COMPANY PROFILE / ナノテクノロジー
TSMC(台湾積体電路製造)
― 顧客の設計を、FinFETから「ナノシート」型の2nm世代トランジスタへと量産し続ける半導体の受託製造会社
TSMCが、ナノテクノロジーの文脈で語られるのは、顧客のチップ設計を、ナノスケールのトランジスタとして量産しているからです。2025年の売上は3兆8,090億台湾ドル(US$1,214億)、従業員は90,557人。ウェハー売上の74%が7nm世代以下で、2nm世代(ナノシート・トランジスタ)は2025年第4四半期に量産を開始しました(会社の説明)。2026年4〜6月のウェハー売上のうち、2nm世代は3%、3nm世代は30%です。一方で、売上の75%は北米、最大顧客は売上の19%(社名は非開示)と、顧客の集中が大きい会社でもあります。本稿は、半導体後工程分野の同社の記事とは別に、ナノスケールのトランジスタとパターニングの視点から、何を作り、どこに投資し、誰と組み、どこまでが実績でどこからが計画かを、会社の公式資料の範囲で整理します。投資の助言ではありません。
- 30秒でわかるTSMCと、ナノテクノロジーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- ナノテクノロジーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(ナノスケールのトランジスタに関わる範囲を中心に)
- ナノテクノロジーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はナノテクノロジーで何を目指しているか
- ナノテクノロジー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるTSMCと、ナノテクノロジーでの立ち位置
NYSE(ADS、1997年〜)台湾証券取引所は1994年9月5日、ADSのNYSE上場は1997年10月8日
(US$1,214億)前年比+31.6%(本稿の計算)。ウェハー製造が売上の約86%
TSMCは、自社の製品を売るのではなく、顧客が設計したチップを、顧客に代わって製造する(ファウンドリ)会社です。ナノスケールの加工装置を作る東京エレクトロンやASMLと違い、TSMCはそれらの装置を使って、トランジスタの構造と製造工程(プロセス)を作り込む側です 事実。この記事が注目するのは、トランジスタの構造が「FinFET(立体的なひれ状)」から「ナノシート」へ変わったことです。TSMCは、2nm世代の「N2」を第1世代のナノシート・トランジスタと説明し、2025年第4四半期に量産を始めたと書いています 事実。ただし、「2nm」「3nm」などの名前は会社が使う世代名で、TSMCの資料は、これがトランジスタの特定の寸法を指すとは説明していません(本稿が確認した範囲)。また、各世代の性能の向上率(速度・消費電力・密度)の数値は、公式の技術ページでは確認できませんでした 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:正式名称は Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(台灣積體電路製造股份有限公司)、通称はTSMCです。JASM(熊本)、ESMC(ドイツ・ドレスデン)、TSMC Arizona は子会社の名前で、TSMC本体とは別の法人です。N2、N3、A16 などは製造技術(プロセス)の名前で、会社名や製品名ではありません。ロゴ画像は、同社の公式サイト(tsmc.com)が公開しているものを取得しました(解像度が小さい画像です)。
公式サイト:https://www.tsmc.com/english3. ナノテクノロジーの世界で、この会社はどこにいるか
TSMCの主たる類型はデバイス・表示(ナノ構造を製品にする側)です。顧客のチップ設計に基づき、ナノスケールのトランジスタを数億〜数百億個単位で並べたウェハーを製造します 事実。同社が公開する世代ごとのトランジスタ構造と段階を整理すると、次のとおりです。
| 世代(プロセス名) | トランジスタ構造 | 段階(2026年10月9日に確認できた範囲) | 区分 |
|---|---|---|---|
| N7(7nm世代)、N5(5nm世代) | FinFET | 量産開始は2018年(N7)、2020年(N5) | 事実 |
| N3(3nm世代)と派生(N3E、N3P、N3A) | FinFET | 2022年に量産。N3Aは自動車向けで、2025年末に顧客にリリース。3nm世代全体で2025年のウェハー売上の24% | 事実 |
| N2(2nm世代) | ナノシート(第1世代) | 2025年第4四半期に量産開始(会社の説明)。Fab 20とFab 22が2nm世代の工場。2026年4〜6月のウェハー売上の3% | 事実 |
