TECHNOLOGY EXPLAINER
セル形状とセル・トゥ・パック
― 「パックで何Wh/kg」は、何を分母にした数字か
電池セルの形は、円筒・角形・パウチの三つに大別されます。形が違えば、外装も、電極の巻き方も、冷やし方も変わります。 近年はさらに、モジュールをなくしてセルを直接パックに収めるセル・トゥ・パック(CTP)、パックを車体と一体にするセル・トゥ・ボディ/シャシーが現れました。 ただ、実車を調べた研究では、パック基準の体積エネルギー密度は、セルの形がちがっても似た範囲に収まると報告されています。 セルの数字とパックの数字のあいだに、何が挟まっているのか。そこに、素材と構造の仕事があります。

- セル形状とCTPとは(3行でつかむ)
- 三つの形 ― 円筒・角形・パウチ
- 円筒セルの大型化 ― 18650から4680へ
- 素材技術者の視点①:大きくすると、中心の熱が逃げにくくなる/本稿の計算
- モジュールをなくす ― CTP、CTB/CTC、ブレード型
- 体積利用効率と、パック基準の数値の読み方
- 素材技術者の視点②:数字には必ず「分母」がある
- 素材技術者の視点③:モジュールがなくなると、構造と熱の仕事が材料に移る
- 外装と封止
- 課題と、本稿で確認できなかったこと
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・予定であり、実績や決定が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。メーカーの数値は「メーカー公称」と明記し、セル/パック/システムのどれの値かを添えます。
1. セル形状とCTPとは(3行でつかむ)
- セル形状:車載で使われる形は円筒形、角形、パウチ形の三つ。違いは主に外装と、電極と隔膜の並べ方にあります。角形・円筒形は硬い缶(アルミまたはステンレス鋼が多い)、パウチはアルミ複合フィルムに収めます事実
- CTP:セルを小さな箱(モジュール)にまとめてからパックに入れる従来の構成から、モジュールを省いてセルを直接パックに入れる構成へ。部品が減り、パックの中でセルの占める体積の割合(体積利用効率)が上がります事実(CATLは第1世代で55%、第3世代で72%と公表)
- 読み方の要点:「Wh/kg」や「Wh/L」は、材料・セル・モジュール・パック・システムのどこで測ったかで値が大きく変わります。実車の研究では、セルの性能が上がっても、パックの値は比例して上がらないという傾向が示されています事実
電池の優劣を比べるときは、形でも化学でもなく、まず「どの層の数字か」を確かめます。 セルの形がちがっても、実車のパック基準の体積エネルギー密度は似た範囲に収まり事実、 化学(LFPとNMC)のちがいも、CTPのような構造で埋められる部分があります事実。 数字の差が、材料の差なのか、構造の差なのかを、分けて読みます。
2. 三つの形 ― 円筒・角形・パウチ
Baazouziら(Batteries, 2023)[参考資料2]は、三つの形の違いを次のようにまとめています事実。 円筒形は、電極をセパレータと巻いた「ジェリーロール」を缶に入れる。角形は、扁平な巻回または積層の電極を缶に入れる。パウチ形は、アルミ複合フィルムに積層電極を収める(同論文は「パウチは積層のみ」と述べています)。

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パックに組んだときの違いは、実車を調べた研究が整理しています。 Kolochら(World Electric Vehicle Journal, 2025)[参考資料1]は、2020〜2024年に発売された145車種のベンチマークデータ(A2MAC1のプラットフォーム)を統計的に分析しました。形による違いの主な記述は次のとおりです事実。
| 形 | パックにしたときの特徴(Kolochらの記述) |
|---|---|
| 円筒形 | 幾何学的な制約から、モジュールの中の死容積(使えない空間)が最も大きい。データ上は多くがモジュール方式。パックの高さは105〜117 mmで、他より低い |
| 角形 | 硬い缶で構造的な安定性がある。パックの体積利用の指標(体積セル・トゥ・パック係数)が最も良い。ただし、セル単体の体積エネルギー密度は構造上の空隙のため低め。LFP角形セルはデータ上ほぼ CTP |
