INSTITUTION PROFILE / 機能性材料
フラウンホーファー研究機構
― ドイツ発、企業の依頼で材料を研究する応用研究の拠点網
Fraunhofer-Gesellschaft(フラウンホーファー研究機構)は、ドイツの応用研究機関です。 ほかの公的研究機関と違い、予算の大部分を企業の受託研究と公的プロジェクトの獲得でまかなう仕組みで、 材料の分野でも、企業の課題を研究で解く役割を担います。 規制や標準を決める機関でも、研究資金を配る機関でもありません。 本稿では、Fraunhoferが機能性材料にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかるFraunhofer
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 機能性材料で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるFraunhofer
Fraunhoferは「お金を配る側」ではなく「お金を取って研究する側」です。 公式ページによると、基盤資金(連邦と州の拠出)は受託研究予算の3分の1以内で、 残りの3分の2以上を民間企業の契約と公的プロジェクトの獲得でまかなう仕組みです 事実。 2025年の産業界からの収入は9.66億ユーロでした 事実。 つまり機能性材料への影響力は、権限ではなく、企業が実際に依頼するという経路で生まれます。 どの材料を研究するかは、依頼する企業や公的プロジェクトの募集に左右されます。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
機能性材料の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では材料を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 機能性材料で何をしているか
機能性材料に関わるFraunhoferの仕事は、大きく3つの系統に分かれます 事実。
| 系統 | 規模・時期 | 中身 | 担い手 |
|---|---|---|---|
| 企業の受託研究・共同研究 | 2025年の産業収入9.66億ユーロ(契約7.68億、ライセンス1.98億) | 産業収入の48.0%は製造業の顧客。公式ページは、同機構が特許出願でドイツと欧州で最も活発な出願人の一つと説明する。材料は全分野に共通の基盤で、材料だけの売上は公表されていない | 各研究所が顧客と契約 |
| 材料・部品グループ Fraunhofer Group for Materials and Components | 21研究所が参加(事務局はダルムシュタット) | 基礎的な材料科学から、材料を使ったシステムの解決策まで、産業の価値連鎖全体をカバーする。グループは21研究所の専門性を束ねる枠組み | 参加する21研究所 |
| 研究拠点の例 循環材料とプログラマブル材料 | IWKS(ハーナウほか)。CPM(5つの中心研究所) | IWKS:循環型経済のための材料技術。重要原材料の代替や、Nd-Fe-B永久磁石を合金のままリサイクルする方法(水素処理、溶解と急冷)を研究する。CPM(プログラマブル材料):IWM・IAP・IWU・ICT・IBPが、形・光学特性・力学特性、熱の伝わり方などを「プログラム」できる材料を研究する | 研究所の連携(クラスター) |
IWKSのFUNMAG事業は、リサイクルした磁石で電動自転車・電動スクーターなどのモーターを動かし、出力を落とさず使えることを示したと、同機構は2022年のリリースで説明しています 事実。 同じリリースは、機能的な磁石リサイクルの方法は開発されたが実際には使われておらず、磁石は鉄スクラップと一緒に溶かされ続けているとも書いています。 また、その事業はHessen Agenturの助成を受けたものです。 永久磁石とレアアース、レアアースフリー磁石の技術解説で触れる「回収して再び磁石にする」議論と、実際に市場で使われる段階の間には距離があります。 研究所の実証の結果が、そのまま量産品の仕様になるわけではありません。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | Fraunhoferが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 企業や公的機関から研究を請け負い、成果を特許やライセンスで企業に移す実務。2025年のライセンス収入は1.98億ユーロ。基盤資金を使った、企業の将来課題(5〜10年先)に向けた研究 | 規制や標準を決める権限(公式資料に、その権限を持つとする記載は確認できなかった)。研究資金を他者に配る権限(連邦と州の基盤資金や公的プロジェクトを受け取る側) |
| 地域 | ドイツの74研究所・研究部門が中心。顧客は国際的で、海外の売上は2025年に2.36億ユーロ(EU域内0.88億、域外1.48億)。最大の市場は米国0.40億、スイス0.32億、日本0.21億ユーロ | 他国の産業政策や規制を動かす権限。海外の売上2.36億ユーロは事業規模36億ユーロの約7%(本稿の計算)で、収入の大半は国内 |
| 期間 | 基盤資金を使った研究は5〜10年先の課題が対象。事業規模は36億ユーロ前後(2025年は前年と同水準) | 特定の材料を長期に研究し続けることの保証(公的プロジェクトや企業の依頼が減れば縮む) |
| 規模 | 職員30,898名、事業規模36億ユーロ(2025年)。外部から獲得した収入の割合は71.1% | 機能性材料だけの人数・予算は公表されていない |
36億ユーロ、30,898名、9.66億ユーロはいずれも全分野の合計で、機能性材料だけの数字ではありません 事実。 なお、海外の売上2.36億ユーロを事業規模36億ユーロで割ると約7%になります 本稿の計算。 どの研究所のどの案件が材料の実用化につながったかを、Fraunhofer全体の数字から読み取ることはできません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
この章では、一次情報に記載のある「資金の入口と、材料分野の研究拠点」だけを図にしています。Fraunhoferの資料で関係を確認できた本シリーズの企業はありません(確認できなかった)。
| 組織 | 役割(一次情報の記載) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| 連邦研究技術宇宙省(BMFTR)と州政府 | 基盤資金を90対10の割合で拠出。連邦の公的プロジェクト資金は2025年に7.55億ユーロ(前年比11%減) | 資金の出し手。Fraunhoferは受け取る側 |
