COMPANY PROFILE / 次世代蓄電
シラ
― シリコン-炭素の負極材「Titan Silicon」を作る、米国カリフォルニア州の非上場の素材会社。ワシントン州の工場は稼働し増産中で、焦点は増設の資金と、自動車以外への用途の広がり
Sila(シーラ)は、リチウムイオン電池の負極材(シリコン-炭素複合材、Si/C)を作って電池メーカーに売る素材会社です。ブランド名はTitan Silicon。本社は米国カリフォルニア州アラメダで、非上場です。売上・利益・従業員数は公式資料で確認できませんでした。
製造拠点は、アラメダの既存ライン(2017年から稼働)と、ワシントン州モーゼスレイクの新工場(2025年9月に稼働開始、2026年7月に「増産中」、第1期の初期能力は2 GWhと同社が説明)です。2026年は、US$3億の民間資金(7月)、米国 Department of War の戦略資本局(OSC)から最大US$14億の融資の「条件つき」意向(8月、最終契約ではない)を発表しました。一方で、米国の国際貿易委員会(ITC)に、中国の負極材メーカー3社の輸入品が特許を侵害するとして申し立て、調査が2026年7月に開始されています(結果は未定)。
本稿は、同社の公式サイト・プレスリリース、米国エネルギー省(DOE)の公開資料、官報、パナソニック エナジーとREC Siliconの発表を一次情報とし、何を確認でき、何を確認できなかったかを整理します。性能の数値はすべてメーカー公称で、測定条件は公開されていません。
- 30秒でわかるSilaと、次世代蓄電での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 次世代蓄電にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
- 次世代蓄電分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集
- 出典
- 主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるシラと、次世代蓄電での立ち位置
(Sila Nanotechnologies Inc.)公式サイトの権利表記は Sila Nanotechnologies Inc.。社名の読みは「シーラ」と同社が説明(ウクライナ語・ロシア語で「力」、仏教で「倫理」)
アラメダプレスリリースの発信地。2014年にアラメダへ移転と同社が説明。住所の詳細は公式サイトで確認できなかった
Titan Silicon黒鉛の置き換えを狙う。パウチ・円筒・角形のどれにも使えると説明(メーカー公称)
カリフォルニア州 アラメダモーゼスレイクは2025年9月に稼働開始。2026年7月に「増産中」、第1期の初期能力2 GWhと同社が説明
Silaの次世代蓄電での位置は、シリコン負極の材料を、米国内で量産する工場まで持っている数少ない非上場の素材会社、というものです。パナソニック エナジーとの購入契約(2023年12月)、REC Siliconとのシラン調達契約(2024年9月)、DOEの助成選定(2022年)など、公的機関・取引先の一次資料で確認できる事実があります 事実。
ただし、実際の出荷量、売上、顧客別の採用状況、Mercedes-Benz G-Class への搭載は確認できません。US$14億の融資は「条件つきの意向」で最終契約ではなく、最大250 GWhへの拡張や、セル工場の建設は会社の計画・目標です。性能の数値(エネルギー密度20%増、急速充電、2,000サイクル超など)はメーカー公称で、測定条件が公開されていません 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の公式サイト(silanano.com)に掲載されている画像(オレンジ色の円形のマークと「Sila」の文字)を、そのまま取得して設置しています。生成画像による再現は行っていません。
表記の注意:社名は Sila(頭文字だけ大文字)です。法人名は Sila Nanotechnologies Inc. で、2023年に導入したTitan Siliconは製品(負極材)のブランド名です(登録商標の表示あり)。別分野の同名・類似名の会社とは関係がありません。
公式サイト:https://www.silanano.com/3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
Silaの主たる類型はセル・材料メーカー(負極材)で、従たる類型はありません。2026年8月に発表した条件つき融資の用途に、特殊用途向けのセル工場の建設が含まれますが、計画の段階です。同社の事業を、公式資料で確認できた範囲で整理します。
| 事業・用途 | Silaでの位置づけ | 確認できた一次情報 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 負極材 Titan Silicon(シリコン-炭素) | 中心の製品。2021年に商品化したと同社が説明。ワシントン州で量産、アラメダで長年の生産 | 公式サイト、プレスリリース(2025年9月・2026年7月) | 事実(会社の説明) |
