COMPANY PROFILE / iPS細胞・再生医療
アスペン・ニューロサイエンス
― 患者さん本人の皮膚から作るiPS細胞由来の神経細胞を脳に移植する、米国の非上場バイオ企業
Aspen Neuroscience(アスペン・ニューロサイエンス)は、米国カリフォルニア州サンディエゴの非上場企業です。 パーキンソン病を対象に、患者さん自身の皮膚から作ったiPS細胞を、ドパミンを作る神経の元になる細胞に変え、脳の被殻に移植する「自家」型の治療(sasineprocel、開発名ANPD001)を開発しています。 他人の細胞を使う「他家」型と違い、拒絶反応を抑える免疫抑制剤が不要な設計です。一方で、患者さんごとに細胞を作る必要があります。 第1/2a相試験(ASPIRO)では2026年6月30日までに15人への移植を終え、2026年7月30日に米国FDAからRMAT指定を受けたと発表しました。 ただし承認を受けた製品はなく、公表されている結果は会社の発表(学会の発表を含む)で、非盲検・対照なしの少数例です。 本稿では、何を投じ、誰と組み、どこまで確認され、何が未確定かを一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかるAspen Neuroscienceと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- iPS細胞・再生医療にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
- iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるアスペン・ニューロサイエンスと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
サンディエゴGMP製造施設も同市内
ドパミン神経の前駆細胞画像で位置を確認しながら被殻に移植
(ANPD001)2026年3月に国際一般名に採用
Aspen Neuroscienceは、類型でいえばiPS細胞・細胞治療の会社で、治療の中身は「患者さん本人の細胞から、患者さんごとに作る自家のiPS細胞由来の神経細胞」です 事実。 日本で2026年3月に条件及び期限付きで承認された他家のiPS細胞由来の神経細胞製品(住友ファーマの「アムシェプリ」)と対比されることが多いのですが、両者は設計が異なり、優劣を比べるものではありません。 他家は「あらかじめ作っておける」が免疫抑制剤が要り、自家は免疫抑制剤が要らない代わりに患者ごとの製造が必要です。 Aspenの公表データは、非盲検・対照なしの少数例の、各患者さんの移植前との比較です。非上場のため、年次報告書のような法定開示はなく、情報の大半は会社の発表です。 本稿は製品の優劣や治療の適否を述べるものではなく、会社の現状を一次資料で整理するものです。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Aspen Neuroscience, Inc. です。同名の他社と混同しないようご注意ください。 主力品の開発名は ANPD001(自家のドパミン神経前駆細胞、DANPC)で、2026年3月にWHOの国際一般名(INN)として sasineprocel(サシネプロセル) が公表され、米国医師会のUSAN評議会の審査も通過し、公表待ちだと同社は説明しています。 臨床試験の名前は ASPIRO(Autologous-derived Study of a Parkinson's Investigational Regenerative therapy in an Open-label trial)です。
公式サイト:https://aspenneuroscience.com/3. iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
治療の仕組みの面では、AspenはiPS細胞由来の神経の細胞を、患者さん本人の細胞から作る(自家)タイプです。 小さな皮膚の生検で採った細胞をiPS細胞にし、ドパミン神経になる手前の細胞(DANPC)に分化させ、凍結した製剤を、画像で位置を確認しながら脳の被殻に移植します 事実。 他家と自家の違いは本シリーズの技術解説「自家と同種」、神経細胞とパーキンソン病の関係は「iPS由来の神経細胞とパーキンソン病」を参照してください。
4. 会社の規模
Aspenは非上場で、売上高や損益、従業員数などの財務情報は公表されていません。公表されているのは、資金調達の履歴です 事実(金額は米ドル)。
| 時期 | ラウンド | 金額 | 主な投資家(会社の記載) |
|---|---|---|---|
| 2018年 | シード | 6.5百万米ドル | Domain Associates、Axon Ventures が主導。Alexandria Venture Investments、ARCH Venture Partners、OrbiMed、Section 32 も参加 |
| 2020年初頭 | シリーズA | 70百万米ドル | OrbiMedが主導。ARCH、Frazier Healthcare Partners、Domain Associates、Section 32、Sam Altman氏も参加 |
