COMPANY PROFILE / 水素エネルギー
ネル
― ノルウェーの水電解専業。アルカリとPEMの2本柱で、受注の谷を越えようとしている
水素エネルギーの話題でNel ASAの名前が出るのは、アルカリ水電解とPEM水電解の両方を、自社の工場で量産する数少ない専業メーカーだからです。 会社の2026年7月の資料では、1927年創業、累計7,000台超の電解槽を80か国超に販売した実績を掲げ、アルカリの生産能力は約1GW、PEMは約500MWです。 一方、2025年12月期は売上が9億6,300万ノルウェー・クローネ(NOK)と前年から31%減り、営業損失は13億6,500万NOK(遊休化したアルカリの生産ラインとPEM事業の技術・のれんの減損を含む)でした。 2026年は、加圧式アルカリの新製品「PA-Series」を5月に発売した一方、6月にはCEOの辞任が発表されました。 本稿は、この会社が水素に何を投じ、受注と生産能力がどの段階にあるかを、一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかるNelと、水素エネルギーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 水素エネルギーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
- 水素エネルギー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるNelと、水素エネルギーでの立ち位置
Samsung E&Aが9.09%2025年12月31日。上位20位の合計は18.62%(FactSet集計)
(アルカリ・PEMの両方)電解槽(スタック)とその周辺設備を供給
Nelは「アルカリ(大型)が落ち込み、PEM(コンテナ型)で受注が続く」という構図の会社です 事実。 2025年12月期の売上は、アルカリが44%減、PEMが5%増。受注残は、アルカリが2025年6月の8億2,600万NOKから2026年6月の2億2,400万NOKへ減る一方、PEMは4億2,300万NOKから9億9,000万NOKへ増えました。 Nelが引き合いの中心にあると述べるのは、10〜50MWの小〜中規模案件と、コンテナ型のPEMです。 そのうえで、アルカリは「加圧式の新製品(PA-Series)」に切り替える方針で、従来品の生産ラインは遊休化し、減損を計上しました。 PEMのうち2億9,600万NOKの受注残は、会社が「大幅な遅延または解約のリスクが高い」と区分しています 事実。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Nel ASA(ASAはノルウェーの公開有限会社)で、ロゴは小文字の「nel」です。会社内の事業は Nel Alkaline Electrolyser(ヘロイア)と Nel PEM Electrolyser(ウォリングフォード)の2つ。 かつてNelの傘下にあった水素ステーション事業は、2024年に分離上場したCavendish Hydrogen ASA(別会社)です。 ロゴ画像は同社の公式サイト(nelhydrogen.com)で公開されているロゴ(PNG)を取得したものです。
公式サイト:https://nelhydrogen.com/3. 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
4. 会社の規模
金額はノルウェー・クローネ(NOK)のまま示します。会計年度は暦年(1〜12月)です 事実。
| 指標(百万NOK) | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2026年 上半期(前年同期) |
|---|---|---|---|
| 売上(顧客との契約) | 1,390 | 963 | 302(329) |
| EBITDA | △173 | △275 | △255(△201) |
| 営業損失 | △389 | △1,365 | △355(△340) |
| 純損失 | △258 | △1,265 | △332(△310) |
| 受注額 | 977 | 1,126 | 316(383) |
| 受注残(期末) | ― | 1,319 | 1,213(1,249) |
| 現金(期末) | 1,876 | 1,617 | 1,328(1,928) |
| 事業別(百万NOK) | 売上(2025年) | EBITDA(2025年) | 受注(2025年) | 受注残(2026年6月30日) | 従業員(同) |
|---|---|---|---|---|---|
| Nel Alkaline Electrolyser | 562 | △16 | 99 | 224 | 160人 |
| Nel PEM Electrolyser | 401 | △138 | 1,027 | 990 | 132人 |