| 電池メーカーへの供給(EV向け) | パナソニック エナジーが購入(2023年12月に契約)。Mercedes-Benzとは2019年から提携、G-Class向けと説明(現況は確認できず) | パナソニック エナジーの発表、公式サイト、DOE資料 | 事実/採用の現況は確認できず |
| 民生・ウェアラブル | 2021年に WHOOP 4.0 で採用と同社が説明 | 公式サイト「About Us」 | 事実(会社の説明) |
| ドローン・ロボット・データセンター・防衛・宇宙 | 2026年の公式ページが前面に出す用途。条件つき融資の説明にも「ドローン」「防衛」が並ぶ | 公式サイト、プレスリリース(2026年) | 事実(会社の説明)/顧客名は確認できず |
| 特殊用途向けのセル工場 | シリコン電池セルの工場を建設する構想(産業用・農業用・軍用のドローンなど)。条件つき融資の用途 | プレスリリース(2026年8月) | 未確定/将来 |
| 電池セルの量産 | 現時点で自社のセルの量産は確認できなかった | ― | 確認できず |
4. 会社の規模
Silaは非公開企業で、財務諸表は公開されていません。公式資料から確認できる規模を示します 事実。
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 売上・利益・負債 | 非公表。公式サイト・プレスリリース・DOE資料のいずれにも記載がない |
| 従業員 | 非公表。DOEの環境評価(2024年)は、モーゼスレイクで150〜300人(常勤換算)の雇用を想定。同社は2025年9月に、3〜5年で最大500人の採用・育成と説明。アラメダの人数は確認できなかった |
| 設立・本社 | 2011年設立と同社が説明(ジョージア工科大学のスタートアップとして数年の活動を経て、Sila Nanotechnologiesとして法人化)。本社は米国カリフォルニア州アラメダ。2014年にアラメダへ移転と同社が説明 |
| 創業者・経営陣 | 共同創業者兼CEO:Gene Berdichevsky(元Tesla)。共同創業者兼CTO:Gleb Yushin(ジョージア工科大学の教授)。2026年9月に Chris Dougher がCOOに昇進、Gwen Hsu がVP(製品)に就任 |
| 拠点 | アラメダ(カリフォルニア州)、モーゼスレイク(ワシントン州。160エーカーの敷地に600,000平方フィート超の建物。DOE資料では敷地162エーカー、建物613,000平方フィート) |
| 出資者 | 8VC、Atreides Management、Bessemer Venture Partners、Coatue、In-Q-Tel、Matrix Partners、Sutter Hill Ventures、T. Rowe Price が助言する資金・口座(2026年9月の同社の一覧)。2026年6月の一覧には Canada Pension Plan Investment Board も記載 |
| 特許 | 2026年6月に「250件超」、2026年9月に「約300件」の特許・出願(シリコン-炭素の負極技術、世界)と同社が説明。件数の基準日は書かれていない |
| 品質認証 | アラメダは2022年にISO 9001:2015、モーゼスレイクは2026年8月にISO 9001:2015を取得と同社が説明。自動車向けのIATF 16949は「取得に向けて取り組み中」(目標) |
「北米で唯一のGWh規模の先端電池技術会社」「世界最大のシリコン負極工場になる」といった表現は、同社自身の説明です。他社との順位や優劣は、本稿では判断しません。同社の公式資料は、中国が「負極材の加工の90%超、電池セル生産の80%超を握る」と述べていますが、出所が示されていない数字のため、本稿では採用しません。
5. 次世代蓄電にかけているリソース
非上場のため、金額の開示は限られます。人・金・外部・大学や公的資金の4点で、確認できたか/できなかったかを整理します。
| 項目 | 確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究開発拠点・人員) | 研究の源流はジョージア工科大学(CTOのYushin教授)。研究開発の人員数は非公表。2012年にエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の助成を受けたと同社が説明。ワシントン州ではBig Bend Community Collegeなどと人材育成の連携 | 事実/人員は確認できず |
