INSTITUTION PROFILE / 次世代蓄電
連邦エネルギー規制委員会(FERC)
― 米国の卸電力市場と送電を規制し、蓄電の市場参加のルールを決める独立委員会
連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、米国の卸電力市場と州をまたぐ送電を規制する独立の規制機関です。 蓄電については、Order 841(2018年)で蓄電が卸電力市場に参加するためのルールを、Order 2222(2020年)で分散型エネルギー資源(家庭や事業所の電池を含む)をまとめて市場に出す仕組みを、 地域の送電機関(RTO/ISO)に求めました。 一方で、電池そのものの安全規格は定めません。それはNFPAやUL Solutionsなどの規格団体と、各地の防火当局の領域です。小売や配電に関わる規制は、州の公益事業委員会が持っています。 本稿では、FERCが次世代蓄電にどこまで影響を持つのかを、権限の種類と日付で整理します。

- 30秒でわかるFERC
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 次世代蓄電で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるFERC
(Federal Energy Regulatory Commission)略称 FERC。米国エネルギー省(DOE)の中に置かれた独立規制委員会
FERCは「蓄電を市場でどう扱うか」を決める機関であり、「電池が安全か」を決める機関ではありません。 Order 841(2018年2月15日発出)は、地域の送電機関に、蓄電が容量・エネルギー・補助サービスの市場に参加するための参加モデルを作らせ、参加の最小規模を100kW以下とするよう求めました 事実。 Order 2222(2020年9月17日発出)は、家庭や事業所の電池を含む分散型エネルギー資源を、まとめて(集約して)市場に出せるようにする規則です 事実。 どちらも、連邦電力法第206条に基づく、地域の送電機関の市場ルールの是正です。市場に参加する電池の火災対策や設置の可否は、この規則の対象ではありません。 なお、FERCの予算説明書に出てくる「貯蔵(storage)」は天然ガスの貯蔵(地下貯蔵施設)で、電池の蓄電とは別のものです。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
次世代蓄電の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では電池を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。FERCは「政策・規制を決める」型で、とくに電力市場のルールを決めます。 資金を配る機関ではなく、規格を作る機関でもありません。
3. 次世代蓄電で何をしているか
FERCの蓄電への関わりは、RTO/ISOの市場ルールの是正(Order 841・2222)、系統連系のルール(Order 2023)、それ以外の権限との区別の3つに分けて見ると整理できます 事実。RTO/ISOは、地域の送電網と卸電力市場(容量・エネルギー・補助サービス)を運営する機関です。
蓄電に関わる主な最終規則:日付と内容
| 規則 | 日付(一次情報) | 内容 | 段階 |
|---|---|---|---|
| Order 841 蓄電の市場参加 | 発出 2018年2月15日/官報 2018年3月6日(83 FR 9580)/発効 2018年6月4日/docket RM16-23 | 蓄電を「電力網から受け取って貯め、後で電力網へ戻せる資源」と定義。RTO/ISOは、①蓄電が技術的に提供できる容量・エネルギー・補助サービスをすべて提供できる、②卸の売り手にも買い手にもなって市場価格を決められる、③蓄電の物理的・運転上の特性(充電状態など)を入札の条件などに反映する、④参加の最小規模を100kW以下にする、という参加モデルを用意する。市場から買って転売する電力は卸の地点別限界価格で取引する。連邦電力法第206条に基づく。各RTO/ISOは、官報掲載から270日以内に市場規則の変更を提出し、さらに365日以内に実施する | 事実 施行済み |
| Order 841-A | 官報 2019年5月23日(84 FR 23902)/発効 2019年8月21日 | 再審理の申立てに対し、Order 841の判断を概ね維持 | 事実 |
| 裁判所の判断 | 連邦控訴裁判所(D.C.巡回区)2020年7月10日、No. 19-1142、964 F.3d 1177 | 全米公益事業規制委員協会(NARUC)が申立人、FERCが被申立人。検索で「Order No. 841」の語を含む判決として確認した。判決の内容と対象の規則は、本稿では確認していない | 未確定/将来 内容は未確認 |
| Order 2222 分散型資源の集約 | 発出 2020年9月17日/官報 2020年10月21日(85 FR 67094)/発効 2020年12月21日/docket RM18-9 | 分散型エネルギー資源(配電系統や需要家側にある資源で、蓄電、分散型発電、デマンドレスポンス、電気自動車とその設備などを含む)を集約して、RTO/ISOの市場に出せるようにする。各RTO/ISOは、集約の参加モデル、最小規模を100kW以下にすること、位置の要件、計測、配電事業者や小売規制当局との調整などを市場規則に定める。前年に400万MWhを超える電力を配電した事業者の顧客を含む集約は、RTO/ISOが入札を受け付ける。400万MWh以下の事業者の顧客を含む集約は、小売の規制当局が認めない限り、受け付けない。RTO/ISOの市場規則の提出期限は規則上2021年9月17日(その後の各RTO/ISOの個別の期限は確認していない) | 事実 施行済み。各地域の実施状況は確認していない |
