TECHNOLOGY EXPLAINER
電池リサイクルと二次利用
― 「回収率」の数え方を読み分け、使い終わった電池の次の仕事を考える
使い終わった電池には、2つの道があります。電池のまま別の用途で使う二次利用(セカンドライフ)と、材料に戻すリサイクルです。リサイクルの「回収率」は、質量全体で数えるのか、リチウムやコバルトといった元素ごとに数えるのかで、意味がまったく違います。 この記事では、回収・前処理から、乾式・湿式・直接再生の3ルート、EUの電池規則が定める目標と計算方法、二次利用の考え方と課題までを、規則の原文・公的機関の報告・規格団体のページを一次情報として整理します。企業の実績は企業の主張として区別します。

- 電池リサイクルと二次利用とは(3行でつかむ)
- 回収・前処理 ― 放電・解体・ブラックマス
- 乾式(熱処理)・湿式(浸出・沈殿)・直接再生
- 素材技術者の視点①:何が混ざっていて、何が難しいか
- 回収率・純度の定義 ― 規則はどう数えるか
- EUの目標と、再生材の割合 ― 提案・採択・適用の区別
- 本稿の計算①:使用済み電池1 kWhで、再生材割合は何kWh分満たせるか
- 二次利用(セカンドライフ)の考え方と課題
- 本稿の計算②:二次利用の電池は、いくらなら新品と同じLCOSか
- 素材技術者の視点②:劣化の履歴は電池の中に残る
- 企業の実績 ― 公式資料の範囲で、企業の主張として
- 限界と、確認できなかったこと
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値(仮定はすべて書いています)
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、材料や設計上の読み取りは「解説」として区別し、根拠の弱い推測は推測と明記します。
規制は、提案・採択・施行(適用開始)を区別し、確認した日付(2026年10月10日)を書きます。改正・委任規則の動きがあるため、その後に変わっている可能性があります。企業の発表は企業の主張として扱い、独立の検証を経た値とは区別します。市場規模の推計は使いません。
本記事は電池の再資源化の仕組みを解説するもので、廃棄・取り扱い・法令遵守・事業判断の助言ではありません。使用済みのリチウムイオン電池は、発火・有害物の危険があり、専門の事業者が管理する必要があります。
1. 電池リサイクルと二次利用とは(3行でつかむ)
- 2つの道:EUの電池規則は、使い終わった電池の扱いを「再使用の準備」「用途変更(repurposing)」「再製造(remanufacturing)」「リサイクル」に分けて定義しています。用途変更は、廃棄物でない電池を、元の設計と別の用途に使うことです事実[参考資料1]。
- 「回収率」は2種類:EUの規則は、質量全体で数えるリサイクル効率(リチウム系電池で2025年末に65%、2030年末に70%)と、元素ごとに数える材料回収率(リチウムは2027年末に50%、2031年末に80%)を別に定めています事実[参考資料1]。スラグは前者に算入できても、スラグ中のリチウムは後者に入りません[参考資料2]。
- 再生材の割合は、まだ数えられない:電池に含める再生材の最小割合(2031年8月から、コバルト16%・リチウム6%・ニッケル6%)は規則に書かれています事実[参考資料1]が、その計算・検証の方法を定める委任規則は、2026年10月10日時点で採択を確認できませんでした。JRCの研究報告(2026年7月)は、委任規則を「これから作る」ものと書いています[参考資料4]。
「回収率95%」と聞いたら、何を分子と分母にした数字かを必ず確かめてください。 質量全体なのか、リチウムなどの元素なのか。ブラックマス(中間品)の段階なのか、精製後の材料なのか。同じ「95%」でも、まったく別の約束です。EUの規則は、この数え方を委任規則で細かく定めています。
電池規則そのもの(バッテリーパスポート、炭素フットプリント、デューデリジェンスなど)は、本シリーズ「電池規則とバッテリーパスポート」編で扱います。本稿は、そのうちリサイクルの目標・再生材割合・二次利用の定義だけを取り上げ、パスポートの中身には立ち入りません。LCOS(蓄電の均等化コスト)の式は「蓄電の経済性」編、熱暴走の機構は「熱暴走と電池の安全」編、資源と調達は「電池材料の資源と調達」編を参照してください。
2. 回収・前処理 ― 放電・解体・ブラックマス
リサイクルは、工場に電池が入る前から始まります。Harperらの総説(Nature、2019年)は、電気自動車の電池パックは大きく重く、電圧が高いため、解体時の感電や短絡が危険で、短絡は急速な放電から発熱・熱暴走を招き、HFなどの有害ガスを出しうると述べています。引火性の電解液、有毒な添加剤、電極材料の毒性も、化学的な危険として挙げています事実[参考資料6]。
そのため、規則も前処理の安全に触れています。規則(EU) 2023/1542の附属書XIIは、処理に流体と酸の除去を含めること、廃リチウム系電池を過度の熱、水、圧壊から守り、通常の向きで(逆さにしない)、換気のよい場所に、高電圧用ゴム絶縁をかけて保管し、保管場所に警告表示をすることを求めています事実[参考資料1]。

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前処理の流れは、おおよそ次のとおりです(解説)。まず、パックを放電して電圧を下げ、解体してモジュールやセルにし、材料ごとに選別します。そのうえで、セルを破砕し、軽い樹脂・箔・正負極の粉を分けます。Harperらは、破砕後の細かい生成物を「ブラックマス」と呼び、電極の塗膜(金属酸化物と炭素)からなるとしています[参考資料6]。
EUの委任規則(EU) 2025/606は、ブラックマスを「(熱)機械的処理で生じる正極の画分、または正極と負極の材料の混合物」と定義し、「中間画分」であって、出力画分としては扱わないと明記しています。含まれる金属の回収には、さらに処理が必要で、その処理を経て初めて回収率に算入できます事実[参考資料2]。
3. 乾式(熱処理)・湿式(浸出・沈殿)・直接再生
再資源化のルートは、おおまかに3つに分けられます。Harperらは、熱で金属を合金にする乾式、水溶液で金属を溶かして取り出す湿式、電極材料を取り出して再調整し新しい電池に戻す直接再生を整理しています事実[参考資料6]。Neumannらの総説(Advanced Energy Materials、2022年)は、リチウムイオン電池の再資源化は「成熟からはほど遠い」こと、電池の化学・材料が多様なため、あらゆる電池に使える頑健な1つの手順を確立しにくいことを述べています事実[参考資料3]。
