COMPANY PROFILE / 次世代蓄電
パナソニック エナジー
― 車載用円筒形セルのネバダ・カンザス工場を持ち、データセンター向け蓄電システムを成長の柱に据えた電池会社
パナソニック エナジーは、パナソニック ホールディングスの電池事業を担う100%子会社で、車載用の円筒形リチウムイオン電池(4680・2170)と、データセンター向けの蓄電モジュール・システムなどをつくります。2025年度(2026年3月期)の売上は9,842億円(前年度比+13%)で、産業・民生が5,442億円(+39%)、車載が4,341億円(-10%)。車載は米国の関税・カンザス工場の立ち上げ費用などで調整後営業利益が赤字(-119億円)でしたが、データセンター向けが大きく伸びました。米国のIRA補助金が売上原価から2,134億円減らされており、収益はこの制度にも左右されます。シリコン負極については、シラ・ナノテクノロジーズとネクシオンから材料を調達する契約を公表していますが、採用の実績は確認できませんでした。本稿は、パナソニック エナジー(パナソニック ホールディングス全体は扱いません)の円筒形セル・シリコン負極・蓄電に絞り、何を作り、どこに投資し、誰と組み、どこまでが実績でどこからが計画かを、有価証券報告書・統合レポート・公式リリース・米国の法律の範囲で整理します。全固体電池は本シリーズの別分野で扱うため、ここでは取り上げません。投資の助言ではありません。
- 30秒でわかるパナソニック エナジーと、次世代蓄電での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(電池事業に関わる範囲)
- 次世代蓄電にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
- 次世代蓄電分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるパナソニック エナジーと、次世代蓄電での立ち位置
蓄電システム(従)車載用の円筒形リチウムイオン電池が中心。データセンター向けの蓄電モジュール・システムも手がける
パナソニック エナジーは、車載(EV)と産業・民生の「両輪経営」を掲げています 事実。2025年度は、この2つの明暗が分かれました。車載は、米国のEV市況の悪化・関税・カンザス工場の立ち上げ遅延とコスト増・過去の製造不具合の費用で、調整後営業利益が-119億円。一方、産業・民生は、生成AIによるデータセンター需要で調整後営業利益837億円(+269億円)と、利益の大半を稼ぎました 事実。会社は車載ラインの一部をデータセンター向けに転用しており、「円筒形セルのEV電池会社」から「データセンター向け電源の会社」へ、収益の重心が動いていると本稿は読みます 推測。次世代蓄電の視点では、円筒形セルの技術(シリコン負極、4680)とデータセンター向けの蓄電の両方を見る必要があります。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:正式名称はパナソニック エナジー株式会社(Panasonic Energy Co., Ltd.)で、題名の日本語表記は「パナソニック エナジー」です。親会社のパナソニック ホールディングスは別の法人で、本稿は扱いません。Prime Planet Energy & Solutions(トヨタとの角形電池の合弁。パナソニック ホールディングスが49%を持つ持分法適用会社)、パナソニック エナジー北米(Panasonic Energy of North America)(ネバダ・カンザス工場を運営)は別の会社名です。ロゴ画像は公式サイトが公開するSVGのパスをそのまま写して作成し、元の表示と見比べて確認しました。
公式サイト:https://www.panasonic.com/jp/energy/3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
主たる類型はセル・材料メーカーです。会社の資料から、事業と製品を整理します 事実。
| 事業 | 主な製品・用途 | 会社の資料で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|---|
| モビリティエナジー | 車載用円筒形リチウムイオン電池(4680・2170・1865) | 車載用電池の先駆者として円筒形の高容量化をリードしてきたと説明。2170はネバダ・カンザスで生産、4680は和歌山工場が量産準備を完了し、出荷時期を顧客と調整中。2025年度の車載売上は4,341億円 | 事実(会社の説明) |
| エナジーソリューション | 産業・民生用リチウムイオン電池、データセンター向けの蓄電モジュール・システム(BBU)、電動アシスト自転車用など | サーバーラックごとに置く分散型電源向けの蓄電システムが中心。電池セルの開発からモジュール設計・品質管理・制御・保守までを自社で手がけると説明。2028年度のデータセンター向け売上の目標は9,500億円 | 事実(会社の説明)/未確定/将来 |
| エナジーデバイス | 乾電池、リチウム一次・二次電池、ニッケル水素電池 | 国内の乾電池のシェア首位の維持と海外拡大を掲げる。本稿の「次世代蓄電」の主題ではないため詳細は扱わない | 事実 |
| 新事業の種まき | 次世代モビリティ、ロボティクスなど | 統合レポートは、10年スパンの成長の種まきとして挙げるにとどまり、数量・時期の記載はなし。全固体電池も挙がるが、別分野のため本稿では扱わない | 未確定/将来 |
