INSTITUTION PROFILE / iPS細胞・再生医療
米国食品医薬品局(FDA)
― 米国で再生医療を売るための「入口」を管理する規制当局
FDAは米国の連邦政府の機関で、iPS細胞を含む再生医療・細胞治療・遺伝子治療について、治験を始めてよいか、販売してよいかを審査して決める役割を持ちます。研究費を配る機関ではありません。この入口は米国で売りたい企業すべてに適用され、国外の企業も対象です。本稿では、FDAがiPS細胞・再生医療にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかるFDA
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- iPS細胞・再生医療で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる米国食品医薬品局(FDA)
FDAは、iPS細胞を含む再生医療・細胞治療・遺伝子治療を米国の患者に届けるための「入口」を管理する機関です。 研究費を配る機関ではなく、治験を始めてよいか、販売してよいかを審査して決める側です。 この入口は米国で売りたい企業すべてに適用されるため、日本や欧州の企業も避けて通れません 事実。 一方で、FDAが承認を出す相手は申請された製品ごとで、米国の外の国の承認までは決められません。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
iPS細胞・再生医療の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では細胞を作りません。その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
FDAの根拠は法律です。CBERの紹介ページは、CBERが「公衆衛生法」と「連邦食品・医薬品・化粧品法」にもとづいて生物学的製剤を規制すると書いています 事実。
3. iPS細胞・再生医療で何をしているか
FDAの再生医療に関する役割は、次のように整理できます 事実。FDAの制度はiPS細胞に限らず、細胞治療・遺伝子治療・組織工学製品を広く対象にしています。
| 役割 | 中身 | 根拠となる制度・資料 |
|---|---|---|
| 審査の窓口 | CBERのOTP(治療製品室)が細胞・遺伝子治療の製品を審査する。OTPは6つの室、14の部、33の課からなる。旧組織(OTAT)の再編で発足 | OTPの発足ページ。承認済み製品の一覧もOTPの名で公表 |
| 治験の開始 | 人に投与する臨床試験を始めるには、IND(治験の届出)を出し、安全性と品質の情報を示す | ゲノム編集のガイダンス(21 CFR 312.23に言及) |
| 迅速化制度(RMAT) | 再生医療製品が重い病気を対象とし、初期の臨床データで未充足の医療ニーズに応えうるとき、IND提出時または提出後に指定を求められる。FDAは60日以内に結果を通知する | 21世紀治療法3033条にもとづくRMAT指定のページ |
| ガイダンスの策定 | 再生医療の迅速化制度(2019年2月・最終)、ヒトゲノム編集を使う遺伝子治療(2024年1月・最終)などを公表 | 各ガイダンスのページ |
| ヒト細胞・組織製品の線引き | 最小限の加工で同じ働きに使うなど4条件をすべて満たすと、販売承認を要しない登録・管理だけの区分(361区分)になる。満たさなければ承認が必要 | 21 CFR 1271.10、2020年7月のガイダンス |
| 未承認製品への警告 | 幹細胞、脂肪由来細胞、臍帯血、エクソソームなどが承認なしに広く販売されているとして、消費者に注意を呼びかけ、有害事象の報告を受け付けている | FDAの消費者向け情報(2021年6月) |
1271.10の条件のうち、「最小限の加工」が最初の関門です 事実。 iPS細胞は、作製、培養、目的の細胞への分化という大きな加工を経るため、この条件に当てはまらず、 販売承認(BLA)の対象になると考えられます(本稿の解釈)。 このため、iPS細胞由来の製品を米国で売るには、細胞の製造工程と品質管理の資料を整えて、 OTPの審査を受けることが前提になります。
承認済みの細胞・遺伝子治療製品の一覧(2026年9月17日更新)には、血液がんのCAR-T細胞療法や、ゲノム編集を使う鎌状赤血球症の治療などが載っています 事実。 本稿が一覧の製品名と製造者を確認した範囲では、iPS細胞由来とわかる製品はありません 本稿の計算。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | FDAが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 治験開始の審査、販売の承認、RMATなどの迅速化制度の指定、ヒト細胞・組織製品の区分の運用、未承認製品への注意喚起 | 研究費の配分、診療報酬や価格の決定(FDAの概要資料は任務を「規制」と書き、これらを挙げていない) |
| 地域 | 米国で売られる製品。生物製剤の販売の約96%は輸入で、生物製剤を扱う国外の登録施設は697か所。日本や欧州の企業も対象 | 他国の承認の決定。他国の研究倫理や制度への権限 |
| 規模 | 職員20,593人(FTE、FDA全体)、予算約70億ドル。OTPは6室・14部・33課 | CBERやOTP単独の人数・予算(参照した資料に記載なし) |
| 国際的な参照先 | ガイダンスと承認の根拠資料を公開している | 他国の規制当局を従わせる権限 |
職員数と予算はFDA全体の数字で、食品、タバコ、動物薬なども含みます 事実。 iPS細胞・再生医療を扱うOTPは、その中の一部です。また、承認済み製品の一覧にiPS細胞由来の製品がないことは、 FDAがiPS細胞由来の治療を認めないという意味ではありません。 FDAの制度は細胞治療全般を対象にしており、iPS細胞由来かどうかで別の扱いをするとは、参照した資料に書かれていません。
5. 関わっている企業・組織
FDAは企業の提携先ではなく、企業の申請を審査する立場です。FDAの公表資料から確認できる関係だけを示します。
米国食品医薬品局(FDA)の公表資料で確認できる承認の例
| 製品(FDAの表記) | 製造者(FDAの表記) | FDAの資料で読み取れること |
|---|---|---|
| CASGEVY(exagamglogene autotemcel) | Vertex Pharmaceuticals Incorporated | 2023年12月8日承認。ゲノム編集技術を使う初のFDA承認の治療(FDAのニュースリリース) |
| TREGZI(同種制御性T細胞免疫療法) | Orca Biosystems Inc | 2026年7月1日付の承認レター。成人の血液がんで、一致ドナーからの造血幹細胞移植に使う |
| ABECMA、BREYANZI | Celgene、Juno(いずれもBristol-Myers Squibb傘下) | 承認済み一覧に掲載 |
| KYMRIAH、ITVISMA | Novartis(FDAの表記は各子会社) | 承認済み一覧に掲載 |
※これらはiPS細胞由来の製品ではありません。FDAがどの種類の細胞・遺伝子治療を実際に承認してきたかを示す例です。製造者の表記はFDAの一覧と各製品ページによります 事実。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| iPS細胞由来の製品が米国で初めて承認される場合、OTPの細胞治療・ヒト組織の製造管理を担当する室が製造・品質の審査の中心になる | OTPの組織は、遺伝子治療、細胞治療・ヒト組織、血漿タンパクの3つの製造管理(CMC)の室と、臨床・薬理毒性・審査管理の室からなる | 推測 |