| ルート | 何をするか(文献・公式資料の記述) | 出力・リチウムの行き先 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 乾式(熱処理) | 高温の炉で、金属酸化物を還元して、Co・Cu・Fe・Niの合金にする。電池をそのまま「溶かす」ため、消費者向けリチウムイオン電池の再資源化で商用化されている[参考資料6]。Umicoreは、1,000℃超の溶解で、Ni・Co・Cuの合金、リチウムを含む煙灰、建設に使えるスラグの3つにすると説明(企業の主張)[参考資料12] | スラグにはAl・Mn・Liが残りうる。Harperらは、スラグのリチウムなどは追加の湿式処理で回収できるが、セメント産業などでの利用もありうると述べる[参考資料6] | 電解液と樹脂(電池の質量の約40〜50%)は、乾式では通常、回収が考えられていない[参考資料6]。電池の持つ化学エネルギーを使う利点がある |
| 湿式(浸出・沈殿) | 正極材を水溶液(最も多い組み合わせはH₂SO₄/H₂O₂)で浸出し、溶媒抽出やpH調整による沈殿で金属を取り出す。H₂O₂は還元剤として、溶けにくいCo(III)を溶けるCo(II)に変える[参考資料6] | Coは硫酸塩・蓚酸塩・水酸化物・炭酸塩などで、リチウムは炭酸リチウムやリン酸リチウムの沈殿として取り出す[参考資料6] | 前処理の分別の質と、不純物(Al・Fe・Cuなど)の管理が、製品の純度を決める(解説) |
| 直接再生 | 電極から正極材または負極材を取り出し、再調整して新しい電池に使う。原理的には、混合金属酸化物の正極材を、結晶の形態をほとんど変えずに新しい電極に戻せる。ただし、使用中の劣化と放電状態での回収のため、リチウムの補充が要る[参考資料6]。DOEのReCell Centerは、直接再生を「化学構造を壊さずに、電池の部品を直接回収・再生・再使用すること」と説明[参考資料7] | 出力は再生した正極活物質。Harperらは、研究は主にノートPC・携帯電話の電池に集中してきたと書く[参考資料6] | 円筒形セルのように密に巻かれた構造は、電極を分けにくい[参考資料6]。化学ごとに分別された原料が前提になりやすい(解説) |
すべて事実(文献・公式資料の記述の要約。Umicoreの記述は企業の主張)。組み合わせの工程(乾式→湿式など)が多く、3つに完全には分かれません。
DOEのReCell Centerは、現在の湿式・乾式の再資源化が、特定の金属しか回収できず、電池メーカーにとって価値の低い形の材料になりがちだと述べ、直接再生の開発で、使用するエネルギーを減らし、価値の高い形で材料を回収することを目指しています事実(DOEの研究センターの説明)[参考資料7]。
4. 素材技術者の視点①:何が混ざっていて、何が難しいか
リチウムイオンセルは、正極活物質(層状酸化物やリン酸鉄)、負極の黒鉛、アルミ箔・銅箔、PVDFなどのバインダー、LiPF₆を含む有機電解液、セパレータ(ポリオレフィン)、外装からできています(本シリーズ「導電助剤とバインダー」編、「電解液とセパレータ」編を参照)。リサイクルでは、これらを「混ざった粉」から目的の材料ごとに分ける工程が難しさの中心です。
- 正極の組成の違い。NMCにはNi・Co・Mnという価値の高い金属があり、LFPは鉄とリン酸が主で、リチウム以外に高価な金属が少ない(解説)。そのため、同じ「回収率95%」でも、回収の経済性は化学で大きく異なります。EUの委任規則も、2030年1月から、炭素・鉄・リンをリサイクル効率の計算に入れるよう求めており[参考資料2]、LFPの鉄・リンの扱いが、計算方法の論点になっていることを示唆します(解説)。
- 黒鉛と電解液。乾式では黒鉛と電解液が燃えて熱源になり、材料としては回収されにくい(前述、Harperら)。Redwood Materialsは、還元雰囲気の焼成で黒鉛・樹脂の燃焼を抑えると説明(企業の主張)[参考資料13]。黒鉛は、EUのJRCも「現在は回収されていない画分」の例に挙げています[参考資料5]。
- 電解液のフッ素。LiPF₆は、熱や水と反応してHFなどの有害ガスを生じうる(Harperら)[参考資料6]。湿式ではフッ素が排水・精製の不純物にもなるため、前処理での電解液の扱いが後工程を左右します(解説)。
- リチウムの回収の遅れ。JRCは、鉄などの扱いに加えて、リチウムの回収が「まだ産業規模で十分に実施されていない」と書いています[参考資料5]。乾式ではスラグに入りやすく、湿式でも、Ni・Coを先に回収した後の液から取り出すため、経済性が低くなりやすい(解説)。
つまり、リサイクルの難しさは「金属を取り出せるか」ではなく、「用途に合う純度の材料として、経済的に取り出せるか」にあります。
5. 回収率・純度の定義 ― 規則はどう数えるか
EUの委任規則(EU) 2025/606(2025年3月21日採択、2025年7月4日に官報掲載)は、リサイクル効率と材料回収率の計算・検証の方法と、文書の様式を定めています事実[参考資料2]。主な定義は次のとおりです。
| 用語 | 委任規則の定義(要点) |
|---|---|
| 入力画分 | 処理に入る廃電池の質量(水分を除く、年あたり、トン)。保管・選別・放電・無害化・解体で外した部品も含む。外装、電池に一体のケーブル、基板などの外部部品、再使用・用途変更の準備から外れて再資源化に回るセル・モジュール、製造くずもセル・モジュール・パックの形なら入る |
| 中間画分 | 入力でも出力でもなく、後続の工程で出力に変えるもの(ブラックマスなど) |
| 出力画分 | 再資源化から得られ、材料・物質・製品に変換されたもの。埋立の土木・埋戻し、燃料化、エネルギー回収は除く。変換した外装・外部部品、変換したプラスチック、変換したスラグ(リサイクル効率の算定のみ)を含む。スラグ中のリチウムなどの金属は、材料回収率の算定には入らない |
| リサイクル効率(RE) | 出力画分の質量 ÷ 入力画分の質量 × 100(質量%)。鉛蓄電池・リチウム系・ニッケルカドミウム・その他の化学ごとに別に計算する。2029年末までは酸素・炭素・鉄・リン・塩素・硫黄を算入してよい。2030年1月からは炭素・鉄・リンを算入しなければならず、酸素・塩素・硫黄は算入してもよい |
| 材料回収率(RM) | 回収点の目的元素(Co・Cu・Pb・Li・Ni)の質量 ÷ 入力画分中の同じ元素の質量 × 100。「回収点」は、元素が、産業の製造で一次材料を代替できる材料・物質・製品として回収される工程。回収材は、目的元素の含有率が「過大な費用を避けつつ、技術的に可能な限り高い」こと |
すべて事実(委任規則(EU) 2025/606 附属書の要約[参考資料2])。
ここから、次のことが読み取れます。
- RE(質量)と RM(元素)は別の数字。REは、外装や樹脂、スラグも出力として数えられます。一方、RMは元素ごとに数えます。そのため、REの目標(リチウム系で65〜70%)を満たしながら、リチウムはほとんど回収しない工程も、定義の上ではありえます(解説。実際にそうなるかは工程と目標の関係で決まります)。
- 「純度」の数値基準は書かれていない。回収材について、規則は「目的元素の含有率が、過大な費用を避けて技術的に可能な限り高い」としか書いておらず、「99%以上」のような数値はありません[参考資料2]。純度の基準は、取引相手の電池メーカーの仕様(正極前駆体の原料としての規格)で決まるのが実情と考えられます推測。
- ブラックマスの「回収率」は、規則上は回収率ではない。ブラックマスは中間画分なので、「ブラックマスを何%回収」は、RM・REとは別の中間の数字です。
