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アストロボティック・テクノロジー 企業解説

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COMPANY PROFILE / 宇宙産業

アストロボティック・テクノロジー
― 月へ向かった着陸機の失敗を検証し、2026年に米上場企業の傘下で次の月ミッションへ進む非上場会社

Astrobotic Technologyは、米国ピッツバーグで月に荷物(ペイロード)を届ける着陸機を作る会社です。 2024年1月に打ち上げた初号機Peregrine(ペレグリン)は、推進系の異常で月への着陸に至りませんでした。 会社は外部の専門家を入れた調査で原因を特定して公表し、2026年7月にはNASAから新しい月ミッション2件を受注、同月に米上場企業Voyager Technologiesの100%子会社になりました。 本稿では、宇宙でどんな役割を担う会社か、何を投じ、誰と組み、何を目指しているかを、会社・NASA・SEC提出書類の一次資料だけで整理します。

構成:会社の公式資料(Peregrine Mission One 事後報告書、プレスリリース)、NASAの公式発表、Voyager Technologiesの米国SEC提出書類(Form 10-Q・8-K)などの一次情報/確認日 2026年10月17日(この分野は変化が速いため、機体・ミッション・契約・企業構造の記述は確認日時点です)

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるAstrobotic Technologyと、宇宙産業での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 宇宙産業の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. 宇宙産業にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は宇宙産業で何を目指しているか
  9. 宇宙産業分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるアストロボティック・テクノロジーと、宇宙産業での立ち位置

正式名称Astrobotic Technology, Inc.2007年設立(会社の説明)。2026年7月からは「Voyager Lunar Systems」としても事業
本社米国ペンシルベニア州
ピッツバーグ
推進・試験施設はカリフォルニア州モハベ
所有非上場
Voyager Technologiesの子会社
2026年7月10日に100%取得が完了。親会社は NYSE: VOYG
この分野での区分探査・月面月着陸機・ローバー・月面電力が中心
月への着陸挑戦1回Peregrine Mission One(2024年1月)。着陸には至らず
次の月ミッションGriffin-1
2026年11月以降
NASAは「Moon Base II」と呼称。未確定/将来
取得額(親会社の開示)最大US$300.0百万基本対価・引き受け債務・条件付き対価の合計(上限)
単体の売上・従業員非公表子会社のため、独立した決算は公表されない
まず押さえるべき1点

宇宙産業の企業は「ロケットで運ぶ会社」「月や宇宙ステーションへ行く会社」「軌道で衛星やサービスを動かす会社」「宇宙機の部品やシステムを作る会社」に分けると理解しやすくなります(後述の図1)。 Astrobotic Technologyは「月へ行く会社」で、月に荷物を届ける着陸機と、月面で電力や移動を担う機器を自社で作ります。 この会社を読むときの最大の注意点は、これまで非上場で財務を公表してこなかった会社が、2026年7月に上場企業の子会社になったことです 事実。 そのため、会社単体の売上・利益・従業員数は、本稿が読んだ一次資料では確認できません。 代わりに、親会社が買収の条件(取得額・条件付き対価)をSEC提出書類で開示していて、そこから会社の位置づけを読み取れます。 なお「Astrobotic」の名前は会社サイトで引き続き使われていますが、会社の発表では今後「Voyager Lunar Systems」としても事業を行うとされています。

2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、公式サイトから取得した画像を img/astrobotic_logo.svg として設置しています(元が白抜き文字のため、濃紺の地に置いています)。

表記の注意:法人名は Astrobotic Technology, Inc. で、会社の発表(2026年7月13日)によると、今後は親会社Voyager Technologiesの月面事業部門として「Voyager Lunar Systems」の名前でも事業を行います。 本稿では、会社サイトと資料の大半が使う「Astrobotic」を主に使い、必要な箇所で区別します。 日本語では「アストロボティック」と読まれます。