| 金(研究開発費・設備投資・調達) | 研究開発費・設備投資の実績額は非公表。調達:2021年に約US$6億(同社の説明)、2024年にSeries GでUS$3.75億(同社の「About Us」の記載)、2026年7月にUS$3億(Atreides ManagementとSutter Hill Venturesが主導)。DOEのモーゼスレイク事業の想定総額はUS$6.11億(DOE負担US$1億、Sila負担US$5.11億。2024年の環境評価案)。OSCの条件つき融資は最大US$14億(2026年8月、最終契約ではない) | 事実/実績額は非公表/融資は未確定/将来 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | Silaによる他社への出資・買収・合弁・事業売却は確認できなかった。2022年にモーゼスレイクの建物・土地を取得(自社の拠点)。受け入れ側の出資者は上の一覧のとおり | 確認できず(自社の出資) |
| 大学・研究機関・公的資金との連携 | 大学:ジョージア工科大学(ITCの申立人に同大学の関連法人 Georgia Tech Research Corporation が含まれる)、クレムゾン大学(2026年9月の発表に記載)。公的資金:DOEの電池材料加工の助成(連邦負担US$1億、2022年10月の選定資料)。ARPA-E(2012年)。OSCの条件つき融資(2026年8月) | 事実 |
主要な製品・設備の状況
次の表は、会社・DOEの公式資料で確認できた範囲です。能力の単位が資料ごとに違い(GWh、トン/年)、換算の根拠は示されていないため、並べて比べません。
| 設備 | 場所 | 規模(公称・想定) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|
| アラメダの生産ライン | カリフォルニア州 | GWh・トンは非公表。Titan Siliconの生産で歩留まり95%超と同社が説明 | 稼働(2017年にパイロット生産。7年超の24時間稼働と説明) | 公式サイト、2026年8月のリリース |
| モーゼスレイク 第1期(Phase 1) | ワシントン州 | 2025年9月:初期は2〜5 GWh。2026年7月:初期2 GWh。DOEの環境評価案(2024年)の想定:最大300トン/年 | 稼働・増産中。2025年4月に試運転、同年9月に稼働開始、2026年8月に「商業生産に移る」と同社が説明 | 2025年4月・9月、2026年7月・8月のリリース、DOE資料 |
| モーゼスレイク 第2期(Phase 2)以降 | ワシントン州 | 同社:最大250 GWh(5年以内の目標)。DOEの環境評価案:最大2,300トン/年 | 計画(第2期の拡張を計画と同社が説明)。未確定/将来 | 2026年7月のリリース、DOE資料 |
| 特殊用途向けのシリコン電池セル工場 | 未定(場所の記載なし) | 規模は記載なし | 計画。条件つき融資の用途 | 2026年8月のリリース |
| シラン(原料ガス)の調達 | ― | REC Siliconが2031年まで供給(2024年の契約) | 契約は2024年9月。現在の供給元・数量は確認できなかった | REC Siliconの発表 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2011〜2014年 | 2011年にSila Nanotechnologiesとして法人化。2012年にARPA-Eの助成を受け、BMWと最初の共同開発契約。2014年にアラメダへ移転(同社の説明) | 研究から量産への移行の準備 |
| 2017年・2019年 | 2017年にアラメダでパイロット生産。2019年に重要特許を出願し、Mercedes-Benzと長期の提携(同社の説明) | 自動車向けの検討の開始 |
| 2021年 | 同社の次世代材料が WHOOP 4.0 で製品化(同社の説明)。約US$6億の調達と、北米150 GWhの工場の開発開始を同社が説明 | 最初の商品化。工場計画の規模はその後の発表より大きい |
| 2022年 | モーゼスレイクの建物・土地を取得(160エーカー、600,000平方フィート超)。DOEが連邦負担US$1億で選定(2022年10月の選定資料。想定の全量は2026年に20 GWh相当と記載) | 米国内の量産拠点の確保 |
| 2023年 | Titan Siliconのブランドを導入。12月12日にパナソニック エナジーが購入契約を発表 | 電池メーカーとの契約 |
| 2024年 | 2月にDOEの環境評価案(事業費US$6.11億)。Series GでUS$3.75億。9月19日にREC Siliconと2031年までのシラン供給契約 | 建設資金と原料の確保 |
| 2025年4月15日・9月23日 | 4月に第1期の試運転を開始。9月にモーゼスレイクの稼働を開始と発表(初期2〜5 GWh) | 量産設備の稼働 |
| 2026年6月18日 | ITCに特許侵害を申し立て(中国のCarbon One New Energy系3社が相手)。連邦地裁にも提訴 | 知財による事業の防衛 |