6. EUの目標と、再生材の割合 ― 提案・採択・適用の区別
規則(EU) 2023/1542は、2023年7月12日に採択され、2024年2月18日から適用されています(一部の条項は別の日付)事実[参考資料1]。本稿が確認したのは、欧州連合官報の原文(EUR-Lexの本文)です。その後の改正(デューデリジェンスの適用延期など、本稿の範囲外の動き)は、本稿では確認していません。
(1) 回収の目標(附属書XII)
| 指標 | 期限(までに達成) | 目標 | 段階 |
|---|---|---|---|
| リサイクル効率(リチウム系電池、質量) | 2025年12月31日 | 65% | 採択済み・適用中。達成状況の公的な集計は確認できなかった |
| リサイクル効率(リチウム系電池、質量) | 2030年12月31日 | 70% | 未確定/将来 |
| 材料回収率(Co・Cu・Pb・Ni) | 2027年12月31日 | 90% | 未確定/将来 |
| 材料回収率(Co・Cu・Pb・Ni) | 2031年12月31日 | 95% | 未確定/将来 |
| 材料回収率(リチウム) | 2027年12月31日 | 50% | 未確定/将来 |
| 材料回収率(リチウム) | 2031年12月31日 | 80% | 未確定/将来 |
数値と期限は事実(規則(EU) 2023/1542 附属書XII 第B部・第C部[参考資料1])。期限が未到来の目標は、規則に書かれた将来の義務であって、達成の実績ではありません。
欧州委員会は、第71条(5)に基づき、2026年8月18日までに目標の見直しの要否を評価することになっていました[参考資料1]。JRCの技術評価(2026年9月14日公表)は、リチウム系電池を中心に評価し、「現時点で、既存の目標を改める緊急の必要は見られなかった」とし、目標は計算方法に柔軟性(一時的に一部の画分を除くことができる)があるため達成が可能で、黒鉛のような現在回収されていない画分や、産業規模で十分に実施されていないリチウムの回収については、科学技術の進歩の監視が重要だとしています事実[参考資料5]。
(2) 再生材の最小割合(第8条)
| 項目 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 文書化の義務 | 2028年8月18日、または委任規則の発効から24か月後のうち遅い方 | 2kWh超の産業用電池、EV用電池、SLI電池は、活物質中のCo・Li・Niと、電池中のPbのうち、製造くずまたは使用済み電池から回収された割合を文書で示す |
| 最小割合(第1段階) | 2031年8月18日 | 活物質中の再生材:コバルト16%、リチウム6%、ニッケル6%。鉛は85%(電池中) |
| 最小割合(第2段階) | 2036年8月18日 | コバルト26%、リチウム12%、ニッケル15%。鉛は85% |
| 除外 | — | すでに市場に出た電池が、再使用の準備・用途変更の準備・用途変更・再製造を受けた場合は、これらの規定が適用されない |
すべて事実(規則(EU) 2023/1542 第8条[参考資料1])。日付は、文書化の義務の「委任規則の発効から24か月後」を除いて、官報の原文のとおり。
第8条は、欧州委員会が2026年8月18日までに、再生材の割合の計算・検証方法と文書の様式を定める委任規則を採択すると定めています[参考資料1]。しかし、JRCが2026年7月13日に公表した研究報告は、この方法を「これから作る(forthcoming)委任規則が定める」ものと書き、2つのトレーサビリティ(追跡)の方式の計算・検証案を示しています事実[参考資料4]。本稿は、採択された委任規則を、官報などの一次情報で確認できませんでした。報道・第三者のサイトでは、2026年8月に草案への意見募集(8月12日〜9月9日)があったと書かれていますが、欧州委員会自身のページで確認していないため、推測の域を出ません。
JRCは、さらに、最終製品の電池中の再生金属の割合を直接測る信頼できる方法は、まだないという趣旨を述べているとされます(二次情報。一次の全文は確認していない)。文書と供給網のデータによる確認になる見込みです推測。この計算方法が決まるまで、電池メーカーは、再生材の割合の数え方を確定できません。
7. 本稿の計算①:使用済み電池1 kWhで、再生材割合は何kWh分満たせるか
再生材の最小割合は、「それだけの量の再生材が、そもそもあるのか」という問いにつながります。ここでは、使用済みの電池が新品と同じ組成という単純化で、使用済み電池1 kWhの金属を、2031年末の回収目標で取り出したとき、新品の再生材割合(2031年8月)を何kWh分満たせるかを計算します本稿の計算。
・NMC811(LiNi₀.₈Mn₀.₁Co₀.₁O₂、モル質量97.28 g/mol):比容量200 mAh/g、平均電圧3.7 V(「蓄電の経済性」編と同じ仮定)。セル1 kWhの正極材は約1.35 kg。
・元素の質量(セル1 kWhあたり):Ni 0.652 kg、Co 0.082 kg、Li 0.096 kg。
・LFP:「蓄電の経済性」編の仮定(比容量150 mAh/g、3.2 V)。セル1 kWhのリチウムは0.092 kg。
・使用済み電池も新品と同じ組成・同じ正極材量で、回収は2031年末の目標どおり(Co・Ni 95%、Li 80%)とする。
・再生材の最小割合は、規則第8条の2031年8月の値(Co 16%、Ni 6%、Li 6%)。
・回収の純度の違い、損失、電解液由来のリチウム、製造くず、経年による組成の変化は含めない。
| 元素 | 新品1 kWhに要る再生材(g) | 使用済み1 kWhから回収できる量(g) | 満たせる新品の量(kWh) |
|---|---|---|---|
| コバルト(NMC811) | 0.16 × 82 = 13.1 | 0.95 × 82 = 77.8 | 5.9 |
| ニッケル(NMC811) | 0.06 × 652 = 39.1 | 0.95 × 652 = 619.6 | 15.8 |
| リチウム(NMC811) | 0.06 × 96.4 = 5.8 | 0.80 × 96.4 = 77.1 | 13.3 |
| リチウム(LFP) | 0.06 × 91.6 = 5.5 | 0.80 × 91.6 = 73.3 | 13.3 |
すべて本稿の計算。数字は四捨五入。「満たせる新品の量」=回収量 ÷ 要る再生材。
読み取れることは3つです本稿の計算。
- コバルトが最も厳しい。再生材割合16%に対して、使用済み1 kWhが満たせる新品は5.9 kWhにとどまります。リチウムとニッケルは13〜16 kWh分です。同じ組成なら、再生材割合が高い元素ほど、使用済みの電池の量がたくさん要ることになります。