公式サイト:https://www.astrobotic.com/

3. 宇宙産業の世界で、この会社はどこにいるか

はじめに、この分野で出てくる言葉を2つだけ説明します。 ランダーは、月などの天体にゆっくり降りて着地する宇宙機(着陸機)のことです。 ペイロードは、ロケットや着陸機が運ぶ「荷物」のことで、実験装置、探査車、企業の機器などが入ります。 Astrobotic Technologyは、このランダーを作り、他の組織の荷物を月へ届ける、いわば月への宅配便の事業者です。 会社の月着陸機は2種類で、小型のPeregrineと、中型のGriffin(グリフィン)です。

宇宙産業に関わる企業の4つの類型 同じ「宇宙の会社」でも、宇宙で担う役割で、強みと課題が違う 打ち上げ 探査・有人・月面 衛星・軌道上サービス 部品・システム ロケットで宇宙へ運ぶ 月や宇宙ステーションへ 軌道で働く・作る 宇宙機を支える SpaceX/Blue Origin Rocket Lab/Firefly Axiom Space/Intuitive Machines ispace/Astrobotic Astroscale/Varda Synspective/Starcloud Northrop Grumman/BAE Systems Microchip/Redwire 打ち上げ能力と再使用 月・ISSへの到達力 新しい用途と市場 実績と信頼性 失敗と日程の遅れ 資金と日程の不確実 実証が途上・収益化 認定と納期に時間 Astrobotic Technologyは「探査・月面」の枠にいる。月に荷物を届ける着陸機が中心 2026年7月に米上場企業の子会社になり、Voyager Lunar Systemsとしても事業を行う(会社発表・SEC提出書類)
図1 宇宙産業に関わる企業の4類型と、Astroboticの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。月着陸機(Peregrine・Griffin)が事業の中心で、2026年7月に親会社Voyager Technologiesの傘下に入った点は、会社の公式発表とSEC提出書類の記載に基づきます。
月への着陸が難しい理由(やさしく)

月には空気がなく、パラシュートが使えません。そのため、エンジンの噴射だけで速度を落として、決まった場所に降りる必要があります。 その前に、地球から月まで数日間飛び続ける間も、エンジンと燃料タンクが正しく働き続けなければなりません。 Astrobotic Technologyの初号機Peregrineは、この「月へ着く前の飛行」の最初の段階で、燃料系の弁の不具合に見舞われました (第6章) 事実。 着陸機の技術の細部は、本シリーズの技術解説「月面探査とアルテミス」と「ロケットエンジンと推進剤」を参照してください。

4. 会社の規模

この会社は非上場で、単体の売上・利益・従業員数は、会社の公式資料でも親会社の提出書類でも確認できませんでした 未確定/将来。 確認できたのは、親会社Voyager Technologiesが買収にあたって開示した条件です(米国SECのForm 10-Q、2026年8月4日提出)。

項目(US$百万)金額説明
取得額の上限(合計)300.0基本対価162.2、引き受け債務9.0、条件付き対価128.8(割引前)の合計
基本対価と債務の支払い(2026年7月10日、完了時)96.1(現金)+株式親会社クラスA普通株 2,024,880株を併せて交付
条件付き対価のうち「獲得済み」とされた額69.510-Q提出時点。現金と株式の組み合わせで支払う
条件付き対価の残り―2028年3月31日まで未確定。達成状況で変わる
ここで注意

上の金額は買収の条件であって、Astrobotic Technologyの売上や評価額を示す数字ではありません。 「条件付き対価」は、今後の目標(マイルストーン)を達成したときだけ支払う金額で、達成できなければ支払われません 未確定/将来。 また、親会社は、取得価額の配分(買収した資産・負債の評価)をまだ完了しておらず、2026年第3四半期の10-Qで開示する予定だと書いています。 会社が自社について述べている規模は、「NASAと国防総省の契約を累計でUS$600百万超」確保したという会社の説明のみです(2026年6月2日の会社発表。内訳は確認できず)。 本稿は評価額や投資判断を示しません。

