INSTITUTION PROFILE / 機能性材料
経済産業省
― 重要鉱物と永久磁石の「供給を守る」計画を認定し、助成する日本の政策官庁
経済産業省は日本の政策官庁で、自分では素材も研究も作りません。 機能性材料への関わりで目立つのは、経済安全保障推進法に基づき、重要鉱物(レアアースなど)と永久磁石の「安定供給確保の方針」を定め、企業の供給確保計画を認定して助成することです。 素材の研究開発に資金を配るNEDOとは役割が違い、どの品目を、どの目標で守るかを決める側です。 本稿では、経済産業省が機能性材料にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかる経済産業省
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 機能性材料で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる経済産業省
経済産業省が決めるのは「何を、どの目標で守るか」と「どの企業の計画を認めて助成するか」です。 重要鉱物と永久磁石について、経済産業省は経済安全保障推進法(令和4年法律第43号)第8条に基づく取組方針を公表し、 その方針に沿った企業の供給確保計画を認定しています 事実。 助成金の実務は、重要鉱物はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)、永久磁石はNEDOが担うと、取組方針に書かれています 事実。 つまり方向と目標を決めるのは経済産業省、実行する窓口は別の法人です。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
機能性材料の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では素材を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 機能性材料で何をしているか
経済産業省の機能性材料への関わり方は、大きく3つの系統に分かれます 事実。担当は製造産業局の鉱物課・金属課・素材産業課です。
| 系統 | 規模・時期 | 中身 | 主な担い手 |
|---|---|---|---|
| 重要鉱物の安定供給確保 | 取組方針は2023年1月19日に策定。2024年3月・2025年6月・2026年3月30日に改定。供給確保計画の認定は12件(2026年9月16日まで) | 対象は36項目(本稿が数えた。リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛、レアアース、ガリウム、タングステン、フッ素など)。助成の対象は探鉱・FS、鉱山開発、製錬、技術開発。2030年の目標として、リチウム約10万t/年など電池原料と、レアアースの軽希土類(Nd・Pr)約13,000t/年・重希土類(Dy・Tb)約1,200t/年を、国内需要に必要な量として掲げる | 経済産業省(方針・認定)、JOGMEC(基金の管理・計画の審査・助成金の交付)。認定を受けた企業 |
| 永久磁石の安定供給確保 | 取組方針は2023年1月に公表、2026年3月版。認定は6件(2023年8月〜2026年2月) | 2030年時点の国内需要に応じた生産能力の確保と、リサイクル能力の2020年比2倍を目標とする。ネオジム磁石の世界生産に占める日本企業のシェアは、2021年に約15%と経済産業省は記す | 経済産業省(方針・認定)、NEDO(基金の管理・助成金の交付)。認定を受けた磁石メーカーなど |
| 素材産業の成長戦略(ロードマップ案) | 2026年4月21日付の案(製造産業局) | 素材産業は製造業の出荷額の約2割を占める、と記す。高機能繊維・ポリマー・フィルム・高純度微粒子・高機能セラミックスの5分野に日本の強みがあるとし、AI駆動の素材開発で新素材の開発速度を従来比10倍に加速させる環境づくりを掲げる。永久磁石の原料の約3割をリサイクルで賄う目標(2030年)も記す | 経済産業省、産学官 |
認定された供給確保計画の例(本シリーズの企業解説に関係するもの)
| 企業 | 品目・内容(経済産業省の認定一覧の記載) | 認定日・助成額 |
|---|---|---|
| 信越化学工業(と現地法人) | 永久磁石。シンエツマグネティクスのタイ・フィリピン・ベトナムの現地法人と共同で認定 | 2024年4月9日 |
| 信越化学工業(と現地法人) | 永久磁石。ベトナムの現地法人と共同で認定 | 2025年4月30日 |
| 信越化学工業 | 重要鉱物。日本国内に製錬設備を新設し、レアアースの生産を増強する | 2026年5月19日・助成額 約175億円 |
| 京セラ | 重要鉱物。日本国内に製錬設備を新設し、超硬合金用の炭化タングステンの資源循環を図る | 2026年9月16日・助成額 約30億円 |
※永久磁石の認定の助成額は、本稿が確認した一覧ページには載っていません。認定の一覧には、ほかにも多くの企業(愛知製鋼、大同特殊鋼、三徳、本田技研工業、三菱マテリアル、住友金属鉱山など)が載っていますが、本稿は本シリーズで扱う企業と関係が確認できたものだけを挙げています 事実。
認定の一覧を読むと、対象は製錬設備の新設、鉱山の探鉱、リサイクルの実証といった「供給の確保」です。 材料の性能や規格を認めるものではありません。 素材を供給する側から見ると、取組方針はどの品目の需要を国が後押しするかを示す資料になります。 たとえば永久磁石の取組方針は、重希土類(ジスプロシウム・テルビウム)の添加が耐熱性のために必要な用途があること、 サマリウムコバルト磁石やフェライト磁石は代替が難しい用途があることを書いており、 省レアアース・脱レアアースの磁石や、廃磁石のリサイクルが政策の対象に入っていることが分かります。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | 経済産業省が持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 経済安全保障推進法に基づき取組方針を定め、企業の供給確保計画を認定する権限。国が備蓄などで自ら対応する場合の指定(法第44条)の要件を取組方針に定める権限。JOGMEC・NEDOの助成業務について、事業計画などの確認を行う権限 | 研究開発資金の配分の実務(NEDO)、資源の探査・出資の実行(JOGMEC)。法律・予算そのものの決定(国会)。素材の規格・認証を定める役割(本稿では確認できなかった) |
