COMPANY PROFILE / 次世代蓄電
グループ14テクノロジーズ
― シリコン-炭素の負極材「SCC55」を、米国と韓国の工場で量産する非上場の素材会社。焦点は、韓国工場の立ち上げと、米国モーゼスレイク工場・シラン自社製造の完成時期
Group14 Technologies(グループ14)は、リチウムイオン電池の負極材(シリコン-炭素複合材)を作って、電池メーカーに売る素材会社です。製品名はSCC55。本社は米国ワシントン州ウッディンビルで、非上場です。売上・利益・従業員数は公式資料で確認できませんでした。株式による調達額は累計US$10億超と同社が説明しています。
同社は工場を「BAM(Battery Active Materials)」と呼び、BAM-1(ワシントン州ウッディンビル。現在は研究開発・パイロット)、BAM-2(同州モーゼスレイク。2027年に本格生産と同社が説明)、BAM-3(韓国・尚州。2026年3月に「EV規模の生産を開始」と発表)を持ちます。2025年8月に、SK Inc.との合弁だった韓国工場の残り75%を取得して100%子会社とし、同時にUS$4.63億(Series D)を調達しました。原料のシランは、ドイツの工場(2023年に買収したSchmid Silicon)と、米国DOEが最大US$2億の交渉対象に選んだ米国のシラン工場計画で、自社調達を目指しています。
本稿は、同社の公式サイトとプレスリリース、米国エネルギー省(DOE)の公開資料を一次情報とし、何を確認でき、何を確認できなかったかを整理します。性能の数値はすべてメーカー公称です。
- 30秒でわかるGroup14 Technologiesと、次世代蓄電での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 次世代蓄電にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
- 次世代蓄電分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集
- 出典
- 主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるグループ14テクノロジーズと、次世代蓄電での立ち位置
ウッディンビル8502 Maltby Rd., Woodinville, WA 98072(公式サイトの記載)。韓国法人 Group14 Korea がある
SCC55多孔質の炭素骨格の内部にシリコンと空隙を作った複合材(会社・DOE資料の説明)。「55」は55番目の配合改良の番号と同社が説明
韓国:尚州韓国のBAM-3は設計能力 年2,000トン(約10 GWhと会社が換算)。モーゼスレイクのBAM-2の本格生産は2027年と同社が説明
Group14の強みは、シリコン負極材を「EV規模」で出荷する体制を、米国・韓国・ドイツ(シラン)の複数拠点で作ろうとしていることです。韓国工場の100%取得(2025年8月)、DOEの助成選定(2022年・2024年)、Schmid Siliconの買収(2023年)など、公式資料で確認できる事実があります 事実。
ただし、実際の出荷量、売上、顧客別の採用状況は確認できません。BAM-2の稼働時期は、同社の説明が「2024年」(2023年)、「2024年第4四半期に最初の2,000トン」(2024年9月)、「2027年に本格生産」(2026年)と変わっています。「顧客160社超」「US$10億超の調達」「1,500〜3,000サイクル」などは会社の説明で、測定条件・定義は公開されていません 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の公式サイト(group14.technology)のフッターに掲載されている文字ロゴ(白い「GROUP14」。「14」は白地の枠に抜き文字)を、そのまま取得して設置しています。白い文字のため、暗い背景の上に置いています。生成画像による再現は行っていません。
表記の注意:社名は Group14 Technologies(Groupと14の間に空白なし)です。製品名の SCC55(登録商標の表示あり)は負極材の名称で、会社名とは別です。「Scaffold Prime」は、SCC55を作る同社の製造方式の名称です。
公式サイト:https://group14.technology/3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
Group14の主たる類型はセル・材料メーカー(負極材)で、従たる類型はありません。電池セルは作らず、顧客の電池メーカーに材料を売る事業です。公式資料で確認できた事業を整理します。
| 事業・用途 | Group14での位置づけ | 確認できた一次情報 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 負極材 SCC55(シリコン-炭素) | 中心の製品。黒鉛を置き換える、または混ぜて使えると説明。パウチ・円筒・角形、LFP・LMFP・高ニッケルのどれにも使えると説明(メーカー公称) | 公式サイト、プレスリリース(2025年6月、2026年3月) | 事実(会社の説明) |
