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村田製作所 企業解説

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COMPANY PROFILE / 機能性材料

村田製作所
― 「良い電子部品は良い材料から」。チタン酸バリウムの誘電体と、PZTの圧電セラミックスを自社でつくる

村田製作所は、スマートフォンやサーバーに大量に載る積層セラミックコンデンサ(MLCC)で知られる電子部品メーカーです。 1944年に、セラミックコンデンサの製造から始まりました。 本稿は、同社の全体ではなく、機能性セラミックス、つまり「誘電体(MLCC)」と「圧電セラミックス」に絞って扱います。 同社は技術の説明で、MLCCの誘電体にチタン酸バリウム(BaTiO3)、圧電材料にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を使うと明記しています。 2026年3月期のキャパシタ(MLCCを含む区分)の売上は9,364億円で、全社売上の51.1%です。 一方、圧電部品だけの売上は、どの開示にも載っていません。本稿は推計せず、確認できたことと、できなかったことを分けて書きます。

構成:村田製作所の2026年3月期 有価証券報告書(英訳版)、2026年3月期決算短信(2026年4月30日)、2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日)、同社の公式ニュースと技術・製品ページ、欧州連合の公式文書を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかる村田製作所と、機能性材料での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(全社は簡潔に)
  5. 機能性材料にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は機能性材料で何を目指しているか
  9. 機能性材料分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる村田製作所と、機能性材料での立ち位置

正式名称株式会社村田製作所英文名 Murata Manufacturing Co., Ltd.
本社京都府長岡京市東神足1丁目10番1号
上場東証プライム 69812026年3月期の連結従業員は74,302人
この分野での区分部品・デバイスメーカー
(従:素材・原料)
セラミック原料も自社でつくる
中心の材料BaTiO3誘電体(MLCC)
PZT圧電セラミックス
会社の技術説明に明記
キャパシタの売上9,364億円2026年3月期。全社売上の51.1%
圧電部品の売上非公表機能デバイス区分(1,071億円)に含まれうるが内訳なし
直近の動き2026年4〜6月に
キャパシタ売上が30.0%増
サーバー・データセンター向けが中心
まず押さえるべき1点

村田製作所の機能性セラミックスは、2つの顔を持っています 事実。 ひとつは、売上の半分を占める誘電体(MLCC)です。 これは同社の中核事業で、会社の中期方針も「キャパシタで世界シェア1位をめざす」と書いています。 もうひとつは、超音波センサー、マイクロブロア、アクチュエータなどに使う圧電セラミックスで、同社の技術ページでは「PZTを使う」と書かれていますが、事業としての規模は開示されていません。 本稿は、規模の大きいMLCCと、規模が見えない圧電を、同じ重みで扱いません。 圧電側は、EUの鉛の適用除外の期限(2027年)という、規制の時間軸があることも押さえます。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「株式会社村田製作所」で、英文では Murata Manufacturing Co., Ltd.、ブランド表記は Murata。 本稿では会社全体の事業(高周波モジュール、電池、通信モジュールなど)は扱いません。 ロゴは同社の公式サイトのベクター画像を取得して設置しています。

公式サイト:https://corporate.murata.com/en-global

3. 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか

機能性材料に関わる企業の4つの類型 同じ「材料の会社」でも、原料・部品・表面・新方式で、強みと売り先が違う 素材・原料 部品・デバイス コーティング・表面 新方式・新興 原料と材料をつくる 機能を部品に仕立てる 表面に機能を付ける 新しい材料や原理を事業化 MP Materials/信越化学 Croda/Aspen Aerogels 村田製作所/TDK 京セラ/Gentex PPG/AkzoNobel ほか Niron/Metalenz Lumotive/Phononic 資源と量産規模 設計・品質・顧客網 配合技術と施工網 独自技術と成長余地 資源価格と規制に左右 需要と認定に左右 用途ごとの認定が必要 量産と資金が不確実 村田製作所は「部品・デバイス」が主で、セラミック原料を自社でつくる面も持つ キャパシタ(MLCC)が売上の51%。圧電部品だけの売上は非公表
図1 機能性材料に関わる企業の4類型と、村田製作所の位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。村田製作所の場合、主たる類型は「部品・デバイス」(MLCC、超音波センサー、マイクロブロアなど)で、BaTiO3やPZTなどのセラミック原料を自社で管理する点で「素材・原料」にも一部またがります。

