COMPANY PROFILE / 次世代蓄電
インビニティ・エナジー・システムズ
― バナジウムレドックスフロー電池(VFB)を、英国とカナダの工場とパートナー製造で供給する英国AIM上場企業。納入実績は積み上がる一方、損失と現金の減少が続く
次世代蓄電の話題でInvinity Energy Systemsの名前が出るのは、バナジウムのイオンを含む水系電解液を使う「バナジウムフロー電池(VFB)」を、規格化した工場製品として世界各地に納入してきた数少ない会社だからです。 2026年6月の2025年年次報告書によると、納入済みの電池は2,000個超、顧客の設備で放電した累積のエネルギーは9.0GWh(2026年9月の中間発表では11GWh)、2025年の売上は820万ポンドに、英国政府の補助金を加えた総額は1,780万ポンドでした。 一方、2025年の売上総損益は290万ポンドの赤字、税引前損失は2,410万ポンド、2026年上半期の損失は1,210万ポンドで、現金は2025年末の2,880万ポンドから2026年6月末の1,050万ポンドに減りました。 本稿は、年次報告書・中間発表など会社の公式な開示のとおりに、この会社が何を投じ、何が進み、何が確認できないかを中立に整理します。会社の財務状況や技術を評価するものではありません。
- 30秒でわかるInvinity Energy Systemsと、次世代蓄電での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 次世代蓄電にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
- 次世代蓄電分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるインビニティ・エナジー・システムズと、次世代蓄電での立ち位置
Invinity Energy Systemsは、「VFBの納入と運転の実績」と「損失・現金の減少」が同時に開示されている会社です 事実。 会社の開示では、2,000個超の電池を納入し、顧客の設備での累積放電量は11GWhに達しました。2026年上半期の受注は34.2MWh(前年同期11.7MWh)、確定した受注残は77MWh超(2026〜2028年の納入)で、2026年8月には米国で43MWh(同社の最大の受注)、5月にはスイスで最大1.5GWhの設計契約が公表されました。 一方で、売上は2023年の2,200万ポンドから、2024年に500万ポンド、2025年に820万ポンドと、年による振れが大きく、2026年上半期の売上は110万ポンドと小さい状況です。会社は、2026年の売上の認識が下半期に大きく偏る見込みと説明しています。 また、会社の開示(年次報告書・中間発表)は、経営陣が継続企業の前提に問題はないと判断しているとしつつ、事業の拡大には追加の資金が必要になると見込むと書いています 事実。 この記事は、実績の数字、受注と計画、財務を、会社の資料のとおりに区別して書きます。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Invinity Energy Systems plc(「Invinity」と略す)です。前身は英国のCamco Clean Energy、redT energy plcで、2020年に社名を変更しました(会社の沿革)。電池の製品名は、現行のEndurium(大規模向け)とEndurium Enterprise(商業・産業向け)、前世代のVS3です(いずれも会社の呼称)。 ロゴ画像は同社の公式サイト(invinity.com)が配信しているロゴ画像(SVG)を取得したものです。
公式サイト:https://invinity.com/3. 次世代蓄電の世界で、この会社はどこにいるか
Invinity Energy Systemsは、4類型のうち「長時間・新方式」に当たります。年次報告書は、事業を「バナジウムフロー電池の製造と販売」と記載し、収益源を電池の販売、サービス・保証、ライセンス・ロイヤルティの3つとしています 事実。 具体的には、電池モジュール(Endurium、340kWh)をコンテナ形のユニットにまとめ、複数をつないで数MWhからGWh級まで構成します。製造は自社工場(英国・カナダ)と、パートナーの製造(中国・米国など)の組み合わせで進める方針です(資本支出が比較的少ない、パートナー主導の製造モデルと会社が説明)。 この類型で想定される強みは、会社が述べる「熱暴走の仕組みがない」「長い寿命」で、弱みは「製造規模の小ささと、価格競争への対応」です 本稿の計算(区分と評価の軸は本稿の整理で、会社の自己評価ではありません)。 同じ長時間蓄電の類型には、鉄空気電池のForm Energy、亜鉛系のEos Energy Enterprises、鉄フロー電池のESS Techがあります。
