TECHNOLOGY EXPLAINER
蓄電の経済性
― LCOS(蓄電の均等化コスト)を自分で組み立てて読む
蓄電の値段としてよく見る「US$〇〇/kWh」には、電池セルの値段、パックの値段、設置済みのシステムの値段、そして寿命全体にならした均等化コスト(LCOS)が混ざっています。 同じ「コスト」でも、含む範囲が違えば値は何倍も変わります。この記事では、LCOSの式を自分で組み、仮定をすべて書いた基準ケースで感度を確かめたうえで、NREL・PNNL・DOE・IEAの公表値が何の範囲の数字なのかを読み分けます。材料(リチウムなど)の価格の影響も、予測ではなく計算で示します。

- 蓄電の経済性とは(3行でつかむ)
- LCOSの式 ― 分子は費用、分母は放電した電力量
- 構成要素 ― 7つのつまみと、公的資料での扱い
- 本稿の計算①:基準ケースの内訳
- 同じ言葉で境界が違う ― 充電電力費を入れるか
- 本稿の計算②:感度分析 ― どのつまみが効くか
- 素材技術者の視点①:寿命・サイクル・劣化は材料の仕事
- 公的機関の報告値の読み方 ― セル/パック/システム、年、範囲
- 本稿の計算③:持続時間と、設備費×サイクル数
- 材料コストの影響 ― リチウムの価格は何に効くか
- 素材技術者の視点②:材料の「価格」と「使う量」を分けて見る
- 限界と、確認できなかったこと
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値(仮定はすべて書いています)
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、材料や設計上の読み取りは「解説」として区別します。
価格の予測は使いません。過去の価格と、公的機関が公表した実績・前提だけを使い、「もし材料の価格がこれだけ動いたら」という計算を示します。電池の数値は、セル・パック・システムのどれかと、年・条件を添えます。
本記事は蓄電の経済性の仕組みを解説するもので、投資・調達・事業計画の判断の助言ではありません。
1. 蓄電の経済性とは(3行でつかむ)
- 何を測る数字か:LCOS(levelized cost of storage)は、蓄電設備の寿命にわたる総費用を、同じ期間に放電した電力量で割り、「放電した1 kWh(または1 MWh)あたり」にならした値です。PNNL(米国の国立研究所)は、LCOSを「放電エネルギーの処理量あたりの費用(US$/kWh)」で、設置費用(定格エネルギーあたり)よりも、技術を公平に比べられる指標だと説明しています事実[参考資料2]。
- 「LCOS」に共通の定義はない:Schmidtらの論文(Joule、2019年)は、LCOSの研究にはまだ共通の定義がなく、交換や廃棄の費用を無視する研究も、容量の劣化を無視する研究もある、と書いています事実[参考資料6]。本稿の計算では、同じ電池・同じ仮定でも、充電電力費を入れるかどうかだけで、LCOSは184 US$/MWhか141 US$/MWhかに分かれました(第5章)。
- 効くのは、価格よりも使い方:基準ケースから1項目ずつ動かすと、最も大きく動いたのは1日あたりのサイクル数(0.5回で321、2回で116 US$/MWh)で、次が充電電力価格と設備費でした本稿の計算(第6章)。材料の価格は、設備費のごく一部を通じて効きます(第10章)。
蓄電のコストは、「電池がいくらか」ではなく、「その電池を、何年、1日に何回、どれだけの効率で使い切れるか」で決まります。 電池メーカーの「US$/kWh」と、事業者が見る「US$/MWh(LCOS)」は、分母が違う別の数字です。材料の性能(寿命・サイクル・効率)は、この分母と寿命の項に入ります。
本シリーズ「水素の製造コスト」編は、水電解でつくる水素のLCOH(水素の均等化コスト)を、設備費の年価と電力費を足し、水素の量で割る式で組み立てています。本稿の式の骨格は同じです。違うのは3点です。分母が水素の量ではなく「放電した電力量」であること、電力は「つくる」のではなく「買って、損失を出して、返す」ため往復効率が効くこと、稼働率にあたるものが「サイクル数と放電深度」で、劣化と直結することです。水素側の議論(水電解の設備費、スタック交換)は同編に譲り、ここでは繰り返しません。
2. LCOSの式 ― 分子は費用、分母は放電した電力量
LCOSの定義は、年ごとの費用と放電量を割引率で現在価値にそろえ、費用の現在価値の合計 ÷ 放電量の現在価値の合計とするものです。PNNLの文書は、LCOSを「プロジェクトの総収入必要額を回収するために、放電した電力を売らなければならない平均の価格(US$/kWh)」と定義しています事実[参考資料3]。総収入必要額には、設置費、資金調達、運転維持費、税と減価償却、充電の費用、増設・交換・大規模補修(ARMO)が含まれます[参考資料3]。DOEのStorage Innovations 2030の文書は、ARPA-EのDAYSプログラムの式を使い、「年ごとの費用の現在価値 ÷ 年ごとの放電量の現在価値」の形で書いています事実[参考資料5]。
本稿は、これを、設備費を毎年の定額に直す「年価(資本回収係数 CRF)」で簡単にした形で使います。
LCOS = [ CRF × 設備費 + 固定O&M + 変動O&M × 放電量 + 充電電力価格 ÷ 往復効率 × 放電量 ] ÷ 年間の放電量
・CRF(資本回収係数)= r(1+r)n ÷ ((1+r)n − 1) (r:割引率、n:寿命〔年〕)。水素側の記事と同じ形です。
・年間の放電量(定格出力1 kWあたり)= 持続時間(h)× 年間のサイクル数 × 放電深度。劣化は、固定O&Mの中の「増設・交換」として入れるか、放電量の減少として入れるかを選びます(第7章)。
・往復効率は、放電した電力量に対する、充電に使った電力量の比(充電量 = 放電量 ÷ 往復効率)。
この簡略形が省いているものを先に書きます。税・減価償却・補助金(投資税額控除など)、資金調達の構造(自己資本と借入の比率)、インフレ、撤去費、残存価値、送電・市場の収入です。PNNLの計算は、税・減価償却・投資税額控除・資産税・保険を含み、撤去費は含みません事実[参考資料2・3]。簡略形で出した値は、これらの公的な計算と同じ尺度ではありません。
3. 構成要素 ― 7つのつまみと、公的資料での扱い
LCOSを動かす主なつまみは、設備費、往復効率、サイクル数、劣化、割引率、充電電力価格、運転維持費の7つです。公的資料がそれぞれをどう扱っているかを表にまとめます。