出典:出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典4 https://www.panasonic.com/jp/energy/company/profile.html 出典5 https://www.panasonic.com/jp/energy/company/business-details.html
4. 会社の規模(電池事業に関わる範囲)
パナソニック エナジーはパナソニック ホールディングスの報告セグメント「エナジー」にあたり、ホールディングス全体の連結売上は8兆487億円(2025年度)です。ここではエナジー(電池事業)の数値を中心に示します 事実。金額は円のままです。
| 指標(億円) | 2024年度 | 2025年度 | 2026年度の見通し | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 8,732 | 9,842 | 13,720 | 見通しは2026年5月の期初公表値(前年度比+39%、会社の見通し) |
| 産業・民生 | 3,922 | 5,442 | 8,230 | データセンター向けが増加 |
| 車載 | 4,812 | 4,341 | 5,440 | 2025年度は前年度比-10% |
| 調整後営業利益(IRA補助金込み) | 1,227 | 721 | 1,730 | 2025年度は前年度比-506。会社の指標で、IFRSの営業利益とは別 |
| 産業・民生 | 568 | 837 | 1,320 | |
| 車載 | 651 | -119 | 410 | 2025年度は赤字 |
| 営業利益(IFRS) | 1,202 | 698 | - | 営業利益率7.1%(2025年度) |
| EBITDA | 1,899 | 1,331 | - | EBITDA率13.5%(2025年度)。非監査の数値 |
| 設備投資(有形、発生ベース) | 5,011 | 4,316 | 2,380 | 2026年度は有価証券報告書の計画額 |
| 研究開発費 | 395 | 486 | - | 2026年9月に新しい研究開発拠点が稼働 |
| 営業キャッシュフロー/フリーキャッシュフロー | 2,130 / -2,676 | 489 / -3,605 | - | 2025年度のROICは6.2%(前年度11.9%) |
出典:出典1 https://holdings.panasonic/content/dam/holdings/jp/ja/corporate/investors/pdf/securities-report/Report2025.pdf 出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典3 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S5_data.pdf
IRA補助金の影響:有価証券報告書は、米国インフレ抑制法に基づく補助金を売上原価から減額して処理しており、その額は2024年度2,062億円・2025年度2,134億円です。2025年度末は、補助金に係る未収分が流動資産に2,198億円、非流動資産に2,263億円あります。会社は「顧客と有効活用を見込む部分」を負債に計上しており、パナソニック エナジー自身の取り分は開示されていません。補助金込みでも車載の調整後営業利益は-119億円でした 事実。補助金の額が営業利益(698億円)を大きく上回ることから、収益は制度に強く依存すると読めますが、補助金を除いた損益は本稿では算定しません 推測。調整後営業利益は会社の独自の指標で、IFRSの営業利益(698億円)とは異なります。また、統合レポートは市場規模の推計に調査会社(富士経済、Gartner、Synergy Research)の数値を使っており、本稿は採用しません。
5. 次世代蓄電にかけているリソース
| リソース | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員は約22,200人(2026年4月、連結)。パナソニック エナジー北米(ネバダ・カンザス)の従業員は5,588人(2026年3月末、有価証券報告書)。研究開発人員の数は非公表。新しい研究開発拠点「エナジーイノベーションスクエア」(門真市)に約500人、住之江の開発拠点と合わせて約800人(2026年9月) | 事実/一部非公表 |
| 金 | 研究開発費486億円、設備投資4,316億円(2025年度)。2026年度の設備投資計画は2,380億円(前年度比-45%)。資金調達はパナソニック ホールディングスを通じて行うと説明。カンザス工場の帳簿価額は9,712億円(2026年3月末)。IRA補助金の権利を第三者に売却し1,826億円を受領(2024年度) | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | 出資:カナダのNouveau Monde Graphite(NMG)に25百万米ドルを出資(2024年2月。共同出資者と最大150百万米ドル相当の後続出資を予定)。合弁・持分法適用会社:Prime Planet Energy & Solutions(トヨタ51%・パナソニック ホールディングス49%、車載用角形電池。当社の特許を使用)。提携:マツダ、SUBARUとの戦略的パートナーシップ(協議継続中)。買収・事業売却は本稿の確認範囲で確認できなかった | 事実/確認できなかった |
