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日本ガイシ(現NGK) 企業解説

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COMPANY PROFILE / 次世代蓄電

日本ガイシ(現 NGK)
― 世界で初めてNAS電池(ナトリウム硫黄電池)を商用化しながら、2025年10月に製造・販売の終了を決めた会社

長時間の蓄電に向く電池として、日本ガイシの名前は欠かせません。ナトリウムと硫黄、そして固体のセラミックスを使うNAS電池を、同社は2002年に世界で初めて商用化しました。 2019年からはドイツのBASFとも協業し、改良型の「NAS MODEL L24」を海外に売り出していました。 しかし会社は2025年10月31日の取締役会で、NAS電池の製造・販売活動を終了し、新規受注をとらない方針を決めました。 理由として会社が挙げたのは、BASFとの供給能力拡大の協議が2025年9月に中止になったこと、長時間・大容量の蓄電への需要形成に時間がかかる見込みであること、部材コストの高騰、リチウムイオン電池との競争の激化です。 最終出荷は2027年1月頃の予定で、納入済みの設備へのアフターサービスは続けると説明しています。 同社は2026年4月1日に社名を「日本碍子株式会社」から「NGK株式会社」に変更しました。 本稿は会社全体ではなくNAS電池(エナジーストレージ事業)に絞り、何を投じ、誰と組み、なぜ終了を決めたのかを一次資料の範囲で整理します。

構成:NGK株式会社の第160期有価証券報告書(2025年4月〜2026年3月、2026年6月22日提出)、NAS電池の製造及び販売活動の終了に関するお知らせ(2025年10月31日)、決算説明会の資料(2024年10月〜2026年4月)、公式サイトの製品ページを一次情報として使用/最終更新 2026年10月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかる日本ガイシ(NGK)と、次世代蓄電での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(NAS電池に関わる範囲で簡潔に)
  5. 次世代蓄電にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
  9. 次世代蓄電分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる日本ガイシ(NGK)と、次世代蓄電での立ち位置

正式名称NGK株式会社英文名 NGK Corporation。2026年4月1日に日本碍子株式会社から商号変更(通称 日本ガイシ)
本社日本・名古屋市瑞穂区須田町2番56号
上場東証プライム・
名証プレミア 5333
2025年10月31日の開示に記載
この分野での類型長時間蓄電・新方式
(NAS電池)
ナトリウム硫黄電池。ただし事業は終了に向かっている
事業の状況製造・販売を終了
(2025年10月31日決定)
最終出荷は2027年1月頃の予定。アフターサービスは継続
エナジーストレージの売上2025年3月期 64.7億円
2026年3月期 117.7億円
NAS電池が主。2025年3月期は連結売上高の1.04%
終了に伴う費用事業構造改革費用
199.6億円
2026年3月期の特別損失。うち引当金は122.7億円
協業していた相手BASF(独)2019年から。供給能力拡大の協議は2025年9月に中止
まず押さえるべき1点

NAS電池は、長時間・大容量の蓄電という、次世代蓄電の中心的な課題に早くから取り組んだ電池です。 会社は、NAS電池を「世界で初めて実用化したメガワット級の電力貯蔵システム」と説明しています 事実。 その会社が、電池の需要がないからではなく、「長時間・大容量蓄電への継続的な需要形成には依然として時間を要する」うえに、部材コストの高騰とリチウムイオン電池との競争のなかで、安定した操業と収益の確保が将来的に難しいと判断して、製造・販売をやめました。 会社は2025年4月の説明では、長時間蓄電(LDES)の潜在的な需要は大きいとしつつ、BASFやほかの企業の参画を募って供給力の増強とコスト低減を協議していましたが、その協議が2025年9月に中止になりました。 つまりこの記事は、「長時間蓄電が不要になった」という話ではなく、「長時間蓄電に先に取り組んだ会社でも、この方式で事業を続けるのは難しかった」という事例として読むのが適切です。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:2026年4月1日に、会社名は「日本碍子株式会社」(通称 日本ガイシ、英文 NGK INSULATORS, LTD.)から「NGK株式会社」(英文 NGK Corporation)に変わりました。 本稿の題名は日本ガイシとしていますが、現在の法人名はNGKです。会社が2025年10月に開示した文書は旧社名で、2026年6月の有価証券報告書は新社名です。 NAS®(ナス)は同社の登録商標で、法人名ではありません。BASF Stationary Energy Storage GmbHはBASFの子会社で、共同開発の相手です。 HH2Eはドイツのグリーン水素の事業会社で、BASF経由でNAS電池を受注した顧客です(同社の再建手続きは第6章)。 本稿はNAS電池に限って書いており、自動車排ガス用セラミックス、半導体製造装置用製品、がいし(碍子)などの事業は扱いません。 ロゴ画像は、NGKの公式サイトで公開されているものを取得しました。

