COMPANY PROFILE / 水素エネルギー
旭化成
― 食塩電解で培った電解槽の技術を、アルカリ水電解へ。水素事業は2025年度から「事業化」の段階に入った
水素エネルギーで旭化成の名前が挙がるのは、イオン交換膜法の食塩電解で、膜・電解槽・電極・運転技術までを一括して供給してきた会社が、同じ電気分解の原理を水の電解(水電解)に広げているからです。 福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)では10MW級のアルカリ水電解装置を2020年3月から運転し、 川崎製造所では0.8MW×4モジュールのパイロット設備で複数モジュールの制御を検証しています。 2025年7月にはフィンランドから1MW級のコンテナ型装置を受注し、会社はこれを「商用化後、初の受注」と説明しています。 本稿は旭化成全体ではなく水素事業に限り、何を投じ、誰と組み、どこまで公表しているかを一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかる旭化成と、水素エネルギーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 水素エネルギーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
- 水素エネルギー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる旭化成と、水素エネルギーでの立ち位置
証券コード 34072026年3月期の決算短信に記載
材料・部品(従)方式はアルカリ水電解。食塩電解の部材も併産
Aqualyzer-C³大型システムと、1MW級のコンテナ型
(FH2R)川崎にも0.8MW×4モジュールのパイロット設備
フィンランド(1MW級)会社は「商用化後、初の受注」と説明
旭化成の水素事業は、「水素を売る会社」でも「電解槽だけを売る会社」でもなく、 食塩電解で、膜・電解槽・電極・運転・監視までを一括で扱ってきた会社が、同じ電気分解の設備として水電解を広げているものです 事実。 2025年10月に決めた川崎製造所の新工場は、水電解用と食塩電解用の電解用枠・電解用膜を同じ設備で併産する計画で、 会社は「食塩電解と水電解を両輪」にすると説明しています 事実。 一方、水素事業だけの売上・利益・人員は公表されておらず、本稿で一次資料から確認できた受注は1件(1MW級)です 未確定/将来。会社が掲げる100MW超級の事業化は、これからの話です。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「旭化成株式会社」、英文は Asahi Kasei Corporation です。 本稿は水素事業に限って書いており、本シリーズの高分子・樹脂の分野にある旭化成の記事とは別に、水素エネルギーの視点で新しく書いたものです。 製品名の Aqualyzer(アクアライザー)と Aqualyzer-C³ は旭化成の製品名で、法人名ではありません。 フィンランドの Cefmof(Central Finland Mobility Foundation)は納入先で、旭化成の子会社ではありません。 ロゴ画像は、旭化成のAqualyzer公式サイトで公開されている白抜きのロゴを取得し、暗い背景に置いています。
公式サイト:https://www.asahi-kasei.com/jp/3. 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
4. 会社の規模(水素事業に関わる範囲で簡潔に)
旭化成は「ヘルスケア」「住宅」「マテリアル」の3領域をもつ総合化学メーカーです。水素事業はマテリアルの中の「エナジー&インフラ」事業に含まれ、 その売上・利益は単独では開示されていません。会社全体と、水素が属するセグメントの数字だけを示します 事実。
| 指標(百万円) | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高(連結) | 3,037,312 | 3,074,505 |
| 営業利益(連結) | 211,921 | 231,200 |
| 研究開発費(グループ全体) | 110,641 | 110,537 |
| 「マテリアル」セグメントの売上高 | ― | 約1兆3,062億円(営業利益約683億円) |
| 設備投資(有形・無形、のれん除く、検収ベース) | ― | 222,324 |
連結従業員数は47,895人(2026年3月31日現在)、資本金は1,033億8,900万円です。 有価証券報告書の2026年3月期の設備投資は「マテリアル」が1,648億円で最大ですが、記載された主な内容はリチウムイオン電池用セパレータの塗工能力増強、水力発電所の改修などで、水電解の設備は挙げられていません。
