INSTITUTION PROFILE / 機能性材料
物質・材料研究機構(NIMS)
― 材料の研究・データ・設備を「社会に開く」日本の国立研究機関
NIMSは、日本で唯一、物質・材料科学の研究に特化した国立研究開発法人です(NIMS自身の説明)。 経済産業省やNEDOのように補助金を配る組織でも、規格を決める組織でもありません。 自分で材料を研究し、その成果・材料データ・試験設備を、企業や大学に開いている研究機関です。 機能性材料の記事に、磁石、蛍光体、データベースなどの話題で名前が出てくるのは、このためです。 本稿では、NIMSが機能性材料にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

- 30秒でわかるNIMS
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 機能性材料で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるNIMS
物質・材料研究機構英文 National Institute for Materials Science(略称 NIMS)
NIMSの影響力は、権限ではなく「中身」から生まれます。 NIMSは、研究成果、材料データ、試験設備、企業との共同研究という4つを外部に開いており 事実、 たとえば構造材料のクリープ・疲労・腐食のデータシートは、NIMS自身が「試験規格に従って取得し、産業界で40年以上活用されている」と説明しています。 ただし、データシートは規格そのものではなく、何を研究するか・誰に資金を配るかは、文部科学省や経済産業省・NEDOなど他の機関が決めます。 素材メーカーにとっては、共同研究の相手であり、評価・データの参照先になりうる機関です(この部分は本稿の解釈です)。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
機能性材料の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では素材を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 機能性材料で何をしているか
NIMSの機能性材料への関わり方は、大きく4つの系統に分かれます 事実。
| 系統 | 規模・時期 | 中身 | 主な担い手 |
|---|---|---|---|
| 研究(9つの研究拠点) | 職員1,637人(2026年4月) | エネルギー・環境材料(GREEN)、電子・光機能材料、磁性・スピントロニクス材料(CMSM)、構造材料(RCSM)、ナノアーキテクトニクス材料(MANA)、高分子・バイオ材料(RCMB)、マテリアル基盤研究、若手国際研究(ICYS)、技術開発・共用部門 | NIMSの研究者・エンジニア職員 |
| 材料データ基盤(DICE)と構造材料データシート | DICEはデータ中核拠点(MDPF)が提供 | DICEはMatNavi、AtomWork-Adv(NIMSは「世界最大の無機材料データベース」と説明)、MDRなどからなる材料研究のデジタルエコシステム。データシートはクリープ・疲労・腐食などを試験規格に従って取得した参照データ。2020年度分は6冊を2021年3月31日付で発行 | NIMS。文部科学省の「マテリアルDXプラットフォーム構想」の一部 |
| 共用設備 | 随時 | 先端の分析・材料創製装置をNIMS Open Facility(成果非公開)やマテリアル先端リサーチインフラ(ARIM。利用報告書は公開)で外部に提供。次世代蓄電池の研究設備をまとめた「NIMS蓄電池基盤プラットフォーム」もある | 国内外の大学・企業・公的機関の研究者 |
| 企業との連携 | 2006年以降、多数の連携センターとオープンプラットフォーム | 共同研究(共有特許を企業が非独占・無償で実施できる方針)、企業連携センター(1社と組織対組織で連携)、マテリアルズオープンプラットフォーム(MOP。同業の複数社が協調領域を共同で進める) | 企業。連携センターの例は第5章 |
NIMSのデータシートやデータベースは、設計や材料選択の基準データとして使われますが、規格や認証の代わりにはなりません。 JISやISOに基づく適合を示したい場合は、別途その規格での試験が必要です。 また、MatNaviは利用者登録(DICEアカウント、メールのドメイン登録、サービスの利用申請)が必要で、まとまった量のデータの取得は利用約款で禁止されています。 素材を供給する側から見ると、NIMSの共同研究に参加することは、自社の材料を第三者の設備とデータで評価する機会になりえます。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | NIMSが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 自ら研究する権限。研究成果・データ・設備を外部に提供し、企業と共同研究契約を結ぶ権限。NIMS法が定める4つの業務(基礎・基盤研究、成果の普及、施設・設備の共用、人材の養成) | 補助金・研究費を配る権限(文部科学省・経済産業省・NEDOなどの役割)。規格・認証・規制を定める権限。日本のマテリアル政策を決める権限 |
| 地域 | 日本(つくば)が拠点。研究者の約30%が外国籍。国際連携大学院と、MANA・ICYSという国際的な研究センターを持つ | 他国の政策や規制に直接影響する権限 |
| 波及 | データベースやデータシートを通じて、日本の産業界で広く参照される(推測)。国際的な参照度は本稿では確認していない | 海外企業に利用を義務づける権限 |