| 地域 | 日本の政策。ただし認定には、日本企業の海外の現地法人(タイ・フィリピン・ベトナム)や、豪州の鉱山の探鉱事業が含まれる例がある | 他国の企業や他国の政策に直接及ぶ権限。外国企業が単独で助成を受けられるかは、本稿では確認していない |
| 波及 | 方針の対象品目や目標は、日本の素材・部品メーカーの設備投資の判断材料になる(推測) | 資源の国際価格や、他国の輸出管理措置を決める権限 |
| 規模 | 総定員8,068人。令和8年度当初予算:安定供給確保支援事業(重要鉱物)125億円、重要鉱物に係るサプライチェーン強靱化事業50億円(新規)。令和7年度補正予算:鉱物サプライチェーン多角化・安定化事業937億円、経済安全保障のサプライチェーン強靱化事業466億円(うち永久磁石170億円) | 機能性材料だけに使われる予算の総額は、公表資料に区分がなく、本稿では算出していない |
8,068人は定員で、実際の在職者数ではありません。3,754億円は一般会計のみで、 エネルギー対策特別会計(2兆5,333億円。うちAI・半導体関連が1兆2,390億円)などを含む経済産業省関連の合計は3兆693億円です 事実。 いずれも全分野の合計で、機能性材料の額ではありません。 認定された12件の助成額(約12億〜約176億円)を足すと約964億円ですが、これは認定時点の「約」の額の単純な合計で、実際に交付された額ではありません 本稿の計算。 交付の実績は、本稿では確認していません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
| 組織 | 経済産業省との関係(公式資料の記載) | 本シリーズ |
|---|---|---|
| JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構) | 重要鉱物の助成金の基金を管理し、計画を審査する。2022年に国内の製錬事業への出資・債務保証を業務に追加(重要鉱物の取組方針) | — |
| NEDO | 永久磁石の安定供給確保支援業務を行う法人に選ばれている(永久磁石の取組方針)。研究開発資金の配分機関としてのNEDOは別の役割 | — |
| 信越化学工業 | 永久磁石で2件、重要鉱物(レアアース)で1件の計画が認定 | 企業解説の対象(作成中) |
| 京セラ | 重要鉱物(炭化タングステンの資源循環)で1件の計画が認定 | 企業解説の対象(作成中) |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 重要鉱物の認定は2026年に入って増えている。この傾向は当面続く可能性がある | 認定一覧の日付を数えると、2023年は1件、2024年は4件、2025年は1件、2026年は9月までに6件。永久磁石の取組方針は、2025年4月の中国によるレアアースと磁石の輸出管理措置で、磁石の生産・供給に遅れが生じたと記す | 推測 |
| 取組方針は今後も改定される。対象品目や目標が変わると、助成の対象も動く | 重要鉱物の取組方針は2023年1月の策定後、2024年・2025年・2026年と3回改定されている。対象品目は「不断に見直しを行う」と本文にある | 推測 |
| 素材のロードマップは案の段階で、決定内容は未確定 | 2026年4月21日付の資料は「ロードマップ(案)」と題されている。確定版は本稿で確認していない | 未確定/将来 |
| 令和7年度補正予算の鉱物関連(937億円など)が、認定と交付にどう結びつくかは未確認 | 補正予算額は令和8年度当初予算の概要に記載。交付の実績は経済産業省の資料で確認できなかった | 未確定/将来 |
7. 用語集
- 経済安全保障推進法
- 「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(令和4年法律第43号)。重要な物資の供給確保などを定める。
- 取組方針
- 経済産業大臣が同法第8条に基づき、物資ごとに定める安定供給確保の方針。
- 供給確保計画(認定)
- 企業が提出する、物資の安定供給のための計画。基準に合うと経済産業大臣が認定し、助成の対象となる。
- JOGMEC
- 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構。鉱物資源の探査や出資を担う法人で、重要鉱物の助成の窓口。
- NEDO
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構。研究開発資金を配る法人で、永久磁石の助成の窓口も担う。
- 重要鉱物
- 取組方針で定義された金属鉱産物。レアアース、リチウム、ガリウム、タングステンなど36項目(本稿が数えた)。
8. 出典
- 経済産業省 重要鉱物(取組方針、認定供給確保計画の一覧12件、問い合わせ先は製造産業局 鉱物課)。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/index.html
- 経済産業省 重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針(2026年3月30日改定版。対象鉱物、2030年の目標、施策、JOGMECの役割)。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/critical_minerals_torikumihoshin.pdf