5. 宇宙産業にかけているリソース

「人・金・外部への投資と買収・公的機関との契約」の4点が、一次情報で確認できたかを表にします。

リソースの種類確認できた内容区分
人従業員数は非公表。拠点は、ピッツバーグの本社(宇宙機の組み立て・クリーンルーム・ミッション管制センター)、カリフォルニア州モハベの推進・試験施設非公表(拠点は事実)
金:研究開発費・設備投資単体の金額は本稿の一次資料で確認できなかった。親会社は「Astrobotic のプログラム(月面と再使用ロケット)への投資を加速する意向」と述べている確認できず
金:資金調達会社単体の資金調達の詳細は確認できなかった。2026年7月以降は、親会社の傘下で資金を得る構造になった事実(詳細は確認できず)
外部への出資・買収・合弁・売却買収される側になった(親会社Voyagerが2026年7月10日に100%取得)。会社自身が行った買収・合弁・出資は、本稿の一次資料では確認できなかった。Astrolab(FLIPローバー)、Mission Control(Canada、CubeRoverの共同ミッション)、ESAは「ペイロード顧客・共同ミッションの相手」事実(出資は確認できず)
公的機関との契約・連携NASA CLPS(Peregrine Mission One、Griffin Mission One、2026年6月30日に発表された2件のPeregrine)。NASAの技術(NDL:航法ドップラーLiDAR、NASA Langley開発)の採用。NASAは2024年7月にVIPERを中止。会社は「NASA・国防総省の契約が累計US$600百万超」と説明。金額は、受注額・上限・支払い済みを区別できないため、個別の金額は書かない事実
大学・研究機関との連携ESA(LandCam-X搭載)、カナダの企業Mission Control Space Services(BEACON)。大学との連携の詳細は確認できなかった事実(大学は確認できず)

主要な機体・ミッション・製品の状況(確認日 2026年10月17日)

機体・ミッション種別主要な諸元(会社公称)実績段階・日付出典
Peregrine Mission One小型月着陸機運べる荷物は約120kg(会社サイト)。この飛行では21件のペイロード(会社の説明)2024年1月8日に米ULAのVulcanロケットの初飛行で打ち上げ。推進系の異常で月に着陸できず。10日14時間運用し、2024年1月18日に南太平洋上で制御された再突入実績(月着陸に至らず)出典1・5・10
Griffin Mission One(NASA呼称「Moon Base II」)中型月着陸機運べる荷物は約625kg(会社サイト)。着陸予定地はノビレ・クレーター(月の南極)。10件のペイロード(NASA、ESA、民間)2026年6月15日に公開。7月に環境試験のためカリフォルニア州のJPL(ジェット推進研究所)へ輸送試験中(打ち上げは2026年11月以降を目標。未確定/将来)出典3・6・10・12
Peregrine-2、Peregrine-3小型月着陸機(NASA契約)各ミッションにNASAのペイロード3件(放射線計測、噴射の影響の観察、レーザー反射器)。着陸予定地はグルイテュイゼン・ドーム付近―契約段階(2028年に打ち上げ予定。未確定/将来)出典5・6
CubeRover小型の月面ローバー標準サイズの小型車両(会社の説明)Griffin-1搭載のBEACONミッションで使う予定開発・試験(未確定/将来)出典3・12
LunaGrid月面の電力サービス垂直太陽電池アレイ(VSAT)で発電し、無線充電器や有線のCubeRoverで配電する構想。月の夜(最低約−220℃)を越える設計と会社が説明―構想・開発(未確定/将来)出典4・11
Xodiac地上試験用の再使用ロケット着陸機600回超の飛行実績(会社の説明)着陸システムの試験に使用運用(実績)出典13