| 民生(スマートフォンなど) | HONOR Magic7 Pro(2024年10月に中国で発売)の第3世代シリコン電池に使用と発表。ATLの電池にも使われていると説明 | プレスリリース(2024年11月、2025年8月) | 事実(会社の説明) |
| EV・電動モビリティ | 採用プログラムの相手として Molicel、Sionic Energy、InoBat、V4Smart、ATLを挙げる(2026年3月)。自動車メーカーの採用車種は確認できなかった | プレスリリース(2026年3月) | 事実/車種は確認できず |
| データセンター・ドローン・航空(eVTOL)・防衛 | 用途として列挙。2026年5月にForge Nano(米国のセル製造)と協業を発表(防衛・航空・蓄電向け) | 公式サイト、プレスリリース(2026年5月) | 事実(会社の説明)/協業の成果は確認できず |
| シランの製造 | 原料シランをドイツで製造する工場(Spreetal)を2023年に取得。米国モーゼスレイクに年7,200トンの工場を計画(DOEが最大US$2億の交渉対象に選定) | プレスリリース(2023年7月・11月、2024年9月) | 事実/稼働は未確定/将来 |
| 電池セルの製造・電池の蓄電システム | 自社では行わない(公式資料に事業としての記載なし) | ― | 対象外 |
4. 会社の規模
Group14は非公開企業で、財務諸表は公開されていません。公式資料から確認できる規模を示します 事実。
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 売上・利益・負債 | 非公表。公式サイト・プレスリリース・DOE資料のいずれにも記載がない。「US$10億超の株式調達」「顧客160社超」などは、会社の説明 |
| 従業員 | 非公表(全社)。DOEの環境評価案(2024年)は、モーゼスレイクで常勤254人、建設時に約270人を想定。同社の2023年の発表は、BAM-2の建設に400人超、運転に200人を想定。ドイツで65人の採用を予定(2023年11月) |
| 本社・経営陣 | ワシントン州ウッディンビル。共同創業者兼CEO:Rick Luebbe(EnerG2の共同創業者で、同社は2016年にBASFが買収)。共同創業者兼CTO:Rick Costantino(元EnerG2のVP)。CFO:Mike Willis。韓国法人CEO:Kiseon Park |
| 設立 | 公式サイトの年表は「2015〜2019年」の区分に創業・Series A・Series Bを載せる。設立年の単独の記載は確認できなかった |
| 調達 | Series A:US$1,800万(ATL主導)、Series B:US$1,700万(SK materials主導)、Series C:US$6.14億(2022年。Porsche AG主導のUS$4億+追加US$2.14億)、Series D:US$4.63億(2025年8月、SK Inc.主導)。累計でUS$10億超 |
| 拠点 | 米国:ウッディンビル(BAM-1)、モーゼスレイク(BAM-2)。韓国:尚州(BAM-3)。ドイツ:Spreetal(シラン工場) |
| 特許 | 「200件超の登録特許」(公式サイトの特許ページ)。2026年3月のプレスリリースは「170件超の登録特許案件」。同社の2つの表現の差の理由は確認できなかった |
| 顧客 | 「世界の充電式電池生産の95%に相当する顧客に供給」(BAM-3ページ)、「顧客160社超」(2026年3月)。2024年の説明は「100社超」。「顧客」の定義(出荷の量・量産か試作か)は書かれていない |
「世界のシリコン電池材料で唯一、EV規模で量産している」「No.1の電池材料会社」といった表現は、同社自身の説明です。他社との順位や優劣は、本稿では判断しません。2026年3月の発表は、中国が「黒鉛系負極の90%超を生産」と述べますが、出所が米国地質調査所(USGS)の位置づけとの組み合わせで示されており、数値の根拠は確認していないため、本稿では採用しません。
5. 次世代蓄電にかけているリソース
非上場のため、金額の開示は限られます。人・金・外部・大学や公的資金の4点で、確認できたか/できなかったかを整理します。
| 項目 | 確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究開発拠点・人員) | 研究開発の拠点はBAM-1(ウッディンビル)で、材料の合成からセル評価、パイロット製造までを持つと説明(コイン形からパウチ形まで)。研究開発人員の人数は非公表。経営陣にEnerG2(2016年にBASFが買収)の出身者 | 事実/人員は確認できず |