| 2026年7月21日 | US$3億の民間資金を発表。同日、ITCが調査(337-TA-1513)を開始 | 資金調達と、法的手続きの開始 |
| 2026年8月 | 7日にOSCから最大US$14億の条件つき融資の意向。20日にモーゼスレイクでISO 9001:2015を取得 | 増設資金の見込みと、品質システムの整備 |
| 2026年9月 | 4日に、米特許商標庁(USPTO)が中核特許US 10,374,221の再審査で請求項を変更なしと発表(再審査証明書は7月23日付)。17日にCOOとVP(製品)の人事 | 特許の防衛、経営体制の強化 |
7. 今後の計画
最大250 GWh(5年以内)同社の目標。第1期は初期2 GWh(2026年7月)。第2期の着工・資金の確定は確認できなかった
(条件つきの意向)財務・法務・技術などの条件を満たしたうえで最終契約を結ぶ必要があると同社が説明
(時期・場所なし)ドローンなど、厳しい性能要件の用途向けのシリコン電池セル。規模・時期は記載なし
取り組み中自動車向けの品質規格。取得時期の記載なし
同社は経営体制の強化の説明で「1日に数百トン規模を作る世界的な製造会社を目指す」と述べています(2026年9月) 未確定/将来。これは目標で、実績ではありません。
次はいずれも一次資料に記載がありません 未確定/将来。
売上・利益・従業員数・研究開発費/実際の出荷量、稼働率、歩留まり(モーゼスレイク)/顧客別の採用状況(Panasonic Energyの電池への採用の現況、Mercedes-Benz G-Classの搭載)/未公表の自動車顧客3社の名称(2024年の発表で「契約済み」と説明)/Titan Siliconのシリコン含有率・構造・容量(mAh/g)/各性能値の測定条件/OSC融資の最終契約の有無/ITC調査の結論(2026年10月時点で係属中と見られるが、本稿は確認していない)/モーゼスレイク第2期の着工時期。
8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| シリコン負極の基本特許と国内製造を組み合わせ、米国内で電池材料の供給網を作ることを事業の軸にしている | 公式サイト「Invent here. Build here.」、2026年の複数のリリースが「技術主権(technology sovereignty)」を強調。特許の防衛(USPTO再審査、ITC申し立て)と製造拡張(OSC融資、増資)が同じ時期に並ぶ | 事実(会社の説明)/位置づけは推測 |
| 主力顧客を、自動車から、ドローン・ロボット・データセンター・防衛へ広げている | 2022〜2024年の発表はMercedes-BenzとPanasonic Energy(自動車)を前面に出す。2026年の公式ページ・リリースは、ドローン、防衛、宇宙、データセンターを前面に出し、条件つき融資にも特殊用途向けのセル工場が含まれる | 推測 |
| セル製造の一部に踏み込むことで、自社の材料の性能を直接示そうとしている | OSC融資の用途に、特殊用途向けのセル工場の建設が含まれ、「Titan Siliconの限界を押し広げる取り組み」と説明 | 事実(会社の説明)/意図は推測 |
| 特許と技術ライセンスによる収益化も視野に入れている | ITC申し立ての発表で「ロイヤルティと供給の合意を組み合わせる」と説明し、セルメーカー・OEMとの評価・認定・ロイヤルティの枠組みに言及 | 事実(会社の説明)/推測 |
「自動車から用途を広げている」と読む根拠は、同社の発信の中心が、2024年と2026年で入れ替わっていることです。2024年9月のREC Siliconの発表は、自動車向けの納入(2025年第4四半期から)とMercedes-Benz G-Class、Panasonic Energyを軸にしていました。2026年7〜8月の発表では、ドローン、衛星、ロボット、AIデータセンター、防衛が先頭に並び、自動車はその中の一用途です。
ただし、自動車向けの出荷や採用が止まったとは、公式資料からは言えません。顧客別の売上や出荷量が非公表だからです。これは公式発表の内容から本稿が読み取った解釈です 未確定/将来。
9. 次世代蓄電分野の提携マッピング
同社の関係の特徴は、電池メーカー・自動車メーカーとの供給関係に加え、公的機関(DOE、OSC)と民間の出資者に大きく依存した資金構成であることです。事業会社との合弁・買収は確認できません。顧客のうち社名を公表しているのは Panasonic Energy、Mercedes-Benz、WHOOP などで、2024年に「契約済み」と説明した自動車顧客3社は公式資料では確認できません 未確定/将来。
10. 提供している技術・製品・サービス
以下は、同社の公式資料の記述です。数値はすべてメーカー公称で、測定条件・基準セルが資料に書かれていないものは、そのことを併記しています。他社の製品との優劣を示すものではなく、条件の異なる値は並べて比べられません。シリコン負極一般の考え方は、本シリーズの技術解説『シリコン負極とナノ構造電極』を参照してください 事実。