6. これまでの取り組み

Peregrine Mission One(2024年1月)で起きたこと 会社の事後報告書(2024年8月)の記述にもとづく。時刻は米国東部時間 打ち上げ 1月8日 午前2:18 Vulcan初飛行 電源・通信は正常 推進系の異常 加圧の作業中に 弁PCV2を作動 酸化剤タンクが破損 月への着陸は不可に 運用の継続 10日14時間 荷物に電力と通信 データ取得を優先 終了の判断 1月13日 NASAと協議 デブリ防止のため 再突入 1月18日 午後4:04 南太平洋上空 制御して実施 飛行距離は約53.5万マイル(会社の報告書)
図解 Peregrine Mission Oneの経過。会社の事後報告書の記述を本稿が図にしたものです。原因の判断は会社が設けた調査委員会によるもので、当局の調査報告ではありません。
時期できごと意味
2007年会社設立(会社の説明)―
2019年7月推進系の燃料供給部分を、外部のベンダーに競争選定で委託(事後報告書)Peregrineの推進系の部品の一部を外注
2022年初めベンダーの技術・供給網の問題で、ベンダー契約を終了し、燃料供給系を社内で完成させる判断日程を守るための内製への切り替え
2022年4〜11月燃料供給系の組み立てで、ヘリウムの圧力を制御する弁(PCV)が試験で繰り返し不具合。8月に別の供給元の弁へ切り替え後の異常の背景として、事後報告書が時系列で説明
2024年1月8日Peregrine Mission Oneを打ち上げ。直後の加圧作業中に推進系が異常となり、月に着陸できず民間の月着陸機の飛行としては、月着陸に至らなかった
2024年1月18日制御された再突入(南太平洋上空)1月13日にNASAと協議のうえ、デブリを増やさないため終了を判断
2024年7月17日NASAがVIPER(月の氷を探すローバー)の開発中止を発表。理由は費用増・遅れ・今後の費用増のリスク。Griffin Mission Oneは、NASAとの契約の中で継続VIPERは当初Griffinで運ぶ予定だった。NASAは、Griffinの打ち上げも同じ時期へ遅れたと説明している
2024年8月事後報告書を公表。外部委員長のもとの調査委員会(専門家34人)が、原因を「ヘリウムの圧力制御弁PCV2の機械的な故障(封止の喪失)」と結論原因と再発防止策を会社が公開した
2026年4月NASA開発の航法ドップラーLiDAR(NDL)をGriffin-1に統合着陸時の速度・高度の測定を補強
2026年6月2日Voyager Technologiesによる買収の合意を発表非上場から、上場企業の子会社へ
2026年6月15日Griffin-1を公開(NASA職員らが訪問)最終の組み立ての段階
2026年6月30日NASAのMoon Baseの月ミッション2件(Peregrine-2、-3)を受注と会社が発表前回の失敗後の新しい受注
2026年7月10日Voyager Technologiesが買収を完了(SEC提出書類)以後は「Voyager Lunar Systems」としても事業
PCV(圧力制御弁)の話をやさしく

ロケットの燃料タンクは、ヘリウムという軽い気体で中から押して圧力を保ちます。 この「ヘリウムを流したり止めたりする弁」がPCVです。 報告書によると、PCV2がしっかり閉じる力(封止)を失ったため、ヘリウムが酸化剤のタンクに止まらず流れ込み、タンクが急に高い圧力になって破損しました 事実。 調査委員会は、弁の内部のねじ部がゆるみ、封止のためのOリングが傷ついたと、地上試験の再現で確認したと書いています。 また、1つの弁の故障でミッション全体が失われないよう、今後の着陸機では形式の異なる複数の弁を使う方針です。 調査では、燃料供給系を外注から内製に切り替えた時期の判断や、弁を交換すると完了した受入試験をやり直すことになる事情も、時系列で説明されています。

7. 今後の計画

Griffin Mission One2026年11月以降会社の2026年7月13日の発表(目標)。JPLで環境試験中
Peregrine-22028年NASAペイロード3件を運ぶ予定
Peregrine-32028年会社は「2028年末までに2機」と説明
条件付き対価の期限2028年3月31日親会社の買収条件。達成状況で支払いが変わる

会社は、Griffin-1の打ち上げ後は、ピッツバーグのミッション管制センターから、月への移動、着陸、着陸後の荷物の運用まで行うと書いています 事実。 これらの時期は会社の目標であり、試験の結果や打ち上げ機の都合などで変わりうるものです 未確定/将来。

確認できなかったこと

次はいずれも、本稿が読んだ一次資料に確定した記載がありません 未確定/将来。

Griffin-1の打ち上げ日(月日)と、2026年7月13日の発表より新しい会社発表/Peregrine-2・3の打ち上げ日/Griffin-1の最新の契約額と、2024年8月時点から変わった搭載機器の全一覧/ 会社単体の売上・従業員数・研究開発費/LunaGridの飛行予定。 報道や第三者のサイトの日付・金額は、一次資料で確認できないため採用しません。