本稿では、村田製作所を部品・デバイスメーカー(主たる類型)に分類し、セラミック原料を自社でつくる点で素材・原料メーカー(従たる類型)にもまたがるとみます 本稿の計算。 有価証券報告書には、「原料の製造」を主な事業に含む事業所(滋賀県の Yokaichi Plant など)と、中国のFoshan Murata Materials(原料製造、出資比率90.0%)が載っています。 同社は、材料技術の方針を「良い電子機器は良い電子部品から、良い電子部品は良い材料から」と説明し、無機・金属・有機の材料技術を持つとしています。 本シリーズの技術解説「強誘電体と誘電材料」「圧電材料と無鉛化」で扱う物性や無鉛化の動きは、そちらに任せ、本稿は村田製作所の事業と製品に絞ります。

4. 会社の規模(全社は簡潔に)

会社全体の規模を、機能性セラミックスに関わる部分を中心に示します 事実。

指標(3月期、百万円)2025年3月期2026年3月期備考
売上収益(全社)1,743,3521,830,856前期比5.0%増
営業利益279,702281,835売上収益営業利益率は15.4%
キャパシタ(MLCCを含む)831,845936,418全社売上の51.1%。前期比12.6%増
インダクタ・EMIフィルタ201,273223,316フェライト系の部品が中心(本稿では詳述しない)
機能デバイス(センサー、タイミングデバイス)97,822107,074前期比9.5%増。圧電部品の内訳は非開示
研究開発費(全社)149,274158,870うち「コンポーネント」事業は57,083百万円
設備投資(全社)180,471247,778うち「コンポーネント」事業は187,749百万円
連結従業員(人)72,57274,302各期末
最新の四半期(4〜6月、百万円)2025年2026年前年同期比
売上収益(全社)416,154502,26420.7%増
キャパシタ217,330282,50830.0%増(サーバー・データセンター向けが主)
ここで注意

上の数字は全社または事業区分のもので、「キャパシタ」の中にはMLCC以外も含まれ、MLCC単独の売上は開示されていません。 決算短信は「キャパシタ区分にMLCCを含む」と書くのみです。 同様に、圧電部品の売上・利益・人員・研究開発費も、決算短信にも有価証券報告書にも出てきません 未確定/将来。 「機能デバイス」区分の説明には、センサーとタイミングデバイスに加えて「アクチュエータの売上が増えた」との記述があるものの、圧電セラミックスを使う製品の合計は読み取れません。 なお、会社は2027年3月期の通期予想(売上収益1兆9,600億円、営業利益3,800億円)を出していますが、これは会社の予想です 未確定/将来。

5. 機能性材料にかけているリソース

4点それぞれについて、公式資料で確認できたか/できなかったかを示します。

リソースの種類内容区分
人全社の連結従業員は74,302人(2026年3月期末)。研究開発拠点は、京都の本社・長岡事業所と、2020年開設の「みなとみらいイノベーションセンター」(横浜市)など。材料研究や圧電部門の人数は非公表事実/確認できず
金研究開発費は全社で1,589億円(「コンポーネント」事業で571億円)。設備投資は全社で2,478億円(「コンポーネント」事業で1,877億円)。2027年3月期の設備投資は2,500億円、研究開発費は1,670億円を計画(会社の予想)事実
外部への出資・買収・合弁・事業売却原料製造の中国子会社 Foshan Murata Materials(資本金68.9百万ドル、出資比率90.0%)。米国に企業内ベンチャーキャピタルWONDERSTONE Venturesを新設(2026年3月期)。戦略投資は、実行・承認済みの案件で283億円。PCM・圧電に限った買収・出資は確認できなかった事実/確認できず
大学・研究機関・公的資金との連携有価証券報告書は、外部との技術交流・共同開発によるオープンイノベーションと、共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata 2025-2026」を挙げる。個別の大学名、圧電・誘電材料に限った公的助成は、本稿が調べた資料では確認できなかった確認できず