| パウチ形 | モジュールの中の体積利用は円筒より良いが、硬い缶がないため、モジュールの壁を厚くする、部品を足すなど機械的な要件を補う必要がある。データ上は多くがモジュール方式。パックレベルの体積エネルギー密度の最高値は最も高い |
すべて事実(Kolochら[参考資料1])。データは実車のベンチマークで、設計の優劣を決めるものではありません。
3. 円筒セルの大型化 ― 18650から4680へ
円筒セルの呼び名は寸法を表します。18650は直径18 mm×長さ65.0 mm、21700は21 mm×70.0 mm。 Baazouziら[参考資料2]によれば、2020年のTesla Battery Dayで発表された4680は直径46 mm、高さ80 mmで、体積は21700の5.5倍、18650の8倍とされます事実。 同論文は、4種類のメーカーの19個の円筒セル(18650、20700、21700、4680)を分解・測定し、次を報告しています事実。
- 測定したエネルギー密度は161〜254.5 Wh/kg、436〜712.5 Wh/Lの範囲。4680は224.8 Wh/kgで、調べたセルの中では比較的小さい(電極の塗工厚みが他より大きいにもかかわらず)。4680の負極は約258 µm、正極は約170 µm(他のセルの平均は負極144 µm、正極128 µm)
- 測定値は統一した条件で求めたもので、データシートの値とは異なる。例:NCR2070Cはデータシートの569 Wh/L/214 Wh/kgに対して、測定562.52 Wh/L/200.72 Wh/kg(−1.1%/−6.2%)
- 4680は「準タブレス」:陰陽極の集電箔の端を切り欠いて折り曲げる設計だが、正極の25%、負極の30%は切り欠かれていないため、電気と熱が長い経路を通る
これに対し、Lechnerら(Communications Engineering, 2024)[参考資料3]は、4680の円筒セルと、角形のPHEV2ハードケースセルのコストモデルを作り、同じ電極設計での比較を行いました事実。 モデルでは、NMC811/黒鉛で4680は98.8 Wh・400 g(247 Wh/kg)、PHEV2は196.3 Wh・892 g(220 Wh/kg)とされ、製造コストは2つの形で1%未満しか違わなかったと報告されています事実(モデルの設定値で、測定値ではありません。著者らも、わずかな差を形の優劣と解釈しないよう述べています)。
Baazouziらの224.8 Wh/kgは、実際の市販4680セルを分解し、統一条件で測った値です。 Lechnerらの247 Wh/kgは、特定の電極パラメータ(NMC811、面積容量5 mAh/cm²など)を置いたコストモデルの設定値です。 測定とモデルは前提が違うので、どちらが正しいか、あるいは4680がどの水準にあるかを決める材料ではありません(本記事による解説)。
4. 素材技術者の視点①:大きくすると、中心の熱が逃げにくくなる/本稿の計算
円筒セルを大きくすると、1個に入るエネルギーは増え、部品点数は減ります。しかし、円筒は発熱する体積が直径の2乗に比例して増える一方、熱を逃がす側面積は直径に比例して増えるだけです。 Baazouziらが4680を「準タブレス」と整理し、切り欠かれていない部分が電気と熱の長い経路になると指摘しているのも、この大型化に由来します事実。
素材の側から見ると、集電箔(正極のアルミ、負極の銅)は、切り欠き、折り曲げ、ディスクとの溶接に耐える厚みと延性が要ります。 Lechnerらのモデルは、集電箔にアルミ12 µm、銅8 µmを置き、スリット工程で箔に切り込みを入れ、巻回中に折り曲げて端面をそろえ、ディスクをレーザー溶接する工程を想定しています事実。 薄い箔を折り、溶接する ― 箔の材料と加工の仕事が、セル形状の選択に直結しています(本記事による解説)。
前提本稿の計算
- 円柱の公称寸法(直径×高さ):18650=18×65 mm、21700=21×70 mm、4680=46×80 mm(缶の厚み・端子は無視)
- 発熱は体積に一様、放熱は側面のみ、熱物性は一定と仮定する(概念的なスケーリングで、実際のセルの温度を求めるものではありません)
計算
- 体積:π/4 × d² × h = 約16.5 mL/約24.2 mL/約133 mL。4680/21700 = 約5.5、4680/18650 = 約8.0(Baazouziらの記述と一致)
- 中心から表面までの距離(半径):9 mm/10.5 mm/23 mm。4680は18650の約2.6倍