8. この会社は宇宙産業で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
目標は、月への「単発の配送」から、月面で動かし続ける基盤(運ぶ・電力・移動)を持つ会社になること会社が、月着陸機・ローバー・月面電力(LunaGrid)・再使用ロケットを一体の事業として説明。親会社は「月面基盤(lunar platform)」と呼ぶ事実(会社の説明)
Voyager傘下で、資金面の制約が緩むことを期待している会社と親会社が「投資を加速する」「規模・資源・長期の関与を得る」と説明している推測
NASAの月面計画(Moon Base)の方針が、事業の最大の外部要因NASAの新しい発注(CS-8)が、2027年から最大30回の月着陸を目指すと会社が説明。VIPER中止が示すとおり、NASAの方針変更は契約に直結する事実
2回目のPeregrineの受注は、失敗の原因を特定して公表し、是正策を示したことと無関係ではない可能性NASAが選定理由を述べた一次資料は確認できない。会社は事後報告書で原因と是正策を公開している推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

2024年の事後報告書には、PCV2の故障に至るまでの判断が時系列で書かれています。 ベンダーの不調で燃料供給系を内製に切り替えたこと、弁の供給元を替えたこと、PCV2は機体の奥にあり、交換すると完了した受入試験をやり直すことになるため、 リスクを認識しつつ、そのまま飛行する判断をしたことです 事実。 会社は、同様の判断を繰り返さないために、品質管理の人員を増やし、供給元に自社の担当者を常駐させ、重要な部品を形式の異なる複数の弁で冗長化するとしています。 この公開の姿勢は、NASAなどの顧客に対して、次の契約を得るための信頼の土台になっていると読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。

9. 宇宙産業分野の提携マッピング

Astrobotic Technologyを中心とした提携関係 会社の発表・NASA・親会社のSEC提出書類に記載のある関係のみ。報道だけの関係は含まない Astrobotic 月面 NASA CLPS(Griffin・Peregrine) Astrolab FLIPローバーを搭載 SpaceX/ULA 打ち上げの調達 ESA LandCam-Xを搭載 Mission Control(カナダ) BEACON(CubeRover) 部品の供給元 弁など。名称は非公表 買収:Voyager Technologies(親会社) 契約・共同ミッション・搭載 供給・調達 買収(親会社が100%取得)
図2 Astrobotic Technologyを中心とした提携関係。出典:会社の公式発表(2026年4〜7月)、NASAの発表、Voyager TechnologiesのForm 10-Q・8-K。図に含めたのは公開資料に記載がある関係だけで、搭載するペイロードの顧客は一部の例です。部品の供給元は、事後報告書が名称を公開していないため、種類だけを示しています。契約の強さや金額の大小を示す図ではありません。

10. 提供している技術・製品・サービス

分類内容(会社の説明)区分
着陸機 Peregrine小型の月着陸機。荷物は約120kg、荷物の運用は月の1昼(192時間)。着陸の精度は約100m。会社サイトの基本価格は、月面まで1kgあたりUS$1.2百万、月周回軌道までUS$300千(いずれも会社公称で、契約ごとに異なる)事実(会社公称)
着陸機 Griffin中型の月着陸機。荷物は約625kg。会社は「Peregrineの5倍の積載能力で、小型自動車ほどのローバーも運べる」と説明。価格は月面まで1kgあたりUS$1.2百万、月周回軌道までUS$300千(会社サイト)事実(会社公称)。初飛行は未確定/将来
安全な着陸のセンサー地形相対航法(TRN:地形を見て自分の位置を知る)と、危険な地形を避ける検知(ハザード検知)に加え、NASAのLangley研究所が開発した航法ドップラーLiDAR(NDL)を統合。レーザーとドップラー効果で、機体が地表に対してどれだけの速さで動いているか、どの高さにいるかを測る事実
ローバー CubeRover民生品を使った小型の月面ローバー。「月面のためのキューブサット」と会社が説明事実(飛行は未確定/将来)
月面電力 LunaGrid月面で電力を「ワット単位」で売るサービスの構想。垂直太陽電池アレイ(VSAT)で発電し、無線充電器や有線のCubeRoverで配電する。月の夜(最低約−220℃)を越える設計。NASAの宇宙技術ミッション局と協力して開発中。会社サイトは「最速2026年」と記載するが、飛行予定は本稿の一次資料で確認できなかった未確定/将来
推進・試験カリフォルニア州モハベの推進・試験施設。Xodiac(地上試験用の再使用ロケット着陸機)で着陸システムを試験。「600回超の飛行実績」と会社が説明事実
MoonBox個人や団体が記念品などを月へ送れる小型カプセルのサービス事実(会社サイトの記載)
素材技術者の視点:小さな弁の「ねじのゆるみ」が機体を左右した