主要な設備の状況は次のとおりです。

設備工場・設備規模段階日付出典
部品の生産設備(出雲村田製作所)島根県出雲市ほか投資予定額 580億円(能力の増加は非公表)新設・増強の計画(自己資金)2026年3月〜2027年3月出典1
部品の生産設備(福井村田製作所)福井県越前市ほか投資予定額 320億円計画(自己資金)2026年3月〜2027年3月出典1
原料・デバイス・モジュールの生産設備(野洲事業所)滋賀県野洲市投資予定額 150億円計画(自己資金)2026年3月〜2027年3月出典1
タイ・中国(無錫)・フィリピンの生産設備各海外子会社200億円・120億円・80億円計画2026年3月〜2027年3月出典1
セラミック原料などの生産設備提出会社(単体)の機械装置の増加(2026年3月期)として記載金額は非公表導入済み2026年3月期出典1
素材技術者の視点:原料の粉体からつくる「垂直統合」

有価証券報告書は、同社の製造会社の中に「原料の製造」を行う会社と事業所があること、また2026年3月期に「セラミック原料などの生産設備」への機械装置投資があったことを書いています 事実。 同社の技術ページは、BaTiO3の高純度粉末をサブミクロンまで微細化し、シート成形し、制御した炉で焼結する、という流れを説明しています。 MLCCでは、誘電体粉末の微細化・均一化、シート成形での表面の平滑化が、薄層化・多層化の限界を決めます。 つまり、粉体(原料)から自社で管理することが、部品の性能と信頼性に直結する、という設計です。 同時に、2027年3月期に野洲事業所へ投じる150億円は「原料・デバイス・モジュール」の生産設備とされており、原料の内製の拡大もうかがえますが、原料の生産能力の数値は非公表です 未確定/将来。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
1944年10月京都で創業し、セラミックコンデンサの製造を開始セラミック誘電体が事業の出発点
1962年Yokaichi Plant(滋賀県)を設置。福井村田製作所に出資国内生産網の拡大の始まり
1983年〜1987年出雲村田製作所(1983年)、金沢村田製作所(1984年)、野洲事業所(1987年)を設立現在も設備投資の対象となる拠点
1994年中国に無錫村田電子を設立海外の部品生産の拡大
2025年7月10日0402インチ(1.0×0.5mm)で47µFのMLCCの量産を開始(同社調べで世界初)。0603インチの同容量品に比べ実装面積は約60%減誘電体層と内部電極の微細化の成果
2026年4月8日車載用のMLCC7品番の量産を開始。1206インチで100µF(これまで1210インチ)、0402インチで1µF(25 Vdc)など。同社調べで、各定格電圧・サイズで世界最大の容量粒子の微細化と均一化の技術の成果と同社が説明
2026年3月期電子部品業界で初めて、銀のクローズドループ・リサイクルを開始(同社の説明)。米国にCVC「WONDERSTONE Ventures」を新設資源制約への対応と、外部のスタートアップとの連携
2026年4月30日2026年3月期の決算を発表。MLCCの売上が、サーバー向けを中心に増加AI・データセンター需要の取り込み

7. 今後の計画

2027年3月期の売上収益1兆9,600億円会社の予想(前期比7.1%増)
同期の営業利益3,800億円会社の予想(前期比34.8%増)
同期の設備投資2,500億円サーバー向けの増産が中心と記述
同期の研究開発費1,670億円会社の予想(前期比5.1%増)

