INSTITUTION PROFILE / 機能性材料
米国地質調査所(USGS)
― 鉱物の「数字」と「重要鉱物リスト」を出す、規制権限のない科学機関
USGSは米国内務省の科学機関で、鉱山も工場も持たず、規制もしません。 機能性材料に関わる役割は、毎年の鉱物統計(Mineral Commodity Summaries)を出し、法律にもとづく重要鉱物リストを作る作業を担うことです。 ただしリストを指定するのは内務長官で、USGSはその名で作業する立場です。 本稿では、USGSが機能性材料にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかるUSGS
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 機能性材料で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるUSGS
USGSは数字と評価を出す側で、ルールや価格を決める側ではありません。 重要鉱物リストは、2020年エネルギー法(Energy Act of 2020、Public Law 116-260)の第7002条にもとづき、 連邦官報の公示では「内務長官が、USGS局長を通じて」提示した、と書かれています 事実。 2025年の最終リスト(2025年11月7日公示)は、USGSの手法が推薦した鉱物に加え、他省庁の意見や公募意見を受けて ヒ素・ホウ素・金属原料炭・リン鉱石・テルル・ウランが入り、60鉱物になりました 事実。 つまり、最後に決めるのは内務長官であり、USGSの手法だけでは決まらないのが実態です。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
機能性材料の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 機能性材料で何をしているか
機能性材料に関わるUSGSの仕事は、大きく3つの系統に分かれます 事実。
| 系統 | 根拠・時期 | 中身 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 鉱物統計 Mineral Commodity Summaries(MCS) | 毎年発行。2026年版は2026年2月6日に初公開、2026年5月27日に改訂(第1.3版、222ページ) | 90を超える鉱物・材料について、国内産業の構造、関税、5年間の主要統計、世界の生産量・埋蔵量・資源量を2ページずつにまとめる。たとえばレアアース(化合物・金属)の米国の純輸入依存度は2025年の推計で67%(2024年は53%、2021・2022年は95%超)、2021〜2024年の輸入元は中国(香港を含む)が71% | 全国鉱物情報センター(NMIC) |
| 重要鉱物リスト | 2020年エネルギー法 第7002条。最終2025年版は2025年11月7日公示(90 FR 50494)。草案は2025年8月26日(54鉱物)、公募意見163件 | 供給途絶が米国の経済と安全保障に与える影響を評価して一覧にする。2025年版は60鉱物(2022年版は50)。評価の手法は、84鉱物を対象に1,200超の途絶シナリオが402の産業に与える影響を調べるモデル | 内務長官が指定。USGSが手法・分析・公示を担当 |
| 資源の調査・地図づくり | Earth Mapping Resources Initiative(Earth MRI)ほか。内務省の2026会計年度予算説明書 | 全国の航空物理探査・地質図・地球化学データを整備し、重要鉱物の資源評価(黒鉛・リチウム、ニッケル・コバルト・白金族を含む鉱床タイプ)や鉱山廃棄物からの回収の可能性を調べる。鉱物資源プログラムの予算は2024年の実績で6,873万ドル(2026年の要求額は6,990万ドル) | 鉱物資源プログラム、州の地質調査所と連携 |
MCSは、各元素の用途も簡単に載せています。 たとえば、ガリウムは集積回路と光学デバイス、ゲルマニウムは光ファイバー・暗視装置・半導体、インジウムはフラットパネルディスプレイとタッチスクリーン、ジスプロシウムなどは永久磁石の材料として挙げられています 事実。 米国のリストにはインジウムが入っていますが、EUの重要原材料法の附属書IIには入っていません。 つまりリストは国や地域ごとに違い、同じ材料でも「重要」とされる理由と範囲が変わります。 透明導電膜や磁石の技術解説で触れる元素の供給の話は、どの国のリストを前提にするかで変わる点に注意が必要です。 ただし、リストに載ることが特定の材料や製品の優劣を決めるものではありません。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | USGSが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 鉱物の統計を集めて公表する権限と実務。重要鉱物リストの手法を作り、分析し、草案と最終版を公示する作業(法律上は内務長官の名で)。資源の調査・地図づくり | 規制・許認可・価格を決める権限(USGS自身は「内務省の科学機関」と説明している)。リストの最終的な指定(内務長官)。金属原料炭とウランの統計(USGSはこの2つのデータを集めていない) |
| 地域 | 米国の連邦政府が最も直接の利用者。MCSは世界の生産量・埋蔵量を載せ、予算説明書は州の機関、民間企業、市場アナリスト、貿易相手国も使うと書く。『Minerals Yearbook』は米国以外の180を超える国・地域も扱う | 他国のリストや規制を決める権限。米国内の鉱山の許認可(土地を管理する連邦機関などが判断し、USGSは科学情報を提供する側) |
| 期間 | MCSは毎年更新。リストは法律で少なくとも3年ごとの更新が求められる | リストの更新時期の保証。次回の更新日は確認できなかった |
| 規模 | 職員6,776名(2025年9月)。2026会計年度の要求額は8.916億ドル(全分野)。NMICは月に2,000件を超える問い合わせに答えると予算説明書に書かれている | 機能性材料だけの予算は公表されていない。鉱物資源プログラム全体は2026年の要求額6,990万ドル |