- 熱が中心から表面へ伝わる時間の目安は半径の2乗に比例するので、4680は18650の約6.5倍((23÷9)² = 6.5)、21700の約4.8倍
- 体積あたりに同じ熱が出るとき、側面1 m²あたりの熱流束は d ÷ 4 に比例する:4.5 mm/5.25 mm/11.5 mm。4680は18650の約2.6倍
読み取り:形を大きくすると、同じ発熱密度でも、表面から離れた部分の熱が表面に届くまでの時間が一桁近く長くなり、表面あたりの放熱の負担も2倍以上になる、という桁の感覚が得られます。 だからこそ大型円筒は、タブレス化(電気と熱の経路を短くする)や、冷却の設計と一体で語られます(本記事による解説)。 前提と限界:実際のセルは両端面からも放熱し、内部の熱伝導は巻回方向と厚み方向で大きく異なります。この計算は定量予測ではありません。
5. モジュールをなくす ― CTP、CTB/CTC、ブレード型
従来のパックは、セルを数個〜数十個まとめたモジュールを作り、そのモジュールを並べてパックにします(モジュール・トゥ・パック、MtP)。 モジュールの外枠や端板、配線は、エネルギーを持たない部品(受動部品)です。 CTPは、このモジュールを省き、セルを直接パックに固定する考え方です。 Kolochらは、セルから見たパックの効率をセル・トゥ・パック係数と定義しています。質量では「全セルの質量÷パックの質量」、体積では「全セルの体積÷パックの体積」です事実。

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メーカーの説明(メーカー公称)
| メーカー | 公表内容(メーカーの説明) | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| CATL | CTPは「高度に集積した構造設計により、電池パックの体積利用効率を大きく高めた」。第1世代CTPで55%、第3世代(Qilin)で72%に上がった。CTC(セル・トゥ・シャシー)は、セルを車体、シャシー、駆動、熱管理、電気制御モジュールと一体にし、航続を1,000 km超に延ばす、と説明 | 55%・72%の定義(何の体積を分母にするか)や試験条件はページに記載がない。同ページは、NMCのQilinで265 Wh/kg、LFPで205 Wh/kgとも述べるが、セル/パックのどちらの値かは明記されていない |
| BYD(欧州ページ) | ブレード電池は長く平たい刃形のセルを、モジュールを介さずハニカム状に並べる。セル・トゥ・ボディ版では、電池が車体のフレームの一部になり、室内空間を最適化し重心を下げる。比較表で空間効率が従来品に比べて+50%と記載(原文は「traditional parcels」と表記) | +50%の基準(従来品とは何か)と測り方は記載がない。同ページの比較は、LFPと従来のNCMの化学のちがい(安全性・サイクル寿命)も含み、構造だけの効果ではない |
すべて事実(メーカー公称の説明。CATL[参考資料5]、BYD[参考資料6])。企業の説明であり、性能の優劣を示すものではありません。
6. 体積利用効率と、パック基準の数値の読み方
実車でのパック基準の数値は、Kolochらが整理しています[参考資料1]事実。
- 体積:円筒150〜280 Wh/L、パウチ110〜305 Wh/L、角形140〜290 Wh/L。中央値は各範囲のほぼ中央で、論文は、パックレベルの体積エネルギー密度はセル形状を問わず同程度だと結論づけている
- 質量(化学別):LFPのパックは125〜145 Wh/kg、NCAは150〜174 Wh/kg、NMCは140〜180 Wh/kg。セルでの差(NMC・NCAがLFPより高い)は、パックではLFPのセル・トゥ・パック係数が有利なため縮まる
- 方式の分布:データ上、角形のLFPセルは多くがCTP、円筒とパウチは多くがモジュール方式。LFPの車の多くは専用設計の電気自動車(フラットな床下に置く)。NMC・NCAの車には、改造型の車も含まれ、複雑な形のパックで受動部品が増える
- 体積効率:LFPの体積効率が最も高く、NMCとNCAは50%未満、NMCには25%未満のデータ点もある
- セルの性能を上げても:セルの体積・質量エネルギー密度を上げても、パックの値は比例して上がらない。セルのエネルギー密度が高いほど、安全のための受動部品が増えるためと論文は考察
