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テープ 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

粘着テープと工程用テープ
― 「貼る・保つ・はがす」を、粘着剤の粘弾性で設計する

粘着テープの粘着剤は、液体から固体に変わる接着剤とは違い、使うときも「やわらかい固体」のままです。 指で軽く押すだけで貼りつくのは、その粘弾性が、貼る側の凹凸に流れ込み、剥がす力には耐えるように調整されているからです。 だから粘着テープの数字は、貼ってからの時間・圧着・温度・速度・被着体で大きく動きます。 この記事は、粘着剤の種類、評価の3要素(粘着力・保持力・タック)と規格、半導体の工程用テープ(バックグラインド・ダイシング・ダイボンディング)、両面テープ、耐熱テープを、メーカーの資料・規格・論文にもとづいて整理します。

構成:ISO・ASTM・日本規格協会(JSA)の公式ページ、リンテック・綜研化学・3M・日東電工(日本接着学会誌)の資料、査読論文の要旨を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

ヒーロー画像:ダイシングテープに貼ったウェハと、両面テープで貼り合わせる作業
概念図(AI生成イメージ)。リングフレームに張ったダイシングテープ上で、チップに切り分けられたシリコンウェハ(右)と、両面テープをローラーで圧着して金属パネルを貼り合わせる作業(左)を表現したものです。実際の製品・装置・寸法を示すものではありません。
この記事の構成
  1. 粘着テープとは何か(3行でつかむ)
  2. テープの構造 ― 粘着剤と基材と剥離ライナー
  3. 粘着剤の種類 ― アクリル系・ゴム系・シリコーン系
  4. 素材技術者の視点①:粘着剤は「ゆっくり流れる固体」
  5. 評価の3要素 ― 粘着力・保持力・タックと規格
  6. 素材技術者の視点②:粘着力は「高いほどよい」とは限らない
  7. 本稿の計算:3Mの技術資料にある「立ち上がり」と「設計の係数」
  8. 半導体の工程用テープ ― はがせることが性能
  9. 両面フォームテープと耐熱テープ
  10. 素材技術者の視点③:「耐熱温度」には3つの定義がある
  11. 課題・確認できなかった点/用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・提案であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
粘着力などの値は試験法・条件・出所とセットで書き、メーカーの資料の値はメーカー公称(代表値)と明記します。綜研化学の粘着剤の比較表は同社の定性的な整理であり、個別の製品や他社製品の優劣を示すものではありません。規格の本文は有料のため、番号・題名・適用範囲(公式ページに載る範囲)にとどめています。特定の製品や企業を推奨・非難する記事ではありません。

1. 粘着テープとは何か(3行でつかむ)

粘着剤の製造会社である綜研化学は、接着剤を「物と物を貼りつけるための材料で、接着の前後で液体から固体へと状態変化があるもの」、粘着剤を「接着剤の一種だが、液体から固体への状態変化がないもの」と説明します。粘着剤は感圧性接着剤(PSA)とも呼ばれ、指で軽く押す程度の力で簡単に貼りつくことができます。接着剤のようにチューブから出してそのまま使うのではなく、フィルムなどの基材(支持体)に塗り、溶剤や水を揮発させて、粘着テープや粘着フィルムにして使います事実。

  • 粘着剤は「貼るときに変化しない」材料:Creton の入門解説(2003年)は、PSA が貼る過程で物理的な変化も化学反応も起こさないため、粘弾性(レオロジー)を用途に合わせて精密に調整する必要があり、ポリマーの構造とモノマー組成、粘着付与樹脂(タッキファイヤー)の配合で決めると述べます。PSA はやわらかく変形する固体で、剥がすときに2つの面のあいだに橋かけの繊維(フィブリル)を作りやすい、とあります事実
  • 数字は条件に敏感:粘着剤は粘弾性体のため、強さは貼ってからの時間、圧着、温度、速度、被着体で変わります。綜研化学も、評価結果は温度・湿度・被着体の前処理で大きく変わりうるので、条件を一定にして相対的に評価することが重要だと述べています事実
  • 「はがせる」ことも性能:半導体の製造では、仮固定のためのテープが、加工中は強く保持し、加工後はチップを傷めずにはがせることが求められます。UV照射や加熱で粘着力を変える工程用テープが使われます(第8章)事実
この記事でいちばん大事な一行

粘着テープの「N/20 mm」は、時間と条件を含んだ数字です。 同じテープでも、貼ってから20分と72時間では強さが違い、押しつける力・温度・はがす速度でも変わります。 そして、その数字が高いほど良いテープ、とも限りません。

粘着剤を接着剤の側から見た整理は、本シリーズ「接着剤」編を参照してください(同編では、粘着剤は「溶剤・水が抜けて固まる」系統の一員として紹介しています。塗工のときは溶剤や水が抜けますが、貼り合わせのときに液体から固体になるわけではない、という点が接着剤との違いです)。 用語と試験方法は、日本では JIS Z 0109(粘着テープ・粘着シート用語)と JIS Z 0237(粘着テープ・粘着シート試験方法)に規定されています。どちらも日本粘着テープ工業会などが原案を作成した規格です事実。

2. テープの構造 ― 粘着剤と基材と剥離ライナー

テープは、粘着剤の層と、それを支える基材(支持体)、使うまで粘着面を守る剥離ライナーでできています。基材と粘着剤の組み合わせで、性格がまったく変わります。

テープの層構造 ― 基材と粘着剤の組み合わせで性格が決まる 断面の模式図です(灰色=基材、琥珀色=粘着剤)。厚さの比は、Aだけメーカー資料にもとづきます。 片面テープ 両面フォームテープ 熱剥離テープ UV型ダイシングテープ 基材+粘着剤 発泡体の芯+両面の粘着剤 加熱で剥がれる粘着層 UV照射で粘着力が下がる 基材(ポリイミド) 粘着剤(シリコーン) アクリル粘着剤 アクリルフォームの芯 アクリル粘着剤 剥離ライナー(紙) 熱剥離粘着層(発泡剤入り) 中間層 基材 台座面粘着層 チップ UV硬化型粘着剤 基材(PVC・PO) 例:3M ポリイミドテープ 基材1.0 mil、粘着剤1.7 mil (技術資料の記載) 例:3M VHB 4914(厚さ0.25 mm) 発泡体の芯が凹凸になじみ、 応力をやわらげる(解説) 基材と粘着層のあいだの中間層が 基材からの投錨破壊を防ぐ (日東電工の報告) Siウェハ用の基材はPVC・PO UV照射後に粘着力を落とす (リンテックの記載) ※ 層の数と名称は各社の資料の記載にもとづきます。Aの厚さ比(1.0:1.7)以外は模式的で、実物の厚さを示しません。 ※ 「凹凸になじみ、応力をやわらげる」は本記事による解説です。
図1 概念図(ベクター作図)。片面テープは3M ポリイミドテープ 5413 の技術資料[参考資料17]、両面フォームテープは3M VHB 4914 の技術資料[参考資料16]、熱剥離テープは日東電工の開発報告[参考資料18]、UV型ダイシングテープはリンテックの製品ページ[参考資料20]の記載にもとづきます。層の厚さは、片面テープの厚さ比を除いて模式的で、実物を示すものではありません。

