COMPANY PROFILE / 機能性材料
フォノニック
― 熱電(ペルチェ)素子で、チップ単位の冷却を電気で制御する、米国ノースカロライナ州の非上場の会社。いまはAIデータセンターの光トランシーバとGPUメモリの冷却に軸足を移している
Phononic(フォノニック)は、電気を流して熱を運ぶ熱電冷却素子(TEC、ペルチェ素子)と、それを組み込んだ冷却モジュール、制御ソフトウェアの会社です。ガスを使う圧縮機や、風や水の流れによる冷却ではなく、可動部のない半導体素子で、狙った場所を冷やすのが特徴です。本社は米国ノースカロライナ州ダーラムで、非上場です。売上・利益は公式資料で確認できませんでした。
2026年3月の発表(PR Newswire)で、同社はデータセンター向けの冷却の製品群を広げました。光トランシーバ向けの1.6T世代、共同パッケージ光学(CPO)向けのキット、GPU用メモリ(HBM)の冷却のサンプル出荷、冷却を制御するソフトウェア層「Thermal Fabric」です。かつて同社が事業に挙げていた冷蔵・冷凍や空調は、現在の公式サイトのトップや製品の案内には載っていません。
本稿は、同社の公式サイトと公式発表、SECのForm D、特許の公開記録を一次情報とし、何を確認でき、何を確認できなかったかを整理します。性能の数値はすべてメーカー公称で、比較の基準(「業界標準」の中身)と測定条件が書かれていないものがほとんどです。
- 30秒でわかるPhononicと、機能性材料での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 機能性材料にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は機能性材料で何を目指しているか
- 機能性材料分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集
- 出典
- 主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるフォノニックと、機能性材料での立ち位置
ダーラム2021年のリリースが「ダーラムの本社・製造拠点」と記載。2026年のリリースの発信地もダーラム
スタートアップ・新方式(従)熱電冷却素子とモジュールが中心。固体冷却という新方式を事業にしている
「BiTel」材料同社の資料が「BiTel」と記す材料。化学組成は書かれていない(テルル化ビスマス系と推測されるが確認できない)
Fabrinet(タイ)Fabrinetでの顧客・製造の認定を2021年10月に発表。量産の能力は非公表
Phononicは、熱電素子(ペルチェ素子)を大量に作って、光通信の部品の温度調整に使わせている会社で、いまはその延長でGPUのメモリ冷却に進もうとしています。同社は「4,000万個超のTECが現場にある」と説明し、2021年にはFabrinet(NYSE: FN)での製造認定を発表しています 事実。
ただし、顧客名、出荷量、売上は確認できません。「すべての大手ハイパースケーラーに導入」「GPU HBMで最大0.15のPUE改善、最大5倍の寿命、3倍のROI」といった数値はメーカー公称で、比較の基準と測定条件が公開されていません。GPU HBMの冷却は2026年3月に「サンプル出荷」の段階です 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の公式サイト(phononic.com)のページ上部に表示されているもの(「PHONONIC」の文字と、赤と青の円環)を、サイトのSVG画像のまま取得して設置しています。生成画像による再現は行っていません。
表記の注意:社名は Phononic、法人名は Phononic, Inc. です。SECの届出と2013年の特許には、旧名とみられる「Phononic Devices, Inc.」の名が出ます(改称の時期は確認していません)。「Thermal Control Systems」「Thermal Fabric」「Active Cooling Solutions」は同社の製品・ブランド名です。
公式サイト:https://phononic.com/3. 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか
Phononicの主たる類型は部品・デバイス(熱電冷却素子と、それを組み込んだモジュールの供給)、従たる類型はスタートアップ・新方式(固体冷却という方式の事業化)です。本シリーズの技術解説『熱電変換材料』が扱う材料を、「発電」ではなく「冷却」の側で製品にした会社と言えます。事業を公式資料で確認できた範囲で整理します。
| 事業・製品 | Phononicでの位置づけ | 確認できた一次情報 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 光トランシーバ向けTEC(Box TOSA用、TO-can用) | 中心の製品。100G〜1.6Tの光送受信モジュールのレーザー温度を調整する素子。同社は「1.6T向けは量産(HVM)で認定・導入済みの最初の解」と説明 | 公式サイトの製品ページ、2026年3月のリリース | 事実(会社の説明)/顧客名は確認できず |