| 項目 | メーカー公称の値 | 基準・条件(資料の記載) |
|---|---|---|
| エネルギー密度の向上 | 黒鉛を置き換えると、「業界最高性能のセルに対し20%」(2026年の製品ページ)。同社の発表では時期により「最大20〜25%」(2025年4月)、「最大20%」(2025年9月)、「黒鉛より20〜40%高い」(2026年7月)と表現が異なる | 基準は「業界最高性能のセル」「従来の黒鉛」。どのセル・形状・レートかは記載なし。セルレベルかは記載なし |
| 急速充電 | 「10分未満の急速充電が可能」(製品ページ)。用途別ページには「10分または15分」「5分」などの表現 | 「エネルギーの低下はわずか」とされるが、温度・電流・SOC範囲の記載なし |
| サイクル寿命 | 「2,000サイクル超」(製品ページ。エネルギー密度の向上を損なわずに) | 放電深度・温度・容量維持率の定義の記載なし |
| 出力 | 「最大2倍の出力」(出力重視のセル設計で) | 基準の記載なし |
| 膨らみ(スウェリング) | セルレベルで「黒鉛と同程度」 | 測定方法・拘束圧の記載なし |
| 対応するセル形状 | パウチ・円筒・角形のどれにも使える。既存のリチウムイオン電池の組立工程に組み込める(同社の説明) | ― |
| 製造 | ラボの「1バッチ1グラム」から「1バッチ1トン」へ(2026年9月)。アラメダの生産で歩留まり95%超(2026年8月) | 歩留まりの定義・期間は記載なし |
用途別ページ(データセンター・ロボット、EV・電動モビリティなど)にも「バッテリーが最大20%小さい」「航続が最大20%延びる」「ミッション数が最大3倍」といった数値が並びます。いずれもメーカー公称で、比較の基準が記載されていません。同社は顧客の性能目標に合わせた配合の開発(レシピ開発)、セルの試作、社内試験を提供するとも説明しており、数値は顧客のセル設計で変わりうると読めます(推測)。
(1) 何でできているか:シリコンと炭素のナノ複合材、までが公式資料の限界。パナソニック エナジーの発表は、Titan Siliconを「ナノ複合のシリコン負極材」で、従来のシリコンより容量が高く、充電時の膨張を抑える、と説明します。Sila自身は、膨らみを抑える構造や、シリコンの含有率、粒子径、比表面積を公開していません。基礎となる膨張・SEI・プリリチウム化の考え方は、技術解説『シリコン負極とナノ構造電極』を参照してください。CTOのYushin教授らの研究(同解説の参考資料にある階層構造の論文)が起源と同社は説明しますが、Titan Siliconの構造がその設計と同じかは、公式資料から確認できません。
(2) 原料はシラン。REC Siliconの発表は、「Titan Siliconの生産に使う」高純度のシランを2031年まで供給すると説明します。DOEの環境評価案(2024年)は、モーゼスレイクで取り扱う物質としてシラン、炭化水素ガス、窒素、酸素などを挙げ、シランを含む排気を苛性ソーダで処理する洗浄装置(シランの除去効率99%以上と記載)を設ける、と書いています。同資料は「合成の全体の経路は独自だが、個々の工程は長年確立された産業の工程に近い」とも述べます。これらから、シランを使う気相の工程が中核にあると読めますが、炭素をどの工程で、どの原料で与えるかは書かれておらず、推測の範囲です。
(3) 量産の難しさは「同じ品質を、トン単位で、毎バッチ出す」こと。同社は、1バッチ1グラムから1バッチ1トンへ拡大したと説明し、モーゼスレイクのISO 9001取得で、レシピ管理、原料の入口から最終製品までのトレーサビリティ、反応装置の準備状況の管理を挙げています。シランを扱う設備は、安全と排気の管理の負担も大きいと考えられます(DOE資料にも、危険物の取り扱い計画の記載あり)。一方、歩留まりの数値(95%超)はアラメダの生産に対するもので、モーゼスレイクの実績は確認できません。
(4) 数値の読み方。「20%」「20〜25%」「20〜40%」は、基準セル、電極、レート、温度が書かれていないため、互いに同じ条件の値とは言えません。シリコン負極の実績は、技術解説で整理したように、含有率・電極の厚み・電解液・拘束圧で大きく変わります。他社の材料と並べた優劣の判断は、本稿では行いません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 財務の不透明さ | 売上・利益・負債・キャッシュの残高が公式資料にない。調達額は発表されているが、使途の内訳や累計の手元資金は確認できない。本稿は財務の健全性を評価できない | 確認できず |
