INSTITUTION PROFILE / バイオセンサー
国際標準化機構(ISO)
― 血糖測定・体外診断の「測り方」と「品質の作り方」をそろえる国際規格の発行元
ISOはスイスのジュネーブに中央事務局を置く、各国の標準化機関のネットワークです。 バイオセンサーや医療機器を審査・承認する機関ではなく、血糖測定システムの要求事項、体外診断用医療機器の臨床性能試験の進め方、品質マネジメント、リスクマネジメント、生体適合性の評価などを国際規格として発行します。 ただしISOの規格は任意に使うもので、それ自体に法的拘束力はありません。 一方で、米国のFDAは品質システムの規則にISO 13485を取り込み、EUは欧州委員会が官報に参照を載せた欧州規格に「適合の推定」を与えています。 本稿では、ISOがバイオセンサーにどこまで影響を持つのかを、権限の種類と届く範囲に絞って整理します。

- 30秒でわかるISO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- バイオセンサーで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 規格が法規制に入る経路
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる国際標準化機構(ISO)
ISOが決めるのは「血糖値の測定システムに何を求めるか」「臨床性能試験をどう計画し記録するか」といった共通の物差しであり、「この製品を売ってよい」という承認や許可ではありません。 ISO自身が、規格は「voluntary(任意)」で、契約上・法令上・制定法上の要求事項を含まず、国内法に取って代わらないと明記しています 事実。 それでもバイオセンサーの開発者にとって重要なのは、規制当局が規格を引用することで、事実上の基準になることがあるからです。 米国ではFDAのQMSR(品質管理システム規則)がISO 13485:2016を引用して組み込み、EUでは欧州規格として官報に掲載された規格に「適合の推定」が与えられます 事実。 逆に、FDAは血糖自己測定器の指針で「ISO 15197の基準だけでは一般の使用者を守るのに十分でない」という見解を示しており、規格に合格しても当局の求める水準に届くとは限りません 事実。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
バイオセンサーの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では製品を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. バイオセンサーで何をしているか
ISOの規格のうち、バイオセンサー(血糖測定器、持続グルコース測定、体外診断用医療機器)に関わる主なものを、規格ページの記載にそって整理します。 作成する専門委員会は規格ごとに異なり、血糖測定とIVDの試験はISO/TC 212(医療検査室と体外診断システム)、医療機器の品質マネジメントはISO/TC 210、生物学的評価と臨床試験はISO/TC 194が担当します 事実。 規格の本文は有料(規格ページの価格表示はCHF 181〜272)で、本稿は各ページの要旨と状態表示に基づきます。
| 分野 | 規格(ISO公式の表記) | 中身・版・状態 |
|---|---|---|
| 血糖自己測定器の要求事項 | ISO 15197:2013 In vitro diagnostic test systems — Requirements for blood-glucose monitoring systems for self-testing in managing diabetes mellitus | 毛細血管血のグルコース濃度を測る血糖測定システムについて、要求事項、設計検証の手順、使用者による性能の妥当性確認を定める。一般の人(lay persons)による自己測定が対象。第2版、2013年5月発行。2018年に見直しで確認されたが、現在の段階は「改訂予定(90.92)」で、第3版の委員会原案 ISO/CD 15197 が策定中(段階30.60) |
| IVDの臨床性能試験 | ISO 20916:2019 In vitro diagnostic medical devices — Clinical performance studies using specimens from human subjects — Good study practice | 規制目的でIVDの臨床性能と安全性を評価する試験の計画・実施・記録・報告の良い実施基準。スポンサーと主任研究者の責任、被験者の権利・安全の保護を含む。分析性能試験は範囲外。2019年5月発行、2025年に確認 |
| 品質マネジメント | ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes | 医療機器の設計・製造などの品質マネジメントシステムの国際規格。第3版、2016年3月発行、2025年に確認 |
| リスクマネジメント | ISO 14971:2019 Medical devices — Application of risk management to medical devices | IVDを含む医療機器のリスクマネジメントの用語・原則・プロセス。許容できるリスクの水準そのものは規定せず、製造業者が客観的な基準を定める。第3版、2019年12月発行、2025年に確認 |
| 生体適合性 | ISO 10993-1:2025 Biological evaluation of medical devices — Part 1: Requirements and general principles for the evaluation of biological safety within a risk management process | 身体に接触する医療機器の生物学的安全性を、リスクマネジメントの枠内で評価する要求事項と原則。第6版、2025年11月発行。2018年版(第5版)は撤回された |