| 大学・研究機関・公的資金 | 大学:米国カンザス大学と技術開発・人材育成の合意書(2024年7月)、米国ブラウン大学とリチウムイオン電池の材料診断解析の共同研究(2025年10月)。公的資金:米国IRAの税額控除(売上原価の減額は2025年度2,134億円)、カンザス州のAPEX補助金(未収分は合計1,010億円、操業を一定期間続けない場合は返還が必要)、日本の経済産業省「蓄電池に係る安定供給確保計画」(支援額は本稿の確認範囲で記載なし) | 事実 |
出典:出典1 https://holdings.panasonic/content/dam/holdings/jp/ja/corporate/investors/pdf/securities-report/Report2025.pdf 出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典3 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S5_data.pdf 出典12 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240215-2 出典15 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240710-3 出典16 https://news.panasonic.com/jp/press/jn220714-2 出典19 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-117publ169/html/PLAW-117publ169.htm
主要な製品・設備の状況
| 製品/設備 | 場所・内容 | 規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| ネバダ工場(スパークス) | 車載用円筒形セル(2170) | 年産約41GWh。2030年度に44GWhへ拡大する見込み | 稼働(2017年)。拡大は計画 未確定/将来 | 2017年〜2030年度 | 2・4・6 |
| カンザス工場(デソト) | 車載用円筒形セル(2170)。省人化ラインでネバダ比の生産性を約20%向上と説明 | 将来的に年産約32GWh、従業員は最大約4,000人(見込み)。2022年の計画は初期30GWh程度・2024年度中の生産開始 | 量産開始(2025年7月に1ライン目)、以降ラインを順次立ち上げ中。立ち上げは当初計画より遅れ、費用が増えたと会社が説明 | 2022年10月〜2026年9月 | 2・6・7 |
| 和歌山工場 | 4680セルのマザー工場 | 従業員約400人(2024年度の予定) | 2024年9月に量産準備を完了。完成品の出荷時期は顧客と調整中で、極板工程が稼働(2026年9月時点) | 2024年9月〜2026年9月 | 2・8 |
| 国内のセル生産(データセンター向けへ転用) | 大阪工場の車載ラインをデータセンター向けに転用 | 2028年度のセル生産能力を2025年度比で約3倍 | 2026年4月に出荷開始。2028年度の3倍は計画 未確定/将来 | 2026年4月 | 2・18 |
| 蓄電モジュール(BBU) | メキシコの第2工場・第3工場、国内の増強 | 個別の能力は記載なし | 第2工場は2026年度中、第3工場は2027年度に量産開始の予定(決定済み) | 2026年9月 | 2 |
| カンザス工場のデータセンター向けセル | 車載ラインの一部の転用 | 記載なし | 2028年度から量産開始の予定 未確定/将来 | 2026年9月 | 2 |
| 群馬県大泉町の新工場 | マツダ・SUBARU向けの供給計画の一部 | 記載なし | 立ち上げ時期は検討中、両社との協議は継続中 | 2026年9月 | 2 |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1918年・1931年 | 松下電気器具製作所を創業。1931年に乾電池の自社生産を開始 | 電池事業の約100年の歴史 |
| 2017年1月 | 米国ネバダ工場が稼働開始 | 北米での車載用円筒形セルの量産 |
| 2022年4月 | パナソニック エナジー株式会社を設立(商号変更) | 電池事業の事業会社化 |
| 2022年7月・10月 | カンザス州のAPEX補助金の承認(7月)。工場建設の正式決定(10月31日) | 北米の第2工場へ |
| 2023年7月・12月 | シリコン負極材の売買契約を、ネクシオン(7月)、シラ・ナノテクノロジーズ(12月)と締結 | 負極のシリコン比率を高める調達網 |
| 2024年2月 | NMGに25百万米ドルを出資し黒鉛の7年オフテイク、ノボニックスと人造黒鉛の4年供給契約 | 北米での負極材(黒鉛)の現地調達 |
| 2024年9月9日 | 4680セルの量産準備を完了、和歌山工場をマザー工場として開所 | 量産準備まで。出荷は顧客との調整中 |
| 2025年3月31日 | 住友金属鉱山と、電池廃材のニッケルを正極材に戻す「電池から電池へ」の運用を開始 | 2027年に正極材のリサイクル材比率20%を目標 |
| 2025年7月14日 | カンザス工場で量産を開始(2170) | 北米の第2の車載工場が稼働 |
| 2025年度(〜2026年3月) | 車載は赤字、データセンター向けが大きく伸長。ブラウン大学と共同研究(10月)、Zoox(米国)と複数年の供給契約 | 収益の重心がデータセンターへ |
| 2026年3月10日 | データセンター向け蓄電システムの成長戦略を公表(2028年度に売上8,000億円規模) | のちに9,500億円へ(2026年9月) |
