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データセンターと蓄電 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

データセンターと蓄電
― 「止まらないための電池」が、「系統とつながる電池」になる

データセンターの電池は、もともと停電のときだけ働く保険でした。AIの計算が電力の使い方を変え、さらに系統の側が「データセンターが一斉に切り離れる」ことを問題にし始めたいま、同じ電池に、揺れをならす・系統の乱れを乗り切る・需要に応じて出し入れする、という別の役割が求められています。 この記事では、UPSの仕組み、鉛蓄電池からリチウムイオンへの移行、電池に必要な条件を、公的機関と企業の公式資料と仮定を全部書いた本稿の計算で整理します。

構成:NERC、米国エネルギー省・LBNL、IEA、IEC・UL・NFPA、各社の公式発表を一次情報として使用/最終更新 2026年10月10日

UPSと電池ラックがサーバーへの給電を支える電源室です
図1 概念画像(ImageGenで生成)。UPSと電池ラックがサーバーへの給電を支える電源室です。電池と電力変換装置は別の役割を持ちます。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。
この記事の構成
  1. データセンターと蓄電とは(3行でつかむ)
  2. UPS(無停電電源)の役割と構成
  3. 鉛蓄電池からリチウムイオンへ
  4. 電池に求められる条件 ― 高出力・長寿命・安全
  5. 本稿の計算①:5 MWのUPSに電池ラックは何台要るか
  6. AIの負荷変動と蓄電
  7. 本稿の計算②:揺れを電池でならすと、充放電は年に何回になるか
  8. バックアップ電源・系統接続・需要応答 ― 実例と、誰の主張か
  9. スーパーキャパシタとの関係
  10. 限界と、確認できなかったこと
  11. 評価・標準の読み方
  12. 用語集
  13. 参考資料(一次情報)
  14. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値(仮定はすべて書いています)
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、材料や設計上の読み取りは「解説」として区別し、根拠の弱い推測は推測と明記します。
企業の発表は「企業の主張」として扱い、独立の検証を経た値とは区別します。電池の数値は、何を対象に(セル・パック・システム)、どの条件で測った値かを添えます。 市場規模の推計は使いません。本記事は電源設計の仕組みを解説するもので、設備の設計・購入・安全管理の助言ではありません。

1. データセンターと蓄電とは(3行でつかむ)

  • 従来の役割:UPS(無停電電源)の電池は、停電や電圧の乱れの瞬間に負荷を引き受け、非常用発電機が起動して負荷を受け取るまでの短い時間をつなぎます。NERC(北米電力信頼度評価機構)は、UPSの電池バンクを「長い時間ではなく、短い乱れ、または完全停電のときに発電機を起動できる時間だけ」負荷に給電するもの、と整理しています事実[参考資料1]。
  • 変わりつつある役割:AI学習の負荷は、多数のGPUが同期して電力を上げ下げするため急に揺れます。NVIDIAは、電源棚にコンデンサを入れて短い揺れを均す設計と、データセンター全体の電池(BESS)で系統との境界を整える考え方を公表しています事実(企業の主張)[参考資料6・8]。一方、系統の側は、データセンターが電圧の乱れでUPSに切り替わり、一斉に系統から消えること自体を信頼度上のリスクとして扱っています事実[参考資料1・2]。
  • 電池への要求:数分で全出力を出す高出力、ほぼ満充電で待機し続けても持つ長寿命、建物の中に置く安全が同時に要ります。本稿の計算では、5 MWのUPSに必要な電池量は、保持時間が短いほど「エネルギー量」ではなく「出力」で決まりました(第5章)。
この記事でいちばん大事な一行

データセンターの電池は、「容量(kWh)の勝負」ではなく、「出力(kW)・待機の劣化・設置の安全」の勝負です。 そして、系統から見ると、電池が正しく働くこと(UPSへの切り替え)が、系統側の問題になることがあります。 電池を「中の機器を守るもの」から「系統と約束を守るもの」へ。この変化が、材料と設計への要求を変えています。

規模の感覚(推計値)

米国エネルギー省(DOE)が公表した LBNL(ローレンス・バークレー国立研究所)の報告は、米国のデータセンターが2023年に全米の電力の約4.4%(2014年の58 TWhから、2023年に176 TWh)を使ったと推計しています事実[参考資料17]。IEAは、世界のデータセンターの電力消費を2024年に約415 TWh(世界の約1.5%)と推計しています事実[参考資料16]。いずれも推計値で、集計の範囲や方法が異なるため、両者を直接比べません。将来の見通し(IEAは2030年に約945 TWh)は、IEAの基本ケースの値です未確定/将来。

2. UPS(無停電電源)の役割と構成

UPSの規格 IEC 62040-3:2021 は、UPSを「交流1,000 V以下の入力、交流1,000 V以下の出力、1,500 V以下の直流の蓄電装置を持ち、負荷への給電の連続性を保つことが主な機能」の装置として、性能と試験の要求事項を定めています事実[参考資料12]。電池は、UPSの中の「蓄電装置」にあたります。

受電設備、UPS、電池、サーバーを分けた電源経路の模型です
図2 概念画像(ImageGenで生成)。受電設備、UPS、電池、サーバーを分けた電源経路の模型です。電池はUPSを介して支え、非常用発電機は別の経路です。実施設の配線設計ではありません。 [参考資料1] 形状・色・寸法は説明用です。数値と原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る
データセンターの電源経路と、電池のいる場所(概念図) 矢印は電力の流れ。点線は非常時の経路。台数・容量は示していません。 電力系統 (送電網) 受電設備 変圧・遮断器 UPS 整流器+インバータ 配電盤 (PDU など) IT機器・冷却 サーバ・空調ほか 電池バンク 鉛蓄電池/リチウムイオン 充放電 非常用発電機 (起動に時間がかかる) ※ NERCは、UPSを集中型(2〜5 MW程度)・分散型(ラックで3〜4 kW程度)・回転式(DRUPS)に整理しています[参考資料1]。 ※ 電池は「発電機が起動して負荷を引き受けるまでの短い時間」と「系統の短い乱れ」を受け持つ位置にあります。
図2 概念図(ベクター作図)。データセンターの電源経路の一例。NERCの整理[参考資料1]と一般的なUPSの構成にもとづく説明用の図で、実在の施設の構成・容量を示すものではありません。

NERC は、2024年7月の事象の調査で、データセンターのUPSを次の3つの設計に整理しました事実[参考資料1]。

設計NERCの記述電池の位置づけ
集中型(静止形)負荷中心で使うUPSで、「通常 2〜5 MW の範囲」。パワーエレクトロニクスで負荷を電池バンクに切り替える電池バンクは「長い時間ではなく、短い乱れの間、または完全停電のとき発電機を起動できる時間」給電する
分散型ラックごとの小さなUPSで、「通常 3〜4 kW の範囲」。動作は集中型を小さくしたもの同上(規模が小さい)
回転式(DRUPS)はずみ車(フライホイール)で無停電を保ち、クラッチで素早くディーゼル機関を接続する電池ではなく、はずみ車の運動エネルギーで受け持つ

