あたりのエネルギー密度の必要性が特に高い分野だろう。
公表されているエネルギー密度(Wh/kg)の例と、そのレベル ※ 企業の主張・目標と、比較用の基準を並べたものです。優劣を示す図ではなく、レベルも条件も揃っていません。 0 200 400 600 800 Li-ion NCR18650B(基準) 約240(セル、2015年) Li-S Energy 10 Ah 498:初回放電(白抜き) 456:化成後(塗りつぶし) SVOLT 20 Ah 350〜400(公表値) Solidion 380(公表値、目標450) Ark Power(コイン形) >500(公表値) GNE(レベル不明) 700(2024年に公表) ※ 青:Li-ionの基準[4]。オレンジ:企業の主張(Li-S Energy[6]、SVOLT・Solidion[5])。紫の破線:コイン形・レベル不明[5]。 ※ Li-S Energyの2点は同じ10 Ahセル(半固体)の初回放電と化成後。他社の値のレベル・条件(初回か化成後か、E/S比)は公表されていません。 ※ ISIは、これらを「活物質、コイン形、パウチ、セル、目標値など別のレベルを指しうる」ため限られた範囲でしか比較できないとしています[5]。
図6 概念図(ベクター作図)。各社が公表したエネルギー密度と、そのレベルの違い。出所は Li-S Energy の取引所開示[6]、ISI の調査の表[5]、Hagen らの基準値[4]。企業の主張が中心で、独立の測定ではありません。レベル・条件が揃っておらず、優劣の比較には使えません。
主体公表内容(企業の主張・計画)確認できなかった点
Li-S Energy(豪)2024年10月28日の取引所開示:自社のGEN3半固体のセル(フルサイズ10 Ah)で、初回放電498 Wh/kg、化成サイクル後456 Wh/kg。化成後の値を報告するのは、初回放電の値は実用の性能より常に大幅に高いため、と説明。ドローン・防衛・電動航空を狙う事実[6](企業の主張)サイクル寿命・E/S比・第三者の測定。同社の「業界で最先端」は、他社の公表値に基づく同社の判断
Lyten(米)ISIの整理:UAV向けの納入を発信、Nevada州の最大10 GWh/年のギガファクトリー計画、Northvolt の欧州の資産の取得。「NMCより最大50%軽い」「LFPより最大75%軽い」と主張。乗用車の認定には長い時間が要る事実[5](ISIが整理した企業の主張・計画)納入量・セルの仕様の実測。計画は未確定/将来
Zeta Energy(米)Stellantisとの開発契約(2024年)。乗用車向けで、時期は2030年ごろまで事実[5]仕様、量産計画。未確定/将来
LG Energy Solution(韓)2026年、全固体電池向けの硫黄正極を実証(硫黄正極で約1,500 mAh/g、理論値1,675)。研究開発の発表事実[5]セルレベルの性能、製品化の予定
SVOLT(中)2022年、全固体の硫黄電池のプロトタイプを試験。20 Ah、350〜400 Wh/kg。その後の公的な活動は見当たらない事実[5]その後の進展

表の内容は、Li-S Energyの行は[6]、そのほかはISIの整理[5]によります。いずれも企業の主張で、独立の測定ではありません。

この調査では、独立の第三者がセルの性能を測定して公表した値は、見つかりませんでした(確認できなかった項目)。 また、ここで取り上げた値の一部(Li-S Energy、SVOLT、LG Energy Solution)は半固体電解質や全固体の構成に関わり、液体電解液の標準的なリチウム硫黄電池とは別の設計である点に注意が必要です(本記事による解説)。全固体電池の分野は本稿の範囲外で、本シリーズの全固体電池分野の記事で扱います。