| 2026年4月 | 大阪工場の車載ラインを転用したデータセンター向けセルの出荷を開始 | 車載から産業への資源移動 |
| 2026年9月16日・30日 | 新研究開発拠点が本格稼働(16日)。統合レポート2026を公開(30日) | 最新の開示 |
出典:出典1 https://holdings.panasonic/content/dam/holdings/jp/ja/corporate/investors/pdf/securities-report/Report2025.pdf 出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典4 https://www.panasonic.com/jp/energy/company/profile.html 出典6 https://news.panasonic.com/jp/press/jn250714-5 出典7 https://news.panasonic.com/jp/press/jn221031-3 出典8 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240909-6 出典9 https://news.panasonic.com/jp/press/jn231212-2 出典10 https://news.panasonic.com/jp/press/jn230725-2 出典11 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240209-5 出典12 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240215-2 出典14 https://news.panasonic.com/jp/press/jn250331-2 出典17 https://news.panasonic.com/jp/press/jn260916-2 出典18 https://news.panasonic.com/jp/stories/18471
7. 今後の計画
調整後営業利益1,730億円2026年5月の期初の会社見通し(IRA補助金込み)。2026年7月30日にグループは年間見通しの上方修正を公表(エナジー個別の修正値は確認できなかった)
調整後営業利益は3,000億円超会社の目標。データセンター向けの売上は9,500億円(2025年度比約3倍)
上の内容は、すべて会社の目標・見通し・計画です 未確定/将来。実績は第4・5章の決算数値と稼働が公表された拠点です。2026年3月と9月で、データセンター向けの2028年度売上の目標が8,000億円規模から9,500億円に変わっていますが、会社は理由を述べていません。
次はいずれも、本稿が確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。
シリコン負極材を実際に使ったセルの量産・販売の実績(ネクシオン・シラとの契約までは確認)/4680の顧客名と出荷時期/各拠点の実績の生産量/データセンター向け蓄電の顧客名/IRA補助金の顧客との配分額/日本政府の支援の金額。
8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 車載とデータセンターの両輪を掲げ、資源をデータセンターへ移している | 統合レポート:カンザス拠点の一部車載ラインの転換や人財の配置転換によるリソースシフト。大阪工場の車載ラインの転用でデータセンター向けセルを2026年4月に出荷開始 | 事実 |
| シリコン負極でエネルギー密度の向上を狙う | 2023年にネクシオン(7月)とシラ(12月)と売買契約。2030年度に体積エネルギー密度を800から1,000Wh/Lへ高める目標。カンザス工場の製品には約5%の容量向上の新材料を使う計画 | 事実/未確定/将来 |
| 4680は量産準備を終えたが、出荷は顧客の需要に左右される | 2024年9月に量産準備を完了と発表してから2年たっても、統合レポートは「出荷時期を調整中」と記載。極板工程のみ稼働 | 推測 |
| 北米で材料も現地化し、環境負荷の低減を同時に進める | 黒鉛(NMGへの出資、ノボニックス)、リサイクル正極材・銅箔(Redwood Materials)、シリコン(Sila、Nexeon)、ニッケルのリサイクル(住友金属鉱山)。2030年度にカーボンフットプリントを2021年度比で半減する目標 | 事実 |
| 収益はIRA補助金と関税に強く左右される | 補助金が売上原価から2,134億円減額され、営業利益698億円を大きく上回る。一方、車載の減益要因に米国関税影響が挙がる。統合レポートは、IRA補助金の収入を見込み、顧客との協議で有効活用することも想定すると記す | 本稿の計算 推測 |
「収益の重心がデータセンターへ動いている」という読みの根拠は、利益の出どころの入れ替わりです。2024年度は調整後営業利益1,227億円のうち車載が651億円、産業・民生が568億円でした。2025年度は721億円のうち、産業・民生が837億円で、車載は-119億円です 事実。2026年度の見通しも、調整後営業利益1,730億円のうち産業・民生が1,320億円、車載が410億円で、産業・民生が7割超を占めます 本稿の計算(1,320÷1,730)。同時に、車載ラインの転用、人財の再配置、データセンター向けの2028年度売上の目標(8,000億円規模から9,500億円へ)が示されています。ただし、車載は「カンザス工場の立ち上げで固定費が増える一方、IRA補助金の増加や前年の一過性費用の反動で増益」と会社が見込む局面にあり、車載が回復すれば比率は変わります 推測 未確定/将来。