基材の役割は、単なる支えではありません。日東電工の熱剥離シートの開発報告は、剥がすときの力が、被着体だけでなく基材にも働くため、基材から粘着層がはがれる「投錨破壊」が起こると糊残りや剥離不良の原因になる、と述べます。そこで同シートは、基材と熱剥離粘着層のあいだに中間層を置いています事実。 粘着剤を厚くして強くすれば済む、という話ではないのです。

3. 粘着剤の種類 ― アクリル系・ゴム系・シリコーン系

綜研化学は、粘着剤をアクリル系・ゴム系・シリコーン系の3つに大別し(ほかにウレタン系などがある)、形態は溶剤型・エマルション型・無溶剤型(ホットメルト型、UV重合型)の3つに分けています事実。

項目アクリル系シリコーン系ゴム系
粘着力◎△◎
凝集力〇〇〇
べたつき(タック)〇△◎
耐水性◎◎◎
耐熱性◎◎△
耐候性◎◎×
耐溶剤性〇◎△
耐寒性△◎◎
価格帯中高低

すべて事実(綜研化学「粘着剤の基礎知識」、各系の溶剤型の比較[参考資料11])。記号は同社の表記で、凡例は同ページに明記されていませんが、◎が最も良く、×が不得意を示すと読めます(本記事による解釈)。同社の定性的な整理で、個別の製品の値ではありません。

それぞれの特徴(綜研化学の資料から)

  • アクリル系:アクリル酸エステルを主成分とし、モノマーの組み合わせで強粘着から微粘着まで設計できます。耐候性・耐熱性・透明性に優れ、金属への粘着力が強い。主成分だけで粘着性があり、ゴム系・シリコーン系のように粘着付与樹脂が必須ではありません。一方、ポリプロピレンなど低極性・低表面エネルギーの被着体には貼りつきにくく、Tg の影響で低温では流動性が下がり貼りつきにくくなります[参考資料14]
  • ゴム系:天然ゴム系と合成ゴム系(SBR、PIB、SIS、SBS、SEBS など)があります。ゴム単体では粘着特性が現れず、粘着付与樹脂を混ぜて弾性率(かたさ)を下げることで貼りつくようになります。初期粘着力とタックが強く、PP・PE などにも使える。弱点は、40〜70 ℃で柔らかくなって粘着力・凝集力が下がること、紫外線に弱いこと。ブロック共重合体の合成ゴムは、ドメインという物理架橋で凝集力を出し、熱で流動する性質を使ってホットメルト型にできます[参考資料15]
  • シリコーン系:シリコーンポリマーと、粘着付与成分のシリコーンレジンからなります。−60〜250 ℃程度の広い温度範囲で使え、再剥離性が高く、ゴム系やアクリル系が貼りつきにくいシリコーンゴムやフッ素樹脂にも貼りつく。一方、粘着力は弱く価格が高い。ガス化したシロキサンが電子部品の接点障害や光学部材の曇りを起こすおそれがあり、半導体用テープでは高温でウェハ表面を汚染する可能性がある、と述べています[参考資料15]
  • ウレタン系:微粘着で再剥離性に優れ、温度や剥離速度による粘着力の変化が小さい。粘着力・タックは低く、オレフィンへは貼りにくい。医療用テープへの展開が進んでいる[参考資料15]

ヘンケルの接着技術の解説書も、アクリル系エマルションの粘着剤は主にラベルに使われ、性能をタック・はく離・せん断で表し、貼る面がきわめて清浄である必要があること、その高温性能は約50 ℃程度であることを述べています。また感圧型のホットメルト(PSA)もあります[参考資料26]事実。

4. 素材技術者の視点①:粘着剤は「ゆっくり流れる固体」

素材技術者の読みどころ:流れるから貼れて、流れすぎるとずれる

3M の VHB テープの技術資料は、同テープが粘弾性体であり、強さと剛性は応力を加える速さの関数だと述べます。速く荷重をかけると(動的応力)より強く振る舞い、長時間かかる荷重(静的応力)ではクリープを示す、とあります。また貼ったあとは、粘着剤が被着体の表面に徐々に流れ込んで(濡れ広がって)強さが増していくとし、被着体への流れやすさは基材の表面エネルギーで大きく決まる、と説明します事実。

これは、本シリーズ「接着剤」編で見た「濡れが先、強さは後」の考え方を、粘着剤にそのまま当てはめたものです。 粘着剤は、流れて濡れるために柔らかくなければならず(弾性率が低い)、同時に流れすぎてずれないために凝集力が必要です。ゴム系で、ゴム単体では貼れず粘着付与樹脂で弾性率を下げてはじめて貼れる(綜研化学)ことも、同じ事情です(本記事による解説)。

日東電工の報告は、この二面性を逆手にとった設計の例です。熱剥離テープでは、熱剥離する温度での弾性率が重要で、架橋が不十分で高温の弾性率が小さいと、発泡剤の膨張で生じる変形の力を剥離力に変えられず、剥離能力が下がる、と述べます事実。常温の貼りやすさと、剥がす温度の弾性率を別々に設計しているのです。

5. 評価の3要素 ― 粘着力・保持力・タックと規格

綜研化学は、粘着剤の物性評価がテープの形に加工して行う粘着力・保持力・タックの3つで表されることが多く、これらを粘着の3要素と呼ぶとしています事実。

粘着の3要素 ― 3つの試験が見ているものは違う 試験の模式図(灰色=試験板・おもり、琥珀色=テープ)。装置や寸法は規格ごとに異なります。 粘着力(はく離) 保持力(静的せん断) タック(初期の貼りつき) 試験板に貼ったテープを 折り返してはがす(180°など) ずれ 垂直な板に貼り、おもりを 下げて、ずれる距離や時間を測る 斜面でボールを転がし、 粘着面で止まる球の大きさを見る (ボールタックの一例) 単位:N/20 mm、N/100 mm など (テープの幅あたりの力) 単位:ずれた距離(mm)か、 落ちるまでの時間(分) 単位:球の番号。ほかに ループタックなど複数の方法 ※ 3つの試験の説明と単位は綜研化学の資料にもとづきます。規格ごとの試験板・圧着・放置時間・速度の細部は、本文が有料のため確認していません。 ※ 絵は模式図です。保持力は「ずれ」が小さいほど高く、粘着力は大きいほど高く、タックは初期の貼りつきを表します。
図2 概念図(ベクター作図)。3つの試験の目的・方法・単位は綜研化学の資料[参考資料12]にもとづきます。タックは初期の貼りつき具合であり、必ずしも粘着力の強弱を表さないと同資料は注意しています。