すべて事実(NERC 事象調査[参考資料1]の記述の整理)。

ここで大事なのは、UPSは電圧の乱れが数十ミリ秒でも負荷を電池に切り替えることです。NERCの調査では、電圧が下がる事象が最短で42ミリ秒、最長で66ミリ秒でした事実[参考資料1]。静止形UPSでは、乱れが収まると負荷は系統へ戻る一方、DRUPSでは手動で戻す運用が一般的だと同調査は述べています。この性質が、第6章・第8章の「系統から見た問題」につながります。

3. 鉛蓄電池からリチウムイオンへ

データセンターのUPSの電池は、長く、制御弁式鉛蓄電池(VRLA)や液式の鉛蓄電池でした。Uptime Institute の最高技術責任者は2019年に、リチウムイオン電池について、出力密度が高く小さい設置面積で出力できること、充放電サイクルを重ねても劣化しにくいことを利点に挙げ、鉛蓄電池は容量が初期の約80%に下がると、その先は急速に容量が落ちるため交換が必要だが、リチウムイオン電池は容量が徐々に、予測しやすく落ちる、と書いています。同時に、供給者は総所有コストが低いと主張しているが、長期データで裏づけられていない主張が残る、とも述べています事実(専門家の見解、2019年)[参考資料10]。

採用の広がりについては、Uptime Institute の別の記事(2023年1月)が、同社の世界データセンター調査 2021 で「運営者の半数近くが集中型UPSでリチウムイオン電池を採用しており、3年前の約4分の1から増えた」と述べ、2022年の調査ではさらに増えたとしています事実(調査の回答にもとづく)[参考資料11]。回答者の集合や「採用」の定義が示されていないため、本稿は数値を市場の割合として使いません。

観点鉛蓄電池(VRLA・液式)リチウムイオン電池根拠
出力と大きさ同じ出力に大きな設置面積が要る出力密度が高く、小さな設置面積で同じ出力Uptime Institute(2019)[参考資料10]
劣化のしかた約80%まで低下した後、容量が急に落ちるため、その手前で交換容量が徐々に、予測しやすく低下同上
火災リスク相対的に小さい鉛蓄電池より大きい(NFPAなどが同じ立場だとUptimeは述べている)。電池の破壊でガスが出て、熱暴走が広がりうるUptime Institute(2023)[参考資料11]
UPS側の対応—充電回路・制御が鉛蓄電池と異なる。既設UPSが対応しているかの確認が要るUptime Institute(2019)[参考資料10]
総所有コスト—供給者は低いと主張。長期データでは裏づけきれていない同上(供給者の主張として)

すべて事実(専門家の見解・調査の記述)。コストの優劣は、条件が示されていないため本稿は判断しません。

素材技術者の読みどころ①:UPSの電池は「ほとんど使わないのに、いつも満充電」

Uptime Institute は、UPSの電池について「UPSが電池に切り替わることは多くなく、切り替わっても短い(最悪でも約15分)。通常は浮動充電の状態にあり、1回放電して1回充電するだけが普通」と述べています事実[参考資料10]。

ここから、寿命を決めるのはサイクル数ではなく、「待機の劣化」(カレンダー劣化)だと読めます(解説)。Samsung SDI のUPS用電池システムの仕様書は、浮動充電電圧をセルあたり 4.2 V(上限電圧と同じ)と記しています事実(メーカー公称、第1版案)[参考資料9]。公称3.8 V・上限4.2 V/セルという電圧は、推測ですが、層状酸化物系の正極と黒鉛負極の組み合わせを示唆します(仕様書は化学組成を書いていません)。

層状酸化物系の正極を高い電位に長く置くと、電解液の酸化分解や遷移金属の溶出が進み、負極側でSEIが成長して容量が落ちる、と一般に説明されます(解説。本シリーズ「SEI」編を参照)。「待機中の電池は劣化しない」わけではないことが、UPS用の電池設計の出発点です。本稿は、この劣化の速さを定量しません。

鉛蓄電池では、同じ「浮動充電」でも、劣化の主因は正極グリッドの腐食や硫酸鉛の蓄積など、別の機構です(解説)。同じ“待機”でも、材料によって壊れ方が違うため、交換の目安や監視の項目が変わります。

4. 電池に求められる条件 ― 高出力・長寿命・安全

UPS用電池の実際の仕様を一つ見てみます。Samsung SDI のUPS用リチウムイオン電池システム(U6A4)の「エンドユーザー向け製品仕様書」は、67 Ahのセルを8直列にしたモジュールを17個(136直列)ラックにまとめた構成を、次のように記載しています。ただし、この文書は改訂履歴が「2025年4月28日、第1版案(0.0)」のみで、確定版かどうかは確認できませんでした事実(メーカー公称)[参考資料9]。

項目仕様書の記載(メーカー公称)測定・規定の条件
セル容量67 Ah1/3C(22.3 A)で充放電、25℃
公称エネルギー(システム)34.6 kWh136直列、公称516.8 V(3.8 V/セル)、1/3C、25℃
連続放電出力183.6 kW定電力放電、最大電流450 A(終止電圧408 V=3.0 V/セルのとき)
充電連続 67 A(1C)、ピーク 250 A(2秒)CC-CV、浮動充電電圧 571.2 V(4.2 V/セル)
放電後の注意最大連続出力で全放電した後は少なくとも12時間冷却する過温度保護を避けるため
適合を評価した規格UL 1642(セル)、UN 38.3(セル・モジュール)、UL 1973・UL 991・UL 1998(モジュール・システム)、IEC 62619 ほか仕様書の「評価」の表。試験報告書は別資料

すべて事実(Samsung SDI 製品仕様書、第1版案[参考資料9])。サイクル寿命・保証年数・セルの化学組成は、この文書では確認できませんでした。

この数字から、本稿は次を計算しました本稿の計算。

  • 連続放電183.6 kW ÷ 公称エネルギー34.6 kWh = 約5.3 C相当。全エネルギーを使い切るまでの時間は 34.6 ÷ 183.6 × 60 = 約11.3分。
  • 最大電流450 A ÷ セル容量67 Ah = 約6.7 C(ピーク電流のセルあたりの率)。
  • これは1/3Cで定めた公称容量に対する率で、高い率で放電すると取り出せる容量は公称より小さくなりうる(解説)。仕様書は、その差を示していません。
素材技術者の読みどころ②:「12時間冷却」が教えること

仕様書は、最大連続出力で全放電したあと少なくとも12時間冷却するよう求めています事実[参考資料9]。理由は、過温度保護を避けるためとあります。

約5C級の放電では、電極の抵抗とイオン拡散の遅れが発熱に変わります(解説)。高出力型のセルは、一般に薄い電極、小さい粒子、多めの導電助剤、孔を確保した電極構造などで内部抵抗を下げます(本シリーズ「導電助剤とバインダー」編、「黒鉛負極と電極設計」編を参照)。ただし、その分エネルギー密度(Wh/kg・Wh/L)は下がるのが普通です。

