TECHNOLOGY EXPLAINER
エポキシ樹脂
― 「液体が固体になる反応」を設計する材料
エポキシ樹脂は、エポキシ基をもつ樹脂と硬化剤を混ぜて反応させ、三次元の網目をつくる熱硬化性樹脂です。 1943年に付与された特許は酸無水物、1952年に付与された特許はアミンによる硬化を記載しており、 いまも使われる2つの代表的な硬化の道が、すでにそこにあります。 半導体の封止やアンダーフィルも、この反応の応用です。
- エポキシ樹脂とは何か(3行でつかむ)
- 始まりと合成 ― ビスフェノールAとエピクロロヒドリン
- 素材技術者の視点①:「当量」で考える
- 本稿の計算:EEW から分子の長さと配合量を求める
- 硬化剤と硬化反応 ― アミンと酸無水物
- 素材技術者の視点②:Tg は「硬化度の関数」でもある
- どこで使われるか ― 接着・コーティング・複合材・電子材料
- リサイクルの難しさと、分解性硬化剤・動的共有結合
- 素材技術者の視点③:分解しやすさは、使用中の安定性と背中合わせ
- 課題・限界/用語集/参考資料/出典対応表
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・提案であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
物性値は試験法・条件・出所とセットで書いています。特定の製品や企業を推奨・非難する記事ではありません。
1. エポキシ樹脂とは何か(3行でつかむ)
- エポキシ樹脂とは:分子の末端などにエポキシ基(酸素を含む三員環)をもつ樹脂です。それ単体は粘い液体またはもろい固体で、硬化剤と反応させて初めて、溶けない熱硬化性樹脂になります。総説(Molecules 2023)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DGEBA)を「最も広く使われているエポキシ樹脂」と述べています事実。
- 用途の広さ:Olin は液状エポキシ樹脂の用途として、コーティング、接着剤、床材、電気絶縁、複合材を挙げています事実。電気絶縁の用途は1950年代の初めから続くと、上記の総説は述べています。
- 設計の本質:樹脂そのものより、「どんな硬化剤を、どの比率で、どう硬化させるか」が最終物性を決めます。後述のとおり、ガラス転移点(Tg)でさえ、同じ樹脂と硬化剤の組み合わせで硬化条件によって変わります(本記事による解説)。
エポキシは「材料」というより、「反応の設計」です。 樹脂の当量、硬化剤の当量、比率、温度、時間——この反応条件の違いが、Tg も、強度も、絶縁性も、リサイクルのしやすさも変えます。 カタログの「Tg 〇〇 ℃」は、その材料のどんな硬化状態の値かを一緒に読む必要があります(本記事による解説)。
2. 始まりと合成 ― ビスフェノールAとエピクロロヒドリン
エポキシ樹脂の初期開発は、Castan と Greenlee の2本の特許にたどれます(付与年は1943年と1952年)。
| 特許 | 記載内容 | 硬化の道 |
|---|---|---|
| US 2,324,483 Pierre Castan 1942年出願(優先日1938年)、1943年7月20日付与 | 「4,4'-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン」などの多価フェノールをエピクロロヒドリンとアルカリ性溶液中で反応させ、少なくとも2つのエチレンオキシド基(エポキシ基)をもつ生成物を得る。これを多塩基カルボン酸の無水物と縮合させる。実施例2では、生成物をフタル酸無水物と120 ℃で溶融し、170 ℃で「不融・不溶」になる | 酸無水物 |
| US 2,585,115 Sylvan O. Greenlee(Devoe & Raynolds) 1945年出願、1952年2月12日付与 | 多価フェノールと多官能ハロヒドリン(エピクロロヒドリン)を苛性アルカリの存在下で反応させ、末端にエポキシ基をもつ複合エポキシドを得る。ポリエチレンポリアミンの活性水素がエポキシ基と反応して架橋する。室温で硬化する組み合わせも、加熱(典型的には150 ℃)を要するものもある。硬化膜は耐薬品性が高い | アミン |
すべて事実(Google Patents に掲載された特許の記載[参考資料 1・2])。
Olin は DGEBA に相当する液状樹脂を複数のグレードで供給しており、 D.E.R. 332を「高純度のビスフェノールAジグリシジルエーテル」で、オリゴマーが少なく粘度が非常に低い樹脂、 D.E.R. 331を「業界標準のビスフェノールA系液状エポキシ樹脂」と説明しています事実[参考資料 5]。 同社はD.E.R. 330 が室温でしばしば結晶化し、50〜55 ℃に加熱すると液体に戻るとも書いています事実。 ただし、結晶化のしやすさは純度だけで決まらず、組成・添加剤・保存条件などにも左右されます(参考資料 4)。
3. 素材技術者の視点①:「当量」で考える