| N2P | ナノシート | 2026年下期に量産予定(公式サイト) | 未確定/将来 |
| A16(16オングストローム世代) | ナノシート+裏面電源レール | リスク生産は2026年の予定(20-F)。量産時期は公式ページに記載なし | 未確定/将来 |
| A14、A12 | A14:寸法の縮小で「フルノード」の向上。A12:ナノシート+第2世代の裏面電源レール | 公式ページに時期の記載なし。研究開発は10・14・16オングストローム世代で進行(20-F) | 未確定/将来 |
裏面電源レールは、電源の配線をウェハーの裏側に回す方式です(本シリーズの技術解説「ナノスケールのトランジスタ」を参照)。各世代の性能・密度の向上率は、公式ページに数値の記載がなく、本稿は載せません。出典:出典3 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic 出典2 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_2nm 出典4 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A16 出典5 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A14 出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典6 https://pr.tsmc.com/english/news/3326
どの材料・工程・用途が中心かをまとめると、用途別ではHPC(高性能計算、AI向けのGPUなど)が2025年の売上の58%、スマートフォンが29%でした 事実。先端のナノシート世代は、この2つの用途が牽引すると、会社は説明しています(20-F)。
4. 会社の規模(ナノスケールのトランジスタに関わる範囲を中心に)
TSMCは世界の半導体産業の中心にある大企業です。会社全体は簡潔に示し、ナノスケールの世代に関わる数字(技術別の売上の構成)を中心に書きます 事実。
| 指標 | 値 | 注記 |
|---|---|---|
| 売上高(2025年) | 3,809,054百万台湾ドル | US$121,423百万(会社の換算)。2024年は2,894,308百万台湾ドル(+31.6%、本稿の計算) |
| 当期純利益(2025年、親会社帰属) | 1,697,604百万台湾ドル | US$54,116百万(会社の換算) |
| 直近の四半期(2026年4〜6月) | 売上 1兆2,704億台湾ドル(US$402億) | 純利益 7,066億台湾ドル。2026年7〜9月の売上見通しはUS$446〜458億(会社の見通し) |
| ウェハー売上の技術別(2025年) | 3nm世代24%、5nm世代36%、7nm世代14% | 7nm世代以下の合計は74%(2024年69%、2023年58%)。16nm世代7%、28nm世代7%など |
| ウェハー売上の技術別(2026年4〜6月) | 2nm世代3%、3nm世代30%、5nm世代33%、7nm世代11% | 7nm世代以下の合計は77% |
| 用途別売上(2025年) | HPC 58%、スマートフォン29% | IoT 5%、自動車5%、民生用1%、その他2% |
| 地域別売上(2025年) | 北米75% | アジア太平洋9%、中国9%、日本4%、欧州・中東・アフリカ3%(会社の区分) |
| 年間生産能力(2025年) | 1,700万枚超(12インチ換算) | 3nm世代の増強が主因 |
| 従業員(2025年末) | 90,557人 | 専門職44,690人、技術員24,917人など。2024年は83,825人 |
出典:出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典6 https://pr.tsmc.com/english/news/3326 出典7 https://investor.tsmc.com/english/quarterly-results/2026/q2
上の「3nm世代」「2nm世代」などの比率は、会社が分類した世代名ごとのウェハー売上の割合です。各世代の中身(トランジスタの寸法や構造)が同じ基準で比較できるものではなく、他社の同名の世代と性能が同じという意味でもありません。本稿は、TSMCの各世代と他社の世代の優劣を比べません。また、売上の約4分の3が北米というのは、顧客の所在地による区分と読めますが、20-Fの区分の定義は、本稿では詳しく確認していません 未確定/将来。
5. ナノテクノロジーにかけているリソース
ナノスケールの世代だけを切り出した人員・研究開発費は開示されていません。以下は、会社全体の開示です。