9. 次世代蓄電分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
パナソニック エナジーの製品は、円筒形セル、蓄電モジュール・システム、材料の調達にまたがります 事実。性能値はメーカー公称で、条件が異なる値は比べません。
| 製品 | 資料に書かれている内容(メーカー公称) | 出典 |
|---|---|---|
| 2170セル | 車載用円筒形。ネバダ・カンザスで生産。2025年3月時点でEV約370万台分に相当する約190億個のセルを供給し、当社の電池に起因する車両リコールはないと説明 | 6 |
| 4680セル | 2170の約5倍の容量。1セルあたりの容量が大きく、製造に高度な技術が必要と説明。和歌山でマザー工場として量産準備が完了(2024年) | 8・2 |
| シリコン負極 | シリコンは黒鉛に比べ理論値で約10倍の容量を持つが、充電時に膨張して電池を劣化させやすい点が課題と説明。ネクシオン(2025年からカンザス工場で使用予定)とシラ(Titan Silicon)から、膨張を抑える新しいシリコン材を調達する契約。「業界で初めてシリコン材を使用した車載電池の量産に成功」と主張(会社の説明) | 9・10 |
| データセンター向け蓄電システム | サーバーラック内に置く蓄電モジュールとシェルフ。停電時のバックアップと、ピークの不足電力を補うピークシェーブの機能。スーパーキャパシタを内蔵したCBUシェルフを2026年度中に生産開始予定 | 18・2 |
| 材料の調達 | 黒鉛:NMG(7年オフテイク)、ノボニックス(4年で10,000t、連続黒鉛化炉でCO2排出を減らす)。リサイクル:Redwood Materialsの正極材・銅箔、住友金属鉱山のニッケル | 11・12・13・14 |
出典:出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典6 https://news.panasonic.com/jp/press/jn250714-5 出典8 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240909-6 出典9 https://news.panasonic.com/jp/press/jn231212-2 出典10 https://news.panasonic.com/jp/press/jn230725-2 出典11 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240209-5 出典12 https://news.panasonic.com/jp/press/jn240215-2 出典13 https://news.panasonic.com/jp/press/jn221115-3 出典14 https://news.panasonic.com/jp/press/jn250331-2 出典18 https://news.panasonic.com/jp/stories/18471
会社の資料から、素材が効く場所を読み取れます。(1) シリコン負極:会社は、黒鉛の約10倍の理論容量を持つ反面、充電時の膨張による劣化が添加率を上げる課題だと述べます 事実。ネクシオンは「独自構造で膨張を抑える」、シラは「高容量で膨張を抑える」材料と説明されていますが、構造の詳細・添加率・セルの性能向上の実測値は資料にありません 未確定/将来。(2) 黒鉛:人造黒鉛は繰り返し充放電での耐久性を保つために使い、従来のアチソン炉は約3,000℃で約30日かかるのに対し、ノボニックスの連続黒鉛化炉は約3日と説明されています 事実。(3) 円筒形の巻き取りと極板:4680のように大型化すると、極板の塗工・巻き取りの精度が難しくなるとの会社の説明があり、和歌山では極板工程が先に稼働しています 事実。素材の基礎は、本シリーズの技術解説「シリコン負極とナノ構造電極」「黒鉛負極と電極設計」「セル形状とセル・トゥ・パック」を参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 米国のIRA補助金への依存 | IRA(公法117-169、2022年8月16日制定)第13502条は、米国内で作った電池セルに1kWhあたり35米ドル、モジュールに10米ドルの税額控除を定め、2029年12月31日より後の販売分から縮小(2030年75%、2031年50%、2032年25%、2032年末より後は0%)。公法119-21(2025年7月4日制定)第70514条は「禁止された外国事業体」の制限を加えた。会社は、制度の廃止・縮小で車載電池の需要とIRAの税制優遇が見込みを下回るリスクを挙げ、2025年度の売上原価の減額は2,134億円 | 事実(段階:制定済み、縮小は2030年から) |
| 米国の関税とEV市況 | 2025年度の車載の減益要因に米国関税影響、米国EV市況の悪化、米国の消費者向けEV税額控除(IRA 30D)の終了が挙がる。関税の影響額は本稿の確認範囲で記載なし | 事実/確認できなかった |
| カンザス工場の立ち上げ | 立ち上げの遅延とコスト増加、固定費の増加、過去の製造不具合への対応費用が車載の赤字要因。工場は当初の目標(2024年度中の生産開始)より遅れて2025年7月に量産を開始 | 事実/推測 |