Peregrineの調査結果は、材料・部品の観点で多くを教えます 事実。 故障した弁は、機械的なねじ部の振動によるゆるみと、封止のためのOリング(ゴム状の密封部品)の傷が確認されました。 宇宙機は打ち上げのとき、強い振動と衝撃を受けます。 そのため、ねじの緩み止め、Oリングの材質と圧縮、振動後の漏れの試験が重要になります。 会社は、地上試験で、予備の弁に認定レベルの衝撃・振動と圧力の繰り返しを与えると、漏れの量が飛行時とほぼ同じになったと報告しています。 また、今後は弁を部品単体の段階で、同じ種類の封止の欠陥について試験し、異なる形式の弁を複数使うとしています。 これは「安いが振動に弱い」「高いが実績がある」といった選択を、機体の信頼性の設計に結びつける例です (材料の技術は、本シリーズの技術解説「宇宙環境と材料への影響」「宇宙用材料の評価の読み方」「ロケットエンジンと推進剤」を参照)。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
月着陸の未達成初号機のPeregrineは月に着陸できなかった。次のGriffin-1が、会社として初めての月着陸の試みになる事実
日程の遅れGriffin Mission Oneは、2024年8月の報告書では「2025年末までに打ち上げ」、2026年7月の会社発表では「2026年11月以降」。VIPERの中止もGriffinの遅れが背景の1つ事実
部品の供給と品質初号機の原因は、供給元が替わった弁の故障だった。会社は供給元への人員の常駐などで再発防止を図るとしている事実
NASAの方針への依存契約の中心はNASAのCLPS。NASAは2024年にVIPERを中止し、2026年にはMoon Baseの発注(CS-8)を進めている。方針の変更は契約に直結する事実
単体の財務が見えない非上場だったうえ、2026年7月以降は子会社になり、会社単体の売上・利益・従業員数が公表されない事実
買収後の統合親会社は、取得価額の配分がまだ完了していないと書いている。新しい経営陣のもとでの事業の進め方の変化は、現時点では確認できない推測(統合の難しさは一般論)
条件付き対価の存在買収の対価の一部は、2028年3月末までの目標の達成状況で決まる。達成が経営の優先事項に影響しうる推測
輸出管理・規制月への宇宙機は、輸出管理(ITAR・EAR)、FAA、FCCなどの対象。打ち上げ許可や周波数の手続きが日程に影響しうる(一般的な事項で、本社の資料に個別の記載は確認できなかった)推測