CATLのCTPが公表する55%→72%という体積利用効率は、この「体積効率」と同じ種類の指標だと考えられますが、定義が明記されていないため、数字を直接並べて比べることはできません(本記事による解説)。
前提本稿の計算
- パックの体積エネルギー密度 = セルの体積エネルギー密度 × 体積利用効率(Kolochらの体積セル・トゥ・パック係数の定義を使う)
- セルの体積エネルギー密度は 400 Wh/L(本稿が置いた例)とする。実測の円筒セル(Baazouziら)は436〜712.5 Wh/L
- 体積利用効率は、CATLが公表した55%と72%(メーカー公称、定義は未確認)、およびBYDの「+50%」の例として40%と60%(本稿の仮定)
計算
- 55%のとき:400 × 0.55 = 220 Wh/L。72%のとき:400 × 0.72 = 288 Wh/L(差:約31%増)
- 40%のとき:400 × 0.40 = 160 Wh/L。60%のとき:400 × 0.60 = 240 Wh/L(+50%)
読み取り:セルが同じでも、体積利用効率が55%から72%になれば、パックの体積エネルギー密度は約3割増えます。 この例の220〜288 Wh/Lは、Kolochらの実車の範囲(110〜305 Wh/L)の中に入ります。 前提と限界:セルの400 Wh/L、効率の40%・60%は本稿の仮定で、CATLやBYDの実際の製品の値ではありません。メーカーの55%・72%や「+50%」は、定義と条件が確認できないため、この計算に当てはめたのは「もしそうなら」という例示です。
7. 素材技術者の視点②:数字には必ず「分母」がある
電池の数字を読むとき、素材技術者がまず確かめるのは、何を分母にした値かです。 Löbberdingら(World Electric Vehicle Journal, 2020)[参考資料4]は、2010〜2019年の25車種を調べ、エネルギー密度と比エネルギーは、セルからモジュール、システムへと各層で下がること、システムは改善しているが、比エネルギー(質量基準)のほうが体積基準より改善が大きいことを報告しています事実。 質量基準より体積基準の改善が遅いのは、受動部品の体積が残るからだと読めます(本記事による解説)。
- 材料の値:活物質のmAh/gなど。電極も缶も入らない
- セルの値:缶・フィルム、集電箔、セパレータ、電解液が入る。測定条件(レート、温度、電圧範囲)も値を動かす。Baazouziらの測定では、データシートの値と最大6.2%違った例がある
- パックの値:モジュールの枠、冷却板、ケース、電気配線、BMSなど受動部品が入る。実車で125〜180 Wh/kg(Koloch)
- メーカーの「電池のエネルギー密度」:どの層かが書かれていないことがある(CATLのページの265 Wh/kg、205 Wh/kgなど)
Kolochらは、セルのエネルギー密度が上がるほど、パックに占める受動部品の割合が増えて、セルの性能向上の効果が薄まることを示しています事実。 材料の開発者にとって、これは、セルで10%上げた性能が、パックで10%になるとは限らないという意味です。 材料の開発で価値があるのは、セルの数字だけでなく、その材料がパックの受動部品(冷却、安全対策)をどう変えるかまで含めた効果です(本記事による解説)。
8. 素材技術者の視点③:モジュールがなくなると、構造と熱の仕事が材料に移る
モジュールの枠は、セルを機械的に固定し、熱を逃がし、隣のセルとの間を隔てていました。 CTPでその枠を省くと、固定は接着剤が、熱の通り道はギャップフィラーが、隣との遮熱や封止は別の材料が受け持つことになります(本記事による解説)。 Dowは、同社の熱伝導性の接着剤がセル・トゥ・モジュール、セル・トゥ・パック、セル・トゥ・シャシーの各設計に使えると説明しています事実(メーカーの説明[参考資料7])。
接着剤とギャップフィラー、ポッティング、熱暴走への備えの詳細は、本シリーズ『車載用シリコーンと封止材』編と『高熱伝導ペーストとギャップフィラー』編で扱っています。 ここで強調したいのは、パウチ形は硬い缶がないので、モジュールの壁などで機械的な要件を補う必要があるというKolochらの指摘です事実。 CTPに向くのは、データ上、構造的な安定性のある角形(LFP)でした。 形の選択は、外装の材料と、その後の接着・熱の材料の選択と、連動しています(本記事による解説)。
さらに、セルを車体の構造部材として使うセル・トゥ・ボディ/シャシーでは、セルの寿命に合わせた交換・修理や、リサイクル時の分解のしやすさが、接着の仕方と関わってくるはずです。 ただし、CTP・CTBの交換・修理・リサイクルへの影響について、本稿の調査範囲では一次情報を確認できませんでした。