同資料による各要素の説明は次のとおりです事実。

  • 粘着力:被着体から引き剥がすときの力で、はがれにくさを表す。ステンレスなどの試験板に貼ったテープを圧着ローラーで圧着し、一定時間後に、180°や90°などで一定速度ではがして測る。N/mm や N/mなど、テープの幅あたりの力で表す。環境の温湿度と被着体の材質に大きく影響される
  • 保持力:被着体とテープのずれにくさ。テープを垂直に垂らして荷重(おもり)をかけ、ずれた距離(mm)、または落ちるまでの時間(分)で表す。0に近いほど保持力が高い
  • タック:軽く触れて短時間で貼りつく力。代表的な方法はボールタックで、斜面を転がしたステンレスのボールが粘着面で5秒以上止まる最大の球の番号で評価する。タックは初期の貼りつきで、必ずしも粘着力の強弱を表さない

標準の試験法は、ISO・ASTM・JIS にあります。公式ページの記述から、番号・題名・適用範囲を整理します事実。

試験規格(番号・版)題名・適用範囲(公式ページの記述)
はく離ISO 29862:2024Self adhesive tapes — Determination of peel adhesion properties。方法1:ステンレス鋼から180°、方法2:自分の背面から180°、方法3:両面テープ・転写テープの180°、方法4:ライナーの剥離(180°)。第3版(2024年12月)
ASTM D3330/D3330M-04(2025)Standard Test Method for Peel Adhesion of Pressure-Sensitive Tape。品質保証のための道具で、標準のステンレス板に対する相対的なはく離強さを見る。同じ種類でも製造者の異なる2つのテープの比較には使えない(測定した力が一定の応力面積で正規化されておらず、応力を受ける面積が基材の剛性と粘着剤の流動性で変わるため)。設計情報を与えない(はく離粘着力と機能要件の直接の関係が通常ない)
せん断(保持力)ISO 29863:2018Self adhesive tapes — Measurement of static shear adhesion。一定の荷重を表面と平行に加えたときに粘着テープが付着し続ける能力。方法A:垂直な標準鋼板、方法B:標準繊維板(NIST SRM 1810A)…、方法D・E:繊維強化テープの水平板
ASTM D3654/D3654M-06(2024)Standard Test Methods for Shear Adhesion of Pressure-Sensitive Tapes。手順Aは標準鋼板への一定応力での付着。他の面への付着能力と関係するとは限らない
タックASTM D6195-22Standard Test Methods for Loop Tack。粘着剤の感圧タックの定量的な測定。タックは基材(バッキング)によって変わる(一般に硬い基材のほうが高い値になる)。品質管理と研究に使える
ASTM D3121-25Standard Test Method for Tack of Pressure-Sensitive Adhesives by Rolling Ball。主に品質管理用で、膜厚が一定なら同一ラボ内の再現性が良い。多くの用途で、転がり球タックの結果は実際の用途のタックの要求とあまり相関しない。製品の仕様決定には推奨されない
引張ISO 29864:2018Self adhesive tapes — Measurement of breaking strength and elongation at break。テープの破断強さと破断伸び
日本の規格JIS Z 0237:2022粘着テープ・粘着シート試験方法。包装、封かん、標識などに用いる粘着テープ・シートの試験方法。ISO 29862:2018・29863:2018・29864:2018 を修正採用(MOD)。有効(2022年1月改正)
JIS Z 0109:2015粘着テープ・粘着シート用語。用語と定義。有効(2020年確認)

すべて事実(ISO・ASTM・日本規格協会の公式ページ[参考資料1〜9]、2026年10月確認。日本語は本記事の要約)。JIS Z 0237:2022 が基にする ISO 29862 は2018年版で、現行の ISO 29862 は2024年版です。差は本稿では確認していません。

素材技術者の読みどころ:「幅あたりの力」だから、テープ設計が数字に入る

ASTM D3330 が「異なる製造者の2つのテープの比較に使えない」とする理由は示唆的です。はく離力は幅あたりの力であり、接着部の応力を面積で正規化していないため、応力のかかる面積(基材の剛性と粘着剤の流動性で決まる)が混ざり込んでしまいます。 つまり、数字には粘着剤の強さだけでなく、基材の厚さ・剛性が入っています。同じ粘着剤でも基材を替えれば数字が変わり、タックも基材で変わります(ASTM D6195)事実。 本シリーズ「接着強度試験」編のはく離試験と同じ事情です(本記事による解説)。

6. 素材技術者の視点②:粘着力は「高いほどよい」とは限らない

綜研化学は、粘着テープに求められる性能は用途によって違い、粘着力は強ければいい、保持力はずれなければいい、タックは強いほうがいい、というものではないと述べます。例として、スマートフォンの保護フィルムは、軽い力で剥がれなければならないので、粘着力は弱いことが求められる、とあります事実。 日東電工の熱剥離シートの開発報告は、この矛盾を正面から書いています。「強固に接着することと容易に剥離することは相反する特性」であり、強い粘着テープは剥がすときに粘着剤が壊れて被着体に残る(凝集破壊)か、被着体自体を壊す場合がある一方、簡単に剥がせるテープは、粘着強さを「テープとしての機能を果たせる程度の低さ」に抑えて設計する、と述べています事実。

3M の技術資料から、目的の違う2つのテープのはく離粘着力を並べます(メーカー公称、いずれも ASTM D3330 を記載)事実。

テープ(3M)目的資料の値(試験条件)N/cm 換算
VHB 4914(両面アクリルフォーム、厚さ0.25 mm)永久的な接着。リベット・溶接・ネジ・液状接着剤の代替90°はく離 23 N/cm(13 lb/in)。ステンレス鋼、裏打ちは5 mil アルミ箔、23 ℃、72時間放置、304 mm/min約23
ポリイミドテープ 5413(片面、全厚0.07 mm)はんだ付け時の基板のマスキング。高温工程後にきれいに除去する鋼に対し 22 oz/in 幅(24 N/100 mm)。はく離の角度・放置時間・速度は資料に記載なし約2.4

値は事実(3M VHB 4914 技術資料、英語版 2024年9月[参考資料16]、3M ポリイミドテープ 5413 技術資料[参考資料17]、メーカー公称・代表値)。N/cm への換算は本稿の計算(22 oz/in = 約24.1 N/100 mm で資料の24 N/100 mm と一致。13 lb/in = 約22.8 N/cm で資料の23 N/cm と一致)。試験条件が同一でないため、約10倍の差は参考の目安で、優劣を示すものではありません。