| 検査室の品質と能力 | ISO 15189:2022 Medical laboratories — Requirements for quality and competence | 医療検査室の品質と能力の要求事項。同規格はPOCT(患者の近くで行う検査)にも適用されると明記。第4版、2022年12月発行。旧ISO 22870:2016(POCT)は撤回された |
| 医療機器の臨床試験 | ISO 14155:2026 Clinical investigation of medical devices for human subjects — Good clinical practice | 人を対象とする医療機器の臨床試験の良い実施基準。第4版、2026年3月発行(2020年版は撤回)。IVDには直接適用されない。ISO 20916は、IVDと医療機器が一体のシステム(ランセット・試験紙・血糖計の例)では両規格の側面を考慮できると注記している |
血糖測定の正確さの要求は ISO 15197 に、身体に触れる材料の安全性の評価の枠組みは ISO 10993-1 にあり、担当する専門委員会も別です 事実。 センサーの電極材料や皮膚に貼る接着材を選ぶ側から見ると、前者は「測定の性能をどう証明するか」、後者は「その材料を身体に触れさせてよいと説明できるか」の物差しにあたります。 どの材料にどの評価項目が当たるかは、接触する部位と時間などで変わりますが、具体的な項目や数値は規格本文(有料)にあり、本稿では確認していません 未確定/将来。 なお、パッチ型センサーの皮膚接着は、技術解説「パッチ型センサーと皮膚接着」で扱っています。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | ISOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 専門委員会での合意に基づき国際規格を発行する。試験・品質・リスクなどの共通の基準をつくる | 規格の採用を強制する権限。製品の承認・認証。規格は「voluntary」で、国内法が優先する |
| 地域 | 会員は177機関(各国1機関)。会員が各国で規格を採用・販売する。ISOの規格は国際的な参照先になる | 各国・地域の規制そのもの。米国・EU・日本の規制は、それぞれの当局が決める |
| 米国 | FDAの品質管理システム規則(QMSR、21 CFR Part 820)が、ISO 13485:2016を引用して組み込んだ。2024年2月2日に最終規則が公表され、2026年2月2日に施行された。FDAの認定標準データベースは、適合宣言を受け付ける任意の合意標準の一覧 | ISO規格に合格しても、FDAの審査(510(k)など)の合否は決まらない。FDAは血糖自己測定器の指針で、ISO 15197だけでは不十分との見解を示している |
| EU | 欧州規格(EN ISO)として採用され、欧州委員会が官報に参照を載せた整合規格に「適合の推定」が与えられる(IVD規則 Regulation (EU) 2017/746 第8条)。IVD規則の一覧にEN ISO 13485:2016、EN ISO 14971:2019、EN ISO 20916:2024などが載る | 整合規格の一覧に載っていない規格には、この推定は与えられない(ISO 15197は、2026年6月17日作成のIVD規則の一覧に見当たらなかった)。ISOは規格の発行元で、製品の認証の主体ではない |
| 日本 | 医療機器・IVDのQMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)は、ISO 13485を踏まえて制定された省令で、同規格の改正に伴い令和3年3月26日に改正された(令和3年厚生労働省令第60号) | 日本の承認・認証の制度や審査を決める権限(厚生労働省とPMDAの役割)。JISとの対応は本稿では確認していない |
| 規模・財源 | 各国の会員が参加し、規格の販売で運営を支える(ISO公式の説明) | 職員数など中央事務局の人数は、公式ページで確認できなかった |
FDAの指針(2020年9月29日発行、血糖自己測定器の市販前届出向け)は、多くの製造業者が ISO 15197 を基に評価試験を設計することを認めたうえで、 「ISO 15197の基準は、一般の使用者を守るのに十分とはいえない」とFDAが考える理由として、低血糖の範囲と試験紙のロット間の性能が十分に扱われていないことを挙げ、独自の評価方法を推奨しています 事実。 同指針は「拘束力のない推奨」とも明記されています。 つまり、ISO規格は共通の土台ですが、その地域で売るために何を示すかは、各国・地域の当局が決めるものです。
5. 規格が法規制に入る経路
ISOの規格が現実の製品に効くのは、各国・地域の当局が自分の制度の中に取り込んだときです。 本稿で一次資料により確認できた経路は、次の3つです。
| 専門委員会 | 担当の範囲(ISO公式) | 幹事国・参加状況(2026年10月3日時点の表示) |
|---|---|---|
| ISO/TC 212 医療検査室と体外診断システム | 品質マネジメント、検査前後の手順、分析性能、検査室の安全、参照システム、品質保証など。一般的な品質マネジメント規格(TC 176)や医療機器の品質マネジメント規格(TC 210)は除く | 幹事:ANSI(米国)。1994年設置。参加メンバー45、オブザーバー32。発行済み規格56、策定中22(更新を含む) |
| ISO/TC 210 健康目的の製品(医療機器を含む)の品質マネジメント | 健康目的の製品の品質マネジメントと関連する一般的事項の要求事項・指針 | 幹事:ANSI(米国)。1994年設置 |
| ISO/TC 194 医療機器の生物学的・臨床的評価 | 医療・歯科用の材料と機器の生物学的・臨床的評価、生物学的試験方法、人を対象とする臨床試験の良い実施の原則 | 幹事:DIN(ドイツ)。1988年設置 |