| Thermal Control Systems(CPO向け、GPU HBM向け) | TEC、機構・熱設計、制御ソフトを組み合わせたキット。GPU HBM向けは2026年3月に「サンプル出荷」、CPO向けは状況の記載なし | 公式サイトの製品ページ、2026年3月のリリース | 未確定/将来 |
| Thermal Fabric(制御ソフトウェア層) | 冷却をミリ秒の単位で制御し、テレメトリと解析を使ってデータセンター全体で最適化する層と説明。2026年3月に発表 | 2026年3月のリリース、公式サイト | 事実(発表)/導入の実績は確認できず |
| 冷蔵・冷凍(Active Cooling Solutions、Evolve)、空調(TTAP) | 過去に事業として挙げていた分野(2021年のリリース)。現在も公式サイトの「ライセンス」「サステナビリティ」のページに記載はあるが、トップと製品の案内には出てこない。現在の事業の規模・状態は確認できなかった | 公式サイト、2021年のリリース | 事実(記載)/現況は確認できず |
| ライセンス・参照設計 | 特許と参照設計の提供を公式サイトが案内(光電子、LiDAR、空調など) | 公式サイトの「Licensing」 | 事実(案内)/実績は確認できず |
4. 会社の規模
Phononicは非上場で、財務諸表は公開されていません。公式資料とSECの届出から確認できる規模を示します 事実。
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 売上・利益・負債 | 非公表。公式サイト・リリース・Form Dのいずれにも記載がない |
| 従業員 | 非公表。公式サイトは、経営陣(CEO、社長兼COO、CFO、CRO、グローバルオペレーション担当VP)を掲載 |
| 設立・本社 | 設立年は公式資料で確認できなかった(最も古いForm Dは2011年3月)。本社はダーラム。2011年の届出の所在地はローリー |
| 経営陣 | 共同創業者兼CEO:Tony Atti。社長兼COO:Ryan Parker(データセンター冷却市場への拡大を主導と同社が説明)。CFO:Chris Bates。CRO:Jason Schouw。VP(グローバルオペレーション):Waraporn “JJ” Sarika。SVP兼GM(インフラ):Matt Langman(2026年3月のリリース) |
| 調達(SEC Form D) | 届出は5件:2011年3月(売却額約US$1,008万)、2012年12月(US$550万)、2014年1月(約US$850万)、2014年3月(修正。約US$2,590万、27投資家)、2015年1月(募集上限約US$5,000万、売却額約US$4,422万、31投資家)。各届出の「売却額」は届出時点のものと考えられ、本稿は合算しない。2015年以降のForm Dは公開データベースで確認できなかった |
| 累計の調達額・出資者 | 公式資料から確認できなかった。第三者の資料には複数の金額があるが、一致せず、本稿は採用しない |
| 導入数(会社の説明) | 「4,000万個超のTECを現場に」(2021年から5年間、設計の資料)、「3,500万個」(サステナビリティのページ)、「4,000万個の冷却済みの光トランシーバ」(2026年のリリース)。単位(TECかモジュールか)と基準日が資料で異なる |
| 知的財産 | 公式サイトの知財のページが、冷蔵庫製品に関わる5件の米国特許番号を掲載(US8563844、US8564129、US8901612、US8893513、US8991194)。特許の総数は公式資料から確認できなかった |
2026年の同社の発表は、調査会社MarketsandMarketsの「360Quadrants」で同社が「Progressive Company」と位置づけられたと述べています。これは調査会社が作る企業の分類であり、性能や事業規模の第三者検証ではありません。本稿は技術・事業の根拠として採用しません。また、「世界で最もすぐれた固体冷却の会社」「同等の相手がいない」といった表現は同社自身の説明で、他社との順位や優劣は判断しません。
5. 機能性材料にかけているリソース
非上場のため、金額の開示は限られます。人・金・外部・大学や公的資金の4点で、確認できたか/できなかったかを整理します。
| 項目 | 確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究開発拠点・人員) | ダーラムが研究開発・製品開発・製造の拠点(2021年のリリース)。自動化した製造ラインと工程管理・計測を持つと同社が説明。ただし、研究開発の人員数は非公表 | 事実/人員は確認できず |
| 金(研究開発費・設備投資・調達) | 研究開発費・設備投資の実績額は非公表。調達はForm Dの届出(2011〜2015年)で確認でき、2015年1月の届出が最大(売却額約US$4,422万)。2015年以降は確認できなかった | 事実/実績額は非公表 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | Phononicによる他社への出資・買収・合弁・事業売却は公式資料で確認できなかった。製造パートナーはFabrinet(2020年に提携、2021年に認定)。2012年に出願された特許の一部に、出願人としてEcodyst, Inc.やUniversity of Oklahomaの名が出る(Google Patents)が、取得の経緯・形態は確認していない | 確認できず(自社の出資) |