| 2022年初頭 | シリーズB | 147百万米ドル | Google Ventures、LYFE Capital、Revelation Partnersが共同主導 |
| 2025年11月20日 | シリーズC | 115百万米ドル | OrbiMed、ARCH Venture Partners、Frazier Life Sciences、Revelation Partnersが共同主導。新規投資家にKite(Gilead傘下)など |
会社は、累計の調達額が3.4億米ドル超で、その中にカリフォルニア州再生医療機構(CIRM)の8百万米ドルの助成が含まれる、と説明しています。 研究開発費、人員数、現金残高、損益は公表されていません。
非上場企業のため、数字を第三者が監査した書類(有価証券報告書やSEC提出書類)がありません。 上の金額は会社の発表であり、ベンチャー投資家向けの調査会社が推計する評価額(企業価値)や、報道が伝える株式公開の観測は、本稿では採用しません。 臨床の結果も、学会発表と会社の発表が中心で、本稿では第三者の評価を確認できていません 未確定/将来。
5. iPS細胞・再生医療にかけているリソース
Aspenはパーキンソン病の自家iPS細胞治療に絞った会社で、会社全体の資源がそのままこの分野への投入です。非上場のため、人員や支出の内訳は公表されていません。確認できたものとできなかったものを分けます。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(経営陣) | 公式サイトの経営陣は13名。社長兼CEOは Damien McDevitt 氏(元Akcea Therapeutics CEO)、CSOは Xiaokui Zhang 氏、CMOは Revati Shreeniwas 氏(2025年1月就任)、CCOは Lisa Johnson-Pratt 氏、CFOは Dalen Meeter 氏、CTOは Kim Raineri 氏。共同創業者に Jeanne Loring 氏。従業員の総数は非公表 | 事実 |
| 金(資金調達) | 累計で3.4億米ドル超(CIRMの助成8百万米ドルを含む)。直近は2025年11月のシリーズC 115百万米ドル。使途は、臨床試験の継続、臨床と商業の需要に備えた製造の拡大、神経疾患の追加パイプライン | 事実 |
| 金(研究開発費・設備投資の額) | 研究開発費、製造設備への投資額は非公表 | 確認できず |
| 製造設備 | サンディエゴのGMP施設(約22,000平方フィート)に、将来の自動化のための約8,000平方フィートの余地を設けた(2025年1月の発表)。2026年1月には、後期臨床と商業化に備えた製造施設が適格性評価(qualification)に入ったと発表 | 事実 |
| 外部への出資・買収 | 他社の買収・出資は、公式発表に記載なし | 確認できず |
| 外部からの導入(ライセンス・協業) | Cell X Technologies と、iPS細胞の工程の自動化に関する協業・ライセンス契約(2024年10月、支払額は非開示)。Mytos と、DANPC製造の自動化に向けた協業(2025年1月) | 事実 |
| 大学・公的資金 | カリフォルニア州再生医療機構(CIRM)から約8百万米ドルの助成。ASPIRO試験のコホート1と2の資金(助成番号 CLIN2-15547)。治験実施施設は米国の9施設(UCSF、UCLA、UCSD、UC Irvine、Scripps Health、Banner Health、Colorado大学、Emory大学、Feinstein Institutes) | 事実 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2018年 | 設立。シード資金6.5百万米ドル | 自家iPS細胞のパーキンソン病治療を目指して創業 |
| 2020年・2022年 | シリーズA(70百万米ドル)、シリーズB(147百万米ドル) | IND(治験開始)に向けた開発資金 |
| 2024年1月 | ASPIRO試験(第1/2a相)が開始(ClinicalTrials.govの開始日は2024年1月23日) | 多施設の自家細胞治療としては最初の試験と会社は説明 |
| 2024年10月 | Cell X Technologiesとの協業・ライセンス契約 | iPS細胞の工程の自動化 |
| 2025年1月 | GMP施設の拡張とMytosとの協業を発表。コホート1と2の完了を発表 | 製造の拡大 |
| 2025年5月 | 最初の3人の6か月の結果を発表(IAPRD 2025)。論文もParkinsonism & Related Disordersに掲載と会社が説明 | 初期の結果 |
| 2025年11月20日 | シリーズC 115百万米ドルの調達を発表。Kite(Gilead傘下)の幹部が取締役に就任 | 後期開発と商業化準備の資金 |
| 2026年1月8日 | コホート3の投与完了。商業用の製剤(凍結して届け、現場で解凍して注入する「thaw-and-inject」)を初めて使用 | 製剤の変更 |
| 2026年3月 | WHOが国際一般名 sasineprocel を公表(12日)。最初の8人の12か月の結果をAD/PD 2026で発表(18日) | 名称の確定、中間の結果 |
| 2026年6月30日 | コホート3と4の投与完了。累計15人に投与 | 後期試験の前の最後の段階 |