4. 会社の規模
会計年度は1月から12月までで、通貨は英ポンド(£)です。2025年12月期の年次報告書と、2026年6月期(上半期)の中間決算発表の数字を示します 事実。
| 指標(百万ポンド) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 | 2026年 上半期(前年同期) |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 22.0 | 5.0 | 8.2 | 1.1(0.3) |
| プロジェクト補助金 | 0.3 | ― | 9.1 | 0.6(0.6) |
| 売上と補助金の合計(会社の表記) | 22.3 | 5.2 | 17.8 | 1.7(0.9) |
| 売上総損益 | △3.3 | △3.5 | △2.9 | △0.7(△1.9) |
| 調整後EBITDA | △22.3 | △19.3 | △20.6 | △10.6(△9.1) |
| 税引前損失/期間の損失 | △23.2 | △22.8 | △24.1 | △12.1(△10.6) |
| 営業活動によるキャッシュフロー | ― | △24.9 | △17.2 | △12.9(△12.3) |
| 現金(純現金) | 5.0 | 32.4 | 28.8 | 10.5(18.7) |
| その他の指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 販売・出荷(MWh) | 2025年の受注は31.4MWh(前年5.2MWh)、出荷は24.9MWh(前年7.3MWh)、平均案件規模は4.5MWh(前年2.6MWh)。2026年上半期の受注は34.2MWh(前年同期11.7MWh) | 2025年12月期/2026年上半期 |
| 受注残(会社の表記) | 署名済みで無条件の契約が77MWh超(2026〜2028年の納入)。売上見込みは2026年11百万ポンド、2027年25百万ポンド、2028年5百万ポンド(会社の見通し) | 2026年9月 |
| プロジェクトの総数・実績 | 電池2,000個超、約100案件・17か国、累積放電量は2022年以降で11GWh(2026年9月)。2025年の年次報告書は、9.0GWhと約90案件 | 2026年9月/2026年5月 |
| 主要株主(議決権の割合) | 英国国家富ファンド19.11%、Atri Energy Transition 11.27%、Next Gen Mobility 11.27%、Schroders 9.97%、Janus Henderson 5.31%、Artha Global Opportunities Fund 3.94% | 2026年4月30日 |
| 売上の内訳(2025年) | 地域別:欧州618万ポンド、アジア96万ポンド(ロイヤルティ)、北米100万ポンド、豪州4万ポンド | 2025年12月期 |
上の数字は会社の開示の数字を並べたもので、財務状況の評価ではありません。 会社が「売上と補助金の合計」と呼ぶ金額には、英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)の補助金(2025年は910万ポンド)が含まれ、売上そのものではありません。2025年の売上総損益率は△35%(2024年は△70%)と会社は説明します。 年次報告書と中間発表は、取締役が2027年6月までの資金予測(署名前の受注のない場合の下振れ予測を含む)を行い、「追加の資金調達なしに、期間中は現金が残る」と見ていると記載しています。ただしこの予測は、設備投資の繰り延べと運営費の削減を前提とし、事業の拡大と期間後の資金には追加の資金が必要になると取締役が見込むと明記しています。 2026年6月末の現金1,050万ポンドに対し、上半期の営業キャッシュフローは△1,290万ポンドです。 会社は、資金調達リスクを「高い可能性・高い影響」の項目として自ら挙げています。
5. 次世代蓄電にかけているリソース
Invinityは全社がバナジウムフロー電池の事業で、全社の数字がほぼそのまま次世代蓄電向けです。ただし、設備投資の総額や製造能力(GWh/年)の最新の数字は確認できませんでした。