UPS用では、エネルギー(kWh)よりも、短時間に出せる出力(kW)が設計を決めるのが特徴で(第5章の計算)、「どれだけ貯めるか」より「どれだけ速く出せて、冷めるまでに何時間かかるか」が材料と設計の評価点になります(解説)。

規格が見ているもの

規格対象確認した内容
IEC 62040-3:2021UPS全体の性能と試験UPSの性能と試験の要求事項。電池の安全は別の規格が扱う[参考資料12]
IEC 62619:2022産業用(定置用を含む)リチウム二次電池の安全「産業用途、定置用途を含む」リチウム二次セル・電池の安全運用の要求事項と試験。定置の用途に通信、UPS、電力貯蔵などを挙げる[参考資料13]
UL 9540A電池エネルギー貯蔵システムの熱暴走の延焼評価の試験方法NFPA 855が大規模火災試験として明示的に引用する唯一の合意規格だとUL Solutionsは説明。第6版が2026年に公表[参考資料14]
NFPA 855(2026年版)定置型蓄電システムの設置ESSの危険を軽減するための最小限の要求事項。現行版は2026年版[参考資料15]

すべて事実(規格団体・認証機関の公式ページ)。規格の本文は有料のため、題名・適用範囲の記載にとどめています。

5. 本稿の計算①:5 MWのUPSに電池ラックは何台要るか

NERCが挙げた「集中型UPSの規模(2〜5 MW)」の上限、5 MWを例に、前章の仕様のラックを並べたときの台数を計算します本稿の計算。

計算の前提(すべて本稿の仮定)

・負荷:5 MW(5,000 kW)。保持時間は5・10・15分の3通り。
・電池ラック:前章の仕様(公称34.6 kWh、連続放電183.6 kW)。
・インバータなどの変換効率:95%(仮定)。
・寿命末期(EOL)の容量:初期の80%(仮定。鉛蓄電池の交換目安として前述のUptimeが挙げた約80%に合わせた値)。
・各ラックは連続放電183.6 kWまでとし、温度・内部抵抗の増加・冗長構成(N+1など)・放電終止電圧の余裕は含めない。

保持時間負荷が使うエネルギー電池側の必要エネルギー(÷0.95)EOL 80%を見込んだ公称容量エネルギーから必要なラック数出力から必要なラック数実際に必要な数
5分417 kWh439 kWh548 kWh162929
10分833 kWh877 kWh1,097 kWh322932
15分1,250 kWh1,316 kWh1,645 kWh482948

すべて本稿の計算。出力から必要なラック数=5,000 ÷ 0.95 ÷ 183.6 = 28.7 → 29。エネルギーから必要なラック数=公称容量 ÷ 34.6 を切り上げ。

本稿の計算:5 MW のUPSに必要な電池ラック数 電池ラック=Samsung SDI資料の34.6 kWh・連続放電183.6 kW のラック(前提は本文の表) 0 10 20 30 40 50 ラック数 16 29 保持時間 5分 32 32 保持時間 10分 48 48 保持時間 15分 出力で決まる下限:29ラック エネルギーから必要な数 実際に必要な数(出力下限との大きい方) ※ 前提:負荷5 MW、変換効率95%、寿命末期の容量は80%、各ラックは連続放電183.6 kWまで。温度・内部抵抗の増加・冗長構成は含めていません。
図3 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。5 MWのUPSに必要な電池ラック数。ラックの仕様はSamsung SDIの仕様書(第1版案)[参考資料9]、他は本稿の仮定です。実際の設計を示すものではなく、台数を決める要因(出力かエネルギーか)を示す計算です。

結果は次のとおりです。保持時間が5分のとき、エネルギーだけなら16ラックで足りるのに、出力のために29ラックが要ります。10分で両者がほぼ釣り合い、15分では48ラックとエネルギーが支配的になります本稿の計算。つまり、数分の保持では、電池は「容量を買う」のではなく「出力を買う」設計になり、容量の約半分は使い切られないまま積まれます。

ただし、ここで置いた仮定(効率95%、EOL 80%、ラックあたり183.6 kW)は、設計を示すものではありません。実際には、寿命末期には内部抵抗が増え、出せる出力も下がるため、必要な台数は増えます。また、冗長構成を入れれば、さらに増えます。この計算が示すのは「何が台数を決めるか」の構造であって、実際の台数ではありません。

6. AIの負荷変動と蓄電

(1) 何が揺れるのか

NVIDIA・Microsoft・OpenAIの共著論文(arXiv、2025年8月)は、AI学習が数万のGPUにまたがり、各反復で計算の重い段階と通信の重い段階が同期して繰り返されるため、電力が大きく揺れること、そして揺れの周波数が電力会社の重要な周波数と一致すると、系統設備に物理的な損傷が生じうることを述べています事実(論文の要旨)[参考資料7]。NVIDIAの技術ブログも、通常のデータセンターでは非同期な仕事が互いに打ち消し合うのに対し、AI学習では多数のGPUが同期して動き、系統側の電力変動が「1台のノードの電力パターンを映して増幅する」と説明しています事実(企業の主張)[参考資料6]。

(2) 揺れを受け持つ階層

NVIDIAのGB300 NVL72は、電力上限(立ち上がりの制御)、電解コンデンサによる短時間の蓄電、立ち下がりのバーナー(余った電力をGPUで消費)の3つで揺れをならす設計です。電源棚の体積の約半分をコンデンサが占め、GPUあたり65 Jの蓄電を、電源メーカーLITEONと共同で最適化したとあります。GB200のラックの電源棚を計測した結果として、系統から見たピーク電力がMegatron LLMの学習で30%低下したと報告しています事実(企業の主張、NVIDIAの計測)[参考資料6]。

65 Jは、65 Wの差を1秒埋める量です本稿の計算(65 J = 65 W × 1 s)。つまり、ラック内の蓄電は秒以下から数秒の揺れを均すためのもので、停電に備える電池(数分〜)とは時間の階層が違います。

時間の長さで分ける、受け持ちの階層(概念図) 横軸は対数の目盛り。帯の端は目安で、製品や設計で変わります。 1 ms 1 s 1 分 1 時間 1 日 ラック内のコンデンサ 電解コンデンサ(NVIDIA) 出力の上げ下げの制御 ソフトウェアとバーナー UPSの電池・BESS 短い乱れ〜発電機の起動まで スーパーキャパシタ(候補) 本稿の整理(採用実績は未確認) 需要応答(仕事の移動) 計算の先送り ※ NVIDIAは、GB300の電源棚に電解コンデンサを入れて短い揺れを均し、電力上限・バーナーで立ち上がりと立ち下がりをなだらかにすると説明しています[参考資料6]。 ※ 需要応答では、Googleが緊急でない計算を先送りする方式を説明しています[参考資料5]。スーパーキャパシタの位置づけは本シリーズ「スーパーキャパシタ」編を参照。
図4 概念図(ベクター作図)。揺れの時間の長さごとの受け持ち。NVIDIAの設計[参考資料6]、NERCの整理[参考資料1]、Googleの需要応答[参考資料5]にもとづく本記事の整理です。帯の端は目安であり、製品や設計で大きく変わります。

