COMPANY PROFILE / iPS細胞・再生医療
クオリプス
― 他家iPS細胞由来の心筋細胞シート「リハート」を、条件及び期限付き承認から保険適用まで進めた会社
クオリプスの名前が再生医療で語られるのは、iPS細胞から作った細胞を使う製品が、日本で承認され、公的医療保険の対象にもなった最初の例の一つだからです。 2026年3月6日に厚生労働省から「リハート」の条件及び期限付き製造販売承認を取得し、9月1日に保険収載、9月29日には保険診療下での第1例目の移植が実施されました。 ただし承認は少数例(8例)の治験に基づく条件及び期限付きで、期限は7年、承認後は使用する全症例(75例)の調査が求められています。 本稿では、何を投じ、誰と組み、どこまで確認されていて、何が未確定かを一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかるクオリプスと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- iPS細胞・再生医療にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
- iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるクオリプスと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
(大阪へ移転予定)日本橋本町。大阪市北区中之島への本店移転を2026年5月に決議
心筋細胞をシート状に心臓の表面に貼り付ける再生医療等製品
(期限7年)2026年3月6日。日本のみ。海外は未承認
クオリプスは、iPS細胞から作った細胞を、自社の施設で製造して自社で販売するという、類型でいえばiPS細胞・細胞治療の会社です。 製品の「リハート」は、健康な提供者のiPS細胞から心筋細胞を作り、シート状にして重症の心不全患者の心臓に貼る製品です 事実。 注意したいのは、承認が「効果が確かめられた」ではなく「一定の有効性が期待できる」と判断された段階の、条件及び期限付きであることです。 厚生労働省の審査資料では、治験は8例・非盲検・対照なしで、主要評価項目(移植後26週の左室駆出率の改善)が改善とされたのは8例中2例でした 事実。 承認後の7年間は全症例調査で有効性と安全性を確かめ続ける段階にあり、本承認はまだ得ていません。 本稿は製品の優劣や治療の適否を述べるものではなく、会社と製品の現状を一次資料で整理するものです。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「クオリプス株式会社」、英文名は Cuorips Inc.(有価証券報告書の英訳名)です。 社名は、心臓を意味するイタリア語の「Cuore」と、iPS細胞の「iPS」に由来すると同社は説明しています。 2017年3月の創業時の社名は株式会社Cuoreで、同年6月に現社名へ変更しました。 製品の販売名「リハート」は同社の登録商標で、一般的名称は「ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シート」です。 なお、依頼元から示された旧称「Qualips」は、同社の公式資料では確認できませんでした。
公式サイト:https://www.cuorips.co.jp/3. iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
治療の仕組みの面では、クオリプスはiPS細胞由来の細胞(心筋)を使う他家(本人以外の細胞)の細胞治療です。 遺伝子を書き換えるのではなく、できあがった細胞を組織の形(シート)に整えて、傷んだ心臓に貼ります。 有価証券報告書は、貼った細胞が分泌する因子による血管の新生など(パラクライン効果)で患者自身の心筋の状態が改善することを期待する、と説明しています 事実。 厚生労働省の資料も、移植した細胞は心筋として収縮するというより、分泌される因子が虚血部位への血管誘導などを行うと想定される、と書いています 事実。 iPS細胞そのものの解説は、本シリーズの技術解説「iPS細胞」を参照してください。
4. 会社の規模
クオリプスは製品の発売直前の小さな会社です。2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の売上高は2.1億円で、まだ損失が続いています 事実(金額はすべて日本円、会計年度は4月〜翌年3月)。