会社の予想は、会社の目標であり、達成された事実ではありません 未確定/将来。 決算短信は、売上の増加要因としてサーバー向けのキャパシタと電源モジュールを、減少要因としてスマートフォン向けの多層樹脂基板などを挙げています。 同社の中期方針(Medium-Term Direction 2027)は、エッジデバイス、モビリティ、ITインフラを中核分野とし、キャパシタ、およびインダクタ・EMIフィルタで世界シェア1位をめざすと書いています。

確認できなかったこと

圧電セラミックスの売上目標/MLCCの生産能力の数値/原料の増産量/無鉛の圧電材料の製品化計画/PZTからの切り替えの時期は、公式資料に記載がありません 未確定/将来。

8. この会社は機能性材料で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
機能性セラミックスの事業の中心はMLCCで、圧電は別の位置づけキャパシタが売上の51.1%。圧電を使う製品は、売上1,071億円の「機能デバイス」区分(センサー、タイミングデバイス)の一部で、独立した区分や数字がない推測
MLCCの競争力を、材料(粉体・組織制御)に置いている2026年4月の発表で「独自のセラミック材料と、粒子の微細化・均一化技術」を成果の理由に挙げ、技術ページで、コアシェル構造やNi内部電極への対応を説明している事実
AI・サーバー向けの需要に、設備投資を集中している2027年3月期の設備投資2,500億円は「サーバー向けに需要が伸びる製品の増産が中心」と決算短信に記載事実
鉛を含むPZTを、当面は使い続ける前提で事業を組んでいる技術ページがPZTを使う圧電材料技術を説明し、無鉛への言及がない。EUの適用除外(2027年末まで)が根拠になりうる推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

最後の行は、会社の方針ではなく本稿の観察です。 同社の技術ページは、圧電材料の説明でPZTを例に挙げ、温度特性と圧電特性を用途に合わせて設計すると書き、鉛を使わない圧電材料や、その移行に触れていません 事実。 一方、EUのRoHS指令は、圧電セラミックス(PZT)に含まれる鉛を、2027年12月31日までの適用除外としています(第10章)。 ここから、「規制が変わるまでは、PZTを前提に製品を作る」と読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。 ただし、無鉛材料の研究を同社が行っていないと言っているわけではありません。公開資料では確認できなかった、というだけです。

9. 機能性材料分野の提携マッピング

村田製作所を中心とした関係 有価証券報告書に記載のある関係のみ。取引先・共同開発先の社名は開示がない 村田製作所 セラミック部品 Foshan Murata Materials 中国・原料の製造(出資比率90%) KUMIHIMO Tech Camp 共創プロジェクト(2025〜2026) 国内の製造子会社 福井・出雲・富山・金沢・岡山 ほか WONDERSTONE Ventures 米国のCVC(新設) 製造・供給(子会社) 共創・共同開発 出資(点線)
図2 村田製作所を中心とした関係。出典:2026年3月期 有価証券報告書。Foshan Murata Materialsは、同社が半製品や一部の材料を供給し、同社の製品を購入する関係です。国内の製造子会社は、半製品を完成品に加工して同社と販売会社に供給します。売上の10%を超える顧客はなく、個別の取引先・共同開発先の社名は開示されていないため、図に含めていません。大学・公的機関との連携も、本稿が調べた資料では確認できませんでした。

10. 提供している技術・製品・サービス

誘電体:MLCC

同社の技術ページによると、MLCCの誘電体はチタン酸バリウム(BaTiO3)で、容量と耐電圧を決める「決定的な材料」です。 高純度の粉末をサブミクロンまで微細化し、シートに成形して、制御した炉で焼結します 事実。 製造工程は、同社のFAQによれば「内部電極の印刷 → シートの積層 → 圧着 → 切断 → 焼結 → 外部電極の塗布・焼付け → めっき → 測定・梱包」の8工程です。