| リソースの種類 | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員は180人(2026年9月)。2025年の平均は162人(カナダ87、英国66、米国9)、2024年は145人。特許は83件(登録または出願中)。研究開発の人員の増加を、2026年上半期の損失の増加の理由に会社が挙げる(人件費で+80万ポンド) | 事実 |
| 金(研究開発・設備) | 研究開発費は2025年に178万ポンド(2024年242万ポンド)、研究開発の補助・税額控除による回収が142万ポンド。設備投資と関連の前払いは2025年に1,700万ポンド(Copwood向けの補助金受取750万ポンドが一部を相殺)で、半自動のスタック製造ラインを購入・稼働。2026年上半期は投資活動で500万ポンドを使用(Copwoodの完了が主) | 事実 |
| 買収・出資・合弁・事業売却 | (1) 出資の受け入れ:2025年9月30日に2,500万ポンドの新株発行(128,205,128株)。Atri Energy Transition(インド)とNext Gen Mobilityが引き受け。(2) ライセンス・製造提携:UESNT、C&D Inc.(中国)、International Resources Limited(香港)、Atri Energy(インド)。(3) 関連会社:Vanadium Electrolyte Rental Limited(バナジウム調達を目的、持分50%)、Invinity (HK) Limited(持分20%)。(4) 事業の売却・合弁の設立は確認できなかった | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | 英国政府(DESNZ):Copwoodに対し、LoDES計画の1,000万ポンドの補助(2023年に30万ポンド、2025年に910万ポンド、2026年に60万ポンドを計上)。米国エネルギー省:PNNL(12MWh)とDairyland(43MWh)の案件を資金面で支援。カリフォルニア・エネルギー委員会:PSG(32MWh)などの案件を支援。大学:2025年にスコットランドのストラスクライド大学の化学科と、バナジウム電解液の研究協力。英国国家富ファンド:約19%を保有する株主 | 事実 |
| スタートアップへの出資 | 確認できなかった | 確認できず |
次に、製造の拠点と主要な案件の状況です。段階は会社の発表の表現のままで、計画・目標は未確定/将来です。
| 製造拠点 | 場所 | 内容(会社の記載) | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自社工場 | スコットランドのバスゲートとモザーウェル、カナダのバンクーバー | 設計・製造・組立。2025年に半自動のスタック製造ラインを購入・稼働。2024年12月の会社資料は「年産1GWh近い」と記載 | 稼働。最新の年産能力は確認できなかった | 2025年12月期 | 出典1・6 |
| 中国のパートナー | 蘇州(Suzhou Baojia) | 会社の製造拠点の図に記載。UESNT/C&D Inc.との提携 | 提携の段階。生産量は確認できなかった | 2026年9月 | 出典3 |
| 米国の新工場 | 米国(場所は非公表) | Dairyland(43MWh)とPSG(32MWh)の電池を製造する計画。「2026年末までに設立する見込み」 | 計画(未確定/将来)。納入は2027年から | 2026年8〜9月 | 出典2・3 |
| 案件 | 場所 | 規模 | 段階(発表の表現) | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Copwood VFB Energy Hub | 英国イースト・サセックス(アックフィールド) | 20.7MWh(VS3)、3MWpの太陽光、3〜18時間 | 電池の納入は完了。系統接続はこれから(会社は2026年後半に接続の見込み)。接続後に試運転と収益の発生 | 2025年年次報告書、2026年9月 | 出典1・2・3 |
| FlexBase Group「Technology Centre Laufenburg」 | スイス・ラウフェンブルク | 初期1.5GWh(0.6GW)、第2期で2.1GWh。データセンター(500MW)に併設 | Invinityは設計(エンジニアリング段階)の契約。2026年5月21日に選定を発表、8月にEPC会社(Equans Switzerland)と合意。納入段階は2027年以降 | 2026年5月・8月 | 出典2・3・11 |