| 金(研究開発費・設備投資・調達) | 研究開発費・設備投資の実績額は非公表。調達:累計US$10億超(Series D:US$4.63億、2025年8月)。BAM-2の想定総事業費は US$5.907億(DOE US$1億、Group14 US$4.907億。2024年の環境評価案)。DOEの選定資料(2022年)では、連邦負担US$1億、受給者負担US$2.229億 | 事実/実績額は非公表 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | 買収:Schmid Silicon Technology Holding(ドイツのシラン製造会社、2023年7月)。合弁・取得:SK Inc.との合弁(SK Materials Group14、2021年7月設立)の残り75%を取得し100%に(2025年8月)。事業売却は確認できなかった。他社への出資は確認できなかった | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金との連携 | 公的資金:DOEの電池材料加工の助成(連邦負担US$1億、2022年10月選定。2024年の環境評価案でも提案行為として記載)、シラン工場向けの最大US$2億(2024年9月、交渉対象に選定)。大学・研究機関との共同研究は、公式資料で確認できなかった。企業との共同開発:BASF(バインダー)、Forge Nano(コーティング) | 事実/大学連携は確認できず/最大US$2億は未確定/将来 |
主要な製品・設備の状況
次の表は、会社・DOEの公式資料で確認できた範囲です。年間能力は設計・公称の値で、実際の出荷量や稼働率は公開されていません。同社は「2,000トン=約10 GWh」と換算して発表しますが、換算の前提は示されていません(下のコラム参照)。
| 設備 | 場所 | 規模(公称・設計) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|
| BAM-1 | ワシントン州ウッディンビル | 公称 年120トン(2022年12月の説明)。現在は研究開発拠点とパイロットラインと説明 | 稼働(2021年4月に商業工場として立ち上げ) | プレスリリース(2022年12月)、公式サイト |
| BAM-2 | ワシントン州モーゼスレイク | 1モジュール年2,000トン(約10 GWh)。最大6モジュール(DOE環境評価案では12,000トン/年)。2024年9月の説明では「当初4,000トン/20 GWh」 | 建設(完成間近と説明)。本格生産は2027年と同社が説明。未確定/将来 | 公式サイト、2026年3月のリリース、DOE資料 |
| BAM-3(SK Materials Group14) | 韓国・尚州 | 設計能力 年2,000トン(約10 GWh) | 稼働・立ち上げ中。2024年9月に出荷開始と説明、2026年3月に「EV規模の生産を開始」と発表 | 2025年8月・2026年3月のリリース、公式サイト |
| シラン工場(ドイツ) | Spreetal(Schwarze Pumpe) | 規模は確認できなかった | 2016年から停止していた工場を2023年に取得、再稼働の準備を開始。再稼働の完了は確認できなかった | プレスリリース(2023年7月・11月)、公式サイト |
| シラン工場(米国) | ワシントン州モーゼスレイク | 年7,200トン(計画)。建設で300人超、運転で150人(想定) | 計画。DOEが最大US$2億の交渉対象に選定(2024年9月)。最終的な交付・着工は確認できなかった | プレスリリース(2024年9月) |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2015〜2019年 | 創業。Series A(US$1,800万、ATL主導。BASF Venture Capital、Cabot、昭和電工〔現Resonac〕ほか)、Series B(US$1,700万、SK materials主導)。パイロット工場を立ち上げ(同社の年表) | 電池材料の大手との関係を最初から構築 |
| 2021年 | 4月にBAM-1を商業工場として立ち上げ(年120トン)。7月にSK Inc.との韓国の合弁を設立(SK Materials Group14) | 商業生産の開始と、アジアでの生産拠点 |
| 2022年 | 5月にSeries C(US$4億、Porsche AG主導)。10月にDOEが連邦負担US$1億で選定。12月に追加US$2.14億で合計US$6.14億(Microsoft Climate Innovation Fundなど) | 2つ目の米国工場の資金 |
| 2023年 | 4月にBAM-2の建設を開始(2024年に生産開始予定と説明)。7月にSchmid Siliconを買収。11月にドイツのシラン工場の再稼働準備 | 原料シランの確保と欧州拠点 |
| 2024年 | 9月に韓国のBAM-3から出荷開始と説明。9月20日にDOEがシラン工場の最大US$2億を交渉対象に選定。11月にHONOR Magic7 Proへの採用を発表。12月にSionic Energyの全シリコン電池 | 採用の拡大と、シランの米国内製造 |