※規格づくりの実務を担う幹事国は、バイオセンサーの3つの委員会では米国(ANSI)とドイツ(DIN)です。日本の関与(JISCなど)は、本稿では確認していません 未確定/将来。
本シリーズの企業解説(作成中)で血糖測定器・CGM・IVDの規制上の位置づけを扱う場合、ここで述べた規格は品質・リスク・試験の物差しとして登場します。 ただし、個別の企業がどの規格に基づいて何を行ったかは、各社の公表資料で確認できた範囲だけが各企業解説に書かれます。 また、規制の区分の違い(510(k)、De Novo、PMA、MDR/IVDR)は技術解説「医療機器の承認区分と家庭用」、血糖の持続測定は技術解説「持続グルコースモニタリング」で扱っています。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ISO 15197の第3版が策定中。2013年版は「改訂予定(90.92)」の段階にある | ISOの規格ページ(ISO/CD 15197、段階30.60「コメント期間の終了」)。発行の時期は公表されていない | 事実 |
| ISO 10993-1:2025が発行され、欧州の医療機器規則(MDR)の整合規格の一覧にEN ISO 10993-1:2025が載った | ISOの規格ページ(2025年11月発行)。欧州委員会の一覧(2026年6月17日作成)に同規格が記載 | 事実 |
| ISO 14155の2026年版(第4版)は、欧州委員会のMDR一覧にはまだ載っていない(一覧にあるのはEN ISO 14155:2020とA11:2024) | ISOの規格ページ(2026年3月発行)。欧州委員会のMDR一覧(2026年6月17日作成) | 未確定/将来 |
| ISO 15197の改訂版が出ても、FDAが血糖自己測定器の評価にそのまま使うとは限らない | FDAの指針は、現行のISO 15197の基準を不十分とし、独自の評価方法を推奨している。改訂版の内容と、FDAの扱いは未公表 | 推測 |
7. 用語集
- 専門委員会(TC)
- ISOで分野別に規格案を作る委員会。各国の会員から専門家が参加し、幹事国が運営する。
- 整合規格(harmonised standard)
- EUで、欧州の標準化団体が作成し、欧州委員会が官報に参照を載せた欧州規格。これに適合すると、対象の要求事項に適合していると推定される。
- CEN
- 欧州標準化委員会。ISO規格を欧州規格(EN ISO)として採用することがある。
- QMSR
- FDAの品質管理システム規則(21 CFR Part 820)。2026年2月2日にISO 13485:2016を引用する形に改められた。
- 認定標準(Recognized Consensus Standards)
- FDAが、適合宣言(Declaration of Conformity)を受け付けると決めた任意の合意標準。FDAのデータベースで公開される。
- IVD
- 体外診断用医療機器。血液などの検体を体外で調べる機器・試薬。血糖測定器の試験紙と測定器が典型。
8. 出典
- ISO About ISO(規格等26,515件・会員177・専門委員会等844・1946年から活動)。 https://www.iso.org/about-us.html
- ISO Structure and governance(独立した非政府組織、ジュネーブの中央事務局)。 https://www.iso.org/structure.html
- ISO Members(各国1機関、会員の種類、規格の採用・販売)。 https://www.iso.org/members.html
- ISO Foreword - Supplementary information(ISO規格は voluntary で、国内法に取って代わらない)。 https://www.iso.org/foreword-supplementary-information.html
- ISO ISO 15197:2013 規格ページ(題名・要旨・第2版・2013年5月発行・2018年に確認・段階90.92・価格CHF 181)。 https://www.iso.org/standard/54976.html
- ISO ISO/CD 15197 規格ページ(第3版の委員会原案、策定中、段階30.60、ISO 15197:2013を置き換える予定)。 https://www.iso.org/standard/91142.html
- ISO ISO 20916:2019 規格ページ(題名・要旨・2019年5月発行・2025年に確認・TC 212・価格CHF 225)。 https://www.iso.org/standard/69455.html
- ISO ISO 13485:2016 規格ページ(題名・第3版・2016年3月発行・2025年に確認・TC 210・価格CHF 235)。 https://www.iso.org/standard/59752.html
- ISO ISO 14971:2019 規格ページ(題名・第3版・2019年12月発行・2025年に確認・許容リスクの水準は規定しない・価格CHF 196)。 https://www.iso.org/standard/72704.html
- ISO ISO 10993-1:2025 規格ページ(題名・第6版・2025年11月発行・TC 194・価格CHF 196)。 https://www.iso.org/standard/10993-1
- ISO ISO 10993-1:2018 規格ページ(撤回、ISO 10993-1:2025に改訂)。 https://www.iso.org/standard/68936.html
- ISO ISO 15189:2022 規格ページ(題名・要旨・POCTにも適用・第4版・2022年12月発行・旧ISO 22870:2016は撤回・価格CHF 225)。 https://www.iso.org/standard/76677.html