12. 課題

  • 実用条件での寿命。貧電解液・薄いリチウム・高担持量を同時に満たすと寿命が縮みます[1]。独立に検証された数千サイクルの値は、本稿の調査では見つかりませんでした。
  • 体積エネルギー密度。電解液の体積が硫黄の約10倍を占める(第8章)ため、体積あたりでは、リチウムイオン電池との差が出やすい。
  • リチウム金属負極の劣化と安全。デンドライト、不活性リチウム、多硫化物との反応[1]。エーテル系電解液は揮発しやすく可燃性[1]。この電池の安全性を独立に評価した資料は、本稿では確認できませんでした。電池の安全一般は本シリーズ『熱暴走と電池の安全』編を参照してください。
  • シャトル効果と絶縁性の制御。ホスト・結合剤・触媒・セパレータ上の層など、機能の追加は重さを増やします(第5章)。
  • 評価の標準化。「Wh/kg」のレベルと条件が揃っていません[5]。E/S比・N/P比・担持量・サイクル条件を明記した評価が必要です[1]。
  • 量産と認定。乗用車向けの認定には長い時間が要り、ISIは、短期には検証期間の短い市場が先になると見ています[5]。
この記事のまとめ
  • リチウム硫黄電池は、硫黄が固体→溶解→固体と変化する変換型です。理論は約2,600 Wh/kg(材料基準)、硫黄の理論容量は1,675 mAh/gです事実
  • 硫黄とLi2Sの体積差は計算で約79%、材料の2,600 Wh/kgは電解液・炭素・集電体・外装を含まない値です本稿の計算
  • 課題は、シャトル効果、絶縁性、体積変化、そしてリチウム金属負極の劣化です事実
  • 実用条件は「E/S比5 µL/mg未満、硫黄担持量5 mg/cm²超、N/P比5未満」のように整理されます事実
  • 電解液の量で、概算のエネルギー密度は数分の1に変わります。E/Sが3から15に増えると、質量エネルギー密度は約336から約108 Wh/kgに下がります(仮定による概算)本稿の計算
  • 各社の350〜500 Wh/kg級の値は企業の主張で、レベル(コイン形か10 Ahか)・条件(初回か化成後か)が違います。独立の測定値は見つかりませんでした事実
  • 最初の市場は、ドローン・航空・宇宙・防衛など重さが決め手の用途だろうと、ISIは見ています。量産車向けの広く入手できるセルは、見当たらないとされます事実

13. 評価・標準の読み方

初めて読むときは、「どの数字が大きいか」より先に、次の順番で比較の条件を揃えてください。以下は本記事の編集上の確認手順で、規格が定める合格値や試験条件ではありません。

① 何を測ったか
硫黄当たり容量、面積容量、セルのWh/kg、寿命。単位と、材料・部品・完成システムのどこを測った値かを確認します。
② どの条件か
硫黄塗布量、電解液/硫黄比、Li量、電圧範囲、圧力。条件が異なる結果は、まず別の結果として読みます。
③ 比較で間違えやすい点
硫黄だけを分母にした高容量を、セル全体の高密度と同じにしない
④ 規格の役割は何か
規格番号・名称・発行年・適用範囲を発行機関の資料で確認します。試験方法、安全性、相互接続、管理体制のどれを扱う規格かを分けて読みます。規格名の記載だけで、試験実施・適合・認証まで済んでいるとは判断しません。

比較を始めるためのメモ:対象/単位/測定条件/試料数とばらつき/比較対象/規格の版/確認できない点を、ひとまとまりで残しましょう。公開概要しか確認できない規格の数値条件や合格基準は、推測して補いません。

14. 用語集

リチウム硫黄電池(Li–S電池)
正極に硫黄、負極にリチウム金属を使う二次電池。
多硫化物
Li2Sn(nは2〜8)の総称。長鎖のものは電解液に溶ける。
シャトル効果
溶けた多硫化物が両極のあいだを往復し、活物質の損失と効率の低下を起こす現象。
変換型
イオンの出入りではなく、物質そのものが化学変化して電気を貯める方式。
E/S比
電解液の体積(µL)を硫黄の質量(mg)で割った値。貧電解液の目安は5 µL/mg未満。
E/C比
電解液の体積を容量(mAh)で割った値。
N/P比
負極の容量を正極の容量で割った値。小さいほどリチウムの余りが少ない。
硫黄担持量
電極の単位面積あたりの硫黄の質量(mg/cm²)。
化成
組み立てた電池を最初に充放電して、SEIなどを形成させる工程。この間に容量の一部が失われる。
LiNO3添加剤
リチウム表面に保護層をつくり、多硫化物との反応を抑える電解液添加剤。
デッドリチウム
電気的につながらなくなった析出リチウム。
貧電解液
電解液の量を実用的な水準まで絞った条件(E/Sが5 µL/mg未満など)。

15. 参考資料(一次情報)