| Order 2222-A/2222-B | 2222-A:官報 2021年3月30日(86 FR 16511)、発効 2021年6月1日/2222-B:官報 2021年6月28日(86 FR 33853)、発効 2021年8月27日 | 再審理の申立てに対し、Order 2222を一部取り消し、一部を明確にした | 事実 |
| Order 2023 系統連系 | 発出 2023年7月28日/官報 2023年9月6日(88 FR 61014)/発効 2023年11月6日/docket RM22-14 | 発電設備の系統連系の手続(待ち行列の滞留の解消)を改める。蓄電に関わる点:複数の発電設備が同じ敷地で1つの接続点を共有して1つの申請で連系できる(共設)、系統連系の検討で、蓄電の充電の仕方を反映した運転の前提を使う | 事実 施行済み |
| 小売DR集約者に関する意見募集の取り下げ | 官報 2026年4月21日(2026-07713) | 小売のデマンドレスポンスの集約者の市場参加を扱う規則の見直しに関する意見募集を取り下げた | 事実 |
※蓄電の最小規模「100kW以下」は、RTO/ISOが設定できる上限で、各地域が100kWより小さくしてもよい(規則の文言は「100kWを超えない」)。官報の日付は掲載日で、委員会の発出日と異なります。2026年4月の取り下げ通知の詳しい内容と、それ以降の動きは本稿では確認していません。
他の権限との区別:同じ「蓄電」でも所管が違う
| FERCの権限 | 内容(一次情報) | 電池の蓄電との関係 |
|---|---|---|
| 卸売と送電の規制(連邦電力法第201条) | 州間の送電と卸売の電力販売に適用される。発電設備、配電設備、州内だけの送電設備には、法律に定める場合を除いて管轄がない | 電池が卸市場に売るときの市場のルール(Order 841・2222)。電池の設備そのものや、配電に接続する設備の設置は管轄外 |
| 信頼性基準(連邦電力法第215条) | FERCは、電力網の運用の信頼性とサイバーセキュリティの必須の基準の策定と順守を、電力信頼性機構(NERC)を通じて監督する | 電力網の運用に関する基準。電池そのものの火災・安全の基準ではない |
| 天然ガスの貯蔵(天然ガス法) | 天然ガスの地下貯蔵施設などの建設を審査する(FERCの予算説明書) | 名前に「貯蔵」が入るが、電池の蓄電とは別 |
| 水力発電の許認可 | 連邦以外の水力発電事業の許認可と安全検査(FERCの予算説明書) | 本稿は、揚水発電がこの対象かどうかを確認していない |
Order 841が求める参加モデルは、蓄電の物理的・運転上の特性(充電状態、放電の継続時間、充放電の切り替えなど)を市場の入札に反映させる仕組みです。 電池の材料や化学が変えるのは、まさにこの特性(劣化の仕方、出力、効率)なので、材料の改良が、市場でどんな入札条件になるかという形でFERCの規則と接点を持ちます。 ただし、FERCは電池の材料や性能の基準そのものは定めません。市場でどう扱うかを決めるだけで、電池の安全・性能の基準は、規格団体や認証機関の領域です。 また、Order 2023の「充電の仕方を反映した検討」は、蓄電が系統連系の検討でどう扱われるかを変える点で、事業者の設計に影響します。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | FERCが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 市場の規則 | RTO/ISOの卸電力市場のルール(容量・エネルギー・補助サービス)を、公正で合理的で差別的でないものに是正する権限(連邦電力法第206条)。蓄電の参加モデル、最小規模、分散型資源の集約を要求できる | 市場をどの地域が採用するか、蓄電をいつ作るかの決定。個別の電池事業者への補助 |
| 送電・系統連系 | 州間の送電の料金と条件、発電設備の系統連系の標準手続(Order 2023) | 州内だけの送電や配電(州の所管)。発電設備そのものの設置の許可 |
| 州との分担 | 卸売と送電は連邦(FERC) | 小売、配電、設置の許可は州が持つ。Order 2222では、400万MWh以下の事業者の顧客を含む集約は、小売の規制当局が認めない限り入札できない。NARUC(州の規制当局の団体)は、Order 841の意見募集の段階で、州の権限が損なわれないよう求めていた |
| 安全規格・認証 | なし(FERCの予算説明書の任務に電池の安全規格は含まれていない) | 電池や蓄電システムの安全規格・設置規格はNFPA・UL Solutions・IECなどの規格団体、設置の可否は規格を引用する自治体と消防当局 |
| 税・補助 | なし | 蓄電の税額控除は財務省とIRS、研究・製造の補助や融資はDOE。FERCは運営費を、規制対象の業界の課徴金と手数料でまかなう |
| 地域 | 米国。FERC管轄の卸電力市場と州間送電 | 州内で完結する系統、他国の市場 |