素材技術者の読みどころ:目標値は「強さ」ではなく「どう終わらせたいか」から決まる

永久接着のテープと、高温工程のあとできれいに取るテープは、はく離粘着力の目標が桁で違うのが当然です。後者で大事なのは、数字の高さより、はがしたときに糊が残らない(凝集破壊しない)ことです。 ASTM D3330 は、はく離粘着力と機能要件のあいだに通常は直接の関係がなく、設計情報を与えないとしています事実。 数字は、目的に合わせて「どれだけ強く」ではなく「どう剥がれるか」を決めるための材料です(本記事による解説)。

7. 本稿の計算:3Mの技術資料にある「立ち上がり」と「設計の係数」

3M の VHB 4914 の技術資料(英語版、2024年9月)には、テープの強さが貼ってからの時間でどう立ち上がるか、試験値と設計の目安がどれだけ違うかが書かれています事実。

  • 強さの立ち上がり:室温で、最終強さの約50%が20分後、90%が24時間後、100%が72時間後。接着は、粘着剤が被着体に濡れ広がる(ウェットアウト)につれて徐々に強くなる。高温では流れが速く、66 ℃で1時間の曝露などで最終強さを早めることがあり、場合により高められる。研磨(約180番)やプライマーも、強さと立ち上がりの速さを高める
  • 貼るときの圧着:接着の強さは、粘着剤が被着体に接触した面積で決まる。約100 kPa(15 psi)の圧力がテープにかかるようにローラーまたは盤で押しつける
  • 貼る温度:理想は21〜38 ℃。ほとんどの VHB テープの推奨最低貼付温度は10〜15 ℃で、それ以下では粘着剤が硬く、すぐには貼りつかない(貼り終えた後の低温保持は一般に問題ない)
  • 静的な保持(ASTM D3654):ステンレス鋼、3.23 cm²(0.5 in²)に、23 ℃で1,500 g、66 ℃・93 ℃で500 gのおもりを10,000分(約7日)保持できる
  • 動的な試験(ASTM D1002、ISO 4587):ステンレス鋼、6.45 cm²(1 in²)の重ね合わせせん断(つかみ具速度12.7 mm/min)で900 kPa(130 lb/in²)(23 ℃、72時間放置)
  • 設計の目安:静的荷重には「1 kg あたり約57 cm²のテープ」(過大なクリープを避けるため)。動的荷重には85 kPa(12 lb/in²)が一般的な設計係数
3M VHB 4914:強さの立ち上がりと、試験値・設計の目安 メーカー公称(代表値)と、本稿の換算・比。粘着テープは、試験値と設計の目安のあいだに大きな隔たりがあります。 (a) 貼ってからの立ち上がり (b) 静的せん断:試験と設計の目安 (c) 動的:試験値と設計の目安 室温、最終強さに対する割合 単位:kPa(面積あたりの荷重) 単位:kPa 約50% 約90% 100% 20分 24時間 72時間 45.5 15.2 1.7 試験 23 ℃ 試験 66・93 ℃ 設計の 目安 900 85 重ね合わせ せん断強さ 動的な 設計の目安 ※ 出所:3M VHB 4914 技術資料(英語版、2024年9月)。(b)(c) の棒は、(b) の試験荷重を面積で割った値と、(c) の技術資料の値です。 ※ (b) の試験は 3.23 cm² に1,500 g(23 ℃)、500 g(66・93 ℃)を10,000分。設計の目安は「静的荷重1 kg あたり57 cm²」からの換算(本稿)。 ※ (b) と (c) は別の試験で単位の意味も違います。同じ軸に並べた比較ではなく、それぞれの中の大小を見る図です。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。(a)(c) の値と、(b) の試験荷重・設計の目安のもとは、3M VHB 4914 の技術資料[参考資料16](メーカー公称・代表値)です。(b) の kPa 換算と設計の目安の換算は本稿によるもので、技術資料の表記ではありません。
本稿の計算:試験値と設計の目安の隔たり
  • 静的な試験の応力:1,500 g = 14.7 N を 3.23 cm² で割ると約45.5 kPa(23 ℃)。500 g = 4.9 N では約15.2 kPa(66 ℃・93 ℃)本稿の計算
  • 静的な設計の目安:1 kg(9.81 N)を 57 cm² で割ると約1.72 kPa。23 ℃の試験の応力(45.5 kPa)の約1/26(45.5 ÷ 1.72 = 26.5)本稿の計算
  • 動的な設計の目安:85 kPa は、重ね合わせせん断強さ 900 kPa の約9.4%(約1/10.6)(85 ÷ 900)本稿の計算

前提と限界:(b) の試験荷重は10,000分(約7日)保持できた条件で、「その荷重で壊れる」値ではありません。したがって 1/26 は「壊れる荷重」との比ではなく、試験で保持できた荷重と設計の目安の比です。 また (b) と (c) は別の荷重の掛け方(静的な引きずり荷重と重ね合わせの引張せん断)で、同じ接着面の強さの別の測り方です。ここでの比は、3M がこのテープで置く安全側の余裕の大きさの目安を示すだけで、他のテープには当てはまりません。

素材技術者の読みどころ:クリープが、静的荷重の設計を支配する

3M は、VHB テープが粘弾性体で、長時間かかる荷重ではクリープを示すため、静的荷重の目安を動的荷重より桁違いに厳しく置いています(約1.7 kPa と85 kPa、約50倍の差、85 ÷ 1.72 = 49)本稿の計算。 粘着剤は流れるから貼れ、流れるからクリープする、という同じ性質の表と裏です。本シリーズ「ガラス転移点とクリープ」編の時間‐温度の考え方が、そのまま効きます。 また 3M の静的せん断の試験は、温度が上がると保持できるおもりが下がることを示しています(23 ℃で1,500 g、66・93 ℃で500 g、約1/3)事実。粘着剤が高温で柔らかくなり、流れやすくなるためと読めます(本記事による解説)。

8. 半導体の工程用テープ ― はがせることが性能

ウェハの薄化とダイシングは、テープなしでは成立しません。装置と工程の話は、本シリーズ「ウェハ薄化とダイシング」編で扱いました。ここでは、テープの側から整理します。リンテックの半導体関連テープのページは、4種類を挙げています事実。