同じNVIDIAは、2026年6月のブログで、データセンター全体のBESSがラック側の平滑化で残った揺れを受け、発電機と系統の境界を守る役割を持つ、と述べています。ここでも、BESSは「蓄えるだけでなく、電力変換器と制御で系統とやりとりする制御システム」だと強調されています事実(企業の主張)[参考資料8]。同ブログは、既存の系統連系の規格は「負荷の平滑化、連系/独立の切り替え、発電機との協調」といったAIファクトリーが必要とする振る舞いを、まだ網羅していないとも述べ、独自の自己適格性確認ガイドラインを示しています事実(企業の主張)[参考資料8]。この「規格が追いついていない」という認識は、NVIDIAの主張であり、規格団体の見解ではありません。

7. 本稿の計算②:揺れを電池でならすと、充放電は年に何回になるか

揺れを電池で均す場合、電池の使われ方は「1日1回の充放電」とはまったく違います。本稿は、仮想の負荷で、その規模を計算しました本稿の計算。実際のAI学習の負荷の形・周期・振幅ではありません。

計算の前提(すべて本稿の仮定)

・負荷:100 MW と 60 MW を10秒周期(各5秒)で往復する矩形波。平均は80 MW。
・電池の役割:負荷を80 MWに均す。放電20 MW(5秒)→ 充電20 MW(5秒)の繰り返し。
・1周期の放電量:20 MW × 5 s = 100 MJ = 27.8 kWh。1日の周期数:86,400 ÷ 10 = 8,640。
・1日の放電量:27.8 kWh × 8,640 = 約240 MWh。電池の容量を5・10・20 MWhの3通りとして、年365日で等価フルサイクルを計算。
・往復効率は考慮しない。放電深度(DoD)は1周期あたり小さい(20 MWhで0.14%)。

電池容量必要な出力率(20 MW ÷ 容量)1日の等価フルサイクル1年の等価フルサイクル1周期のDoD
5 MWh4 C4817,5200.56%
10 MWh2 C248,7600.28%
20 MWh1 C124,3800.14%

すべて本稿の計算(仮想の負荷)。等価フルサイクル=放電量の合計 ÷ 電池容量。

本稿の計算:揺れを電池で均すと、1年に何回分の充放電になるか(仮想例) 100 MW と 60 MW を10秒周期で往復する負荷を、20 MW の出し入れで80 MW に均す想定 0 5,000 10,000 15,000 20,000 等価フルサイクル/年 17,520 5 MWh(4C) 8,760 10 MWh(2C) 4,380 20 MWh(1C) 参考:1日1回の 充放電=年365回 ※ 前提:周期10秒(5秒ごとに20 MWを放電、次の5秒で充電)、1日8,640周期、1周期の放電量27.8 kWh、年365日。往復効率は考慮していません。 ※ 実際の負荷の形・周期・振幅ではありません。電池の定格サイクル数は条件で大きく変わるため、比べるべき値は個別に確認が必要です。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。仮想の負荷(100 MWと60 MWの10秒周期)を電池で均した場合の、1年あたりの等価フルサイクル。実際のAI学習の負荷ではなく、電池の使われ方の桁を示す計算です。電池の定格サイクル数との比較には、試験条件の確認が必要です。

読み取れることは3つです本稿の計算。

  • 回数が桁違いに多い。1日1回の充放電なら年365回です。同じ電池を揺れの平滑化に使うと、等価フルサイクルは年に数千〜1万を超える(この仮想例では4,380〜17,520)。
  • 浅い充放電が大量に続く。1周期のDoDは1%未満です。浅い充放電が劣化にどう効くかは、材料と条件で変わり、本稿は一般化しません。
  • 熱が出る。往復効率を90%と仮定すると、1日の充電量は約267 MWh(240 ÷ 0.9)で、その10%の約27 MWhが熱になり、平均で約1.1 MWの発熱です(仮定:往復効率90%)。冷却の設計が必要になる量です。
素材技術者の読みどころ③:同じ電池でも「待機型」と「平滑化型」では壊れ方が違う

待機型(UPS)は、ほとんど使わずに満充電付近に置かれるので、劣化は時間とともに進むカレンダー劣化が中心です(前述、解説)。平滑化型は、浅い充放電を大量に重ねるので、サイクルごとの電極の膨張収縮、SEIの再生成、熱の蓄積といった、サイクル劣化が前面に出ます(解説。本シリーズ「電池の評価と劣化」編を参照)。

UPS用に最適化した電池を、そのまま平滑化にも使えるかは、サイクル寿命の試験条件(放電深度・率・温度)と、実際の運転がどれだけ近いかで決まります。定格サイクル数が書かれていても、それが「100%DoDの1Cで80%まで」の値なら、「1%DoDの4Cを1万回」とは別の試験です。条件が違う数値は比べられません。

だからこそ、第6章のNVIDIAのように、最も速い揺れは電池ではなくコンデンサで受ける(電池のサイクルを増やさない)設計が選ばれていると読めます(解説)。

8. バックアップ電源・系統接続・需要応答 ― 実例と、誰の主張か

(1) 系統から見た問題:UPSが「正しく」働くと、負荷が一斉に消える

NERC の事象調査(2025年1月8日公表)は、2024年7月10日午後7時ごろの米国東部での事象を次のように報告しています事実[参考資料1]。

  • 230 kV送電線の避雷器が故障し、永久地絡になった。自動再閉路が三度試みられ、82秒間に6回の系統故障(電圧低下)が連続した。各電圧低下は42〜66ミリ秒。
  • 同時に、約1,500 MWの負荷が減った。送電会社の設備ではなく、需要家側の保護・制御が切り離したものだった。1,500 MWはすべてデータセンター型の負荷だった。
  • データセンター側は、外乱に対応して負荷をバックアップ電源に移した。多くは「一定時間内に一定回数の電圧低下を数え、超えたら手動で戻すまで系統に戻らない」方式(典型は1分間に3回)で、約1,260 MWが3回目の電圧低下と同時に落ち、数時間戻らなかった。
  • 周波数は最大60.047 Hzまで上がり、約4分で60.0 Hzに戻った。電圧は最大1.07 pu。運用者が分路コンデンサを外して電圧を戻した。