| 2025年 | 5月にBASFと、シリコン負極用のバインダーの組み合わせを発表。6月に「1,500サイクル超」を発表。8月20日にSeries D(US$4.63億)を調達し、韓国工場を100%子会社化 | 資金と、アジア拠点の完全支配 |
| 2026年3〜5月 | 3月12日に韓国工場でEV規模の生産を開始と発表。3月26日に特許170件超。5月28日にForge Nanoと協業 | 量産の立ち上がりと、知財・米国供給網の強化 |
| 2026年7月16日 | ITCに公益に関する意見書を出したと公式ブログで説明(「Investigation No. 3916」。内容は、米国のシリコン-炭素の技術を守ることが公益にかなうという主張) | 知財をめぐる米国の手続きへの関与 |
7. 今後の計画
(会社の説明)建設は完成間近、試運転を進めると説明(2026年)。2023年・2024年の説明は「2024年」だった
(BAM-2、年12,000トン)DOE環境評価案の想定。2027年時点の稼働モジュール数は確認できなかった
(DOEの交渉対象)最大US$2億の交渉対象に選定(2024年9月)。最終的な交付・着工は確認できなかった
(時期の記載なし)2016年から停止していた工場。2023年11月に再稼働の準備開始と説明。稼働の完了は確認できなかった
同社は、シリコンが「主流」になり、複数の地域(北米・欧州・アジア)で現地生産を求める顧客に応えるため、モジュール式の工場を各地へ広げると説明しています 未確定/将来。
次はいずれも一次資料に記載がありません 未確定/将来。
売上・利益・従業員数・研究開発費/実際の出荷量、稼働率、歩留まり(BAM-3、BAM-1)/BAM-2の稼働の確認(2027年の本格生産の実現)/DOEの最大US$2億の最終的な交付/ドイツのシラン工場の稼働/顧客別の採用状況(EVでの採用車種)/SCC55のシリコン含有率・容量・初回効率(公式ページ・DOE資料にはない)/各性能値の測定条件(BASFとの試験を除く)/設立年。
8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| シリコン負極材を「どの地域の電池工場にも近くで供給できる」複数拠点の会社にすることを目指している | 米国(BAM-1・2)、韓国(BAM-3、合弁を100%子会社化)、ドイツ(シラン)の拠点づくり。「モジュール式で、世界のどこにも工場を増やせる」と説明 | 事実(会社の説明)/位置づけは推測 |
| 原料のシランを自社で押さえることで、供給のボトルネックを避けようとしている | Schmid Siliconの買収、ドイツ工場の再稼働準備、米国のシラン工場計画(DOEの交渉対象)。DOE環境評価案は、米国のケイ素含有ガスの供給者が1社のみと記述 | 事実/意図は推測 |
| 特許を事業の防衛線にしている | 特許件数の発表(2026年3月)、特許ページ、ITCへの意見書(2026年7月)。2026年のリリースが「知財をめぐる執行(enforce)」に言及 | 事実(会社の説明)/推測 |
| 自動車だけでなく、スマートフォン・データセンター・航空・防衛へ用途を広げている | HONOR(スマートフォン)、データセンター・eVTOL・ドローンの記載、Forge Nanoとの防衛・航空向けの協業 | 事実(会社の説明)/推測 |
「複数地域の拠点づくりが事業の軸」と読む根拠は、公式資料の説明がほぼ一貫して、各地域の供給網(北米の自給、アジアでの近接、欧州のシラン)を理由に拠点を位置づけていることです。BAM-2のページは「黒鉛の90%超をアジアが握る」ことを背景に米国の供給網の確保を、BAM-3のページは世界最大の電池メーカーとの近さを、シラン工場のページは欧州のエネルギー安全保障を挙げます。
ただし、これらの拠点が実際にどの顧客の量産に使われているかは、顧客別の出荷量が非公表のため確認できません。これは公式発表の内容から本稿が読み取った解釈です 未確定/将来。
9. 次世代蓄電分野の提携マッピング
同社の関係の特徴は、電池材料・電池の大手(ATL、SK、Molicel、BASF)が出資者と顧客を兼ねていることです。自動車メーカーとの直接の契約は、公式資料では確認できません。2024年の説明は「EVと民生の主要セルメーカー8社と、合計US$7.5億超の契約」と述べますが、社名・契約の条件は非公表です 未確定/将来。
10. 提供している技術・製品・サービス
以下は、同社の公式資料とDOEの資料の記述です。数値はすべてメーカー公称で、測定条件が資料に書かれていないものは、そのことを併記しています。他社の製品との優劣を示すものではなく、条件の異なる値は並べて比べられません。シリコン負極一般の考え方は、本シリーズの技術解説『シリコン負極とナノ構造電極』(第9章に同社への言及)を参照してください 事実。
| 項目 | メーカー公称の値 | 基準・条件(資料の記載) |
|---|---|---|
| エネルギー密度 | 「従来のリチウムイオン電池より最大50%」(技術ページ)。顧客のセルで「43%の向上」(2026年3月) | 比較対象は「従来のリチウムイオン電池」。どのセル・形状かは記載なし。43%は顧客の設計での値で、条件は記載なし |