| 量産の立ち上がり | モーゼスレイクは2025年9月に稼働開始、2026年7月も「増産中」、8月に「商業生産に移る」段階と同社が説明。初期能力は2025年に「2〜5 GWh」、2026年に「2 GWh」と、発表により表現が異なる。REC Siliconの発表(2024年9月)は「2025年第4四半期から自動車顧客へ納入」と説明していたが、実際の出荷は非公表のため、計画との差は判断できない | 事実(会社の説明)/確認できず |
| 資金・融資の条件 | OSCの融資は条件つきの意向で、財務・法務・技術などの条件を満たす必要がある。最終契約と実行の見込みは確認できない。DOEの助成は選定時の金額で、実際の交付額は確認できない | 未確定/将来 |
| 顧客・用途の不確実性 | 自動車向けの採用(Mercedes-Benz G-Class、Panasonic Energyの電池)の現況は確認できない。2026年は用途を広げているが、顧客名と数量は非公表。顧客が自社でシリコン負極を開発・調達する可能性は、同社の資料に書かれていない | 確認できず/推測 |
| 知的財産の係争 | 2026年7月にITCが調査(337-TA-1513)を開始。同社が特許侵害を主張する側で、相手側の主張や結論は本稿で確認していない。USPTOの再審査(6回目の防衛と同社が説明)が続くこと自体が、特許に挑戦が続く状況を示す。係争は長引きうる | 事実(手続きの開始)/結論は未確定/将来 |
| 原料シランの調達 | 2024年にREC Siliconと2031年までの供給契約。同社の現在の調達元・数量は確認できない(REC Siliconのモーゼスレイクの多結晶シリコン工場の休止は報道にあるが、本稿は一次資料で確認していない) | 確認できず |
| 政策への依存 | 資金の一部が米国政府(DOE、OSC)で、事業の説明も「技術主権」「国防権限法(NDAA)対応」に重心がある。政権・予算・調達規則が変わると影響を受けうる。本稿は個々の規則の段階(提案・採択・施行)を確認していない | 事実(会社の説明)/確認できず |
| 安全・環境 | シランなど危険物を扱う。DOE資料は、取り扱い計画と排気処理の設計を記載。本稿は個別の事故・安全性を評価しない | 事実 |
12. 用語集
- シリコン-炭素複合材(Si/C)
- 黒鉛の代わりに負極に使う、シリコンと炭素の複合材料。シリコンは容量が大きい一方、充放電で体積が大きく変わる。
- Titan Silicon
- Silaの負極材のブランド名(2023年に導入、登録商標の表示あり)。
- シラン
- ケイ素と水素の化合物(SiH4)。シリコンを作る原料ガス。取り扱いに安全管理が必要。
- GWh規模
- 電池の電気量を表す単位(ギガワット時)で、負極材の「何GWh分の電池をまかなえる量か」を表す言い方。負極材のトン数との換算は電池の設計で変わる。
- OSC(戦略資本局)
- 米国の Department of War(国防総省。同社の表記)の組織で、重要技術の企業への融資などを担う。
- ITC・337条調査
- 米国国際貿易委員会が、特許などを侵害する輸入品を調べる手続き。調査の開始は、違反の認定ではない。
- 再審査(ex parte re-examination)
- 米国特許商標庁が、特許の有効性を見直す手続き。
- ISO 9001・IATF 16949
- 品質管理システムの国際規格。後者は自動車産業向けの追加要求。
- NDAA対応
- 米国の国防権限法に基づく調達規則に適合した供給網。同社は、顧客の一部が求めると説明する。
- メーカー公称
- メーカー自身が示す説明や性能値。測定条件と版が一緒でないと、他の製品と比べられない。

13. 出典
- Sila 公式サイト「About Us」。沿革(2011年〜2025年)、創業者、会社の説明。 https://www.silanano.com/about-us
- Sila 公式サイト(トップページ。ロゴ画像の取得元。2026年8月〜9月の報道一覧)。 https://www.silanano.com/
- Sila 公式サイト「Titan Silicon Anode」。製品の特徴(メーカー公称)、特許数、対応するセル形状。 https://www.silanano.com/our-solutions/titan-silicon-anode
- Sila 公式サイト「Sila Moses Lake」。ワシントン州モーゼスレイク工場の経緯(2022〜2025年)と地域連携。 https://www.silanano.com/moseslake
- Sila 公式サイト「Press」。会社概要(2011年設立)と出資者の一覧、報道・プレスリリースの一覧。 https://www.silanano.com/press
- Sila Sila Receives Conditional $1.4 Billion Loan Commitment from U.S. Department of War to Accelerate Domestic Battery Technology Manufacturing(2026年8月7日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-receives-conditional-1-4-billion-loan-commitment-from-u-s-department-of-war-to-accelerate-domestic-battery-technology-manufacturing