NERC の2026年9月の資料は、その後を次のように述べています事実[参考資料2]。一部のデータセンターが、電圧の低下を「数える」時間や、切り離しに至る回数を変えた。2026年4月18日には、2024年7月と似た場所・特徴の故障があり、持続した負荷の減少は約500 MWにとどまった。一方、2026年7月には、バージニア州で約4 GWの需要家側の負荷減少があり、「リスクは減るどころか増えている」と書かれています(この事象は2026年9月時点で分析中)。NERCは、大きな計算負荷を信頼度の枠組みに入れるための登録基準と基本的な信頼度基準を、FERCの指示で2026年末までに作る計画です未確定/将来。

素材技術者の読みどころ④:電池が悪いのではなく、「約束の相手」が変わった

UPSの電池と切り替え制御は、機器を守るために設計されています。電圧が少し乱れたらすぐ電池に移るのは、その設計どおりの動作です。NERCも、データセンターの保護と制御は「電圧の乱れで機器が止まるのを避けるよう設計されている」と書いています[参考資料1]。

ところが系統の側は、「大きな負荷が一斉に消える」ことを、発電所の脱落と同じように扱い始めました。つまり、電池に求められる仕事が、機器の保護から、系統のライドスルー(乱れを乗り切って接続を保つ)へ広がったのです(解説)。

ここで電池の材料と設計に効くのは、電池が保持すべき時間と出力が変わる点です。短い乱れのたびに切り替えて戻す運用は、電池のサイクルを増やします。乱れを乗り切るために電池で支える時間が長くなれば、本稿第5章のとおり必要なエネルギー量も増えます。NVIDIAは、BESSがあれば「負荷はバックアップ電源の上で安定したまま、サイトが系統側のライドスルー期待を満たせる」と述べています[参考資料8](企業の主張)。

(2) 実例の整理 ― 誰が、何を、どこまで言っているか

事例(時期)公表内容主張の主体と注意
Google、ベルギー サン=ジスラン(2022年4月21日発表)Fluenceの電池システム2.75 MWを導入し、非常用ディーゼルの使用を減らす。電池の全容量は5.5 MWhで、そのうち2.75 MWhをCentricaが需要応答向けに最適化し、ベルギーの送電会社Eliaの補助サービス市場に参加するCentricaの発表(企業の主張)。Googleにとって「初の試み」と同発表が述べる。運転実績の数値は確認できなかった
Microsoft、アイルランド ダブリン(2022年7月7日の記事)UPSの電池をリチウムイオンにし、Eaton と共同開発した「系統連系UPS」で、EirGridの系統サービス市場にEnel X経由で参加する計画。Baringaは、系統連系UPSが化石火力の提供する系統サービスを置き換えれば、2025年にアイルランド島で約200万トンのCO2を回避しうると試算Microsoftの記事。Baringaの試算はMicrosoftが依頼した分析。記事は「その年の後半に」と将来形で、稼働後の実績は確認できなかった
Google、需要応答(2025年8月4日)Indiana Michigan Power、TVAとの合意で、機械学習の仕事を対象とした需要応答を初めて提供。OPPDとの実証では前年に3回の系統イベントで機械学習の電力需要を下げた。緊急でない計算を先送りする方式Googleの発表(企業の主張)。同社自身が「柔軟性には限りがあり、場所も限られる。検索や地図などは高い信頼性が必要」と述べている
Redwood Materials × Crusoe(2025年6月27日、2026年3月24日更新)再利用した車載電池で12 MW/63 MWhのマイクログリッドを4か月弱で構築。運用可用率99.2%と述べ、さらに20のモジュール式データセンターへの拡張を発表Redwoodの発表(企業の主張)。可用率の算出方法は確認できなかった。再利用電池の考え方は本シリーズ「電池リサイクルと二次利用」編を参照
NVIDIA(2025年7月28日、2026年6月10日)GB300電源棚のコンデンサ(65 J/GPU)と、BESSの設計・自己適格性確認ガイドラインNVIDIAの技術ブログ(企業の主張)。第三者の検証結果は確認できなかった

すべて事実(各社の公式発表の整理。企業の主張であり、独立に検証された値ではありません)。

サーバー棟、受変電設備、屋外の蓄電設備を分けて示しています
図6 概念画像(ImageGenで生成)。サーバー棟、受変電設備、屋外の蓄電設備を分けて示しています。配置・台数は説明用で、施設の設計図ではありません。 実際の施設・製品・測定結果ではありません。

(3) 3つの役割が同じ電池を取り合う

NVIDIAは、データセンターのBESSに期待される仕事として、過渡的な平滑化、ライドスルーのための余力の確保、需要応答や発電機との協調を挙げ、「これらの任務は互いに競合しうる」ため、明確な優先順位と、充電状態(SOC)の勝手なずれを防ぐ戦略が要ると書いています事実(企業の主張)[参考資料8]。

ベルギーの事例で、5.5 MWhのうち需要応答向けに最適化されたのが2.75 MWhだったことは事実[参考資料4]、残りをバックアップの余力として残していると読むのが自然ですが、発表はそう明記していません推測。電池の容量を、非常時の保険と日常の収益運転にどう割り振るかが、この用途の設計の中心になります(解説)。

  • バックアップ:停電や外乱の瞬間に給電を保つ。電池は常に満充電付近の余力が要る。
  • 系統接続:系統が許す速さで負荷を上げ下げし、ライドスルーを果たす。電池は出力と応答の速さが要る。
  • 需要応答:系統の需給に応じて負荷を下げ、または電池を出す。電池は繰り返しの充放電に耐え、日常の運転で使った分の余力を戻す必要がある。

どの役割も、電池に「高出力・長寿命・安全」を同時に求めます。コスト面の評価(均等化コストの考え方)は、本シリーズ「蓄電の経済性」編で扱います。系統用蓄電システムとしての側面は「系統用蓄電システム」編、分散した電池を束ねる考え方は「仮想発電所と分散型エネルギー資源」編を参照してください。

(4) 安全:火災を「設計の前提」にする

Uptime Institute は、2022年10月に韓国・板橋(パンギョ)のデータセンターで起きた火災を取り上げ、火災は電池室から始まり、約8時間で鎮圧され、KakaoTalkなどのサービスが止まった、と述べています。同記事の時点で根本原因は公表されておらず、電池メーカーのBMS記録をめぐる主張が食い違っていました。そのため、本稿はこの火災の原因を特定しません。同記事が示す設計上の教訓は、消火方式の選定、電池キャビネットの間隔、電池室の耐火区画化でした事実(Uptime Instituteの分析)[参考資料11]。

設置の面では、NFPA 855(2026年版)が定置型蓄電システムの設置の最小要求を定め、UL 9540A(第6版)が、熱暴走の延焼を評価する試験方法を定めています[参考資料14・15]。電池を建物の中に置くデータセンターでは、これらの規格と地域の消防規則への適合が前提になります。個別の施設の安全性は、本稿では判断しません。熱暴走の機構は、本シリーズ「熱暴走と電池の安全」編で扱います。

