COMPANY PROFILE / 機能性材料
アクゾノーベル
― 塗料の全社のうち、機能性は「船・防火・粉体・航空」に集約され、2026年はアクサルタとの合併の最中にある
AkzoNobelは建築用塗料(Dulux)で知られますが、本稿は機能性コーティングに絞ります。同社の2025年報告書は、高性能コーティング事業の製品を「防食・汚損防止・耐傷・受動防火などの機能をもつ」と説明しています。具体的に確認できたのは、船体の汚れの付着を抑える生物致死剤を含まない塗料、石油・ガス設備向けの受動防火コーティング、中国で投入した『サンスクリーン』(放射冷却)塗装システム、電気自動車の電池底板を守る粉体塗料などです。一方で、2026年8月に株主が承認したアクサルタとの合併が完了すれば、会社の枠組み自体が変わります。
- 30秒でわかるAkzoNobelと、機能性材料での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 機能性材料にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は機能性材料で何を目指しているか
- 機能性材料分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集
- 出典
- 主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるアクゾノーベルと、機能性材料での立ち位置
遮熱・耐久(粉体)年次報告書の説明による
全株式交換で合併株主承認済み(2026年8月5日)。完了は2026年末〜2027年初の見込み
€50百万米国ウォーキガン。年次報告書記載
AkzoNobelの報告書は、高性能コーティングを粉体塗料・船舶および保護用・自動車および特殊・工業用の4つの事業に分け、その製品が防食・汚損防止・耐傷・受動防火といった機能をもつと説明しています 事実。 機能性コーティングだけの売上は開示されていませんが、事業別の売上は開示されているため、PPGよりも「どの事業がどれだけか」を読み取りやすい会社です。 ただし2026年は、アクサルタとの合併の手続きが進行中で、合併後の事業構成は未確定です。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:社名は「Akzo Nobel N.V.」で、通称・ブランド表記はAkzoNobel(スペースなし)。 船舶・保護用塗料の製品は International(International Marine、International Protective Coatings)というブランドで販売されますが、いずれもAkzoNobelの製品です。 合併相手のAxalta Coating Systems Ltd.は別の会社で、本稿の主題ではありません。
公式サイト:https://www.akzonobel.com/en3. 機能性材料の世界で、この会社はどこにいるか
AkzoNobelの機能性は、塗膜そのものの性質(汚れの付着を抑える、火から守る、熱を逃がす、長持ちする)として現れます。 窓や部品のようにデバイスとして売るのではなく、塗料として売るのがPPGとの違いです。 本シリーズの技術解説『超撥水・防氷・防汚コーティング』『熱制御材料と放射冷却』が、これらの機能の仕組みを扱っています。
4. 会社の規模
全社の規模は簡潔に押さえます 事実。
| 指標(全社・€百万) | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 売上 | 10,711 | 10,158 |
| 営業利益 | 917 | 1,164 |
| 研究開発費(損益計算書) | 296 | 274 |
| 従業員数(FTE・年末) | 34,600 | 31,500 |
| 高性能コーティングの事業別売上(€百万) | 2024年 | 2025年 | 増減 | 機能の例(報告書) |
|---|---|---|---|---|
| 粉体塗料(Powder Coatings) | 1,365 | 1,280 | ▲6% | 耐久(超耐候)、電池の保護 |
| 船舶・保護用(Marine and Protective) | 1,575 | 1,570 | ±0% | 汚損防止、受動防火、防食 |
| 自動車・特殊(Automotive and Specialty) | 1,434 | 1,347 | ▲6% | 航空宇宙塗料を含む |
| 工業用(Industrial) | 2,036 | 1,871 | ▲8% | 耐熱・耐薬品・防食 |
| 合計 | 6,410 | 6,068 | ▲5% | ― |
上の事業別売上は機能性の製品だけの売上ではありません。たとえば「船舶・保護用」には機能をもたない塗料も含まれます。 汚損防止塗料(Intersleekなど)、受動防火(Chartekなど)の製品別売上は開示されていません 未確定/将来。 本稿はこれらを推計しません。