| 大学・研究機関・公的資金との連携 | 薄膜熱電に関する特許(US8563844、US8901612)の出願人欄に University of Oklahoma の名がある(Google Patents)。ただし、共同研究・資金提供の記載は公式資料にない。米国政府の助成・補助金を公式資料で確認できなかった | 確認できず(特許の記録のみ) |
主要な製品・設備の状況
次の表は、会社の公式資料で確認できた範囲です。生産能力(個数/年)はいずれも非公表です。
| 製品・設備 | 製造・出荷の経路 | 規模(公称) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|
| 光トランシーバ向けTEC | ダーラムの本社工場、およびFabrinet(タイ)。自動化した製造ラインと検査(全数の電気試験)と同社が説明 | 「4,000万個超」(導入数)。年産能力は非公表 | 量産・出荷(Fabrinetでの認定は2021年10月) | 2021年のリリース、設計・信頼性のページ |
| 1.6T向けの光トランシーバ冷却 | 記載なし | 非公表 | 「量産で認定・導入済み」と同社が説明(認定機関・日付の記載なし) | 2026年3月のリリース |
| GPU HBM向けThermal Control System(第2世代、HBM4対応) | 記載なし | 「放熱能力が75%高い」「最大0.15のPUE改善」など(公称) | サンプル出荷。未確定/将来(量産の時期は確認できず) | 2026年3月のリリース |
| CPO向けThermal Kit | 記載なし | 非公表 | 状態の記載なし(サンプルか認定かが書かれていない) | 公式サイトの製品ページ |
| 冷蔵・冷凍(ACS)、空調(TTAP) | 記載なし | 非公表 | 現況は確認できず | 公式サイト、2021年のリリース |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2011〜2012年 | SECへ最初のForm D(2011年3月、約US$1,008万)。2012年12月に約US$550万のForm D | 初期の資金調達(出資者名は届出では確認できず) |
| 2013〜2015年 | 2013年に冷却モジュールの特許を出願(US8893513、US8991194)。2014年にForm D 2件、2015年1月に売却額約US$4,422万のForm D(31投資家) | 製品と資金の拡大 |
| 2020年 | Fabrinet(タイ)と製造で提携(同社のホワイトペーパーの年表。月は公式資料で確認できなかった) | 量産能力の拡張 |
| 2021年10月20日 | Fabrinetでの顧客・製造の認定の完了を発表(「1年強」。コロナ禍で渡航が制限された中)。研究開発・製品開発・製造は本社のダーラムに残すと説明 | 光通信向けの量産の確保 |
| 2021年(リリース記載の事業) | 光通信とLiDAR、コールドチェーン、食料品店の陳列、ライフサイエンス・ヘルスケア・空調のライセンスを事業として記載 | 多角的な事業構成(当時) |
| 2026年3月10日 | データセンター向けの製品群を拡張:1.6T向け、CPO向けキット、GPU HBM冷却(サンプル)、Thermal Fabric。OFC 2026で展示と説明 | データセンター特化への転換 |
7. 今後の計画
サンプル出荷2026年3月の発表。量産・採用の時期は書かれていない
冷却を最適化する層2026年3月に発表。導入先・実績の記載は確認できなかった
ISO 14001設計のページは取得済みと読める記載。トランシーバのページは「向けて」の表記。IATF 16949は「整合」の記載。取得状況は資料間で一致しない
これらは会社の計画・目標で、達成の事実ではありません 未確定/将来。
次はいずれも一次資料に記載がありません 未確定/将来。
売上・利益・従業員数・研究開発費/設立年/2015年以降の調達と出資者/TECの化学組成、寸法、ΔT・最大放熱量・COPなどの実測値/各性能値の比較の基準と測定条件(「業界標準」の中身)/顧客名(ハイパースケーラー、トランシーバ会社)と出荷量/1.6T「量産で認定・導入済み」の認定機関・日付/GPU HBM・CPO向けキットの量産の時期/冷蔵・冷凍・空調事業の現況/会社の所有関係や資金計画に関する報道の事実関係(会社の公式発表は確認できなかった)。
8. この会社は機能性材料で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 事業の軸を、冷蔵・空調などの製品から、AIデータセンターの部品・システムへ移している | 2021年のリリースは光通信、LiDAR、コールドチェーン、食料品店の陳列、ライセンスを並べた。2026年のトップページとリリースはデータセンターだけを前面に出す。CEOの経歴紹介も「データセンターのチップ単位の冷却」を主とする。社長兼COOの役割は「データセンター冷却市場への拡大」 | 事実(会社の説明)/転換は推測 |