2025年12月期の営業損失13億6,500万NOKには、減損が合計約8億NOK含まれます。内訳は、遊休化したヘロイアのアルカリ生産ライン(3億6,100万NOK)と、2016年に取得したPEM事業に係る技術・のれん(4億3,900万NOK)です。 会社は、次世代の加圧式アルカリが現行の製品の市場見通しを悪くする可能性が高いことを理由に挙げています 事実。 2026年4〜6月期のEBITDAには、Iwatani(米国)との訴訟の和解費用7,000万NOK(和解金750万米ドル)が含まれます。 2025年末の受注残が前年から18%減った主因は、解約・キャンセル(受注額が売上を上回ったにもかかわらず減った)と会社が説明しています。
会社は、収益性の確保には売上の増加が必要だと明記しています。 同時に、「生産能力を十分に使えた四半期には、セグメントの黒字を示した」「市場が成長に戻れば、事業全体の黒字化を見込む」とも述べています 未確定/将来。 これは会社の見通しであり、実績ではありません。
5. 水素エネルギーにかけているリソース
確認できたこと・できなかったことを分けます。
| リソースの種類 | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員は313人(2026年6月30日。アルカリ160人、PEM132人)。前年同期から13%減。2025年12月末は346人、年間平均は370人(2024年は423人)。会社はコスト削減と生産能力の調整を実施と説明。研究開発だけの人員は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 金(研究開発・技術開発) | アルカリの技術開発費は2025年に1億6,200万NOK(うち8,100万を資産計上、8,100万を費用)。PEMの研究開発費(費用)は1億5,400万NOK(前年1億2,600万)。2026年4〜6月期は、アルカリ2,700万、PEM3,300万NOK(費用)。次世代PEMの開発も進行中 | 事実 |
| 金(設備投資) | 2026年4〜6月期の有形固定資産への投資は3,400万NOK(主に加圧式アルカリの設備)、次世代電解槽の開発の資産計上は4,100万NOK。ヘロイアで年1GWの加圧式アルカリの生産ラインを建設中(2025年に最終投資決定。資産計上額は2025年末で6,700万NOK)。ウォリングフォードでは500MWへのPEMの増設計画(2026年に全面稼働の見込み)。総額の投資規模は会社全体の値のみ | 事実 |
| 外部への出資・買収・事業売却 | (1) 2025年3月にSamsung E&Aへの第三者割当(3億5,300万NOK)と、EPC(設計・調達・建設)の提携契約。同社は最大株主(9.09%)で、同社の幹部が取締役に就いている。(2) 2024年にCavendish Hydrogen(水素ステーション事業)を分離上場。Nelは同社の株式を短期投資として保有。(3) 2016年に取得したPEM事業の技術・のれんを2025年に減損 | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | EUイノベーション基金:加圧式アルカリの量産化に最大1億3,500万ユーロの補助に選ばれた(ノルウェーでの最大4GW分の自社投資と段階的に組み合わせる計画)。2026年4〜6月期に1億1,800万NOKを受領。一方、米国の研究助成が遅れ・取り消しになり、PEMのその他収入が減ったと会社が説明。大学との共同研究の具体名は確認できず | 事実/一部確認できず |
| 生産能力 | 会社資料(2026年7月):アルカリ(常圧)約1GW、加圧式アルカリ約1GW(建設中)、PEM約500MW。2025年の年次報告書は、自動化した工場の合計を約1.5GWと記載。ヘロイアの既存ラインは受注不足で遊休化しており、2025年12月以降についての契約上の義務はないと年次報告書が記載。加圧式アルカリは2026年末までに500MW、2027年に最大1GWの生産能力を設置する目標(会社の目標) | 事実/目標は未確定/将来 |
主要プロジェクトの状況です。Nelが顧客名と段階を公表している範囲に限ります。段階は会社の発表の表現のままです。
| 案件 | 場所 | 規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Douglas County Public Utility District(水力発電所の余剰電力で水素製造) | 米国ワシントン州 | PEM(コンテナ型)約700万米ドル | 確定した注文。運転開始は2027年上半期の予定(会社の説明) | 2026年4月23日 | 出典9 |
| 欧州の水素ステーション・産業向け(顧客Mesure Process) | 欧州 | PEM(コンテナ型)約700万米ドル | 2件目の注文。納入は2027年 | 2026年4〜6月期 | 出典3 |
| ノルウェーのプロジェクト | ノルウェー | PEM 5,000万米ドル超 | 設備の注文(2025年12月期中)。顧客名は確認できず | 2025年 | 出典1 |
| H2 Energy(スイス) | スイス | コンテナ型PEM | 3件目の注文(2025年12月期中) | 2025年 | 出典1 |
| Collins Aerospace(米海軍などの潜水艦の酸素発生用) | 米国・英国・フランス | PEMスタック 約1,200万米ドル+約700万米ドル(合計約2,000万米ドル) | 注文。納入は2027〜2028年 | 2026年9月29日・30日 | 出典10・11 |