5. 機能性材料にかけているリソース
| リソースの種類 | 確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 研究開発の専門家は世界で約2,700人、研究所は約70か所、特許・特許出願は約2,300件(全社。機能性に限った人数は非公表) | 事実 |
| 金(研究開発) | 研究開発費は2025年に€274百万(損益計算書)。過去5年の累計は€1.33十億(報告書)。機能性に限った額は非公表 | 事実 |
| 金(設備投資) | 2025年の設備投資は全社で€309百万、2026年は約€350百万の見込み。個別の投資は下表 | 事実/未確定/将来(2026年) |
| 外部への出資・買収・合弁・売却 | 2025年にAkzo Nobel India Limitedの売却を完了。2025年11月にAxaltaと全株式交換の合併で合意(2026年8月5日に株主承認)。IPG Photonicsとのレーザー硬化の提携、ArkemaとBASFとの原料の連携、NIO・Signify・Calosolとの協業 | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | Calosol(熱吸収の外壁パネル)をオランダのEmergoとTNOと開発したと記載(TNOはオランダの応用科学研究機構。本稿の補足)。公的資金・助成金の受給は報告書で確認できなかった | 事実/確認できず |
主要な製品・設備の状況
| 製品/設備 | 場所・規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 航空宇宙塗料の最大の工場の改修 | 米国イリノイ州ウォーキガン。€50百万の2段階の事業。生産能力の増強・新設備・ウィスコンシン州側の新倉庫を含む | 実施中(報告書は「進行中」と記述)。完了時期・能力の数値は確認できなかった | 2025年報告書 | 出典1 |
| 受動防火(Chartek)の生産開始 | 英国フェリング(Felling)の船舶・保護用の工場。充填材の近代化とChartek生産の開始に€15百万超 | 実施中(開始時期は確認できなかった) | 2025年報告書 | 出典1 |
| 北米の粉体塗料工場の能力制約の解消 | 米国・メキシコ。約€20百万 | 実施中(詳細は確認できなかった) | 2025年報告書 | 出典1 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1792年 | 創業(公式プレスリリースの記述) | 200年超の塗料会社 |
| 2025年 | 中国でLevis Proブランドが「サンスクリーン」塗装システムを投入(放射冷却の上塗りと熱放射バリアの中塗り) | 建物の表面温度を下げる機能(会社の社内試験による主張) |
| 2025年 | Chartek ONE(受動防火)を欧州で投入。特許技術、低VOC | エネルギー設備向けの防火 |
| 2025年 | Calosol(熱吸収の外壁パネル)の塗料供給元にオランダで独占的に就任。IPG Photonicsと粉体塗料のレーザー硬化で提携 | 省エネ・省スペースの硬化方式(会社の説明) |
| 2025年 | NIOと電池底板用の粉体塗料を共同開発し、Altair Enlighten Award(サステナブル製品部門)を受賞 | 電池の保護の寿命を3倍とする会社の主張 |
| 2025年 | Akzo Nobel Indiaの売却を完了。年内に6拠点の閉鎖を開始 | ポートフォリオと製造拠点の絞り込み |
| 2025年11月 | Axaltaと全株式交換の合併で合意 | 合併後の企業価値は約US$250億(会社の説明) |
| 2026年8月5日 | 臨時株主総会が合併関連の決議をすべて承認(Axaltaも同日承認) | 完了は規制当局の承認などが条件 |
7. 今後の計画
船舶および保護用報告書が「差別化できる分野」と記述
報告書は、成長戦略が航空宇宙コーティング、粉体塗料、船舶および保護用塗料という「差別化された地位をもつ市場・分野」への投資を狙うと述べています 事実。 一方、2026年の見通しとして、「終末市場の意味のある回復は見込まない」としつつ、2026年内に合併の完了を目指すとしています 未確定/将来。
次は、報告書と公式発表で確認できませんでした 未確定/将来。
Intersleek・Chartekなど製品別の売上・出荷量/合併後の機能性コーティングの事業の組み替え(製品名、工場、研究拠点)/Chartek新設備の稼働開始日/機能性に限った研究開発費・人員。
8. この会社は機能性材料で何を目指しているか