| つまみ | 何を表すか | 公的資料での扱い |
|---|---|---|
| 設備費 | 設置済みの設備の初期費用。電池キャビネット、インバータ、敷地、電気設備、工事、許認可、税、利益などの合計 | NREL(2025年)は、4時間・系統用リチウムイオン電池システムの2024年の設備費を、334 US$/kWh(2024年ドル)と置いています。10項目の積み上げ(キャビネット、インバータ、構造・電気の周辺設備、工事、許認可、税、予備費、事業者の間接費、利益)で、2024年の値は「Q1 2024の米国平均の設置を反映した市場価格モデル」です[参考資料1] |
| 往復効率 | 充電した電力量のうち、放電で戻る割合 | NRELは、システムの往復効率を85%と置いています。冷却や制御機器の損失を含む値と定義しています[参考資料1]。PNNLは、インバータ・整流器・変圧器の片道効率を各98%と置いています[参考資料4] |
| サイクル数 | 1年に何回、定格エネルギーを出し入れするか | NRELの変動O&Mと固定O&Mは1日1サイクルを前提にした値です。「かなり多くサイクルさせる場合は、この固定O&Mでは劣化を相殺できないかもしれない」とも書いています[参考資料1]。PNNLの計算は、休止時間と年間サイクル上限から、年間の放電量を求めます[参考資料3] |
| 劣化 | 容量の低下、出力の低下、抵抗の増加 | NRELは、固定O&Mの中に増設・交換の費用を入れ、定格容量を寿命まで保つと置いています(固定O&Mは、4時間設備の設備費〔US$/kW〕の4%)[参考資料1]。PNNLは、増設・交換・大規模補修(ARMO)を別立てで入れます[参考資料2・3]。DOEは、部品の寿命を、カレンダー寿命とサイクル寿命(÷放電深度×365)の小さい方で決めます[参考資料5] |
| 割引率 | 投資に求める収益率。高いほど、先払いの設備費が重い | PNNLの計算:名目の加重平均資本コスト(WACC)9.47%(実質6.49%)、税率25.7%、分析期間20年[参考資料4]。DOE:名目7.6%、インフレ2.0%、プロジェクト寿命25年[参考資料5] |
| 充電電力価格 | 充電に使う電力の購入価格 | PNNLは0.03 US$/kWh[参考資料4]。DOEは、充電の電力費をLCOSに入れず、往復損失分だけを0.025 US$/kWhで数えます[参考資料5] |
| 運転維持費(O&M) | 固定費(kW・年あたり)と変動費(放電量あたり) | NRELは、変動O&Mを0、固定O&Mを設備費の4%/年(増設・交換を含む)と置き、寿命は15年を、公表値の下の方に当たる保守的な値として選んでいます[参考資料1]。PNNLは、固定O&Mが年2%(実質)で上がると置きます[参考資料4] |
すべて事実(NREL、PNNL、DOEの公表資料。各機関が置いた前提であり、特定の事業の実績ではありません)。
NRELは、「US$/kWh」の設備費を示すときは持続時間を必ず添えることが重要だと述べています。4時間の設備は、定格出力で4時間放電できる設備で、US$/kWの設備費は「US$/kWh × 4」で換算できます(例:300 US$/kWhなら1,200 US$/kW)[参考資料1]。出力に比例する部分(インバータなど)と、エネルギーに比例する部分(電池)があるため、持続時間が長いほどUS$/kWhは下がり、US$/kWは上がります[参考資料1]。
4. 本稿の計算①:基準ケースの内訳
基準ケースは、NRELの2025年の資料が置いた値(設備費、固定O&M、寿命、往復効率)を土台にし、NRELが与えていない項目(割引率、充電電力価格)を本稿が仮定して置いたものです。仮定を全部、表に書きます。実在の特定の事業・メーカー・市場の条件を表すものではありません本稿の計算。
| 項目 | 基準値 | 根拠・位置づけ |
|---|---|---|
| 対象 | 4時間・系統用リチウムイオン電池システム(定格出力1 kWあたり) | NRELの対象に合わせる[参考資料1]。定格エネルギー4 kWh |
| 設備費 | 334 US$/kWh = 1,336 US$/kW | NREL(2025年)の2024年の値(2024年ドル、設置済み)[参考資料1] |
| 固定O&M | 設備費(US$/kW)の4%/年 = 53.4 US$/kW・年 | NRELの値。増設・交換を含み、定格容量が寿命まで保たれる前提[参考資料1] |
| 変動O&M | 0 | NRELの値[参考資料1] |
| 寿命 | 15年 | NRELの値(保守的に選んだ値)[参考資料1] |
| 往復効率 | 85%(システム) | NRELの値[参考資料1] |
| サイクル数 | 1日1回(年365回)、放電深度100% | NRELの値の前提。本稿は、利用率100%(故障・休止なし)とした |
| 割引率 | 7%(実質、単一値) | 本稿の仮定。DOEは名目7.6%・インフレ2.0%(実質約5.6%)、PNNLは実質6.49%[参考資料4・5] |
| 充電電力価格 | 40 US$/MWh | 本稿の仮定。充電時間帯によらず一定とする。PNNLは30、DOEの損失計算は25 US$/MWh[参考資料4・5] |
| 含めないもの | 税、補助金、資金調達の構造、インフレ、撤去費、残存価値、収入 | 簡略形(第2章) |
表の「根拠・位置づけ」の数値は事実(各機関の前提)。基準値の組み合わせは本稿の計算の前提です。
この仮定で計算すると、CRF(r=7%、n=15年)は0.1098、1 kWの設備が1年に放電する電力量は 4 h × 365 = 1,460 kWh です本稿の計算。各項は次のとおりです。
| 項 | 計算 | US$/MWh | 割合 |
|---|---|---|---|
| 設備費の年価 | 0.1098 × 1,336 ÷ 1.460 MWh | 100.5 | 55% |
| 固定O&M | 53.4 ÷ 1.460 MWh | 36.6 | 20% |
| 充電電力費 | 40 ÷ 0.85 | 47.1 | 26% |
| 合計(LCOS、定義A) | — | 184.1 | 100% |
すべて本稿の計算。割合は四捨五入のため合計が100%にならないことがあります。
基準ケースのLCOSは約184 US$/MWh(0.18 US$/kWh)で、設備費の年価が55%、固定O&Mが20%、充電電力費が26%です本稿の計算。電力がただでも、約137 US$/MWhが残ります。電池は「電気を売る」のではなく「電気を時間移動させる」設備なので、充電電力の価格は、LCOSの一部にしか入りません。