| 指標(連結・千円) | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 23,102 | 175,205 | 212,332 |
| 経常損失(△) | △627,930 | △642,014 | △1,028,528 |
| 親会社株主に帰属する当期純損失(△) | △632,183 | △644,342 | △1,022,640 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | △451,060 | △812,616 | △1,059,895 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 5,582,270 | 4,793,824 | 3,900,064 |
| 純資産額 | 5,983,777 | 5,529,698 | 4,769,290 |
| 従業員数(人) | 59 | 56 | 51 |
2026年3月期の売上高212,332千円のうち210,159千円がCDMO・コンサルティングサービスで、「リハート」の販売による売上はまだありません(販売は2026年9月の保険収載後) 事実。 2027年3月期の通期予想は、2026年7月28日に売上高5.4億円、営業損失10.3億円、経常損失5.8億円、純損失5.7億円へ上方修正されました 未確定/将来。 売上は第3四半期以降に偏る見込みで、補助金収入の見込みが営業外収益に含まれている、と会社は説明しています。
有価証券報告書は、再生医療等製品の将来の市場規模として、業界団体(再生医療イノベーションフォーラム)が作成した世界市場の推計値を引用しています。 これは団体の推計であって会社自身の実績ではないため、本稿は数値を採用しません。 また、厚生労働省の保険適用資料には予測患者数や予測販売金額が載っていますが、これも算定のための予測であり、会社の業績予想ではありません。第7章で区別して扱います。
5. iPS細胞・再生医療にかけているリソース
会社全体が再生医療等製品の単一事業なので、会社の規模がそのまま「この分野にかけている規模」に近くなります。人・金・外部との関係を、確認できたものとできなかったもので分けます。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(人員) | 連結従業員51名(2026年3月31日、臨時雇用者3名は外数)。拠点別は、本社5名、大阪ラボ(大阪府吹田市)14名、細胞加工施設CLiC-1(大阪府箕面市)32名。平均年齢43.1歳。研究者・製造担当などの職種別の人数は非公表 | 事実 |
| 人(中核人材) | 心臓外科医で大阪大学特任教授の澤芳樹氏が取締役。2021年8月から最高技術責任者を務め、2026年6月から最高医療科学責任者。大阪けいさつ病院の総長で、同病院を運営する法人の理事長も務める | 事実 |
| 金(研究開発費) | 2026年3月期の研究開発費は総額970,450千円(前期比5.7%減)。共同研究パートナーから受け入れた共同研究開発費を差し引いた634,243千円を損益計算書に計上(前期比89.8%増)。差し引かれた受入額は336,207千円 本稿の計算 | 事実 |
| 金(製造設備) | 2026年3月期の設備投資は69,081千円。計画中の投資は、中之島クロス(大阪市)のパイロットスケールプラントが総額560百万円(2026年1月〜12月、既支払10百万円)、CLiC-1の増強が600百万円(2027年3月〜7月)。いずれも補助金と自己資金で賄う予定 | 事実 |
| 金(資金調達) | 2026年9月11日に、JICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合を引受先として、新株式約30億円と第1回無担保普通社債10億円、合計40億円の調達を決議。新株式の払込は9月28日に完了(619,700株、1株4,841円)。社債の払込完了は本稿では確認していない | 事実 |
| 外部からの導入(ライセンス) | 大阪大学が権利者の特許(特許第6938154号、存続期間満了日2035年11月6日)について独占的実施権を受けている。創業時には、大阪大学発の事業化会社セルキューブからヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの事業譲渡を受けた | 事実 |
| 他社の買収・他社への出資 | 有価証券報告書に記載なし。子会社は、ヘルスケア用製品の原材料を扱うクオリプスヘルスケアサイエンス(2023年12月設立)と、米国のiReheart Inc.(2024年6月設立)で、いずれも自社設立 | 確認できず |