公式サイト:https://www.ngk.co.jp/

3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか

次世代蓄電に関わる企業は、本稿ではセル・材料メーカー/長時間蓄電・新方式/蓄電システム・事業者/リサイクルの4類型に分けています。日本ガイシ(NGK)のNAS電池は、リチウムイオン電池とは別の化学(ナトリウムと硫黄)で、会社が「長時間・大容量」を特長とする長時間蓄電・新方式に当たります。電池そのものを自社で作り(愛知県の小牧工場)、システムとして売る、電池と蓄電システムを一貫して手がける形でしたが、2025年10月に製造・販売の終了を決めました。

次世代蓄電に関わる企業の4つの類型 同じ「電池の会社」でも、つくる・新方式・システム・リサイクルで、強みと売り先が違う セル・材料 長時間・新方式 蓄電システム リサイクル 電池と素材をつくる 新しい化学で長く貯める 電池を組んで電力網へ 使用済み電池から材料へ CATL/LGES パナソニック/Sila Form Energy/Eos ESS/日本ガイシ Tesla/Fluence ほか Redwood Materials ほか 量産規模と材料技術 安価な材料と長寿命 設計と運用の実績 回収網と純度の高さ 価格競争と投資に左右 量産と実績の少なさ 電池価格と案件に左右 原料価格と回収量に左右 日本ガイシ(NGK)は「長時間・新方式」の枠。NAS電池に絞るが、製造・販売は終了を決定 新規受注・新規製造はなく、受注済み案件への対応とアフターサービスのみ続ける
図1 次世代蓄電に関わる企業の4類型と、日本ガイシ(NGK)の位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。会社の開示(2025年10月31日のお知らせと有価証券報告書)に基づく本稿の区分です。

4. 会社の規模(NAS電池に関わる範囲で簡潔に)

NGKは、自動車排ガス浄化用セラミックス、半導体製造装置用製品、がいし(碍子)などを手がけるセラミックスの会社です。NAS電池は、「エネルギー&インダストリー」事業の中の「エナジーストレージ」にあたります。 会社全体と、この事業の数字だけを示します 事実。

指標(百万円)2025年3月期2026年3月期
売上高(連結)619,513670,125
営業利益(連結)81,24194,997
研究開発費(グループ全体)―31,786
設備投資(グループ全体、有形・無形)48,80755,848
連結従業員数(人)19,93119,869(うちエネルギー&インダストリー 1,307)

「エネルギー&インダストリー」事業と、エナジーストレージ(NAS電池)

百万円2025年3月期2026年3月期
エネルギー&インダストリー事業の売上高(外部顧客向け)57,55365,253
同・セグメント損益▲4,196▲1,322
うちエナジーストレージ(NAS電池)の売上高6,47311,772
うちがいしの売上高51,08053,481
エナジーストレージの売上高の割合(連結)1.04%約1.8% 本稿の計算

2026年3月期の割合は、11,772÷670,125で約1.76%です(本稿の計算)。2025年3月期の1.04%は、会社が2025年10月31日の開示に記載した値です。 会社は2027年3月期(2026年度)について、エネルギー&インダストリー事業の売上高を650億円、営業利益を40億円と見込み、「エナジーストレージは受注済み案件への対応とアフターサービスのみを継続し、損益影響は僅少」と説明しています 未確定/将来(2026年4月に事業セグメントの区分を一部変更しており、数字は区分変更後)。