| 素子の会社から、制御まで含む「システム」の会社へ重心を移そうとしている | Thermal Control Systems(TEC+機構+ファームウェア)、Thermal Fabric(ソフトウェア層)、Redfish互換のインターフェース、SaaSの解析 | 事実(会社の説明)/意図は推測 |
| 温度を「下げる」より「安定させる」価値を前面に出している | 光トランシーバのレーザーの温度調整、CPOの波長ずれの抑制、GPUメモリの局所的な過熱の制御。「ミリ秒」「チップ単位」の表現が繰り返される | 推測 |
| 製造を外部(Fabrinet)に分担し、設計・材料・試験の価値に集中する | 2020〜2021年のFabrinet提携と認定、設計のページの製造の説明 | 推測 |
「冷蔵・空調から、データセンターへ事業の軸を移した」と読む根拠は、同社が自分の事業として挙げる分野が、時期によって入れ替わっていることです。2021年10月のリリースは、光通信とLiDARに加えて、コールドチェーン、食料品店の陳列、ライフサイエンス・ヘルスケア・空調のライセンスを「対象の分野」として並べていました。2026年3月のリリースの会社紹介は、「データセンターの固体冷却のリーダー」とだけ述べ、公式サイトのトップの案内もデータセンター向けの製品とソフトウェアだけです。
ただし、冷蔵・冷凍・空調の事業を終了した、とは公式資料から言えません。サステナビリティのページと「ライセンス」のページには、冷蔵・冷凍と空調の記載が残るためです。これは公式発表の内容から本稿が読み取った解釈です 未確定/将来。
9. 機能性材料分野の提携マッピング
同社の関係の特徴は、製造をFabrinetに分担し、顧客の名前を公表しないことです。事業会社との合弁・買収は確認できません。顧客・出荷量は確認できません 未確定/将来。
10. 提供している技術・製品・サービス
以下は、同社の公式資料の記述です。数値はすべてメーカー公称で、基準・条件が資料に書かれていないものは、そのことを併記しています。他社の製品との優劣を示すものではなく、条件の異なる値は並べて比べられません。材料の原理は、本シリーズの技術解説『熱電変換材料』を参照してください 事実。
| 項目 | メーカー公称の値・記述 | 基準・条件(資料の記載) |
|---|---|---|
| TECの性能 | 「業界標準に比べて、放熱(ヒートポンピング)の密度が60%高く、消費電力が最大30%低い」 | 「業界標準」の中身、温度差、素子の形態の記載なし |
| 光トランシーバ向けTEC | Box TOSA用(100G〜1.6T以降)、TO-can用(TO60、TO56、TO40。1G〜100G以降)。1.6T向けは、熱負荷が50%以上高くても消費電力を維持(2026年3月) | 寸法、電流・電圧、最大放熱量、ΔTの記載なし |
| GPU HBM向けThermal Control System | 「最大0.15のPUE改善」「最大5倍の機器寿命」「最大40%の計算性能の向上」「5年で3倍のROI」。第2世代は冷却能力が75%向上(サンプル) | 注記・脚注なし。基準の機器、負荷、水温、期間の記載なし |
| xPU・スイッチASIC | TECで、気流やシステム構成を変えずにチップのTDPを最大20%高められる。素子の厚みはミリメートル級 | 測定条件の記載なし |
| CPO向け | 双方向の熱制御で「−0.5 ℃より良い精度」(ブログ)。レーザー接合部の温度安定、リングモジュレータの共振の維持が目的 | 表記の符号の意味、設定温度、熱負荷の記載なし |
| 信頼性・品質 | 信頼性試験の計画は Telcordia GR-468-CORE に準拠(電力サイクル、温度サイクル、高温・低温保管、衝撃・振動)。全数の電気試験。現場の不良率は社内目標の10 DPPM未満、リコールなし | 試験のサイクル数・温度範囲・サンプル数の記載なし。実測のDPPM値の記載なし |
| 導入数 | TECを「4,000万個超」(設計の資料、5年間)、「3,500万個」(サステナビリティ)。北米のデータセンター・データ通信の設備の「40%」に使われていると説明 | 基準日・数え方・「40%」の分母の記載なし。資料間で数が異なる |
| 冷蔵・冷凍と環境 | ACSの冷蔵庫・冷凍庫で、圧縮機方式に比べ、使用1年あたりのCO2e削減が平均36%(「第三者検証のLCA」)。空調(TTAP)の総保有コストが18%低い。作動流体は水と二酸化炭素と説明 | LCAの範囲・年・比較対象の記載なし。GWPの記載も「<1」と「1以下」で表現が揺れる |
(1) 何でできているか:「BiTel」材料。組成は書かれていません。同社の信頼性の資料は「BiTel」の材料、インゴットを薄く切り出す工程(ウェーハ化)、酸化を防ぐ接点金属と拡散バリア、はんだの塗布と光学検査(統計的工程管理)に言及しますが、元素組成・結晶の向き・膜厚・脚の寸法は書いていません。室温付近の熱電冷却の材料としては、テルル化ビスマス(Bi2Te3)系が一般的なため、「BiTel」はその系統と推測できますが、公式資料では確認できません。性能指数ZT、AC抵抗、COPを測定していると書きますが、値は非公開です。