エポキシ樹脂の配合比は、質量だけでなくエポキシ当量(EEW)——エポキシ基1つあたりの樹脂の質量(g/eq)——を使い、反応点の数をそろえて考えます。 EEW の測定法には ISO 3001(「プラスチック―エポキシ化合物―エポキシ当量の求め方」)があり、すべてのエポキシ化合物に適用できます。ただし、エポキシアミンには附属書Aの変更手順を適用します事実[参考資料 10]。 ASTM D1652 は、樹脂中のエポキシ含有量を 0.1〜26 %(エポキシドとして)の範囲で滴定により求める試験方法です。ASTM によると、エポキシ含有量は樹脂の反応性と、それから作る塗膜の性質を決める重要な変数です事実[参考資料 12]。
市販の液状 DGEBA の典型値は、論文(Polymers 2023)が引用文献にもとづいて示す表で、EEW 182〜192 g/eq、粘度 11,000〜14,000 mPa・s(25 ℃)、密度 1.16 g/cm³、加水分解性塩素 500 ppm 未満です事実[参考資料 4]。 Olin の「EL」グレードは、加水分解性塩素を 150 ppm 未満(D.E.R. 331-EL)、100 ppm 未満(D.E.R. 330-EL)に抑えた、電気・電子・封止用のグレードとして説明されています事実[参考資料 5]。 塩素の少なさが用途で効くのは、エピクロロヒドリン由来の塩素が、電子材料ではイオン性不純物になりうるからです(本記事による解説)。
4. 本稿の計算:EEW から分子の長さと配合量を求める
DGEBA の理論式量から、市販品のEEWが示す分子の長さ(繰り返し数 n の平均)を求めます本稿の計算。
- 前提:n = 0 の DGEBA は C21H24O4。原子量を C 12.011、H 1.008、O 15.999 とすると、分子量は 340.42。エポキシ基は1分子に2つなので、理論 EEW = 340.42 ÷ 2 = 170.2 g/eq
- 繰り返し単位(–O–ビスフェノールA骨格–O–CH2–CH(OH)–CH2–)は C18H20O3 で式量 284.36
- EEW = (340.42 + 284.36 n)÷ 2 を n について解くと、n = (2 × EEW - 340.42)÷ 284.36
- EEW = 182 → n = 0.083、EEW = 187 → n = 0.118、EEW = 192 → n = 0.153
前提と限界:EEW が理論値より大きい分がすべて繰り返し単位によるものと仮定した値です。実際の樹脂では、エポキシ基の一部が開環した成分なども EEW に影響します。 それでも、液状樹脂は「n = 0 の分子がほとんどで、少量のオリゴマーが混じる」混合物であることがわかります(総説は n を通常 0〜1 としています)。
ジエチレントリアミン(DETA)を例に、理論的な配合量を求めます本稿の計算。
- 前提:DETA は H2N–CH2CH2–NH–CH2CH2–NH2(C4H13N3)、分子量 103.17。N–H の水素は 2 + 1 + 2 = 5個。1つの N–H が1つのエポキシ基と反応するとする
- アミン活性水素当量(AHEW)= 103.17 ÷ 5 = 20.63 g/eq
- 樹脂 100 質量部あたりの硬化剤量(phr)= AHEW ÷ EEW × 100。EEW = 187 とすると 11.0 phr。EEW = 182 では 11.3 phr、192 では 10.7 phr
前提と限界:理論的な化学量論比です。実際の配合は、反応性の違い、フィラー、硬化条件、狙う物性で調整されます。 総説(Molecules 2023)は、Tg が当量比の付近で最大になる系が多いと述べ、フィラーを入れると最適比がずれる例も紹介しています事実。 EEW が ±約3 %ばらつけば、同じ phr で当量比も約3 %ずれます。
5. 硬化剤と硬化反応 ― アミンと酸無水物
Molecules 誌の総説(2023年)は、硬化剤をポリアミン、酸無水物、フェノール系、触媒型などに分け、 そのうちポリアミンと酸無水物が硬化剤全体の90 %以上を占めると述べています事実[参考資料 3]。
| 硬化剤 | 反応の骨子 | 総説の記述(特徴) |
|---|---|---|
| ポリアミン | 1級アミンの活性水素がエポキシ基を開環して2級アミンになり、さらに反応して3級アミンになり、網目ができる | 力学特性のバランスはよいが、耐熱性は低め |
| 酸無水物 | エポキシ樹脂中のヒドロキシ基が酸無水物を開環してカルボン酸になり、それがエポキシ基と反応する。ヒドロキシ基がエポキシ基を直接開環する反応(エーテル化)も並行して起きる | 反応温度が高い。アミンに比べて硬化収縮が小さく、耐熱性と絶縁性が高い。ほぼすべての酸無水物硬化剤で促進剤が必要。総説は、促進剤がない場合は室温での反応が非常に遅く、通常200 ℃以上を要すると説明する一方、促進剤を使った100〜140 ℃の硬化例も示している |