| Dairyland Power Cooperative | 米国中西部 | 43MWh(Endurium)。同社の最大の受注 | 販売契約を発表(2026年8月3日)。DOEのREVIVE計画の資金。納入は2027年後半から。米国の新工場で製造 | 2026年8月 | 出典10 |
| Pacific Steel Group「Mojave Micro Mill」 | 米国カリフォルニア州 | 32MWh(Endurium)、40MWpの太陽光 | 契約。カリフォルニア・エネルギー委員会の資金。納入は2027年から | 2026年 | 出典3 |
| PNNL(米国エネルギー省) | 米国ワシントン州 | 12MWh(Endurium) | 契約(会社の導入先の一覧)。2026年下半期の納入を計画する案件として中間発表が言及 | 2026年 | 出典2・3 |
| 英国のLDES Cap and Floor(上限・下限) | 英国 | 2025年の発表では、21件・16.7GWhの入札が適格性を得た。2026年9月の中間発表は、Frontier Powerの「Legacy」案件がWindow 1で進む、Invinityの電池は最大260MWhの見込みと記載 | Ofgemは2026年6月に、Window 1の暫定決定(minded-to)の意見募集を公表。最終の決定は確認できなかった | 2026年6〜9月 | 出典1・2・7 |
会社によると、VFBはバナジウムを含む水系の電解液の中で、イオンの価数が変わる反応(酸化還元)だけで充放電し、固体の電極に金属を析出させないため、「デンドライト(針状の析出物)やめっきが起きない」と説明しています 事実(公式サイト)。年次報告書は、バナジウムが電解液の価値の約3分の2、電解液が電池の到着原価の4分の1〜3分の1を占め、バナジウムの市場価格が5%変わると電解液の価値が約3%変わると述べています。バナジウムは主に鋼の強化に使われ、先物などで価格を固定できる成熟した市場ではないとも書いています。 このため、素材側で効くのは、(1) バナジウムの調達と価格:Invinityはバナジウム調達を目的とする関連会社(Vanadium Electrolyte Rental Limited、持分50%)を持ちます。(2) 電解液の組成と寿命:2025年にストラスクライド大学とバナジウム電解液の共同研究。(3) スタックの膜と電極:製品の仕様は公開されていません。 会社は「約30年の寿命」「容量の劣化がない」「2万回超の深い充放電」と説明しますが、これらはメーカー公称で、試験条件(温度・放電深度・レート)の記載は確認できませんでした。第三者のDNVが2022年と2024年に実施した「バンカビリティ(金融機関が融資しやすいか)」の検討と、2025年の製品の検証報告書があると会社は述べますが、報告書自体は確認できませんでした。 本シリーズの技術解説「レドックスフロー電池」「長時間蓄電(鉄空気・亜鉛系)」も参照してください。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2020年 | 英国のredT energy plcがInvinity Energy Systemsに社名を変更(2020年4月の登記変更の書類)。製造・設計はスコットランドとカナダ | 現社名での事業の開始 |
| 2022年・2024年 | DNVが、製品の「バンカビリティ」の検討を実施(会社の記載) | 金融機関向けの外部検証(報告書は確認できず) |
| 2023年 | 売上2,200万ポンド。LoDES計画のDESNZ補助金(総額1,000万ポンド)の交付対象となり、30万ポンドを計上 | 2024年以降の売上と大きく異なる |
| 2024年8〜12月 | 8月に最初のEnduriumを製造(コスト削減の起点)。11月に、ジャージー法人から英国法人への持株会社の移管(redomiciliation)の手続きを株主に案内。12月の会社資料は、Enduriumを「最近発売」と記載 | 製品の世代交代 |
| 2025年1月9日 | 持株会社を英国法人に移管(1株対1株の交換) | 組織の簡素化 |
| 2025年3月 | スペインLa Plana(V-ION)で、ABB Renewable Energy(旧Gamesa Electric)が最初のEndurium(1.2MWh)を試験 | 現地での外部試験 |
| 2025年9月 | Endurium Enterpriseを発売。30日にAtri Energy TransitionとNext Gen Mobilityによる2,500万ポンドの新株発行 | 商業・産業向けと、資金・インド市場 |