| リソース | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員90,557人(2025年12月末)。台湾のほか、米国・日本・中国・ドイツなどに拠点。研究開発に限った人員は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 金(研究開発) | 2025年の研究開発費は2,464億台湾ドル(US$78.6億、売上の6.5%)。前年比+20.7%。増加の主因は、10・14・16オングストローム世代の研究が増えたこと。2026年も「大きな投資を続ける」と記載。製品別の内訳は非公表 | 事実 |
| 金(設備投資) | 2025年の設備投資は1兆2,724億台湾ドル(US$409億、売上の約33%=本稿の計算)。2026年はUS$520〜560億の見通し(2026年4月時点)。2026年は2nm・3nm世代の増強(Fab 20、21、22)が中心。2026年8月の取締役会は、約US$294億の設備投資を承認 | 事実/見通しは未確定 |
| 出資・買収・合弁・売却 | JASM(熊本、Fab 23):TSMCが約72.6%を保有。Sony(20%未満)、DENSO(10%超)、Toyota(少数)が出資。ESMC(ドイツ・ドレスデン):TSMCが70.0%、Bosch・Infineon・NXPが各10%。Sony Semiconductor Solutionsとの合弁(熊本、イメージセンサー):TSMCが最大2,820億円を出資(2026年8月に合意、承認が条件)。売却・撤退の大型案件は、本稿の確認範囲では確認できなかった | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | 米国商務省との契約(2024年11月)で、TSMC Arizonaに直接補助金最大US$66億、融資最大US$50億(CHIPS法)。ドイツ連邦政府がESMCに最大€50億の国家補助(2024年12月)。研究開発は、顧客・装置メーカー・「外部の研究コンソーシアム」との協力と説明されるが、コンソーシアムや大学の名称は、20-Fに記載なし | 事実/一部確認できなかった |
出典:出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典8 https://pr.tsmc.com/english/news/3332 出典9 https://pr.tsmc.com/english/news/3333
主要な工場・製造能力の状況
| 工場 | 場所 | 最先端の世代・規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Fab 20、Fab 22 | 台湾(Fab 20は新竹、Fab 22は高雄) | 2nm世代の量産工場。2026年の設備投資の対象 | 稼働(商業生産開始は2025年) | 2025年 | 1・2 |
| Fab 18 | 台湾(南部科学園区) | 3nm世代 | 稼働(2020年開始) | 2020年〜 | 1 |
| Fab 21(TSMC Arizona) | 米国アリゾナ州フェニックス | 5nm世代(2025年末時点) | 第1工場は量産。第2工場は建設中、第3工場は2025年に着工。2026年に追加の土地を取得 | 2024年末〜 | 1 |
| Fab 23(JASM) | 日本・熊本 | 28nm世代 | 第1工場は量産(2024年12月)。第2工場は2025年10月に着工 | 2024年〜2025年 | 1 |
| Fab 24(ESMC) | ドイツ・ドレスデン | 特殊技術と先端パッケージ向け | 建設中(2024年着工) | 2024年〜 | 1 |
各工場の月産枚数は、工場ごとには開示されていません。会社全体の年間生産能力は1,700万枚超(12インチ換算)です。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1987年2月21日 | 台湾の公的機関と民間の出資による合弁として設立(会社の記載)。会社は自らを「最も長く続く専業ファウンドリ」と説明 | 設計は顧客、製造はTSMCという分業 |
| 1994年・1997年 | 台湾証券取引所に上場(1994年9月)、ADSをNYSEに上場(1997年10月) | 資金調達の基盤 |
| 2018年・2020年・2022年 | 7nm世代(2018年)、5nm世代(2020年)、3nm世代のFinFET(2022年)の量産を開始(公式サイト) | FinFETを段階的に微細化 |
| 2024年11月 | 米国商務省と、CHIPS法による直接補助金(最大US$66億)と融資(最大US$50億)の契約 | 米国での先端工場の資金 |
| 2024年12月 | ESMCがドイツ連邦政府から最大€50億の国家補助の契約。JASMの第1工場が量産開始。Arizonaの第1工場が2024年末に量産 | 日米欧に先端・特殊工場を分散 |