| 促進剤(酸無水物系) | 第三級アミン(DMP-30 など)が酸無水物を開環して陰イオンを作り、それがエポキシ基と反応して新しい陰イオンを生む連鎖が続く | ルイス塩基型の促進剤は、エポキシの架橋と酸無水物の開環の両方を触媒する |
すべて事実(Molecules 2023 の総説[参考資料 3]の記述の要約)。
硬化に伴う体積の縮みは、ISO 3521(「不飽和ポリエステル及びエポキシ樹脂―全体積収縮率の求め方」)で測ります事実[参考資料 11]。アミン硬化と酸無水物硬化で収縮の大きさが違うことは、上の総説の記述のとおりです。
酸無水物の中でも、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MHHPA)は電気・電子部品で広く使われる脂環式の酸無水物で、 低融点、相溶性のよさ、低粘度、長いポットライフ、高い耐熱性と高温での絶縁性などが特徴とされています。 コイルの含浸、電気部品の注型、半導体の封止などに用いられる、と総説は述べています事実。
6. 素材技術者の視点②:Tg は「硬化度の関数」でもある
図4は、ある市販の分解性バイオ系エポキシ配合の Tg です(Polymers 2025)。 室温で硬化しただけの試料は、DSC の1回目の昇温で 69.7 ℃、2回目で 76.6 ℃でした事実[参考資料 6]。 論文は、1回目の加熱中に硬化反応がさらに進んだためと解釈しています。 100 ℃で後硬化した試料でも 68.0 ℃から 72.7 ℃へ上がり、網目が初めから完成していなかったことを示しています。 Tg は2回目の昇温で評価したと論文は書いています(relaxation enthalpy の吸熱ピークの影響を避けるため)。
総説(Molecules 2023)にも、同じ方向の記述があります事実[参考資料 3]。
- Tg は当量比の付近で最大になる系が多い。これは架橋密度の変化によると説明されている。
- 後硬化(硬化の後半を高温で行うこと)は、TGDDM/THPA 系で未反応のエポキシ基のエーテル化を進めて網目を均一にし、Tg と力学特性を高めた、と紹介されている。
- DGEBA/アミン(D-230)では、80 ℃で6時間硬化した試料の Tg が最も高かった例がある。
- 二段階硬化(予備硬化を反応の開始温度付近で、後硬化をピーク温度付近で行う)は、エポキシ樹脂で一般的な方式とされている。
つまり、カタログの「Tg」は樹脂と硬化剤の組み合わせだけでなく、硬化条件と、どこまで硬化したか(硬化度)を含んだ値です。 同じ配合でも、(a) 初回か2回目か、(b) 昇温速度、(c) DSC か TMA か DMA かで、値が変わります。 DSC による転移温度の一般的な試験方法は ASTM D3418(融解・結晶化の転移温度とエンタルピー)[参考資料 13]で、ガラス転移の測り方は ISO 11357-2 と ASTM E1356、DMA は ISO 6721-11 と ASTM E1640 に規定されています[参考資料 14〜17]。 測り方の違いは、本シリーズ「ガラス転移点とクリープ」編で詳しく扱います。
なお、アンダーフィルや封止材では、Tg を超えると熱膨張係数が大きく変わり、リフロー(260 ℃)中は必ず「Tg 超」の領域に入ることが問題になります。 この点は、本シリーズ「アンダーフィル」編と「熱膨張係数」編で、メーカーの公表値とともに詳しく扱っています。 また、Tg を上げるために架橋密度を上げると、硬くなって応力を逃がしにくくなる——この両立の難しさも同編で整理しています。
7. どこで使われるか ― 接着・コーティング・複合材・電子材料
ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。
元の模式図(正確な注記・数値)を表示
用途ごとに、同じ「エポキシ+硬化剤」の考え方が違う形で現れます。
- 接着剤・コーティング・床材・複合材:Olin の液状樹脂のページに、コーティング、接着剤、床材、電気絶縁、複合材が並びます。D.E.R. 330 は「複合材と注型に使われる低粘度のビスフェノールA系樹脂」とされています事実[参考資料 5]。
- 電気絶縁:総説は、ガス絶縁開閉装置(GIS)などの盆形絶縁物、繊維含浸エポキシの絶縁管、高圧ブッシングのエポキシ含浸紙、高周波変圧器の絶縁などを挙げています事実[参考資料 3]。過熱や絶縁破壊は大電流・多様な電圧波形の条件で問題になり、導電率は温度とともに指数関数的に増える(100 ℃では25 ℃より3桁近く上がる例)と述べています。
- 電気積層板・チップパッケージ:Olin は電気積層板向けのグレードと、チップパッケージ向けのグレード(D.E.R. 383)を挙げています事実[参考資料 5]。封止材(モールディング)とアンダーフィルは、本シリーズの各編で、メーカーの公表値とともに詳しく扱っています。
DGEBA を主体にした樹脂は、硬化するとしばしばもろく、き裂に弱いとされ、フィラーや繊維で補強されます(Polymers 2023 の記述)事実[参考資料 4]。 同論文は、結晶化した原料を使うと、硬化物の耐薬品性は結晶化度が増えるほど低下し、硬さと脆さが増す傾向を報告しています(イソホロンジアミン系硬化剤、コンクリート用の疎水性塗膜の配合)。 用途が違う例ですが、原料の状態(結晶化しているか)が硬化物の性質に影響するという点は、電子材料の原料管理にも通じます(本記事による解説)。