9. 外装と封止
- 缶(円筒・角形):アルミまたはステンレス鋼。Lechnerらのモデルでは、角形は缶に電極を入れ、蓋(注液口あり)を溶接。注液後、化成でガスを抜いたのち、最後の開口を鋲打ち(リベット)で封じる工程が想定されている事実
- パウチ:アルミ複合フィルム。iScience 2025年のレビュー[参考資料8]は、封止では厚さ0.5 mm未満の熱可塑性フィルムを接合するヒートシールが最も広く使われ、ホットバー溶接とインパルス溶接の2つがあると述べています事実。封止の弱点は、電極の塗工やセパレータの厚みのばらつき、熱や圧力の不均一で生じる、とされます
- 封止の品質:一貫した気密のシールを保つこと。不完全だと、水分や汚染物が入る事実(同レビュー)。水分は、LiPF6と反応してHFを生じる(本シリーズ『電解液とセパレータ』編)ため、封止は単なる容器の問題ではなく、電池の化学の問題でもあります(本記事による解説)
10. 課題と、本稿で確認できなかったこと
(1) CATLの55%・72%、BYDの+50%の定義
CATLの体積利用効率(55%・72%)とBYDの空間効率(+50%)は、何を分母にし、どの条件で測った値か、ページに記載がありません。 Kolochらの体積セル・トゥ・パック係数と同じ指標かどうかは、本稿では確認できませんでした。
(2) 4680の量産セルのパック基準の値
4680を使った実車のパックの質量・体積エネルギー密度を、本稿の調査範囲で一次情報として確認できませんでした。セルの測定値(224.8 Wh/kg)とモデル値(247 Wh/kg)は、パックの値ではありません。
(3) CTP・CTBの交換・修理・リサイクル、安全への影響
モジュールを省くことが、熱の伝播の抑制、修理性、リサイクルにどう影響するかは、本稿では一次情報で確認できませんでした。熱暴走については本シリーズ『熱暴走と電池の安全』編、リサイクルは『電池リサイクルと二次利用』編を参照してください。
(4) 実車データの偏り
Kolochらのデータは、145車種のうち分析ごとに使える車種が限られ(欠損あり)、LFPは角形・CTPに、NMC・NCAは円筒・パウチ・モジュール方式に偏っていると論文自身が述べています。 そのため、「形の効果」と「化学の効果」と「方式の効果」を完全には分離できていません。
- セル形状は円筒・角形・パウチ。違いは外装(缶/フィルム)と電極の並べ方(巻回/積層)事実
- 4680は直径46 mm×高さ80 mmで、21700の5.5倍の体積。準タブレスで、正極の25%・負極の30%は切り欠かれていない事実
- 大きくすると、中心から表面までの距離は18650の約2.6倍、熱が伝わる時間の目安は約6.5倍。本稿の計算
- 実車のパック基準の体積エネルギー密度は、形がちがっても似た範囲(円筒150〜280、パウチ110〜305、角形140〜290 Wh/L)。事実
- CATLはCTPの体積利用効率を55%から72%(第3世代)へ、とする(メーカー公称)。定義は記載なし事実
- セルの性能を上げても、パックの値は比例して上がらない。受動部品の割合が増えるため事実
- モジュールを省くと、固定・熱・封止の仕事が接着剤・ギャップフィラー・封止材へ移る。(解説)
11. 評価・標準の読み方
初めて読むときは、「どの数字が大きいか」より先に、次の順番で比較の条件を揃えてください。以下は本記事の編集上の確認手順で、規格が定める合格値や試験条件ではありません。
- ① 何を測ったか
- セル・パックのWh/kg、Wh/L、有効容積比。単位と、材料・部品・完成システムのどこを測った値かを確認します。
- ② どの条件か
- 冷却材、配線、筐体、衝突保護材を分母に含むか。条件が異なる結果は、まず別の結果として読みます。
- ③ 比較で間違えやすい点
- セルの高密度化と、パック構造の効率化を分けて読む
- ④ 規格の役割は何か
- 規格番号・名称・発行年・適用範囲を発行機関の資料で確認します。試験方法、安全性、相互接続、管理体制のどれを扱う規格かを分けて読みます。規格名の記載だけで、試験実施・適合・認証まで済んでいるとは判断しません。
比較を始めるためのメモ:対象/単位/測定条件/試料数とばらつき/比較対象/規格の版/確認できない点を、ひとまとまりで残しましょう。公開概要しか確認できない規格の数値条件や合格基準は、推測して補いません。
