INSTITUTION PROFILE / 機能性材料
米国エネルギー省(DOE)
― 米国の素材研究に「お金と国立研究所」を持つ連邦政府の省
DOEは米国の連邦政府の省で、自分では素材を作りません。 機能性材料に対する役割は、どの材料の供給が危ういかを評価して「重要材料リスト」を決め、研究資金と国立研究所の力をそこへ向けることです。 磁石のレアアース代替、重要鉱物の探査、素材のリサイクルといった話題で名前が出てくるのは、このためです。 一方で、素材の規格を定める機関ではありません。 本稿では、DOEが機能性材料にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかるDOE
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 機能性材料で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている組織と企業
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるDOE
契約企業の従業員 10万人超2025会計年度の財務報告書の記載
DOEは素材の「物差し」を決める機関ではなく、「どの材料が危ういか」を決めて資金を向ける機関です。 米国のエネルギー法(2020年)は、DOE長官に「エネルギー技術にとって供給途絶のリスクが高い非燃料の材料」を重要材料として決める権限を与えています。 DOEは2023年にその一覧を更新し、この一覧が研究開発の優先順位と、米国の税額控除(IRA 48C)の対象を左右すると告示に書いています 事実。 影響が届くのは主に米国の予算の範囲ですが、リストの材料(ネオジム、ジスプロシウム、リチウム、ガリウムなど)は世界で取引されているため、 機能性材料の研究テーマの流行を見るうえで、DOEの動きは世界の素材企業にとっても参考になります(この部分は本稿の解釈です)。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
機能性材料の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では素材を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 機能性材料で何をしているか
DOEの機能性材料への関わり方は、大きく4つの系統に分かれます。組織は2025年から2026年にかけて再編されているため、古い記事の部署名とは異なることがあります。
| 系統 | 規模・時期 | 中身 | 主な担い手 |
|---|---|---|---|
| 重要材料リスト(2023年) | 2023年7月28日発効。意見募集で79件のコメント | エネルギー法(2020年)に基づく重要材料の決定。エネルギーにとって重要な材料18項目(アルミニウム、コバルト、ジスプロシウム、ネオジム、プラセオジム、テルビウム、リチウム、ガリウム、天然黒鉛、電磁鋼板、ケイ素、炭化ケイ素など)と、米国地質調査所(USGS)が2022年に選んだ重要鉱物50種を合わせた一覧。意見募集を受けてテルビウムを追加した | DOE(エネルギー省長官が決定)。鉱物50種の一覧はUSGSが作成 |
| 先端材料・製造技術局(AMMTO) | 2026年10月時点で、重要鉱物・エネルギーイノベーション局(CMEI)の下の部署 | 3つの柱:次世代の材料と製造プロセス(複合材料、耐熱材料、導電性を高めた材料、積層造形、ロールツーロール製造など)/素材の供給網の確保(リチウム、ネオジム、ジスプロシウムなどの供給拡大、代替、効率化、回収・再利用)/エネルギー技術の製造と人材 | 国立研究所、大学、企業。公募は競争的で、専門家による審査を経て選定される |
| 重要材料イノベーションハブ(CMI) | 2013年設立 | 重要材料の「危うさ」を下げるための研究拠点。鉱物の処理、製造、代替材料、効率的な使い方を扱う。2026年8月26日付のニュースで、初期段階の研究開発に1,000万ドルを授与したと発表した | エームズ国立研究所が主導。9つの国立研究所、十数の大学、30社超の企業が参加 |
| ARPA-E(高等研究計画局エネルギー部門) | 2009年以降、累計42.9億ドルを1,750件超へ | 民間では手を出しにくい早期段階の技術に資金を出す。素材ではREACT(2011年、レアアース代替。14件)、2025〜2026年のROCKS(鉱床の探査・評価)とMAGNITO(レアアースを減らした強力な磁石) | 大学・国立研究所・企業 |
ARPA-Eの素材関連プログラム:2011年と2025〜2026年の比較
| 項目 | REACT(2011年) | ROCKS・MAGNITO(2025〜2026年) |
|---|---|---|
| 目的 | 電気自動車のモーターと風力発電機で使うレアアースの代替・使用量削減 | ROCKS:重要鉱物の鉱床を、高速・高解像度・低コストで評価する探査技術。MAGNITO:AI・機械学習・高速実験を使った、レアアースを減らした強力な磁石 |
| 規模 | 14件。2011年4月20日公募開始 | 2026年6月18日に7,200万ドルの選定を発表。2025年に発表した総額1億ドルの一部 |
| 例 | ミネソタ大学の窒化鉄磁石、パシフィック・ノースウェスト国立研究所のマンガン系磁石、ノースイースタン大学の鉄ニッケル系磁石 | サウスダコタ鉱山工科大学(310万ドル)、ヒューストン大学(280万ドル) |
※「選定」は、DOEが交付を約束したものではなく、交渉を経て取り消されることがあります(プレスリリースの注記)事実。