8. リサイクルの難しさと、分解性硬化剤・動的共有結合
硬化したエポキシは三次元の網目で、溶けず、溶媒にも溶けません。 熱可塑性樹脂のように「溶かして成形し直す」ことができないのが、リサイクルを難しくしています(本記事による解説)。 査読論文(Polymers 2025)も、現在の繊維強化プラスチックの多くは、エポキシ、ビニルエステル、ポリエステルなどの再資源化しにくい熱硬化性樹脂に基づくと述べています事実[参考資料 7]。 これに対し、大きく2つの設計が研究・製品化されています。
① 分解性の硬化剤(網目に「切れる結合」を入れる)
Polymers 2025 の論文は、Recyclamine®(Connora Technologies の特許)を、アセタールを含む一連のアミン硬化剤として紹介しています。 末端の基が、中央のアセタール結合で結ばれたポリアミン構造をもち、この結合が温和な酸性溶液中で一定の温度のもとで分解します。 これによって、架橋が後から切れて、熱硬化性のエポキシ網目が再利用可能な熱可塑性ポリマーに戻ると説明されています事実[参考資料 6]。
同論文が調べた市販の分解性バイオ系配合(R-Concept 社)では、40体積%の酢酸水溶液中、80 ℃で2.5時間処理して網目を溶かし、繊維をろ過して回収し、 酸を NaOH で中和すると、マトリックスが熱可塑性ポリマーとして沈殿しました。繊維とポリマーを合わせた材料回収率は、ガラス繊維複合材で95.5 %、炭素繊維複合材で98.8 %と報告されています事実[参考資料 6]。 一方、別の論文(Polymers 2025)では、玄武岩繊維複合材の引張強さは従来のエポキシ系で464.0 MPa、Recyclamine 系で390.9 MPaでした。この試験では、再資源化しやすい系のほうが低い値です事実[参考資料 7]。
② 動的共有結合(ビトリマー)
Montarnal らは2011年の Science 論文で、交換反応によって網目のつながり方を組み換えられるエポキシ網目を報告しました。 網目は解重合せず、溶けず、かつ加工できます。 粘度は、ガラス転移付近で急に変わる通常の高分子と違い、石英ガラスのように徐々に(アレニウス型に)変化するとされています事実[参考資料 8]。 その後の研究では、DGEBA と2,5-フランジカルボン酸(FDCA)から、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(略称 TBD)をトランスエステル化触媒として使ってビトリマーをつくり、応力緩和試験で緩和時間のアレニウス型の温度依存を確認した例があります事実[参考資料 9]。
9. 素材技術者の視点③:分解しやすさは、使用中の安定性と背中合わせ
図4の試料で、論文は140 ℃の後硬化で Tg が約25 ℃下がった(約52 ℃)と報告しています。 著者は、過度な後硬化の熱ストレスで網目が劣化した、と解釈しています事実[参考資料 6]。 後硬化で Tg を上げる、という通常のエポキシの常識(第6章)が、この分解性の配合では逆に働くわけです。
さらに、この配合の Tg(非後硬化で 76.6 ℃)は、本シリーズ「アンダーフィル」編で紹介した有機基板用の封止材(120〜155 ℃)より低く、用途が違う水準です。 ただし、これは特定の1つの市販配合の値で、分解性エポキシ一般の限界を示すものではありません(本記事による解説)。
ここから読み取れる設計上の論点は3つです(本記事による解説)。
- 硬化窓が狭くなる:切れる結合が熱に弱いため、後硬化の温度を上げて Tg を稼ぐ、という手が使いにくい。
- 使用中の環境と分解条件の境界:弱酸性の環境にさらされる用途では、使用中に分解しないことの確認が必要になる。
- 評価の追加:通常の物性(Tg、強度、絶縁)に加えて、分解条件での回収率と、回収したポリマー・繊維の品質を評価項目に入れる必要がある。
10. 課題・限界
- Tg の読み方:カタログの Tg は、硬化条件・硬化度・測定法(DSC・TMA・DMA)・昇温速度で変わります。異なる試料の Tg を並べて比べることはできません。
- 原料側の注記:ECHA は、ビスフェノール類について「ポリマーや樹脂を製造するために使われる」とし、一部のビスフェノールの使用が EU で制限されている、または制限されつつあると説明しています事実[参考資料 18]。本稿は、BPA の個別の規制内容(用途別の制限など)は扱っていません。
- 分解性・動的共有結合の位置づけ:本稿で紹介した研究は、特定の配合や研究室規模の報告です。量産の電子材料や構造材料での採用状況は、本稿の調査範囲では一次情報を確認できていません。
- 本稿で扱っていない点:ビスフェノールF型・ノボラック型・脂環式・グリシジルアミン型などの他の樹脂、バイオ由来のエポキシ、難燃化(臭素・リン)、靭性の改良(ゴム・コアシェル)、接着の機構、硬化の速度論の詳細。