12. 用語集

ランダー
月などに軟着陸(そっと着地)する宇宙機。着陸機。
ペイロード
宇宙機が運ぶ荷物。実験装置や探査車など。
CLPS
Commercial Lunar Payload Services。NASAが民間の着陸機に月への荷物運搬を発注する制度。
Moon Base
NASAが2026年に打ち出した月面での恒常的な拠点づくりの計画。会社の発表では「Moon Base II」などの名称が使われる。
タスクオーダー
CLPSの枠組みの中で、個別のミッションごとに出される発注。
PCV
圧力制御弁(Pressure Control Valve)。ヘリウムを流して燃料タンクの圧力を調整する弁。
酸化剤
燃料を燃やすための酸素を含む液体。燃料とは別のタンクに入れる。
再突入
宇宙機が地球の大気に戻ってくること。
TRN
地形相対航法(Terrain Relative Navigation)。地形を見て、自分の位置を知る方法。
NDL
航法ドップラーLiDAR。レーザーとドップラー効果で、速度と高度を測るセンサー。
CubeRover
会社が開発する標準サイズの小型ローバー。
VSAT
垂直太陽電池アレイ(Vertical Solar Array Technology)。月の低い太陽光でも発電しやすいよう、縦に立てる太陽電池。
条件付き対価
買収の対価のうち、買収後の目標を達成したときだけ支払う部分。
10-Q/8-K
米国SECに提出する四半期報告書/臨時報告書。
月へ届ける荷物の搭載と、地上での準備に注目します。月面の別枠は利用場面の概念で、会社の到達実績ではありません。
図3 概念画像(ImageGen生成)。月へ届ける荷物の搭載と、地上での準備に注目します。月面の別枠は利用場面の概念で、会社の到達実績ではありません。実際の製品・施設・測定結果・設計寸法ではありません。実物と拡大模型を区別してください。線・矢印・色は説明用です。