| 大学・研究機関・公的資金 | 大阪大学(共同研究講座を2017年6月から2025年9月末まで運営)、スタンフォード大学(2024年12月)、新潟大学(2023年10月)、京都大学iPS細胞研究所(医療用iPS細胞ストックの提供元)。公的資金は経済産業省の再生CDMO補助金(2025年7月採択)。補助金の交付決定額は本稿では確認できなかった | 事実 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2008年〜 | 大阪大学の澤芳樹氏らの研究グループが、京都大学の山中伸弥氏と共同研究を開始し、ヒトiPS細胞を用いた重症心筋症の治療法を研究 | 製品の学術的な出発点 |
| 2017年3月・6月 | 株式会社Cuoreを設立し、セルキューブから事業譲渡を受け、6月にクオリプスへ商号変更。大阪大学との共同研究講座を承継 | 大学発の技術を会社に移した |
| 2017年9月 | 第一三共と共同研究開発契約を締結(心筋細胞の精製技術と、シート化技術の融合) | 大手製薬との組み合わせ。承認取得により目的を達成し2026年3月末で終了 |
| 2020年1月 | 大阪大学の医師主導治験が始まり、1例目を移植 | 承認の根拠となる治験の開始 |
| 2020年8月 | 商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」(大阪府箕面市)が稼働 | 自社で製造する体制 |
| 2023年3月・6月 | 治験で計8例の移植が完了。6月に東証グロースへ上場 | 承認申請に使う症例が出そろった |
| 2024年5月〜12月 | VMaCS(細胞大量製造のコンソーシアム)発足、米国にiReheart Inc.設立、スタンフォード大学と共同研究契約 | 大量製造と米国展開の足場 |
| 2025年4月 | 厚生労働省に製造販売承認を申請(申請日は4月4日)。CLiC-1が再生医療等製品の製造業許可を取得 | 治験データでの承認申請 |
| 2025年10月 | 希少疾病用再生医療等製品に指定(指定番号(R7再)第37号) | 指導・助言の支援と、保険償還価格での加算の対象になる |
| 2026年3月6日 | 厚生労働省から条件及び期限付き製造販売承認を取得(2月19日の薬事審議会部会で承認して差し支えないと判断) | iPS細胞由来の再生医療等製品として日本で承認 |
| 2026年7月22日 | 中央社会保険医療協議会(中医協)総会で保険償還価格5,320万円が了承 | 価格の決まり方は原価計算方式 |
| 2026年9月1日 | 保険収載(官報告示) | 保険診療での使用が可能に |
| 2026年9月28日・29日 | JICVGIファンドからの新株式の払込が完了。29日、大阪けいさつ病院で保険収載後初となる第1例目の移植が実施 | 販売開始後の最初の症例。結果は未公表 |
承認の根拠になった治験(一次資料の範囲)
承認は8例の医師主導治験に基づきます。以下は、厚生労働省の審査資料、jRCT、有価証券報告書に書かれた内容です。 比較対象は他の治療や偽薬ではなく、各患者さん自身の移植前の状態で、評価時点は項目ごとに異なります。 結果は治療効果や安全性を保証するものではなく、医療上の助言でもありません。
| 項目 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 試験 | 虚血性心筋症に対するヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートの臨床試験。医師主導治験、jRCT2053190081(統括は大阪大学医学部附属病院の宮川繁氏)。jRCT上の試験フェーズは1、進捗は研究終了。有価証券報告書はこの治験をCVSC0005試験と記載 | 事実 |
| デザイン・例数 | 非盲検・対照なし・多施設共同。移植8例(前半のコホートA 3例、後半のコホートB 5例)。有効性の解析対象も8例 | 事実 |
| 対象 | 慢性の虚血性心筋症による重症心不全で、NYHA心機能分類III〜IV度、最大限の薬物療法や標準的な手術・カテーテル治療から3か月以上経つのに悪化が危惧される患者。安静時の左室駆出率(LVEF)が35%以下 | 事実 |
| 主要評価項目 | 移植後26週時点の心エコー図検査によるLVEFが、移植前と比べて改善していると評価された患者数 | 事実 |