機能性だけを主題にした戦略は書かれていないため、以下は公開された事実から読み取れる範囲の推測です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 機能性は、全社の成長戦略の3つの「差別化できる分野」に集約されている | 報告書が航空宇宙・粉体・船舶および保護用を成長分野と明記し、高性能コーティングの製品を「防食・汚損防止・耐傷・受動防火」の機能で説明している | 事実(分野)/推測(集約) |
| 機能の主張は省エネ・低炭素の価値とセットで語られる | 汚損防止は燃費・CO2の削減、サンスクリーン塗装は建物の省エネ、レーザー硬化は硬化の省エネと、いずれも環境価値で説明されている | 推測 |
| 合併の狙いは、機能性より規模と自動車・工業分野の補完にある | 合併の説明は費用の相乗効果US$600百万、収益の相乗効果、EBITDA率20%前後を挙げ、機能性の製品には触れていない | 推測 |
合併の説明で会社が挙げた効果は、US$600百万の費用の相乗効果、収益の相乗効果、約20%のEBITDA率、そして「革新の原動力」です 事実。 機能性のコーティング(防汚、防火、遮熱など)を個別に挙げる記述は、報告書の合併の説明には見当たりません。 そのため「機能性の事業を強くするための合併」と読むのは根拠が足りず、 合併後に機能性の製品がどう位置づけられるかは、現時点では分からないと整理するのが妥当です 未確定/将来。
9. 機能性材料分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
確認できた製品を、性能値の出所つきで整理します。いずれもメーカー公称で、本稿で検証していません。他社製品との優劣はつけません(PPGの防汚塗料との数値も、条件が異なるため並べて比べられません)。
| 製品 | 機能 | メーカー公称の内容と条件 | 出典 |
|---|---|---|---|
| Intersleek 1100SR | 船体の汚れの付着を抑える(生物致死剤を含まない汚損剥離型) | 従来の防汚塗料に比べ最大9%の燃料・CO2の削減、ドッキング周期あたりの速度低下1.2%。乾燥膜厚150〜200 µm、体積固形分72、VOC 240 g/L(EPA法)。製品ページはフッ素樹脂系の汚損剥離塗料と記述。過去20年でIntersleek技術を塗った船は6,400隻超と記述 | 出典4 |
| Chartek 1709 | エポキシ系の受動防火(耐火)+防食 | UL 1709(炭化水素火災の耐火規格)を前提にした製品で、プール火災は最長4時間、ジェット火災、容器の保護に使えるとする。ホウ素フリー。10年で数百万平方メートルに施工と記述 | 出典5 |
| Chartek ONE | 受動防火(エネルギー設備向け) | 2025年に欧州で投入。最新の特許技術、低VOC、施工の迅速化を主張。性能値は報告書になし | 出典1 |
| 「サンスクリーン」塗装システム(Levis Pro、中国) | 建物の遮熱(放射冷却の上塗り+熱放射バリアの中塗り) | 標準の中塗り・上塗りを使う場合に比べ、暑い夏の建物の表面温度を最大10%下げられると主張(社内試験による検証)。基準となる温度の定義・試験条件は報告書になし | 出典1 |
| Interpon A1000(NIO向け) | 電気自動車の電池底板を守る粉体塗料 | 既存の塗料に比べ、電池遮蔽用コーティングの寿命を3倍にするとする(NIOの電池寿命15年の目標への対応)。試験条件は報告書になし | 出典1 |
| Calosol(塗料の供給) | 熱吸収の外壁パネルの塗装 | 目に見えない部分の太陽光のエネルギーを捉える特殊コーティングを使い、雨天でも日中は集熱できると報告書が記述。性能値はなし | 出典1 |
AkzoNobelの機能性は、少なくとも表面の汚れ対策(Intersleek)と火災時に塗膜が耐える機能(Chartek)に分かれます 事実。 前者は、汚れ(生物)を「付けない・落ちやすくする」ために表面を滑らかにし、膜を薄く・平滑に保つことが要点です。 製品ページが膜厚(150〜200 µm)と体積固形分を載せているのは、膜が薄すぎれば防汚の寿命が短く、厚すぎれば塗装の費用が増える、というトレードオフが製品仕様に現れているためです(本稿の解説)。
後者のChartekは、UL 1709という規格(炭化水素火災での耐火性を測る規格)を前提にしています。 このような受動防火の塗膜は一般に、加熱で膨らんで断熱層(炭化層)をつくる仕組みで鋼材の温度上昇を遅らせると説明されます 未確定/将来(これは本稿の一般的な解説で、AkzoNobelの資料にある記述ではありません)。 同社の製品ページは「防食と防火を1つのシステムで」と書いており、下地の腐食と火災の両方を同じ膜で受け持つことが設計要件になっていることが分かります。
サンスクリーン塗装は、日射を反射する上塗りと、熱を伝えにくくする中塗りの2層で遮熱を狙います。「表面温度を最大10%下げる」という主張は、何を基準に10%なのか(℃か、温度差か)が報告書に書かれていないため、数字の大きさを他の遮熱塗料と比べることはできません。