| 大型アルカリ(100MW超)のFEED | ― | 100MW超 | 有償のFEED(基本設計)を確保。顧客名は確認できず | 2026年7月 | 出典2 |
| ヘロイアの加圧式アルカリの量産ライン(自社) | ノルウェー | 年1GW | 建設中(2025年に最終投資決定)。試験で品質と収率の改善を確認と会社が説明 | 2026年7月15日 | 出典2・3 |
| ウォリングフォードのPEMの増設(自社) | 米国コネチカット州 | 500MW | 増設中。2026年に全面稼働の見込み | 2026年2月 | 出典1 |
Nelは、次世代のPEM電解槽について「材料コストを大きく下げ、エネルギー効率を高める」開発を進めていると述べ、規模の小さい試験用電解槽を製作して量産への準備をしています 事実。 加圧式アルカリでは、独自の製造方法と出願中の特許を新しい点として挙げます。 PEMは一般に陽極のイリジウム触媒、アルカリは一般にニッケル系の電極と隔膜が材料費の主な部分と考えられますが 未確定/将来(一般的な説明)、Nelがどの材料をどう変えたのかは、確認した資料に書かれていません。 年次報告書は、PEM事業に係る技術・のれん4億3,900万NOKの減損を、市場見通しの変化によるものと説明しており、材料や性能の評価によるものとは述べていません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1927年/2014年 | 創業(会社資料)。2014年にオスロ証券取引所へ上場 | 約100年の電解槽の経験と会社が説明 |
| 2016年 | 現在のNel PEM Electrolyserとなる事業を取得 | PEMの入口。のち2025年に技術・のれんを減損 |
| 2024年 | 水素ステーション事業をCavendish Hydrogen ASAとして分離上場 | 電解槽に事業を絞る |
| 2025年3月 | Samsung E&Aに3億5,300万NOKの第三者割当。EPC協力の契約 | 最大株主(9.09%)になる |
| 2025年12月期中 | PEMでノルウェー向けに5,000万米ドル超、H2 Energy向けの3件目、米国の鉄鋼会社向け約700万ドル、米海軍向け約600万ドルなどを受注。ヘロイアのアルカリ生産ラインを一時停止し、人員も削減。加圧式アルカリの量産化に最終投資決定 | アルカリは受注が細り、PEMが伸びた年 |
| 2026年2月26日 | 2025年12月期の年次報告書を公表。アルカリの生産ラインとPEM事業の技術・のれんで約8億NOKの減損 | 次世代アルカリへの切り替えを前提とした会計処理 |
| 2026年5月6日 | 加圧式アルカリ「PA-Series」を商用に発売(15bar、25MWモジュール) | 8年超の開発と、ヘロイアでの実機大の試験を経たと会社が説明 |
| 2026年6月7日 | 米国のIwatani Corporation of Americaとの訴訟(水素ステーション機器に関する)を和解。Nelの和解金は750万米ドル | 米国での訴訟リスクを解消 |
| 2026年6月15日 | Håkon Volldal氏がCEOの辞任を発表(6か月の予告期間。後任を募集中) | 戦略は変えないと取締役会が表明 |
| 2026年7月15日 | 2026年4〜6月期の結果を発表。受注2億3,000万NOK(前年同期の3.2倍)、受注残12億1,300万NOK | PEMの受注が主因 |
| 2026年9月10日 | 英国のHydrasunと、PEM「MCシリーズ」の欧州での組立・統合の枠組み契約 | 欧州向けの供給網を広げる。スタックの製造は引き続き米国 |
| 2026年9月29〜30日 | Collins Aerospace向けの潜水艦用PEMスタックを追加受注(合計約2,000万米ドル) | 防衛・特殊用途の需要 |
7. 今後の計画
2027年に最大1GW会社の目標(ヘロイア)
今後数四半期でFIDの見込み会社の見方。顧客のFIDは顧客次第
上の数字は会社の目標・見方であり、実績ではありません 未確定/将来。ほかに、次の計画が公式資料にあります。
- PA-Series:具体的な関心があり、複数の顧客と対話中だが、まだ初期段階だと会社が説明。受注はまだ確認できず
- 次世代PEM:材料コストを大きく下げ、効率を高める開発が計画どおり進行中。小規模の試験電解槽を製作中
- Reliance Industries(RIL):専任チームを置いて協力。プロジェクトは開発中で、生産設備の主要サプライヤーは契約済み、建設は2026年に始まる見込みと会社が記載(内容の詳細は確認できず)
- Saipem:常圧アルカリをもとにした20〜100MWの一括パッケージ「IVHY 100」を提供。Compass H2-A+ SEAは、加圧式アルカリで100MWの保証つき提案ができるようになったと会社が説明
- 欧州の統合パートナー(Hydrasun):2026年9月に枠組み契約。組立能力の立ち上げ時期・数量は確認できず
PA-Seriesの受注/ノルウェーの5,000万米ドル超の案件の顧客名と、PEM受注残のうち「遅延・解約の大きなリスク」とされた2億9,600万NOKの具体的な案件/Relianceとの協力の具体的な内容/水電解装置の劣化率・寿命の公表値/ 研究開発人員の数/大学との共同研究の具体名。いずれも、確認した資料に記載がありません。