| 4680の出荷 | 量産準備の完了から2年たっても、出荷時期は顧客と調整中。顧客需要が戻らなければ設備の稼働が遅れる | 推測 未確定/将来 |
| データセンター需要への集中 | 2028年度のデータセンター向け売上目標は9,500億円(3か月前の8,000億円規模から変更)。計画売上の大半は顧客の開発・受注の合意を得ていると説明。設備投資の2026年度計画は2,380億円で、投下資本利益率(ROIC)は2025年度に6.2%へ低下 | 未確定/将来 |
| 財務の注記 | 有価証券報告書の関係会社一覧は、パナソニック エナジー株式会社を「重要な債務超過会社」として注記し、債務超過額を585億円と記載(2026年3月31日。連結の資本は1兆6,118億円)。会計の範囲の違いは注記による | 事実 |
| 国内の供給計画 | マツダ・SUBARU向けの供給計画(経済産業省の「蓄電池に係る安定供給確保計画」に基づく)は、両社との協議が継続中で、群馬の新工場の立ち上げ時期は検討中 | 未確定/将来 |
| 計画の実現 | 2028年度の売上2兆円規模・調整後営業利益3,000億円超、国内セル能力3倍、シリコン負極でのエネルギー密度1,000Wh/Lは、いずれも会社の目標で、達成は確認されていない | 未確定/将来 |
出典:出典1 https://holdings.panasonic/content/dam/holdings/jp/ja/corporate/investors/pdf/securities-report/Report2025.pdf 出典2 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf 出典7 https://news.panasonic.com/jp/press/jn221031-3 出典19 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-117publ169/html/PLAW-117publ169.htm 出典20 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ21/html/PLAW-119publ21.htm
12. 用語集
- 円筒形セル(4680・2170)
- 直径(mm)と高さ(mm)で名前が決まる。4680は直径46mm・高さ80mm、2170は21mm・70mm。
- シリコン負極
- 負極の黒鉛に代えて(または混ぜて)シリコンを使うもの。容量が大きいが、充電時に膨張する。
- BBU
- Battery Backup Unit。データセンターのサーバーラックに置くバックアップ電源。
- CBU
- Capacitor Backup Unit。スーパーキャパシタを内蔵し、負荷の変動を吸収する。
- ピークシェーブ
- あらかじめ蓄えた電気でピーク時の不足を補う仕組み。
- IRA / 45X
- 米国のインフレ抑制法と、その先進製造生産税額控除(内国歳入法45X条)。
- 調整後営業利益
- 会社独自の利益指標。IFRSの営業利益とは別。
- PPES
- Prime Planet Energy & Solutions。トヨタとの角形電池の合弁。
- GWh
- 電力量の単位。1GWh=10億Wh。
- オフテイク契約
- 製造した製品を一定期間、決まった条件で買い取る長期の供給契約。

13. 出典
- パナソニック ホールディングス 有価証券報告書 第119期(2025年4月〜2026年3月、2026年6月19日提出。日本語)。エナジー セグメントの売上・営業利益・研究開発費・設備投資、米国IRA補助金の会計処理、カンザス州の補助金、関係会社の注記。 https://holdings.panasonic/content/dam/holdings/jp/ja/corporate/investors/pdf/securities-report/Report2025.pdf
- パナソニック エナジー 統合レポート2026「成長戦略」(2026年9月30日公開。日本語)。2025年度の実績・2026年度の見通し・2028年度の目標・車載とデータセンター向けの戦略・各拠点の計画。 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S2_srategy.pdf
- パナソニック エナジー 統合レポート2026「データセクション」。財務ハイライト・設備投資・研究開発費・従業員数・拠点の一覧。 https://www.panasonic.com/jp/energy/sustainability/report/Integrated_report2026_print_jp_S5_data.pdf
- パナソニック エナジー 公式サイト「会社概要」。社名・設立・事業内容・従業員数・沿革(ネバダ工場2017年、カンザス工場2025年7月)。 https://www.panasonic.com/jp/energy/company/profile.html
- パナソニック エナジー 公式サイト「事業内容」。モビリティエナジー・エナジーソリューション・エナジーデバイスの3事業と主な製品(4680・2170・1865)。 https://www.panasonic.com/jp/energy/company/business-details.html
- パナソニック エナジー プレスリリース「米国カンザス州の車載電池工場で量産を開始、年産約32GWh体制を目指す」。2170セル、ネバダ工場は年約41GWh(2025年7月14日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn250714-5