MCSの2025年の数字の多くは推計値(e)で、企業の機密保護のため非公開(W)や、データなし(NA)になっている項目もあります 事実。 また、60鉱物には、肥料原料のリン鉱石とカリ、金属原料炭、ウランも入っているため、 リストの鉱物数は機能性材料に関係する元素の数ではありません。 リストが米国の企業の調達や政策にどう使われているかの全体像は、USGSの資料には確認できませんでした 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
この章では、一次情報に記載のある「誰が何を担うか」だけを図にしています。USGSの資料で関係を確認できた本シリーズの企業はありません(確認できなかった)。
| 組織 | 役割(一次情報の記載) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| 内務長官(内務省) | 重要鉱物リストの指定者。省庁間協議と公募意見を踏まえて最終版に鉱物を加えた | USGSの上位の省。リストの最終判断者 |
| エネルギー省(DOE)ほか | 協議の相手。エネルギー省は金属原料炭とウランの追加を推薦、農務省はリン鉱石、国防総省(原文は Department of War)はヒ素とテルルの重要性を指摘 | DOEの機関解説を参照。研究資金の機関で、リストの指定者ではない |
| 州の地質調査所 | Earth MRIで連携し、全国の地図・物理探査データを整備する | 資源調査の協力先 |
| DARPA、ARPA-E | AI・機械学習による鉱物資源評価の共同事業(CriticalMAAS)。2025会計年度に終了 | ARPA-Eについては、DOEの機関解説を参照 |
| 欧州委員会 | EUの重要原材料のリストは別の法体系(規則(EU)2024/1252)で、別の基準・別の数(戦略的原材料17、重要原材料34) | 欧州委員会の機関解説を参照。USGSの資料にEUとの調整の記載は確認できなかった |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 次回の重要鉱物リストの更新時期は確認できなかった。法律は少なくとも3年ごとと定めるが、公示文の要旨は「少なくとも2年ごと(biannually)」とも読める書き方をしている | 連邦官報 90 FR 50494(要旨と本文の記載) | 未確定/将来 |
| 2026会計年度の予算は、要求額で全体が2024年実績の約6割(8.916億ドル÷14.55億ドル、本稿の計算)に縮む一方、鉱物資源プログラムはほぼ横ばい。成立した額は確認できなかった | 内務省の2026会計年度USGS予算説明書(要求額8.916億ドル、鉱物資源プログラム6,990万ドル) | 未確定/将来 |
| MCSは例年どおり2027年の年初に新版が出る | 2026年版は2026年2月6日に初公開(毎年発行と記載)。2027年版の予定は確認できなかった | 推測 |
| リストが50から60に広がり、肥料・石炭・ウランまで含むため、「リストに載っているか」より、MCSの個別の輸入依存度や輸入元の表のほうが材料の判断には役立つ | 最終2025年版の60鉱物と、MCS 2026の表7(個別鉱物の純輸入依存度・輸入元) | 推測 |
7. 用語集
- Mineral Commodity Summaries(MCS)
- USGSが毎年出す、90を超える鉱物・材料の生産・消費・貿易・埋蔵量の概要。
- NMIC
- 全国鉱物情報センター(National Minerals Information Center)。MCSを作成するUSGSの部署。
- 重要鉱物(米国)
- 2020年エネルギー法の定義にもとづく、供給途絶が米国の経済や安全保障に影響を与える鉱物。内務長官がリストで指定する。
- 純輸入依存度
- 見かけの消費量に対する、輸入に頼る割合。MCSの各章に載る指標。
- Earth MRI
- Earth Mapping Resources Initiative。全国の地質図・物理探査データを整備し、重要鉱物の資源を調べる事業。
- 副産物
- 他の鉱物の採掘・精錬の途中で得られる鉱物。2022年版のリスト(50鉱物)の半数超が主に副産物と、予算説明書に書かれている。
8. 出典
- USGS Mineral Commodity Summaries 2026 の刊行情報(初公開2026年2月6日、改訂2026年5月27日、第1.3版、222ページ、90を超える鉱物・材料)。 https://pubs.usgs.gov/publication/mcs2026
- USGS Mineral Commodity Summaries 2026(本文PDF。前書き、U.S. Critical Minerals Update、表6・表7、Minerals Yearbookの説明)。 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026.pdf
- USGS Mineral Commodity Summaries 2026 の「Rare Earths」の章(純輸入依存度、輸入元)。 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-rare-earths.pdf
- 連邦官報 Final 2025 List of Critical Minerals(90 FR 50494、2025年11月7日。60鉱物、草案54鉱物、公募意見163件、協議、手法の規模)。 https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/07/2025-19813/final-2025-list-of-critical-minerals
- 内務省 USGS 2026 Budget Justifications(設立1879年、使命、2026会計年度要求額、鉱物資源プログラム、NMICの問い合わせ件数、Earth MRI、DARPA・ARPA-Eとの連携)。 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-11/usgs-2026-greenbook508.pdf