- 物性値の限界:本稿の数値は、特定の論文・メーカー資料の特定の試料の値です。他の配合・グレードには当てはまりません。
11. 用語集
- エポキシ基
- 酸素を含む三員環。開環して硬化剤と結合する反応点。
- DGEBA
- ビスフェノールAジグリシジルエーテル。最も広く使われるエポキシ樹脂の基本構造。
- EEW(エポキシ当量)
- エポキシ基1つあたりの樹脂の質量(g/eq)。ISO 3001 などで測る。
- AHEW
- アミン活性水素当量。アミン硬化剤で、反応に使える水素1つあたりの質量。
- phr
- 樹脂100質量部あたりの添加量。
- 硬化剤
- エポキシ樹脂と反応して網目をつくる薬剤。ポリアミンと酸無水物が代表。
- 促進剤
- 硬化反応を速める添加剤。酸無水物硬化では第三級アミンなどが使われる。
- 後硬化
- 最初の硬化のあと、より高温で追加の硬化を行うこと。
- Tg(ガラス転移温度)
- 硬いガラス状態から柔らかいゴム状態へ移る温度域を代表する値。測り方で変わる。
- 架橋密度
- 網目の結び目の密度。高いほど Tg は上がるが、硬く・もろくなりやすい。
- 分解性硬化剤
- 網目に切れる結合を入れる硬化剤。弱酸などで網目を熱可塑性ポリマーに戻せる。
- ビトリマー
- 交換反応で網目のつながりが組み換わり、溶けずに再成形できる架橋高分子。
- TBD
- 1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンの略称。参考資料 9 でトランスエステル化触媒として使用された物質名で、未確定を示す記号ではない。
12. 参考資料(一次情報)
- P. CastanUS 2,324,483「Process of preparing synthetic resins」(1943年7月20日付与) — https://patents.google.com/patent/US2324483A/en
- S. O. Greenlee(Devoe & Raynolds)US 2,585,115「Amine-epoxide compositions」(1952年2月12日付与) — https://patents.google.com/patent/US2585115A/en
- Molecules 2023, 28(2), 547「Curing Regime-Modulating Insulation Performance of Anhydride-Cured Epoxy Resin: A Review」(DOI: 10.3390/molecules28020547、オープンアクセス) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9867423/
- Polymers 2023, 15(19), 3871「Possibilities of Influencing the Crystallization Process of Bisphenol A- and Bisphenol F-Based Epoxy Resins Used for Hydrophobic Coatings on Concrete」(DOI: 10.3390/polym15193871、オープンアクセス) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10575199/
- Olin Epoxy「Liquid Resins」製品一覧ページ — https://olinepoxy.com/product-market-segments/liquid-resins/
- Polymers 2025, 17(1), 88「Cleavable Bio-Based Epoxy Matrix for More Eco-Sustainable Thermoset Composite Components」(DOI: 10.3390/polym17010088、オープンアクセス) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11723220/
- Polymers 2025, 17(10), 1348「Comparison of the Performance of Basalt Fiber-Reinforced Composites Incorporating a Recyclable and a Conventional Epoxy Resin」(DOI: 10.3390/polym17101348、オープンアクセス) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12115199/
