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フォトダイオード 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

フォトダイオード
― 光学式バイオセンサーの「目」は、どの光を、どれだけ静かに受けられるかで決まる

吸光度を測る試験紙リーダー、蛍光を読むカートリッジ、指先や手首で脈を測るPPG、体内に置く蛍光式センサー――光で測るバイオセンサーの最後の部品は、光を電流に変えるフォトダイオードです。 この記事は、素材技術者の視点から、シリコンが受けられる光の範囲、暗電流とノイズが決める検出の下限、周囲光を除くしくみを整理し、そのうえで光の通り道にある樹脂・窓・フィルター・皮膚との界面という材料の論点を扱います。

構成:浜松ホトニクスとテキサス・インスツルメンツの技術資料、Analog Devices の技術記事、査読付き論文、FDA の審査文書・米国連邦規則、ISO の公式ページを一次情報として使用/最終更新 2026年10月

ヒーロー画像:光学センサーモジュールの拡大(透明な窓、LED、受光素子、黒い樹脂の隔壁)と、手首にあてる場面
概念図(AI生成イメージ)。透明な窓の下にLEDと受光素子が並び、その間を黒い樹脂の隔壁が仕切る光学センサーモジュールを拡大して見せ、手首にあてて使う場面を表現したものです。実際の製品・構造・寸法を示すものではありません。
この記事の構成
  1. フォトダイオードとは何か(3行でつかむ)
  2. 受光素子の種類:pn・PIN・APD・SiPM
  3. どの光を受けられるか:バンドギャップが決める範囲
  4. 暗電流とノイズが、検出の下限を決める
  5. 電流を電圧に変え、周囲光を除く
  6. 使われ方の例(当局文書・論文で確認できる範囲)
  7. 素材技術者の視点①:光の通り道の材料(窓・封止・フィルター・黒色樹脂)
  8. 素材技術者の視点②:皮膚との光学界面と、窓の汚れ
  9. 規格と審査で確認できること
  10. 課題と、本稿で確認できなかったこと
  11. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルールと、お断り

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=確認できていない事項
このほか、材料設計上の読み取りは「解説」、根拠が弱い見立ては推測として区別しています。メーカーの値は「メーカー公称」と書き、グレードと条件を添えます。
本記事は、受光素子の原理・材料・評価・規制の解説です。診断・治療・服薬、測定値の受け止め方に関する助言ではなく、特定の製品や企業の優劣を示すものでもありません。

1. フォトダイオードとは何か(3行でつかむ)

  • 何をするか:半導体の pn 接合に、バンドギャップより大きなエネルギーの光が当たると電子と正孔が生まれ、入射した光の量に比例する電流として取り出せます。浜松ホトニクスの技術資料は、光を当てると電流または電圧を生じる素子と説明し、精密に光量の変化を測るものを指すのが普通だとしています事実[参考資料1]。
  • 何が難しいか:バイオセンサーで測る光は弱く、しかも測りたい変化は、大きな背景光の上の小さな揺らぎです。PPG の脈動成分(AC)は、一定成分(DC)に対して、手首では0.02%から2%程度とされています事実[参考資料6]。素子の暗電流とノイズ、増幅回路、周囲光、そして光の通り道の材料が、すべて検出の下限に効きます。
  • 素材の目で見ると:素子の手前にある窓、封止樹脂、フィルター、仕切りの黒い樹脂、皮膚との界面が、受ける光の量と質を決めます。素子そのものより、その周りの材料で性能が変わる場面が多い領域です(本記事による解説)。
本シリーズの他の記事との関係

InGaAs や Ge on Si など光通信向けの受光器(200 Gbps 級の高速素子、結晶と暗電流の話)は、本シリーズ「光検出器」編(光通信・フォトニクス)で詳しく扱います。この記事は、バイオセンサーに使う低速・微弱光の受光に絞り、光通信の話は繰り返しません。 PPG の原理と肌の色による差は「ウェアラブルバイオセンサー」編、表面プラズモン共鳴の光学系は「表面プラズモン共鳴」編、ラマン分光は「ラマン分光とSERS」編、蛍光式の埋め込み型センサーは「埋め込み型センサー」編、スマートフォンのカメラを検出器に使う話は「スマートフォン連携とデジタルツイン」編が先に扱っています。ここでは受光素子と、その周りの材料に光を当てます。

2. 受光素子の種類:pn・PIN・APD・SiPM

バイオセンサーで出会う受光素子は、大きく4つに分けられます。違いは「内部でどれだけ信号を増やすか」と「どれだけ速く応答するか」です。

種類しくみ(資料の記述)得意なところ気をつける点
pn フォトダイオード(Si)p 層と n 層の接合で光を電流にする。入射光が10-12〜10-2 W の範囲で、9桁以上の直線性があるとされる(素子の種類と回路による)[参考資料1]光量に比例した出力。低ノイズ、小型、堅牢内部増幅はない。弱い光は、後段の増幅回路とノイズで決まる
PIN フォトダイオード逆電圧をかけて空乏層を広げ、容量を小さく、キャリアの走行を速くした構造。高速応答に向き、光通信や光ディスクにも使われる[参考資料1]。手首のPPGの記事では、Si PIN が可視〜近赤外で大きな感度をもつ素子として挙げられている[参考資料6]応答が速い。感度も高い逆電圧は直線性を広げる一方、暗電流とノイズを増やす[参考資料1]
APD(アバランシェ)強い逆電圧で加速したキャリアが新しい電子・正孔を作る「アバランシェ増倍」で、素子の内部で光電流を増やす[参考資料2](資料は InGaAs APD の説明)微弱光で、後段のノイズを相対的に小さくできる増倍の揺らぎで「過剰雑音」が加わる。増倍率は温度で変わり、電圧と温度の管理が要る[参考資料2]
SiPM(MPPC)ガイガーモードで動かす多数の APD 画素と、各画素に直列の消光抵抗を並べた素子。1個の光子でも大きな出力を出し、光子を数える使い方ができる[参考資料3]極微弱な蛍光の検出。資料は、試薬の微弱な蛍光検出を応用例に挙げる暗計数、アフターパルス、クロストーク、画素の飽和。ゲインは温度で変わり、電圧を温度に合わせるか素子温度を一定にする[参考資料3]

すべて事実(浜松ホトニクスの技術資料。メーカー資料の記述で、Si APD の個別の資料は本稿では確認していません)。MPPC のゲインは、資料の例(S13360-3050CS)で、ゲイン約1.7×106を保つための逆電圧と温度の関係が図示されています[参考資料3](すべての製品の値ではありません)。

バイオセンサーの多くは、pn または PIN の Si フォトダイオードで足ります。吸光度の測定も、PPG も、光量がミリ秒〜秒の遅い変化だからです。APD や SiPM が出てくるのは、蛍光や化学発光のように光子の数が少ない場面です(本記事による整理)。