図4:ダイシングテープに貼ったウェハと、テープの層構造の切り欠き
図4 概念図(AI生成イメージ)。ダイシングテープ上のチップと、テープの層(基材、粘着剤)を切り欠いて断面を見せた様子を表現したものです。実際の製品・層の厚さ・材質を示すものではありません。
テープ目的(リンテックの記載)製品ページの記述
BG用表面保護テープバックグラインド時にウェハ表面を確実に保護し、研削水・研削屑の浸入による汚染を防ぐEシリーズ(UV硬化型):UV照射で粘着力が下がる。標準研削(ウェハ厚み100 µm超)、薄研削(40 µm超)、帯電防止、バンプウェハ、DBG・化学エッチング・PCBLなどの特殊プロセス。Pシリーズ(Non-UV型):標準研削(100 µm超)、薄研削(50 µm超)
ダイシングテープダイシング前は強い粘着力でチップを保持し、ダイシング後に粘着力を弱めてピックアップ性を高めるDシリーズ(UV硬化型):Siウェハ用は基材がPVC・PO。標準、低ピックアップタイプ、小チップ向け(1 mm未満)、耐切削片。パッケージ用、ガラス・セラミック用、ステルスダイシング用、フルカットレーザー用、プラズマダイシング用、耐溶剤、耐熱。Gシリーズ(Non-UV型):UV照射が不要、粘着力の安定性、優れたエキスパンド性、さまざまなチップサイズに対応
ダイシング・ダイボンディングテープダイシングテープとダイボンディング剤の機能をあわせ持つLEテープ:ダイシングからダイボンディングまでを1枚のテープで行う。液状接着剤との比較:接着剤の形態は均一・全面接着(液状は不均一・部分接着)、チップサイズの影響を受けない(液状は受ける)、接着剤量とツールの制御が不要(液状は必要)、硬化時のブリードがない(液状はある)
チップ裏面保護テープ基板上にチップを回路面から実装するフリップチップなどで、チップ裏面を保護・補強する(製品ページに目的の記載)
BG用表面保護テープ対応の剥離用テープBG用表面保護テープを剥がすための専用テープSシリーズ:ウェハマウンターとBG用テープリムーバーで、ウェハにダメージを与えずに剥離する。表面保護テープの材質にかかわらず、熱圧着でしっかり接着して確実に剥がす

すべて事実(リンテック「半導体関連テープ」[参考資料19]、Adwill 各製品ページ[参考資料20〜25])。日本語は本記事の要約です。製品ページには、粘着力・UV 照射量などの具体的な数値は載っていません。

工程用テープは、どうやって「はがせる」ようにしているか(概念図) 上段=使用中、下段=はがすとき。灰色=基材、琥珀色=粘着剤、濃い灰色=チップ。 UV硬化型 熱剥離型 ダイシング・ダイボンディング UV照射で粘着力が下がる 加熱で発泡して剥がれる チップに接着フィルムが付く 使用中 使用中 使用中 はがすとき はがすとき はがすとき 照射前は強く保持し、照射後は 粘着力を落として拾い上げる (リンテック Adwill D・E) 粘着層の発泡剤が膨らみ、 表面が凹凸になって接触面積が減る (日東電工の開発報告) ダイシングから接着までを1枚で。 チップと接着フィルムを一緒に拾う (リンテック Adwill LE) ※ 仕組みの説明は、リンテックの製品ページ[参考資料20〜25]と日東電工の開発報告[参考資料18]の記載の要約です。 ※ 層・チップの厚さと形は模式図です。UVで架橋が進む点は、本シリーズ「ウェハ薄化とダイシング」編の解説と同じ整理(本記事による解説)です。
図5 概念図(ベクター作図)。UV硬化型・ダイシング・ダイボンディング[参考資料20・22・24]は、リンテックの製品ページの記述にもとづきます。熱剥離型は日東電工の開発報告[参考資料18]によります。厚さ・形は模式的で、実物を示すものではありません。

熱剥離テープの仕組み ― 日本接着学会誌の開発報告から

日東電工の有満の報告(日本接着学会誌 2008年、総説、日本接着学会技術賞を受賞した製品の開発)は、熱剥離シートを次のように説明します事実。

  • 課題:携帯電子機器の小型化で、電子部品は1 mm角より小さいものが主流になった。従来の仮固定(ワックス、接着剤、粘着シート)は固定力に優れるが加工後に剥がしにくく、吸着固定は剥がしやすいが固定力に劣る
  • しくみ:粘着剤に熱応答性の発泡剤を入れる。加熱すると発泡剤が膨らみ、粘着層の表面が凹凸になる。この形状変化で、被着体を粘着層から引き剥がす応力が生じ、同時に接触が面から点になって接触面積が著しく減り、再付着も防ぐ。粘着力がほぼゼロになり、外から力を加えなくても被着体が分離する(自然剥離)
  • 発泡剤の条件:約100 ℃前後の熱で短時間に発泡し、しかも長時間その状態を保てること。短時間で発泡しても、すぐ破裂すると再付着する
  • 粘着層の設計:発泡時の変形の力を剥離力に効率よく変えるため、粘着層の流動性を抑える。ポリマーの低分子量成分は少ないほうがよく、架橋点の官能基を入れる位置も熱剥離性に大きく影響する。熱剥離温度での弾性率と粘着力も重要で、粘着力が低いほど熱剥離は容易になる
  • 構成:基材と熱剥離粘着層のあいだに中間層を置き、基材からの投錨破壊を防ぐ。熱剥離温度の異なるグレードがあり、グラフの凡例には90・120・150・170 ℃で剥離するタイプが示されている(2008年時点)
  • 使われ方:最も多いのはセラミック部品の製造で、1005型(1 mm×0.5 mm)や0603型(0.6 mm×0.3 mm)の小型品を切断するとき、1枚のシートに数万個から10万個以上を固定し、切断後に加熱して剥がす。携帯電話1台に500個を超えて使われるセラミック部品もある
素材技術者の読みどころ:「接着力の大きさ」ではなく「接着面積」を動かす

粘着力は接着面積に比例する、というのは粘着の基本です。日東電工の設計は、粘着剤の強さを下げずに、面積を下げることで粘着力をほぼゼロにしています。 加工中は平らな面で強く保持し、剥がすときに表面を凹凸にして接触を「点」にする。強さと剥がしやすさという相反する要求を、材料の強さではなく形の変化で両立させる、という考え方です(本記事による解説)。 UV型の工程用テープは、反対に、架橋を進めて粘着剤を硬くし、流れ込む力を失わせることで粘着力を下げます(本シリーズ「ウェハ薄化とダイシング」編)。 どちらも、粘着剤の粘弾性を、刺激(光・熱)で意図的に変えることで、「保つ」と「はがす」を切り替えています。

半導体工程では、粘着剤の「出ていくもの」にも注意

綜研化学は、シリコーン系粘着剤について、ガス化したシロキサンが電子部品の接点障害や光学部材の曇りを起こすおそれがあり、半導体用テープなど高温の用途では、ウェハ表面を汚染する可能性があると述べます事実。 リンテックの工業用粘着テープのラインナップには「シリコーンフリー粘着テープシリーズ」があります事実(製品ページの項目名による)。 工程用テープの粘着剤は、粘着力だけでなく、残渣・アウトガス・汚染も性能の一部です(本記事による解説)。

9. 両面フォームテープと耐熱テープ

両面フォームテープ(3M VHB 4914 の例)