12. 用語集
- 円筒形セル
- 円柱の缶に、巻いた電極を入れたセル。18650は直径18 mm×長さ65 mm。
- 角形セル
- 角型の硬い缶に、扁平巻回または積層の電極を入れたセル。
- パウチ形セル
- アルミ複合フィルムの袋に積層電極を入れたセル。
- ジェリーロール
- 正極・セパレータ・負極を重ねて巻いた電極体。
- タブレス
- 集電箔の端を切り欠いて折り曲げ、端面全体から電流を取り出す設計。4680は準タブレス。
- MtP(モジュール・トゥ・パック)
- セルをモジュールにまとめ、モジュールをパックに入れる従来の構成。
- CTP(セル・トゥ・パック)
- モジュールを省き、セルを直接パックに固定する構成。
- CTB/CTC
- セル・トゥ・ボディ/シャシー。パックが車体の構造を兼ねる構成。
- セル・トゥ・パック係数
- 全セルの質量(体積)をパックの質量(体積)で割った値。パック化の効率を表す(Kolochら)。
- 体積利用効率
- パックの体積のうち、セルが占める割合を表す指標(メーカーにより定義は異なりうる)。
- 受動部品
- エネルギーを蓄えない部品。モジュールの枠、冷却板、ケース、配線など。
- 死容積
- パックやモジュールの中で、セルが入らず使えない空間。
13. 参考資料(一次情報)
- J. Koloch, M. Heienbrok, M. Kasperek, M. Lienkamp(ミュンヘン工科大学) "From Cell to Pack: Empirical Analysis of the Correlations Between Cell Properties and Battery Pack Characteristics of Electric Vehicles" World Electric Vehicle Journal 16(9), 484 (2025)(英語) — mdpi.com
- S. Baazouzi ほか "Design, Properties, and Manufacturing of Cylindrical Li-Ion Battery Cells—A Generic Overview" Batteries 9(6), 309 (2023)(英語) — mdpi.com
- M. Lechner ほか(ミュンヘン工科大学) "Cost modeling for the GWh-scale production of modern lithium-ion battery cells" Communications Engineering (2024)(英語) — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- H. Löbberding ほか "From Cell to Battery System in BEVs: Analysis of System Packing Efficiency and Cell Types" World Electric Vehicle Journal 11(4), 77 (2020)(英語、要旨を確認) — doi.org/10.3390/wevj11040077
- CATL "Innovative Technology"(CTP・CTC技術の説明、英語) — catl.com
- BYD(欧州) "BYD Blade Battery"(英語) — byd.com
- Dow "EV Battery System Materials & Cell Solutions"(英語) — dow.com
- A. Nekahi ほか "Advanced lithium-ion battery process manufacturing equipment for gigafactories: Past, present, and future perspectives" iScience 28, 112691 (2025)(英語、レビュー) — pmc.ncbi.nlm.nih.gov
14. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| 車載の形が円筒・角形・パウチの三つで、角形・円筒は硬い缶(アルミまたはステンレス鋼が多い)、パウチはアルミ複合フィルムであること。円筒はジェリーロール、角形は扁平巻回または積層、パウチは積層(同論文の記述)であること | Baazouzi ら Batteries 9(6), 309 (2023)[参考資料 2]https://www.mdpi.com/2313-0105/9/6/309 | 事実 |