発表(メーカー公称)仕様日付・条件
47µF MLCC(GRM158R60E476ME01、GRM158C80E476ME01)0402インチ(1.0×0.5 mm)。定格2.5 Vdc、±20%。X5R(−55〜+85℃)とX6S(−55〜+105℃)の2品種。0603インチの同容量品に比べ実装面積は約60%減、同サイズの従来22µF品の約2.1倍の容量2025年7月10日発表。「同社調べ(2025年7月9日時点)で世界初の量産」
車載用MLCC 7品番(GCM系列)2.5〜4 Vdc定格で100µF(1206インチ)、0201インチで2.2µF、25 Vdc定格で0402インチ1µFなど。AEC-Q200の認定品。1206インチ100µFは、従来1210インチだった容量で、実装面積は約36%減2026年4月8日発表。「同社調べ(2026年4月7日時点)で、各定格電圧とサイズの組み合わせで世界最大の容量」

圧電セラミックス:超音波センサー・マイクロブロア・アクチュエータ

同社の製品ページによると、圧電セラミックスを使う主な製品は次のとおりです 事実。

製品(メーカー公称)用途・特徴条件・注記
空中用の超音波センサー超音波を空中に出し、物体の反射を受信する。侵入警報、自動ドア、車載の駐車支援での距離測定など。300 kHzの高周波型(二重送り検知用)、40 kHzの開放構造型、48 kHzの防滴型などがある同社は「長年にわたる独自の圧電セラミック技術」と説明
マイクロブロア(MZB3005T06)セラミックの超音波振動を駆動源とする、薄型の圧電ポンプ(エアポンプ)駆動共振周波数21.5〜24.5 kHz。流量は18 Vdcで155 mL/min以上、静圧は19.5 Vdcで50 kPa以上。測定は周囲温度18〜28℃、気圧950〜1020 hPa。ポンプの金属表面が60℃を超えると流量と圧力が大きく低下する。自動車用途(付属品を含む)には使えないと明記
圧電アクチュエータ電圧で変位する圧電セラミックスの性質を使い、位置制御や微細な駆動制御に用いる個別の仕様は本稿では取り上げない
素材技術者の視点:コアシェル構造と、Ni電極・Dyの役割

同社の技術ページは、MLCC用のBaTiO3の微構造として「強誘電体のコアを、非強誘電体のシェルが包むコアシェル構造」を挙げています 事実。 添加物はシェルに固溶し、シェルとコアの体積比が特性を大きく左右する、と書かれています。 例として、希土類のジスプロシウム(Dy)をシェルに固溶させると、容量の温度特性が平坦になり、部品の寿命が延びると説明しています。 ここで効く設計上のトレードオフは、温度による容量変化の小ささ(シェルを厚く)と、高い容量(強誘電性のコアを大きく)の兼ね合いで、焼成条件と添加量の最適化がその調整になります(技術ページの記述の範囲での整理)。

Ni内部電極:低コストなNi電極を使うには、還元雰囲気で焼いても誘電体が劣化しない「耐還元性」の設計が決定的だと、同社は書いています。 薄層化の過程で不均一や異常部が問題になり、粉末の微細化・均一化と、シート成形時の基材表面の平滑化で信頼性を確保した、という説明です。

希土類(Dy)は、資源制約と、中国の輸出管理(レアアース)の対象になりうる材料です。同社の有価証券報告書は、鉱物資源の逼迫と調達リスクを一般に挙げていますが、Dyの使用量や調達先、代替の状況は開示していません 未確定/将来。

PZT:同社の技術ページは、PZTなどの圧電材料の「圧電特性と温度特性を用途に合わせて設計する」と書き、超音波距離センサーと精密制御のマイクロアクチュエータに必須の機能だとしています。 鉛を含むため、次の規制の位置づけが重要です。

規制の位置づけ(確認できた範囲)

