INSTITUTION PROFILE / バイオセンサー
WHO(世界保健機関)
― 体外診断薬の「事前認定」と必須診断薬リストを出す国際機関。各国の法的な規制権限はない
WHOは国連の保健の専門機関で、194の加盟国をもちます。バイオセンサーに関わる主な仕事は三つです。 体外診断薬の事前認定(Prequalification)、必須診断薬リスト(EDL)、医療機器の規制づくりを支える指針です。 ただし、WHOの事前認定は国連機関などが調達するときの品質確認で、各国の承認ではありません。 WHO自身が、リストへの掲載は「承認を意味しない(承認は各国の当局だけの権限)」と明記しています。 本稿では、WHOがバイオセンサーにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。個々の製品の使い方や読者個人の健康に関する助言は含みません。

- 30秒でわかるWHO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- バイオセンサーで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるWHO
WHOの「事前認定された」は、国の承認とは別のものです。WHOの事前認定リストの注記は、 リストへの掲載は「WHOによる承認を意味しない(承認は各国当局だけの権限)」こと、 掲載された製品がどの国でも規制上の承認を得ているとは限らないことを明記しています 事実。 事前認定は、国連機関などが診断薬を調達するときに「品質が確認された製品」を選ぶための仕組みです。 FDAや厚生労働省のように、国内で売る可否を決める当局と混同しないでください。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
バイオセンサー(医療機器・体外診断薬)の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では製品を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。WHOは「場をつくる」型(指針や推奨を示す国際機関)です。
3. バイオセンサーで何をしているか
| 活動 | 内容(一次情報) | バイオセンサーとの関わり |
|---|---|---|
| 体外診断薬の事前認定(Prequalification) | 2010年に始まった。主な活動は、申請書類の評価、表示(ラベル)の確認、製造所の査察。認定された製品は「国連機関が調達してよい(原則として)」ものとして一覧に載る。製造者の申請は任意で、一覧は網羅的ではない | 血糖の簡易測定システムと糖化ヘモグロビンの簡易測定システムは、事前認定の対象に含まれる。ただし、2026年10月に確認した一覧(125製品)に、「血糖計と試験紙」の分類で載っている製品はなかった |
| 必須診断薬リスト(EDL) | 各国が自国のリストを作るときの参考になる、WHOの模範リスト(現在は第5版)。保健医療の各段階で使えるべき検査を示す。専門家グループ(SAGE IVD)が申請を審査して提言する | 糖尿病の項目に6つの検査が挙がり、血糖値の測定(血糖計・試験紙・較正液と対照物質を含む。簡易測定と自己検査の形式を含む)と糖化ヘモグロビン(簡易測定と検査室)が含まれる |
| 医療機器の規制づくりの支援 | 世界保健総会決議WHA60.29に基づき、加盟国が規制や監視の仕組みを整えるのを助ける。「医療機器(体外診断用医療機器を含む)の世界モデル規制の枠組み」(2017年)や手引きを出す。WHOは国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の公式オブザーバー | 各国が自国の規制を作るときの参照先になる。規制の内容を決めるのは各国 |
| 緊急使用リスト(EUL) | 感染症の緊急時のための手続き。新型コロナ、mpox、エボラなどの項目がある | 血糖センサーには直接関係しない(本稿では詳しく扱わない) |
| 診断薬全般の方針 | WHOは診断薬を、各段階の保健医療に欠かせないものとして位置づけ、加盟国が評価・選定・利用する仕組みを支える | 方針の文書であり、個々の製品の可否を決めるものではない |
※事前認定の対象リストは2026年9月27日更新、事前認定された製品の一覧は2026年10月4日に本稿が確認しました。2026年からは、性能評価が事前認定の審査とは別の手続きになるとWHOは案内しています。
事前認定リストの注記は、リストへの掲載がWHOによる製品の承認ではなく、特定の目的への適合を保証するものでもなく、 リストの製品が「各国で規制上の承認を得ている」ことを意味しない、と明記しています 事実。 また、リストに載っていない製品が基準を満たさないという意味でもありません。 本稿は、特定の血糖計やCGMの優劣・適否を述べるものではなく、読者個人への医療上の助言も含みません。
WHOの文書は、使われる現場の条件(検査室のない場所、自己検査、簡易測定など)を検査の形式として分けて示します。 たとえば必須診断薬リストでは、同じ「血糖値」でも、簡易測定、自己検査、検査室の光学測定、試験紙(ディップスティック)が別の形式として並びます 事実。 材料や部品を供給する立場からは、規制の要求値そのものよりも、どの現場で使われる前提の機器かを読み取る手がかりになります。 具体的な性能の要求値は、国連機関の調達や各国の規制当局の文書で別に定められるため、ここでは扱いません。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | WHOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 体外診断薬の事前認定の審査と一覧の管理(国連機関などの調達用)。必須診断薬リストの作成。医療機器規制の模範的な枠組みと手引きの公表。世界保健総会の決議に基づく加盟国の支援 | 各国の法的な規制権限。製品を販売してよいかの承認。WHOの文書に法的拘束力を持たせること |