- D. Montarnal ほか「Silica-like malleable materials from permanent organic networks」Science 2011;334:965-968(DOI: 10.1126/science.1212648、PubMed) — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22096195/
- ACS Applied Polymer Materials 2023, 5(1), 828-838「Bio-Based Vitrimers from 2,5-Furandicarboxylic Acid as Repairable, Reusable, and Recyclable Epoxy Systems」(DOI: 10.1021/acsapm.2c01774、オープンアクセス) — https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.2c01774
- ISO「ISO 3001:1999 Plastics — Epoxy compounds — Determination of epoxy equivalent」 — https://www.iso.org/standard/29610.html
- ISO「ISO 3521:1997 Plastics — Unsaturated polyester and epoxy resins — Determination of overall volume shrinkage」 — https://www.iso.org/standard/8895.html
- ASTM International「ASTM D1652-11(2019) Standard Test Method for Epoxy Content of Epoxy Resins」 — https://store.astm.org/d1652-11r19.html
- ASTM International「ASTM D3418-21 Standard Test Method for Transition Temperatures and Enthalpies of Fusion and Crystallization of Polymers by Differential Scanning Calorimetry」 — https://store.astm.org/d3418-21.html
- ASTM International「ASTM E1356-25 Standard Test Method for Assignment of the Glass Transition Temperatures by Differential Scanning Calorimetry」 — https://store.astm.org/e1356-25.html
- ASTM International「ASTM E1640-23 Standard Test Method for Assignment of the Glass Transition Temperature By Dynamic Mechanical Analysis」 — https://store.astm.org/e1640-23.html
- ISO「ISO 11357-2:2020 Plastics — Differential scanning calorimetry (DSC) — Part 2: Determination of glass transition temperature and step height」 — https://www.iso.org/standard/77310.html
- ISO「ISO 6721-11:2019 Plastics — Determination of dynamic mechanical properties — Part 11: Glass transition temperature」 — https://www.iso.org/standard/74988.html
- ECHA「Bisphenols」特設ページ — https://echa.europa.eu/hot-topics/bisphenols
13. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| US 2,324,483(Castan):1942年2月16日出願(優先日1938年8月23日)、1943年7月20日付与。多価フェノール(4,4'-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン)をエピクロロヒドリンとアルカリ性溶液で反応させ、2つ以上のエポキシ基をもつ生成物を得て、多塩基カルボン酸の無水物と縮合させる。実施例2:フタル酸無水物と120 ℃で溶融、170 ℃で不融・不溶 | Google Patents[参考資料 1]https://patents.google.com/patent/US2324483A/en | 事実 |