8. この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 戦略は「電解槽(スタックと周辺設備)の供給に集中し、残りはEPC企業と組む」 | 会社の見通しの記載。EPCパートナーとしてSamsung E&A、Saipem、Compass H2、統合パートナーとしてHydrasunなど | 事実 |
| 大型アルカリは「常圧の既存品」から「加圧式のPA-Series」へ切り替える | ヘロイアの既存ラインを遊休・減損、PA-Seriesの量産ラインを建設(年1GW)。会社が新製品を発売する一方、既存品の市場見通しが悪化すると説明 | 事実 |
| PEMはコンテナ型の標準品で、小〜中規模案件と特殊用途(防衛)を積み上げる | PEMの受注残は2025年6月の4億2,300万NOKから2026年6月の9億9,000万NOKへ。米海軍・潜水艦向けのスタックの継続受注 | 事実/推測(方向) |
| 1社の大型案件に頼らず、パートナー網で受注を広げる | SMA Altenso(電源)、PEM統合企業、スタック部材のサプライヤーとの枠組み契約を拡大(会社の説明) | 事実 |
| 大株主Samsung E&Aの資金と調達力を、大型案件の入口に使う | 2025年のEPC提携と第三者割当、最大株主への就任 | 推測 |
「大型アルカリは常圧から加圧式へ切り替える」と読む根拠は、会社自身が、次世代の技術が現行の製品の市場見通しを悪くする可能性が高いとして減損した点です 事実。 会社が生産ラインを遊休にして減損するのは、既存品の将来の需要が見込みにくいと判断したためだと本稿は読みます 推測。 同時に、Saipemのパッケージ「IVHY 100」は常圧アルカリをもとにしているため、既存品の販売は、パートナー経由では続くと読めます 未確定/将来。 ただし、既存品を最終的にどうするかは、会社が述べていません。
9. 水素エネルギー分野の提携マッピング
Nelの提携の特徴は、最大株主のSamsung E&AがEPC企業でもあることです 事実。 Nelは「自社の範囲を電解槽に絞り、範囲外はEPC企業と組む」方針を明記しており、Samsung E&Aは2025年にEPC提携を結びました。 資本関係と事業の関係が重なっているため、提携の成果は、Samsung E&Aが案件を取れるかに左右される可能性があります。ただし、この点について会社の資料は具体的な案件を挙げていません 推測。
10. 提供している技術・製品・サービス
製品の数値は、公式の製品ページと会社資料のメーカー公称です。製品ページは、スタックかシステムか、測定条件を明記していません。条件が異なる値は並べて優劣をつけません(下の表も、製品ごとの値です)。
| 区分 | 公式資料に載っている内容(メーカー公称) | ひとこと |
|---|---|---|
| 常圧アルカリ(A-Series) | 2.5MWスタック、水素は常圧。製造はノルウェー。製品ページ:485Nm³/h、4.5kWh/Nm³、純度99%以上 | 「業界の主力(ワークホース)」と会社が説明する成熟技術 |
| AWE-20 | 製品ページ:3,880Nm³/h、4.5kWh/Nm³、純度99%以上 | 大型案件向け。条件は明記なし |
| 加圧式アルカリ(PA-Series) | 25MWモジュール、水素は15bar。プラグアンドプレイのスキッド型で建物は不要。製品ページ:4,635Nm³/h、4.57〜4.77kWh/Nm³、純度99.5%以上。会社の目標・推計:システムの設備費を40〜60%減、据付面積を最大80%減、システム全体の電力消費51〜53kWh/kg、25MWの完成システムで1kWあたり1,450米ドル未満(30bar・純度99.99%に正規化した推計) | 2026年5月6日に発売。数値は会社の推計・目標で、実績ではない。受注は確認できず |
| PEM(MC-Series) | 1.25〜2.5MWのモジュール、水素は30bar。コンテナ型のターンキー。製造は米国。製品ページ:492Nm³/h、4.7kWh/Nm³、純度99.999%以上 | 2026年は注文が続く中核製品 |
| PEM(PSM-Series) | スタック技術のみの供給。製品ページ:2,020Nm³/h、4.7kWh/Nm³、純度99%以上 | EPC・統合企業向け |
| PEM(C・H・S-Series) | kW級のシステム(30bar)。研究室・産業・特殊用途向け。C-Series:10〜30Nm³/h、H-Series:2〜6Nm³/h、S-Series:1.05Nm³/h以下(製品ページ) | 売上の大部分は、kW級の小型機(2026年4〜6月期) |
| 特殊用途のPEMスタック | 潜水艦の乗員向けの酸素の発生用スタック(Collins Aerospace経由)。2026年9月の受注合計は約2,000万米ドル | 防衛向けで、長年の実績があると会社が説明 |