| 145車種(2020〜2024年発売、A2MAC1のデータ)の分析であること。セル・トゥ・パック係数が質量比(全セルの質量÷パックの質量)と体積比(全セルの体積÷パックの体積)で定義されること。パックの体積エネルギー密度が円筒150〜280、パウチ110〜305、角形140〜290 Wh/Lであり、形を問わず同程度であること | Koloch ら WEVJ 16(9), 484 (2025)[参考資料 1]https://www.mdpi.com/2032-6653/16/9/484 | 事実 |
| パックの質量エネルギー密度がLFP 125〜145、NCA 150〜174、NMC 140〜180 Wh/kgであること。LFPのセル・トゥ・パック係数が有利なためセルでの差がパックで縮まること。体積効率がLFPで最も高く、NMC・NCAが50%未満(NMCに25%未満の点も)であること | Koloch ら (2025)[参考資料 1]https://www.mdpi.com/2032-6653/16/9/484 | 事実 |
| 円筒の死容積が最大であること、角形の体積セル・トゥ・パック係数が最良でセル単体の体積エネルギー密度は低めであること、パウチは硬い缶がないためモジュールの壁・部品で機械的要件を補うこと。データ上、角形LFPは多くがCTP、円筒・パウチは多くがモジュール方式であること。パックの高さ(円筒105〜117 mm、パウチ113〜175 mm、角形109〜190 mm) | Koloch ら (2025)[参考資料 1]https://www.mdpi.com/2032-6653/16/9/484 | 事実 |
| セルのエネルギー密度が上がってもパックの値は比例して上がらず、受動部品の割合が増えること。データの欠損と、LFPが角形・CTPに、NMC・NCAが円筒・パウチ・モジュール方式に偏ること | Koloch ら (2025)の要旨・考察・限界の記述[参考資料 1]https://www.mdpi.com/2032-6653/16/9/484 | 事実 |
| 4680が直径46 mm・高さ80 mmで、21700の5.5倍、18650の8倍の体積であること。19個の円筒セルの測定(161〜254.5 Wh/kg、436〜712.5 Wh/L)。4680が224.8 Wh/kgで比較的小さいこと、負極約258 µm・正極約170 µm(他のセル平均は144 µm・128 µm)。NCR2070Cの測定値とデータシートの差(−1.1%/−6.2%)。4680が準タブレスで、正極25%・負極30%が切り欠かれていないこと | Baazouzi ら (2023)[参考資料 2]https://www.mdpi.com/2313-0105/9/6/309 | 事実 |
| 4680円筒とPHEV2角形ハードケースのコストモデル。NMC811/黒鉛で4680は98.83 Wh・400.25 g・246.95 Wh/kg、PHEV2は196.29 Wh・892.41 g・219.96 Wh/kg(モデルの設定値)。コスト差が1%未満であること。集電箔がアルミ12 µm・銅8 µm、タブレスの切り込み・折り曲げ・ディスクのレーザー溶接、角形の蓋の溶接と最後の開口の鋲打ち | Lechner ら Communications Engineering (2024)[参考資料 3]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11532491/ | 事実 |
| 25車種(2010〜2019年)で、エネルギー密度と比エネルギーがセル、モジュール、システムの各層で下がること、比エネルギーの改善が体積基準より大きいこと、大型・角形セルへの傾向 | Löbberding ら WEVJ 11(4), 77 (2020)の要旨[参考資料 4]https://doi.org/10.3390/wevj11040077 | 事実 |
| CTPの体積利用効率が第1世代55%から第3世代(Qilin)72%に上がったこと。CTCの説明(セルを車体・シャシー・駆動・熱管理・制御モジュールと一体にし、航続を1,000 km超に)。NMC Qilinで265 Wh/kg、LFPで205 Wh/kgと述べるが、セル/パックの区別は明記されないこと。定義や試験条件の記載がないこと | CATL 公式ページ(メーカー公称)[参考資料 5]https://www.catl.com/en/research/technology/ | 事実 |