3M の VHB 4914(0.25 mm、白、両面アクリルフォームテープ、紙ライナー)の技術資料は、一般用途のアクリル粘着剤と硬いアクリルフォームの芯で、金属・ガラス・貼りやすい塗装やプラスチックなど高表面エネルギーの被着体に永久的に接着でき、リベット・溶接・ネジ・液状接着剤の代わりに使える、と説明します事実。接着剤との違いが現れる記述を抜き出します。

項目技術資料の記述(メーカー公称)
貼った直後から強さがある感圧性の粘着剤が接触と同時に結合し、すぐ取り扱える強さが得られる。液状接着剤の「硬化を待つ」工程がない
厚さと凹凸テープは一定の凹凸になじむが、大きな隙間は埋められない。硬い被着体どうしで平坦なら、1.1 mm(45 mil)以上のテープを検討。被着体が柔らかいほど薄いテープも使える
熱膨張差への強さ2つの面が違う速さで膨張・収縮する用途に向く。両面にしっかり接着していれば、せん断面内の相対移動をテープの厚さの最大3倍(300%)まで許容できる
結合のやわらかさ他の締結方法より結合は柔軟。剛性が要る場合は、設計の変更や、ときどき剛い締結具・接着剤を併用する
貼る前の準備ほとんどの被着体は IPA/水(70/30)で洗浄する。重い油は脱脂剤、酸化皮膜は研磨(約180番)、プラスチックや塗装にはプライマー(接着促進剤)。多孔質の被着体は封止して面を整える
保管4〜38 ℃、相対湿度0〜95%で保管し、製造から24か月まで性能を保つ

すべて事実(3M VHB 4914 技術資料、英語版 2024年9月[参考資料16]、メーカー公称。日本語は本記事の要約)。

接着剤の章(本シリーズ「接着剤」編)で見た「硬化収縮と熱膨張差が作る内部応力」に対して、フォームの芯が変形して応力を逃がすのが、この種のテープの設計です(本記事による解説)。ただし、粘着剤はクリープするので、静的な荷重の面積は第7章の目安で確保する必要があります。

耐熱テープ(3M ポリイミドフィルムテープ 5413 の例)

3M のポリイミドフィルムテープ 5413 は、ポリイミドフィルム(1.0 mil)の基材とシリコーン粘着剤(1.7 mil)、全厚2.7 mil(69 µm)の琥珀色のテープです。PCB のはんだ付け(ウェーブはんだ、リフロー)時のマスキングや、高温で硬化する部品の製造時の離型面に使われます。技術資料は、高温でも寸法が安定すること、シリコーン粘着剤の高温性能が糊の移りを減らし、洗浄の手間をほぼなくすこと、難燃性、耐薬品・耐放射線性を挙げます事実。 値は、鋼への粘着力 22 oz/in 幅(ASTM D3330)、破断強さ 33 lb/in 幅(ASTM D3759)、破断伸び 62%、温度使用範囲 −73〜260 ℃(メーカー公称・代表値、2026年7月の「予備的な」技術資料)です。保管期限は製造から36か月(21 ℃・50%RH)。

10. 素材技術者の視点③:「耐熱温度」には3つの定義がある

素材技術者の読みどころ:同じ「耐熱」でも、測っているものが違う

3M の2つの技術資料は、「耐熱」を3通りに定義しています事実。

  • 5413(ポリイミド)の「温度使用範囲」:示した温度に置いたあと、テープを銅の面から、汚れ(変色)なくきれいに剥がせる最大の時間として定義される(資料に具体的な時間の記載はない)。範囲は −73〜260 ℃。つまり、「はがせるか」が基準
  • VHB 4914 の長期耐熱(93 ℃):静的せん断で78 g/cm²(500 g/in²)以上を10,000分支える最高温度。つまり、「荷重を保持できるか」が基準(日・週単位の連続曝露の目安)
  • VHB 4914 の短期耐熱(149 ℃):示した温度で4時間置き、100 g の静荷重をかけたあと、室温の動的せん断特性に変化がない最高温度。つまり、「戻ってから性能が変わらないか」が基準(工程中の短時間の曝露の目安)

剥がせることを求めるマスキングと、荷重を支え続けることを求める構造用の両面テープでは、「耐える」の意味が違うのです。 耐熱温度の数字だけを並べて「5413は260 ℃、VHBは149 ℃」と比べるのは誤りで、何を保証している温度かを読む必要があります。 粘着テープの耐熱は、粘着剤の流動性(高温でどれだけ柔らかくなるか)と、基材の耐熱性の両方で決まります。ゴム系が40〜70 ℃で柔らかくなる(綜研化学)のも、シリコーン系が−60〜250 ℃で使える(同)のも、同じ軸の上の話です(本記事による解説)。

11. 課題・確認できなかった点

(1) 規格本文の細部は確認していない

ISO・ASTM・JIS の本文は有料のため、試験板の材質、圧着の方法、放置時間、はがす速度、結果の精度は確認していません。また JIS Z 0237:2022 が基にするのは ISO 29862:2018(修正採用)で、現行は2024年版です。2つの版の差が試験結果に及ぼす影響は確認できませんでした。

(2) 工程用テープの数値は公式ページに載っていない

リンテックの製品ページには、粘着力・UV 照射量・剥離条件の具体的な数値は載っていません。本稿は製品の用途区分と記載された特長の整理にとどめ、特定製品の性能を数値で示していません。

(3) 熱剥離テープの情報は2008年の報告にもとづく

日東電工の開発報告は2008年のもので、現行の製品ラインナップや剥離温度は、本稿では確認していません(日東電工の製品ページの確認は、アクセスできず行えませんでした)。

(4) 粘弾性の定量的な基準は扱っていない

粘着の成立条件を弾性率の範囲で示す古典的な基準などは、Creton の解説の本文が有料のため確認していません(本稿は要旨のみ)。粘着剤の粘弾性は、定性的な説明にとどめています。

(5) 市販テープ間の優劣は扱わない

3M の2つのテープは、粘着剤と基材・目的が異なる例として、数値を条件つきで引用したものです。製品の優劣を示すものではありません。医療用テープ、マスキングテープ、電気絶縁テープ(ASTM D1000 など)、化学物質(シロキサンなど)の規制は、本記事では扱っていません。

この記事のまとめ
  • 粘着剤は、貼るときに状態が変わらない「やわらかい固体」です。だから貼ってからの時間・圧着・温度・速度で強さが動きます事実
  • 評価の3要素は、粘着力(はく離)・保持力(静的せん断)・タック(初期の貼りつき)です。粘着力は幅あたりの力で、基材の剛性が数字に入るため、異なる製造者のテープの比較には使えません(ASTM D3330)事実
  • 粘着力は高いほど良いわけではありません。永久接着と、きれいにはがすテープでは、目標が桁で違います(3Mの2テープで約10倍)本稿の計算
  • 3Mの VHB は、50%が20分、90%が24時間、100%が72時間で立ち上がり、静的荷重の設計の目安は、試験で保持できた荷重の約1/26です本稿の計算
  • 工程用テープは、「はがせること」が性能です。UVで架橋を進める型、加熱で発泡して接触面積を減らす型、ダイシングと接着を1枚にする型があります事実
  • 「耐熱温度」は、何を保証する温度かで定義が違います。きれいにはがせる、荷重を保持できる、戻っても性能が変わらない、の3通りがあります事実