(2) 「60%・30%」の読み方。TECの性能は、温度差、電流、素子の脚の長さと断面積、接点の抵抗で決まり、どの条件で比べるかで「放熱密度」と「効率」は逆向きに動きます(解説。詳しくは技術解説『熱電変換材料』)。同社の「60%高く、30%低い」は、基準が「業界標準」としか書かれておらず、両方が同じ条件の値かも分かりません。
(3) データセンターでの「PUE改善」には、冷却の全体設計が効く。TECは電気で熱を運ぶため、冷やした熱に加えて投入した電力の分も、外へ捨てる必要があります(解説)。同社は、Thermal Fabricで「施設の冷却水の温度を上げても、チップの温度を保てる」ことが効率の源だと説明しており、PUEの改善は素子の性能だけでなく、水温の設定などの運用が前提と読めます。この前提条件は、資料には書かれていません。
(4) 信頼性は、熱サイクルの疲労が論点。TECは、温度を何度も上下させると、セラミックの板、はんだ、接点の熱膨張の差で疲労します(解説)。同社が参照するTelcordia GR-468-CORE(光電子部品の信頼性の規格。ISOやIECとは別の業界規格)は、この種の試験を含みますが、試験の厳しさ(サイクル数・温度範囲)は書かれていません。「10 DPPM未満」は社内目標で、実測値ではありません。
(5) 数値の読み方。「0.15」「5倍」「40%」「3倍」「75%」は、いずれも基準・条件が書かれておらず、互いに、また他社の値と同じ条件とは言えません。他の冷却方式との優劣の判断は、本稿では行いません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 財務の不透明さ | 売上・利益・手元資金・調達の累計が公式資料にない。公開されているのは2015年1月までのForm Dのみ。本稿は財務の健全性を評価できない | 確認できず |
| 性能値の基準が不明 | 「業界標準」「最大」の基準・条件が資料にない。導入数も「4,000万」「3,500万」と資料により異なり、数える単位も違う。GPU HBM向けは、独立した検証の記載がない | 事実(資料間の不一致)/検証は確認できず |
| 顧客・出荷量の見えにくさ | 顧客名は非公表で、「すべての大手ハイパースケーラー」は同社の説明。光トランシーバ以外(GPU HBM、CPO)は、サンプル出荷や状態の記載がない段階 | 未確定/将来 |
| 事業の集中 | 公式サイトの案内は、データセンターに集中している。冷蔵・冷凍・空調など他の事業の現況は確認できなかった。AI向けの需要への依存度は、公式資料から判断できない | 確認できず/推測 |
| 製造の依存 | 量産の一部はFabrinet(タイ)に依存。生産能力・歩留まりは非公表。輸出入の関税・規制は、本稿では確認していない | 確認できず |
| 品質・認証の表記の不一致 | ISO 14001の版が「2015」「2019」と資料により異なり、IATF 16949は「整合」と取得が混在する。認証の最新状況は公式資料から確定できない | 事実(資料間の不一致) |
| 競合技術・代替 | 液冷、空冷、その他の冷却方式、他の熱電素子の会社が併存する。固体冷却の優位は同社の説明で、本稿は比較しない。市場規模の推計も採用しない | 確認できず |
| 会社の所有・資金に関する報道 | 2026年に会社の売却や資金調達に関する報道があるが、会社の公式発表は確認できなかった。本稿は、報道の内容も金額も採用しない | 確認できず |
12. 用語集
- TEC(熱電冷却素子)
- 電流を流すと一方の面から他方の面へ熱が運ばれる素子(ペルチェ効果)。可動部がなく、狙った場所の温度を制御できる。
- ZT
- 熱電材料の性能指数。大きいほど、熱と電気の変換効率がよい。測定には温度の条件が必要。
- COP
- 冷却の効率。運んだ熱の量を、投入した電力で割った値。温度差が大きいほど下がる。
- 光トランシーバ
- 電気信号と光信号を変換して、データセンターの機器間をつなぐ小型の部品。レーザーの温度を一定にする必要がある。
- CPO(共同パッケージ光学)
- 光学部品を、スイッチやGPUのチップのすぐそばに同じパッケージで載せる方式。
- HBM
- 高帯域幅メモリ。GPUの近くに積層して置かれ、発熱が大きい。
- PUE
- データセンターの電力効率の指標。施設全体の電力を、IT機器の電力で割った値。1に近いほどよい。
- Telcordia GR-468-CORE
- 光電子部品の信頼性を確認する業界規格。ISO・IEC・IEEE・JISとは別の規格。
- DPPM
- 100万個あたりの不良品の数。社内目標と実測値は区別して読む。
- メーカー公称
- メーカー自身が示す説明や性能値。測定条件と版が一緒でないと、他の製品と比べられない。

13. 出典
- Phononic 公式サイト(トップページ。製品群、性能値の公称、ロゴ画像の取得元)。 https://phononic.com/
- Phononic 公式サイト「About Phononic」。経営陣、会社紹介。 https://phononic.com/about-phononic/