EUのRoHS指令(Directive 2011/65/EU)の附属書IIIは、鉛の適用除外を定めています。 2025年9月8日に採択された欧州委員会委任指令 (EU) 2025/2363(2025年11月21日にEU官報で公表)は、次のとおり定めています 事実。

(1) 7(c)-I「ガラスまたはセラミック(コンデンサの誘電体セラミックを除く。例:圧電デバイス)に鉛を含む電気・電子部品」:2027年6月30日に失効(全カテゴリー)。 (2) 新設の7(c)-VI:「圧電のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス」と「正の温度係数(PTC)を持つセラミックス」に含まれる鉛:2027年12月31日に失効。 (3) 7(c)-II「定格125 V AC/250 V DC以上のコンデンサの誘電体セラミック」の鉛:2027年12月31日に失効(鉛を含む誘電体の話で、チタン酸バリウム(BaTiO3)の化学式には鉛は含まれません)。

加盟国は2026年6月30日までに国内法を整え、2026年7月1日から適用するとされています(同指令第2条)。 これらは採択・公表済みの規定で、提案段階ではありません。 適用除外は、失効前に更新が申請される場合があり、失効が直ちに使用禁止を意味するかは、更新の可否によります。 村田製作所の個別の製品が、どの除外項目に依拠しているかは、公開資料で確認できませんでした。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
キャパシタへの依存有価証券報告書は、キャパシタが売上の51%を占め、依存度が高いことをリスクとして挙げる。10%超の顧客グループはない事実
需要の変動と販売価格の下落会社の予想は、増産による利益増の要因に対して、販売価格の下落と固定費の増加を減益要因として挙げる。AIサーバー向けの需要に投資を寄せるため、需要の変化の影響を受ける事実
原料と鉱物資源の調達鉱物資源の需給が逼迫し、長期に枯渇のリスクがある。調達の混乱や価格の急騰は生産停止や納期遅延を招きうる、と同社が記載。銀はクローズドループ・リサイクルを開始事実
鉛の適用除外の期限PZT圧電セラミックスの鉛の除外は2027年12月31日に失効(更新は未定)。圧電部品の事業規模は非公表で、影響は評価できない事実/確認できず
化学物質規制の強化同社は、製品に含まれる化学物質などの環境規制が強まり、対応費用が増えると見込み、対応が困難な場合は事業の一部撤退もありうるとリスクに書く事実
自動車用途の制限マイクロブロアは、自動車用途には使えないと製品ページに明記。圧電製品の用途は個別に確認が必要事実
競合との価格・容量競争同社自身が、キャパシタで世界シェア1位をめざすと書く一方、他社との比較は有価証券報告書に具体的な社名・数値がない。本稿も優劣を判断しない事実

12. 用語集

MLCC(積層セラミックコンデンサ)
誘電体セラミックの薄いシートと金属の内部電極を何層も重ね、焼き固めた小型のコンデンサ。
BaTiO3(チタン酸バリウム)
誘電率の高い強誘電体。MLCCの誘電体の主成分として使われる。
コアシェル構造
粒子の中心(コア)と外側(シェル)で性質が違う構造。MLCCの誘電体では、強誘電体のコアを非強誘電体のシェルが包む。
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)
代表的な圧電セラミックス。圧力を電気に、電気を変形・振動に変える。鉛を含む。
圧電
力を加えると電圧が生じ、電圧を加えると変形する性質。
RoHS指令
電気・電子機器の特定有害物質(鉛など)の使用を制限するEUの指令。用途ごとに期限付きの適用除外がある。
AEC-Q200
車載用の受動部品に求められる信頼性試験の規格。
有価証券報告書
日本の上場会社が、金融商品取引法にもとづき提出する年次報告書。
小さな電子部品と拡大断面を分けています
図3 概念画像(ImageGenで生成)。小さな電子部品と拡大断面を分けています。誘電体と圧電材料は違う役割を持つセラミックスです。 実際の企業の製品・工場・測定結果を示しません。