上の数字は会社全体(またはマテリアルセグメント全体)のもので、水素事業の規模を示すものではありません。 有価証券報告書は水素関連の売上・利益・研究開発費・人員を区分して示していません。 本稿はこれらを推計しません 未確定/将来。 2021年のNEDO向け事業戦略ビジョンには水電解の売上計画(2030年度290億円、2035年度588億円)が載っていますが、これは事業開始時点の計画であり、実績ではありません。
5. 水素エネルギーにかけているリソース
金額・人員の多くは水素事業だけでは開示されていません。確認できたもの、できなかったものを区別して示します。
| リソースの種類 | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 水素事業の担当部署として「グリーンソリューションプロジェクト」(会社の説明では主にアルカリ水電解の効率向上や劣化抑制などの要素技術)と生産技術本部(大型化や変動応答制御などのシステム開発)が挙がる。2026年3月、この2部署の技術者6名(各3名)が電気化学会の技術賞を受賞。水素事業の人員数は非公表 | 事実/非公表 |
| 金(研究開発) | グループの研究開発費は1,105億円(2026年3月期)。水素分は非公表 | 事実/非公表 |
| 金(設備投資) | 川崎製造所の新工場(電解用枠・電解用膜):2024年12月の発表では総額350億円規模(最大114億円の助成の予定)、2025年10月の決定では約310億円(うち最大3分の1がGXサプライチェーン構築支援事業の補助金)。会社は「設計内容を精査中で、投資額は変動の可能性」と明記 | 事実(計画) |
| 外部への出資・提携 | カナダのIonomr Innovations(AEM方式の水電解用膜)への出資参画を2023年12月に決定。De Nora(イタリア)とコンテナ型システムの開発・販売で覚書(2024年9月)。日揮HDとGI基金事業を共同提案。Gentariとはマレーシア案件の覚書(2023年11月)。買収・合弁・事業売却は水素分野で確認できず | 事実/確認できず |
| 公的資金・研究機関 | NEDO委託事業(FH2R、2020年〜)、NEDOグリーンイノベーション基金(川崎のパイロット設備の建設・運用に助成)、経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業(2024年12月採択)。大学との共同研究の具体名は確認できず | 事実/確認できず |
| 業界団体 | Hydrogen Councilにステアリングメンバーとして加入(2022年10月)、日本水素フォーラム(米国)に加入(2023年7月) | 事実 |
主要プロジェクトの状況
| 案件 | 場所 | 規模 | 段階 | 日付・備考 |
|---|---|---|---|---|
| FH2R(福島水素エネルギー研究フィールド) | 福島県浪江町 | 10MW級(約200枚のセル) | 稼働中の実証 | 2020年3月に稼働開始。会社は2024年5月時点で「4年以上運用」と説明。NEDO委託事業 |
| 川崎のパイロット設備 | 神奈川県川崎市(川崎製造所) | 0.8MW×4モジュール | 実証運転中 | 2022年11月着工、2024年3月に試運転完了、2024年5月13日に開所式。NEDOのGI基金の助成 |
| Cefmofの水素ステーション | フィンランド・ユバスキュラ | 1MW級、約400kg/日(フル稼働時) | 設置作業中(未確定/将来) | 2025年7月に受注、2026年3月に設置開始。2026年7月頃に水素製造を開始、年内に定常運転へ移行する計画。製造開始の実績は確認できなかった |
| 浪江のグリーンアンモニア実証(日揮HD) | 福島県浪江町 | FH2Rの電解槽の水素を利用 | 建設中と会社が説明(2023年11月) | NEDOは2025年7月時点で「一部機器の納入が遅延」と記載 |
| マレーシアの60MW級(Gentari、日揮HD) | マレーシア | 60MW級、年8,000トンのグリーン水素 | 基本設計(FEED)への移行で覚書(2023年11月) | 会社は2027年の実証運転を目標と説明。NEDOは2025年7月時点で、GI基金の「Phase2」について「海外実証地の見直し」と記載(マレーシアとは明記されていないが、旭化成はこの案件をGI-Phase2と位置づけている)。その後の状況は確認できなかった |
| 欧州の実証(ALIGN-CCUS、TAKE-OFF) | ドイツ | 中型電解槽 | 実証(2020年〜) | 水素は発電所のCO₂と合わせて航空燃料(SAF)の合成に利用される実証と会社が説明 |