常圧のアルカリは、会社の資料によれば水素を常圧で出し、後段で圧縮が必要な設計です。一方、PA-Seriesは15barで水素を出し、会社は「後段の圧縮の必要を減らし、全体の効率を改善する」と説明します 事実。 材料の面では、加圧式にすると、電解液(アルカリ水溶液)を含む容器、配管、シール、隔膜が圧力に耐え、かつガスの混ざり合い(クロスオーバー)を抑えることが課題になります 未確定/将来(一般的な説明)。 会社は、PA-Seriesに独自の製造方法と出願中の特許が使われているとだけ述べ、隔膜や電極の材質、シールの材料は確認した資料に書かれていません。 また、製品ページの電力消費の値(kWh/Nm³、kWh/kg)は、スタックだけか、周辺設備を含むかが明記されておらず、PA-Seriesの「システム全体で51〜53kWh/kg」という会社の推計と直接は比べられません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 赤字と受注の谷 | 2025年のEBITDAは△2億7,500万NOK、2026年上半期も△2億5,500万NOK。会社は、収益性の確保には売上の増加が必要と明記。受注は四半期ごとに大きく変動 | 事実 |
| 受注残の遅延・解約 | 受注残12億1,300万NOKのうち、PEMの2億9,600万NOKは大幅な遅延または解約のリスクが高いと会社が区分。2025年には解約・キャンセルで受注残が減った | 事実 |
| アルカリの新旧交代 | 現行の生産ラインは遊休で、約3億6,100万NOKを減損。PA-Seriesは発売直後で受注を確認できない。製造ラインの立ち上げ(2026年末に500MW)は会社の目標 | 事実/未確定/将来 |
| 減損の再発 | PEM事業の技術・のれんを4億3,900万NOK減損済み。残るのれん6,140万NOKはアルカリ事業に帰属。会社は毎四半期、減損の兆候を点検 | 事実 |
| 経営陣の交代 | CEOの辞任(2026年6月)。後任は選定中で、予告期間は6か月 | 事実 |
| 訴訟・和解 | Iwatani(米国)との訴訟は750万米ドルで和解済み(キャッシュの支出は2026年第3四半期) | 事実 |
| 売掛金の回収 | 2026年6月30日時点の売掛金2億7,429万NOKのうち、1年超の延滞が1億1,426万NOK(予想信用損失の率35%) | 事実 |
| 政策・金利・案件のコスト | 会社は、政府の優遇策の遅れ・取りやめ、金利の上昇、水素設備の建設・運営費用が想定を上回ったことが、業界全体と自社の受注の減少、契約済み案件の遅延・取りやめにつながったと述べる | 事実 |
| 現金の減少 | 現金は前年同期の19億2,800万NOKから13億2,800万NOKへ減少。営業活動によるキャッシュフローは上半期に△1億6,400万NOK。2026年4〜6月期にEUの補助1億1,800万NOKを受領 | 事実 |
| 外部からの検証の難しさ | 製品ページの数値は条件が明記されず、PA-Seriesの値は会社の推計。劣化率・寿命の公表値も確認できない | 未確定/将来 |
本稿は企業の概要を整理したもので、水素の取扱い・運用についての助言ではありません。水素やアルカリ水溶液の取扱いは、各国の法令・規格・事業者の安全基準に従います。
12. 用語集
- ASA
- ノルウェーの公開有限会社の形態。
- NOK
- ノルウェー・クローネ。本稿は為替換算をしていません。
- アルカリ水電解(AWE)/PEM水電解
- アルカリ水溶液を使う電解/固体高分子膜を使う電解。本シリーズの技術解説「アルカリ水電解」「PEM水電解」を参照。
- 加圧式アルカリ(PA-Series)
- 水素を圧力をかけた状態(Nelでは15bar)で出すアルカリ水電解。後段の圧縮を減らせる。
- スタックと周辺設備(BoS/BoP)
- スタックは電解の心臓部。周辺設備は電源、精製、冷却、制御など。
- EPC/FEED/FID
- 設計・調達・建設/基本設計/最終投資決定。
- EBITDA
- 利息・税・減価償却・償却・減損を除く利益(Nelの定義)。
- 受注額と受注残
- Nelの定義では、価格・数量・時期・条件が確定した注文だけを受注額とする。受注残は、まだ売上に計上されていない受注額。
- EUイノベーション基金
- EUの排出量取引制度の収入を財源に、革新的な低炭素技術の実証・量産化を支援する基金。

13. 出典
- Nel ASA Annual Report 2025(2026年2月26日公表)。財務、事業別の数値、減損、従業員、生産能力、EUイノベーション基金の補助、株主、提携。 https://mb.cision.com/Main/115/4313005/3952679.pdf
- Nel ASA Q2 and half-year 2026 report(2026年7月15日)。上半期の結果、受注と受注残(遅延・解約リスクの区分)、現金、売掛金、減損の点検、見通し。 https://mb.cision.com/Public/115/4374557/96afc9701633c3dd.pdf
- Nel ASA Second quarter 2026 results presentation(2026年7月15日)。生産能力、受注、提携企業、PA-Seriesの推計。 https://mb.cision.com/Public/115/4374557/ad0ec0c3dd48158c.pdf