13. 出典

  1. 村田製作所 有価証券報告書(第90期、2025年4月1日〜2026年3月31日)の英訳版 Annual Securities Report(2026年7月10日に同社サイトで公開。原文は関東財務局に提出)。事業の内容、沿革、研究開発費、設備投資、主要設備と計画、リスク。 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0710/90_annualsecuritiesreport.ashx?la=en&cvid=20260709072633000000
  2. 村田製作所 Consolidated Financial Results for the Year Ended March 31, 2026 (Under IFRS)(決算短信、2026年4月30日)。売上収益、事業区分別の売上、見通し。 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0430/25q4-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260430013812000000
  3. 村田製作所 Consolidated Financial Results for the Three Months Ended June 30, 2026 (Under IFRS)(決算短信、2026年7月31日)。2026年4〜6月の売上。 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0731/26q1-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260731015630000000
  4. 村田製作所 Inorganic Materials Technology(公式の技術ページ。BaTiO3、コアシェル構造、Ni内部電極、PZT、フェライトの説明)。2026年10月10日に取得。 https://corporate.murata.com/en-global/technology/technology-platform/materials-technology/inorganic-materials
  5. 村田製作所 Materials Technology(公式の技術ページ。材料技術の方針)。2026年10月10日に取得。 https://corporate.murata.com/en-global/technology/technology-platform/materials-technology
  6. 村田製作所 Murata Begins World’s First Mass Production of 47µF Multilayer Ceramic Capacitor in 0402-inch Size(2025年7月10日)。 https://www.murata.com/news/capacitor/ceramiccapacitor/2025/0710
  7. 村田製作所 Murata begins mass production of seven automotive MLCCs with world-leading capacitance for their rated voltage and size(2026年4月8日)。 https://www.murata.com/en-us/news/capacitor/ceramiccapacitor/2026/0408
  8. 村田製作所 What is the production process of Multilayer Ceramic Capacitors?(公式FAQ)。2026年10月10日に取得。 https://www.murata.com/support/faqs/capacitor/ceramiccapacitor/conf/0002
  9. 村田製作所 Ultrasonic Sensors(公式製品ページ)。2026年10月10日に取得。 https://www.murata.com/en-us/products/sensor/ultrasonic
  10. 村田製作所 Micro Mechatronics(マイクロブロア、アクチュエータ)。2026年10月10日に取得。 https://www.murata.com/en-us/products/mechatronics
  11. 村田製作所 Microblower MZB3005T06(公式製品ページ。仕様と使用上の注意)。2026年10月10日に取得。 https://www.murata.com/en-us/products/mechatronics/fluid/overview/lineup/microblower_mzb3005t06
  12. 欧州委員会 Commission Delegated Directive (EU) 2025/2363 of 8 September 2025 amending Directive 2011/65/EU as regards an exemption for lead in glass or ceramic components(OJ L, 21.11.2025)。EU官報(Publications Office経由で本文を確認)。 http://data.europa.eu/eli/dir_del/2025/2363/oj
  13. 村田製作所 公式サイト(ロゴの取得、会社概要の確認)。 https://corporate.murata.com/en-global