ここで注意

エネルギー&インダストリー事業の損益には、がいしなどの送配電関連の製品が含まれ、NAS電池だけの営業損益は開示されていません(非公表) 未確定/将来。 会社の説明では、2025年3月期は海外案件の需要の減速で生産体制を見直し、在庫の評価減を計上してNAS電池の赤字が拡大し、2026年3月期も一部工程の生産停止が続いて赤字が継続する見通しでした。 2026年3月期の売上が増えた理由として、会社は2025年4月の説明で「国内案件を中心に出荷が増加する見通し」と述べていました。その後、2025年10月に終了を決め、受注済みの案件を保有する在庫から順次出荷する方針を示しています。実際の出荷の内訳は確認できませんでした。

5. 次世代蓄電にかけているリソース

金額・人員の多くは、NAS電池だけでは開示されていません。確認できたもの、できなかったものを区別して示します。

リソースの種類一次情報で確認できた内容区分
人エネルギー&インダストリー事業の従業員は1,307人(臨時従業員は年間平均343人、2026年3月末)で、がいしなども含む。NAS電池の専任人員は非公表。NAS電池の製造・販売に従事する従業員は、グループ内での再配置等を予定すると会社が説明事実/非公表
金(研究開発)エネルギー&インダストリー事業の研究開発費は724百万円(2026年3月期。がいし製品・配電用機器の商品開発とNAS電池の研究開発の合計)。NAS電池分は非公表事実/非公表
金(設備投資)エネルギー&インダストリー事業の設備投資は2,752百万円(2026年3月期、主にがいしの生産設備)。NAS電池の過去の設備投資額は確認できなかった事実/確認できず
金(終了に伴う損失)2026年3月期に事業構造改革費用19,959百万円を特別損失に計上し、事業構造改革引当金12,270百万円を設けた。引当金の主な内容は、NAS電池の棚卸資産の廃棄と、会社の責任で提供すべきサービスの費用。2025年3月期にも、海外案件の減速に伴う在庫の評価減を計上(金額は確認できなかった)事実
外部への出資・提携・買収・売却BASF(ドイツ)と2019年から協業し、子会社のBASF Stationary Energy Storage GmbHと改良型「NAS MODEL L24」を共同開発・販売。供給能力拡大とコスト低減の協議(ほかの企業の参画を募る形)は2025年9月に中止。出資・買収・合弁・事業売却は確認できなかった(事業は譲渡ではなく終了)事実/確認できず
公的資金・研究機関NAS電池は、東京電力と共同で研究開発したと会社の製品ページが記載(時期は記載なし)。政府の補助金、大学との共同研究は、本稿が確認した資料には記載がない事実/確認できず

主要な製品・設備の状況

製品・設備場所規模段階日付・備考
NAS電池の製造設備(小牧工場)愛知県小牧市生産能力は確認できなかった2025年3月に一部を一時停止、2025年10月に終了を決定有価証券報告書は、小牧工場に電力貯蔵用NAS電池の生産設備があると記載。2025年3月にHH2E案件の後半ロットの受注が白紙となり、工場の一部を一時的に生産停止。最終出荷は2027年1月頃の予定
NAS電池の標準システム(コンテナ型)―定格出力800kW、定格容量4,800kWh(メーカー公称)販売終了20フィート(約6m)コンテナに電池本体と制御装置を収納。33kWモジュール6台のコンテナ4基の構成と会社が記載
NAS電池の標準システム(パッケージ型)―定格出力1,200kW、定格容量8,640kWh(メーカー公称)販売終了現地でパッケージを組み立ててモジュール電池を収納。30kWモジュール40台の構成と会社が記載
改良型「NAS MODEL L24」(BASFと共同開発)海外向けBASF案件のHH2E向けに合計36コンテナを出荷(2024年10月時点)販売終了会社は、年間1%未満の劣化と充放電時間の増加により、投資額を約2割削減できる新型と説明(条件は資料に記載なし)
海外の納入サイト韓国、豪州、ブルガリア、モルディブなど規模は確認できなかった運転開始・受注済み韓国の水素製造設備(2020年8月運転開始)、韓国の再エネ利用率向上(2023年4月)、豪州鉱山への再エネ供給(2023年5月)、モルディブの海水淡水化(2023年7月受注)、ブルガリアの再エネ利用率向上(2023年9月)