- Nel ASA プレスリリース「Second quarter 2026 financial results」(2026年7月15日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-second-quarter-2026-financial-results/
- Nel ASA プレスリリース「Launches next-generation pressurized alkaline platform…」(2026年5月6日)。PA-Seriesの発売と推計値。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-launches-next-generation-pressurized-alkaline-platform-redefining-simplicity-and-cost-efficiency-in-renewable-hydrogen-production/
- Nel ASA プレスリリース「Settlement agreement with Iwatani Corporation of America」(2026年6月7日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-settlement-agreement-with-iwatani-corporation-of-america/
- Nel ASA プレスリリース「Håkon Volldal resigns as CEO」(2026年6月15日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-hakon-volldal-resigns-as-ceo/
- Nel ASA プレスリリース「Enters framework agreement with Hydrasun…」(2026年9月10日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-enters-framework-agreement-with-hydrasun-as-a-european-integration-partner-for-pem-electrolyser-solutions/
- Nel ASA プレスリリース「Receives a USD 7 million purchase order for PEM equipment to be deployed in the US」(2026年4月23日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-receives-a-usd-7-million-purchase-order-for-pem-equipment-to-be-deployed-in-the-us/
- Nel ASA プレスリリース「Receives purchase order from Collins Aerospace for US Navy stacks」(2026年9月29日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-receives-purchase-order-from-collins-aerospace-for-us-navy-stacks/
- Nel ASA プレスリリース「Secures additional orders for submarine PEM electrolyser stacks」(2026年9月30日)。 https://nelhydrogen.com/press-release/nel-asa-secures-additional-orders-for-submarine-pem-electrolyser-stacks/
- Nel ASA 公式の製品ページ「Alkaline electrolysers by Nel」。常圧・加圧式・AWE-20の製品値(メーカー公称)。 https://nelhydrogen.com/products/alkaline-electrolysers-by-nel/
- Nel ASA 公式の製品ページ「PEM electrolysers by Nel」。MC・PSM・C・H・S-Seriesの製品値(メーカー公称)。 https://nelhydrogen.com/products/pem-electrolysers-by-nel/
- Nel ASA 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://nelhydrogen.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月8日/Troy Technical
本稿の数値は、Nel ASAの年次報告書、四半期報告書、決算説明資料、公式プレスリリースと製品ページに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。製品の数値はメーカー公称、PA-Seriesの数値は会社の推計・目標です。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。