- 量の問題は「割合」よりも「時間差」。使用済み電池は、数年から十数年前に作られた電池です。IEAは、2025年のEV電池の導入量が2020年の7倍以上(1.2 TWh)に増えたと書いています[参考資料8]。IEAは、原料の制約のため、リサイクルが一次鉱物の需要を大きく減らすには約10年かかるとも述べています[参考資料9]。1 kWhの使用済み電池が13 kWh分を満たせる計算でも、今ある使用済み電池の量は、今作られる電池の量よりずっと少ないため、割合を満たせるかは、使用済みの電池の総量で決まります。
- 化学が変わる。LFPのリチウムは、NMCと同量の再生材割合を満たせますが、LFPには再生材割合の規定があるコバルト・ニッケルがほとんど含まれません(解説)。再生材割合は、化学によって、実際の負担が違います。
8. 二次利用(セカンドライフ)の考え方と課題
電池は、EVで使えなくなった時点でも、容量の一部が残っています。EUの規則は、この「次の仕事」を、次のように区別して定義しています事実[参考資料1]。
| 用語 | 規則の定義(要点) |
|---|---|
| 再使用の準備 | 廃棄物指令(2008/98/EC)の定義による |
| 用途変更の準備 | 廃棄物の電池(または部品)を、元の設計と別の目的・用途に使えるように準備する作業 |
| 用途変更(repurposing) | 廃棄物でない電池(または部品)を、元の設計と別の目的・用途に使う結果になる作業 |
| 再製造(remanufacturing) | 使用済みの電池を分解し、すべてのセル・モジュールを評価し、新品・中古・回収品のセル・モジュールなどを使って、容量を元の定格の90%以上に戻し、すべてのセルのSOH(健全度)の差が3%以内で、元と同じ目的・用途に使う電池にすること |
| SOH(state of health) | 充電式電池の全般的な状態と、初期状態に比べて規定の性能を出せる能力の尺度 |
すべて事実(規則(EU) 2023/1542 第3条の定義[参考資料1])。
二次利用には、規格もあります。UL 1974:2023「用途変更または再製造する電池の評価」は、もともと別の用途(EVの推進など)に使われたパック・モジュール・セルの選別と等級づけの工程と、用途変更された電池の用途ごとの要求を扱います(Standards Council of Canadaの規格ページ。2023年11月9日公開)事実[参考資料10]。IEC 63330-1:2024「二次電池の用途変更 第1部:一般要求事項」は、EVなど別用途用に作られたセル・モジュール・パック・システムの再利用で、性能と安全を評価する手順と、用途に使う基本要求を定め、リチウムイオン電池とデータのトレーサビリティを対象にしています事実[参考資料11]。規格の本文は有料のため、題名・適用範囲の記載にとどめます。
課題
- 劣化の履歴がわからない。Harperらは、SOHを「電池が初期の設計仕様をどれだけ満たすかの程度」と説明し、診断には、パック・モジュール・セルの測定が要ると述べています[参考資料6]。履歴(充電のしかた、温度、事故の有無)の記録が、再利用の可否を左右します。規格がデータのトレーサビリティを求める理由はここにあります[参考資料11]。
- パックごと・セルごとのばらつき。古いパックはセルごとの劣化が揃わない。再製造の定義が「SOHの差3%以内」を要求しているのは、この問題の裏返しです[参考資料1]。
- 安全。使用済み電池は、前処理・保管でも発火の危険があります。Harperらは、金属回収施設での火災の報告が増えており、消費者向けのリチウムイオン電池が鉛蓄電池などに紛れ込むことが一因だと書いています[参考資料6]。二次利用の設備では、設置規格(NFPA 855、UL 9540Aなど)への適合が前提です(本シリーズ「データセンターと蓄電」編を参照)。
- 規則上の扱い。用途変更された電池は、元の用途での再生材割合の規定から外れます(第8条第4項)。用途変更の後で、新しい製造者としての責任がどこに移るかは、本稿では確認していません。
- 経済性。新品の電池価格が下がるほど、二次利用の電池の価格が見合いにくくなります(次章の計算)。
9. 本稿の計算②:二次利用の電池は、いくらなら新品と同じLCOSか
二次利用の電池が使われるかどうかは、「新品より安い」だけでは決まりません。容量が減っており(同じエネルギーを出すのに、より多くのkWhが要る)、寿命が短く、効率が低いかもしれないからです。本稿は、本シリーズ「蓄電の経済性」編の基準ケースを使い、二次利用の電池の購入価格が、新品の電池価格の何%なら、システムのLCOSが同じになるかを計算します本稿の計算。
・基準:「蓄電の経済性」編の基準ケース(新品、4時間、設備費334 US$/kWh、割引率7%、寿命15年、往復効率85%、1日1サイクル、充電電力40 US$/MWh)。LCOSは184 US$/MWh(定義A)。
・電池の費用割合:設備費の60%(残り40%は、インバータ・敷地・電気設備・工事など、新品と同じ)。
・二次利用の電池:利用可能な容量が定格の70%(同じエネルギーを出すため、1 kWh分に1/0.7=1.43 kWhの電池が要る)、寿命10年、往復効率80%。固定O&Mは設備費の4%/年(新品と同じ割合)。
・二次利用の電池の価格は、試験・選別・再構成の費用を含む購入価格(新品の電池価格に対する割合 p)。
・新品との条件の差(劣化の速さ、安全対策の追加費用、保証)は、寿命と効率以外は含めない。
この前提では、損益分岐の価格は、新品の電池価格の約47%です本稿の計算。つまり、二次利用の電池(試験・選別・再構成を含む)を、新品の電池の半値以下で調達できないと、新品の系統と同じLCOSにならないことになります。下の表は、前提を動かしたときの損益分岐の価格です(新品の電池価格に対する%)。
| 電池の費用割合 / 利用可能容量 | 寿命8年 | 寿命10年 | 寿命12年 |
|---|---|---|---|
| 50% / 60% | 25% | 36% | 46% |
| 50% / 80% | 33% | 49% | 61% |
| 60% / 70%(基準) | 36% | 47% | 56% |
| 70% / 60% | 35% | 43% | 50% |
| 70% / 80% | 46% | 58% | 67% |
すべて本稿の計算(往復効率80%、他は上記の前提)。値は「新品の電池価格に対する、二次利用の電池価格の損益分岐の割合」。
読み取れることは3つです本稿の計算。
- 寿命が最も効く。基準で、寿命が8年から12年に延びると、損益分岐が36%から56%に上がります。二次利用の電池の価値は、何年使えるかで大きく変わります(本シリーズ「蓄電の経済性」編の結論と同じ)。
- 電池以外の費用は逃げない。インバータ・敷地・工事の費用は、二次利用でも同じようにかかるため、電池が無料(p=0)でも、LCOSは約117 US$/MWhで、新品の184 US$/MWhの約63%までしか下がりません。
- 新品の電池価格が下がれば、二次利用の優位は縮む。損益分岐は「新品の電池価格に対する割合」なので、新品が安くなると、二次利用の価格は絶対額でさらに低くなければなりません。
Redwood Materialsは、再利用した電池を使う自社のシステムの設備費が、「従来のシステムより最大50%低い」と述べています(企業の主張。比較の基準と条件は確認できなかった)[参考資料15]。本稿の計算は、この主張の真偽を判断するものではありません。