5. 同じ言葉で境界が違う ― 充電電力費を入れるか
ここまでのLCOSは、充電に使った電力の購入費を全額入れた形(定義A)です。PNNLの計算ワークブックは、LCOSを2通りの出力で示します。「充電費と往復損失を含む」ものと、「往復損失だけを含む」ものです事実[参考資料4]。一方、DOEのStorage Innovations 2030の文書は、「充電の費用はLCOSに入れない。それは、電力を供給する発電設備の発電コストに属する」という立場で、「往復効率が不完全なために失われる電力の費用は、蓄電の費用であり、入れるべき」として、損失分だけを0.025 US$/kWhの電力価格で数えています事実[参考資料5]。
本稿の基準ケースで、2つの境界を比べます(定義B:損失分だけ。損失 = 25 ÷ 0.85 − 25 = 4.4 US$/MWh)本稿の計算。
同じ電池・同じ仮定で、LCOSが184 US$/MWh(A)か141 US$/MWh(B)かになります。差の約43 US$/MWhは、すべて充電電力の扱いによるもので、電池の性能の差ではありません本稿の計算。DOEが公表する2030年の目標「10時間以上の蓄電で0.05 US$/kWh(50 US$/MWh)」は、90%の費用削減を目標にしたものですが未確定/将来[参考資料5]、これは充電費を除いた、25年寿命・放電深度80%・名目割引率7.6%などDOE固有の前提の値です。本稿の基準ケースの数値と並べて「あと何倍」と比べることは、同じ尺度でないため行いません。
① 充電の電力費を入れているか(全額/損失分だけ/入れない)。
② 税・補助金・資金調達を入れているか(PNNLは入れ、DOEの文書の計算は実質割引率の単一値)。
③ 寿命と、増設・交換の扱い(15年?20年?25年? 交換費は入るか)。
④ 持続時間・サイクル数・放電深度(1日1回なのか、何回なのか)。
この4つが書かれていないLCOSは、他の数字と並べて比べられません。
6. 本稿の計算②:感度分析 ― どのつまみが効くか
基準ケースから1項目だけを動かし、LCOS(定義A)がどう変わるかを調べます。動かす範囲は、第3章の公的資料に出てくる値と、本稿の判断で決めました。範囲の取り方で順位が変わるので、順位そのものより、「どの項目が桁で効くか」を見てください本稿の計算。
| 項目 | 基準値 | 有利側の値 | LCOS(US$/MWh) | 不利側の値 | LCOS(US$/MWh) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1日のサイクル数 | 1回 | 2回 | 116 | 0.5回 | 321 |
| 充電電力の価格 | 40 US$/MWh | 0 | 137 | 80 | 231 |
| 設備費(4時間) | 334 US$/kWh | 234 | 143 | 434 | 225 |
| 寿命 | 15年 | 20年 | 170 | 10年 | 214 |
| 割引率(実質) | 7% | 4% | 166 | 10% | 204 |
| 固定O&M(設備費に対する/年) | 4% | 2% | 166 | 6% | 202 |
| 往復効率 | 85% | 90% | 182 | 80% | 187 |
すべて本稿の計算。基準ケースは184 US$/MWh。1項目だけを変え、他は基準値のままです。
読み取れることは4つです本稿の計算。
- 最も効くのは「何回使うか」。1日2回なら116、0.5回なら321 US$/MWhと、約2.8倍の開きがあります。設備費の年価と固定O&Mは使っても使わなくても同じだけかかる費用なので、放電量(分母)が増えるほど、1 MWhあたりに薄まります。
- 充電電力の価格は、26%を占めるだけ。無料から80 US$/MWhまで動かしても、94 US$/MWhの幅です。蓄電では、充電と放電の価格差(スプレッド)が収入になるので、充電価格だけを見ても採算は判断できません(本稿は収入を扱いません)。
- 往復効率は、意外に効かない。80%から90%まで動かしても、5.6 US$/MWhしか動きません。往復損失は、充電電力費に比例して増えるだけだからです。ただし、効率は発熱(冷却)とも結びつくため、効率の悪さが寿命と設備費にはね返る効果は、この計算に入っていません。
- 設備費と寿命は、同じ桁で効く。設備費が10%下がると約14 US$/MWh(−7%)、寿命が15年から20年に延びると約14 US$/MWh(−8%)下がります。寿命を5年延ばす材料の改良は、設備費を約10%下げることと、ほぼ同じ価値です。
サイクル数を2回/日にしても、本稿の計算は固定O&M(4%)と寿命(15年)を変えていません。NRELは、固定O&Mの値が1日1サイクルを前提にしており、はるかに多く使うなら劣化を相殺するには足りないかもしれない、と述べています[参考資料1]。実際には、サイクル数を増やすと劣化が速く進み、寿命や交換費が悪化します。2回/日の116 US$/MWhは、劣化の悪化を入れていない有利側の見積もりで、実際の値はこれより高くなりえます。
7. 素材技術者の視点①:寿命・サイクル・劣化は材料の仕事
劣化は、LCOSの計算に2つの入れ方があります。
- (a) 増設・交換の費用として入れる。NRELの方式。固定O&Mの4%に含め、定格容量を寿命まで保つと置きます[参考資料1]。放電量(分母)は一定です。
- (b) 容量の低下として入れる。放電量が年々減る。増設はしません。
本稿が試しに(b)を計算すると、固定O&Mを1.5%(簡単な保守だけ)、容量が15年で初期の100%から70%まで直線的に落ちる(平均85%)と置いたとき、LCOS(定義A)は約181 US$/MWhで、(a)の184 US$/MWhとほぼ同じです本稿の計算(設備費の年価を平均の放電量で割り直し、放電量の割引は無視した概算)。2つの入れ方で数字が近くなったのは、置いた値の組み合わせの偶然であり、一般的な関係ではありません。
ここから材料の言葉に翻訳すると、次のようになります(解説)。
- 寿命と容量保持率は、分母と寿命の項に直結する。寿命が10年から15年に延びると、LCOSは約214から184 US$/MWhへ、約14%下がります本稿の計算。正極の構造劣化、電解液の分解、負極側のSEIの成長(本シリーズ「SEI」編)を抑えることが、LCOSを下げる直接の道です。