- Sila Sila Secures $300 Million in Private Funding to Ramp Gigascale Anode Manufacturing and Strengthen America's Technology Sovereignty(2026年7月21日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-secures-300-million-in-private-funding-to-ramp-gigascale-anode-manufacturing-and-strengthen-americas-technology-sovereignty
- Sila Sila Gears Up for Gigascale Production in U.S. with Key Executive Appointments(2026年9月17日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-gears-up-for-gigascale-production-in-u-s-with-key-executive-appointments
- Sila USPTO Affirms Sila’s Ownership of Core IP for Silicon-Carbon Anode Technology (Si/C)(2026年9月4日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/uspto-affirms-silas-ownership-of-core-ip-for-silicon-carbon-anode-technology-si-c
- Sila Sila Earns ISO 9001:2015 Certification, Validating World-Class Quality Systems for Domestic Silicon Battery Technology Manufacturing at Scale(2026年8月20日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-earns-iso-90012015-certification-validating-world-class-quality-systems-for-domestic-silicon-battery-technology-manufacturing-at-scale
- Sila Sila Files U.S. ITC & District Court Actions to Protect American Battery Innovation(2026年6月18日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-files-u-s-itc-district-court-actions-to-protect-american-battery-innovation
- Sila Sila Opens Nation’s First Automotive-Scale Silicon Anode Plant, Ushering in a New Era for U.S. Battery Manufacturing(2025年9月23日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-opens-nations-first-automotive-scale-silicon-anode-plant-ushering-in-a-new-era-for-u-s-battery-manufacturing
- Sila Sila Begins the Commissioning of its Moses Lake Plant, a Major Milestone on the Path to Becoming Fully Operational in 2025(2025年4月15日のプレスリリース)。 https://www.silanano.com/press/press-releases/sila-begins-the-commissioning-of-its-moses-lake-plant-a-major-milestone-on-the-path-to-becoming-fully-operational-in-2025