| 産業界の顧客 | 産業収入の48.0%は製造業。次いで専門・科学・技術サービス業が27.8% | 本シリーズの企業との個別の関係は確認できなかった |
| Hessen Agentur | IWKSのFUNMAG事業を助成 | 磁石リサイクルの実証事業 |
| EU(欧州委員会) | EUからの公的プロジェクト収入は2025年に1.57億ユーロ。EUの重要原材料法は、永久磁石の再生材含有率の開示を求める(第29条) | 欧州委員会の機関解説を参照。IWKSの研究と規則の主題は重なるが、両者の関係を示す記載は確認できなかった |
| 他の応用研究機関 | 本シリーズでは、物質・材料研究機構(NIMS)や米国エネルギー省(DOE)が別の型の機関 | それぞれの機関解説を参照。Fraunhoferは資金を配らない点で異なる |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 2025年は、職員が前年より979名(3.1%)減り、連邦の公的プロジェクト収入は11%減った一方、産業収入は11%増えた | Fraunhoferの職員ページと財務ページ(2025年の値) | 事実 |
| 磁石のリサイクルが実際に量産の工程で使われるかは、2022年のリリース以降の動きを確認できなかった。リリース自体は「まだ実用化されていない」と書いている | Fraunhofer 2022年のリリース「Magnet recycling pays off」 | 未確定/将来 |
| 公的プロジェクト収入が減り、産業収入が増える流れが続くなら、材料分野でも実用化に近い企業案件の比率が高まる | 2025年の収入構成(連邦プロジェクト収入11%減、産業収入11%増)。1年分の変化で、傾向と言えるかは確認できない | 推測 |
| EUが永久磁石の再生材含有率の開示を求める(2027年5月24日以降)ため、磁石のリサイクル研究への需要は高まりうる | 規則(EU)2024/1252 第29条(開示の開始は2027年5月24日か委任法の発効2年後のいずれか遅い日)と、IWKSの磁石リサイクル研究 | 推測 |
7. 用語集
- 応用研究
- 基礎的な発見を、企業が使える技術や製品に近づけるための研究。
- 基盤資金
- 連邦と州が研究所の運営のために出す資金。Fraunhoferでは受託研究予算の3分の1以内。
- 受託研究
- 企業や公的機関の依頼を受けて行う研究。Fraunhoferの中心の活動。
- 材料・部品グループ
- Fraunhoferの中で、材料と部品に関わる21の研究所が連携する枠組み。
- CPM
- Fraunhofer Cluster of Excellence Programmable Materials。複数の研究所が、仮想の研究所として共同で研究する枠組み。
- IWKS
- 材料リサイクルと資源戦略の研究所(Fraunhofer Research Institution for Materials Recycling and Resource Strategies)。
8. 出典
- Fraunhofer Profile/Structure(74の研究所・独立した研究部門、設立1949年、事業規模36億ユーロ、受託研究32億ユーロ、特許の出願人、2026年4月更新)。 https://www.fraunhofer.de/en/about-fraunhofer/profile-structure.html
- Fraunhofer Facts and Figures: Finances(2025年の事業規模、産業収入、公的プロジェクト収入、基盤資金の仕組み、国際収入)。 https://www.fraunhofer.de/en/about-fraunhofer/profile-structure/facts-and-figures/finances.html
- Fraunhofer Facts and Figures: Employees(2025年12月31日時点の職員30,898名)。 https://www.fraunhofer.de/en/about-fraunhofer/profile-structure/facts-and-figures/employees.html
- Fraunhofer Fraunhofer Group for Materials and Components – Materials(21研究所、事務局の所在地)。 https://www.materials.fraunhofer.de/en.html
- Fraunhofer IWKS About us(循環型経済のための材料、拠点はアルツェナウとハーナウ)。 https://www.iwks.fraunhofer.de/en/about-us.html
- Fraunhofer IWKS Recycling of permanent magnets(合金のままのリサイクル、水素処理、溶解と急冷)。 https://www.iwks.fraunhofer.de/en/competencies/MagneticMaterials/Recycling.html
- Fraunhofer リリース「Magnet recycling pays off」(2022年。FUNMAG事業、Hessen Agenturの助成、まだ実用化されていないとの記述)。 https://www.fraunhofer.de/en/press/research-news/2022/july-2022/magnet-recycling-pays-off.html
- Fraunhofer CPM Fraunhofer Cluster of Excellence Programmable Materials(5つの中心研究所、目的、実証機)。 https://cpm.fraunhofer.de/en/fraunhofer-cluster-of-excellence-programmable-materials.html
- EUR-Lex Regulation (EU) 2024/1252 第29条(永久磁石の再生材含有率の開示)。 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1252/oj/eng
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値はFraunhofer-Gesellschaftの公式サイト(2025年の公表値)とEUR-Lexに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。