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
1962年小牧工場を建設(有価証券報告書の沿革)のちにNAS電池の生産設備を置く工場
2002年電力貯蔵用NAS電池を事業化。世界で初めて商用化と会社が説明昼夜間の電力需要の差を埋める手段として、東京電力と共同で研究開発した電池と会社が説明(開発の時期は記載なし)
2019年BASFと協業を開始(2025年10月の開示の記載)電池技術の性能向上・コストダウンと、世界の販売網の強化がねらい
2020〜2023年韓国の水素製造設備(2020年8月)、韓国の再エネ(2023年4月)、豪州の鉱山(5月)、モルディブの淡水化(7月受注)、ブルガリア(9月)などの案件再エネの安定化や水素製造向けなど、海外の用途が広がっていた
2024年10月改良型「NAS MODEL L24」の販売を開始。BASF案件のHH2E向けに36コンテナを出荷(10月時点)大容量・長時間の充放電に備えた製品改良が完了したと会社が説明
2024年11月HH2E(ドイツ)が、最大株主の追加資金提供の撤回により、再建手続きを申請(会社の説明)同プロジェクトの後半ロットの受注が白紙に
2025年3月小牧工場の一部を一時的に生産停止。2025年3月期の決算で在庫の評価減を実施需要減速に合わせた生産体制の見直し
2025年9月BASFとの、供給能力拡大とコスト低減の協議を中止会社の説明では、これがNAS電池の終了判断の要因の1つ
2025年10月31日取締役会で、NAS電池の製造・販売の終了と新規受注の停止を決定。第2四半期に117億円の特別損失を計上最終出荷は2027年1月頃の予定
2026年3〜4月2026年3月期に事業構造改革費用19,959百万円を計上(引当金12,270百万円)。2026年4月1日に社名をNGK株式会社へ変更終了の費用が確定し、事業構成の転換が進む

7. 今後の計画

NAS電池の最終出荷2027年1月頃
(予定)
受注済みの案件を、保有する在庫から順次出荷・納品する
新規の製造・受注行わないご発注間近の案件に限り、在庫の範囲で納品に対応すると会社が説明
納入済みの製品アフターサービスを継続「責任を持って継続」と会社が記載。サービス費用は引当金に計上
エネルギー&インダストリー事業の2026年度売上高650億円
営業利益40億円
会社の見通し。NAS電池は「損益影響は僅少」と説明

最終出荷の時期と2026年度の見通しは会社の予定・見通しであり、確定した実績ではありません 未確定/将来。 会社は、NAS電池に従事していた従業員をグループ内で再配置する予定としています。

確認できなかったこと

次は、本稿で確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。

NAS電池の累計の導入実績(出力・容量・台数・国数)/現在稼働している設備の規模と、顧客ごとの残りの使用可能期間/引当金の内訳の金額と、廃棄する在庫の量・処理の方法と時期/NAS電池の生産能力(小牧工場)/NAS電池の技術・設備・特許の今後の扱い(譲渡や他分野への転用の有無)/亜鉛二次電池「ZNB」など、ほかの蓄電池の事業の状況/NAS電池だけの損益。 報道ベースの数値は本稿では採用しません。

8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
NAS電池の終了は、経営資源の最適配分のための判断2025年10月の決算説明で会社は「経営資源の最適配分を図る観点から」NAS電池の製造・販売活動の終了を決めたと説明。2026年5月の長期経営計画の資料は、半導体製造装置用セラミックスと電子デバイスを成長牽引の柱として、資金と人材を重点投入すると記載事実
電力分野では、電池ではなく、がいしとエンジニアリングで関わる2026年4月に「エネルギープラント事業部」を新設し、電力会社向けのエンジニアリング・工事機能を強化。がいしは送電網の新増設投資を背景に安定的な収益を見込む事実
再生可能エネルギーの安定運用には、別の形のビジネスを探っている新事業目標「NV1000」の中に「再生可能エネルギーの安定運用に寄与するグリーンエナジービジネス」が項目として載る。内容の詳細は確認できなかった事実(項目のみ)/推測
長時間蓄電の潜在需要は残るが、NGK単独では担いきれなかった2025年4月の説明で会社は潜在的な長時間蓄電の需要は大きいと述べ、供給能力の増強に向けてBASFやほかの企業の参画を募る協議をしていた。その協議が9月に中止推測
推測の根拠を1つだけ詳しく:終了の理由を、時系列で見る