| 2025年10月〜12月 | 英国のLDES Cap and Floorで、16.7GWh分(21件)の入札が適格性を得たと会社が記載。12月に、Endurium Enterpriseの最初の販売(フランスの水産会社) | 政策主導の案件への参加 |
| 2025年9月〜2026年1月 | 中国・香港・インドのパートナーとの関係を拡大(2025年9月に中国で調印、2026年1月のIndia Energy Weekに出展) | 地域別の製造提携 |
| 2026年5月21日 | FlexBase Groupに、スイスのTechnology Centre Laufenburgの最大1.5GWhのVFBを設計することが選定されたと発表 | GWh級の案件の最初の公表 |
| 2026年6月 | 2025年12月期の決算と年次報告書を公表(6月上旬に結果説明) | 開示による |
| 2026年8月 | 3日にDairyland Power Cooperativeから43MWhの受注。11日にFlexBaseの案件でEquans SwitzerlandとEPC契約。会社が累計10GWhの放電を発表 | 米国・欧州の大型案件 |
| 2026年9月 | 21日に中間決算を発表。放電の累計11GWh、受注残77MWh超。非常勤会長のNeil O'Brien氏が、退任の意向を表明(後任選定中)。Volker Beckers氏が社外取締役に就任 | 経営体制の変更 |
7. 今後の計画
上の数字は会社の目標・見込みであり、実績ではありません 未確定/将来。ほかに、次の計画が公式資料にあります。
- Copwood:系統接続を完了し、試運転と収益の発生へ(接続の見込みは2026年後半)
- 英国のLDES Cap and Floor:Window 1の最終決定(Ofgem)は確認できず。Frontier Powerの「Legacy」案件でInvinityの電池は最大260MWhの見込み
- フレームワーク合意(署名済みのMoU・基本契約)は0.8GWh、開発中のパイプラインは11.8GWh(会社の指標。受注ではなく、確度も異なる)。会社の収益の見通しは、フレームワーク分が2028年に157百万ポンド、開発分が2028年に71百万ポンド(リスク調整後)
- 新たな資金:事業の拡大と2027年6月以降のために、取締役は追加の資金が必要になると見込む(年次報告書・中間発表)
- 会長の交代:Neil O'Brien氏の後任を選定中
Enduriumの往復効率・エネルギー密度の公表値/Enduriumのスタックの膜・電極の仕様/各製造拠点の最新の年産能力(GWh)/米国の新工場の所在地と投資額/FlexBaseの納入(フルフィルメント)段階の契約と金額/英国のLDES Cap and Floor Window 1の最終決定/DNVの報告書の本文/最新の資金調達の計画(2026年9月の中間発表以降)。いずれも、確認した年次報告書・中間決算発表・公式サイトに記載がありません。
8. この会社は次世代蓄電で何を目指しているか
会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 目指す姿は「技術のリーダーから、商業規模で拡大する蓄電事業へ」 | 2026年9月の中間発表資料が「技術のリーダーから、商業的に規模を拡大する蓄電事業への移行」と記載。年次報告書の戦略は、LDES案件の受注、商業・産業とデータセンターの拡大、製造の拡大、上流のコスト低減を挙げる | 事実(会社の説明) |
| 当面の最優先は製品コストの削減と思われる | Endurium対VS3で66%のコスト削減を、予定より18か月早く進めていると会社が説明。2030年に初期費用でリチウムイオンと競える水準を目標とする | 事実/推測(優先順位) |
| 製造は地域ごとのパートナー製造を広げる方針 | 年次報告書が、UESNT、Atri、C&Dとの提携による「資本支出が比較的少ない、パートナー主導の製造モデル」と、各地域のローカルコンテンツ要件への対応を挙げる。米国の新工場も計画 | 事実 |
| 用途は政策主導のLDES案件、データセンター、産業へ広がっている | 英国のCap and Floor、米国DOEとカリフォルニア・エネルギー委員会の資金による案件、スイスのデータセンターに併設するFlexBase案件 | 事実/推測(傾向) |