| 急速充電 | 「10分未満」(技術ページ)。「0〜100%を90秒」(顧客のセルでの報告、2026年3月) | 90秒は顧客(MolicelなどのセルとSionic Energy)の設計での値で、セルの容量・温度・電流の記載なし |
| サイクル寿命 | 「1,500〜3,000サイクル(容量80%維持)」(2026年3月)。「20社超の顧客データで1,500超」(2025年6月) | 用途・放電深度・温度は記載なし。「顧客のデータ」で、Group14の試験ではない |
| BASFとの試験 | 室温でテストセルは通常1,000サイクル超(容量80%維持)、45℃で500サイクル超、黒鉛負極の約4倍の容量 | BASFのバインダー(Licity 2698 X F)との組み合わせ。セル仕様・電流は記載なし |
| Sionic Energyの全シリコンセル | 少なくとも330 Wh/kg、842 Wh/Lの設計目標。4〜10 Ahのセルで最大1,200サイクル(2024年12月) | 「設計の目標」とサイクルの実績が一文にある。セルの条件は記載なし。20 Ahのセルは2025年に出荷予定と説明(実績は確認できなかった) |
| 黒鉛との比較 | 「黒鉛の約5倍の容量」「SCC55 1トンで黒鉛約5トンを置き換えられる」 | 材料の容量の比較。電池全体の質量・体積の比較ではない |
同社は「SCC55 1トン=約10 GWh(2,000トン)」と換算して能力を発表します。本稿の計算:10 GWh ÷ 2,000トン = 材料1 kgあたり約5 kWhのセル電力量に相当します 本稿の計算。これは同社の換算から逆算した値で、材料の実測値ではなく、セルの設計(黒鉛との混合比、電圧、容量の使い方)で変わります。
(1) 構造:多孔質の炭素骨格+内部のシリコンと空隙。DOEの選定資料(2022年)は、SCC55を「多孔質の炭素骨格の中に、非晶質でナノサイズのシリコンがある複合材」と説明します。公式サイトは、Scaffold Prime(2段階の製造方式)で、まず炭素の骨格を合成し、次にその内部にシリコンと、調整した内部の空隙を作る、と述べます。空隙は、シリコンが膨らむ分を吸収する場所と読めます(推測。同社は空隙の量や孔径を公開していません)。膨張・SEIの考え方は、技術解説『シリコン負極とナノ構造電極』の「空隙つき炭素被覆」の項を参照してください。
(2) 製造:骨格の合成、粉砕、シランとの反応の3工程。DOEの環境評価案(2024年)は、(a) 乾燥した化学原料から炭素の骨格を合成、(b) 目標の粒度分布へ粉砕、(c) 反応器でシランガスと化合させてシリコン-炭素複合材にする、と記述します。シランはシリコンの原料ガスで、骨格の細孔に気相でシリコンを入れる工程と読めます(推測)。粉砕と粒度は、電極にしたときの塗工性・密度に効くと考えられますが、公開された粒子径の数値はありません。
(3) 「55」の意味。SCC55の「55」は、含有率ではなく、55番目の配合改良の番号と同社は説明します。製品名の数字から、シリコンの割合を読み取ってはいけません。含有率、初回効率(ICE)、容量(mAh/g)は、公式ページ・DOE資料のいずれにもありません。
(4) 量産のカギは原料とモジュール化。DOE環境評価案は、BAM-2の運転で炭素・ケイ素含有ガスを年約15,000トン、粒状原料を年約50,000トン使う想定(12,000トン/年の能力の場合)と述べ、米国のケイ素含有ガスの供給者は1社のみとしています。原料の確保がシランの自社製造に結びつく背景です。また、同社はモジュール(1つで年2,000トン)を並べて能力を増やす方式を採り、同じ設計を複数地域へ複製できると説明しています。
(5) 数値の読み方。「43%」「50%」「90秒」「1,500〜3,000サイクル」は、すべてメーカー公称または顧客の報告で、基準セル、電極、レート、温度がそろっていません。BASFとの試験のように条件が書かれた一部を除き、他社の材料や他の条件の値と並べた優劣の判断はできません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 財務の不透明さ | 売上・利益・負債・現金が公式資料にない。調達額(累計US$10億超)は発表されているが、工場の建設費や運転資金の状況は確認できない。本稿は財務の健全性を評価できない | 確認できず |
| 工場の稼働時期の変遷 | BAM-2は、2023年4月の発表では「2024年に商業生産を開始」、2024年9月の発表では「最初の2,000トンは2024年第4四半期に生産開始」、2026年の公式サイトでは「2027年に本格生産」と説明が変わっている。遅れの理由は公式資料に書かれていない。韓国工場も、2024年9月に出荷開始、2026年3月に「EV規模の生産を開始」と表現が段階的 | 事実(会社の説明)/未確定/将来 |
| 公的支援の条件 | DOEの最大US$2億は「交渉対象に選定」の段階。最終的な交付は確認できない。DOEの連邦負担US$1億は選定時の金額で、実際の交付額は確認できない | 確認できず |