9. スーパーキャパシタとの関係

本シリーズ「スーパーキャパシタ」編は、スーパーキャパシタが化学反応ではなくイオンの吸着で蓄えるため出力と寿命に強く、エネルギー密度は電池より桁違いに小さいことを整理しています。この性質は、本稿の時間の階層(図4)でいえば、電解コンデンサよりは長く、電池よりは速い(本稿の整理では、1秒付近から1分程度)揺れに向く、ということを意味します(解説。図4の帯は目安で、実績の裏づけはありません)。

  • 確認できたこと:NVIDIAのGB300電源棚が使っているのは電解コンデンサです事実[参考資料6]。スーパーキャパシタではありません。
  • 確認できなかったこと:データセンターでスーパーキャパシタが実際に使われている規模や実績を、公的機関や運営者の一次情報で確認できませんでした。スーパーキャパシタのメーカーが「顧客分野にAIデータセンターがある」と自社サイトに書いている例は、スーパーキャパシタ編で示したとおり、会社の説明にとどまります。

どの蓄電素子を、どの時間の階層に置くかは、コスト、体積、寿命、保守の総合で決まります。本稿は、特定の方式の優劣を断定しません。

10. 限界と、確認できなかったこと

  • 市場規模は使っていません。UPS用電池の市場規模や、リチウムイオン電池の世界シェアの推計値は、調査会社の推計のため扱いませんでした。Uptime Instituteの調査の「採用」の割合は、定義が不明のため市場の割合として使っていません。
  • Samsung SDI の仕様書は「第1版案」で、確定版か確認できませんでした。サイクル寿命、保証、セルの化学組成も記載がありません。
  • 運転実績の数値(Googleのベルギー、Microsoftのダブリン)は、発表時点の計画や設備の説明にとどまり、稼働後の実績を一次情報で確認できませんでした。
  • 板橋の火災などの個別の事故の原因は、公表された根本原因を確認できなかったため、述べていません。2025年の韓国政府情報システムのデータセンター火災についても、公的な調査結果を確認できなかったため扱っていません。
  • 2026年7月のバージニア州の約4 GWの事象は、NERCの資料の時点(2026年9月)で分析中です。詳細は変わりうる情報です。
  • 本稿の計算(第5章・第7章)は、仮定を置いた構造の説明です。実際のUPSの台数や、実際のAI学習の負荷、実際の電池の寿命を示すものではありません。
  • UL 1973の題名・版は、Samsung SDIの仕様書に試験規格として挙がっていること以外、規格団体の公式ページで確認できませんでした。
この記事のまとめ
  • UPSの電池は「数分の保険」で、NERCは集中型で2〜5 MW程度と整理しています事実
  • 数分の保持では、電池ラックの数は出力で決まります。5 MW・5分なら、エネルギーでは16ラックでも、出力で29ラックです本稿の計算
  • リチウムイオンへの移行の利点は、小型・高出力・劣化の予測しやすさ。同時に、鉛蓄電池より火災リスクが大きいとUptimeは述べています事実
  • UPSへの切り替えが、系統側の問題になっています。2024年7月の約1,500 MWの負荷減少は、データセンター側の保護が働いた結果でした事実
  • 揺れを電池でならすと、充放電は年に数千〜1万回超の規模になりえます(仮想例)本稿の計算
  • 実例の数値は企業の主張です。運転実績の独立した検証は確認できませんでした。

11. 評価・標準の読み方

初めて読むときは、「どの数字が大きいか」より先に、次の順番で比較の条件を揃えてください。以下は本記事の編集上の確認手順で、規格が定める合格値や試験条件ではありません。

① 何を測ったか
供給できる電力、保持時間、切替時間、総所有コスト。単位と、材料・部品・完成システムのどこを測った値かを確認します。
② どの条件か
負荷変動、冗長性、空調、バックアップ範囲、劣化末期の容量。条件が異なる結果は、まず別の結果として読みます。
③ 比較で間違えやすい点
kWとkWh、設備定格と実負荷でのバックアップ時間を混同しない
④ 規格の役割は何か
規格番号・名称・発行年・適用範囲を発行機関の資料で確認します。試験方法、安全性、相互接続、管理体制のどれを扱う規格かを分けて読みます。規格名の記載だけで、試験実施・適合・認証まで済んでいるとは判断しません。

比較を始めるためのメモ:対象/単位/測定条件/試料数とばらつき/比較対象/規格の版/確認できない点を、ひとまとまりで残しましょう。公開概要しか確認できない規格の数値条件や合格基準は、推測して補いません。

12. 用語集

UPS(無停電電源)
停電や電圧の乱れの瞬間に負荷へ給電を続ける装置。整流器・インバータ・電池などで構成。
VRLA
制御弁式鉛蓄電池。データセンターのUPSで長く使われた密閉形の鉛蓄電池。
DRUPS
回転式UPS。はずみ車で無停電を保ち、ディーゼル機関を素早く接続する。
BESS
電池エネルギー貯蔵システム。電池に電力変換装置と制御を組み合わせた、系統とやりとりする設備。
ライドスルー
系統の短い電圧・周波数の乱れの間、接続を保って運転を続けること。
浮動充電
満充電付近の電圧を保ち続けて待機する充電方式。UPSの電池の通常状態。
Cレート
電池の容量を1時間で出し入れする電流を1Cとする率。5Cなら約12分で全容量。
カレンダー劣化
使わなくても時間とともに進む劣化。高い充電状態や高温で速い。
等価フルサイクル
放電量の合計を電池容量で割った回数。浅い充放電も合算した目安。
需要応答
系統の需給に応じて、需要家が電力の使い方を変えること。
EOL(寿命末期)
電池が使用の終わりと判断される状態。本稿では容量が初期の80%の状態。
熱暴走
電池内部の発熱反応が連鎖し、温度と圧力が急に上がる現象。

13. 参考資料(一次情報)