「用途が、政策主導のLDES案件とデータセンターへ広がっている」と読む根拠は、2025〜2026年に公表された大型案件の資金の出所です。 2026年に公表された案件のうち、Dairyland(43MWh)は米国エネルギー省のREVIVE計画、Pacific Steel Group(32MWh)はカリフォルニア・エネルギー委員会、Copwood(20.7MWh)は英国DESNZの補助金(1,000万ポンド)の支援を受けています 事実。 また、最大規模のFlexBase(初期1.5GWh)は、データセンターとテクノロジー拠点に併設される計画で、現時点の契約は設計の段階です 事実。 このため本稿は、会社の大型案件は、公的な資金や政策の枠組みと、データセンターの電力需要に依存していると読みます 未確定/将来。会社が述べた方針ではなく、本稿の解釈です。会社自身も、助成金と公共調達への依存を「高い可能性・高い影響」のリスクとして挙げています。
9. 次世代蓄電分野の提携マッピング
Invinityの提携関係の特徴は、資金の出し手(英国国家富ファンド、Atri Energy、Next Gen Mobility)が、同時に大株主や市場開拓のパートナーになっていることです 事実。 国家富ファンドは約19%、Atri EnergyとNext Gen Mobilityは各約11%を保有します。2025年9月の2,500万ポンドの新株発行は、後者の2社が引き受け、インドでの商談の開拓に結びつけたと会社は説明します。 製造では、UESNT、C&D Inc.(中国)など、地域のパートナーとの提携を広げています。一方で、電池部材(膜・電極・バナジウム)の個別の供給元の社名は、確認した資料に記載がありません。この点は本稿は推測しません。
10. 提供している技術・製品・サービス

製品は年次報告書と同社公式サイトの記載の範囲で整理します。性能値はメーカー公称で、試験条件が載っていないものは条件不明と書き、他社との比較はしません。
| 区分 | 公式資料に載っている内容 | ひとこと |
|---|---|---|
| Endurium(大規模向け) | 構成の幅:出力3〜100MW超、エネルギー12〜500MWh超、放電時間4〜18時間。1モジュールは340kWh。二段・三段に積み重ねて設置できる。放電深度100%。会社は「寿命30年超」「無制限のサイクル」と説明 | 往復効率、エネルギー密度の公表値は確認できなかった。仕様書(スペックシート)は公式サイトにあるが、本稿は確認していない |
| Endurium Enterprise(商業・産業向け) | 構成の幅:出力1〜20MW、エネルギー4〜80MWh、放電時間3〜18時間。2025年9月に発売、12月に最初の販売 | 電池の背後(behind-the-meter)での用途 |
| VS3(前世代) | 構成の幅:出力0.7〜10MW、エネルギー2〜40MWh、放電時間2〜12時間。納入済み電池の中心。Endurium対VS3で、単位コストを最低66%削減する目標(会社) | Copwoodの20.7MWhなど、既納入の多くがVS3 |
| 会社が挙げる性能(メーカー公称) | 2万回超の深い充放電、容量の劣化なし、30年超の寿命、デンドライトの生成なし(会社の説明)。非可燃で、電解液は水系。ABBによるLa Planaでの現地試験、DNVの製品検証の報告書(会社の記載) | いずれもメーカー公称で、試験条件(温度・DoD・レート)の記載を確認できなかった |
| サービス・ライセンス | 設置・試運転の支援、遠隔の監視と最適化、ライセンス・ロイヤルティ契約(2025年のロイヤルティ収入は96万ポンド) | 収益源は電池の販売が中心 |
| 規格・認証 | 年次報告書・公式サイトに、UL 9540Aなどの試験結果の記載は確認できなかった | 認証書・試験報告書は確認できず |
VFBは、正極側と負極側の両方に同じ元素(バナジウム)の異なる価数のイオンを使うため、電解液が長い年月のあいだに交差して混ざっても、原理的には電解液を再生して使い続けられると一般に説明されます 未確定/将来(一般的な説明で、Invinityの設計の記述ではありません)。会社は「容量の劣化がない」と述べますが、膜(セパレーター)やスタック、ポンプの劣化・交換の周期と、それにかかる費用は、確認した資料に記載がありません。 年次報告書は、2025年末の保証引当金0.2百万ポンドと契約損失引当金2.2百万ポンド(引当の合計は2.4百万ポンド)を挙げ、その費用は旧世代システムの保守と、遠隔地2か所への輸送費の増加に関するものと説明しています 事実。 また、リスクとして、部品の一部を単一の調達先に頼っていた(電池の部品の20%から1%へ減らしたと会社が説明)ことと、バナジウムの価格変動を挙げています。 本シリーズの技術解説「レドックスフロー電池」「電池の評価と劣化」も参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 資金と現金の減少 | 現金は2025年末の2,880万ポンドから、2026年6月末に1,050万ポンドへ。上半期の営業キャッシュフローは△1,290万ポンド、損失は1,210万ポンド。会社は資金調達リスクを「高い可能性・高い影響」とし、取締役は2027年6月までは現金が残ると予測しつつ、期間後の資金と拡大のために追加の資金が必要になると見込む | 事実 |