- 内務省 U.S. Geological Survey Contingency Plan(2025年9月。閉鎖前の在籍見込み職員6,776名)。 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-09/doi-usgs-contingency-plan2025930508.pdf
- EUR-Lex Regulation (EU) 2024/1252 の附属書I・II(EUのリストにインジウムが含まれないことの確認)。 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1252/oj/eng
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| USGSは内務省の科学機関で、1879年に設立。使命の記述 | 事実 | 出典5 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-11/usgs-2026-greenbook508.pdf |
| 職員6,776名(2025年9月の閉鎖対応計画での、閉鎖前の在籍見込み) | 事実 | 出典6 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-09/doi-usgs-contingency-plan2025930508.pdf |
| 2026会計年度の要求額8.916億ドル、2024年の実績14.55億ドル、鉱物資源プログラムの予算(6,873万ドル/6,990万ドル)、NMICの問い合わせ月2,000件超 | 事実 | 出典5 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-11/usgs-2026-greenbook508.pdf |
| MCS 2026の刊行情報(2026年2月6日初公開、5月27日改訂、第1.3版、222ページ、90を超える鉱物・材料) | 事実 | 出典1 https://pubs.usgs.gov/publication/mcs2026 |
| MCSの内容、Minerals Yearbookの対象(180を超える国・地域)、表6の用途、表7の主要統計、データがない鉱物(金属原料炭・ウラン) | 事実 | 出典2 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026.pdf |
| レアアース(化合物・金属)の純輸入依存度67%(2025年推計)・53%(2024年)・95%超(2021・2022年)、輸入元の中国(香港を含む)71% | 事実 | 出典3 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-rare-earths.pdf |
| 重要鉱物リスト:エネルギー法第7002条、2025年11月7日公示、60鉱物、草案54鉱物(2025年8月26日)、公募意見163件、内務長官が指定、協議した省庁、追加された鉱物 | 事実 | 出典4 https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/07/2025-19813/final-2025-list-of-critical-minerals |
| リストの評価手法の規模(84鉱物、1,200超の途絶シナリオ、402の産業)、少なくとも3年ごとの更新、要旨の「biannually」の記載 | 事実 | 出典4 https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/07/2025-19813/final-2025-list-of-critical-minerals |
| 2022年版は50鉱物、2025年版は60鉱物 | 事実 | 出典4 https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/07/2025-19813/final-2025-list-of-critical-minerals 出典2 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026.pdf |
| EUのリストにインジウムが含まれないこと、戦略的原材料17・重要原材料34 | 事実 | 出典7 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1252/oj/eng |
| Earth MRI、資源評価、鉱山廃棄物、DARPA・ARPA-Eとの共同事業、州の地質調査所との連携 | 事実 | 出典5 https://www.doi.gov/sites/default/files/documents/2025-11/usgs-2026-greenbook508.pdf |
| USGSが規制・許認可・価格を決める権限を持つとする記載は、出典にない | 未確定/将来 | 出典1〜6に該当する記載を確認できなかった。本稿では推定しない |
| リストが米国企業の調達や政策にどう使われているかの全体像 | 未確定/将来 | 出典1〜6に記載なし。本稿では推計しない |
| 次回のリスト更新時期、2026会計年度の成立予算額 | 未確定/将来 | 出典4・5に記載なし(要求額のみ)。本稿では推定しない |
| 機関の4つの型の区分 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 2026会計年度の要求額が2024年実績の約6割になるという比率 | 本稿の計算 | 本稿による計算(出典5の数字から) |
| USGSの資料で関係を確認できた本シリーズの企業が無いこと | 未確定/将来 | 出典1〜6に該当する記載を確認できなかった。本稿では推定しない |
| 第6章の推測2項目(MCSは2027年の年初に出る、MCSの個別の表のほうが材料の判断に役立つ) | 推測 | 出典1・2・4からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値はUSGSのMineral Commodity Summaries 2026、連邦官報、内務省の予算説明書と閉鎖対応計画に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。