DOEの公募は「材料の性能」ではなく「供給の危うさ」から逆算してテーマを決めるのが特徴です。 たとえば磁石の話題では、ネオジム・プラセオジム・ジスプロシウム・テルビウムがリストに入っているため、 「レアアースを減らす」「使わない」「回収する」という3つの方向が同時に支援されます(2011年のREACTも、2026年のMAGNITOも同じ発想です)。 素材を供給する側にとっては、自社の素材がリストのどこに位置するかが、DOE系の資金に応募できるかどうかの目安になります。 なお、DOEのリストは供給のリスクの評価であり、材料の性能や安全性の優劣を示すものではありません。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | DOEが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 研究資金を公募し、選定する権限。重要材料リストを法律に基づいて決める権限。国立研究所(17)の監督。Manufacturing USA の研究所などを通じた産学の連携の支援 | 素材の規格・試験方法を定める役割(公式資料に記載はなく、本稿では確認できなかった)。法律や予算そのものの決定(議会)。重要鉱物の一覧の作成(USGS) |
| 地域 | 米国の予算による事業。選定先は米国内の大学・国立研究所・企業が中心 | 他国の企業や政策に直接影響する権限。外国企業が助成の対象になる条件は、本稿では個別に確認していない |
| 波及 | リストの材料(ネオジム、リチウムなど)は世界で取引されるため、研究テーマの方向づけは国際的にも参照される(推測) | 他国の調達や価格を決める権限 |
| 規模 | 連邦職員 約1.5万人、契約企業の従業員 10万人超。予算権限2,310億ドル(全分野)。国立研究所17。ARPA-Eは累計42.9億ドル | 素材・重要鉱物だけに使われる予算の総額は、本稿が確認した公式資料に載っていない |
2,310億ドルは、DOEの全分野の予算権限の合計です。DOEは核兵器の管理、環境の浄化、エネルギー研究、融資なども担っているため、 この数字は機能性材料への資金を意味しません 事実。 素材や重要鉱物に使われる金額の総額は、本稿が確認した公式資料に載っていないため、推計しません 未確定/将来。 また、DOEの組織は再編の途中にあり、先端材料・製造技術局(AMMTO)はかつてのEERE(エネルギー効率・再生可能エネルギー局)の部署でしたが、 現在の公式ページではCMEI(重要鉱物・エネルギーイノベーション局)の下に位置づけられています。古い資料の部署名は、現在と一致しない場合があります。
5. 関わっている組織と企業
| 組織 | DOEとの関係(公式ページの記載) | 本シリーズの企業解説 |
|---|---|---|
| ミネソタ大学 | 2011年のREACTで窒化鉄ベースの磁石を研究(ARPA-Eのページ) | Niron Magnetics:Niron自身の年表に「2011年にARPA-E REACTがミネソタ大学の窒化鉄の初期研究に資金を出した」とある。会社の記載であり、DOEの文書ではない |
| パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL) | REACTでマンガン系磁石を研究(ARPA-Eのページ) | なし |
| エームズ国立研究所 | CMIハブを主導(DOEのページ) | なし |
| サウスダコタ鉱山工科大学、ヒューストン大学 | 2026年のROCKS・MAGNITOの選定先(ARPA-Eのプレスリリース) | なし |
※2025〜2026年の民間企業の選定先は、本稿が確認したプレスリリースの抜粋には大学しか載っていません。企業名の一覧は確認できませんでした未確定/将来。MP Materialsなど他の磁石関連企業とDOEの関係は、本稿では一次資料で確認していないため書いていません。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| DOEの素材分野の重心は、代替材料の探索から、資源の探査・回収を含む供給網の確保へ広がっている | 2011年のREACTは代替材料が中心。2025〜2026年はROCKS(探査)、RECOVER(廃水などからの回収)、MAGNITO(磁石)が並び、CMEIの使命にも採掘・加工・リサイクルが入っている | 推測 |
| 重要材料リストは改定されうる。次の改定で項目が変わると、研究資金の対象も動く | 2023年の告示は、2023年のリストが優先順位に使われると書いている。リストは短期・中期の評価に基づく。DOEは2010年・2011年・2019年・2023年に重要材料の戦略や評価を公表しており、過去にも見直されている | 推測 |
| DOEの組織と予算は、議会の予算決定と政権の方針で今後も変わる | CMEIとAMMTOの現在の位置づけは2025〜2026年の再編後のもの。年度ごとの予算は議会が決める。本稿は成立額を確認していない | 未確定/将来 |
7. 用語集
- 重要材料(critical materials)
- エネルギー法(2020年)の定義で、供給途絶のリスクが高く、エネルギー技術で重要な役割を持つ非燃料の材料。USGSが選ぶ「重要鉱物」も含まれる。
- CMEI
- 重要鉱物・エネルギーイノベーション局(Office of Critical Minerals and Energy Innovation)。DOEの組織で、AMMTOなどを含む。
- AMMTO
- 先端材料・製造技術局。素材と製造プロセスの研究開発・実証を支援するDOEの部署。
- ARPA-E
- DOEの高等研究計画局。早期段階の高リスクな技術に、期限つきのプログラムで資金を出す。
- REACT
- ARPA-Eの2011年のプログラム。レアアースの代替技術が対象。
- Manufacturing USA
- 米国の製造業の研究所のネットワーク。AMMTOは「研究所、ユーザー施設、イノベーションハブ」をまとめて「コンソーシアム」と呼ぶ。
8. 出典