12. 用語集

粘着剤(PSA)
指で軽く押す程度の力で貼りつく、感圧性の接着剤。貼るときに液体から固体への状態変化がない。
基材(支持体)
粘着剤を塗って支えるフィルム・紙・発泡体など。
剥離ライナー
使うまで粘着面を守る、剥離処理をした紙やフィルム。
粘着付与樹脂(タッキファイヤー)
ゴム系などの弾性率を下げ、粘着性を出す樹脂。
粘着力
はがすときの力。幅あたり(N/20 mm、N/100 mm など)で表す。
保持力
荷重をかけ続けたときの、ずれにくさ。ずれた距離か、落ちるまでの時間で表す。
タック
軽く触れて短時間で貼りつく力。初期の貼りつき。
ボールタック
斜面を転がした球が粘着面で止まる最大の球の番号で表すタックの試験。
ウェットアウト
貼ったあと、粘着剤が被着体の表面に流れ広がって、接触面積が増えること。
クリープ
一定の荷重をかけ続けると、時間とともに変形が進むこと。
BGテープ
バックグラインド時にウェハ表面を保護する表面保護テープ。
ダイシング・ダイボンディングテープ
ダイシングテープとダイボンディング用の接着フィルムを一体にしたテープ。
熱剥離テープ
加熱すると粘着層の発泡剤が膨らみ、粘着力がほぼなくなって自然にはがれるテープ。

13. 参考資料(一次情報)

  1. ISO ISO 29862:2024 Self adhesive tapes — Determination of peel adhesion properties — iso.org
  2. ISO ISO 29863:2018 Self adhesive tapes — Measurement of static shear adhesion — iso.org
  3. ISO ISO 29864:2018 Self adhesive tapes — Measurement of breaking strength and elongation at break — iso.org
  4. 日本規格協会(JSA) JIS Z 0237:2022 粘着テープ・粘着シート試験方法 — webdesk.jsa.or.jp
  5. 日本規格協会(JSA) JIS Z 0109:2015 粘着テープ・粘着シート用語 — webdesk.jsa.or.jp
  6. ASTM International ASTM D3330/D3330M-04(2025) Standard Test Method for Peel Adhesion of Pressure-Sensitive Tape — store.astm.org
  7. ASTM International ASTM D3654/D3654M-06(2024) Standard Test Methods for Shear Adhesion of Pressure-Sensitive Tapes — store.astm.org
  8. ASTM International ASTM D6195-22 Standard Test Methods for Loop Tack — store.astm.org
  9. ASTM International ASTM D3121-25 Standard Test Method for Tack of Pressure-Sensitive Adhesives by Rolling Ball — store.astm.org
  10. Creton, C. Pressure-Sensitive Adhesives: An Introductory Course. MRS Bulletin 28(6), 434–439 (2003). DOI 10.1557/mrs2003.124(要旨を出版社のページで確認) — doi.org
  11. 綜研化学 粘着剤の基礎知識(粘着剤とは、形態、種類) — sokenchem.com
  12. 綜研化学 粘着剤の基本物性(粘着の3要素) — sokenchem.com
  13. 綜研化学 モノとモノがくっつく仕組み(接着と粘着の違い) — sokenchem.com
  14. 綜研化学 もっと知る!アクリル系粘着剤の特長 — sokenchem.com
  15. 綜研化学 もっと知る!その他の粘着剤の特長(ゴム系・シリコーン系・ウレタン系) — sokenchem.com
  16. 3M 3M VHB Tape — Specialty Tape 4914, Technical Data Sheet, English-US, last revision September 2024 — multimedia.3m.com
  17. 3M 3M Polyimide Film Tape 5413, Technical Data(2026年7月) — multimedia.3m.com
  18. 有満幸生(日東電工) 熱剥離シート『リバアルファ®』の開発. 日本接着学会誌 44(6), 225–229 (2008). DOI 10.11618/adhesion.44.225 — doi.org
  19. リンテック 半導体関連テープ — lintec.co.jp
  20. リンテック(Adwill) ダイシングテープ D series(UV硬化型) — adwill-global.com
  21. リンテック(Adwill) ダイシングテープ G series(Non-UV型) — adwill-global.com
  22. リンテック(Adwill) BG用表面保護テープ E series(UV硬化型) — adwill-global.com
  23. リンテック(Adwill) BG用表面保護テープ P series(Non-UV型) — adwill-global.com
  24. リンテック(Adwill) ダイシング ダイボンディングテープ LE Tape — adwill-global.com
  25. リンテック(Adwill) BG用表面保護テープ対応剥離用テープ S series — adwill-global.com
  26. ヘンケル(Henkel) How to Create Reliable and Effective Bonded Joints(Adhesive Technologies Expert Bonding Collection)、2022年(PDF) — dm.henkel-dam.com