3. どの光を受けられるか:バンドギャップが決める範囲

半導体は、バンドギャップより小さいエネルギーの光を吸収できません。浜松ホトニクスの技術資料は、カットオフ波長を λc = 1240 ÷ Eg(nm、Eg は eV)とし、室温のシリコンは Eg = 1.12 eV で、カットオフは1100 nmだと書いています事実[参考資料1]。短波長側は、表面の拡散層で光が吸収されてしまうため、普通のSiで320 nm、紫外強化型で190 nm とされています[参考資料1]。

受光素子の感度波長範囲と、バイオセンサーでよく使う光の波長(本稿の計算を含む作図) 横軸は波長(µm)。バーは浜松ホトニクスの代表的な製品ラインの感度波長範囲。縦の破線は光源の波長の例。 Si(標準)0.32〜1.1 µm Si(紫外強化)0.19〜1.1 µm InGaAs(短波長高感度)0.5〜1.7 µm InGaAs(標準)0.9〜1.7 µm InGaAs(長波長タイプ)0.9〜2.6 µm 0.2 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 µm 緑 530 nm 赤の例 660 nm 近赤外の例 940 nm 1310 nm 1550 nm ※ バーの範囲と λc = 1240 ÷ Eg(Si:1.12 eV → 1100 nm)は浜松ホトニクスの技術資料[参考資料1・2]。1240 ÷ 1.12 ≒ 1107 nm は本稿の検算。 ※ 緑 530 nm は多くのPPGセンサーで使われるとされる値[参考資料6]。赤・近赤外の波長は、本稿が置いた代表例(出典の記載値ではありません)。 ※ 1310・1550 nm は光通信の波長で、Si は受けられません(光通信側の話は「光検出器」編)。
図1 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。各素子の感度波長範囲[参考資料1・2]と光源の波長の位置関係を示します。光源の波長は例示で、特定の製品の仕様ではありません。範囲は代表的な製品ラインの値で、個々の製品は異なります。
  • 可視〜近赤外(緑・赤・近赤外のLED):PPG やパルスオキシメトリーの光は、シリコンの得意な領域に入ります。パルスオキシメトリーは、赤と赤外の2波長のPPG にもとづくとされます事実[参考資料7]。
  • 近赤外の端:シリコンは近赤外で光の吸収が弱くなり、感度が落ちます。厚いウェハーで補うと、高い電圧が必要になり、暗電流が増え、応答が遅くなる、と資料は説明します[参考資料1]。
  • 1100 nm より長い光:Si では受けられず、InGaAs など別の材料を使います。InGaAs の標準タイプは0.9〜1.7 µm、長波長タイプは2.6 µm まで用意されています事実[参考資料2]。バイオでは、水の吸収帯を使う近赤外分光などが該当します(本記事による整理)。

素材の目で見ると、もう一つ大事な点があります。素子の感度範囲は、窓の材料でも切られます。同じ資料は、ホウケイ酸ガラスと樹脂コーティングの窓は約300 nm より短い光を吸収してしまうため、紫外の感度が失われ、300 nm より短い光には石英窓を使うと書いています事実[参考資料1]。第7章で、この窓の話を続けます。

4. 暗電流とノイズが、検出の下限を決める

浜松ホトニクスの技術資料は、Si フォトダイオードの雑音電流を、並列抵抗(Rsh)の熱雑音と、暗電流および光電流のショット雑音の二乗和の平方根としています。式は、熱雑音が √(4kTB÷Rsh)、暗電流のショット雑音が √(2qIDB)、光電流のショット雑音が √(2qILB) です(B は雑音の帯域幅)事実[参考資料1]。検出の下限は、雑音電流に等しい光電流を作る入射光量、つまりNEP(雑音等価電力)=雑音電流 ÷ 感度で表されます[参考資料1]。

本稿の計算:雑音の大きさと、NEP の目安

上の式に、本稿が置いた条件を入れて、雑音がどこで決まるかを見ます本稿の計算。

  • 仮定:温度 298 K、感度 S = 0.43 A/W(本稿の仮定。量子効率100%の緑の波長に近い値)。電流を電圧に変える抵抗(並列抵抗または帰還抵抗)R を 10 MΩ・1 GΩ・100 GΩ、暗電流を 1 pA・100 pA とする(例示の値)。増幅器自身の雑音は含めない
  • 熱雑音:√(4kT÷R) は、10 MΩ で約 40.6 fA/√Hz、1 GΩ で約 4.1 fA/√Hz、100 GΩ で約 0.41 fA/√Hz
  • 暗電流のショット雑音:√(2qID) は、1 pA で約 0.57 fA/√Hz、100 pA で約 5.7 fA/√Hz
  • 結果(NEP):1 GΩ・暗電流 1 pA で約 9.5 fW/√Hz、1 GΩ・100 pA で約 16 fW/√Hz。100 GΩ・1 pA で約 1.6 fW/√Hz、100 GΩ・100 pA で約 13 fW/√Hz。10 MΩ では暗電流によらず約 94〜95 fW/√Hz
  • 光電流が大きいとき:光電流のショット雑音が熱雑音と等しくなる電流は 2kT÷(qR) ≒ 0.051 V ÷ R。R = 1 GΩ なら約 51 pA。これより大きい光電流では、光自身の揺らぎ(ショット雑音)が支配的になる(資料は同じ趣旨で「IL が 0.026÷Rsh より十分大きいとき」と書く[参考資料1])

前提と限界:温度、感度、抵抗、暗電流はすべて本稿が置いた例示の値で、特定の素子の仕様ではありません。実際の回路では、増幅器の電圧雑音や入力のバイアス電流、基板の漏れ電流が加わります。 この計算が示すのは、抵抗を大きくすると熱雑音は減り、暗電流のショット雑音が下限を決めるようになるという構造だけです(本記事による解説)。

抵抗と暗電流で、雑音等価電力(NEP)はこう変わる(本稿の計算) NEP = 雑音電流 ÷ 感度。298 K、感度 0.43 A/W、増幅器の雑音は含まない(例示の値)。横軸は対数。 10 MΩ・暗電流 1 pA 10 MΩ・暗電流 100 pA 1 GΩ・暗電流 1 pA 1 GΩ・暗電流 100 pA 100 GΩ・暗電流 1 pA 100 GΩ・暗電流 100 pA 94 fW 95 fW 9.5 fW 16 fW 1.6 fW 13 fW 1 10 100 fW/√Hz 暗電流 1 pA 暗電流 100 pA ※ 熱雑音は √(4kT÷R)、暗電流のショット雑音は √(2qI) で算出(浜松ホトニクスの式[参考資料1])。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。式は浜松ホトニクスの技術資料[参考資料1]によります。温度・感度・抵抗・暗電流は本稿が置いた例示の値で、特定の素子の性能ではありません。抵抗が大きいほど熱雑音は小さくなり、暗電流が下限を決めます。