| 2026年7月30日 | 米国FDAのRMAT指定を取得したと発表 | FDAとの密な協議と、優先審査の可能性 |
| 2026年9月18日 | 前臨床データがCell Stem Cell誌に掲載されたと発表 | 製造の品質管理と前臨床の根拠 |
臨床の結果(会社の発表。一次資料の範囲)
以下は、Aspenが公表した結果です。非盲検・対照なしで、比較対象は各患者さん自身の移植前の状態です。いずれも会社の発表(学会発表を含む)です。規制当局の評価は確認できていません。最初の3人の6か月の結果は査読誌に掲載されたと会社は説明していますが、論文の原文は本稿では確認していません。 結果は治療効果や安全性を保証するものではなく、医療上の助言でもありません。
| 時点・対象 | 内容(会社の発表) | 区分 |
|---|---|---|
| 6か月(最初の3人、片側の被殻に5百万個) | 医師が評価する運動症状のスコア(MDS-UPDRS第III部、オフ時)が平均で45%改善、患者本人が答える日常生活のスコア(第II部)が平均で71%改善。補正したオフ時間が平均2.0時間減少、「よく効いている時間(good on)」が平均1.5時間増加。出血や重い手術合併症はなく、治験治療に伴うジスキネジアの報告もなし | 事実 |
| 12か月(最初の8人。低用量4人+高用量4人) | good on時間が平均で低用量+2.1時間、高用量+2.4時間。MDS-UPDRS第III部(オフ時)が低用量−15.5点、高用量−13.5点(点数が下がるほど軽い)。第II部が−5.3点、−2.3点。PDQ-39(生活の質)の平均改善が51.6%、28.5%。数人でレボドパ換算の服用量が減少。画像検査(FDOPA PET)で細胞の生存と生着が示唆された | 事実 |
| 安全性(12か月時点) | 重篤な手術関連の有害事象なし、重いジスキネジアなし、症状を伴う出血・梗塞なし。免疫抑制剤は使用していない | 事実 |
| 試験の設計 | 非盲検・多施設・用量漸増。50〜70歳でレボドパへの反応がある中等度から進行したパーキンソン病の患者。主要な目的は両側の被殻への投与の安全性と忍容性、副次的な目的は臨床の転帰の変化。低用量は片側5百万個、高用量は片側5〜10百万個。追跡は5年、長期の安全性追跡は15年目まで | 事実 |
7. 今後の計画
長期の安全性は15年目までClinicalTrials.govの主要な完了予定は2027年3月
商業規模への拡大Cell X、Mytosとの協業。解凍して注入する製剤を採用
| 計画・開発中の品目 | 現在地(会社の記載) | 区分 |
|---|---|---|
| sasineprocel(ANPD001)の第3相試験 | 2026年3月に最高医療責任者が「2026年内に第3相試験へ進める」と述べ、6月の発表で「第3相の開始に備えている」、9月の発表で「第3相に入る」と表現。第3相試験の登録情報(ClinicalTrials.gov)は、本稿の作成時点で確認できない。症例数・設計・主要評価項目は非開示 | 未確定/将来 |
| ASPIRO試験(第1/2a相) | コホート1〜4で15人に投与済み。コホート3と4は商業用の製剤(凍結して届け、現場で解凍して注入)を使用。コホート1と2の資金はCIRMの助成。ClinicalTrials.govは推定登録9人のままで、会社の発表(15人)と食い違っているため、更新の遅れの可能性がある | 事実 |
| 製造の拡大・自動化 | 後期臨床の要件に沿った製造の拡大とプロセスの最適化を進める。iPS細胞の工程はCell X Technologiesの自動化プラットフォーム、DANPCへの分化はMytosの自動化で進める計画 | 未確定/将来 |
| そのほかの自家iPS細胞製品 | 孤発性および遺伝性のパーキンソン病を含む、中枢神経の細胞置換療法の複数の候補を研究中と記載。個別の品目名・段階は非開示 | 未確定/将来 |
次はいずれも一次資料に記載がないか、非公表です 未確定/将来。
第3相試験の開始時期・症例数・設計/米国での承認申請の時期/1人分の製造にかかる期間と費用/商業生産の能力/従業員数・現金残高・損益/米国以外(日本を含む)での開発計画/株式公開の予定(報道では観測があるが、会社は表明していない)。 RMAT指定は、FDAとの密な協議や優先審査の可能性などの優遇措置であって、承認の見通しを保証するものではありません。
8. この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| まず米国で、自家iPS細胞由来の神経細胞として最初の承認を狙っている | 会社は繰り返し、sasineprocelを「米国で最も進んだ自家の細胞治療」と説明。Fast Track、RMATの指定を取得し、第3相と「商業化への備え」を掲げ、最高商業責任者も置いた | 推測 |
| 勝負どころは患者ごとの製造を、商業規模で安定させること | iPS細胞の工程とDANPCへの分化の両方で自動化の協業を結び、GMP施設に自動化の余地を確保。製剤を凍結して届ける「解凍して注入」型に切り替えた | 推測 |
| 差別化の中心は免疫抑制剤が不要な点 | 会社は自家であることによる利点として、免疫抑制剤に伴う有害事象と服薬管理が不要で、禁忌のある患者にも投与できると記載 | 事実 |