| 顧客・採用の実態 | 「顧客160社超」は、試作・小口と量産を区別していない可能性がある(定義は非公表)。EVでの採用車種、各社の量は確認できない。顧客が自社で材料を調達・開発する可能性は、同社の資料に書かれていない | 確認できず/推測 |
| 性能の主張の裏付け | 「90秒で0〜100%」「43%」などは顧客の設計での報告で、測定条件が公開されていない。他社の材料との優劣は本稿では判断しない | 事実(会社の説明) |
| 知的財産 | 同社は特許の防衛と執行を強調する一方、他社の類似材料の動きに言及している。特許件数の表現が資料により違う(200件超/170件超)。知財をめぐる手続きの結果は確認できない | 事実/未確定/将来 |
| 原料シランの調達 | ドイツ工場の再稼働は、2023年11月に準備開始と発表後、完了を確認できない。米国のシラン工場は計画段階。米国内のケイ素含有ガスの供給者が1社のみ(DOE資料)で、当面の調達の安定性は確認できない | 確認できず |
| 地域・パートナーへの依存 | 主力の量産拠点が韓国のBAM-3で、2025年に合弁の相手(SK Inc.)の持分を取得した。SK Inc.は出資者としての関係が続く。為替・関税・輸出管理の影響は、同社の資料に具体的な記述が確認できなかった | 事実/確認できず |
| 安全・環境 | シランなど危険物を扱う。DOE環境評価案は取り扱い計画を記載。本稿は個別の事故・安全性を評価しない | 事実 |
12. 用語集
- SCC55
- Group14のシリコン-炭素複合の負極材。「55」は55番目の配合改良の番号と同社が説明。
- BAM(Battery Active Materials)
- 同社が自社の工場を呼ぶ名称。BAM-1、BAM-2、BAM-3がある。
- Scaffold Prime
- SCC55を作る同社の製造方式の名称。炭素の骨格を合成し、その内部にシリコンと空隙を作る。
- 多孔質炭素の骨格(スキャフォールド)
- 無数の細孔を持つ炭素の骨組み。細孔の中にシリコンを入れ、膨らむ分の空きを残す。
- シラン
- ケイ素と水素の化合物(SiH4)。シリコンを作る原料ガス。取り扱いに安全管理が必要。
- モジュール
- 同社が工場を構成する単位。1モジュールで年2,000トン(約10 GWh)と説明。
- GWh換算
- 負極材の量を、まかなえる電池の電気量で表す言い方。換算は電池の設計で変わる。
- LFP・LMFP・高ニッケル
- 正極の種類。LMFPはリン酸鉄にマンガンを加えたもの。SCC55はこれらのセルに使えると同社は説明。
- 交渉対象に選定(award negotiation)
- 米国DOEが助成の最終契約の前に出す選定。交付の確定ではない。
- ITC
- 米国国際貿易委員会。特許侵害の輸入品などを調べる。
- メーカー公称
- メーカー自身が示す説明や性能値。測定条件と版が一緒でないと、他の製品と比べられない。

13. 出典
- Group14 Technologies 公式サイト(トップページ。ロゴ画像の取得元、実績の説明)。 https://group14.technology/
- Group14 Technologies 公式サイト「Manufacturing」。BAM工場の全体像と米国・韓国・ドイツの拠点。 https://group14.technology/manufacturing/
- Group14 Technologies 公式サイト「BAM-1」。ワシントン州ウッディンビルの研究開発拠点・パイロットライン。 https://group14.technology/manufacturing/bam-1/
- Group14 Technologies 公式サイト「BAM-2」。ワシントン州モーゼスレイクの工場(2027年に本格生産と説明)。 https://group14.technology/manufacturing/bam-2/
- Group14 Technologies 公式サイト「BAM-3」。韓国・尚州(サンジュ)の工場と、SK Inc. との合弁の経緯。 https://group14.technology/manufacturing/bam-3/
- Group14 Technologies 公式サイト「Silane Factory」。ドイツのシラン工場。 https://group14.technology/manufacturing/silane-factory/
- Group14 Technologies 公式サイト「Our Technology」。SCC55の特徴(メーカー公称)、Scaffold Prime、名称の由来。 https://group14.technology/our-technology/
- Group14 Technologies 公式サイト「About Us」。沿革(2015〜2025年)と経営陣。 https://group14.technology/about-us/
- Group14 Technologies 公式サイト「Patent Strategy」。特許の方針と件数(200件超と説明)。 https://group14.technology/patent-strategy/