同じ資料は、暗電流のほかに実務で効くことも述べています。逆電圧は直線性を広げますが、暗電流とノイズを増やします[参考資料1]。帰還抵抗を並列抵抗より大きくすると、増幅器の電圧雑音やオフセットが増幅されて出力に乗ります[参考資料1]。回路基板の漏れ電流が、増幅器のバイアス電流より大きくなることもあり、ガードリングや絶縁の工夫が要ると書かれています事実[参考資料1]。InGaAs の資料は、暗電流は温度の上昇で指数関数的に増えると書き、冷却型を用意しています[参考資料2]。

5. 電流を電圧に変え、周囲光を除く

トランスインピーダンスアンプ(電流→電圧)

フォトダイオードの出力は電流です。これを電圧に変える標準的な回路が、演算増幅器の帰還抵抗 Rf を使うトランスインピーダンスアンプ(TIA)で、出力は Vout = −Isc × Rf になります。負帰還のため、フォトダイオードから見た負荷抵抗は Rf ÷ A(A は開ループゲイン)と極めて小さく、短絡電流の理想的な測定になります事実[参考資料1]。 ただし、Rf を並列抵抗 Rsh より大きくすると、増幅器の入力電圧雑音とオフセットが(1+Rf÷Rsh)倍されて出力に乗るため、無限に大きくはできません。入力容量があるときは帰還容量 Cf で発振を防ぎ、Rf と Cf は同時にローパスフィルターにもなります[参考資料1]。 テキサス・インスツルメンツの応用資料は、フォトダイオードを使う高分解能の検出回路では帯域・ゲイン・入力換算雑音が互いに結びついていると述べています事実[参考資料5]。

周囲光をどう除くか:時分割と差し引き、そして変調

パルスオキシメーター向けのアナログフロントエンド(AFE4400、資料の版は2014年7月改訂)の資料は、フォトダイオードの信号が3つの成分からなると説明します事実[参考資料4]。

  • 脈動成分(AC):動脈の血液量の変化による。
  • 一定成分(DC、pleth 信号):時間変化しない組織などから戻る光。
  • 周囲光:フォトダイオードに入る外光。

AC は DC のごく一部(灌流指数)で、増幅の上限は DC の大きさで決まります[参考資料4]。この資料の回路は、2つのLEDを順番に短時間だけ点灯し、LEDが消えている間にも受光側を読んで、周囲光だけの値を推定します。ADC の後でデジタル的に「(LED点灯時)−(周囲光)」を出力し、さらに周囲光による直流の偏りを電流 DAC で打ち消してから増幅します[参考資料4]。

この考え方を、狭い周波数帯だけを取り出す方向に徹底したのがロックイン検出です。Stanford Research Systems の技術ノートは、ロックイン増幅器が位相敏感検出で参照周波数の成分だけを取り出し、他の周波数の雑音を除くと説明しています。励起を固定周波数で行う例として、光チョッパーや発振器を挙げています事実[参考資料22]。 光学式のバイオセンサーでは、光源を一定の周波数で明滅させ、受光側でその周波数だけを検出する、という使い方になります(本記事による整理。個々の製品の方式は確認していません)。外光(太陽光や室内灯)は、ほぼ直流か、電源周波数の揺らぎとして入るため、光源側に「目印」をつけておくことで、後から分けやすくなります(本記事による解説)。

受光の信号の流れと、時分割による周囲光の差し引き(概念図) 上:光が試料や組織を通り、フォトダイオード、TIA、ADC へ進む。下:LED を順に点灯し、消灯中の受光を周囲光として差し引く。 光源(LED) 順に短く点灯 試料・組織 吸収・散乱で変化 フォトダイオード 光 → 電流 TIA 電流 → 電圧 ADC・差し引き デジタル化 周囲光(外光)も入る 時間の流れ(資料が説明する時分割の考え方) LED A LED B 受光側 A + 周囲光 周囲光のみ B + 周囲光 周囲光のみ …繰り返し 差し引き (A + 周囲光) −(周囲光のみ)→ A B も同様に求める。 周囲光の変化が遅い ことが前提(解説) ※ LED を順に点灯し、消灯中の受光で周囲光を推定してデジタルで差し引く構成は TI の AFE4400 の資料[参考資料4]の説明です。 ※ 点灯の長さ・順序・繰り返しの間隔は模式で、実際の装置の値ではありません。
図3 概念図(ベクター作図)。受光の信号の流れと、LED の時分割点灯・消灯中の受光による周囲光の差し引き[参考資料4]を示します。タイミングは模式で、特定の製品の動作を示すものではありません。
本稿の計算:PPG の脈動成分は、光の揺らぎ(ショット雑音)で見るとどれだけ見えるか

第4章の式を、PPG の信号に当てはめます本稿の計算。

  • 仮定:フォトダイオードに流れる一定成分(DC)を 1 µA(本稿の仮定)、信号の帯域を 10 Hz(本稿の仮定)。脈動成分の割合は、手首の例として挙げられた 0.02%(弱い脈)と 2%(強い脈)[参考資料6]
  • 光電流のショット雑音:√(2q × 1 µA × 10 Hz) ≒ 約 1.8 pA
  • 脈動成分:0.02% なら 0.2 nA(200 pA)、2% なら 20 nA
  • 比:200 pA ÷ 1.8 pA ≒ 約110(0.02%)、20 nA ÷ 1.8 pA ≒ 約11,000(2%)

前提と限界:DC の 1 µA と帯域 10 Hz は本稿が置いた値です。増幅回路の雑音、動き、周囲光、皮膚との接触の変動は含みません。 この計算が示すのは、光子の数の揺らぎだけなら、弱い脈でも見えることです。実際の PPG の難しさは、素子の雑音より、動き・周囲光・接触・皮膚の光学特性という外乱にある、という読み方が成り立ちます(本記事による解説。資料が挙げる雑音源は「ウェアラブルバイオセンサー」編)。

6. 使われ方の例(当局文書・論文で確認できる範囲)