13. 出典

  1. Astrobotic Technology PEREGRINE: MISSION 1 Post-Mission Report(2024年8月)。打ち上げ、推進系の異常、調査委員会の分析、時系列、今後の対策。 https://www.astrobotic.com/wp-content/uploads/2024/08/PM1_Post-Mission-Report_Website.pdf
  2. NASA NASA Ends VIPER Project, Continues Moon Exploration(2024年7月17日、RELEASE24-094)。VIPER中止の理由、Griffin Mission Oneの継続。 https://www.nasa.gov/news-release/nasa-ends-viper-project-continues-moon-exploration/
  3. Astrobotic Technology プレスリリース「Griffin-1 Lunar Lander Unveiled Ahead of Environmental Testing」(2026年6月15日)。Griffin-1の公開、搭載ペイロード、環境試験、打ち上げ予定。 https://www.astrobotic.com/griffin-1-lunar-lander-unveiled-ahead-of-environmental-testing/
  4. Astrobotic Technology プレスリリース「Astrobotic to Join Voyager Technologies, Accelerating America’s Moon Base」(2026年6月2日)。買収の合意、会社の説明(設立年、契約累計)。 https://www.astrobotic.com/astrobotic-to-join-voyager-technologies-accelerating-americas-moon-base/
  5. Astrobotic Technology プレスリリース「Astrobotic Awarded 2 NASA Contracts for CLPS Moon Base Missions」(2026年6月30日)。Peregrine-2・3の受注、搭載ペイロード、Peregrine-1の21件のペイロード。 https://www.astrobotic.com/astrobotic-awarded-2-nasa-contracts-for-clps-moon-base-missions/
  6. Astrobotic Technology/Voyager Technologies プレスリリース「Voyager awarded $298M NASA contract under completed Astrobotic acquisition」(2026年7月13日)。買収完了、「Voyager Lunar Systems」としての事業、Griffin Mission Oneの目標時期。 https://www.astrobotic.com/voyager-awarded-298m-nasa-contract-under-completed-astrobotic-acquisition/
  7. Voyager Technologies, Inc. Form 10-Q for the quarterly period ended June 30, 2026(米国SEC提出、2026年8月4日)。Astrobotic買収の条件・完了日・条件付き対価。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1788060/000162828026052292/voyg-20260630.htm
  8. Voyager Technologies, Inc. Form 8-K(2026年6月4日提出、Item 3.02)。合併契約と、株式による対価の仕組み。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1788060/000162828026040850/voyg-20260601.htm
  9. Astrobotic Technology ブログ「NDL Integrated with Griffin-1」(2026年4月30日)。航法ドップラーLiDARの統合と、安全な着陸のセンサー。 https://www.astrobotic.com/ndl-integrated-with-griffin-1/
  10. Astrobotic Technology 公式サイト「Landers」ページ。PeregrineとGriffinの積載能力・基本価格。 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/landers/
  11. Astrobotic Technology 公式サイト「Lunar Surface Power(LunaGrid)」ページ。 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/lunar-surface-power/
  12. Astrobotic Technology 公式サイト「Manifest: What’s On Board」ページ。Griffin-1の着陸予定地と搭載品。 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/manifest/
  13. Astrobotic Technology 公式サイト(ロゴの取得元、Xodiacなどの紹介)。 https://www.astrobotic.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
2007年設立、NASA・国防総省の契約累計US$600百万超(会社の説明)、本社と施設の所在地事実(会社の説明)出典4 https://www.astrobotic.com/astrobotic-to-join-voyager-technologies-accelerating-americas-moon-base/
Voyager Technologiesによる買収(合意2026年6月1日、完了7月10日)、取得額と条件付き対価、取得価額配分が未完了であること事実出典7 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1788060/000162828026052292/voyg-20260630.htm
買収合意と株式による対価の仕組み事実出典8 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1788060/000162828026040850/voyg-20260601.htm
「Voyager Lunar Systems」としての事業、Griffin Mission Oneの目標(2026年11月以降)、10件のペイロード、NASAのCS-8の説明事実(会社の説明)出典6 https://www.astrobotic.com/voyager-awarded-298m-nasa-contract-under-completed-astrobotic-acquisition/
Peregrine Mission Oneの打ち上げ、異常、運用日数、再突入、飛行距離、調査委員会の分析、時系列、是正策事実出典1 https://www.astrobotic.com/wp-content/uploads/2024/08/PM1_Post-Mission-Report_Website.pdf
Peregrine-1が21件のペイロードを運んだこと、Peregrine-2・3の受注と搭載ペイロード事実(会社の説明)出典5 https://www.astrobotic.com/astrobotic-awarded-2-nasa-contracts-for-clps-moon-base-missions/
NASAによるVIPER中止(2024年7月17日)と、Griffin Mission Oneの継続事実出典2 https://www.nasa.gov/news-release/nasa-ends-viper-project-continues-moon-exploration/
Griffin-1の公開、搭載ペイロード(BEACON、LandCam-X、FLIP)、環境試験事実出典3 https://www.astrobotic.com/griffin-1-lunar-lander-unveiled-ahead-of-environmental-testing/
Griffin-1の着陸予定地(ノビレ・クレーター)、搭載品の一覧事実出典12 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/manifest/
PeregrineとGriffinの積載能力と基本価格事実(会社公称)出典10 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/landers/
NDLの統合、TRN・ハザード検知事実出典9 https://www.astrobotic.com/ndl-integrated-with-griffin-1/
LunaGridの構想(VSAT、無線充電、月の夜を越える設計)未確定/将来出典11 https://www.astrobotic.com/lunar-delivery/lunar-surface-power/
Xodiacの飛行実績(600回超)事実(会社の説明)出典13 https://www.astrobotic.com/
図1の4類型の区分本稿の計算本稿による整理(企業名は本シリーズの例示)
Griffin-1の打ち上げ日(月日)、Peregrine-2・3の打ち上げ日、LunaGridの飛行予定、7月13日の発表より新しい会社発表未確定/将来見通し:本稿が読んだ一次資料に確定した記載なし。報道の日付は採用しない
会社単体の売上・従業員数・研究開発費・資金調達未確定/将来見通し:公式資料・提出書類に記載を確認できなかった。存在しない・少ないとも断定しない
Griffin-1の契約額、Peregrine-2・3の個別の契約額未確定/将来見通し:本稿が読んだ一次資料では受注額・上限・支払い済みを区別できないため、書かない
Voyager傘下での事業の狙い(月面基盤、資金面の制約の緩和)の読み推測本稿の解釈(根拠:出典4・出典6)
2回目のPeregrine受注と、失敗の原因の公開との関係の読み推測本稿の解釈(NASAの選定理由は確認できない)
買収後の統合、条件付き対価、輸出管理・規制のリスク推測本稿の解釈(一般論)

最終更新:2026年10月17日/Troy Technical
本稿の数値は、Astrobotic Technologyの公式資料、NASAの公式発表、Voyager Technologies, Inc.が米国SECに提出した書類に基づきます。調査会社の推計値・報道だけの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。取得額・評価額は、親会社の開示した買収条件の記載にとどめ、評価や投資判断には触れていません。