- Group14 Technologies Group14 Closes US$463M Series D Funding Round and Acquires 100% Ownership of BAM Factory in South Korea from SK, Inc.(2025年8月20日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-closes-us463m-series-d-funding-round-and-acquires-100-ownership-of-bam-factory-in-south-korea-from-sk-inc/
- Group14 Technologies Group14 Accelerates EV-Scale Production of Breakthrough Silicon Battery Material in South Korea(2026年3月12日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-accelerates-ev-scale-production-of-breakthrough-silicon-battery-material-in-south-korea/
- Group14 Technologies Group14 Surpasses 170 Issued Patents, Reinforcing Global Protection of SCC55 Silicon Battery Material(2026年3月26日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-surpasses-170-issued-patents-reinforcing-global-protection-of-scc55-silicon-battery-material/
- Group14 Technologies Forge Nano and Group14 Advance U.S.-Made High-Performance Battery Cells with U.S. Material Supply Chain(2026年5月28日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/forge-nano-and-group14-advance-u-s-made-high-performance-battery-cells-with-u-s-material-supply-chain/
- Group14 Technologies SCC55 Resets Benchmark for Silicon Battery Performance(2025年6月25日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/scc55-resets-benchmark-for-silicon-battery-performance/
- Group14 Technologies Group14 and BASF collaborate on market-ready silicon anode solution(2025年5月13日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-and-basf-collaborate-on-market-ready-silicon-anode-solution/
- Group14 Technologies Sionic Energy uses SCC55 to fully displace graphite for 100% silicon battery(2024年12月10日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/sionic-energy-uses-scc55-for-100-silicon-battery/
- Group14 Technologies Group14’s SCC55 Powers Groundbreaking AI-Powered HONOR Magic7 Pro Smartphone(2024年11月21日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14s-scc55-powers-honor-magic7-pro-smartphone/
- Group14 Technologies U.S. DOE Selects Group14 for Up to $200M Award to Build 7,200 mt Silane Plant(2024年9月20日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/us-doe-selects-group14-for-up-to-200m-award/