- サイクルあたりの劣化は、使い方(サイクル数、放電深度、温度、充電率)で変わる。寿命の数字は、「何回、どの深さ、どの温度」で測った値かを必ず確認します(本シリーズ「電池の評価と劣化」編)。
- 往復効率は、材料の分極(電極抵抗、イオン拡散、界面抵抗)で決まる。効率が悪いと発熱が増え、冷却設備と劣化の速さにはね返ります(解説)。
DOEの文書は、部品の寿命を「カレンダー寿命」と「サイクル寿命÷(放電深度×365)」の小さい方で決めています[参考資料5]。サイクルを重ねる用途では、カレンダー寿命ではなくサイクル寿命が寿命を決めることになり、材料に求められる性能が変わります。
8. 公的機関の報告値の読み方 ― セル/パック/システム、年、範囲
「蓄電のコスト」として引用される公的機関の数字は、何を対象に(セル・パック・システム・LCOS)、どの年に、どの範囲で測ったかが資料ごとに違います。次の表で、本稿が確認した範囲を整理します。
| 資料 | 対象(境界) | 年・基準 | 確認した内容 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|---|
| IEA『Global EV Outlook』2025・2026[参考資料7・8] | 電池パックの価格(EV向けと蓄電向けの加重平均) | 2024年、2025年 | 2024年に電池パック価格が20%低下(2017年以来の最大)、2025年に平均8%低下。リン酸鉄リチウム(LFP)パックは、2024年にNMCより1 kWhあたり約3割安 | 系統用システムの設備費ではない。IEAの注記によると、パック価格の指数はBloombergNEFの調査データにもとづくIEAの分析。用途・地域・化学で値が違う |
| NREL(2025年)[参考資料1] | 4時間・系統用リチウムイオンシステムの設置済み設備費 | 2024年(米国平均、2024年ドル) | 334 US$/kWh。積み上げモデルによる推計。NREL自身が「他の最近の推計の多くより高い」と述べる | 持続時間(4時間)に依存。システムの設備費であり、セル価格ではない。2035年・2050年の「予測」はこの記事では使わない |
| PNNL『Energy Storage Cost and Performance Database』v2024[参考資料2・3・4] | 技術ごとのLCOS(計算の出力) | 2023年の値、分析期間20年 | LCOSを、充電費と往復損失を含む形と、往復損失だけの形の2通りで出力。税・投資税額控除・ARMOを含み、撤去費は含まない | ワークブックの入力(設備費、効率など)次第で値が変わる。値は一つに決まらない |
| DOE『Storage Innovations 2030』方法論(2023年)[参考資料5] | LCOS(充電費を除く)と、2030年の目標 | 目標:2030年、10時間以上 | Long-Duration Storage Shotの目標は、グリッド規模の蓄電の費用を90%下げ、LCOSで0.05 US$/kWhにすること(10時間以上) | 目標であり実績ではない。寿命25年、放電深度80%、名目割引率7.6%などDOE固有の前提 |
| Schmidtら、Joule(2019年)[参考資料6] | 9技術・12用途のLCOSの推計と、投資費の見通し | 2015〜2050年 | LCOSの共通定義がまだないこと、研究ごとに含める費用や性能の項目が違うことを指摘 | 論文の値は将来の見通しを含む。本稿は値を使わず、定義の議論だけを引用 |
すべて事実(各機関の公表資料の要点)。異なる境界の値を、そのまま並べて優劣をつけないでください。
この表から、3つの読み方の規則を引き出せます。
- 「パック」と「システム」を混ぜない。パックは、セルに電池管理装置・熱管理・筐体を加えたもの(NRELの区分では「キャビネット」にあたる)で、システムは、そこにインバータ、敷地、電気設備、工事、許認可、税、利益が加わります[参考資料1]。パックの価格の下落が、そのままシステムの設備費の下落になるとは限りません。
- 年と通貨を揃える。NRELは2024年ドル、PNNLは2023年の値、IEAは暦年です。
- 「現在」と「目標・見通し」を分ける。DOEの0.05 US$/kWhは目標、NRELの2035年・2050年の値は見通しです。実績の表と、同じ列に並べないでください。
9. 本稿の計算③:持続時間と、設備費×サイクル数
(1) 持続時間を変える
NRELは、2024年のシステムの設備費を「エネルギーに比例する費用」と「出力に比例する費用」に分け、総費用(US$/kW)= エネルギー費(US$/kWh)× 持続時間 + 出力費(US$/kW)と置いています。持続時間を1〜10時間で動かして直線で当てはめた結果は、エネルギー費241 US$/kWh、出力費372 US$/kW(4時間で334 US$/kWに合わせる補正後)です事実[参考資料1]。この関係に、基準ケースの他の仮定を重ねて、持続時間ごとのLCOSを計算します。ただし、固定O&Mは設備費の4%/年、寿命15年、サイクルは1日1回・放電深度100%のまま、という単純化です本稿の計算。
| 持続時間 | 設備費(US$/kWh)= 241 + 372 ÷ 持続時間 | LCOS 定義A(US$/MWh) | LCOS 定義B(US$/MWh) |
|---|---|---|---|
| 2時間 | 427 | 222 | 180 |
| 4時間 | 334 | 184 | 141 |
| 6時間 | 303 | 171 | 129 |
| 8時間 | 288 | 165 | 122 |
| 10時間 | 278 | 161 | 119 |
すべて本稿の計算。設備費の式はNRELの当てはめ[参考資料1]。定義A:充電電力費40 US$/MWhを含む。定義B:往復損失のみ(25 US$/MWh)。
持続時間が長いほどLCOSは下がりますが、10時間でも定義Bで119 US$/MWhです。DOEの0.05 US$/kWh(50 US$/MWh)の目標とは、同じ尺度ではないとはいえ、大きな開きがあります。この表は、リチウムイオン電池の価格構造のまま長時間にした場合の単純な外挿で、実際に10時間のリチウムイオン電池が、同じ寿命・サイクル・劣化で運用できるかは別の問題です(本稿は判断しません)。長時間蓄電(鉄空気、亜鉛系など)の考え方は、本シリーズ「長時間蓄電」編で扱います。