10. 素材技術者の視点②:劣化の履歴は電池の中に残る
二次利用の電池の評価は、「残りの容量」だけでは足りません(解説)。
- 抵抗の上昇。劣化したセルは、容量が減るだけでなく、内部抵抗が増えます。抵抗が増えると、同じ出力で発熱が増え、効率(往復効率)が下がります。上の計算で、二次利用の効率を80%(新品85%)に置いたのは、この効果の例示です。
- 劣化の「形」。容量が直線的に落ちるのか、ある時点から急に落ちるのか(鉛蓄電池では、約80%を下回ると急に落ちるとUptime Instituteが述べています。本シリーズ「データセンターと蓄電」編)、は材料と使われ方で変わります。残りの寿命は、容量の値だけでは決まりません。
- 負極側の履歴。急速充電や低温での充電は、負極表面へのリチウム金属の析出を起こしやすいことが知られています(本シリーズ「デンドライト」編、「リチウム金属負極」編を参照)。析出が起きた履歴は、容量や抵抗の値に現れにくく、後の安全に影響しうる(解説。個別の電池の安全性を示すものではありません)。
- セルごとのばらつき。パックの中でセルの劣化が揃わないと、最も弱いセルが全体を決めます。再製造の定義の「SOHの差3%」[参考資料1]は、この問題への規則上の線引きです。
だから、UL 1974やIEC 63330-1のような規格は、選別・等級づけと、データのトレーサビリティを求めます[参考資料10・11]。二次利用の経済性は、電池の価格ではなく、履歴の情報にどれだけ信頼できるかで決まる面があります(解説)。
11. 企業の実績 ― 公式資料の範囲で、企業の主張として
企業の公式資料に書かれた数値は、すべて企業の主張です。独立の検証を経た値とは区別し、条件が書かれていない点は、確認できなかったと書きます。
| 企業 | 公式資料の記述(企業の主張) | 注意 |
|---|---|---|
| Redwood Materials(リサイクル) | 2024年4月の記事:自社の湿式(ハイドロメタラジー)施設は、電池製造の端材から、リチウムの95%を回収。還元焼成炉は、生きた電池・消費者向け電子機器・EVモジュールを処理でき、年4万トン超(約15〜20 GWh)を処理可能。焼成は合金やスラグを作らない。スタンフォード大学が評価したLCAで、エネルギー80%減・CO₂ 70%減とする。2025年6月の記事:年20 GWh超(EV約25万台分)の電池を受け取り、これが北米でリサイクルされるリチウムイオン電池・電池材料の約90%にあたるとする[参考資料15]。2022年10月:ArgonneがRedwoodの再生金属硫酸塩から作ったNMC811正極の性能を検証し、サイクル寿命・放電容量・クーロン効率が、鉱石由来の硫酸塩から作ったものと同一だったとする[参考資料14] | リチウム95%は電池製造の端材での値で、使用済みEV電池の値ではない。回収率の定義(RM)か、算出方法かは書かれていない。LCAは企業がスタンフォードに依頼したもの。受け入れ量・シェアの出典は同社の発表のみ |
| Umicore(リサイクル) | 乾式(1,000℃超の溶解)と湿式を組み合わせた「pyro-hydro」。Ni・Co・Cuの合金、リチウムを含む煙灰、建設に使えるスラグの3つを得る。コバルト・銅・ニッケルの回収率95%超、リチウム90%超。ベルギー・ホーボーケンの設備は、7,000トンの能力で、2022年の増強で自動車用電池に拡大[参考資料12] | 「回収率」の定義(EUのRMかどうか)、対象の化学、測定の条件は、同ページでは確認できなかった。ページに日付の記載を確認できなかった(閲覧日 2026年10月10日) |
| Nissanと4R Energy(二次利用) | NissanとSumitomo Corp.が、初代LEAFの発売前に4R Energy社を設立。再使用された電池を「A」「B」「C」の等級に分け、Aは新品のEV用、Bは産業機械や大規模な定置型蓄電、Cはバックアップ電源に使う例を挙げる。4R Energyの技術者は、回収した電池の寿命を約10〜15年と見積もる。浪江(日本)の工場で、再利用とリサイクルを行う[参考資料16] | 10〜15年は見積もりで、実績ではない。等級の基準・試験条件は書かれていない。ページに日付の記載を確認できなかった(閲覧日 2026年10月10日) |
| Redwood Energy(二次利用) | 再利用したEV電池で、12 MW/63 MWhのマイクログリッドを4か月弱で構築し、データセンター向けに電力を供給。多くの使用済みEV電池が「50%超の容量を保持している」とする[参考資料15] | 容量保持率の分布、等級づけの基準は、同ページでは確認できなかった。運用可用率などは「データセンターと蓄電」編を参照 |
すべて事実(各社の公式資料の記述の要約)。企業の主張であり、独立に検証された値ではありません。
12. 限界と、確認できなかったこと
- 採択された再生材割合の計算方法(委任規則)は確認できませんでした(2026年10月10日時点)。第8条の期限(2026年8月18日)後も、JRCは「これから作る」としています[参考資料4]。草案への意見募集の日付は第三者の情報で、一次情報では確認していません。
- リサイクル効率の2025年末目標(リチウム系65%)の達成状況の、公的な集計は確認できませんでした。欧州委員会の第71条(5)に基づく報告書(2026年9月)についても、JRCの技術評価[参考資料5]を確認したのみで、委員会の報告書そのものは確認していません。
- EUR-Lexで確認したのは、規則(EU) 2023/1542の官報の原文です。その後の改正・訂正の統合版は確認していません。
- 「純度」の数値基準は、規則にありません。電池メーカーの調達仕様の純度は、公表された一次情報を確認できませんでした。
- 企業の回収率・処理量・性能は、すべて企業の主張で、回収率の定義(EUのRMかどうか)、対象(端材か使用済みEV電池か)、測定条件が書かれていない点があります。独立に検証された値は確認できませんでした。
- 本稿の計算(第7章・第9章)は、仮定をすべて書いた構造の説明です。実際の電池の組成・使用済み電池の量・二次利用の価格を示すものではありません。
- 他の国・地域(日本・米国・中国など)の電池のリサイクル規制・制度は、本稿では扱っていません。
- 電池の市場規模・リサイクル市場の推計は使っていません。JRCやIEAの数値は、公的機関の報告の範囲で、必要な箇所だけ引用しました。
- 回収率は2種類。EUのリサイクル効率は質量全体、材料回収率は元素ごと。スラグは前者に入り、スラグ中のリチウムは後者に入らない事実
- ブラックマスは中間品で、出力としては数えない。純度の数値基準は規則にない事実
- リチウム系電池のリサイクル効率は、2025年末に65%、2030年末に70%。リチウムの回収は2027年末に50%、2031年末に80%事実(2027年以降は未確定/将来)
- 再生材の最小割合(2031年コバルト16%など)の計算方法は、2026年10月時点でまだ採択を確認できない。JRCは「これから作る」としている事実