会社が2025年10月31日に示した終了の理由は、4つです 事実。 (1) BASFと進めていた、供給能力の拡大とコストダウンの協議が、2025年9月に中止になったこと。 (2) 長時間・大容量蓄電への継続的な需要形成には、依然として時間を要すると見込まれること。 (3) 部材コストの高騰(どの部材かは書かれていません)。 (4) リチウムイオン電池との競争環境の激化。 この4つに先立つ事実として、2024年度には、BASF経由で受注したHH2Eの案件の後半ロットが白紙になり、小牧工場の一部が止まって在庫の評価減が出ていました。 2025年4月の説明では、会社は「相当な事業規模を見込む」としてBASFなどとの協議を続けていましたが、その5か月後の9月に協議が中止され、翌10月に終了が決まりました。 ここから本稿は、供給能力の拡大という「次の段階」へ進む道が閉じたことが、終了の決め手になったと読みます 未確定/将来(時系列は事実ですが、因果関係は本稿の推測で、会社がそう説明しているわけではありません)。 なお、会社は、特定の企業や顧客の責任には触れていません。

9. 次世代蓄電分野の提携マッピング

NGKのNAS電池を中心とした提携関係 会社の開示・製品ページに記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない NGK NAS電池 BASF(ドイツ) L24の共同開発・販売提携 東京電力 NAS電池の共同研究開発 HH2E(ドイツ) BASF経由で36コンテナ出荷 海外の導入先 韓国・豪州・ブルガリアなど 納入済みの設備(保守を継続) 共同開発・提携の相手 納入先 アフターサービスの対象(点線)
図2 NGKのNAS電池を中心とした提携関係。出典:NGKの2025年10月31日のお知らせ、決算説明会の資料、製品ページ。図に含めたのは公式資料に記載がある関係だけで、報道で語られる顧客や取引は含めていません。BASFとの協業のうち、供給能力拡大の協議は2025年9月に中止されています。HH2Eは2024年11月に再建手続きを申請したと会社が説明しており、後半ロットの受注は白紙になりました。東京電力との共同研究開発の時期は、製品ページに記載がありません。

10. 提供している技術・製品・サービス

NAS電池は、会社の説明では次のような蓄電池です 事実。負極にナトリウム(Na)、正極に硫黄(S)を使い、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを使います。放電のときは、負極のナトリウムが電子を放出してナトリウムイオンになり、固体電解質を通って正極へ移り、正極の硫黄と反応して多硫化ナトリウム(Na₂Sx)になります。充電のときは、その逆の反応が起こります。 2026年現在は、販売を終了した製品で、新規の受注はありません。

項目公式資料に載っている内容ひとこと
特長(メーカー公称)大容量、高エネルギー密度、長寿命。鉛蓄電池の約3分の1のコンパクトサイズで、長期にわたって安定した電力供給が可能。ピークカットや再生可能エネルギーの安定化に役立つと説明比較の条件(容量・鉛蓄電池の型式)は記載がなく、他の電池との優劣は本稿では述べない
安全規格コンテナ型NAS電池(と搭載される単電池・モジュール)は、定置用蓄電池の安全規格UL1973のUL認証を取得したと会社が説明認証の対象は、会社の注記のとおりコンテナ型のみ
標準システム(コンテナ型)定格出力800kW、定格容量4,800kWh。20フィートコンテナに電池本体と制御装置を収納定格出力で使い切る場合の放電時間は6.0時間 本稿の計算(4,800kWh÷800kW)
標準システム(パッケージ型)定格出力1,200kW、定格容量8,640kWh。現地でパッケージを組み立てる同じ計算で7.2時間 本稿の計算(8,640kWh÷1,200kW)
改良型「NAS MODEL L24」BASF Stationary Energy Storage GmbHと共同開発した、従来のコンテナ型の性能を向上させた型。会社は、年間1%未満の劣化や充放電時間の増加により投資額を約2割削減できると説明(2024年10月)試験条件の記載はなく、実測値ではなく会社の説明
保守点検日常点検(運転状態のままの監視)、定期点検(ファン・フィルター等の消耗部品の交換、機能確認試験)、法定点検(消防法で定められた点検。保有空地の確保など、年1回)。NGK-NASコールセンターによる遠隔監視2026年現在、保守の問い合わせ窓口は残っている
素材技術者の視点:セラミックスを電池の「壁」に使う電池