2021年のNEDO向け事業戦略ビジョンは、水電解の要素技術の目標として「消耗部材寿命4年以上(2023年度)」を掲げ、 その設定の考え方を「食塩電解槽の消耗品寿命」に置いています 事実(事業開始時点の計画であり、達成の報告ではありません)。 電解槽は、隔膜・電極・ガスケットといった消耗部材の交換で性能を保つ設備です。 食塩電解で膜と電極の寿命を長年管理してきた会社が、その尺度を水電解に持ち込んでいる、という構図です。 ただし、食塩電解は安定した電力で運転するのに対し、再生可能エネルギーを電源とする水電解は出力が変動し、停止と起動も増えます。 同じ寿命の目標を変動条件で満たせるかは、川崎の複数モジュールの実証で検証している最中です 未確定/将来。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1923年 | 宮崎県延岡で、水力発電の電気を使った水の電解による水素製造を開始(アンモニア原料) | 会社の電解事業の起点(パンフレットの記載) |
| 1975年 | イオン交換膜法食塩電解システムを事業化 | 水電解の技術的な土台。累計の納入規模などは会社の説明(下記) |
| 2010年 | アルカリ水電解システムの開発に着手 | 会社は2010年から大型化・量産化を見据えた検証を続けたと説明 |
| 2020年 | 欧州の共同プロジェクトALIGN-CCUSに参画(2021年から後継のTAKE-OFFへ)。3月、FH2Rで10MW級を稼働 | 中型機の欧州実証と、大型機の国内実証が並行 |
| 2022年10〜11月 | Hydrogen Councilに加入(10月28日)。川崎のパイロット設備を着工(11月7日) | 国際ネットワークと複数モジュール検証の開始 |
| 2023年7〜12月 | 日本水素フォーラムに加入。11月にGentari・日揮HDと60MW級の覚書。12月にIonomr(AEM膜)へ出資参画を決定 | 米国・東南アジアへの接点と、次世代膜への投資 |
| 2024年3〜5月 | 川崎のパイロット設備で水素製造を伴う試運転を完了(3月)。5月13日に開所式 | 複数モジュールの制御検証が本格化 |
| 2024年9月 | De Noraとコンテナ型システムの開発・販売で覚書 | 大型のAqualyzerを補う、小型・分散型の製品系列 |
| 2024年12月 | 経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業に採択 | 電解用枠・膜の量産設備の整備へ |
| 2025年7月 | Cefmofから1MW級のAqualyzer-C³を受注 | 会社は「商用化後、初の受注」「事業化フェーズへ本格的に移行」と説明 |
| 2025年10月 | 川崎製造所の新工場の建設計画を正式決定(電解用枠・膜、各2GW超。2028年度稼働予定) | 投資額は約310億円と発表(変動の可能性) |
| 2026年3月 | フィンランドで設置開始(12日)。電気化学会の2026年技術賞(棚橋賞)を受賞(18日授賞式、19日発表) | 受賞対象は「10MW級大型アルカリ水電解装置の技術開発および長期実証」 |
7. 今後の計画
上のいずれも会社の計画・目標であり、達成された事実ではありません 未確定/将来。 計画の時期は、発表のたびに少しずつ変わっています。
| 発表時期 | 会社の説明(時期や数字の変遷) |
|---|---|
| 2022年10月 | FH2Rの成果を基に、複数の10MWモジュールからなる大型装置を2025年までに上市する予定 |
| 2024年5月 | アルカリ水電解装置の受注開始を2025年に予定。2030年近傍に1,000億円規模の売上を目指す |
| 2024年12月 | 2030年頃に欧米・アジアを中心とする世界の主要な水電解装置市場で20%のシェアを獲得する。一方で「世界で実際に安定稼働しているプロジェクトはまだわずか」とも述べる |
| 2025年7月 | 1MW級のコンテナ型(エントリーモデル)で最初の受注。大型システムへの導入につなげる体制と説明 |
| 2025年10月 | 2025年度から「本格的に事業化フェーズへ移行」と説明 |
次はいずれも、本稿で確認した一次資料に記載がありませんでした 未確定/将来。
水素事業だけの売上・利益・人員/100MW超級の具体的な受注案件/マレーシア案件(GI-Phase2)の現在の状況と実証地/フィンランド案件の製造開始の実績(2026年7月頃の計画のみ)/ NEDOのGI基金で旭化成が受ける助成額の個別の数字。なお会社のリリースは世界の水電解槽の導入量予測(外部機関の推計)を引用していますが、調査会社の推計は本稿では採用しません。
8. この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
会社が書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 水電解のリーディングサプライヤー、つまり装置と部材の供給者になることを目指している | 会社は2025年10月に「水電解分野でのリーディングサプライヤーとなる」「GXサプライチェーンの中核を担う」と記載 | 事実(会社の目標) |
| 大型機は常圧のアルカリ、小型・分散型は加圧のコンテナ型と、用途で製品を分けている | 2024年9月の発表で、Aqualyzerは常圧大型電解槽で大量・安価な製造を得意とし、コンテナ型は導入コスト・設置スペース・納期の面で負担が少ないと説明 | 事実 |