| 対象はパーキンソン病から、ほかの神経疾患へ広げる構想 | 「まずは神経変性疾患から」「追加の神経疾患のパイプラインを進める」と記載。シリーズCの使途にも含まれる | 推測 |
| 日本での事業は一次資料の範囲では確認できない | 日本の規制当局への相談、日本の治験、日本企業との提携の記載はない | 事実 |
「勝負どころは患者ごとの製造」と読むのは、会社の資金の使い道と協業の中身が、研究よりも製造に寄っているからです。 シリーズC 115百万米ドルの使途は、治験の継続に加えて、臨床と将来の商業需要に備えた製造の拡大が明記されています 事実。 2024年10月以降に結んだ2件の協業も、いずれも自動化に関するものです。 自家の治療は、他家の治療と違って「作り置き」ができず、1人ごとに生検から移植までを工程として回す必要があります。 この会社が、商業規模でその工程を安定して回せることを示せるかどうかが、第3相以降の鍵になる、と本稿は考えます 未確定/将来。 なお、1人分にかかる期間や費用は公表されていません。この推測は、他家と自家の優劣を述べるものではありません。
9. iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
図の見方:Aspenは製薬会社との共同開発や導出は結んでおらず、資金は投資家とCIRMから、製造の自動化は装置・技術の会社との協業で進めているという形です。 大手製薬の関与としては、シリーズCにKite(Gilead傘下)が新規投資家として参加し、同社の幹部が取締役に加わった点が目立ちます 事実。 これは出資と取締役の派遣であり、共同開発や販売の契約ではありません。
10. 提供している技術・製品・サービス
| 項目 | 内容(公式発表の記載) |
|---|---|
| sasineprocel(ANPD001) | 患者本人の皮膚の小さな生検から作ったiPS細胞を、ドパミン神経になる手前の細胞(DANPC)に分化させた、単回投与の自家の細胞治療。MRIで確認しながら、後交連より後ろの被殻に、両側へ投与する。特別な細胞の組み合わせ(多種の細胞の組成)と説明 |
| 製造(遺伝子の品質管理) | 各工程で、機械学習を使った独自の遺伝子検査(PluriTest、NeuriTest、GraftTest、DopaTestなど)で細胞の質を確認する。2026年9月に、全ゲノム解析とRNA解析を使った品質管理の枠組みを示した論文がCell Stem Cell誌に掲載されたと発表 |
| 製剤 | コホート3と4は、凍結保存して臨床施設へ届け、到着後に解凍して注入する商業用の製剤。コホート1と2の製剤とは前臨床で同等と評価したと説明 |
| 投与システム | 計量できる注射器とMRIガイドを組み合わせた独自の投与装置。サブミリメートルの精度で、低侵襲の手術を狙うと説明 |
| 製造施設 | サンディエゴのGMP施設(約22,000平方フィート)。2026年1月に後期臨床と商業化に備えた施設として適格性評価の段階に入った |
この会社の製品づくりで材料・プロセスが効くのは、患者ごとにばらつく細胞を、同じ品質の製剤にそろえる工程です 事実。 他家の製品は、あらかじめ品質を確認したセルバンクから作れます。自家は、毎回、別の人の皮膚の細胞から始まるため、iPS細胞の作製、品質の確認、分化、凍結、出荷の全体を1人分ずつ回します。 会社が、各工程で全ゲノム解析やRNA解析と機械学習を使った検査を行い、iPS細胞の工程と分化の工程の自動化をそれぞれ別の会社と進めているのは、このばらつきと手作業の負担を抑えるためと読めます 未確定/将来。
また、凍結して届け、現場で解凍して注入する製剤にしたことで、病院側の細胞調製の負担が減ると会社は説明しています。ここでは凍結保存液、解凍後の生存率、移植用の注射器に細胞を詰める工程などが効きますが、具体的な資材・装置の仕様は公表されていません。 本シリーズの技術解説「自家と同種」「細胞製造とセルバンク」「GMP」もあわせて参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 結果が小さく、第三者の評価が少ない | 公表された結果は、非盲検・対照なし・用量漸増の少数例(6か月は3人、12か月は8人)で、各患者の移植前との比較。会社の発表と学会発表が中心で、規制当局の評価は確認できない | 事実 |
| 製剤の変更 | コホート3と4で、新鮮な製剤から凍結して届ける商業用の製剤へ切り替えた。会社は前臨床で同等と説明するが、コホート3と4の臨床結果は、本稿の作成時点では公表されていない | 事実 |
| 脳への手術の負担 | 頭蓋内への投与のため、手術に伴う合併症の可能性がある。会社は、これまでの重篤な手術関連の有害事象や症状を伴う出血は観察されていないと発表。除外基準で認知機能の低下などのある患者は対象外 | 事実 |
| 患者ごとの製造の負担 | 1人ごとに生検から出荷まで製造する。期間・費用・不合格率は非公表。商業規模での安定供給の実績はまだない | 推測 |
| 長期の安全性 | 移植した細胞が長く残る治療のため、腫瘍形成や移植片の過剰増殖などを長期に確認する必要がある。追跡は5年、長期の安全性追跡は15年目までとしている | 事実 |
| 開示の少なさ | 非上場のため、財務、人員、製造の歩留まり、有害事象の全一覧などの法定開示がない。資金の状況は、調達履歴(累計3.4億米ドル超)以外は不明 | 事実 |