| US 2,585,115(Greenlee、Devoe & Raynolds):1945年9月18日出願、1952年2月12日付与。多価フェノールと多官能ハロヒドリン(エピクロロヒドリン)を苛性アルカリの存在下で反応させ、末端にエポキシ基をもつ複合エポキシドを得る。ポリエチレンポリアミンの活性水素との反応で架橋。室温または加熱(典型的に150 ℃)で硬化。硬化膜の耐薬品性 | Google Patents[参考資料 2]https://patents.google.com/patent/US2585115A/en | 事実 |
| DGEBA が最も広く使われるエポキシ樹脂であること。n が通常 0〜1。電気絶縁用途が1950年代初めから。ポリアミンと酸無水物が硬化剤の90 %以上。アミン・酸無水物の反応機構と特徴(耐熱性、硬化収縮、反応温度、促進剤の必要)。MHHPA の特徴。Tg が当量比付近で最大となる例、TGDDM/THPA の後硬化、DGEBA/D-230 の80 ℃6時間、二段階硬化。GIS・ブッシング等の用途、導電率の温度依存(100 ℃で25 ℃より3桁近く増加) | Molecules 2023 総説[参考資料 3]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9867423/ | 事実 |
| 液状 DGEBA の典型値(EEW 182〜192 g/eq、粘度 11,000〜14,000 mPa・s、密度 1.16 g/cm³、加水分解性塩素 500 ppm 未満)。DGEBA がもろくき裂に弱いこと。結晶化が自然な性質であること。結晶化度の増加で耐薬品性が下がり、硬さと脆さが増す傾向 | Polymers 2023, 15, 3871[参考資料 4]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10575199/ | 事実 |
| Olin:液状樹脂の用途(コーティング、接着剤、床材、電気絶縁、複合材)。D.E.R. 330(結晶化し、50〜55 ℃で液体に戻る)、D.E.R. 331(業界標準)、D.E.R. 332(高純度・低オリゴマー)、EL グレード(加水分解性塩素:331-EL は150 ppm 未満、330-EL は100 ppm 未満)、D.E.R. 383(チップパッケージ)、電気積層板向けグレード | Olin Epoxy[参考資料 5]https://olinepoxy.com/product-market-segments/liquid-resins/ | 事実 |
| 分解性バイオ系エポキシ配合の Tg(RT:69.7→76.6 ℃、100 ℃後硬化:68.0→72.7 ℃、140 ℃後硬化:51.7→50.9 ℃)。DSC の条件(−40〜170 ℃、20 ℃/分、窒素中、2回目で評価)。Recyclamine®(アセタール結合を含むアミン硬化剤、温和な酸性で分解)。回収条件(40体積%酢酸、80 ℃、2.5時間、NaOH で中和)と繊維・ポリマーの合計材料回収率(ガラス繊維系95.5 %、炭素繊維系98.8 %) | Polymers 2025, 17, 88[参考資料 6]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11723220/ | 事実 |
| 現在の繊維強化プラスチックの多くが再資源化しにくい熱硬化性樹脂に基づくこと。この論文の玄武岩繊維複合材の引張強さは、従来のエポキシ系(BE)464.0 MPa、Recyclamine 系(BR)390.9 MPa | Polymers 2025, 17, 1348[参考資料 7]https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12115199/ | 事実 |
| エポキシ網目が交換反応で組み換えられ、溶けず加工でき、粘度がアレニウス型に徐々に変化すること | Montarnal ら(Science 2011)[参考資料 8]https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22096195/ | 事実 |
| DGEBA と FDCA のビトリマー。トランスエステル化触媒としての1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)。応力緩和時間のアレニウス型の温度依存 | ACS Appl. Polym. Mater. 2023[参考資料 9]https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.2c01774 | 事実 |
| ISO 3001:1999 はエポキシ化合物のエポキシ当量の測定法で、すべてのエポキシ化合物に適用できる。ただしエポキシアミンには附属書Aの変更手順が必要 | ISO 3001[参考資料 10]https://www.iso.org/standard/29610.html | 事実 |