使い方受光素子の役割一次情報で確認できたこと注意(確認できなかった点)
吸光度の測定(カートリッジ・マイクロキュベット)試料を通った光(透過光と散乱光)を受け、吸光度から濃度を求めるHemoCue Hb 801 System:FDA の 510(k) K181751(Hemocue AB、決定日 2019年2月1日、製品コード GKR、21 CFR 864.5620 のクラスII)。約 10 µL の全血をマイクロキュベットに吸い込み、分析器がヘモグロビンとオキシヘモグロビンの等吸収点での全血の吸光度を測り、アルゴリズムで濃度にする。国際参照法の HiCN 法にトレーサブル。用途は、医療現場での全血ヘモグロビンの定量で、専門家用の体外診断用[参考資料14・15]審査文書の要約は、受光素子の種類を記載していません。性能値(精度)は本稿では扱いません
蛍光の検出(チップ上)励起光を遮り、蛍光だけを受ける。弱い光を、チップと一体の素子で読むPereira ら(2011):ガラス基板上の薄膜アモルファスシリコン(a-Si:H)フォトダイオードの上に、蛍光フィルターとして働くアモルファスシリコンカーボン膜を直接成膜し、PDMS の微細流路と一体化。量子ドット標識の抗体によるモデル免疫測定で、アッセイ全体で30分、ナノモル〜マイクロモル範囲で濃度に比例する結果が、蛍光顕微鏡の結果と整合したと報告[参考資料9]。Dattner と Yadid-Pecht(2010):CMOS の接触イメージャに、色素を含むポリアクリル酸の吸収型エミッションフィルター(厚さ20 µm)を一体化し、蛍光ポリスチレン微粒子で実験[参考資料10]いずれも研究報告(モデル系)で、実際の検体や製品の性能ではありません
極微弱な蛍光光子を数える(SiPM/MPPC)浜松ホトニクスの資料は、MPPC が試薬の微弱な蛍光を検出できると応用例に挙げる[参考資料3]バイオセンサー製品での採用例は、本稿では確認していません。化学発光を受光素子で読む個別の論文・審査文書も、本稿では確認していません
PPG・パルスオキシメトリーLED の光が組織で吸収・散乱された戻り光を受ける。赤と赤外の2波長の PPG の脈動から酸素飽和度を推定[参考資料7]21 CFR 870.2700:オキシメーターは、既知の波長の放射を血液に通し、反射または散乱した量から血中酸素飽和度を測る装置で、クラスII[参考資料16]。規格は ISO 80601-2-61:2026(第3版、2026年4月)[参考資料17]。Nitzan ら(2014)は、較正が各センサーごとに経験的に行われること、メーカー公称の精度が2%(SDで評価)であること、低灌流と動きが限界であることなどを整理[参考資料7]。FDA は、肌の色の影響を含む懸念から、2025年1月7日に医療用パルスオキシメーターの性能試験・表示の勧告案(ドラフトガイダンス)を発出[参考資料18]ドラフトのその後の最終化の有無は、本稿では確認できませんでした。肌の色による差は「ウェアラブルバイオセンサー」編
体内に置く蛍光式センサー指示薬の蛍光を受ける(電気光学回路が励起と検出を担う)Eversense:FDA の PMA P160048(Senseonics、承認 2018年6月21日)。審査文書は、センサーが蛍光を用いた検知機構で間質液中のブドウ糖を5分ごとに測ること、試験項目として「蛍光指示薬を励起し、放出された蛍光を検出する電気光学回路」の機能を挙げる[参考資料19]審査文書は、受光素子の種類を記載していません。構成は「埋め込み型センサー」編
表面プラズモン共鳴(SPR)反射光の角度または波長のずれを読む光学系は本シリーズ「表面プラズモン共鳴」編が扱う。受光はフォトダイオードやイメージセンサーが担う受光素子の個別の仕様は、本稿では扱いません

すべて事実(各当局文書・査読論文・規格団体の公式ページ)。承認・適合は特定の使用目的に対する判断で、FDA の clearance(510(k))・De Novo・approval(PMA)は別の制度です。製品名は FDA の文書に記載のものを示すもので、優劣を示すものではありません。

スマートフォンのカメラ(イメージセンサー)との違い

スマートフォンのカメラを検出器に使う方法は、本シリーズ「スマートフォン連携とデジタルツイン」編が詳しく扱っています。受光素子の側から整理すると、次の違いがあります(本記事による解説。個別の資料は確認していません)。

  • 単一素子か、多数の画素か:フォトダイオードは1つ(または少数)の受光面で光量を直接電流にします。イメージセンサーは多数の小さなフォトダイオードを並べ、位置ごとの情報を得ます。浜松ホトニクスも、複数素子のフォトダイオードアレイを位置検出や分光に使うと説明しています[参考資料1]。
  • 測定系に何が入るか:専用の受光回路では、増幅率・積分時間・光源の点灯を測定者が決められます。カメラでは、露出・ホワイトバランス・画像処理が測定系に含まれることがあり、結果の再現性は設定に左右されます。
  • 使い分け:色や位置の分布を見たいならイメージセンサー、微弱な光量を精密に追いたいなら、冷却や増幅を含めた専用の受光素子、という整理が成り立ちます。蛍光検出では、CMOS の接触イメージャを使う研究[参考資料10]と、フォトダイオードを使う研究[参考資料9]の両方があります。

7. 素材技術者の視点①:光の通り道の材料(窓・封止・フィルター・黒色樹脂)

光学式センサーの性能は、素子だけでなく、素子の手前にある材料の積み重ねで決まります。Analog Devices の技術記事(Maxim Integrated の手首用 PPG の設計指針、2019年3月26日)は、LED とフォトダイオードを透明な材料で封止し、防湿と、光学素子と手首の界面を兼ねさせ、LED と受光素子の間には光を吸収する仕切り(光バリア)を置く構成を示しています事実[参考資料6]。