(2) 設備費とサイクル数の組み合わせ
| 設備費(4時間)\1日のサイクル数 | 0.5回 | 1回 | 2回 |
|---|---|---|---|
| 234 US$/kWh | 239 | 143 | 95 |
| 334 US$/kWh(基準) | 321 | 184 | 116 |
| 434 US$/kWh | 403 | 225 | 136 |
すべて本稿の計算(LCOS 定義A、US$/MWh)。他は基準値。2回/日の列は、劣化の悪化を入れていない有利側の見積もり(第6章の限界)です。
設備費が434 US$/kWhでも、1日2回使えば136 US$/MWhで、設備費が234 US$/kWhでも0.5回なら239 US$/MWhです本稿の計算。設備が安いかより、設備が毎日働けるかのほうが、LCOSには大きく効きます。これは、水素の記事で「稼働率」が効くのと同じ構図です。
10. 材料コストの影響 ― リチウムの価格は何に効くか
材料の価格は、電池セルの費用を通じて、システムの設備費に入ります。ここでは、価格の予測は使わず、過去の公的な価格と、計算で示す感度だけを示します。
(1) 公的機関が書いている材料価格の変動
- 米国地質調査所(USGS)は、電池級炭酸リチウムの米国の年平均価格(実質)を、2021年 11,700、2022年 63,700、2023年 39,000、2024年 11,800、2025年(推定)9,000 US$/トンと示しています。2025年の年平均は、2024年より31%低く、2025年前半は供給過剰の懸念で低く、後半は中国と欧州の電気自動車の販売増と蓄電システムの需要増で上がった、と説明しています事実[参考資料9]。
- IEAは、2024年にリチウム価格が約2割下がり、電池パック価格が20%下がった(低い重要鉱物価格と競争が要因)としています[参考資料7]。2026年の版では、2025年の平均電池価格が8%下がったこと、リチウムとコバルトの価格が年内に上昇したこと、2026年初めのリチウム価格は前年同期の2倍以上だが、2022年のピークより約70%低いことを述べています。上昇が続けば、電池価格に上向きの圧力になりうる、とも書いています事実[参考資料8]。
つまり、リチウムの価格は、2021年から2025年(推定)の間に、年平均で約7倍の幅(9,000〜63,700 US$/t)で動きました本稿の計算(63,700 ÷ 9,000 = 7.1)。
(2) セル1 kWhに、リチウムはどれだけ入っているか(本稿の計算)
リチウムの価格の変動が、設備費にどれだけ効くかを、化学量論から計算します本稿の計算。
・正極材:リン酸鉄リチウム(LiFePO₄)。比容量150 mAh/g、平均電圧3.2 V(本稿の仮定。実際の値は材料と設計で違う)。セル1 kWhに必要な正極材は 1,000 Wh ÷ (0.15 Ah/g × 3.2 V) = 約2.08 kg。
・LiFePO₄のモル質量157.76 g/mol、Liの原子量6.94 → リチウムの質量分率4.40% → 2.08 kgの中のリチウム=0.0916 kg。
・炭酸リチウム(Li₂CO₃、73.89 g/mol)に換算:Li 1 kgあたり5.32 kg → 0.49 kgの炭酸リチウム/セルkWh。
・過剰仕込み、精製・加工の損失、他の材料(電解液のLiPF₆など)は含めない。電解液を1.2 kg/kWh・LiPF₆ 12 wt%と仮定すると、電解液由来のリチウムは炭酸リチウム換算で約0.035 kg/kWhで、正極の約7%。
| 年 | 炭酸リチウムの年平均価格(US$/t) | セル1 kWhあたりのリチウム分(US$) | システム設備費334 US$/kWhに対する割合 |
|---|---|---|---|
| 2021 | 11,700 | 5.7 | 1.7% |
| 2022 | 63,700 | 31.1 | 9.3% |
| 2023 | 39,000 | 19.0 | 5.7% |
| 2024 | 11,800 | 5.8 | 1.7% |
| 2025(推定) | 9,000 | 4.4 | 1.3% |
価格は事実(USGS[参考資料9])。それ以降の列は本稿の計算。割合は、2024年のNRELのシステム設備費(334 US$/kWh、2024年ドル)を分母にした概算で、年のドルの違いは補正していません。
2022年と2025年(推定)を比べると、セルのリチウム分は約26.7 US$/kWh動きます。この変動が、そのままシステムの設備費に1対1で転嫁されたと仮定すると、基準ケースのLCOSは約11 US$/MWh(約6%)動きます本稿の計算(設備費 334 → 361 US$/kWh)。実際の電池の販売価格は、リチウムの価格だけで決まらず、在庫、長期契約、製造能力、競争、関税などに左右されます。IEAも、長期契約と垂直統合が価格上昇の影響を和らげうると書いています[参考資料8]。本稿の計算は「材料の価格が動いたら」の感度で、実際の価格の予測ではありません。
NMC811(LiNi₀.₈Mn₀.₁Co₀.₁O₂)で、比容量200 mAh/g、平均電圧3.7 Vと仮定すると(本稿の仮定)、セル1 kWhの正極材は約1.35 kg、リチウムは約0.096 kg、炭酸リチウム換算で約0.51 kgです本稿の計算。LFPの0.49 kgとほぼ同じです。リチウム価格への露出は、1 kWhあたりでは、2つの化学で大きく変わりません。差は、ニッケルとコバルトの価格と、容量あたりの正極材の量にあります。IEAは、LFPのパックがNMCより1 kWhあたり約3割安だとしています[参考資料7]が、この差は、主にリチウム以外の費用の差だと読めます(解説)。

11. 素材技術者の視点②:材料の「価格」と「使う量」を分けて見る
リチウムの価格は、2021年から2025年に約7倍の幅で動きました。しかし、セルのリチウム分は、2022年の高値でも、設備費の9%ほどです(本稿の計算)。材料の価格の変動は、LCOSにはあまり効かないのです。
一方、材料の使う量は、設計で決まります。セル1 kWhあたりの正極材の量は、比容量と電圧で決まり、これが高いほど、少ない材料で同じエネルギーが出ます。ただし、その量を減らしても、LCOSの大きな項(設備費の年価、サイクル数、寿命)は変わらないのが、第6章の結論でした。LCOSにとって、材料の本当の価値は「安い」より、「長持ちする」「毎日使い切れる」「損失が小さい」ことにあります(解説)。