- Group14 Technologies Group14 Closes an Additional $214M to Complete $614M Series C Funding Round(2022年12月14日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-closes-214m-from-microsoft-to-complete-614m-series-c-funding-round/
- Group14 Technologies Group14 Acquires Schmid Silicon in Milestone European Expansion(2023年7月24日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-technologies-acquires-schmid-silicon-in-milestone-european-expansion/
- Group14 Technologies Group14 Begins Phase 1 European Expansion with Restart of German Silane Factory(2023年11月9日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-commences-phase-i-expansion-into-europe-with-planned-restart-of-its-silane-factory-in-germany/
- Group14 Technologies Group14 Begins Building World’s Largest Factory for Advanced Silicon Battery Materials(2023年4月4日のプレスリリース)。 https://group14.technology/resources/press-releases/group14-begins-building-worlds-largest-factory-for-advanced-silicon-battery-materials/
- Group14 Technologies Defending U.S. Silicon-Carbon Innovation(2026年7月16日の公式ブログ。ITCへの公益に関する意見書)。 https://group14.technology/resources/blog/defending-us-silicon-carbon-innovation/
- U.S. Department of Energy Bipartisan Infrastructure Law Battery Materials Processing and Battery Manufacturing Selectee Fact Sheets(DE-FOA-0002678、2022年10月)。Group14 の項。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2022-10/DOE%20BIL%20Battery%20FOA-2678%20Selectee%20Fact%20Sheets%20-%201_2.pdf
- U.S. Department of Energy(NETL) Draft Environmental Assessment, DOE/EA-2220: Group14 Technologies Battery Active Materials Factory(2024年7月)。事業費、能力、製造工程、雇用。 https://energy.gov/sites/default/files/2024-07/draft-ea-2220-group14-tech-battery-2024-07.pdf
- U.S. Department of Energy DOE/EA-2220: Group14 Technologies - Battery Active Materials Factory(DOEの環境評価のページ)。 https://www.energy.gov/nepa/doeea-2220-group14-technologies-battery-active-materials-factory
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の内容は、Group14 Technologiesの公式サイト・プレスリリース・ブログと、米国エネルギー省(DOE)の公開資料に基づきます。調査会社の市場推計や報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。製品の性能値は同社の公称または顧客の報告で、測定条件が異なる他の値とは比較できません。会社の計画・目標は未確定で、実現を保証するものではありません。本稿は、電池の取扱い・安全、投資・調達の判断について、読者個人に助言するものではありません。