Intersleekの「最大9%」は、従来の防汚塗料との比較で、船と運航条件によって変わる上限値です。 ChartekはUL 1709という規格の枠で使えるという説明であり、実際の火災での挙動を保証するものではありません。 いずれもメーカー公称であり、「安全」「完全に防ぐ」といった一般化はできません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 合併の実現と統合 | 完了は規制当局の承認などが条件で、時期は2026年末〜2027年初の見込み。製品名・工場・研究拠点がどう変わるか不明 | 未確定/将来 |
| 需要の弱さ | 2025年の工業用の有機的売上は3%減、粉体は1%減。会社は2026年に終末市場の意味のある回復を見込まないと述べる | 事実 |
| 機能性の売上が見えない | 製品別の売上・投資額が開示されず、外部から進捗を確かめにくい | 事実 |
| 性能値が自社の発表に依存 | Intersleek、サンスクリーン、Interpon A1000の数値は会社の主張。サンスクリーンは社内試験 | 事実 |
| 拠点の閉鎖・再編 | 2025年に6拠点の閉鎖を開始し、英国フェリングでは樹脂の生産を止める一方でChartekの生産を始める。移行期の供給・品質への影響は報告書に記載なし | 事実/推測(影響) |
12. 用語集
- 汚損剥離型塗料
- 船体などに付いた生物を、船の動きで剥がれやすくする塗料。殺生物剤で付着を防ぐ防汚塗料とは考え方が違う。
- 受動防火(PFP)
- 塗膜や被覆そのものの耐熱で、火災時に鋼材の温度上昇を遅らせる方式。スプリンクラーなどの能動的な消火とは別。
- UL 1709
- 炭化水素火災(石油・ガス設備の火災)を想定した耐火試験の規格。
- 放射冷却
- 物体が赤外線を宇宙に放出して熱を逃がす現象。塗装で屋根・外壁に応用する研究が進む。
- 粉体塗料
- 溶剤を使わず、粉を塗って加熱で溶かして膜にする塗料。耐久性に優れる。
- 有機的成長
- 為替・買収・売却の影響を除いた売上の増減(organic)。
- VOC
- 揮発性有機化合物。塗料の溶剤などが大気中に出るもの。
- FTE
- フルタイム換算の従業員数。

13. 出典
- AkzoNobel AkzoNobel Report 2025(2025年12月期の年次報告書。ESEF形式で欧州の公式提出サイトに掲載)。売上、研究開発費、従業員数、Performance Coatingsの事業別売上、設備投資、機能性コーティングの製品・提携、アクサルタとの合併。 https://filings.xbrl.org/724500XYIJUGXAA5QD70/2025-12-31/ESEF/NL/0/akzonobel-2025-12-31-1-en/reports/akzonobel-2025-12-31-1-en.xhtml
- AkzoNobel AkzoNobel shareholders vote in favor of intended merger with Axalta(公式プレスリリース、2026年8月5日の臨時株主総会)。 https://www.akzonobel.com/en/media/media-releases/akzonobel-shareholders-vote-in-favor-of-intended-merger-with-axalta
- AkzoNobel Merger information(公式サイト)。合併の完了時期の見込みと関連文書の一覧。 https://www.akzonobel.com/en/merger-information
- AkzoNobel(International Marine) Intersleek 1100SR(公式製品ページ)。生物致死剤を含まない汚損剥離型塗料の仕様と主張。 https://www.international-marine.com/en/products/intersleek-1100sr
- AkzoNobel(International Protective Coatings) Chartek 1709(公式製品ページ)。UL 1709を前提とした受動防火(エポキシ系)コーティング。 https://www.international-pc.com/products/chartek-1709
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値はAkzoNobelの2025年報告書と、AkzoNobel/Internationalの公式サイト・公式プレスリリースに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。製品の性能値はメーカー公称であり、本稿で検証したものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。