| 規模 | 1,637人(定年制578人)。収入369億円(令和7年度決算) | 機能性材料だけに使われる予算の総額は、本稿が確認した公式資料に載っていない |
1,637人には、任期制職員、大学院生、その他の職員が1,053人含まれ、定年制職員は578人です 事実。 収入369億円のうち、国の運営費交付金は169億円で、約46%にあたります 本稿の計算。 残りは受託事業収入115億円などで、企業や他の機関からの受託が収入の約3割を占めます(115÷369) 本稿の計算。 NIMSの法人概要ページは令和6年度決算として約374億円を示しており、決算年度によって数字が異なります。 なお、NIMSは「材料科学分野の高被引用論文数が国内1位」と、第三者(クラリベイト)の分析を引いて説明していますが、これはNIMS自身の紹介であり、本稿で独自に検証したものではありません。
5. 関わっている企業・組織
| 連携の名前(NIMSの表記) | 設立・終了(NIMSの連携ページ) | 本シリーズの企業解説との関係 |
|---|---|---|
| NIMS-日立金属 次世代材料開発センター | 2016年7月設立、2021年3月に終了 | プロテリアル:日立金属は2023年にプロテリアルへ社名変更(プロテリアルの沿革ページ)。連携センターは終了済み |
| 磁石MOP | 2022年4月設立、2025年3月に終了 | 参加企業名はNIMSの連携ページに載っていないため、本稿では挙げない |
| 全固体電池MOP | 2020年5月設立(終了の記載なし) | 本シリーズの全固体電池の記事と関連。参加企業名は同上 |
| 蛍光体MOP | 2023年4月設立(終了の記載なし) | 参加企業名は同上 |
※NIMSの連携ページには、ほかにも多くの企業の連携センターが載っています(トヨタ、ソフトバンク、ロレアル、デンカ、三菱マテリアル、大成建設など)。本稿は、本シリーズで扱う企業と関係が確認できたものだけを挙げています 事実。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| NIMSの企業連携は、特定の1社と組むセンターから、複数社のオープンプラットフォームやデータ基盤へ広がっている | 連携ページの一覧では、2016〜2025年に多くの企業連携センターが終了し、2017年以降はMOPが設立されている。DICEはマテリアルDXプラットフォーム構想のもとで整備されている | 推測 |
| 磁石MOPの後継の枠組みがあるかどうかは不明 | 磁石MOPは2025年3月に終了。後継の記載は連携ページにない | 未確定/将来 |
| DICEなどのデータ基盤の運営・拡充は、国の事業の継続に左右される | DICEは文部科学省のマテリアルDXプラットフォーム構想のもとでMDPFが提供する。NIMSの収入の約46%は国の運営費交付金 | 推測 |
7. 用語集
- 特定国立研究開発法人
- 国家戦略に基づき、国際競争のなかで世界トップレベルの成果が期待される国立研究開発法人。NIMSの説明では日本に3法人のみ。
- 中長期目標
- 国立研究開発法人が達成すべき目標。主務官庁(NIMSでは文部科学省)が定め、法人が中長期計画を作って進める。
- DICE
- NIMSのデータ中核拠点(MDPF)が提供する、材料研究のためのデジタルエコシステム。MatNaviなどを含む。
- MOP
- マテリアルズオープンプラットフォーム。NIMSを中核に、同業の複数社が協調できる領域を共同で進める仕組み。
- ARIM
- マテリアル先端リサーチインフラ。文部科学省の事業で、先端設備の共用と技術支援を行う。
- 企業連携センター
- 企業と覚書を結び、中長期のロードマップを共有して1社と組織対組織で連携する仕組み。
8. 出典
- 物質・材料研究機構(NIMS) 法人概要(ミッション、設立の経緯、役員、研究拠点、令和6年度決算の予算額)。 https://www.nims.go.jp/nims/profile.html
- NIMS Summary of NIMS(英語版の法人概要。研究拠点の英語名称、特定国立研究開発法人への移行)。 https://www.nims.go.jp/eng/nims/profile.html
- NIMS 組織に関する情報(中長期目標、2026年4月1日現在の職員数1,637人とその内訳)。 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/organization.html
- NIMS 財務に関する情報(令和7年度決算の収入369億円と内訳)。 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/finance.html
- NIMS NIMSはこんな研究所!(国内で唯一の物質・材料科学特化の法人という説明、特定国立研究開発法人、研究者の約30%が外国籍、連携大学院、DICE、ARIM、企業連携センター、MOP)。 https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html
- NIMS 共同研究(知的財産ポリシー、企業連携センター、オープンプラットフォーム、各連携の設立・終了の一覧)。 https://www.nims.go.jp/business/collaboration/index.html
- NIMS 利用する(NIMS Open Facility、ARIM、DICE、NIMS蓄電池基盤プラットフォーム)。 https://www.nims.go.jp/infrastructure/index.html