- 使用済み電池1 kWhが満たせる新品の再生材割合は、コバルトで約5.9 kWh、ニッケルとリチウムで13〜16 kWh分(同じ組成の仮定)本稿の計算
- 二次利用の電池は、新品の電池の約半値(試験・選別込み)で調達できないと、LCOSが並ばない(前提つきの計算)本稿の計算
13. 評価・標準の読み方
初めて読むときは、「どの数字が大きいか」より先に、次の順番で比較の条件を揃えてください。以下は本記事の編集上の確認手順で、規格が定める合格値や試験条件ではありません。
- ① 何を測ったか
- 回収率、再生材の品質、残存容量、費用。単位と、材料・部品・完成システムのどこを測った値かを確認します。
- ② どの条件か
- 回収対象の元素、工程の境界、混入物、使用履歴、選別条件。条件が異なる結果は、まず別の結果として読みます。
- ③ 比較で間違えやすい点
- 質量の回収率と、電池材料へ戻せる品質の回収率を分ける
- ④ 規格の役割は何か
- 規格番号・名称・発行年・適用範囲を発行機関の資料で確認します。試験方法、安全性、相互接続、管理体制のどれを扱う規格かを分けて読みます。規格名の記載だけで、試験実施・適合・認証まで済んでいるとは判断しません。
比較を始めるためのメモ:対象/単位/測定条件/試料数とばらつき/比較対象/規格の版/確認できない点を、ひとまとまりで残しましょう。公開概要しか確認できない規格の数値条件や合格基準は、推測して補いません。
14. 用語集
- ブラックマス
- 破砕後に得られる、正極・負極の粉(金属酸化物と炭素)。EUの規則では中間画分。
- 乾式(パイロメタラジー)
- 高温で金属を溶かし、合金とスラグに分ける再資源化。
- 湿式(ハイドロメタラジー)
- 酸などで金属を溶かし(浸出)、溶媒抽出や沈殿で取り出す再資源化。
- 直接再生
- 正極材などを、結晶構造を壊さずに回復して再利用する方法。
- スラグ
- 溶解で金属と分かれる酸化物の残り。リサイクル効率には算入されるが、含まれる金属は材料回収率に入らない。
- リサイクル効率(RE)
- 出力画分の質量 ÷ 入力画分の質量。電池の化学ごとに計算する。
- 材料回収率(RM)
- 回収点で材料になった目的元素の質量 ÷ 入力中の同じ元素の質量。
- 用途変更(repurposing)
- 廃棄物でない電池を、元の設計と別の用途に使うこと。
- 再製造(remanufacturing)
- 分解・評価して容量を定格の90%以上に戻し、同じ用途に使うこと。
- SOH(健全度)
- 初期状態に比べて、電池が規定の性能を出せる程度。
- 再生材割合
- 電池の活物質中のCo・Li・Ni(と電池中のPb)のうち、製造くずまたは使用済み電池から回収された割合。
- 委任規則
- EUの法令で、基本の規則を補うために欧州委員会が採択する規則。採択後に官報に掲載され、定められた日に発効する。
15. 参考資料(一次情報)
- 欧州議会・理事会 規則(EU) 2023/1542(電池および廃電池に関する規則)2023年7月12日(EUR-Lex、官報の原文) — https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32023R1542
- 欧州委員会 委任規則(EU) 2025/606(リサイクル効率・材料回収率の計算・検証方法と文書の様式)2025年3月21日採択、2025年7月4日官報掲載 — https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32025R0606
- Neumann et al. "Recycling of Lithium-Ion Batteries—Current State of the Art, Circular Economy, and Next Generation Recycling", Advanced Energy Materials 12(2022年、DOI 10.1002/aenm.202102917) — https://doi.org/10.1002/aenm.202102917
- 欧州委員会JRC Pierri et al., "JRC study on harmonised rules for the calculation and verification of recycled content in batteries — JRC recommendations to support the provisions of Article 8 of Regulation (EU) 2023/1542", JRC146717, 2026年7月13日 — https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC146717
- 欧州委員会JRC Orefice, Manni, Mathieux, "JRC technical assessment in relation to Article 71(5) of the Batteries Regulation", JRC145625, 2026年9月14日 — https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC145625
- Harper et al. "Recycling lithium-ion batteries from electric vehicles", Nature 575, 75–86(2019年、DOI 10.1038/s41586-019-1682-5) — https://www.nature.com/articles/s41586-019-1682-5
- 米国エネルギー省(DOE)ReCell Center 「ReCell Center」トップページ(直接再生の説明) — https://recellcenter.org/
- IEA "Global EV Outlook 2026: Electric vehicle batteries" — https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2026/electric-vehicle-batteries
- IEA "Global EV Outlook 2025: Electric vehicle batteries" — https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/electric-vehicle-batteries
- Standards Council of Canada "ANSI/CAN/UL 1974:2023 Evaluation for Repurposing or Remanufacturing Batteries"(規格ページ) — https://scc-ccn.ca/standardsdb/standards/4032178