| 主要評価項目の結果 | 改善は8例中2例。審査資料は、主要評価項目以外の副次評価項目(心臓の大きさを示すLVESVI・LVEDVI、NYHA分類、運動耐容能など)で改善または維持が見られたことを根拠に、少数例でも有効性を推定できると判断した | 事実 |
| 移植後52週の副次評価 | NYHA心機能分類は8例中8例で改善、6分間歩行距離と最高酸素摂取量(Peak VO2)はそれぞれ8例中4例で改善(会社の記載)。効果安全性評価委員会の総合評価では8例全例が「有効」 | 事実 |
| 安全性 | 有害事象は8例中7例、重篤な有害事象は8例中5例。死亡に至った有害事象、本品の副作用、本品との因果関係が否定できない事象は認められなかった。データカットオフ時点で全員が生存。免疫抑制剤(3剤)を移植後90日間服用する | 事実 |
| 審査当局の見方 | PMDAは「一定の有効性は期待できる」と判断したうえで、少数例の非盲検試験で情報が限られるため、承認後も全症例の調査で有効性・安全性を継続的に評価するとしている | 事実 |
7. 今後の計画
(2026年9月29日)大阪けいさつ病院。以降の症例数は未公表
製造販売後調査条件及び期限付き承認の期間(7年)中に実施
を準備中2025年8月にpre-IND会議。時期は非公表
(2026年中)中之島クロス。CLiC-1増強は2027年3〜7月の予定
| 計画・開発中の品目 | 現在地(会社の記載) | 区分 |
|---|---|---|
| リハート(日本) | 条件及び期限付き承認の期間(7年)に全症例(75例)の製造販売後調査を行い、その結果をもとに本承認を申請する。会社は販売・プロモーションを自社で行う方針で、移植を行える登録施設の確保と拡大を進める | 未確定/将来 |
| リハート(海外) | インドネシア、オーストラリア、シンガポール、中東、欧州などでの販売を目指し、海外病院との連携や当局への相談準備を進める。承認・販売の実績は現時点でなし(厚生労働省資料は2025年11月時点で海外未承認と記載) | 未確定/将来 |
| 第2世代の心筋細胞シート(米国) | 米国向けに改良した製品を開発中。スタンフォード大学と心筋梗塞のブタに移植する動物実験を実施。FDAとのpre-IND会議で、初めてヒトに使う試験の計画概要を含む方針について「概ね合意」を得て、IND申請を準備 | 未確定/将来 |
| カテーテル治療(朝日インテックと共同) | リハートの対象より軽症の心疾患向け。カテーテルでiPS細胞由来の細胞を心臓へ届ける。小動物で概念実証を確立し、大動物で実験中。ヒトでの試験はまだ | 未確定/将来 |
| 体内再生因子誘導剤(YSシリーズ) | 低分子化合物(オキシム誘導体)で体内の再生因子を誘導する。肝疾患などが対象。動物モデルでの薬効評価の段階で、医師主導治験の準備を目指す。製薬企業との提携・導出の協議を継続中 | 未確定/将来 |
| iPS細胞由来の間葉系幹細胞(MSC) | 肝臓疾患、重症下肢虚血、変形性膝関節症などへの応用を研究。2026年9月の資金調達の目的に挙がっているが、開発段階の詳細は開示がない | 未確定/将来 |
| 細胞大量培養(VMaCS) | 培養、回収、充填・分注、凍結、保存の工程を統合したシステムを開発。中之島クロスにパイロットスケールプラントを設置し、将来は自社施設で商用レベルの実証を行う計画。2026年3月末で会員14 | 未確定/将来 |
次はいずれも一次資料に記載がないか、非公表です 未確定/将来。
保険収載後の移植症例数や売上の実績(第1例目以降)/1年あたりの製造可能数/米国での治験開始の時期/海外で承認を受ける見込みの時期/カテーテル治療・YSシリーズの治験開始時期/本承認の申請時期。 なお、厚生労働省の保険適用資料(中医協 総-2、2026年7月22日)には、価格算定のための予測として、推定適用患者数(初年度)690人、本医療機器使用患者数(10年度・ピーク時)96人、予測販売金額(10年度)51.1億円が記載されています。 これは価格算定の資料上の予測であって会社の業績予想ではなく、前提となる数字の根拠も資料からは分からないため、本稿では参考として示すにとどめ、他の数値とは混ぜません。
8. この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 目標は「心筋シート1製品の会社」から「細胞製造の基盤を持つ会社」への展開 | 経営戦略に、リハートによる収益拡大に加えて、カテーテル・YSシリーズなどの次の成長ドライバー、大量培養技術の確立、CDMO事業を並べている。会社自身が従来の創薬系バイオベンチャーとは異なる戦略だと書いている | 推測 |