- Phononic 公式サイト「Design Excellence」。設計の工程、製造(Fabrinet)、品質の認証。 https://phononic.com/design-excellence/
- Phononic 公式サイト「Cooling for Transceivers」。Box TOSA用・TO-can用のTEC。 https://phononic.com/phononic-tecs-superior-cooling-for-pluggable-transceivers/
- Phononic 公式サイト「Thermal Control System for GPU HBMs」。性能の公称値。 https://phononic.com/phononic-thermal-system-solid-state-cooling-for-gpu-hbms/
- Phononic 公式サイト「Thermal Control System for CPO」。 https://phononic.com/cpo-cooling-thermal-system-for-co-packaged-optics/
- Phononic 公式サイト「Software」。ファームウェア、Redfish互換のインターフェース、SaaSの解析。 https://phononic.com/predictive-cooling-software-firmware-redfish-compatible/
- Phononic 公式サイト「Licensing」。ライセンス、冷却、空調(TTAP)の案内。 https://phononic.com/licensing/
- Phononic 公式サイト「Sustainable Cooling」。導入数、LCA、GWPの記載。 https://phononic.com/sustainable-cooling/
- Phononic 公式サイト「Intellectual Property」。冷蔵庫製品に関わる米国特許番号の特許告知。 https://phononic.com/intellectual-property/
- Phononic Different by Design: A Proven Approach to TEC Quality and Reliability(ホワイトペーパー。材料、工程、Telcordia GR-468-CORE、認証)。 https://phononic.com/intelligence-hub/different-by-design-a-proven-approach-to-tec-quality-and-reliability/
- Phononic Enabling High-Performance CPO(ブログ。CPOの熱管理)。 https://phononic.com/intelligence-hub/enabling-high-performance-cpo/
- Phononic Thermoelectrics, Reimagined: Why Now Is the Moment—and Phononic Leads the Shift(ブログ。TECの特徴)。 https://phononic.com/intelligence-hub/thermoelectrics-reimagined-why-now-is-the-moment-and-phononic-leads-the-shift/
- Phononic Phononic Thermal Control Systems Deliver Superior AI Cooling, Validated by 360Quadrant(2026年。調査会社の分類に関する発表。本稿は評価を採用しない)。 https://phononic.com/intelligence-hub/phononic-thermal-systems-deliver-superior-ai-cooling-validated-by-360quadrant/
- Phononic Phononic’s Expanded Data Center Cooling Portfolio Delivers 3X ROI for AI Data Centers, Ushering in a New Era of AI Data Center Performance(2026年3月10日のプレスリリース。PR Newswire)。 https://www.prnewswire.com/news-releases/phononics-expanded-data-center-cooling-portfolio-delivers-3x-roi-for-ai-data-centers-ushering-in-a-new-era-of-ai-data-center-performance-302708892.html