NAS電池の特徴は、電池の電解質を固体のファインセラミックスにして、負極のナトリウムと正極の硫黄を隔てている点です 事実。 これは、会社が有価証券報告書で、ファインセラミックスを中心とした材料技術とプロセス技術を研究開発の基盤に挙げている会社の強みと重なります。 一般に、このような電池では、電解質のセラミックスに、ナトリウムイオンだけを通し、電子や反応物は通さないことが求められ、割れや欠陥のない部材を安定して量産できるかが、品質とコストを大きく左右します。 また、ナトリウムと硫黄を使うため、高い温度で動かす電池になることが一般的です(以上は本稿の一般的な解説です)。

会社は、終了の理由の1つに「部材コストの高騰」を挙げていますが、どの部材のコストが上がったのかは書いていません。 セラミックス電解質の量産コストが論点だったのかどうかは、一次資料からは確認できませんでした 未確定/将来。 また、リチウムイオン電池に対する性能やコストの優劣を、本稿では述べません。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
終了に伴う追加費用の見積りの不確実性2026年3月期に事業構造改革引当金12,270百万円を計上した。主な内容は、関連法令に基づき廃棄が求められる棚卸資産の処理と、会社の責任で提供すべきサービスの費用。監査人は、廃棄単価と、NAS電池の将来の利用期間・サービスの人員体制の見積りに不確実性があるとして、監査上の主要な検討事項に挙げている。法令や価格動向、廃棄の方法が変われば追加の引当が必要になり得ると会社の注記にある事実
納入済みの設備の長期サービス会社は、納入済み・これから納入する製品のアフターサービスを責任を持って継続するとしている。引当金の見積りは、NAS電池の型番ごとの仕様上の使用可能期間のうち残存期間を顧客の将来の利用期間と仮定しており、顧客の使用状況によって変わり得る事実
顧客・取引先への影響会社は、顧客や取引先に今後の方針を丁寧に説明し、必要に応じて協議するとしている。受注済みの案件も、顧客の意思を確認したうえで進める。個別の顧客との協議の内容は確認できなかった事実/確認できず
取引先の信用リスクBASF経由で受注したHH2E(ドイツ)の案件は、同社が2024年11月に再建手続きを申請し、後半ロットの受注が白紙になった。小牧工場の一部の停止と在庫の評価減につながったと会社が説明事実
長時間蓄電市場での競争会社は終了の理由として、リチウムイオン電池との競争環境の激化と、部材コストの高騰を挙げている。他方で、長時間蓄電の潜在的な需要自体は大きいとも述べており、競争の結果をどう評価するかは別に判断が必要事実
技術・知見の継承NAS電池に関わる技術・設備・特許・人材の今後の扱いは、従業員の再配置を除いて、確認できなかった未確定/将来
事業構造改革の遂行会社は、2026年度から事業再生・撤退検討プロセスを導入し、不採算事業・製品への対応方針を明確化するとしている。NAS電池以外の事業にも判断の対象が広がり得るが、個別の対象は本稿では確認できなかった推測