- 経済産業省 永久磁石(取組方針、認定供給確保計画の一覧6件、問い合わせ先は製造産業局 金属課)。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/magnet/index.html
- 経済産業省 永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針(2026年3月版。2030年の目標、ネオジム磁石のシェア、NEDOの役割)。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/magnet/magnet_hoshin_260331.pdf
- 経済産業省 製造産業局 成長戦略「マテリアル(重要鉱物・部素材)」分野 ロードマップ(案)(2026年4月21日。産業構造審議会の資料)。 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/020_02_00.pdf
- 経済産業省 経済産業省関係 令和8年度当初予算の概要(2026年4月7日。一般会計3,754億円、関連合計3兆693億円、鉱物関連の事業と補正予算)。 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/01.pdf
- 経済産業省 令和8年度 主な機構・定員について(令和8年度末の総定員8,068人)。 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/05.pdf
- 経済産業省 各部署の業務「製造産業局」(鉱物課・金属課・素材産業課の所掌事務)。 https://www.meti.go.jp/intro/data/pdf/07_seizo_sangyo.pdf
- 経済産業省 経済産業省のMVV(沿革:1949年の通商産業省の誕生、2001年に経済産業省へ改称)。 https://www.meti.go.jp/intro/mvv/index.html
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 重要鉱物の認定計画12件(認定日・助成額・内容)、担当は製造産業局 鉱物課 | 事実 | 出典1 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/index.html |
| 取組方針の策定日・改定日、対象鉱物、2030年の目標、施策、JOGMECの役割、法第8条・第44条 | 事実 | 出典2 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/metal/critical_minerals_torikumihoshin.pdf |
| 永久磁石の認定計画6件、担当は製造産業局 金属課 | 事実 | 出典3 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/magnet/index.html |
| 永久磁石の目標、ネオジム磁石のシェア約15%、2025年4月の輸出管理措置、NEDOの役割 | 事実 | 出典4 https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/magnet/magnet_hoshin_260331.pdf |
| 素材産業の位置づけ、5分野、新素材開発速度10倍、磁石原料の約3割のリサイクル(案) | 事実 | 出典5 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/pdf/020_02_00.pdf |
| 一般会計3,754億円、関連合計3兆693億円、鉱物関連の事業と補正予算の額 | 事実 | 出典6 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/01.pdf |
| 総定員8,068人(令和8年度末)、8,013人(令和7年度末) | 事実 | 出典7 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/05.pdf |
| 鉱物課・金属課・素材産業課の所掌 | 事実 | 出典8 https://www.meti.go.jp/intro/data/pdf/07_seizo_sangyo.pdf |
| 通商産業省(1949年)から2001年の改称 | 事実 | 出典9 https://www.meti.go.jp/intro/mvv/index.html |
| 重要鉱物の対象が36項目であること、認定12件の助成額の合計約964億円、認定件数の年ごとの集計 | 本稿の計算 | 出典1・2の記載を本稿が数えた・足したもの |
| 機関の4つの型の区分、図2の構成 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 認定された計画の実際の交付額、永久磁石の認定の助成額、機能性材料だけの予算額 | 未確定/将来 | 出典1〜7に記載なし。本稿では推計しない |
| 外国企業が助成の対象になる条件、素材の規格・認証を経済産業省が定める役割の有無、ロードマップの確定内容 | 未確定/将来 | 出典1〜9に記載なし。本稿は「ない」と断定せず、確認できなかったとする |
| 第1章・第4章・第6章の解釈(日本の素材メーカーの判断材料になる、認定の増加傾向、取組方針の改定) | 推測 | 出典1〜5の記載からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値は経済産業省の公式サイトと公表資料に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。