| 地域 | 194の加盟国向け。国連機関やその調達に参加する団体が主な利用者。各国は自国のリストや規制の参考にする | 特定の国での販売可否。国の規制当局の判断(FDA、厚生労働省・PMDA、欧州委員会など) |
| 関係する国際枠組み | 国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の公式オブザーバー。アジア調和作業部会(AHWP)などの地域組織も認めている | IMDRFの決定権(オブザーバーのため) |
| 規模 | 職員8,000人超、194の加盟国、6つの地域事務局。2024〜25年の計画予算は68.3億ドル。分担金は財源の4分の1未満で、残りは任意拠出金 | 診断薬の事前認定だけの予算や人数は確認できなかった |
| 到達度 | 2015〜2016年の調査では、医療機器の規制がある加盟国は58%(規制の程度は問わない) | 規制のない国での強制力 |
5. 関わっている企業・組織
下の図は、WHOの二つの仕組み(事前認定と必須診断薬リスト)が、誰に向けて何を出すのかを示したものです。各国の承認は、WHOの仕組みの外にあります。
| 組織 | WHOとの関係(一次情報で確認できるもの) | 区分 |
|---|---|---|
| 国連機関などの調達組織 | 事前認定リストを、調達する製品の選定に使う。リストを使う組織は、調達先の財務や供給能力、各国での登録状況などを別に確認するよう求められる | 事実 |
| 各国の規制当局(FDA、厚生労働省・PMDA、欧州委員会など) | 承認の権限を持つ。WHOは、国別の承認をリストが代替しないと明記している。WHOには、事前認定の評価を各国の登録に使う手続き(Collaborative Procedure for Accelerated Registration)もある。本稿では詳しく扱わない | 事実 |
| IMDRF | WHOは管理委員会の公式オブザーバー | 事実 |
| 企業 | 事前認定の一覧には製造者名が載るが、「血糖計と試験紙」の分類の製品は、2026年10月の確認時点で一覧になかった。個別企業の優劣は述べない | 事実 |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 2026年から、WHOの体外診断薬の事前認定では性能評価が審査から切り離され、別の手続きになる | WHO事前認定のページの「重要なお知らせ」。手続きの詳細は、概要文書の第10版(2026年1月1日) | 事実 |
| 血糖と糖化ヘモグロビンの簡易測定システムは、事前認定の対象に含まれるが、性能評価は現在は求められていない区分にある | WHO「事前認定の対象となる体外診断薬」の表2(2026年9月27日更新)。対象の拡大・縮小は「定期的に更新」されるとWHOは記載 | 事実 |
| 血糖計と試験紙で事前認定される製品が出るかどうかは確認できなかった | 2026年10月4日時点で、一覧の「血糖計と試験紙」の分類に製品がない。申請の有無は「審査中の製品」のページに別にあるが、本稿では確認していない | 未確定/将来 |
| 必須診断薬リストは定期的に改訂され、糖尿病関連の検査も更新の対象になりうる | EDLの「About」ページ:リストは申請の公募と審査により定期的に更新される。次の改訂時期は確認できなかった | 未確定/将来 |
| WHOは、診断薬の分野で国ごとのリスト作りと規制の整備を支える役割を続けるとみられる | WHOの診断薬のページ(各国のリスト作りを支援)と医療機器の規制のページ(規制の能力強化)。法的権限はない | 推測 |
7. 用語集
- 事前認定(Prequalification)
- WHOが製品の書類、表示、製造所を評価し、国連機関などが調達してよい品質かを確認する制度。国の承認ではない。
- 必須診断薬リスト(EDL)
- 各国が自国のリストを作るときの参考になる、WHOの模範リスト。
- SAGE IVD
- 体外診断薬に関するWHOの戦略的助言専門家グループ。EDLの申請を審査して提言する。
- 緊急使用リスト(EUL)
- 感染症の緊急時のためのWHOの手続き。
- 世界保健総会
- WHOの最高意思決定機関。全加盟国の代表が毎年集まる。
- IMDRF
- 国際医療機器規制当局フォーラム。WHOは管理委員会の公式オブザーバー。
- 簡易測定(POC)
- 検査室ではなく、患者の近くで行う測定。
8. 出典
- WHO WHOとは(194の加盟国、6つの地域事務局、150以上の拠点、職員8,000人超)。 https://www.who.int/about/who-we-are
- WHO WHO憲章(1946年7月22日採択、1948年4月7日発効。国連の保健の専門機関)。 https://www.who.int/about/governance/constitution
- WHO プログラム予算(2024〜25年の予算 68.3億ドル、予算の構成)。 https://www.who.int/about/accountability/budget
- WHO 財源(分担金は財源の4分の1未満、残りは任意拠出金)。 https://www.who.int/about/funding
- WHO(事前認定) In Vitro Diagnostics(体外診断薬の事前認定の概要:2010年開始、主な活動、2026年からの手続きの変更)。 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics
- WHO(事前認定) IVDs Eligible for WHO Prequalification(対象の体外診断薬の表。血糖・糖化ヘモグロビンの簡易測定システムを含む。2026年9月27日更新)。 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/vitro-diagnostics-eligible-who-prequalification
- WHO(事前認定) Prequalified In Vitro Diagnostics(事前認定リストの注記:承認は各国当局の権限、調達での使い方、免責事項)。 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/prequalified-vitro-diagnostics