ただし、これは平常時の話です。リチウムの価格が高止まる、あるいは供給が滞るときは、設備費の別の項(関税、輸送、長期契約の有無)が動くため、材料価格の影響は、単純な1対1の転嫁より大きくも小さくもなりえます(解説)。供給と調達のリスクは、本シリーズ「電池材料の資源と調達」編で扱います。また、リチウムを使わないナトリウムイオン電池は、「ナトリウムイオン電池」編で、リチウム価格への露出を減らす選択肢として扱います(IEAも、リチウム価格の高騰がナトリウムイオン電池の勢いを強めうると書いています[参考資料8])。
電解液の材料(溶媒、リチウム塩、添加剤)は、1 kWhあたりの質量では正極材より小さく、リチウム分も正極の約7%(本稿の計算)ですが、寿命とサイクルの性能に強く効くので、費用への効き方は「材料の価格」ではなく「寿命への貢献」で評価すべきです(本シリーズ「電解液とセパレータ」編)。
12. 限界と、確認できなかったこと
- 本稿の式は簡略形です。税、補助金、資金調達の構造、インフレ、撤去費、収入を入れていません。公的機関のLCOS(PNNL、DOE)と同じ尺度ではありません。
- 基準ケースの割引率(7%)と充電電力価格(40 US$/MWh)は本稿の仮定で、特定の市場の値ではありません。
- 劣化の扱いは粗い。NRELの方式(増設・交換を固定O&Mに含める)をそのまま使い、サイクル数を増やしたときの劣化の悪化は入れていません(第6章)。
- PNNLのLCOSの数値、IEAのパック価格の具体的な値(US$/kWh)は、本稿では引用していません。PNNLは入力に応じて値が決まる計算ワークブックであり、IEAの価格の値は図の中にあり、本文では百分率の変化だけを読み取れたためです。
- NRELの334 US$/kWhは、NREL自身が「他の最近の推計の多くより高い」と述べる値で、実際の最近の落札価格や、海外のプロジェクトの価格より高い可能性があります。2024年第1四半期の米国の基準で、その後の関税の影響も含みません(NRELの注記)[参考資料1]。
- 収入側(アービトラージ、容量収入、周波数調整)は扱っていません。LCOSは費用の指標で、採算(収入との比較)は別の問題です。
- 材料の計算(第10章)は、化学量論の理想値で、正極材の比容量・電圧、リチウムの利用率は仮定です。電池の販売価格への転嫁は、1対1と置いた感度で、実際の関係を示すものではありません。
- 価格の予測は使っていません。NRELの2035年・2050年の見通し、Schmidtらの2030年・2050年の推計、DOEの2030年の目標は、本稿の値に入れていません(目標は未確定/将来として言及のみ)。
- LCOSは、寿命にわたる総費用を、放電した電力量で割った値で、共通の定義はまだありません事実
- 同じ電池でも、充電電力費を入れるかで、184 か 141 US$/MWhになりました本稿の計算
- 最も効くのは、1日に何回使うか(0.5回で321、2回で116 US$/MWh)。次が充電電力価格と設備費本稿の計算
- 寿命を5年延ばすことは、設備費を約10%下げることとほぼ同じ価値です本稿の計算
- セル・パック・システム・LCOSは別の境界の数字で、NRELの334 US$/kWhは4時間・システムの設備費です事実
- リチウム価格が2022年から2025年に動いた分は、設備費のおよそ8%で、LCOSに約11 US$/MWh(約6%)の影響(1対1転嫁の感度)本稿の計算
13. 評価・標準の読み方
初めて読むときは、「どの数字が大きいか」より先に、次の順番で比較の条件を揃えてください。以下は本記事の編集上の確認手順で、規格が定める合格値や試験条件ではありません。
- ① 何を測ったか
- 設備費、LCOS、利用率、更新費用。単位と、材料・部品・完成システムのどこを測った値かを確認します。
- ② どの条件か
- 通貨と年、割引率、寿命、充電電力代、運転回数、残存価値。条件が異なる結果は、まず別の結果として読みます。
- ③ 比較で間違えやすい点
- $/kWhの設備価格を、1kWhを届ける費用であるLCOSと混ぜない
- ④ 規格の役割は何か
- 規格番号・名称・発行年・適用範囲を発行機関の資料で確認します。試験方法、安全性、相互接続、管理体制のどれを扱う規格かを分けて読みます。規格名の記載だけで、試験実施・適合・認証まで済んでいるとは判断しません。
比較を始めるためのメモ:対象/単位/測定条件/試料数とばらつき/比較対象/規格の版/確認できない点を、ひとまとまりで残しましょう。公開概要しか確認できない規格の数値条件や合格基準は、推測して補いません。
14. 用語集
- LCOS
- 蓄電の均等化コスト。寿命にわたる総費用を、放電した電力量で割った値。共通の定義はまだない。
- CRF(資本回収係数)
- 設備費を、割引率と寿命で毎年の定額に直す係数。r(1+r)ⁿ ÷ ((1+r)ⁿ − 1)。
- 往復効率
- 充電した電力量に対する、放電で戻る電力量の比。システム全体(冷却・制御を含む)かDC側かで値が違う。
- 放電深度(DoD)
- 1回の放電で使う、定格容量に対する割合。
- ARMO
- 増設・交換・大規模補修(augmentation, replacement, major overhaul)。PNNLの計算の用語。
- 固定O&M・変動O&M
- 運転維持費。固定は設備の出力(kW)・年あたり、変動は放電量あたり。
- カレンダー寿命
- 使わなくても時間とともに進む劣化で決まる寿命。
- サイクル寿命
- 充放電の回数で決まる寿命。条件(放電深度、率、温度、終点の容量保持率)とセットで読む。
- 持続時間
- 定格出力で放電し続けられる時間。4時間なら、定格出力×4時間が定格エネルギー。
- MMP・MSP
- NRELの用語。市場価格のモデル(Modeled Market Price)と、事業が成り立つ最低価格(Minimum Sustainable Price)。
- LCE
- 炭酸リチウム換算(lithium carbonate equivalent)。リチウム量を炭酸リチウムの質量で表したもの。
- LCOH
- 水素の均等化コスト。本シリーズ「水素の製造コスト」編で扱う。
15. 参考資料(一次情報)