| 競合する治療 | 日本では他家のiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が2026年3月に条件及び期限付きで承認され、ほかにも他家の幹細胞由来製品の開発が進む。会社は自家の利点を強調するが、他家との比較は、同条件の試験が行われておらず評価できない | 事実 |
| 開発の遅れ | 第3相試験の登録情報が見当たらず、開始時期は会社の発言に頼る状況。開始が遅れる、または設計について規制当局と合意できない可能性は常にある | 推測 |
12. 用語集
- 自家(自己)
- 患者本人の細胞を使うこと。拒絶反応が起きにくく、免疫抑制剤は原則不要。患者ごとに製造する必要がある。
- 他家(同種)
- 患者本人ではなく、他の人(提供者)の細胞を使うこと。あらかじめ作っておけるが、拒絶反応を抑える薬が必要になる。
- DANPC
- ドパミン神経前駆細胞。ドパミンを作る神経細胞になる手前の細胞。
- 被殻
- 脳の深部にある、運動の制御に関わる部位。パーキンソン病ではここへのドパミンの供給が減る。
- MDS-UPDRS
- パーキンソン病の症状を評価する国際的な尺度。第II部は日常生活(患者本人が回答)、第III部は運動症状(医師が診察で採点)。点数が下がるほど症状が軽い。
- オフ時・good on
- 薬の効果が乏しい時間帯(オフ)と、薬がよく効いて副作用の少ない時間帯(good on)。
- PDQ-39
- パーキンソン病の生活の質を、患者本人が39項目で答える質問票。
- RMAT指定
- 米国FDAの再生医療の優遇指定。FDAとの密な協議や、優先審査・迅速承認の可能性が得られる。承認を保証するものではない。
- Fast Track指定
- 重い病気の治療薬の開発と審査を早めるための、米国FDAの指定。
- CIRM
- カリフォルニア州再生医療機構。州の機関で、幹細胞・遺伝子治療の研究に助成する。
- GMP
- 医薬品や再生医療等製品の製造管理・品質管理の基準。
- FDOPA PET
- 脳内のドパミン作動性の機能を画像で見る検査。細胞の生着や機能の目安に使われる。
AI生成による概念図13. 出典
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Receives FDA Regenerative Medicine Advanced Therapy (RMAT) Designation for Sasineprocel (ANPD001) to Treat Parkinson's Disease」(2026年7月30日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-receives-fda-regenerative-medicine-advanced-therapy-rmat-designation-for-sasineprocel-anpd001-to-treat-parkinsons-disease/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces Completion of Cohort 3 and 4 Dosing in Aspiro Phase 1/2a Trial of Sasineprocel for Parkinson's Disease」(2026年6月30日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-completion-of-cohort-3-and-4-dosing-in-aspiro-phase-1-2a-trial-of-sasineprocel-for-parkinsons-disease/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces Positive 12-Month Data from its ASPIRO Clinical Trial in a Late-Breaking Oral Presentation at the AD/PD 2026 International Conference」(2026年3月18日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-positive-12-month-data-from-its-aspiro-clinical-trial-in-a-late-breaking-oral-presentation-at-t/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces 6-Month ASPIRO Phase 1/2a Clinical Trial Results of Personalized Cell Therapy for Parkinson's Disease」(2025年5月7日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-6-month-aspiro-phase-1-2a-clinical-trial-results-of-personalized-cell-therapy-for-parkinsons-disease/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces Publication of Sasineprocel Preclinical Data in Cell Stem Cell」(2026年9月18日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-publication-of-sasineprocel-preclinical-data-in-cell-stem-cell/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces $115 Million Series C Financing to Accelerate Personalized Cell Therapy Programs」(2025年11月20日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-115-million-series-c-financing-to-accelerate-personalized-cell-therapy-programs/
- Aspen Neuroscience 投資家向け情報(シード、シリーズA〜Cの履歴)。 https://aspenneuroscience.com/investor-relations/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces Collaboration and License Agreement with Cell X Technologies」(2024年10月8日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-collaboration-and-license-agreement-with-cell-x-technologies/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Advances the Automated Production of Personalized Autologous Cell Therapy for Parkinson's Disease」(2025年1月8日)。GMP施設とMytosとの協業。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-advances-the-automated-production-of-personalized-autologous-cell-therapy-for-parkinsons-disease/
- Aspen Neuroscience プレスリリース「Aspen Neuroscience Announces Completion of First and Second Cohorts in ASPIRO Phase 1/2a Trial for Parkinson's Disease」(2025年1月13日)。 https://aspenneuroscience.com/aspen-neuroscience-announces-completion-of-first-and-second-cohorts-in-aspiro-phase-1-2a-trial-for-parkinsons-disease/
- Aspen Neuroscience 経営陣(Leadership Team)。 https://aspenneuroscience.com/leadership-team/
- Aspen Neuroscience 技術の概要(Technology Overview)。 https://aspenneuroscience.com/technology-overview/
- 米国国立医学図書館 ClinicalTrials.gov NCT06344026「Phase 1/2a Study of ANPD001 in Parkinson Disease」。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06344026
- 住友ファーマ 「日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」の製造販売承認取得に関するお知らせ」(2026年3月6日)。競合する他家の製品の確認用。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260306.html
- Aspen Neuroscience 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://aspenneuroscience.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月1日/Troy Technical
本稿の数値は、Aspen Neuroscienceの公式プレスリリースと投資家向け情報、ClinicalTrials.govに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は特定の治療や製品を勧めるものではなく、医療上の助言ではありません。