  1. NERC "Incident Review: Considering Simultaneous Voltage-Sensitive Load Reductions" 2025年1月8日(PDF) — https://www.nerc.com/globalassets/our-work/reports/event-reports/incident_review_large_load_loss.pdf
  2. NERC "Reliability Insights: Large Computational Load Risks Due to Voltage Sensitivity" 2026年9月(PDF) — https://www.nerc.com/globalassets/who-we-are/news/2026/09/reliability-insights_large-computational-load-risks-due-to-voltage-sensitivity.pdf
  3. Microsoft "Microsoft datacenter batteries to support growth of renewables on the power grid" 2022年7月7日 — https://news.microsoft.com/source/features/sustainability/ireland-wind-farm-datacenter-ups/
  4. Centrica "Fluence and Centrica work with Data Centre in Belgium to Provide and Optimise its first Zero-Emission Backup Power System" 2022年4月21日 — https://www.centrica.com/media-centre/news/2022/fluence-and-centrica-work-with-data-centre-in-belgium-to-provide-and-optimise-its-first-zero-emission-backup-power-system
  5. Google "How we're making data centers more flexible to benefit power grids" 2025年8月4日 — https://blog.google/innovation-and-ai/infrastructure-and-cloud/global-network/how-were-making-data-centers-more-flexible-to-benefit-power-grids/
  6. NVIDIA "How New GB300 NVL72 Features Provide Steady Power for AI" 2025年7月28日 — https://developer.nvidia.com/blog/how-new-gb300-nvl72-features-provide-steady-power-for-ai/
  7. Choukse et al.(arXiv) "Power Stabilization for AI Training Datacenters" arXiv:2508.14318(2025年8月) — https://arxiv.org/abs/2508.14318
  8. NVIDIA "Designing Production-Ready Battery Energy Storage Systems for AI Factories" 2026年6月10日 — https://developer.nvidia.com/blog/designing-production-ready-battery-energy-storage-systems-for-ai-factories/
  9. Samsung SDI "Lithium Ion Battery System for UPS – U6A4 Product Specification for End Customers" 第1版案 2025年4月28日(PDF、Vertivサイトで公開) — https://www.vertiv.cn/49f6fc/globalassets/shared/lithium-ion-batteries-system-for-ups---u6a4-ul-250428-product-specification.pdf
  10. Uptime Institute "Lithium Ion Batteries for the data center. Are they ready for production yet?" 2019年11月 — https://journal.uptimeinstitute.com/lithium-ion-batteries-in-the-data-center/
  11. Uptime Institute "Major data center fire highlights criticality of IT services" 2023年1月 — https://journal.uptimeinstitute.com/major-data-center-fire-highlights-criticality-of-it-services/
  12. IEC "IEC 62040-3:2021 Uninterruptible power systems (UPS) – Part 3: Method of specifying the performance and test requirements" — https://webstore.iec.ch/en/publication/60140
  13. IEC "IEC 62619:2022 Secondary cells and batteries containing alkaline or other non-acid electrolytes – Safety requirements for secondary lithium cells and batteries, for use in industrial applications" — https://webstore.iec.ch/en/publication/64073
  14. UL Solutions "UL 9540A Test Method for Battery Energy Storage Systems (BESS)" — https://www.ul.com/services/UL-9540A-test-method
  15. NFPA "NFPA 855 Standard for the Installation of Stationary Energy Storage Systems"(現行版2026年) — https://www.nfpa.org/codes-and-standards/nfpa-855-standard-development/855
  16. IEA "Energy and AI"(要旨) — https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary
  17. 米国エネルギー省(DOE) "DOE Releases New Report Evaluating Increase in Electricity Demand from Data Centers" 2024年12月20日(LBNL報告の紹介) — https://www.energy.gov/articles/doe-releases-new-report-evaluating-increase-electricity-demand-data-centers
  18. Redwood Materials "Redwood Energy: Fast, low-cost storage to power the age of AI and a changing grid" 2025年6月27日 — https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-energy-fast-low-cost-storage-to-power-the-age-of-ai-and-a-changing-grid/
  19. Redwood Materials "Redwood and Crusoe expand compute to 7x scale after 99.2% microgrid uptime" 2026年3月24日 — https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-and-crusoe-expand-compute-to-7x-scale/