| 食塩電解と水電解を一つの生産設備で支え、投資リスクを分けている | 新工場は両用の電解用枠・膜を併産でき、「収益基盤を維持・拡大しながら水素関連事業への先行投資を両立」と説明 | 事実/推測(リスクを分ける意図) |
| 当面の売上は、装置の販売よりも小型機・部材・保守から立ち上がる可能性がある | 公表された受注が1MW級の1件で、「導入後の保守・運用も継続支援する」と説明。大型の受注は未公表 | 推測 |
| 次世代のAEM方式にも備えている | Ionomrへの出資(2023年12月)。有価証券報告書はAEMを「性能・コストの面で改善が期待される次世代膜」と説明 | 事実/推測(備えの意図) |
「食塩電解と水電解で投資リスクを分けている」という読みの根拠は、新工場の作り方です。 2024年12月の発表で会社は、水素市場の立ち上がりについて「時期が不透明」と認めながら、 新設備を食塩電解用の枠・膜も作れる形にして、食塩電解の需要拡大と水電解の市場拡大の「両方に対応できる体制」にすると説明しました 事実。 水電解の需要が予想より遅れても、設備が食塩電解向けに使える余地を残した設計だと読めます。 ただし「リスクを分けるため」とは書かれておらず、これは本稿の解釈です 未確定/将来。
9. 水素エネルギー分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
会社の製品は2系列です。いずれもアルカリ水電解で、性能の数値はメーカー公称(パンフレット記載の予想値)であり、運転条件によって異なります。
| 製品 | 公式資料に載っている内容 | ひとこと |
|---|---|---|
| Aqualyzer(大型) | 10MWを基本ユニット(モジュール)とし、複数を組み合わせて大型化。電解槽・膜・電極・制御システムを一括で提供。常圧の大型電解槽で、大量・安価な水素製造を得意とすると会社が説明 | FH2Rで10MW級、川崎で0.8MWモジュールを実証 |
| Aqualyzer 100MWシステムの仕様(パンフレット、予想値) | 水素ガス製造能力 20,000 Nm³/h/モジュール数 10/運転範囲 15〜100%/消費電力 4.4 kWh/Nm³(DC)/水素ガス吐出圧力 0.5 barG(スタック出口)/純水消費量 0.9 L/Nm³/水素純度 最大99.999%(精製装置使用時) | 「数値はいずれも予想値であり、運転条件によって異なる」と注記。他社の値と並べて優劣をつけない |
| Aqualyzer-C³(コンテナ型) | 1MW級。水素製造に必要な機器をコンテナに収めた、新規導入向けのエントリーモデル。フィンランド案件は約400kg/日で、1時間に約3台分の燃料電池車を充填できる量 | コンテナ型の開発・販売でDe Noraと覚書(2024年9月)。覚書の対象システムは1〜7.5MWの加圧小型電解槽を使う仕様と説明 |
| 運転・保守サービス | 運転データに基づく遠隔監視、予兆保全、最適運転の提案。納入後の保守・運転も継続して支援すると会社が説明 | 食塩電解のデータ活用の経験を水電解へ |
| 部材(電解用枠・膜) | 川崎製造所の新工場で、水電解用と食塩電解用の電解用枠・電解用膜を併産する計画(2028年度) | 装置の外販にとどまらず部材の供給も事業の柱に |
パンフレットは、Aqualyzerのセルを陽極・陰極・隔膜・ガスケット・マットレス・集電体で図示し、 開発の重点を「隔膜、電極、電解セル構造の水電解への最適化」「電解液の内部循環や均一性の向上」と説明しています 事実。 アルカリ水電解では、隔膜がガスを分けつつイオンを通し、電極が反応を担うため、この2つの材料と、電解液を均一に流す構造が電圧(効率)と寿命に効きます (本シリーズの技術解説「アルカリ水電解」「水電解スタックと材料」を参照)。 また、隔膜・電極を交換しやすいフィルタープレス構造は、消耗部材を替えながら長く使う前提の設計で、停止時間(ダウンタイム)の短縮を狙うものと会社が説明しています。 一方で、膜と電極の具体的な材料・組成、寿命の実測値は公式資料から確認できませんでした 未確定/将来。
次世代のAEM方式は、会社が「希少金属を使わないことからコスト面の可能性が期待される」と説明していますが、これは出資先(Ionomr)の技術に対する期待の表明で、性能や耐久の実証結果ではありません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 水素市場の立ち上がりが読みにくい | 会社自身が「水素社会の立ち上がり時期が不透明」「世界で実際に安定稼働しているプロジェクトはまだわずか」と述べている | 事実 |
| 受注実績が少ない | 確認できた受注は1MW級の1件。会社が掲げる100MW超級・2030年頃のシェア20%という目標との間に開きがある | 事実/推測(開きの大きさ) |
| 実証の遅れ・案件の見直し | NEDOは2025年7月時点で、浪江のアンモニア実証(Phase1)で一部機器の納入が遅れ、Phase2で海外実証地の見直しがあったと記載(全体の巻き返しは可能な見込みとも記載)。旭化成はマレーシア案件をPhase2と位置づけている | 事実(NEDOの記載) |