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本社所在地、東証プライム上場、1944年の創業とセラミックコンデンサの製造開始、沿革事実出典1 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0710/90_annualsecuritiesreport.ashx?la=en&cvid=20260709072633000000
研究開発費(全社・事業別)、設備投資(全社・事業別)、従業員74,302人、原料製造の会社・事業所、Foshan Murata Materialsの出資比率、WONDERSTONE Ventures、KUMIHIMO Tech Camp事実出典1 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0710/90_annualsecuritiesreport.ashx?la=en&cvid=20260709072633000000
2027年3月期の設備の新設計画(出雲58,000百万円、福井32,000百万円、野洲15,000百万円、タイ・無錫・フィリピン)未確定/将来出典1の会社の計画 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0710/90_annualsecuritiesreport.ashx?la=en&cvid=20260709072633000000
キャパシタが売上の51%で依存度が高いこと、鉱物資源・化学物質規制に関するリスク、10%超の顧客がないこと事実出典1 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0710/90_annualsecuritiesreport.ashx?la=en&cvid=20260709072633000000
2026年3月期の売上収益・営業利益・事業区分別売上、機能デバイス区分の内容、キャパシタ区分にMLCCを含むこと事実出典2 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0430/25q4-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260430013812000000
2027年3月期の会社予想(売上収益1兆9,600億円、営業利益3,800億円、設備投資2,500億円、研究開発費1,670億円)と中期方針未確定/将来出典2の会社の予想 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0430/25q4-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260430013812000000
2026年4〜6月の売上収益502,264百万円、キャパシタ282,508百万円(30.0%増)事実出典3 https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0731/26q1-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260731015630000000
BaTiO3、コアシェル構造、Dyの固溶、Ni内部電極と耐還元性、PZT、粉体微細化の説明事実出典4 https://corporate.murata.com/en-global/technology/technology-platform/materials-technology/inorganic-materials
材料技術の方針(無機・金属・有機)事実出典5 https://corporate.murata.com/en-global/technology/technology-platform/materials-technology
47µF MLCCの量産開始(0402インチ、約60%、約2.1倍、X5R・X6S)事実出典6の同社調べ https://www.murata.com/news/capacitor/ceramiccapacitor/2025/0710
車載用MLCC7品番の量産開始(100µF・1206インチ、実装面積約36%減など)事実出典7の同社調べ https://www.murata.com/en-us/news/capacitor/ceramiccapacitor/2026/0408
MLCCの8つの製造工程事実出典8 https://www.murata.com/support/faqs/capacitor/ceramiccapacitor/conf/0002
超音波センサーの用途と型(300 kHz、40 kHz、48 kHz)事実出典9 https://www.murata.com/en-us/products/sensor/ultrasonic
マイクロブロア・アクチュエータの説明事実出典10 https://www.murata.com/en-us/products/mechatronics
MZB3005T06の仕様(21.5〜24.5 kHz、155 mL/min以上、50 kPa以上)と自動車用途の不可事実出典11のメーカー公称 https://www.murata.com/en-us/products/mechatronics/fluid/overview/lineup/microblower_mzb3005t06
RoHS附属書III 7(c)-I(2027年6月30日)、7(c)-VI(PZT・PTC、2027年12月31日)、7(c)-II(2027年12月31日)、加盟国は2026年7月1日から適用事実出典12 http://data.europa.eu/eli/dir_del/2025/2363/oj
圧電部品・MLCC単独の売上、材料・圧電部門の人数、Dyの使用量と調達先、無鉛化の計画、生産能力の数値、個別の大学・公的助成未確定/将来いずれも非公表または記載なし。本稿では推計もしない https://corporate.murata.com/-/media/corporate/about/newsroom/news/irnews/irnews/2026/0430/25q4-e-fls.ashx?la=en&cvid=20260430013812000000
誘電体と圧電の位置づけ、コアシェル構造の設計上のトレードオフの整理解説本稿による出典4の記述の整理
村田製作所を部品・デバイス(主)・素材・原料(従)に分類する区分本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
機能性セラミックスの中心はMLCCで、圧電は別の位置づけという読み推測事業区分別の売上の構成からの本稿の解釈
鉛を含むPZTを当面使い続ける前提という読み推測技術ページの記述と、RoHSの適用除外の期限からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値は、村田製作所の有価証券報告書・決算短信・公式の技術ページ・製品ページと、EU官報に載る公式文書に基づきます。製品の性能値は同社の説明(メーカー公称)で、測定条件が異なる値を並べて優劣を判断していません。「世界初」「世界最大」は同社調べの主張です。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。