| 規模 | 職員 約1,500人(2026会計年度の要求1,474人)、委員5人まで、13の部門 | 蓄電の担当だけの人数は確認できなかった |
DOE(エネルギー省)はFERCを内部に置く省ですが、FERCはDOEの他の部署の監督を受けません(DOE組織法)。ただしDOEの長官は、FERCの管轄内の事項について規則案を提案でき、FERCは適切な時間内に最終判断を下す必要があります(同法第403条)。 NERC(北米電力信頼度機構)は、FERCが認証した電力信頼性機構で、電力網の運用の信頼性基準を作ります。州の公益事業委員会は、小売と配電を規制する別の機関です。 電池の安全と設置は、これらのどれでもなく、規格団体と自治体の防火規則の領域です。
5. 関わっている企業・組織
FERCの規則は、FERCが決め、RTO/ISOが自分の市場ルールに落とし込み、蓄電事業者や集約者が使うという流れで届きます。図2は、この流れと、FERCの所管ではない領域を並べたものです (各段階の根拠は第3章の最終規則)。
FERCの最終規則に名前が出る組織(抜粋)
| 組織 | FERCとの関係(一次情報) | 本シリーズとの関係 |
|---|---|---|
| RTO/ISO(6つの地域機関) | Order 841・2222で、市場規則を改める義務を負う。Order 841の規則本文には、MISOとCAISOが、多数の小規模資源を扱うためのソフトウェアの更新に懸念を述べたと記載される | 蓄電事業者が市場に参加する窓口 |
| NARUC(全米公益事業規制委員協会) | 州の公益事業委員会の団体。Order 841・2222の意見募集で、州の権限が損なわれないよう求めた | 州と連邦の分担の当事者 |
| NERC(北米電力信頼度機構) | FERCが認証した電力信頼性機構(ERO)。FERCは、その基準を承認し、順守を監督する | 電力網の信頼性。電池の安全基準ではない |
| DOE(米国エネルギー省) | FERCを内部に置くが、FERCは独立。DOEの長官はFERCの管轄の事項について規則案を提案できる(42 U.S.C. 7173) | 本シリーズに米国エネルギー省の解説あり |
※個別の蓄電事業者や電池メーカーが、FERCの個別の命令でどう扱われたかは、本稿では確認していません。FERCは特定の企業を推奨・認定しません。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| Order 2222の分散型資源の集約は、地域ごとの実施が続く | 規則は2021年9月17日までの市場規則の提出を求めたが、各RTO/ISOの実施の期日と現状は本稿では確認していない | 推測 |
| FERCは、小売のデマンドレスポンスの集約者に関する見直しを、少なくとも今は進めない方向 | 2026年4月21日の官報で、小売DR集約者の市場参加に関する意見募集を取り下げた | 推測 |
| DOEの長官は、FERCに規則案を提案する道を持つ | DOE組織法第403条は、長官がFERCの管轄事項について規則案を提案でき、FERCが適切な時間内に最終判断を下すと定める。蓄電についての具体的な提案は、本稿では確認していない | 事実(法の定め)。蓄電への適用は未確認 |
| 電池の安全規格がFERCに移ることはない | FERCの任務は卸電力・送電・ガス・石油パイプライン・水力・信頼性で、電池の安全は含まれない。規格は規格団体の領域 | 推測 |
7. 用語集
- RTO/ISO
- 地域送電機関/独立系統運用者。地域の送電網と卸電力市場(容量・エネルギー・補助サービス)を運営する機関。
- 卸電力市場
- 電力会社などが、再販売のために電力を売買する市場。需要家への販売(小売)とは別で、連邦が規制する。
- 参加モデル
- ある種類の資源(ここでは蓄電)が、市場に入札・精算されるための決まりの組。
- 分散型エネルギー資源(DER)
- 配電系統や需要家側にある資源。蓄電、分散型発電、デマンドレスポンス、電気自動車などを含む(Order 2222の定義)。
- 連邦電力法第206条
- FERCが、不当な料金や規則を、公正で合理的なものに改めさせる権限の根拠。
- NERC
- 北米電力信頼度機構。FERCが認証した、電力網の運用の信頼性基準を作る機関。
8. 出典
- 米国法典 42 U.S.C. § 7171(FERCの設置、委員5人、任期5年、DOEの他部署の監督を受けない)。 https://www.law.cornell.edu/uscode/text/42/7171
- 米国法典 42 U.S.C. § 7173(長官とFERCによる規則案の提案、FERCの最終判断)。 https://www.law.cornell.edu/uscode/text/42/7173
- 米国法典 16 U.S.C. § 824(連邦電力法第201条。管轄の範囲と州との分担)。 https://www.law.cornell.edu/uscode/text/16/824
- 米国法典 16 U.S.C. § 824o(連邦電力法第215条。信頼性基準とERO)。 https://www.law.cornell.edu/uscode/text/16/824o
- FERC FY 2026 Congressional Justification(2025年6月。要求1,474人、成立額1,539人、5.2億ドル、全額回収、13部門、任務、天然ガス貯蔵)。 https://www.ferc.gov/sites/default/files/2025-06/FERC%20FY%2026%20Congressional%20Justification_6-20-2025.pdf