12. 用語集

NAS電池
ナトリウム(Na)と硫黄(S)を電極に使い、固体のセラミックスを電解質にする蓄電池。NGKの登録商標。
ナトリウム硫黄電池
NAS電池の一般名。負極がナトリウム、正極が硫黄。
LDES
Long-Duration Energy Storage。数時間から長時間にわたり電力を貯める蓄電のこと。
ファインセラミックス
精密に制御した原料と製法でつくる、高性能のセラミックス。NGKの中核となる材料技術。
UL1973
定置用蓄電池の安全規格の1つ。NGKは、コンテナ型NAS電池でUL認証を取得したと説明している。
事業構造改革引当金
事業の終了などで将来発生が見込まれる費用や損失を、あらかじめ見積もって計上する負債。
特別損失
その期に限って発生した、通常の事業活動とは別の損失。本件では事業構造改革費用として計上。
BASF
ドイツの大手化学メーカー。子会社のBASF Stationary Energy Storage GmbHが、NAS電池の共同開発・販売の相手。
HH2E
ドイツのグリーン水素の事業会社。BASF経由でNAS電池を受注した顧客。
有価証券報告書
日本の上場会社が金融商品取引法に基づいて提出する年次報告書。
図3 コンテナ型のNAS電池を、再生可能エネルギーの発電所のそばで点検している様子を描いた概念図(AI生成による概念図
図3 コンテナ型のNAS電池を、再生可能エネルギーの発電所のそばで点検している様子を描いた概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。 図の読み方:閉じた断熱筐体を持つ蓄電設備です。内部の拡大模型は特定製品の寸法や配置ではありません。