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
2024年7月10日午後7時ごろ、230 kV送電線の避雷器故障を契機に、82秒間に6回の電圧低下(42〜66ミリ秒)が起き、同時に約1,500 MWの負荷が需要家側の保護・制御で切り離されたこと。すべてデータセンター型の負荷であること。負荷がバックアップ電源へ移されたこと。1分間に3回などの電圧低下を数える方式があり、約1,260 MWが3回目の電圧低下で落ち、数時間戻らなかったこと。周波数が最大60.047 Hz、電圧が最大1.07 puになったこと。UPSの設計が集中型(2〜5 MW)、分散型(ラック、3〜4 kW)、DRUPSの3つに整理されること。電池バンクが短い乱れまたは発電機を起動できる時間だけ給電することNERC 事象調査(2025年1月8日)[参考資料 1]https://www.nerc.com/globalassets/our-work/reports/event-reports/incident_review_large_load_loss.pdf事実
一部のデータセンターが保護・制御の設定を変えたこと。2026年4月18日の類似の故障で持続した負荷減少が約500 MWにとどまったこと。2026年7月にバージニア州で約4 GWの需要家側の負荷減少があり、2026年9月時点で分析中であること。NERCが登録基準と基本的な信頼度基準をFERCの指示で2026年末までに作ることNERC Reliability Insights(2026年9月)[参考資料 2]https://www.nerc.com/globalassets/who-we-are/news/2026/09/reliability-insights_large-computational-load-risks-due-to-voltage-sensitivity.pdf事実
NERCが登録基準と基本的な信頼度基準を2026年末までに作る計画であることNERC(2026年9月)の記述にもとづく計画であり、完了は確認していない[参考資料 2]https://www.nerc.com/globalassets/who-we-are/news/2026/09/reliability-insights_large-computational-load-risks-due-to-voltage-sensitivity.pdf未確定/将来
MicrosoftのダブリンのデータセンターでUPSの電池をリチウムイオンにし、Eatonと共同開発した系統連系UPSで、EirGridの市場にEnel X経由で参加する計画であること。Baringaの試算(約200万トン、Microsoftが依頼)。記事の時点で「その年の後半に」と将来形であることMicrosoft(2022年7月7日)[参考資料 3]https://news.microsoft.com/source/features/sustainability/ireland-wind-farm-datacenter-ups/事実
Googleのベルギーでの2.75 MW・5.5 MWhの電池、そのうち2.75 MWhを需要応答向けに最適化すること、Eliaの補助サービス市場への参加、「Googleにとって初の試み」であること。ディーゼル非常用発電機が業界で約20 GWあるという推定(Centricaの言明)Centrica 発表(2022年4月21日)[参考資料 4]https://www.centrica.com/media-centre/news/2022/fluence-and-centrica-work-with-data-centre-in-belgium-to-provide-and-optimise-its-first-zero-emission-backup-power-system事実
Googleが機械学習の仕事を対象にした需要応答をIndiana Michigan Power、TVAと合意したこと。OPPDとの実証で前年に3回のイベントで機械学習の電力需要を下げたこと。緊急でない計算を先送りする方式。柔軟性には限りがあるという同社の説明Google(2025年8月4日)[参考資料 5]https://blog.google/innovation-and-ai/infrastructure-and-cloud/global-network/how-were-making-data-centers-more-flexible-to-benefit-power-grids/事実
GB300電源棚の電解コンデンサ、GPUあたり65 J、体積の約半分、LITEONとの共同最適化。GB200のラックの電源棚の計測でMegatron LLM学習時のピークが30%低下したこと。電力上限・バーナーによる立ち上がり・立ち下がりの制御。AI学習ではGPUが同期して動くため変動が増幅されることNVIDIA 技術ブログ(2025年7月28日)。企業の計測・主張である[参考資料 6]https://developer.nvidia.com/blog/how-new-gb300-nvl72-features-provide-steady-power-for-ai/事実
AI学習の電力の揺れの機構と、揺れの周波数が電力会社の重要な周波数と一致すると系統設備に損傷が生じうること(論文の要旨)Choukse et al., arXiv:2508.14318[参考資料 7]https://arxiv.org/abs/2508.14318事実
BESSが電池・電力変換装置・制御・計測を合わせた制御システムであること。ラック側の平滑化で残った揺れを受けること。ライドスルー、発電機との協調、任務の競合とSOCのずれ。既存の系統連系の規格がAIファクトリー向けの振る舞いを網羅していないという認識と、自己適格性確認ガイドラインNVIDIA 技術ブログ(2026年6月10日)。企業の主張である[参考資料 8]https://developer.nvidia.com/blog/designing-production-ready-battery-energy-storage-systems-for-ai-factories/事実
Samsung SDIのUPS用電池システムの仕様(67 Ahセル、136直列、34.6 kWh、公称516.8 V、連続放電183.6 kW、最大450 A、終止電圧408 V、浮動充電電圧571.2 V=4.2 V/セル、最大連続放電後の12時間冷却、適合評価した規格)。改訂履歴が2025年4月28日の第1版案(0.0)のみであることSamsung SDI 製品仕様書(メーカー公称)[参考資料 9]https://www.vertiv.cn/49f6fc/globalassets/shared/lithium-ion-batteries-system-for-ups---u6a4-ul-250428-product-specification.pdf事実
リチウムイオン電池の利点(出力密度、サイクルに対する劣化、予測しやすい容量低下)、鉛蓄電池の約80%での交換、UPSの電池の使われ方(切り替えは多くなく最悪約15分)、供給者の総所有コストの主張、UPS側の対応の確認Uptime Institute(2019年11月、最高技術責任者の見解)[参考資料 10]https://journal.uptimeinstitute.com/lithium-ion-batteries-in-the-data-center/事実
板橋(パンギョ)の火災の概要と、根本原因が公表されていなかったこと。リチウムイオン電池は鉛蓄電池より火災リスクが大きいとするUptimeの立場。調査に基づく採用の広がり(2021年調査で運営者の半数近く)。消火方式・キャビネット間隔・耐火区画の教訓Uptime Institute(2023年1月、同機関の分析)[参考資料 11]https://journal.uptimeinstitute.com/major-data-center-fire-highlights-criticality-of-it-services/事実
IEC 62040-3:2021の題名と範囲(交流1,000 V以下入力・出力、1,500 V以下の蓄電装置、負荷電力の連続性)IEC 規格ページ[参考資料 12]https://webstore.iec.ch/en/publication/60140事実
IEC 62619:2022の題名と範囲(産業用途、定置用途を含むリチウム二次セル・電池の安全)IEC 規格ページ[参考資料 13]https://webstore.iec.ch/en/publication/64073事実
UL 9540Aの題名と目的、NFPA 855が大規模火災試験として引用する合意規格であるとUL Solutionsが説明していること。第6版が公表されていることUL Solutions ページ[参考資料 14]https://www.ul.com/services/UL-9540A-test-method事実
NFPA 855の題名、現行版が2026年版であることNFPA 規格ページ[参考資料 15]https://www.nfpa.org/codes-and-standards/nfpa-855-standard-development/855事実
世界のデータセンターの電力消費が2024年に約415 TWh(約1.5%)であること。2030年に約945 TWhになるというIEAの基本ケースIEA Energy and AI(要旨)。2030年の値はIEAの基本ケースの見通しである[参考資料 16]https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary未確定/将来
米国のデータセンターが2023年に全米の電力の約4.4%(176 TWh、2014年は58 TWh)を使ったと推計されていること米国エネルギー省(LBNL報告の紹介)[参考資料 17]https://www.energy.gov/articles/doe-releases-new-report-evaluating-increase-electricity-demand-data-centers事実
Redwood Materialsと Crusoe の12 MW/63 MWhのマイクログリッド、運用可用率99.2%、20のモジュールへの拡張Redwood Materials(2025年6月27日)。企業の主張である[参考資料 18]https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-energy-fast-low-cost-storage-to-power-the-age-of-ai-and-a-changing-grid/事実
Redwood Materialsの発表(運用可用率99.2%、20のモジュールへの拡張)Redwood Materials(2026年3月24日)。企業の主張である[参考資料 19]https://www.redwoodmaterials.com/news/redwood-and-crusoe-expand-compute-to-7x-scale/事実
5 MWのUPSに必要な電池ラック数(5分で29、10分で32、15分で48)。連続放電183.6 kW÷34.6 kWh=約5.3C相当、全放電約11.3分、450 A÷67 Ah=約6.7C。65 J=65 W×1 s本稿の計算。前提(負荷5 MW、変換効率95%、寿命末期80%、ラック連続放電183.6 kW、冗長・温度・内部抵抗の増加は含めない)は本文第5章に記載。実際の設計を示すものではない本稿の計算
仮想の負荷(100 MWと60 MWの10秒周期)を電池で均した場合の等価フルサイクル(5・10・20 MWhで年17,520・8,760・4,380)、1周期のDoD、往復効率90%での発熱量本稿の計算。前提は本文第7章に記載。実際のAI学習の負荷や電池の寿命を示すものではない本稿の計算
Samsung SDI仕様書の化学組成(層状酸化物系正極と黒鉛負極の推測)、待機中の劣化の機構(電解液の酸化、遷移金属の溶出、SEIの成長)、鉛蓄電池の劣化機構、高出力セルの電極設計の傾向、電池の役割の変化の整理、スーパーキャパシタの位置づけ公表内容にもとづく本記事の解説・推測。仕様書は化学組成を記載していない。各社・各機関が表明した見解ではない解説
UPS電池の市場規模・シェア推計、UL 1973の題名と版、ダブリン・ベルギーの稼働後の実績、板橋の火災の根本原因、2025年の韓国のデータセンター火災の公的調査結果、データセンターでのスーパーキャパシタの採用規模本稿の調査範囲で一次情報により確認できなかったため記載していない解説
図1・図6がAI生成イメージであり、図2〜5が説明のための作図であって実在の設備・計測データではないこと本記事による注記解説

最終更新:2026年10月10日/出典は一次情報(規格団体・公的機関・企業の公式発表・査読前論文)に限定しています。 企業の発表の数値は企業の主張として扱い、独立の検証を経た値とは区別しています。 市場規模・シェアの推計は使っていません。本稿の計算(第5章・第7章)は、仮定を置いた構造の説明であり、実際の設計・負荷・寿命を示すものではありません。 Samsung SDIの仕様書が第1版案であること、運転実績の数値、火災の根本原因、スーパーキャパシタの採用規模は、一次情報で確認できなかったため断定していません。 図1・図6はAI生成イメージ、図2〜5はベクター作図であり、いずれも実在の施設・製品・計測データを示すものではありません。