- Phononic Phononic Announces Full Customer and Manufacturing Qualification in APAC Expanding Global Production of High Performance Thermoelectrics(2021年10月20日のプレスリリース。Business Wire配信の全文をStockTitanの転載で確認)。 https://www.stocktitan.net/news/FN/phononic-announces-full-customer-and-manufacturing-qualification-in-n112akdiuhe0.html
- U.S. Securities and Exchange Commission Phononic Devices, Inc. Form D(2011年3月3日署名。売却額US$10,075,002、投資家6)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1514026/000151402611000001/primary_doc.xml
- U.S. Securities and Exchange Commission Phononic Devices, Inc. Form D(2012年12月17日署名。売却額US$5,500,000、投資家5)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1514026/000151402612000001/primary_doc.xml
- U.S. Securities and Exchange Commission Phononic Devices, Inc. Form D(2014年1月13日署名。売却額US$8,499,999、投資家5)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1514026/000151402614000002/primary_doc.xml
- U.S. Securities and Exchange Commission Phononic Devices, Inc. Form D/A(2014年3月26日署名。売却額US$25,904,991、投資家27)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1514026/000151402614000003/primary_doc.xml
- U.S. Securities and Exchange Commission Phononic Devices, Inc. Form D(2015年1月13日署名。募集上限US$49,999,999、売却額US$44,216,992、投資家31)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1514026/000114036115001677/primary_doc.xml
- Google Patents US8563844B2 Thin-film heterostructure thermoelectrics in a group IIA and IV-VI materials system(2013年10月22日付与)。 https://patents.google.com/patent/US8563844
- Google Patents US8564129B2 Low resistivity contact(2013年10月22日付与)。 https://patents.google.com/patent/US8564129
- Google Patents US8901612B2 Thin-film heterostructure thermoelectrics in a group IIa and IV-VI materials system(2014年12月2日付与)。 https://patents.google.com/patent/US8901612
- Google Patents US8893513B2 Thermoelectric heat exchanger component including protective heat spreading lid and optimal thermal interface resistance(2014年11月25日付与)。 https://patents.google.com/patent/US8893513
- Google Patents US8991194B2 Parallel thermoelectric heat exchange systems(2015年3月31日付与)。 https://patents.google.com/patent/US8991194
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の内容は、Phononicの公式サイト・プレスリリース、SECのForm D、特許の公開記録に基づきます。調査会社の市場推計・分類や、報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。製品の性能値は同社の公称で、比較の基準と測定条件が書かれておらず、他の値とは比較できません。会社の計画・目標は未確定で、実現を保証するものではありません。本稿は、機器の選定、投資・調達の判断について、読者個人に助言するものではありません。