- NREL(現 National Laboratory of the Rockies) Cole, Ramasamy, Turan, "Cost Projections for Utility-Scale Battery Storage: 2025 Update", NREL/TP-6A40-93281, 2025年6月(DOI 10.2172/2583471) — https://www.osti.gov/biblio/2583471
- PNNL "Energy Storage Cost and Performance Database: LCOS Estimates"(データベースv2024、2023年の値) — https://www.pnnl.gov/projects/esgc-cost-performance/lcos-estimates
- PNNL "Energy Storage Cost and Performance Assessment: LCOS Workbook v.2024 Documentation" 2024年4月(PDF) — https://www.pnnl.gov/sites/default/files/media/file/ESGC_LCOS_Workbook_v2024_Documentation.pdf
- PNNL "ESGC LCOS Workbook v2024"(計算ワークブック、前提の表を確認) — https://www.pnnl.gov/sites/default/files/media/file/ESGC_LCOS_Workbook_v2024.xlsx
- 米国エネルギー省(DOE) "Technology Strategy Assessment Methodology: Storage Innovations 2030 Technical Process" DOE/OE-0030, 2023年7月(PDF) — https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-07/Technology%20Strategy%20Assessment%20-%20Methodology.pdf
- Schmidt, Melchior, Hawkes, Staffell "Projecting the Future Levelized Cost of Electricity Storage Technologies", Joule 3, 81–100(2019年、DOI 10.1016/j.joule.2018.12.008) — https://www.cell.com/joule/fulltext/S2542-4351(18)30583-X
- IEA "Global EV Outlook 2025: Electric vehicle batteries" — https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/electric-vehicle-batteries
- IEA "Global EV Outlook 2026: Electric vehicle batteries" — https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2026/electric-vehicle-batteries
- 米国地質調査所(USGS) "Mineral Commodity Summaries 2026: Lithium" 2026年2月(PDF) — https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-lithium.pdf
16. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| LCOSが「放電エネルギーの処理量あたりの費用(US$/kWh)」で、定格エネルギーあたりの設置費より技術を公平に比べられる指標であること。PNNLのLCOS推計が2023年の値にもとづき、分析期間が20年、撤去費を含まず、ARMOを含むこと | PNNL LCOS Estimates[参考資料 2]https://www.pnnl.gov/projects/esgc-cost-performance/lcos-estimates | 事実 |
| LCOSが「プロジェクトの総収入必要額を回収するために放電した電力を売る平均価格」であり、総収入必要額に設置費・資金調達・O&M・税と減価償却・投資税額控除・充電費(往復損失を含む)・ARMOを含むこと。放電量の計算(サイクル、休止時間、放電深度)。インバータ等の片道効率 | PNNL LCOS Workbook Documentation(2024年4月)[参考資料 3]https://www.pnnl.gov/sites/default/files/media/file/ESGC_LCOS_Workbook_v2024_Documentation.pdf | 事実 |
| PNNLのワークブックが、LCOSを「充電費と往復損失を含む」形と「往復損失のみ」の形の2つの出力で示すこと。加重平均資本コスト(名目9.47%、実質6.49%)、税率25.7%、電力費0.03 US$/kWh、分析期間20年、各機器の片道効率98%、固定O&Mの年2%上昇 | PNNL LCOS Workbook v2024[参考資料 4]https://www.pnnl.gov/sites/default/files/media/file/ESGC_LCOS_Workbook_v2024.xlsx | 事実 |
| NRELの4時間・系統用リチウムイオン電池システムの設備費が2024年に334 US$/kWh(2024年ドル)で、積み上げモデル(市場価格モデル、2024年第1四半期の米国平均)にもとづくこと。10項目の内訳。「他の多くの推計より高い」とNRELが述べること。固定O&Mが設備費(US$/kW)の4%で増設・交換を含み、変動O&Mが0、寿命15年、往復効率85%、1日1サイクルの前提。エネルギー費241 US$/kWh・出力費372 US$/kWの当てはめ。持続時間を添える必要性。2025年1〜2月に作成され、その後の関税の影響を含まないこと | NREL(2025年6月)[参考資料 1]https://www.osti.gov/biblio/2583471 | 事実 |