- パナソニック エナジー プレスリリース「米国カンザス州における車載電池新工場建設の決定」。初期の生産能力30GWh程度、2024年度中の生産開始を目指す計画(2022年10月31日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn221031-3
- パナソニック エナジー プレスリリース「4680の量産準備を完了、和歌山工場をマザー工場としてリニューアル開所」(2024年9月9日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn240909-6
- パナソニック エナジー プレスリリース「シリコン負極材料の調達でシラ・ナノテクノロジーズ社と売買契約を締結」(2023年12月12日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn231212-2
- パナソニック エナジー プレスリリース「ネクシオン社と負極材の売買契約を締結」。同社のシリコン材を2025年からカンザス工場で使用する予定(2023年7月25日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn230725-2
- パナソニック エナジー プレスリリース「ノボニックス社との黒鉛供給契約」。人造黒鉛、4年間で10,000t(2024年2月9日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn240209-5
- パナソニック エナジー プレスリリース「カナダNMG社への出資ならびに黒鉛供給契約」。25百万米ドルの出資、7年間のオフテイク(2024年2月15日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn240215-2
- パナソニック エナジー プレスリリース「レッドウッド社と正極材及び銅箔の売買契約」。リサイクル正極材を2025年からカンザス工場で使用予定(2022年11月15日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn221115-3
- パナソニック エナジー プレスリリース「住友金属鉱山とリチウムイオン電池の正極材原料リサイクルを開始」。ニッケルの「電池から電池へ」(2025年3月31日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn250331-2
- パナソニック エナジー プレスリリース「米国カンザス大学と車載電池の技術開発・人材育成で合意書を締結」(2024年7月10日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn240710-3
- パナソニック エナジー プレスリリース「米国車載電池工場建設計画におけるカンザス州投資誘致補助金制度の承認」。投資約40億米ドル・最大4,000人の雇用の構想(2022年7月14日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn220714-2
- パナソニック エナジー プレスリリース「リチウムイオン電池の研究開発拠点『エナジーイノベーションスクエア』を新設し本格稼働」。従業員約500名(2026年9月16日) https://news.panasonic.com/jp/press/jn260916-2
- パナソニック ニュースルーム Stories「AI時代を支えるパナソニックの電源ソリューション〜データセンター向け蓄電システムの成長戦略」(2026年3月10日)。国内の生産能力増強・メキシコの蓄電モジュール・2028年度の売上目標。 https://news.panasonic.com/jp/stories/18471
- 米国議会(公法117-169) Inflation Reduction Act of 2022(2022年8月16日制定)第13502条。先進製造生産税額控除(内国歳入法45X条):電池セル1kWhあたり35米ドル、モジュール同10米ドル、2029年12月31日後の販売から段階的に縮小。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-117publ169/html/PLAW-117publ169.htm
- 米国議会(公法119-21) Public Law 119-21(2025年7月4日制定)第70514条。45X条の控除に「禁止された外国事業体」の制限を追加するなどの改正。 https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-119publ21/html/PLAW-119publ21.htm
- パナソニック エナジー 公式サイト(ロゴの取得元。会社概要の確認用)。 https://www.panasonic.com/jp/energy/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値は、パナソニック ホールディングスの有価証券報告書、パナソニック エナジーの統合レポート2026・公式サイト・公式プレスリリース、米国の法律(公法117-169・119-21)に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。性能値はメーカー公称で、条件が異なる値は比較していません。