フォトダイオードの仕組みを表した概念画像
図4 概念画像(AI生成)。反射型の光学モジュールでは、LEDの光を皮膚へ送り、組織で戻った光をフォトダイオードで受けます。遮光材と光学窓は、直接光や周囲光の混入を抑える設計要素です。 AI生成の概念画像で、実製品の構造・寸法や顕微鏡像を示しません。
出典・数値・構成を示す元の模式図(SVG)を確認する
反射型の光学センサーモジュールの断面と、光の通り道の材料の論点(概念図) 皮膚を上にして描いています。LED の光が皮膚の中を通って戻り、受光素子に届く。仕切りがなければ、光は窓の中を直接もれる。 皮膚(表皮・真皮の血管床) 透明な窓・封止樹脂 LED 受光素子 フィルター 基板 × ①②③④⑤ 測りたい光(皮膚の中を通って戻る) 迷光(窓の中を直接もれる光。黒い仕切りで遮る) 材料の論点(番号は左図) ① 窓・封止樹脂 透過率、黄変、吸水、屈折率 ② 光学フィルター 色素・薄膜、退色、膜厚、接着 ③ 黒い樹脂の仕切り 迷光の吸収。近赤外でも黒いか ④ 窓と皮膚の界面 空気の隙間、圧力、動き、屈折率 ⑤ 窓の表面 皮脂・汗・タンパク質の付着 ※ 窓・封止と光バリアは Analog Devices の技術記事[参考資料6]、フィルターは研究報告[参考資料9・10]の考え方にもとづく概念図です。 ※ 層の厚さ・位置・形は模式で、実際の製品の構造を示すものではありません。論点の列は本記事による整理(解説)です。
図4 概念図(ベクター作図)。反射型の光学センサーモジュールの断面と、光の通り道の材料の論点を示します[参考資料6・9・10]。構造・寸法は模式で、実在の製品を示すものではありません。論点の整理は本記事によるものです。
部位資料で確認できること素材技術者から見た論点(解説)
窓(ガラス・樹脂)ホウケイ酸ガラスと樹脂コーティングの窓は約300 nm より短い光を吸収し、紫外の感度が失われる。300 nm より短い光には石英窓を使う[参考資料1]窓は素子の感度範囲を切る。紫外の蛍光・励起を使う用途では、窓の材料選択が先に効く。ガラスと接着剤・屈折率の整合は本シリーズ「ガラスのUV接着」編、透明樹脂の屈折率・黄変の評価は「UV硬化樹脂透明タイプ」編
封止樹脂(透明)防湿と光学界面を兼ねる。皮膚に近い屈折率(約1.4)は界面の反射損失を減らし、やわらかさは皮膚との接触面積と圧力を高める。シリコーンがよく使われる[参考資料6]。同記事の表には Dow Corning 製シリコーンの公称値があり、例えば Sylgard 184 は屈折率1.4118(589 nm)、透過率97%(532 nm、厚さ3.2 mm)、96%(880 nm)[参考資料6]PPG の緑〜近赤外の透過率、屈折率、硬さが、封止材の選定項目になる。シリコーンの基礎は「シリコーン」編。メーカー公称は、厚さ・波長・試験条件つきの値で、同じ土俵の比較にはならない
封止樹脂の経時変化Dow Corning(当時)の LED 用シリコーンの資料は、OE-6630 が紫外線照射(365 nm、19 mW/cm²、4時間)後の透過率でエポキシより安定、シリコーン各種が 150 ℃・空気中 1,000 時間で 400 nm の透過率低下が5%未満(厚さ1 mm)と図示する。比較対象は「典型的な光学グレードのエポキシ」で、組成の記載はない[参考資料13](メーカー公称)。エポキシは吸湿して膨潤し、非気密の光電子パッケージで吸湿膨潤応力が故障要因になりうる[参考資料12]黄変は一般に短波長(青〜緑)の透過から落とす、という見立てが成り立つ(推測。本稿では個別の資料を確認していません)。緑LEDの PPG や青〜緑の蛍光は、近赤外より影響を受けやすいかもしれない。吸水と水蒸気の通りやすさは別の性質(「シリコーン」編)
光学フィルター励起光を遮り蛍光だけ受けるため、a-SiC 膜を光検出器の上に直接成膜した例[参考資料9]、色素をポリアクリル酸に混ぜた厚さ20 µm の吸収型フィルターを、ベール・ランベルト則で設計した例[参考資料10]。視感度補正フィルター付きのフォトダイオードもある[参考資料1]色素入り樹脂は、色素の退色・溶出、膜厚の均一さ、貼る接着剤の屈折率が論点。薄膜は、素子と一体で作れる反面、工程が素子と同じになる。干渉膜は入射角で透過帯がずれることが知られる(一般的な光学の知識で、本稿では個別の資料を確認していません)
黒い樹脂の仕切りLED と受光素子の間の光バリアが、皮膚を通らない光(クロストーク)を抑える。クロストークが大きいと脈動が埋もれて PPG が測れなくなる[参考資料6]黒く見える樹脂が、使う波長(特に近赤外)で本当に吸収するかは別問題で、確認が要る(推測に近い一般論)。黒色封止樹脂の材料は「半導体封止材」編。素子の周りの樹脂は、光を通す材料と、遮る材料を使い分ける設計になる

左2列は事実(各資料。Dow Corning の値は Analog Devices の記事経由・メーカー公称)。右列は本記事の「解説」で、推測と書いた箇所は根拠が弱い見立てです。

マイクロ流体チップの光学検出についても、総説(Mogensen と Kutter、2009年)は、量産しやすいポリマー材料による安価な解決策への関心が高まっていると述べています事実[参考資料11]。チップ側の樹脂(流路や窓)と受光素子の関係は、本シリーズ「Lab-on-a-Chip」編を参照してください。

素材技術者の読みどころ:「光を通す」と「光を遮る」を、同じ樹脂系で設計する

光学センサーの周りは、透明な樹脂(窓・封止)と黒い樹脂(仕切り)が隣り合う、光学特性の正反対の材料の組み合わせです。

  • 透明側:使う波長での透過率、屈折率(皮膚や素子との整合)、経時の黄変、吸水。第3章のとおり、素子が受けられる範囲も窓で切られる[参考資料1]
  • 黒側:仕切りが迷光を吸収するか[参考資料6]。吸収が弱ければ、樹脂の中を通る光が受光素子へ直接届く
  • 界面:2つの樹脂の接着、素子と樹脂の密着。吸湿による膨潤が界面にかかる応力になる[参考資料12]

接着剤の屈折率合わせ、シリコーンの吸水と透過、黒色樹脂の充填材といった、本シリーズの接着・封止材の各編(「UV硬化樹脂透明タイプ」「ガラスのUV接着」「半導体封止材」「シリコーン」)の知識が、そのまま効く領域です(本記事による解説)。

8. 素材技術者の視点②:皮膚との光学界面と、窓の汚れ

押しつけ圧と密着

Teng と Zhang(2004年)は、15人の健常者の指で、反射型 PPG のセンサーの接触力を0.2〜1.8 Nで変えて測りました。接触力が増えると DC(直流)成分が増え、規格化した脈の面積が減りました。脈の振幅と AC/DC は、いったん増えてから減り、ピークの接触力は人によって0.2〜1.0 N とばらつき、多くの人は0.2〜0.4 N で振幅が最大でした事実[参考資料8]。著者らは、PPG を使う機器の設計では接触力の影響を慎重に調べるべきだと結論しています。 これは指先・少人数・反射型の結果で、手首や他の装着部位の値ではありません。ここから読めるのは、窓の硬さ・形(盛り上がり)・バンドの締め付けが、信号の大きさそのものを動かす設計変数だということです(本記事による解説)。Analog Devices の記事も、センサー全体をバンドの底から突き出して肌に密着させる構成と、皮膚に追従する「やわらかさ」のある封止材を述べています[参考資料6]。

本稿の計算:窓と皮膚のあいだに空気の隙間があると、光はどれだけ失われるか

垂直入射の反射率 R = ((n₁−n₂)÷(n₁+n₂))² を使います(本シリーズ「UV硬化樹脂透明タイプ」編と同じ式)本稿の計算。

  • 仮定:封止樹脂の屈折率 1.41(Sylgard 184 の公称 1.4118[参考資料6]に近い値)、皮膚の最表層(角質層・表皮)の屈折率 1.40(Analog Devices の記事が引く7層モデルの値[参考資料6])、空気 1.0。吸収と多重反射は無視
  • 密着しているとき:樹脂と皮膚の差は 0.01。R ≒ (0.01÷2.81)² ≒ 0.0013%
  • 空気の隙間があるとき:樹脂→空気で R ≒ 2.9%、空気→皮膚で R ≒ 2.8%。片道の透過は約 0.971 × 0.972 ≒ 0.944(約5.6%の損失)。行きと戻りで2回通るので、約 0.944² ≒ 0.89(約11%の損失)

前提と限界:屈折率は例示の値で、実際の皮膚の表面は粗く、汗や皮脂が隙間を埋めることもあります。この計算が示すのは、界面の反射だけで1割前後が失われうるという大きさの感覚で、実際の信号低下の予測ではありません(本記事による解説)。