| 再生医療製品の審査では、RMATなど迅速化制度の利用が開発の前提として定着していく | RMATは21世紀治療法で定められ、IND段階で申請でき、FDAは60日以内に通知する。2019年の最終ガイダンスが制度を説明している | 推測 |
| iPS細胞由来の最初の承認製品が出る時期 | 承認済み一覧(2026年9月17日更新)にiPS細胞由来とわかる製品はない | 未確定/将来 |
7. 用語集
- CBER
- 生物製剤評価研究センター。FDAの中で、ワクチン、血液製剤、細胞・遺伝子治療などを担当する。
- OTP
- CBERの治療製品室(Office of Therapeutic Products)。細胞治療・遺伝子治療の審査を担当する。
- IND
- 治験の届出。人に投与する臨床試験を始める前に、FDAに安全性と品質の情報を出す手続き。
- BLA
- 生物製剤の販売承認の申請。細胞治療や遺伝子治療はこの形で承認される。
- RMAT
- 再生医療先端治療の指定。重い病気に対する再生医療製品の開発を早める制度。
- HCT/P
- ヒト細胞・組織および細胞・組織を原料とする製品。最小限の加工などの条件を満たすと、承認を要しない区分になる。
8. 出典
- FDA FDA at a Glance(2026年1月版。2025会計年度の予算約70億ドルと財源の内訳、20,593 FTE、生物製剤の販売の約96%が輸入、生物製剤の登録施設数、所在地)。 https://www.fda.gov/media/154548/download
- FDA FDA History(1906年の純正食品・医薬品法で現在の規制業務が始まったこと、1930年に現在の名称になったこと)。 https://www.fda.gov/about-fda/fda-history
- FDA Center for Biologics Evaluation and Research(CBER)の紹介ページ(任務、根拠法)。 https://www.fda.gov/about-fda/fda-organization/center-biologics-evaluation-and-research-cber
- FDA Establishment of the Office of Therapeutic Products(OTPの発足、旧OTATの再編、6室14部33課の構造)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/cellular-gene-therapy-products/establishment-office-therapeutic-products
- FDA Approved Cellular and Gene Therapy Products(OTPが所管する承認済み製品の一覧。2026年9月17日更新)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/cellular-gene-therapy-products/approved-cellular-and-gene-therapy-products
- FDA Regenerative Medicine Advanced Therapy Designation(RMATの要件、IND段階での申請、60日以内の通知。2025年11月4日更新)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/cellular-gene-therapy-products/regenerative-medicine-advanced-therapy-designation
- FDA Guidance「Expedited Programs for Regenerative Medicine Therapies for Serious Conditions」(2019年2月、最終)。 https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/expedited-programs-regenerative-medicine-therapies-serious-conditions
- FDA Guidance「Human Gene Therapy Products Incorporating Human Genome Editing」(2024年1月、最終)。 https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/human-gene-therapy-products-incorporating-human-genome-editing
- FDA Guidance「Regulatory Considerations for Human Cells, Tissues, and Cellular and Tissue-Based Products: Minimal Manipulation and Homologous Use」(2020年7月、最終)。 https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/regulatory-considerations-human-cells-tissues-and-cellular-and-tissue-based-products-minimal
- 米国連邦規則(eCFR) 21 CFR 1271.10 Are my HCT/P's regulated solely under section 361 of the PHS Act …(361区分の4条件)。 https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-L/part-1271/subpart-B/section-1271.10
- FDA Important Patient and Consumer Information About Regenerative Medicine Therapies(2021年6月3日。未承認の再生医療製品への警告)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/consumers-biologics/important-patient-and-consumer-information-about-regenerative-medicine-therapies
- FDA TREGZI の製品ページ(BLA 125868、製造者Orca Biosystems Inc、2026年7月1日付の承認レター)。 https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/tregzi
- FDA ニュースリリース「FDA Approves First Gene Therapies to Treat Patients with Sickle Cell Disease」(2023年12月8日。Casgevyはゲノム編集技術を使う初のFDA承認の治療)。 https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-first-gene-therapies-treat-patients-sickle-cell-disease
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月1日/Troy Technical
本稿の数値はFDAの公式サイトとガイダンス、連邦規則に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。医療上の助言ではありません。