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
接着剤と粘着剤の違い(接着剤は液体から固体への状態変化がある。粘着剤は接着剤の一種で状態変化がなく、PSA とも呼ばれ、指で軽く押す程度で貼りつく。支持体に塗って溶剤・水を揮発させてテープにする)。粘着剤の形態(溶剤型、エマルション型、無溶剤型=ホットメルト・UV重合)と種類(アクリル系・ゴム系・シリコーン系、ほかにウレタン系)綜研化学 粘着剤の基礎知識[参考資料 11]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/ と[参考資料 13]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/structure/事実
PSA が貼る過程で物理的変化・化学反応を起こさないこと。粘弾性を、ポリマー構造・モノマー組成・粘着付与樹脂で精密に調整すること。PSA がやわらかく変形する固体で、剥がすときにフィブリルを作りやすいことCreton(2003)の要旨[参考資料 10]https://doi.org/10.1557/mrs2003.124事実
粘着の3要素の説明(粘着力:圧着ローラー・一定時間後・180°や90°・N/mm や N/m、保持力:mm または分、タック:ボールタック・5秒以上停止・初期の貼りつきで粘着力の強弱を表すとは限らない)。条件を一定にした相対評価の重要性。粘着力は強ければよいわけではなく、保護フィルムは弱い粘着力が求められること綜研化学 粘着剤の基本物性[参考資料 12]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/basic_property/事実
3種の粘着剤の比較表(粘着力・凝集力・べたつき・耐水性・耐熱性・耐候性・耐溶剤性・耐寒性・価格帯)。アクリル系の特徴(粘着付与樹脂が必須でない、低極性被着体と低温が弱い)綜研化学 粘着剤の基礎知識[参考資料 11]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/ と アクリル系[参考資料 14]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/acryl/事実
ゴム系(粘着付与樹脂で弾性率を下げて粘着性が出る。PP・PE にも使える。40〜70 ℃で柔らかくなる。紫外線に弱い。ブロック共重合体のホットメルト)、シリコーン系(シリコーンポリマー+レジン、−60〜250 ℃、再剥離性、粘着力が弱い、シロキサンによる悪影響の可能性、半導体用テープでのウェハ汚染の可能性)、ウレタン系(微粘着・再剥離)綜研化学 その他の粘着剤の特長[参考資料 15]https://www.sokenchem.com/jp/product/PSA/knowledge/other/事実
ヘンケルの解説書:アクリル系エマルション粘着剤が主にラベル用で、タック・はく離・せん断で表し、清浄な面が必要で、高温性能が約50 ℃であること。感圧型ホットメルトの存在ヘンケル 解説書[参考資料 26]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
ISO 29862:2024(方法1〜4、第3版)、ISO 29863:2018(静的せん断、方法A〜)、ISO 29864:2018(破断強さ・伸び)の題名と適用範囲ISO 公式ページ[参考資料 1]https://www.iso.org/standard/88050.html ほか[参考資料 2・3]事実
JIS Z 0237:2022 が ISO 29862・29863・29864 の2018年版を修正採用(MOD)し、有効であること。JIS Z 0109:2015 が用語規格で、有効であること。原案作成団体に日本粘着テープ工業会が含まれること日本規格協会 Webdesk[参考資料 4]https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Z+0237%3A2022 ほか[参考資料 5]事実
ASTM D3330(品質保証の道具。相対的なはく離強さ。製造者の異なるテープの比較に使えない理由。設計情報を与えない)、ASTM D3654(標準鋼板への一定応力での付着)、ASTM D6195(ループタック。基材で変わる)、ASTM D3121(転がり球。品質管理用。実用のタックと相関しにくい)ASTM 公式ページ[参考資料 6]https://store.astm.org/d3330_d3330m-04r25.html ほか[参考資料 7・8・9]事実
3M VHB 4914:構造(0.25 mm、アクリルフォーム、紙ライナー)、はく離 23 N/cm(90°、ステンレス、5 mil アルミ箔、72時間、304 mm/min)、重ね合わせせん断 900 kPa、静的せん断(1,500 g/500 g、3.23 cm²、10,000分)、長期93 ℃・短期149 ℃の定義、強さの立ち上がり(20分50%、24時間90%、72時間100%)、圧着100 kPa、貼付温度、粘弾性・クリープ、設計の目安(57 cm²/kg、85 kPa)、厚さ1.1 mm以上、3倍の相対移動、洗浄・研磨・プライマー、保管24か月3M 技術資料(英語版、2024年9月)[参考資料 16]https://multimedia.3m.com/mws/media/2366463O/3M-VHB-Tape-Specialty-Tape-4914.pdf事実
3M ポリイミドテープ 5413:構成(基材1.0 mil、シリコーン粘着剤1.7 mil、全厚2.7 mil)、用途、特長、鋼への粘着力 22 oz/in 幅(24 N/100 mm、ASTM D3330)、破断強さ・伸び、温度使用範囲 −73〜260 ℃の定義(銅から汚れなく剥がせる)、保管36か月、2026年7月の予備的資料3M 技術資料[参考資料 17]https://multimedia.3m.com/mws/media/136011O/3m-polyimide-film-tape-5413-tds.pdf事実
熱剥離シート(日東電工):課題、仕組み(発泡剤・凹凸・接触面積)、発泡剤の条件(約100 ℃・短時間・保持)、粘着層の設計(流動性、低分子量、架橋点、弾性率、粘着力)、中間層、グレード(90〜170 ℃)、用途(セラミック部品の切断、1005型・0603型、数万〜10万個超)、強固な接着と容易な剥離の相反有満(2008)日本接着学会誌[参考資料 18]https://doi.org/10.11618/adhesion.44.225事実
リンテックの半導体関連テープ4種の目的と、Adwill D・G・E・P・LE・S シリーズの記載(UV硬化型・Non-UV型、基材PVC・PO、ウェハ厚み区分、LE と液状接着剤の比較、熱圧着の剥離用テープ)。工業用テープに「シリコーンフリー粘着テープシリーズ」の項目があることリンテック 製品ページ[参考資料 19]https://www.lintec.co.jp/products/electronics/tape/ と Adwill 各ページ[参考資料 20]https://www.adwill-global.com/tape/dicing-d.html ほか[参考資料 21・22・23・24・25]事実
22 oz/in の換算(約24.1 N/100 mm)、13 lb/in の換算(約22.8 N/cm)、2つのテープの約10倍の差。試験の応力(1,500 g/3.23 cm² = 約45.5 kPa、500 g = 約15.2 kPa)、静的な設計の目安(約1.72 kPa、試験の約1/26)、動的な設計の目安(85 kPa は900 kPa の約9.4%)、静的と動的の目安の比(約49倍)本稿の計算。参考資料16・17の値を、1 oz = 0.2780 N、1 lb = 4.448 N、1 in = 25.4 mm、重力加速度9.80665 m/s² で換算。前提と限界は各章に記載本稿の計算
JIS Z 0237:2022 が基にする ISO 29862:2018 と現行2024年版の差。規格本文の試験板・圧着・放置時間・速度・精度規格本文が有料のため確認していない。確認できたのは題名・抄録・状態のみ解説
日東電工の現行製品ラインナップと剥離温度。リンテックの Adwill の粘着力・UV 照射量などの具体値。Creton の解説本文の粘弾性の基準本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない(日東電工の製品ページにはアクセスできなかった)解説
粘着剤が「ゆっくり流れる固体」であるという整理、粘着力の数字に基材の剛性が入るという読み取り、目標値は「どう終わらせたいか」から決まるという整理、クリープと静的荷重の設計の関係づけ、「接着面積を動かす」という読み取り、耐熱温度の3つの定義の整理、図1・図5の注記公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各団体・各社が表明した見解ではない解説
図1・図2・図3・図5が実際の断面・測定結果ではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図4がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月3日/出典は一次情報(ISO・ASTM・日本規格協会の公式ページ、リンテック・綜研化学・3Mの資料、日本接着学会誌の開発報告、査読論文の要旨)に限定しています。メーカーの値はメーカー公称(代表値)で、規格値ではありません。綜研化学の粘着剤の比較は同社の定性的な整理で、他社製品や個別グレードの値ではありません。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 規格本文の細部(試験板・圧着・放置時間・速度・精度)、JIS Z 0237 と現行 ISO 29862 の版の差、工程用テープの具体的な数値、日東電工の現行の熱剥離テープ、粘弾性の定量的な基準は、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 図1・図2・図3・図5はベクター作図、ヒーロー画像と図4はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面・製品・装置・測定結果を示すものではありません。