  1. Chan, Wu, Chung(国立成功大学)"Design principles for practical lithium-sulfur cells: high-loading sulfur cathodes, thin lithium-metal anodes, and lean electrolyte conditions," Energy Materials 6, 600062 (2026)(オープンアクセスの総説、英語) — doi.org/10.20517/energymater.2026.51
  2. Manthiram, Fu, Su"Challenges and Prospects of Lithium–Sulfur Batteries," Accounts of Chemical Research 46, 1125–1134 (2013)(抄録を確認) — doi.org/10.1021/ar300179v
  3. Seh, Sun, Zhang, Cui"Designing high-energy lithium–sulfur batteries," Chemical Society Reviews 45, 5605–5634 (2016)(抄録を確認) — doi.org/10.1039/c5cs00410a
  4. Hagen ら(フラウンホーファー研究機構 IWS・ISI)"Lithium–Sulfur Cells: The Gap between the State-of-the-Art and the Requirements for High Energy Battery Cells," Advanced Energy Materials 5, 1401986 (2015)(抄録を確認) — doi.org/10.1002/aenm.201401986
  5. Neef, Rugerri(フラウンホーファー研究機構 ISI)"Where does Europe stand on lithium-sulfur batteries? Research activities and start-ups in this alternative battery technology," 2026年6月24日(英語) — isi.fraunhofer.de
  6. Li-S Energy Limited(ASX: LIS)"Li-S Energy achieves close to 500Wh/kg lithium-sulfur cell performance," ASX Announcement, 2024年10月28日(PDF、英語) — announcements.asx.com.au
  7. Robinson ら(Faraday Institution LiSTAR プログラム)"2021 roadmap on lithium sulfur batteries," Journal of Physics: Energy 3, 031501 (2021)(抄録のみ確認) — doi.org/10.1088/2515-7655/abdb9a

16. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
理論容量1,675 mAh/g、理論エネルギー密度2,600 Wh/kg、リチウム金属3,860 mAh/g、平均放電電圧約2.15 V。変換型で、S8から液状の多硫化物(Li2Sn、4≦n≦8)、固体のLi2Sへ進むこと。全体反応 S8+16Li⁺+16e⁻→8Li2S。硫黄とLi2Sが絶縁性(約10⁻³⁰ と10⁻¹³ S/cm)で、体積変化が約80%であること。多硫化物がエーテル系電解液に溶けてシャトル効果を起こすこと。リチウムの標準電位−3.04 V、SEIの不安定性、デンドライトとデッドリチウム。エーテル系電解液(DOL・DME、LiTFSI、LiNO3)が標準で、揮発性・可燃性の弱点があること。LiNO3で充放電効率が99%超になること。2009年の秩序メソポーラス炭素。実用条件(硫黄担持量5 mg/cm²超、硫黄含有率60 wt%超、面積容量2〜4 mAh/cm²、エネルギー密度10〜15 mWh/cm²、N/P比5未満、E/S比5 µL/mg未満、E/C比5 µL/mAh未満)。過剰な電解液・厚いリチウム・低担持量による見かけの安定化。貧電解液での多硫化物濃度上昇・拡散支配・濡れの悪化。高担持・薄いリチウム・貧電解液の同時達成による寿命の短縮と、200サイクル(12 mg/cm²、E/S 4 µL/mg、C/5)・500サイクル(6 mg/cm²、C/2)の報告例。リチウムイオン電池が300 Wh/kg・700 Wh/L超に達していることChan ら 2026(総説)[参考資料 1]https://doi.org/10.20517/energymater.2026.51事実
硫黄が1原子あたり最大2電子を約2.1 V(対Li/Li⁺)で受け取ること、理論容量1,675 mAh/g、理論エネルギー密度約2,600 Wh/kg、溶ける多硫化物と溶けない硫化物の変化があること、サイクル寿命と効率の問題が商用セルでの使用を妨げていることManthiram ら 2013(抄録)[参考資料 2]https://doi.org/10.1021/ar300179v事実
Li–S電池の電気化学、課題、解決策(炭素ホストへの封入、ポリマー・無機ホスト、硫化リチウム正極、多硫化物カソライト、セパレータの改質、リチウム金属の保護)が総説されていることSeh ら 2016(抄録)[参考資料 3]https://doi.org/10.1039/c5cs00410a事実
18650のLi–Sセルのエネルギーとコストを、硫黄担持量・硫黄利用率・電解液/硫黄比を変えて計算し、Panasonic NCR18650B(約240 Wh/kg)を上回るために必要な値を求め、274件の論文の統計と比べて研究の現状とのギャップを示したことHagen ら 2015(抄録)[参考資料 4]https://doi.org/10.1002/aenm.201401986事実
Li–Sが有望な高エネルギー技術だが広く商用化されていないこと、量産車向けに広く入手できるセルは見当たらないこと、最初の市場はUAV・航空・宇宙・防衛などであること、企業の分布(Lyten、Zeta Energy、Solidion、NexTech、Sion Power、Conamix、Theion、Alteva、Gelion Europe/Oxlid、CATL、LGES、Samsung SDI、SVOLT、GNE)、CATL・LGES・Samsung SDIの位置づけ、各社の公表値のレベルの違いへの注意、Lyten(UAV向け納入、最大10 GWh/年の計画、Northvolt資産の取得、NMCより最大50%・LFPより最大75%軽いという主張)、Zeta EnergyとStellantis(2024年の契約、2030年ごろ)、LGES(2026年の全固体向け硫黄正極、約1,500 mAh/g)、SVOLT(2022年、20 Ah、350〜400 Wh/kg)、Solidion(380 Wh/kg、目標450)、GNE(700 Wh/kg)、Ark Power(500 Wh/kg超、コイン形)フラウンホーファー研究機構 ISI 2026年6月24日[参考資料 5]https://www.isi.fraunhofer.de/en/blog/themen/batterie-update/lithium-schwefel-batterien-europa-forschung-start-ups.html事実(企業の主張・計画を含む)
Li-S Energyが、半固体のGEN3化学のフルサイズ10 Ahセルで、初回放電498 Wh/kg、化成サイクル後456 Wh/kgを達成したと主張したこと(2024年10月28日)、初回放電の値は実用の性能より常に大幅に高いという同社の説明、ドローン・防衛・電動航空を狙うことLi-S Energy ASX開示[参考資料 6]https://announcements.asx.com.au/asxpdf/20241028/pdf/069n1jdcvn96gc.pdf事実(企業の主張)
Li–Sが、Li-ionを超える性能の次世代電池のなかで商用化が比較的進んでいると位置づけられていること、LiSTARプログラムの趣旨Robinson ら 2021(抄録)[参考資料 7]https://doi.org/10.1088/2515-7655/abdb9a事実
硫黄の理論容量約1,672 mAh/g、Li2Sの式量45.94、Li+Sの合計質量あたり約1,167 mAh/g、理論エネルギー約2,450〜2,570 Wh/kg(2.1〜2.2 V)、体積変化S 15.5→Li2S 27.7 cm³/mol(約+79%)本稿の計算。原子量(S 32.06、Li 6.94)、ファラデー定数(26801 mAh/mol)、密度(S8 2.07、Li2S 1.66 g/cm³、標準値)、電圧2.1〜2.2 Vの仮定。材料基準の値本稿の計算
E/S比とエネルギー密度の概算(E/S 3・5・10・15 µL/mgで336・249・151・108 Wh/kg、450・315・180・126 Wh/L)。電解液が活物質+電解液+不活性部材の約65%(E/S 5)、電解液の体積が硫黄の約10倍、E/S 3でも理論値の約13%本稿の計算。前提(すべて仮定):硫黄利用容量1,000 mAh/g、硫黄含有率70 wt%、残りは密度2.0 g/cm³、リチウム3,861 mAh/g・N/P=2・密度0.534 g/cm³、電解液密度1.1 g/cm³、不活性部材1.0 g/Ah(体積は含めない)、2.1 V。実在のセルの設計・予測値ではない本稿の計算
硫黄担持量・硫黄含有率・電解液量・N/P比が揃わないと数字を比べられないこと、素材の役割分担(炭素ホスト・結合剤・触媒・セパレータ層)が重さを増やすという矛盾、リチウム硫黄電池に特有の多硫化物による負極の劣化、4つの質問、質量・体積・寿命のトレードオフ、乗用車では競争が厳しくなるという読み取り公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社・各機関が表明した見解ではない解説
独立の第三者がセルの性能を測定した公表値、サイクル寿命と E/S 比の企業公表値、液体電解液の標準的なLi–Sセルでの実用値、この電池の安全性の独立評価、各社の量産実績本稿の調査範囲では公開された一次情報に確認できなかったため記載していない解説
Lytenなどの計画(ギガファクトリー、2030年ごろの乗用車向けなど)の実現企業の計画であり、実績ではない(ISIの整理)。確認できていない見通しである[参考資料 5]https://www.isi.fraunhofer.de/en/blog/themen/batterie-update/lithium-schwefel-batterien-europa-forschung-start-ups.html未確定/将来
図1・図2・図3・図5・図6が実際の反応経路・セル断面・設計図・測定結果ではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図4がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月10日/出典は一次情報(査読論文、オープンアクセスの総説、研究機関の調査、企業の取引所開示)に限定しています。 企業の発表は「企業の主張」として、独立した調査と区別しています。構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 独立の第三者によるセル性能の測定値、各社の公表値のE/S比とサイクル寿命、液体電解液の標準的なセルでの実用値、この電池の安全性の独立評価、各社の量産実績については、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 第8章の概算は仮定にもとづく計算で、実在のセルの設計や予測値ではありません。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図3・図5・図6はベクター作図、ヒーロー画像と図4はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・測定データ・製品の実物を示すものではありません。