- ISO ISO 14155:2026 規格ページ(題名・第4版・2026年3月発行・IVDには直接適用されない・価格CHF 272)。 https://www.iso.org/standard/14155
- ISO ISO 14155:2020 規格ページ(撤回、ISO 14155:2026に改訂)。 https://www.iso.org/standard/71690.html
- ISO ISO/TC 212 Medical laboratories and in vitro diagnostic systems(範囲・幹事ANSI・1994年設置・参加メンバー45・オブザーバー32)。 https://www.iso.org/committee/54916.html
- ISO ISO/TC 210(範囲・幹事ANSI・1994年設置)。 https://www.iso.org/committee/54892.html
- ISO ISO/TC 194 Biological and clinical evaluation of medical devices(範囲・幹事DIN・1988年設置)。 https://www.iso.org/committee/54508.html
- 米国食品医薬品局(FDA) Quality Management System Regulation (QMSR)(2024年2月2日公表、2026年2月2日施行、ISO 13485:2016を引用して組み込み)。 https://www.fda.gov/medical-devices/postmarket-requirements-devices/quality-management-system-regulation-qmsr
- FDA 指針「Self-Monitoring Blood Glucose Test Systems for Over-the-Counter Use」(2020年9月29日発行。ISO 15197に関する見解、拘束力のない推奨)。 https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/self-monitoring-blood-glucose-test-systems-over-counter-use
- FDA Recognized Consensus Standards: Medical Devices(適合宣言を受け付ける任意の合意標準のデータベース)。 https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfStandards/search.cfm
- 欧州委員会 Harmonised standards: In vitro diagnostic medical devices(Regulation (EU) 2017/746の適用開始2022年5月26日、実施決定(EU) 2021/1195と改正)。 https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/european-standards/harmonised-standards/iv-diagnostic-medical-devices_en
- 欧州委員会 IVD規則の整合規格 要約一覧(2026年6月17日作成。EN ISO 13485:2016・EN ISO 14971:2019・EN ISO 20916:2024など)。 https://single-market-economy.ec.europa.eu/document/download/bea20714-7793-43ad-9a76-ef2a96ac8e45_en?filename=SummaryListForLegislation_2017_746%201.30.2026.pdf
- 欧州委員会 Harmonised standards: Medical devices(Regulation (EU) 2017/745の適用開始2021年5月26日、実施決定(EU) 2021/1182と改正)。 https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/european-standards/harmonised-standards/medical-devices_en
- 欧州委員会 MDRの整合規格 要約一覧(2026年6月17日作成。EN ISO 10993-1:2025・EN ISO 14155:2020など)。 https://single-market-economy.ec.europa.eu/document/download/40f686be-acf4-4a0b-b6d2-20a00f46a8bc_en?filename=SummaryListForLegislation_20.10.2025.pdf
- EU Regulation (EU) 2017/746(IVD規則)第8条「Use of harmonised standards」。 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/746/oj/eng
- 大阪府 QMS省令の改正について(ISO 13485を踏まえて制定された省令、令和3年3月26日の改正、令和3年厚生労働省令第60号)。 https://www.pref.osaka.lg.jp/yakumu/iryoukikikannkei/qms_amendment.html
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月3日/Troy Technical
本稿の内容はISO、FDA、欧州委員会などの公式資料に基づく規格・規制の整理であり、診断・治療・個人の測定値の読み方に関する助言ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。