13. 出典

  1. NGK 第160期 有価証券報告書(2025年4月1日〜2026年3月31日、2026年6月22日提出)。沿革、セグメント別の売上高と損益、エナジーストレージの売上高、従業員、研究開発費、設備投資、事業構造改革費用と引当金、監査上の主要な検討事項、社名変更。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
  2. 日本ガイシ(現NGK) NAS電池の製造及び販売活動終了に関するお知らせ(2025年10月31日、TDnet)。終了の理由、日程、今後の対応方針、業績への影響。 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/tdnet/2705281/00.pdf
  3. NGK 製品・技術:NAS電池(販売終了)。原理、特長、UL1973、標準システム、保守点検。 https://www.ngk.co.jp/product/nas.html
  4. 日本ガイシ(現NGK) 2026年3月期 第2四半期 決算説明会(2025年10月31日)の資料と説明原稿。NAS電池の終了の背景、特別損失、エネルギー&インダストリー事業の見通し。 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20251031_presen_note.pdf
  5. NGK 2026年3月期 決算説明会(2026年4月30日)の資料と説明原稿。NAS電池に係る費用、2027年3月期の見通し、エネルギープラント事業部の新設。 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20260430_presen_note.pdf
  6. 日本ガイシ(現NGK) 2025年3月期 決算説明会(2025年4月28日)の資料と説明原稿。HH2E案件、小牧工場の一部停止、BASFとの協議の状況。 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20250428_presen_note.pdf
  7. 日本ガイシ(現NGK) 2025年3月期 第2四半期 決算説明会(2024年10月31日)の資料と説明原稿。「NAS MODEL L24」、BASF案件のHH2E向け出荷、海外の設置サイト。 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20241031_presen_note.pdf
  8. NGK 長期経営計画 2026-2035(2026年5月28日)。事業ポートフォリオ、事業再生・撤退検討プロセスの導入。 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20260528_management_plan.pdf
  9. NGK 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://www.ngk.co.jp/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称(NGK株式会社、旧 日本碍子)、2026年4月1日の商号変更、本店所在地、第160期の提出(2026年6月22日)事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
連結売上高(619,513→670,125百万円)、営業利益(81,241→94,997百万円)、研究開発費31,786百万円、設備投資(48,807→55,848百万円)、従業員(19,931→19,869人、E&I 1,307人)事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
エネルギー&インダストリー事業の売上高(57,553→65,253百万円)と損益(▲4,196→▲1,322百万円)、エナジーストレージ6,473→11,772百万円、がいし51,080→53,481百万円事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
E&I事業の研究開発費724百万円、設備投資2,752百万円、小牧工場にNAS電池の生産設備があること、1962年の小牧工場建設、2002年のNAS電池の事業化事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
事業構造改革費用19,959百万円、事業構造改革引当金12,270百万円、引当金の内容と監査上の主要な検討事項事実出典1 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf
終了の決定(2025年10月31日)、4つの理由、BASFとの協議の中止(2025年9月)、2002年に世界で初めて商用化、2019年からのBASFとの協業、最終出荷(2027年1月頃)、従業員の再配置、約180億円の特別損失の見込み、2025年3月期のエナジーストレージ売上64.73億円(連結の1.04%)事実出典2 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/tdnet/2705281/00.pdf
NAS電池の原理、特長、UL1973(コンテナ型のみ)、標準システムの仕様(800kW/4,800kWh、1,200kW/8,640kWh)、保守点検、東京電力との共同研究開発、販売終了の表示事実出典3 https://www.ngk.co.jp/product/nas.html
2025年10月の決算説明:第2四半期に117億円の特別損失、終了は経営資源の最適配分のため、E&I事業の見通し事実出典4 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20251031_presen_note.pdf
2026年4月の決算説明:200億円の事業構造改革費用、2027年3月期のE&I事業(売上高650億円・営業利益40億円)、エナジーストレージは受注済み案件とアフターサービスのみ、エネルギープラント事業部の新設事実出典5 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20260430_presen_note.pdf
2025年4月の決算説明:小牧工場の一部の生産停止(2025年3月)、HH2E案件の後半ロット白紙、HH2Eの再建手続き申請(2024年11月)、在庫評価減、BASFなどとの協議中、国内案件を中心に出荷増加の見通し事実出典6 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20250428_presen_note.pdf
2024年10月の決算説明:NAS MODEL L24(BASF Stationary Energy Storage GmbHと共同開発)、年間1%未満の劣化と投資額約2割削減(会社説明)、HH2E向け36コンテナ、海外の設置サイト事実出典7 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20241031_presen_note.pdf
長期経営計画2026-2035:成長牽引はSPEと電子デバイス、事業再生・撤退検討プロセスの導入、新事業目標NV1000事実出典8 https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20260528_management_plan.pdf
NAS電池だけの損益、生産能力、累計の導入実績、廃棄する在庫の量と時期、技術・特許の今後の扱い、ZNBなどほかの蓄電池の状況、政府の補助金・大学との共同研究未確定/将来出典1・2・3・5 https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/yuho_pdf/S100YF7M/00.pdf https://ssl4.eir-parts.net/doc/5333/tdnet/2705281/00.pdf https://www.ngk.co.jp/product/nas.html https://www.ngk.co.jp/ir/library/assets/pdf/20260430_presen_note.pdf
4類型の区分(セル・材料/長時間・新方式/蓄電システム/リサイクル)と、NGKの位置づけ(長時間・新方式)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
エナジーストレージの売上高の割合(2026年3月期、約1.76%)本稿の計算11,772÷670,125百万円の本稿の計算
標準システムの放電時間(コンテナ型6.0時間、パッケージ型7.2時間)本稿の計算定格容量÷定格出力の本稿の計算。実際の放電条件によって変わる
BASFとの協議の中止が、終了の決め手になったという読み推測時系列(2025年4月に協議中、9月に中止、10月に終了決定)からの本稿の解釈。会社の説明ではない
NGKだけでは供給能力の拡大を担いきれなかったという読み推測協議の経緯からの本稿の解釈
再生可能エネルギーの安定運用に関わる別の形のビジネスを探っているという読み推測NV1000の項目の記載のみからの本稿の解釈
NAS電池以外の事業にも撤退判断の対象が広がり得るという読み推測事業再生・撤退検討プロセスの導入からの本稿の解釈
セラミックス電解質に求められる性質、高温で動かす電池になることが一般的、という一般論本稿の計算本稿の一般的な解説であり、NGKが公表した性能値ではない

最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値は、NGK(旧 日本ガイシ)の有価証券報告書、適時開示、決算説明会の資料、公式サイトに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。会社の計画・見通しは未確定で、達成された事実ではありません。火災・事故については、本稿では扱っていません。