| ブレード電池が長く平たい刃形のセルをモジュールを介さずハニカム状に並べること。セル・トゥ・ボディ版で電池が車体のフレームの一部になること。比較表に空間効率が従来品に比べて+50%とあり、基準の記載がないこと | BYD 欧州ページ(メーカー公称)[参考資料 6]https://www.byd.com/eu/technology/byd-blade-battery | 事実 |
| Dowの熱伝導性接着剤が、セル・トゥ・モジュール、セル・トゥ・パック、セル・トゥ・シャシーの設計に使えること | Dow 公式ページ(メーカーの説明)[参考資料 7]https://www.dow.com/en-us/market/mkt-mobility/sub-mobility-electronics/app-mobility-elec-battery-systems.html | 事実 |
| パウチ封止でヒートシールが最も広く使われ、厚さ0.5 mm未満の熱可塑性フィルムを接合すること。ホットバー溶接とインパルス溶接。封止の弱点が材料のばらつきや熱・圧力の不均一で生じること | iScience 2025のレビュー(Nekahi ら)[参考資料 8]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12268664/ | 事実 |
| 18650・21700・4680の外形体積(約16.5・24.2・133 mL)、体積比(約5.5倍・約8.0倍)、中心から表面までの距離(9・10.5・23 mm)、熱が伝わる時間の目安(半径の2乗比で約6.5倍)、表面あたりの熱流束(d÷4に比例、約2.6倍) | 本稿の計算。円柱の公称寸法、発熱は体積に一様、放熱は側面のみという仮定は本稿の仮定。定量予測ではない | 本稿の計算 |
| セルの体積エネルギー密度400 Wh/L(本稿の例)に体積利用効率55%・72%をかけると220・288 Wh/L(約31%増)。40%・60%では160・240 Wh/L(+50%) | 本稿の計算。400 Wh/Lと40%・60%は本稿の仮定。55%・72%はCATL公称値で定義は未確認 | 本稿の計算 |
| 円筒の大型化が熱と電気の経路を長くするという整理、集電箔の材料と加工の仕事がセル形状に直結するという読み取り、実測とモデルの4680の数字の違い。材料→セル→パック→システムの分母の違いという整理、セルの性能向上の価値をパックの受動部品まで含めて見るべきという読み。モジュールの枠の仕事が接着剤・ギャップフィラー・封止材へ移るという整理、形の選択と外装・接着・熱の材料の選択が連動するという整理。封止が電池の化学の問題でもあるという整理 | 本記事による解説 | 解説 |
| 4680を使った実車のパックの質量・体積エネルギー密度、CATLの55%・72%とBYDの+50%の定義、CTP・CTBの交換・修理・リサイクル・熱伝播への影響 | 本稿の調査範囲で公開された一次情報に確認できなかったため記載していない | 解説 |
| 図2〜図5が実際のセルやパックの構造・測定ではなく説明のための作図であること。図1と図6がAI生成イメージであること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月10日/出典は一次情報(実車データを分析した大学の研究論文、査読論文・レビュー、メーカーの公式ページ)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 4680の実車パックの値、CATLとBYDの数値の定義、CTP・CTBの交換・修理・リサイクルへの影響については、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 メーカーの数値(55%・72%、+50%、265 Wh/kgなど)はメーカー公称で、定義と条件が確認できていません。 第3章・第6章の計算は本記事が仮定を置いた例示であり、実測値ではありません。 図はすべて説明用の概念図です。図2〜図5はベクター作図、図1と図6はAI生成イメージであり、いずれも実際のセル・パック・工場の実物や測定結果を示すものではありません。