| 計画の変更が重なっている | 「2025年までに上市」(2022年10月)から「受注開始は2025年」(2024年5月)、小型機の先行受注(2025年7月)へ。新工場の投資額も約350億円規模から約310億円へ | 事実 |
| 公的支援への依存 | 川崎のパイロット設備はGI基金の助成、新工場はGXサプライチェーン構築支援事業の補助金(最大3分の1)を前提にしている | 事実/推測(依存の度合い) |
| 競争 | 2021年の事業戦略ビジョンは、競合としてthyssenkruppやNelなどの名前を挙げている。会社は2030年頃の20%シェアを目標とするが、達成の見通しは本稿では評価しない | 事実(会社の整理) |
| 外部からの検証が難しい | 水素事業の売上・利益・人員・研究開発費が非開示で、事業の進捗を財務から確かめられない | 未確定/将来 |
12. 用語集
- アルカリ水電解
- アルカリ性の電解液の中で水を電気分解して水素をつくる方式。隔膜で水素と酸素を分ける。大型化の実績が長い。
- イオン交換膜法食塩電解
- 食塩水を電気分解して、塩素・苛性ソーダ・水素をつくる工業プロセス。旭化成は1975年に事業化。
- モジュール
- 電解槽本体と最低限の周辺機器からなる構成単位。旭化成は10MW規模を基本とし、複数を並べて大型化する。
- FH2R
- 福島水素エネルギー研究フィールド。福島県浪江町にあるNEDO事業の水素製造施設。
- GI基金
- NEDOのグリーンイノベーション基金。2050年のカーボンニュートラルに向けた重点分野の研究開発・実証を支援する。
- GXサプライチェーン構築支援事業
- 経済産業省の事業。GX分野の国内製造サプライチェーンの整備を支援する。
- FEED
- 基本設計(Front-End Engineering and Design)。実現可能性調査の次に行う設計段階。
- AEM
- アニオン交換膜(Anion Exchange Membrane)。水酸化物イオンを通す膜で、これを使う水電解を「AEM水電解」と呼ぶ。
- Nm³
- 標準状態(0℃、1気圧)に換算した気体の体積。水素の製造量などに使う。
- 有価証券報告書
- 日本の上場企業が提出する年次報告書。金融商品取引法で定められた法定開示。

13. 出典
- 旭化成 第135期 有価証券報告書(2025年4月1日〜2026年3月31日)。売上・研究開発費・設備投資、セグメント別の状況、水素関連事業とAEM膜、CVC投資枠の記載。 https://www.asahi-kasei.com/content/dam/asahi-kasei/jp/ja/ir/library/financial-report/pdf/135j-0624.pdf
- 旭化成(東京証券取引所の開示) 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年5月12日)。連結の売上高・営業利益、上場取引所。 https://www2.jpx.co.jp/disc/34070/081220260511523883_tse-acedjpsm-34070-20260512334070-ixbrl.htm
- 旭化成 会社概要(商号、創業、設立、本社、資本金、連結従業員数〔2026年3月31日現在〕)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/company/profile/
- 旭化成 Aqualyzer 公式サイト(水素製造用大型アルカリ水電解システム)。特長、食塩電解の実績、沿革、参画プロジェクト。 https://ak-green-solution.com/
- 旭化成 Aqualyzer パンフレット。セル構造、10MWモジュール、100MWシステムの仕様(予想値)、沿革。 https://ak-green-solution.com/assets/pdf/brochure_ja.pdf
- 旭化成 水素製造用アルカリ水電解パイロット試験設備の着工について(2022年11月7日)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2022/ze221107.html
- 旭化成 旭化成・Gentari・日揮HD、マレーシアでの60MW級アルカリ水電解システムの建設を含む水素製造プラントの基本設計に関する覚書を締結(2023年11月15日)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2023/ze231115.html
- 旭化成 水素製造AEM方式の膜を手掛けるカナダ・Ionomr社への出資参画について(2023年12月6日)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2023/ze231206.html