| 国内の売上は立ち上がりが緩やかな可能性が高い | 移植は全身麻酔下の開胸手術で、移植できる登録施設の確保が必要。通期予想でも売上は第3四半期以降に偏るとされ、予測患者数は初年度690人(推定適用)に対し、10年度の使用患者数は96人と資料にある | 推測 |
| 海外展開は米国向けの改良品を軸に、複数地域を並行して探っている | 米国ではスタンフォード大学との共同研究とFDAとのpre-IND会議、アジア・中東・欧州では病院との連携を進めると記載。海外の引き合いが多いとも開示している | 推測 |
| 黒字化はリハート単独ではなく、CDMOや共同研究費の受入も含めて目指す | 「上市製品がなくてもCDMO事業で売上を安定的に獲得する」「共同研究パートナーから共同研究開発費を受領する」ことでキャッシュの減る速度を抑える、と明記 | 推測 |
| 製造は自社で握る方針 | 製造施設CLiC-1を自社で保有し、増強とパイロットプラントに計1,160百万円(560百万円と600百万円の合計)の投資を計画 本稿の計算。第一三共との共同研究が終わっても、製造販売は自社で行う | 推測 |
売上の立ち上がりが緩やかだと読むのは、会社自身の数字が既にそう言っているからです。 2027年3月期の売上高予想は5.4億円で、リハート1個の償還価格(5,320万円)で割ると約10個分に相当します 本稿の計算。 ただし予想にはCDMO事業などの売上も含まれており、リハートの売上がいくらかの内訳は開示されていません。 そのため、この計算は「リハートの数量見込み」ではなく、予想の規模感を価格で割った目安にすぎません。 一方で、価格算定資料の予測(10年度に96人、51.1億円)と合わせて見ると、 最初の数年は件数の少ない立ち上がりを前提にしていると読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。 この推測は、製品の優劣や普及の可否を述べるものではありません。
9. iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
図の見方:クオリプスは、大学(大阪大学、スタンフォード大学など)から技術と臨床の知見を得て、事業会社(朝日インテック、第一三共)と組み、自社の製造施設で作るという構成です。 iPS細胞の原料は京都大学iPS細胞研究所が提供する医療用ストックで、これを心筋細胞に分化させて使います 事実。
10. 提供している技術・製品・サービス
| 項目 | 内容(有価証券報告書・公開資料の記載) |
|---|---|
| リハート(心筋細胞シート) | 健康な提供者のiPS細胞から分化させた心筋細胞をシート状に加工した他家細胞の製品。対象は、薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全。移植は全身麻酔下で行い、移植後90日間は免疫抑制剤を飲む。関連学会の適正使用指針に従った場合に限り保険算定できる |
| 製造工程の特徴 | 拡大培養したiPS細胞を心筋細胞に分化させ、残った未分化細胞を除去して純度を高め、凍結保存する。移植の予定に合わせて解凍してシート化し、病院へ運ぶ。シート化に要する期間は数日程度 |
| 輸送 | シートをゼラチンゲルに包埋して、常温帯でシートの形と細胞の生存を保ったまま2日程度輸送できるとする。病院側はゲルを融かして洗浄すれば移植できる |
| 細胞加工施設CLiC-1 | 大阪府箕面市。同じ清浄度のクリーンブースを複数並べる局所制御の設計で製造能力を上げた施設。日本・米国・欧州で特許を取得したと記載。製造プロセス開発から商用生産まで一貫して対応 |
| CDMO(受託開発・製造) | iPS細胞の培養・分化誘導、心筋細胞の精製のノウハウを使い、製造プロセスの開発支援と受託製造を行う。大企業の大規模施設では対象にならない少量製造にも応じるのが強みと説明。2026年3月期の売上のほぼ全てを占める |
この会社の製品づくりで材料・プロセスが効くのは、細胞の外側にあるものです 事実。 第一にゼラチンゲルによる包埋です。細胞のシートは薄く壊れやすいため、ゲルで包んで常温で運び、病院で融かして取り除く設計になっています。 凍結細胞を冷凍輸送する方式に比べて、病院側の手間を減らせると同社は説明します。 第二に凍結保存と解凍です。分化させた心筋細胞をあらかじめ凍結しておき、移植の予定に合わせて解凍してシート化することで、他家細胞のメリットである「事前に作っておける」を実現しています。 第三に清浄度の管理です。生きた細胞を使う製品は最終滅菌ができないため、製造環境そのものを清浄に保つことが品質の前提になります。 CLiC-1がクリーンブースを並べる設計は、有価証券報告書では製造能力を上げるためと説明されていますが、清浄度の管理が前提になる点は変わりません。