| ISO 3521:1997 が不飽和ポリエステル及びエポキシ樹脂の全体積収縮率の求め方であること | ISO 3521[参考資料 11]https://www.iso.org/standard/8895.html | 事実 |
| ASTM D1652-11(2019) が滴定によるエポキシ含有量(0.1〜26 %)の試験方法であり、反応性と塗膜の性質を決める重要な変数であること | ASTM D1652[参考資料 12]https://store.astm.org/d1652-11r19.html | 事実 |
| ASTM D3418-21 がポリマーの転移温度と融解・結晶化のエンタルピーの DSC 試験方法であること | ASTM D3418[参考資料 13]https://store.astm.org/d3418-21.html | 事実 |
| ASTM E1356-25 が DSC によるガラス転移温度の割り当て方法であること | ASTM E1356[参考資料 14]https://store.astm.org/e1356-25.html | 事実 |
| ASTM E1640-23 が DMA によるガラス転移温度の割り当て方法であること | ASTM E1640[参考資料 15]https://store.astm.org/e1640-23.html | 事実 |
| ISO 11357-2:2020 が DSC によるガラス転移温度とステップ高さの求め方であること | ISO 11357-2[参考資料 16]https://www.iso.org/standard/77310.html | 事実 |
| ISO 6721-11:2019 が動的機械特性(DMA)によるガラス転移温度の求め方であること | ISO 6721-11[参考資料 17]https://www.iso.org/standard/74988.html | 事実 |
| ECHA がビスフェノール類を「ポリマーや樹脂を製造するために使われる」と説明し、一部の使用が EU で制限されている、または制限されつつあること | ECHA 特設ページ[参考資料 18]https://echa.europa.eu/hot-topics/bisphenols | 事実 |
| DGEBA の分子量 340.42、理論 EEW 170.2 g/eq、繰り返し単位 284.36、EEW 182・187・192 に対応する n(0.083・0.118・0.153)。DETA の AHEW 20.63 g/eq と配合量 11.0 phr(10.7〜11.3 phr)。EEW ±約3 %で当量比も約3 %ずれること | 本稿の計算。原子量(C 12.011、H 1.008、O 15.999、N 14.007)と、EEW 182〜192(参考資料 4)、DETA の構造式(N–H が5個)にもとづく理論値。実際の配合は反応性・フィラー・硬化条件で調整される | 本稿の計算 |
| 「エポキシは反応の設計」という整理、EEW を使う配合の考え方、結晶化には樹脂組成・純度・添加剤・水分など複数の要因が関わるという説明、塩素がイオン性不純物になりうること、Tg が硬化度の関数であるという読み取り、図3・図5・図6の描き方、分解性硬化剤の設計上の論点(硬化窓、環境、評価項目) | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社・各機関が表明した見解ではない | 解説 |
| 硬化したエポキシの網目が溶けず、熱可塑性樹脂のように再成形できないという一般的な性質 | 本記事による整理(一般的な性質)。参考資料 7 は再資源化しにくい熱硬化性樹脂が多いと述べるにとどまる | 解説 |
| ビスフェノールA関連の個別規制の内容、量産の電子材料・構造材料での分解性硬化剤やビトリマーの採用状況、ビスフェノールF型・ノボラック型などの他の樹脂、バイオ由来エポキシ、難燃化、靭性改良 | 本稿の調査範囲では一次情報を確認できなかった、または扱っていないため記載していない | 未確定/将来 |
| 図1・図3・図4・図5・図6に説明のためのベクター作図があること。ヒーロー画像・図2・図5の補助画像がAI生成イメージであること。図4の棒グラフは論文の値を本記事が作図したもの | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月3日/出典は一次情報(特許、メーカーの製品ページ、査読論文、規格団体の公開情報)に限定しています。 物性値や Tg は特定の論文・メーカー資料の特定の試料の値で、試験法・条件とともに記載し、他の配合・グレードに一般化していません。 ビスフェノールA関連の個別規制、分解性硬化剤やビトリマーの量産での採用状況、他の種類のエポキシ樹脂については、本稿の調査範囲では確認できなかったため記載していません。 図1・図3・図4・図5・図6にはベクター作図があり、ヒーロー画像・図2・図5の補助画像はAI生成イメージです。いずれも実際の製品・実験像を示すものではありません。