- IEC "IEC 63330-1:2024 Repurposing of secondary batteries – Part 1: General requirements" — https://webstore.iec.ch/en/publication/66561
- Umicore "Pyro-hydro technology"(Battery Recycling Solutions) — https://www.umicore.com/en/about/battery-materials-solutions/battery-recycling-solutions/pyro-hydro-technology/
- Redwood Materials "Building the most sustainable (and scalable) battery materials process" 2024年4月18日 — https://www.redwoodmaterials.com/news/sustainable-battery-materials-process/
- Redwood Materials "U.S. Department of Energy's Argonne National Laboratory verifies performance of Redwood cathode from recycled content" 2022年10月13日 — https://www.redwoodmaterials.com/news/argonne-national-laboratory-verifies-redwood-cathode-performance/
- Redwood Materials "Redwood Energy: Fast, low-cost storage to power the age of AI and a changing grid" 2025年6月27日 — https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-energy-fast-low-cost-storage-to-power-the-age-of-ai-and-a-changing-grid/
- Nissan "Nissan gives EV batteries a second life"(4R Energyの紹介、日付の記載なし) — https://www.nissan-global.com/EN/STORIES/RELEASES/4r/
16. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| 規則(EU) 2023/1542が2024年2月18日から適用されること。第3条の定義(再使用の準備、用途変更の準備、用途変更、再製造〔容量を元の定格の90%以上、セルのSOHの差3%以内〕、SOH)。附属書XII第A部(流体・酸の除去、リチウム系電池の保管要件)、第B部(リサイクル効率:リチウム系65%〔2025年末〕・70%〔2030年末〕)、第C部(材料回収率:2027年末にCo・Cu・Pb・Ni 90%、Li 50%、2031年末にCo・Cu・Pb・Ni 95%、Li 80%)。第8条(文書化は2028年8月18日または委任規則発効から24か月後の遅い方、最小再生材割合は2031年8月18日にCo 16%・Pb 85%・Li 6%・Ni 6%、2036年8月18日にCo 26%・Pb 85%・Li 12%・Ni 15%、再使用等を受けた電池は適用外、委任規則の期限2026年8月18日)。第71条(委任規則の期限2025年2月18日、目標の見直しの評価の期限2026年8月18日) | EUR-Lex 規則(EU) 2023/1542[参考資料 1]https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32023R1542 | 事実 |
| 2031年末までのリサイクル効率・材料回収率の目標、再生材割合の最小値(2031年・2036年)、2027年以降の目標の達成 | 規則に書かれた将来の義務であり、達成の実績ではない。期限が来ていない目標は未確定/将来として扱った[参考資料 1]https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32023R1542 | 未確定/将来 |
| 委任規則(EU) 2025/606(2025年3月21日採択、2025年7月4日官報掲載)の定義:入力画分、中間画分、出力画分(スラグはリサイクル効率の算定のみ。スラグ中のリチウムなどの金属は材料回収率に入らない)、ブラックマス(中間画分で出力ではない)、REとRMの式、化学ごとの計算、2029年末まで/2030年1月からの酸素・炭素・鉄・リン・塩素・硫黄の扱い、回収点、回収材の含有率が「技術的に可能な限り高い」こと | EUR-Lex 委任規則(EU) 2025/606[参考資料 2]https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32025R0606 | 事実 |
| リチウムイオン電池の再資源化は成熟からほど遠く、頑健な1つの手順を確立しにくいこと | Neumannら(2022年)[参考資料 3]https://doi.org/10.1002/aenm.202102917 | 事実 |
| JRCが2026年7月13日に公表した研究報告が、再生材の計算・検証方法を「これから作る委任規則」が定めるものとし、2つのトレーサビリティの方式の計算・検証案を示すこと | JRC146717[参考資料 4]https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC146717 | 事実 |
| JRCの技術評価(2026年9月14日):リチウム系電池を中心に評価し、現行目標を直ちに改める必要は見られず、計算方法に柔軟性があること。黒鉛などの現在回収されていない画分と、産業規模で十分に実施されていないリチウムの回収の監視が重要であること | JRC145625[参考資料 5]https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC145625 | 事実 |
| EV電池パックの解体・短絡・熱暴走・HFの危険。乾式(合金・スラグ・煙の生成、スラグのAl・Mn・Li、電解液と樹脂〔電池の質量の約40〜50%〕は通常回収されない)、湿式(H₂SO₄/H₂O₂での浸出、溶媒抽出、pH沈殿、炭酸リチウムなど)、直接再生(結晶構造の維持、リチウムの補充、研究の中心が小型電池)、ブラックマスの記述、SOHの定義、金属回収施設での火災の報告の増加 | Harperら(Nature、2019年)[参考資料 6]https://www.nature.com/articles/s41586-019-1682-5 | 事実 |
| 直接再生の説明(化学構造を壊さずに部品を直接回収・再生・再使用)と、現行の湿式・乾式が特定の金属しか回収できず、価値の低い形になりがちだという説明 | DOE ReCell Center[参考資料 7]https://recellcenter.org/ | 事実 |