窓の汚れとバイオファウリング

体に触れる窓の表面には、汗、皮脂、タンパク質などが付きます。体内に置く場合は、Ward の総説が、植え込み直後にフィブリノーゲンなどのタンパク質が表面に付着する現象(バイオファウリング)から、マクロファージの結合、線維性の被膜の形成へと進むと整理しています事実[参考資料20]。被膜は多くの物質に対して透過しにくくなります[参考資料20]。 蛍光式の埋め込み型センサーの異物反応は、本シリーズ「埋め込み型センサー」編が扱います。

光学窓の汚れが、受光する光量や蛍光信号をどれだけ変えるかを、同じ条件で定量した一次情報は、本稿では確認できませんでした未確定/将来。窓の表面エネルギー、粗さ、被覆(防汚コーティング)で汚れ方が変わるはずだ、という見立ては成り立ちます(推測)。皮膚や体液に触れる部材は、生物学的評価の枠組み ISO 10993-1:2025(第6版)で、リスクマネジメントの中で評価されます[参考資料21]。窓・封止材も、その対象になりうる部材です(本記事による解説。個別の適用は製品・用途による)。

9. 規格と審査で確認できること

  • パルスオキシメーター:21 CFR 870.2700 の「オキシメーター」はクラスII[参考資料16]。基本安全と必須性能の規格は ISO 80601-2-61:2026(第3版)で、プローブとモニターを含み、研究用途や採血が要るオキシメーターは対象外[参考資料17]。FDA は2025年1月に、肌の色の影響を含む医療用パルスオキシメーターの勧告案を出しています[参考資料18]。
  • 吸光度測定の体外診断用機器:HemoCue Hb 801 は、510(k)(K181751、2019年2月1日)で実質的同等と判断された、クラスIIの自動ヘモグロビンシステムです[参考資料14・15]。
  • 体内の蛍光式センサー:Eversense は PMA(P160048、2018年6月21日承認)です[参考資料19]。510(k)・De Novo・PMA は別の制度で、承認や適合は特定の使用目的に対する判断です。
  • 受光素子そのものの扱い:本稿で確認した審査文書の要約は、受光素子の種類や仕様を書いていませんでした。素子の選定は、機器の目的に応じた設計判断で、機器全体の性能で評価される、と読めます(本記事による解説)。

10. 課題と、本稿で確認できなかったこと

(1) 封止材・窓の長期の光学安定性

Dow Corning の資料の値は、メーカーの比較で、エポキシ側の組成の記載がありません[参考資料13]。同一条件で複数の封止材の透過率・黄変を比較した公的な一次情報は、本稿では確認できませんでした。未確定/将来

(2) 光学窓の汚れ・バイオファウリングの定量

第8章のとおり、窓の汚れが信号をどれだけ変えるかを定量した資料は確認できませんでした。未確定/将来

(3) 微弱光の素子の採用例

SiPM(MPPC)は蛍光検出が応用例に挙げられていますが[参考資料3]、バイオセンサーの製品での採用や、化学発光を受光素子で読む個別の資料は、本稿では確認していません。未確定/将来

(4) 審査文書で、受光素子が特定できないこと

HemoCue Hb 801 の510(k)要約も、Eversense の審査文書も、受光素子の種類を書いていませんでした[参考資料14・19]。製品ごとの素子の違いを、公開資料から比べることは、本稿ではできません。

(5) 肌の色とパルスオキシメーター、ドラフトの状況

肌の色による差は「ウェアラブルバイオセンサー」編が扱っています。FDA の2025年1月のドラフトガイダンスが、その後最終化されたかは、本稿では確認できませんでした[参考資料18]。

(6) 測定値の受け止め方

本記事は、測定値や酸素飽和度・脈拍の受け止め方、基準値を扱いません。FDA のパルスオキシメーターの案内ページも、測定値に不安があるときは医療従事者に連絡するよう述べています[参考資料18]。

この記事のまとめ
  • Si フォトダイオードが受けられるのは約1100 nm まで(メーカー公称:Eg 1.12 eV、カットオフ1100 nm)。それより長い光は InGaAs など別の材料です事実
  • 検出の下限は、熱雑音と暗電流のショット雑音で決まります。例示の条件では、抵抗が大きいほど熱雑音が減り、暗電流が下限を決めるようになります本稿の計算
  • 周囲光は、LED の時分割点灯と消灯中の測定の差し引き、あるいはロックイン検出で除きます。事実
  • 光の通り道の材料が性能を動かします。窓は感度範囲を切り、封止樹脂は透過率・屈折率・黄変・吸水、黒い仕切りは迷光、皮膚との界面は反射と密着を決めます(本記事による解説)
  • 接触力は信号の大きさを動かします。指先15人の例で、AC と AC/DC は接触力で増減しました事実
  • 審査文書は、受光素子の種類を書いていません。窓の汚れや封止材の長期の光学安定性の公的な定量資料は、確認できませんでした

11. 用語集

フォトダイオード
半導体の接合に光が当たると電流(または電圧)を生じる素子。光量の測定に使う。
PIN フォトダイオード
逆電圧で空乏層を広げ、容量を小さくして高速にした構造。
APD
アバランシェフォトダイオード。内部で電流を増やす素子。増倍の揺らぎで過剰雑音が加わる。
SiPM/MPPC
ガイガーモードの APD 画素を多数並べ、光子を数える素子。
バンドギャップ
電子が価電子帯から伝導帯へ上がるのに要るエネルギー。受けられる光の長波長側の限界を決める。
感度(A/W)
入射光のパワーあたりに得られる電流。量子効率と波長で決まる。
暗電流
光が当たっていないときに流れる電流。温度と逆電圧で増える。
ショット雑音/熱雑音
電荷が粒であることによる電流の揺らぎ/抵抗の熱運動による電流の揺らぎ。
NEP(雑音等価電力)
雑音と同じ大きさの信号を作る入射光量。小さいほど微弱な光を検出できる。
TIA
トランスインピーダンスアンプ。電流を電圧に変える増幅回路。
ロックイン検出
参照周波数の成分だけを取り出す検出法。光源を明滅させ、受光側で同じ周波数だけ読む。
灌流指数(PI)
PPG の脈動成分(AC)と一定成分(DC)の比。
クロストーク
測りたい経路を通らずに受光素子へ届く光。仕切りで抑える。
バイオファウリング
体液や皮膚に触れた表面にタンパク質などが付着すること。
等吸収点
2つの化学種で、同じ吸収を示す波長。

12. 参考資料(一次情報)