| 売上の振れと下半期への偏り | 売上は2023年2,200万ポンド、2024年500万ポンド、2025年820万ポンドと大きく変動。2026年上半期は110万ポンドで、通期は下半期に強く偏る見込み(案件の納入時期次第) | 事実/未確定/将来 |
| 受注から納入・売上への転換 | 案件は、開発者の資金調達の完了など、第三者の進行に左右される(「複数の当事者のプロジェクトのリスク」を高・高と会社が記載)。FlexBaseは設計の段階。フレームワークとパイプラインは確度が低いと会社が説明 | 事実 |
| 公的資金・制度への依存 | 補助金と公共調達は「高い可能性・高い影響」のリスク。2025年の補助金は910万ポンドで、売上と補助金の合計(1,780万ポンド)の約51%本稿の計算。英国のLDES Cap and Floorは最終決定が未確認 | 事実/未確定/将来 |
| バンカビリティ | 金融機関の融資は、技術が「確立」されるまで遅れやすいと会社が記載(高・高)。Copwoodの運転データを金融機関に共有する計画 | 事実 |
| 価格競争・サプライチェーン | リチウムイオン電池の価格競争、部品の単一調達先(20%から1%へ縮小)、バナジウム価格(5%の変動で電解液の価値が約3%動く)、関税 | 事実 |
| 製造の拡大と海外拠点 | 米国の新工場(2026年末までに設立の見込み)、中国・インドのパートナー製造。知的財産の移転のリスクを会社が低・中として記載 | 事実/未確定/将来 |
| 経営体制の変更 | 会長が退任の意向(後任選定中)。2025年に取締役の入れ替え。CFOとCEOは在任 | 事実 |
| 外部検証の難しさ | 寿命・劣化・効率の性能値は、メーカー公称で、試験条件が公開されていない。DNVの報告書の本文は公表資料で確認できなかった | 未確定/将来 |
本稿は企業の概要を整理したもので、電池や蓄電設備の設計・設置・安全に関する助言ではありません。蓄電設備の設置・運用は、各国の法令・規格・事業者の安全基準に従います。
12. 用語集
- バナジウムフロー電池(VFB)
- バナジウムイオンを含む電解液を外部のタンクに貯め、ポンプでスタックに流して充放電する電池。正極・負極とも同じバナジウムの価数の違いを使う。
- AIM
- ロンドン証券取引所の成長企業向け市場。Invinityの普通株はAIMの記号IESで取引される。
- RNS(規制ニュースサービス)
- ロンドン証券取引所の上場企業が、重要な情報を公表するための公式な配信の仕組み。
- LDES Cap and Floor(上限・下限)
- 英国の長時間蓄電向けの制度。収益が下限を下回れば電気料金の一部から補填し、上限を超えれば消費者に還元する(Ofgemの説明)。
- LoDES
- 英国DESNZの長時間蓄電の実証計画。InvinityのCopwood案件が1,000万ポンドの補助を受けた。
- バンカビリティ(bankability)
- 金融機関が、その技術を使う案件に融資しやすいと判断できる度合い。
- EPC
- 設計・調達・建設を一括して請け負う契約。
- VS3/Endurium/Endurium Enterprise
- Invinityの電池の世代と型。VS3が前世代、Enduriumが大規模向けの現行品、Enterpriseが商業・産業向け。
- 受注残(Order Book)/フレームワーク/開発パイプライン
- 会社の区分。署名済みの無条件の契約/署名済みのMoU・基本契約など/調達手続き中の案件。確度は順に低くなる。
- DNV
- 第三者の技術評価・認証機関。Invinityの製品の検討(2022年・2024年)を実施したと会社が記載。
13. 出典
- Invinity Energy Systems 2025 Annual Report & Financial Statements(2025年12月期、2026年6月公表、PDF)。事業の概要、財務、リスク、主要株主、補助金、Copwoodの事例。 https://invinity.com/wp-content/uploads/2026/06/Invinity-Energy-Systems-plc-2025-Annual-Report.pdf