- NIMS DICEとは(データ中核拠点MDPF、マテリアルDXプラットフォーム構想)。 https://dice.nims.go.jp/about.html
- NIMS DICE トップページ(MatNavi、AtomWork-Adv「世界最大の無機材料データベース」)。 https://dice.nims.go.jp/
- NIMS プレスリリース「NIMS構造材料データシートの発行について」(2021年4月1日。試験規格に従ったデータ、産業界で40年以上の活用)。 https://www.nims.go.jp/press/2021/04/202104010.html
- Proterial, Ltd. Corporate History(日立金属がプロテリアルに社名変更した2023年の記載)。 https://www.proterial.com/e/corp/history.html
- NIMS NIMS物質・材料データベース(MatNavi)(十数種類のデータベース、利用者登録の手順)。 https://mits.nims.go.jp/
- NIMS クリープデータシート(CDS)(構造材料データシートの説明、大量ダウンロードの禁止)。 https://cds.nims.go.jp/
9. 主張と出典の対応表
| 本文の主張 | 区分 | 出典 |
|---|---|---|
| 正式名称、設立の経緯、研究拠点、ミッション、令和6年度決算の予算額約374億円 | 事実 | 出典1 https://www.nims.go.jp/nims/profile.html |
| 研究拠点の英語名称、2016年10月の特定国立研究開発法人への移行 | 事実 | 出典2 https://www.nims.go.jp/eng/nims/profile.html |
| 職員数1,637人(定年制578人、外国人290人)、中長期目標は文部科学省が定めること | 事実 | 出典3 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/organization.html |
| 令和7年度決算の収入369億円(運営費交付金169億円、受託事業収入115億円) | 事実 | 出典4 https://www.nims.go.jp/nims/disclosure/finance.html |
| 運営費交付金が収入の約46%、受託事業収入が約31% | 本稿の計算 | 出典4の値から本稿が計算(169÷369、115÷369) |
| 国内で唯一の特化法人という自己説明、特定国立研究開発法人が3法人、研究者の約30%が外国籍、連携大学院、被引用論文の順位の引用 | 事実 | 出典5 https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html |
| 共同研究の知的財産ポリシー、企業連携センターとMOPの定義、各連携の設立・終了時期 | 事実 | 出典6 https://www.nims.go.jp/business/collaboration/index.html |
| NIMS Open Facility、ARIM、NIMS蓄電池基盤プラットフォーム | 事実 | 出典7 https://www.nims.go.jp/infrastructure/index.html |
| DICEとデータ中核拠点(MDPF)、マテリアルDXプラットフォーム構想 | 事実 | 出典8 https://dice.nims.go.jp/about.html |
| MatNavi、AtomWork-Adv(NIMSによる「世界最大の無機材料データベース」の説明) | 事実 | 出典9 https://dice.nims.go.jp/ |
| 構造材料データシートの内容、2020年度分6冊、試験規格に従う、40年以上の活用 | 事実 | 出典10 https://www.nims.go.jp/press/2021/04/202104010.html |
| 日立金属が2023年にプロテリアルへ社名変更したこと | 事実 | 出典11 https://www.proterial.com/e/corp/history.html |
| 機関の4つの型の区分、図2の連携例の抜粋、「継続」とみなした読み取り | 本稿の計算 | 本稿による整理 |
| MatNaviの利用にDICEアカウントの登録・ドメイン登録・利用申請が必要なこと、大量データ取得の禁止、MatNaviが十数種類のデータベースからなること | 事実 | 出典12 https://mits.nims.go.jp/ |
| クリープデータシートがNIMS構造材料データシートの一部であること、試験規格に従って取得されたデータであること | 事実 | 出典13 https://cds.nims.go.jp/ |
| 機能性材料だけに使われる予算の総額、NIMSの標準物質の頒布の有無、磁石MOPの参加企業・後継の枠組み | 未確定/将来 | 出典1〜10に記載なし。本稿では確認できなかった |
| 第1章・第4章・第6章の解釈(共同研究の相手になりうる、国内での広い参照、連携の重心の移動、データ基盤が国の事業に左右される) | 推測 | 出典4・6・8・10の記載からの本稿の解釈 |
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値はNIMSの公式サイト・プレスリリースに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。