- 連邦官報(FERC) Order No. 841: Electric Storage Participation in Markets Operated by RTOs and ISOs(83 FR 9580、2018年3月6日。2018年2月15日発出、発効2018年6月4日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2018/03/06/2018-03708/electric-storage-participation-in-markets-operated-by-regional-transmission-organizations-and
- 連邦官報(FERC) Order No. 841-A(84 FR 23902、2019年5月23日、発効2019年8月21日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2019/05/23/2019-10742/electric-storage-participation-in-markets-operated-by-regional-transmission-organizations-and
- CourtListener Nat'l Assoc. of Regulatory Utility Commissioners v. FERC, 964 F.3d 1177(D.C. Cir.、No. 19-1142、2020年7月10日)。 https://www.courtlistener.com/opinion/4767139/natl-assoc-of-regulatory-v-ferc/
- 連邦官報(FERC) Order No. 2222: Participation of Distributed Energy Resource Aggregations(85 FR 67094、2020年10月21日。2020年9月17日発出、発効2020年12月21日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2020/10/21/2020-20973/participation-of-distributed-energy-resource-aggregations-in-markets-operated-by-regional
- 連邦官報(FERC) Order No. 2222-A(86 FR 16511、2021年3月30日、発効2021年6月1日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2021/03/30/2021-06089/participation-of-distributed-energy-resource-aggregations-in-markets-operated-by-regional
- 連邦官報(FERC) Order No. 2222-B(86 FR 33853、2021年6月28日、発効2021年8月27日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2021/06/28/2021-13442/participation-of-distributed-energy-resource-aggregations-in-markets-operated-by-regional
- 連邦官報(FERC) Order No. 2023: Improvements to Generator Interconnection Procedures and Agreements(88 FR 61014、2023年9月6日。2023年7月28日発出、発効2023年11月6日)。 https://www.federalregister.gov/documents/2023/09/06/2023-16628/improvements-to-generator-interconnection-procedures-and-agreements
- 連邦官報(FERC) Participation of Aggregators of Retail Demand Response Customers in Markets Operated by RTOs and ISOs(2026年4月21日。意見募集の取り下げ)。 https://www.federalregister.gov/documents/2026/04/21/2026-07713/participation-of-aggregators-of-retail-demand-response-customers-in-markets-operated-by-regional
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月10日/Troy Technical
本稿の日付と内容は、米国法典、連邦官報に掲載されたFERCの最終規則、FERCの議会向け予算説明書に基づきます。FERCの公式サイトは確認日にアクセス制限があり、直接は確認できていません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。