- Invinity Energy Systems 2026 Interim Results(2026年6月期の中間決算発表、2026年9月21日のRNS。ロンドン証券取引所の配信をInvestegateが掲載)。 https://www.investegate.co.uk/announcement/rns/invinity-energy-systems--ies/2026-interims-results/9780784
- Invinity Energy Systems 2026 Interim Results 説明資料(2026年9月22日、PDF)。案件、製造拠点、コスト削減、パイプライン、財務。 https://invinity.com/wp-content/uploads/2026/09/2026-Interims-Presentation-22-Sept-2026-WEB.pdf
- Invinity Energy Systems 公式サイト「Vanadium Flow Batteries」。製品の構成(Endurium、Endurium Enterprise、VS3)と公称の仕様。 https://invinity.com/vanadium-flow-batteries/
- Invinity Energy Systems 公式サイト「Vanadium Flow Battery Lifespan」。寿命と劣化に関する公称。 https://invinity.com/vanadium-flow-battery-lifespan/
- Invinity Energy Systems 会社資料(ファクトシート、2024年12月、PDF)。年産能力、Endurium、パートナー。 https://invinity.com/wp-content/uploads/2024/12/Invinity_factsheet_Dec24.pdf
- 英国ガス・電力市場局(Ofgem) 「Long duration electricity storage」のページ。LDES Cap and Floor制度、Window 1の暫定決定(minded-to)の意見募集。 https://www.ofgem.gov.uk/energy-policy-and-regulation/policy-and-regulatory-programmes/long-duration-electricity-storage
- Invinity Energy Systems 公式サイトのトップページ(ロゴ画像の取得元、製品群、会社の概要)。 https://invinity.com/
- Invinity Energy Systems 公式サイト「Shareholder Documents」。年次報告書、株主への通知、再編(redomiciliation)の書類。 https://invinity.com/investors/shareholder-documents/
- Invinity Energy Systems RNS「43 MWh Sale to U.S. Power Cooperative」(2026年8月3日)。Dairyland Power Cooperativeの受注。 https://www.investegate.co.uk/announcement/rns/invinity-energy-systems--ies/43-mwh-sale-to-u-s-power-cooperative/9699759
- Invinity Energy Systems RNS「Progress on FlexBase Project Delivery」(2026年8月11日)。Equans SwitzerlandとのEPC契約。 https://www.investegate.co.uk/announcement/rns/invinity-energy-systems--ies/progress-on-flexbase-project-delivery/9714407
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の数値は、Invinity Energy Systems plcの2025年12月期の年次報告書、2026年6月期の中間決算発表(RNS)と説明資料、同社の公式サイト、英国Ofgemの公開ページに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値、および会社の資料に載っている市場予測や第三者の市場シェア予測は使用していません。会社の財務状況や技術を評価するものではなく、「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。