- 旭化成 川崎製造所における水素製造用アルカリ水電解パイロット試験設備を本格稼働(2024年5月14日)。FH2R・川崎・マレーシアの取り組みと今後の方針。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2024/ze240514.html
- 旭化成 旭化成とDe Nora、水素製造用コンテナ型アルカリ水電解システムの開発および販売に関する覚書を締結(2024年9月11日)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2024/ze240911.html
- 旭化成 経済産業省GXサプライチェーン構築支援事業に採択(2024年12月18日)。当初の投資額350億円規模、2030年頃の20%シェア目標。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2024/ze241218_2.html
- 旭化成 フィンランドの水素プロジェクトにコンテナ型アルカリ水電解システムAqualyzer-C³を供給(2025年7月30日)。受注、商用化後の初受注、事業化フェーズへの移行。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2025/ze250730
- 旭化成 クリーン水素製造用アルカリ水電解システムの生産能力を拡大(2025年10月23日)。新工場の概要、投資額約310億円、2028年度稼働予定。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2025/ze251023
- 旭化成 フィンランドの水素プロジェクトでAqualyzer-C³の設置開始(2026年3月12日)。2026年7月頃の水素製造開始の計画。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2026/ze260312
- 旭化成 電気化学会2026年技術賞(棚橋賞)の受賞(2026年3月19日)。FH2Rと川崎の実証、受賞者の所属。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2026/ze260319
- 旭化成 Hydrogen Council(水素協議会)へ加入(2022年10月28日)。2025年までの上市予定の記載。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2022/ze221028.html
- 旭化成 米国の脱炭素化を支援する「日本水素フォーラム」へ加入(2023年7月13日)。 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2023/ze230713.html
- NEDO 再エネを利用した世界最大級の水素製造施設「FH2R」が完成(2020年3月7日)。FH2Rの規模(10MW、毎時1,200 Nm³〔定格〕、太陽光20MW)。 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101293.html
- NEDO グリーンイノベーション基金 旭化成 事業戦略ビジョン「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発およびグリーンケミカルプラントの実証」(事業開始時点)。売上計画、KPI(消耗部材寿命、設備コスト)、競合の整理。 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/hydrogen-production-water-electrolysis-utilizing/item-001/vision-asahikasei-001.pdf
- NEDO グリーンイノベーション基金 再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造(プロジェクトの進捗。2025年7月時点のサマリー)。 https://green-innovation.nedo.go.jp/project/hydrogen-production-water-electrolysis-utilizing/progress/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月/Troy Technical
本稿の数値は、旭化成の有価証券報告書・決算短信・公式リリース・Aqualyzerのパンフレット、およびNEDOの公開資料に基づきます。調査会社の市場推計は使用していません。製品の性能値はメーカー公称(予想値)で、運転条件・規模が異なる値を並べて優劣をつけることはしていません。会社の計画・目標は未確定であり、達成された事実ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は水素の取扱いに関する助言ではありません。