- 米国エネルギー省(DOE) 2025会計年度 Agency Financial Report(連邦職員約1.5万人・契約企業10万人超、国立研究所17、予算権限2,310億ドル、1977年の組織法、ARPA-Eの1億ドルのプログラム)。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2025-12/fy-2025-doe-agency-financial-report.pdf
- DOE A Brief History of the Department of Energy(1977年の組織法、1977年10月1日発足、12番目の閣僚級の省)。 https://www.energy.gov/lm/brief-history-department-energy
- DOE Office of Critical Minerals and Energy Innovation(CMEIの使命と構成)。 https://www.energy.gov/cmei
- DOE Advanced Materials and Manufacturing Technologies Office(AMMTOがCMEIの下の部署であること、CM3の下の部署の構成)。 https://www.energy.gov/eere/ammto/advanced-materials-and-manufacturing-technologies-office
- DOE About the Advanced Materials & Manufacturing Technologies Office(使命、3つの柱、公募の審査、コンソーシアム)。 https://www.energy.gov/cmei/ammto/about-advanced-materials-manufacturing-technologies-office
- DOE Secure Material Supply Chains(重要材料の供給拡大・代替・効率化・回収の戦略、リチウム・ネオジム・ジスプロシウム)。 https://www.energy.gov/cmei/ammto/secure-material-supply-chains
- DOE Next-Generation Materials and Processes(複合材料、耐熱材料、導電性を高めた材料、積層造形、ロールツーロール製造)。 https://www.energy.gov/cmei/ammto/next-generation-materials-and-processes
- DOE Critical Materials Innovation Hub(CMI)(2013年設立、エームズ国立研究所が主導、9国立研究所・大学十数・企業30超)。 https://www.energy.gov/cmei/ammto/critical-materials-innovation-hub-cmi
- DOE Critical Minerals and Materials Program(2023年の評価、戦略、1億ドルのイニシアチブを含む関連ニュース、CMIハブ1,000万ドルの発表)。 https://www.energy.gov/cmm
- DOE Notice of Final Determination on 2023 DOE Critical Materials List(官報掲載前の案文。エネルギー法2020 第7002条、重要材料18項目、USGSの50種、2023年7月28日発効、意見79件、テルビウム追加、IRA 48C)。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-07/preprint-frn-2023-critical-materials-list.pdf
- ARPA-E ARPA-E at a Glance(2009年以降、42.9億ドルを1,750件超に提供)。 https://arpa-e.energy.gov/about/arpa-e-at-a-glance
- ARPA-E REACT(Rare Earth Alternatives in Critical Technologies)プログラムのページ(2011年4月20日、14件、窒化鉄・マンガン系・鉄ニッケル系の磁石)。 https://arpa-e.energy.gov/programs-and-initiatives/view-all-programs/react
- ARPA-E プレスリリース「Department of Energy Announces $72 Million for Domestic Critical Minerals and Ultra Powerful Magnet Production」(2026年6月18日。ROCKS・MAGNITO、選定先の例、選定は交付の約束ではないとの注記)。 https://arpa-e.energy.gov/news-and-events/news-and-insights/department-energy-announces-72-million-domestic-critical-minerals-and-ultra-powerful-magnet-production
- Niron Magnetics About(会社の年表。2011年にARPA-E REACTがミネソタ大学の窒化鉄の初期研究に資金を出したとの記載)。 https://nironmagnetics.com/about/
- DOE FY 2026 Budget in Brief(科学局が10の国立研究所を監督。予算の要求書であり、成立額ではない)。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2025-06/doe-fy-2026-bib-v6.pdf
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値はDOE・ARPA-Eの公式サイトと公表資料、およびNiron Magnetics自身の年表に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。