- U.S. International Trade Commission/Federal Register Certain Anode Materials for Use in Battery Cells and Batteries; Notice of Institution of Investigation(調査番号 337-TA-1513、2026年7月21日付、官報 FR Doc. 2026-14970、2026年7月24日掲載予定の公開前版)。 https://public-inspection.federalregister.gov/2026-14970.pdf
- U.S. Department of Energy Bipartisan Infrastructure Law Battery Materials Processing and Battery Manufacturing Selectee Fact Sheets(DE-FOA-0002678、2022年10月)。Sila の Auto Scale Silicon Anode Plant の項。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2022-10/DOE%20BIL%20Battery%20FOA-2678%20Selectee%20Fact%20Sheets%20-%201_2.pdf
- U.S. Department of Energy(NETL) Draft Environmental Assessment, DOE/EA-2214: Sila Nanotechnologies Moses Lake Auto-Scale Silicon Anode Plant(2024年2月)。事業費、フェーズ別の能力、取り扱う物質。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2024-02/draft-ea-2214-sila-nanotechnologiesmoses-lake-auto-scale-silicon-anode-plant-2024-02.pdf
- U.S. Department of Energy DOE/EA-2214: Sila Nanotechnologies – Moses Lake Auto-Scale Silicon Anode Plant(DOEの環境評価のページ。最終版の環境評価と「重大な影響なし」の認定が掲載されている)。 https://www.energy.gov/nepa/doeea-2214-sila-nanotechnologies-moses-lake-auto-scale-silicon-anode-plant-moses-lake-wa
- Panasonic Energy Panasonic Energy Partners with Sila for Procurement of Next-Generation Silicon Anode Material for EV Batteries(2023年12月12日のプレスリリース)。 https://news.panasonic.com/uploads/tmg_block_page_image/file/20900/en231212-3-1.pdf
- REC Silicon REC Silicon and Sila Sign Long-Term Silane Supply Agreement(2024年9月19日の発表。配信サイトのInderesに掲載された全文)。 https://www.inderes.fi/en/releases/rec-silicon-and-sila-sign-long-term-silane-supply-agreement
- Sila 公式サイト「Data Centers & Robotics」。用途別の特徴(メーカー公称)。 https://www.silanano.com/applications/data-centers-and-robotics
- Sila 公式サイト「EVs & E-Mobility」。用途別の特徴(メーカー公称)。 https://www.silanano.com/applications/automotive
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の内容は、Silaの公式サイト・プレスリリース、DOEの公開資料、官報、パナソニック エナジーとREC Siliconの発表に基づきます。調査会社の市場推計や報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。製品の性能値は同社の公称で、測定条件が異なる他の値とは比較できません。会社の計画・目標は未確定で、実現を保証するものではありません。係争・融資は手続きの段階を述べたもので、結果を予測しません。本稿は、電池の取扱い・安全、投資・調達の判断について、読者個人に助言するものではありません。