さらに、VMaCSが目指す「培養から回収、充填・分注、凍結、保存までを統合した大量製造システム」は、培養容器、培地、凍結保存液、分注装置などの材料・装置メーカーが加わる領域です。 会社は特定企業による独占を避ける方針を示しており、どの資材や装置が採用されるかは公表されていません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 承認が条件及び期限付き | 期限は7年で、その間に全症例(75例)の調査を行い、改めて本承認の申請が必要。会社は、承認の取消しや本承認が得られない場合には固定資産の減損もありうると記載している | 事実 |
| 根拠となる治験が小さい | 8例・非盲検・対照なし。主要評価項目の改善は8例中2例。PMDA自身も、情報が限られるため市販後の継続評価が必要としている | 事実 |
| 安全性の長期データ | 治験では本品の副作用は認められなかったが、重篤な有害事象は8例中5例。会社は、承認時に想定できなかった事由による健康被害の可能性を否定できないと記載。免疫抑制剤の服用(90日)に伴う感染などの負担も前提になる | 事実 |
| 薬価制度・医療費抑制 | 償還価格は5,320万円で決まったが、将来の薬価引き下げがありうると会社が記載。保険算定は関連学会の適正使用指針に従った場合に限られる | 事実 |
| 赤字の継続と資金 | 2026年3月期の純損失は約10.2億円、営業CFは約10.6億円の流出。会社は、安定的な収益源の確保まで増資などの資金調達が必要になりうると記載。2026年9月に40億円の調達を決議したが、社債は返済が必要な負債 | 事実 |
| 製造拠点の集中 | リハートの製造は大阪府箕面市のCLiC-1が中心で、設備は1か所。災害や停電、原材料の入手難の影響を受けうると会社が記載している | 推測 |
| 特定の供給元への依存 | iPS細胞は当面必要な量を確保済みだが、特定のサプライヤーしか供給できない原材料や資材があると会社が記載 | 事実 |
| 組織の小ささ | 連結従業員51名で、販売・流通・製造販売後調査・米国展開・複数の開発品を同時に進める。会社自身も「小規模な組織」と記載 | 事実 |
| 役員の兼職と症例施設の関係 | 最高医療科学責任者の澤氏は、第1例目を実施した大阪けいさつ病院の総長でもある(役員の兼職は会社が開示している)。最初の症例が特定の施設に偏るかどうかは、今後の開示で確認できる点 | 推測 |
12. 用語集
- iPS細胞
- 人工多能性幹細胞。体の細胞に因子を入れて作る、さまざまな細胞に変えられる細胞。
- 他家(同種)
- 患者本人ではなく、他の人(提供者)の細胞を使うこと。拒絶反応を抑える薬が必要になる。
- 虚血性心筋症
- 心臓の血管が狭くなったり詰まったりして、心筋が傷んで働きが落ちた状態。
- 条件及び期限付承認
- 少数例の治験で安全性が確認され、一定の有効性が見込まれる再生医療等製品を、条件と期限を付けて早く承認する制度。販売後に有効性を確かめる。
- パラクライン効果
- 細胞が分泌する因子が周囲に作用して組織を助けるはたらき。
- LVEF
- 左室駆出率。心臓が1回の拍動で押し出す血液の割合を示す指標。
- NYHA心機能分類
- 心不全の症状の重さをI〜IV度で分ける分類。
- Peak VO2
- 最高酸素摂取量。運動時にどれだけ酸素を取り込めるかを示す、運動耐容能の指標。
- CDMO
- 医薬品や細胞の開発と製造を受託する事業者。
- GCTP
- 再生医療等製品の製造管理・品質管理の基準。
- 保険償還価格
- 公的医療保険で再生医療等製品などに設定される公定価格。
- pre-IND会議
- 米国で治験の申請(IND)の前に、FDAと開発計画を相談する会議。
AI生成による概念図13. 出典
- クオリプス 有価証券報告書(第10期、2026年3月期、関東財務局提出 2026年6月24日)。沿革、事業の内容、研究開発パイプライン、治験の概要、経営方針、リスク、設備、従業員、財務諸表。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/yuho_pdf/S100YIP2/00.pdf
- クオリプス 公式サイト「ABOUT US」(役員、会社概要、拠点、沿革)。 https://www.cuorips.co.jp/aboutus