| DOEのLong-Duration Storage Shotの目標(90%の費用削減、10時間以上で0.05 US$/kWh、2030年)。LCOSの式(ARPA-E DAYSの式)。充電の費用をLCOSに入れず、往復損失分を0.025 US$/kWhの電力価格で数えること。プロジェクト寿命25年、放電深度80%、名目割引率7.6%、インフレ2.0%。部品の寿命をカレンダー寿命とサイクル寿命の小さい方で決めること | DOE Storage Innovations 2030 方法論(2023年7月)[参考資料 5]https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-07/Technology%20Strategy%20Assessment%20-%20Methodology.pdf | 事実 |
| DOEの2030年の目標(10時間以上で0.05 US$/kWh) | DOEの目標であり、実績ではない[参考資料 5]https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-07/Technology%20Strategy%20Assessment%20-%20Methodology.pdf | 未確定/将来 |
| LCOSに共通の定義がまだないこと。交換や廃棄の費用を無視する研究も、容量の劣化を無視する研究もあること。9技術・12用途・2015〜2050年を対象にすること | Schmidtら(Joule、2019年)[参考資料 6]https://www.cell.com/joule/fulltext/S2542-4351(18)30583-X | 事実 |
| 2024年に電池パック価格が20%低下(2017年以来の最大)、リチウム価格が約2割低下したこと。LFPがNMCより1 kWhあたり約3割安く、パックのエネルギー密度は質量で約5分の1、体積で約3分の1低いこと。パック価格がEV向けと蓄電向けの加重平均であり、IEAの分析がBloombergNEFの調査にもとづくこと | IEA Global EV Outlook 2025[参考資料 7]https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2025/electric-vehicle-batteries | 事実 |
| 2025年に平均電池価格が8%低下したこと。2026年初めのリチウム価格が前年同期の2倍以上で、2022年のピークより約70%低いこと。上昇が続けば電池価格への上向きの圧力になりうること。長期契約と垂直統合が影響を和らげうること。ナトリウムイオン電池が価格上昇への対応として勢いを持ちうること | IEA Global EV Outlook 2026[参考資料 8]https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2026/electric-vehicle-batteries | 事実 |
| 電池級炭酸リチウムの米国の年平均価格(実質)が2021年11,700、2022年63,700、2023年39,000、2024年11,800、2025年(推定)9,000 US$/トンであること。2025年が2024年より31%低いこと。2025年後半に価格が上昇したこと | USGS Mineral Commodity Summaries 2026[参考資料 9]https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-lithium.pdf | 事実 |
| 基準ケースのLCOS(定義A)が184.1 US$/MWh(設備費の年価100.5、固定O&M 36.6、充電電力費47.1)、定義Bが141.5 US$/MWh。CRF(7%、15年)0.1098。感度分析の各値(サイクル数、充電価格、設備費、寿命、割引率、固定O&M、往復効率)。劣化を容量低下で表した場合の約181 US$/MWh。持続時間ごとのLCOS。設備費×サイクル数の表 | 本稿の計算。前提(設備費334 US$/kWh、固定O&M 4%、寿命15年、往復効率85%、1日1回、割引率7%実質、充電電力価格40 US$/MWh、定義Bの損失計算は25 US$/MWh)は第4・5章に記載。税・補助金・資金調達・撤去費・収入は含まず、公的機関のLCOSと同じ尺度ではない | 本稿の計算 |
| セル1 kWhあたりのリチウム分(LFP:0.49 kgの炭酸リチウム、NMC811:0.51 kg、電解液由来は約0.035 kg)、各年のリチウム分の費用(5.7、31.1、19.0、5.8、4.4 US$/kWh)、設備費に対する割合、1対1転嫁での約11 US$/MWhの影響、7.1倍の価格の幅 | 本稿の計算。比容量・電圧・電解液量・LiPF₆の割合は本稿の仮定で、化学量論の理想値。販売価格への転嫁は感度であり、価格の予測ではない | 本稿の計算 |
| LCOSの数字を見るときの4つの確認事項、サイクル数が効く理由、寿命と設備費の価値の比較、劣化の入れ方の整理、材料の価格と使う量の区別、LFPとNMCのリチウム露出が似ているという読み取り、パックとシステムの区別の規則 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関が表明した見解ではない | 解説 |
| PNNLのLCOSの数値、IEAのパック価格の具体的な値(US$/kWh)、収入側(アービトラージ等)、最近の落札価格、実際の電池の販売価格とリチウム価格の関係、2025年の韓国・米国の個別の蓄電事業の費用 | 本稿の調査範囲で一次情報により確認できなかった、または対象外としたため記載していない | 解説 |
| 図1・図7がAI生成イメージであり、図2〜6が説明のための作図であって、実在の設備・計測データではないこと | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月10日/出典は一次情報(NREL・PNNL・DOE・IEA・USGSの公表資料と査読論文)に限定しています。 価格の予測は使っていません。本稿の計算(第4〜6章、第9〜10章)は、仮定をすべて書いた簡略形であり、公的機関のLCOSと同じ尺度ではなく、実際の事業・市場の値を示すものではありません。 PNNLのLCOSの数値、IEAのパック価格の具体的な値、収入側の評価は、確認できなかった、または対象外のため記載していません。 図1・図7はAI生成イメージ、図2〜6はベクター作図であり、いずれも実在の設備・計測データを示すものではありません。