  1. 浜松ホトニクスTechnical note「Si photodiodes」(Cat. No. KSPD9001E04、2025年12月、PDF) — www.hamamatsu.com
  2. 浜松ホトニクス技術資料「化合物光半導体 受光素子」(日本語、Cat. No. KIRD9004J04、2025年12月、PDF) — www.hamamatsu.com
  3. 浜松ホトニクスTechnical note「MPPC」(Cat. No. KAPD9008E04、2025年2月、PDF) — www.hamamatsu.com
  4. Texas InstrumentsAFE4400 データシート「Integrated Analog Front-End for Heart Rate Monitors and Low-Cost Pulse Oximeters」(SBAS601H、2012年12月、2014年7月改訂) — www.ti.com
  5. Texas InstrumentsRamus X「Transimpedance Considerations for High-Speed Amplifiers」Application Report SBOA122、2009年11月 — www.ti.com
  6. Analog Devices「Guidelines to Enhancing the Heart-Rate Monitoring Performance of Biosensing Wearables」技術記事、2019年3月26日 — www.analog.com
  7. Nitzan M ほか「Pulse oximetry: fundamentals and technology update」Med Devices (Auckl) 2014;7:231 — doi.org
  8. Teng XF, Zhang YT「The effect of contacting force on photoplethysmographic signals」Physiol Meas 2004;25:1323-1335 — doi.org
  9. Pereira DY ほか「Heterogeneous immunoassays in microfluidic format using fluorescence detection with integrated amorphous silicon photodiodes」Biomicrofluidics 2011;5:014102 — doi.org
  10. Dattner Y, Yadid-Pecht O「Low light CMOS contact imager with an integrated poly-acrylic emission filter for fluorescence detection」Sensors 2010;10:5014-5027 — doi.org
  11. Mogensen KB, Kutter JP「Optical detection in microfluidic systems」Electrophoresis 2009;30(Suppl 1) — doi.org
  12. Madduri A ほか「An experimental and computational study on moisture induced epoxy swelling in non-hermetic optoelectronic packages」J Electron Packag 2012;134:011007 — doi.org
  13. Dow Corning「LED Packaging: Advanced silicone technology for LED applications」ブローシャー(日付の記載なし、販売店が配布する PDF) — prod.ellsworth.com
  14. FDA510(k) K181751「HemoCue Hb 801 System」510(k) Summary(PDF) — www.accessdata.fda.gov
  15. 米国連邦規則21 CFR 864.5620 Automated hemoglobin system — www.ecfr.gov
  16. 米国連邦規則21 CFR 870.2700 Oximeter — www.ecfr.gov
  17. ISOISO 80601-2-61:2026 パルスオキシメーター機器の基本安全と必須性能(第3版、2026年4月) — www.iso.org
  18. FDA「Pulse Oximeters」案内ページ(2025年1月6日時点の内容) — www.fda.gov
  19. FDAPMA P160048(Eversense CGM System)Summary of Safety and Effectiveness Data(PDF) — www.accessdata.fda.gov
  20. Ward WK「A review of the foreign-body response to subcutaneously-implanted devices: the role of macrophages and cytokines in biofouling and fibrosis」J Diabetes Sci Technol 2008;2:768-777 — doi.org
  21. ISOISO 10993-1:2025 医療機器の生物学的評価 第1部(第6版) — www.iso.org
  22. Stanford Research SystemsTech Note「Lock-In Amplifier Basics」2020年4月7日(PDF) — www.thinksrs.com

13. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
Si フォトダイオードの原理(接合に光が当たると電流を生じる)、Eg = 1.12 eV・カットオフ1100 nm(λc = 1240÷Eg)、短波長側のカットオフが普通品320 nm・紫外強化型190 nm、ホウケイ酸ガラス・樹脂コーティングの窓が約300 nm より短い光を吸収し石英窓を使うこと、近赤外で感度が落ち厚いウェハーで補うと高電圧・暗電流増・低速になること浜松ホトニクス Technical note「Si photodiodes」[参考資料 1]https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/ssd/si_pd_kspd9001e.pdf事実
Si フォトダイオードの雑音電流(熱雑音 √(4kTB÷Rsh)、暗電流・光電流のショット雑音)、NEP = 雑音電流÷感度、光電流が 0.026÷Rsh より十分大きいとショット雑音が支配的、逆電圧は直線性を広げるが暗電流とノイズを増やすこと、直線性が10-12〜10-2 W で9桁以上、帰還抵抗と並列抵抗の関係、基板の漏れ電流、PIN の特徴、フォトダイオードアレイの用途、視感度補正フィルター付き素子同上(Technical note「Si photodiodes」、Cat. No. KSPD9001E04)[参考資料 1]https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/ssd/si_pd_kspd9001e.pdf事実
InGaAs の感度波長範囲(短波長高感度0.5〜1.7 µm、標準0.9〜1.7 µm、長波長〜2.6 µm)、APD のアバランシェ増倍、過剰雑音、増倍率の温度依存、InGaAs の暗電流が温度で指数関数的に増え冷却型があること浜松ホトニクス 技術資料「化合物光半導体 受光素子」(日本語)[参考資料 2]https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/ssd/compound_kird9004j.pdf事実
MPPC(SiPM)がガイガーモードの APD 画素と消光抵抗からなり、光子を数えられること、ゲインが温度で変わること(S13360-3050CS の例で約1.7×106を保つ電圧と温度の関係)、画素飽和で直線性が落ちること、試薬の微弱な蛍光検出が応用例であること浜松ホトニクス Technical note「MPPC」[参考資料 3]https://www.hamamatsu.com/content/dam/hamamatsu-photonics/sites/documents/99_SALES_LIBRARY/ssd/mppc_kapd9008e.pdf事実
PPG の信号の3成分(AC・DC・周囲光)、TIA の帰還抵抗・容量が可変、LED を順に点灯し消灯中に周囲光を推定して ADC 後にデジタルで差し引くこと、周囲光による直流の偏りを電流 DAC で打ち消してから増幅することTexas Instruments AFE4400 データシート(SBAS601H、2014年7月改訂)[参考資料 4]https://www.ti.com/lit/ds/symlink/afe4400.pdf事実
フォトダイオードを使う高分解能の検出回路で、帯域・ゲイン・入力換算雑音が結びついていることTexas Instruments Application Report SBOA122(2009年11月)[参考資料 5]https://www.ti.com/lit/an/sboa122/sboa122.pdf事実
手首の PPG で脈動成分の割合(PI = AC÷DC)が0.02%(弱い脈)〜2%(強い脈)とされること、多くの PPG センサーが緑530 nm 付近の LED を使うこと、Si PIN が可視〜近赤外で大きな感度をもつこと、LED と受光素子を透明材で封止し防湿と界面を兼ねること、皮膚に近い屈折率(約1.4)で反射損失が減ること、やわらかい封止で接触面積・圧力が増えること、シリコーンがよく使われ Sylgard 184(屈折率1.4118、透過率97%〔532 nm〕・96%〔880 nm〕、厚さ3.2 mm)の公称値があること、光バリアがクロストークを抑えること、皮膚の7層モデルの屈折率(角質層・表皮1.40)Analog Devices 技術記事(2019年3月26日)[参考資料 6]https://www.analog.com/en/resources/technical-articles/guidelines-to-enhancing-the-heartrate-monitoring-performance-of-biosensing-wearables.html事実
パルスオキシメトリーが赤と赤外の2波長の PPG にもとづくこと、較正が各センサーごとに経験的であること、メーカー公称の精度が2%(SDで評価)であること、低灌流と動きが限界であることNitzan ら(2014)の要旨[参考資料 7]https://doi.org/10.2147/MDER.S47319事実
接触力0.2〜1.8 N、15人の健常者の指の反射型 PPG で、DC 増・規格化した脈の面積減、AC と AC/DC がいったん増えてから減り、ピークが人により0.2〜1.0 N、多くは0.2〜0.4 N で振幅最大Teng と Zhang(2004)の要旨[参考資料 8]https://doi.org/10.1088/0967-3334/25/5/020事実
ガラス基板上の a-Si:H フォトダイオード、上に直接成膜した a-SiC 蛍光フィルター、PDMS 微細流路、量子ドット標識抗体のモデル免疫測定(30分、ナノモル〜マイクロモルで比例、蛍光顕微鏡と整合)Pereira ら(2011)の要旨[参考資料 9]https://doi.org/10.1063/1.3553014事実
CMOS 接触イメージャへの吸収型エミッションフィルター(ポリアクリル酸+吸収色素、厚さ20 µm、ベール・ランベルト則で設計)の一体化と蛍光ポリスチレン微粒子での実験Dattner と Yadid-Pecht(2010)の要旨[参考資料 10]https://doi.org/10.3390/s100505014事実
マイクロ流体の光学検出で、ポリマー材料の安価な解決策に関心が高まっていること(総説)Mogensen と Kutter(2009)の要旨[参考資料 11]https://doi.org/10.1002/elps.200900101事実
エポキシが吸湿して膨潤し、非気密の光電子パッケージで吸湿膨潤応力が故障要因になりうることMadduri ら(2012)の要旨[参考資料 12]https://doi.org/10.1115/1.4005911事実
OE-6630 が紫外線照射(365 nm、19 mW/cm²、4時間)後の透過率でエポキシより安定、シリコーン各種が150 ℃・空気中1,000時間で400 nm の透過率低下5%未満(厚さ1 mm)。比較対象は「典型的な光学グレードのエポキシ」Dow Corning ブローシャー(メーカー公称。日付の記載なし)[参考資料 13]https://prod.ellsworth.com/globalassets/literature-library/manufacturer/dow-corning/dow-corning-brochure-silicone-technology-for-led-packaging.pdf事実
HemoCue Hb 801 System:510(k) K181751、Hemocue AB、受理2018年7月2日・決定2019年2月1日、実質的同等、製品コード GKR、約10 µL の全血、等吸収点での全血の吸光度(透過光と散乱光)、アルゴリズムで濃度に換算、HiCN 法にトレーサブル、医療現場での全血ヘモグロビンの定量・専門家用の体外診断用。要約が受光素子の種類を記載していないことFDA 510(k) Summary[参考資料 14]https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf18/K181751.pdf、21 CFR 864.5620(自動ヘモグロビンシステム、クラスII)[参考資料 15]https://www.ecfr.gov/current/title-21/section-864.5620事実
21 CFR 870.2700 のオキシメーターの識別(既知の波長の放射を血液に通し、反射・散乱した量から血中酸素飽和度を測る)とクラスII米国連邦規則[参考資料 16]https://www.ecfr.gov/current/title-21/section-870.2700事実
ISO 80601-2-61:2026(第3版、2026年4月)がパルスオキシメーター機器の基本安全と必須性能を対象とし、研究用途・採血が要るオキシメーターは対象外であることISO の公式ページ[参考資料 17]https://www.iso.org/standard/84595.html事実
FDA が2025年1月7日に、肌の色の影響を含む懸念から、医療用パルスオキシメーターの性能試験・表示のドラフトガイダンスを発出したこと、測定値に不安があれば医療従事者に連絡するよう案内していることFDA「Pulse Oximeters」ページ(2025年1月6日時点)[参考資料 18]https://www.fda.gov/medical-devices/products-and-medical-procedures/pulse-oximeters事実
Eversense:PMA P160048、承認2018年6月21日、蛍光を用いた検知機構で間質液中のブドウ糖を5分ごとに測ること、電気光学回路が蛍光指示薬を励起し放出された蛍光を検出する試験項目。審査文書が受光素子の種類を記載していないことFDA の SSED[参考資料 19]https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf16/P160048B.pdf事実
植え込み後にタンパク質が表面に付着する現象(バイオファウリング)から異物反応と線維性被膜の形成へ進み、被膜が多くの物質に透過しにくいことWard(2008)の要旨[参考資料 20]https://doi.org/10.1177/193229680800200504事実
ISO 10993-1:2025(第6版)が医療機器の生物学的安全性評価をリスクマネジメントの中で行う枠組みであることISO の公式ページ[参考資料 21]https://www.iso.org/standard/10993-1事実
ロックイン増幅器が位相敏感検出で参照周波数の成分だけを取り出し他の周波数の雑音を除くこと、励起の例として光チョッパー・発振器Stanford Research Systems Tech Note(2020年4月7日)[参考資料 22]https://www.thinksrs.com/downloads/pdfs/applicationnotes/Lock-In%20Basics.pdf事実
雑音とNEPの数値(熱雑音 40.6・4.1・0.41 fA/√Hz、暗電流のショット雑音 0.57・5.7 fA/√Hz、NEP 94・95・9.5・16・1.6・13 fW/√Hz、交差する光電流 ≒ 0.051 V÷R)、PPG の光電流のショット雑音(1 µA・10 Hz で約1.8 pA、脈動成分との比約110〜約11,000)、窓と皮膚の空気の隙間による反射損失(約11%)本稿の計算(式は浜松ホトニクスの技術資料と光学の標準式。温度・感度・抵抗・暗電流・DC 電流・帯域・屈折率は本稿が置いた例示の値)本稿の計算
窓の材料の選定、封止樹脂の黄変・吸水、フィルターの退色、黒い樹脂の近赤外の吸収、窓の汚れ、素子の選定が設計判断であること、スマートフォンのカメラとの違い、素子ごとの使い分けの整理公表内容にもとづく本記事の整理・解説(推測と書いた箇所を含む)解説
封止材・窓の長期の光学安定性の同一条件の比較、光学窓の汚れによる信号変化の定量、バイオセンサー製品での SiPM の採用や化学発光の個別資料、HemoCue・Eversense の受光素子の種類、FDA ドラフトガイダンスの最終化の有無本稿が参照した一次情報では確認できなかった未確定/将来
図1・図3・図4が説明のための作図であること。図2が本稿の計算を含む作図であること。ヒーロー画像がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月4日/出典は一次情報(メーカーの技術資料、査読付き論文、FDA の公式文書、米国連邦規則、規格団体の公式ページ)に限定しています。材料設計上の読み取りは「解説」として、出典付きの事実と区別しています。封止材・窓の長期の光学安定性、光学窓の汚れの定量、バイオセンサー製品での SiPM の採用、審査文書での受光素子の種類、FDA ドラフトガイダンスの最終化の有無は、確認できませんでした。メーカーの値は「メーカー公称」として、グレードと条件を添えています。