| 2025年のEV電池の導入量が2020年の7倍以上(1.2 TWh)であること | IEA Global EV Outlook 2026[参考資料 8]https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2026/electric-vehicle-batteries | 事実 |
| 原料の制約のため、リサイクルが一次鉱物の需要を大きく減らすには約10年かかること | IEA Global EV Outlook 2025[参考資料 9]https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/electric-vehicle-batteries | 事実 |
| UL 1974:2023の題名と適用範囲(選別・等級づけ、用途変更された電池の用途ごとの要求、再製造)、2023年11月9日公開 | Standards Council of Canada[参考資料 10]https://scc-ccn.ca/standardsdb/standards/4032178 | 事実 |
| IEC 63330-1:2024の題名と適用範囲(用途変更の一般要求事項、リチウムイオン、データのトレーサビリティ) | IEC 規格ページ[参考資料 11]https://webstore.iec.ch/en/publication/66561 | 事実 |
| Umicoreのpyro-hydro(1,000℃超の溶解、合金・煙灰・スラグ、コバルト・銅・ニッケル95%超、リチウム90%超、7,000トン、2022年の増強) | Umicore(企業の主張)[参考資料 12]https://www.umicore.com/en/about/battery-materials-solutions/battery-recycling-solutions/pyro-hydro-technology/ | 事実 |
| Redwood Materialsの湿式でのリチウム95%(電池製造の端材)、還元焼成炉の年4万トン超(約15〜20 GWh)、スタンフォードのLCAでエネルギー80%減などの主張 | Redwood Materials 2024年4月(企業の主張)[参考資料 13]https://www.redwoodmaterials.com/news/sustainable-battery-materials-process/ | 事実 |
| ArgonneがRedwoodの再生金属硫酸塩から作ったNMC811正極の性能を検証したという記述(2022年10月13日) | Redwood Materials 2022年10月(企業の主張)[参考資料 14]https://www.redwoodmaterials.com/news/argonne-national-laboratory-verifies-redwood-cathode-performance/ | 事実 |
| Redwood Energyの再利用電池12 MW/63 MWhのマイクログリッド、使用済みEV電池の多くが50%超の容量を保持するという主張、設備費が従来より最大50%低いという主張、年20 GWh超の受け入れ(北米のリサイクルの約90%) | Redwood Materials 2025年6月(企業の主張)[参考資料 15]https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-energy-fast-low-cost-storage-to-power-the-age-of-ai-and-a-changing-grid/ | 事実 |
| Nissan・Sumitomo Corp.の4R Energy、A・B・Cの等級、回収した電池の寿命の見積もり約10〜15年、浪江の工場 | Nissan(企業の主張)[参考資料 16]https://www.nissan-global.com/EN/STORIES/RELEASES/4r/ | 事実 |
| 使用済み電池1 kWhが満たせる新品の再生材割合の量(Co 5.9、Ni 15.8、Li 13.3 kWh)と、各元素の質量(NMC811:Ni 0.652、Co 0.082、Li 0.096 kg/kWh) | 本稿の計算。前提(NMC811の比容量200 mAh/g・3.7 V、LFPの比容量150 mAh/g・3.2 V、使用済み電池も新品と同じ組成、回収は2031年末の目標どおり)は第7章に記載。電池の実際の組成・損失・時間差は含まない | 本稿の計算 |
| 二次利用の電池が新品と同じLCOSになる購入価格(基準で約47%)、前提を動かした損益分岐の表、電池が無料でもLCOSが約117 US$/MWhまでしか下がらないこと | 本稿の計算。前提(電池が設備費の60%、利用可能容量70%、寿命10年、往復効率80%、他は「蓄電の経済性」編の基準ケース)は第9章に記載。実在の案件を示すものではない | 本稿の計算 |
| ブラックマスの純度の数値基準がないという読み取り、リサイクル効率を満たしながらリチウムを回収しない工程がありうるという読み取り、NMCとLFPの経済性の違い、リチウム回収が経済性の低い工程になりやすいという読み取り、容量70%の電池と新品の違い、抵抗の上昇・負極側のリチウム析出などの劣化の履歴、純度の基準は取引相手の仕様で決まるという推測 | 公表内容にもとづく本記事の解説・推測。各社・各機関が表明した見解ではない。個別の電池の安全性を示すものではない | 解説 |
| 採択された再生材割合の委任規則、リサイクル効率65%(2025年末)の達成状況の公的な集計、欧州委員会の第71条(5)の報告書そのもの、純度の数値基準、企業の回収率の定義・測定条件、他の国・地域の制度 | 本稿の調査範囲で一次情報により確認できなかった、または対象外としたため記載していない | 解説 |
| 図1・図6がAI生成イメージであり、図2〜5が説明のための作図であって、実在の設備・計測データではないこと | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月10日/出典は一次情報(EUの規則・委任規則の原文、欧州委員会JRCの報告、DOEの研究センター、規格団体・認証機関のページ、査読論文、企業の公式資料)に限定しています。 規制は、規則の原文で確認した範囲で、採択・適用の段階と日付を区別しました。採択された再生材割合の計算方法の委任規則、リサイクル効率の達成状況、純度の数値基準、企業の回収率の測定条件は、確認できなかったため断定していません。 企業の数値は企業の主張として扱い、独立の検証を経た値とは区別しています。本稿の計算(第7章・第9章)は、仮定を書いた構造の説明であり、実際の組成・量・価格を示すものではありません。 図1・図6はAI生成イメージ、図2〜5はベクター作図であり、いずれも実在の設備・計測データを示すものではありません。