- クオリプス 適時開示「ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートの条件及び期限付き製造販売承認の取得について」(2026年3月6日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2773076/00.pdf
- クオリプス 適時開示「リハートの保険償還価格の決定について」(2026年7月22日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2854477/00.pdf
- クオリプス 適時開示「リハートの保険収載に関するお知らせ」(2026年9月1日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2880161/00.pdf
- クオリプス 適時開示「再生医療等製品「リハート」第1例目の移植実施に関するお知らせ」(2026年9月29日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2888716/00.pdf
- クオリプス 適時開示「第三者割当による新株式の発行に関するお知らせ」(2026年9月11日)。資金調達の目的、各開発品の現状。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2884161/00.pdf
- クオリプス 適時開示「第三者割当による新株式の発行に係る払込完了に関するお知らせ」(2026年9月28日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2887916/00.pdf
- クオリプス 適時開示「第三者割当による新株式の発行及び第1回無担保普通社債の発行に関する補足説明資料」(2026年9月11日)。総額40億円の内訳。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2884162/00.pdf
- クオリプス 適時開示「通期連結業績予想の上方修正に関するお知らせ」(2026年7月28日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2856809/00.pdf
- クオリプス 適時開示「本店移転及び定款の一部変更に関するお知らせ」(2026年5月26日)。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4894/tdnet/2822780/00.pdf
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総-11 参考2「再生医療等製品3品目の条件及び期限付き承認について」(2026年4月8日)。リハートの承認審査の概要、治験の設計と結果、安全性評価、製造販売後調査。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687611.pdf
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総-2「再生医療等製品の保険適用について(令和8年9月1日収載予定)」(2026年7月22日)。償還価格、算定方式、予測患者数。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726219.pdf
- 厚生労働省 臨床研究等提出・公開システム(jRCT)jRCT2053190081「虚血性心筋症に対するヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートの臨床試験」。 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2053190081
- クオリプス 公式サイト(トップ、ロゴの取得元)。 https://www.cuorips.co.jp/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月1日/Troy Technical
本稿の数値は、クオリプスの有価証券報告書と適時開示、厚生労働省の公開資料、jRCT(臨床研究等提出・公開システム)に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は特定の治療や製品を勧めるものではなく、医療上の助言ではありません。