- WHO(事前認定) WHO list of Prequalified In Vitro Diagnostic Products(125製品。分類「Glucose meters and Test Strips」は該当なし。2026年10月4日に確認)。 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/prequalified/in-vitro-diagnostics
- WHO Electronic WHO Model list of essential in vitro diagnostics(第5版。糖尿病の検査、血糖計・試験紙・較正液と対照物質、糖化ヘモグロビン)。 https://edl.who-healthtechnologies.org/
- WHO About the EDL(EDLの目的、国別リストの参考、SAGE IVDによる審査)。 https://edl.who-healthtechnologies.org/about
- WHO 診断薬(Diagnostics):WHOの役割(必須診断薬リストの推進、加盟国の支援、規制能力の強化)。 https://www.who.int/health-topics/diagnostics
- WHO 医療機器の規制(Quality and safety regulations):決議WHA60.29・WHA67.20、世界モデル規制枠組み、IMDRFのオブザーバー、規制のある国の割合58%。 https://www.who.int/teams/health-product-policy-and-standards/assistive-and-medical-technology/medical-devices/regulations
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| WHOの構成(194の加盟国、6つの地域事務局、150以上の拠点、職員8,000人超) | 事実 | 出典1 https://www.who.int/about/who-we-are |
| WHO憲章の採択(1946年7月22日)と発効(1948年4月7日)、国連の保健の専門機関 | 事実 | 出典2 https://www.who.int/about/governance/constitution |
| 2024〜25年の計画予算 68.3億ドル、分担金が財源の4分の1未満 | 事実 | 出典3 https://www.who.int/about/accountability/budget 出典4 https://www.who.int/about/funding |
| 事前認定の開始(2010年)、主な活動(書類評価・表示確認・製造所の査察)、2026年からの手続きの変更 | 事実 | 出典5 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics |
| 事前認定の対象に血糖・糖化ヘモグロビンの簡易測定システムが含まれ、性能評価は現在は求められていないこと | 事実 | 出典6 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/vitro-diagnostics-eligible-who-prequalification |
| 事前認定リストの注記(承認を意味しない、各国当局だけの権限、各国の承認を得ているとは限らない、調達での使い方) | 事実 | 出典7 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/prequalified-vitro-diagnostics |
| 事前認定リスト125製品、血糖計と試験紙の分類に製品がないこと(2026年10月4日確認) | 事実 | 出典8 https://extranet.who.int/prequal/vitro-diagnostics/prequalified/in-vitro-diagnostics |
| 必須診断薬リスト第5版の糖尿病の検査(血糖計・試験紙・較正液と対照物質、糖化ヘモグロビン) | 事実 | 出典9 https://edl.who-healthtechnologies.org/ |
| EDLの目的、国別リストの参考、SAGE IVDによる審査 | 事実 | 出典10 https://edl.who-healthtechnologies.org/about |
| 診断薬に関するWHOの役割(EDL、加盟国の支援、規制能力の強化) | 事実 | 出典11 https://www.who.int/health-topics/diagnostics |
| 医療機器規制の支援(WHA60.29、世界モデル規制枠組み2017年、IMDRFのオブザーバー、規制のある国58%) | 事実 | 出典12 https://www.who.int/teams/health-product-policy-and-standards/assistive-and-medical-technology/medical-devices/regulations |
| 機関の4つの型の区分、図2の配置 | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| 血糖計と試験紙で事前認定される製品が出るか、次のEDL改訂の時期 | 未確定/将来 | 出典に記載なし。本稿では推計しない |
| 診断薬専用の事前認定の予算・人数 | 未確定/将来 | 出典に記載なし。本稿では推計しない |
| 第6章の推測の項目 | 推測 | 出典5・11・12と、本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月4日/Troy Technical
本稿の内容はWHOの公式サイトの記載に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。個々の製品の使い方や読者個人の健康に関する助言は含みません。