| 2025年 | 2nm世代(N2、ナノシート)が量産開始(公式サイトは第4四半期と記載)。Arizonaの第3工場が着工。JASMの第2工場が10月に着工 | トランジスタ構造がFinFETからナノシートへ |
| 2026年4月16日 | 2025年12月期のForm 20-Fを提出。16オングストローム世代(A16)の開発は計画どおり、リスク生産は2026年の予定と記載 | 本稿の主な出典 |
| 2026年8月11日 | 取締役会が約US$294億の設備投資を承認。Sony Semiconductor Solutionsとイメージセンサーの合弁に合意 | 設備投資の継続、日本での提携 |
| 2026年9月8日 | ASMLと、High NA EUV向けの大判フォトマスク(6インチから12インチへ)への移行で共同イニシアチブを発表 | 露光のマスクの大型化に、装置メーカーと取り組む |
出典:出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典3 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic 出典2 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_2nm 出典8 https://pr.tsmc.com/english/news/3332 出典9 https://pr.tsmc.com/english/news/3333 出典10 https://pr.tsmc.com/english/news/3338
7. 今後の計画
上の内容は、すべて会社の予定・見通しです 未確定/将来。TSMCは、2026年の設備投資や新工場の計画について、「市況に応じて変更する場合がある」と書いています。次の7〜9月期の売上は、US$446〜458億という見通しを示しています(2026年7月)。
次はいずれも、本稿が確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。
各世代の性能・消費電力・密度の向上率(公式の技術ページに数値なし)/N2・A16の顧客別の採用状況/A16の量産開始時期/各工場の月産枚数/研究開発費の世代別の内訳/外部の研究コンソーシアムや大学の名称/2026年4〜6月の設備投資の実績額。
8. この会社はナノテクノロジーで何を目指しているか
会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 世代の更新を、毎年のように続ける | 20-Fは、2nm世代(N2)に加え、HPC向けのN2X、スマートフォン向けのN2P、16オングストローム世代(A16)の開発と、10・14・16オングストローム世代の研究を記載。公式サイトにはA14とA12も載る | 事実 |
| トランジスタをFinFETからナノシートへ移し、次に裏面電源で配線を改良する | 公式サイト:N2は第1世代のナノシート、A16はナノシートに裏面電源レールを組み合わせる、A12は第2世代の裏面電源レール | 事実 |
| ナノスケールの量産の「歩留まり」を競争力の中心に置く | 20-F:先端技術では品質と歩留まりの確保が課題で、失敗すれば売上の損失になると記載。競争は「早い技術の準備、より良い品質、歩留まり改善の速さ、サイクルタイムの短さ」と説明 | 事実 |
| 露光の次世代(High NA EUV)を、2030年の量産導入に向けて装置メーカーと整える | ASMLとの2026年9月の発表:2030年からHigh NAを量産に使う意向、大判マスクの準備 | 事実(会社の意向) |
| 先端パッケージ(3DFabric)を、トランジスタの微細化と組み合わせる | 20-F:SoIC、CoWoS、InFOなどの積層・パッケージを、HPCの顧客向けに提供 | 事実/推測(微細化と組み合わせるという位置づけ) |
「TSMCは、トランジスタの微細化だけでなく、装置・マスク・パッケージまで含めた『製造全体の仕組み』で先行しようとしている」という読みの根拠は、同社の説明の広がりです。20-Fは、装置について「装置の品質と技術が、プロセス技術の限界を事実上決める」と書き、次世代の装置を装置メーカーと定期的に協議し共同開発すると説明しています 事実。さらに2026年9月には、ASMLと大判フォトマスクへの移行という、露光のマスクの規格まで変える取り組みを発表しました 事実。一方、装置メーカー各社との個別の共同開発の内容は、20-Fには社名つきで書かれていません。そのため、TSMCはナノスケールの量産を、トランジスタ構造・露光・マスク・パッケージの組み合わせとして設計する立場にあると、本稿は考えます 推測 未確定/将来。
9. ナノテクノロジー分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
TSMCの「製品」は、顧客が設計したチップを製造するためのプロセス技術(世代)とそのIP、先端パッケージのサービスです 事実。以下は、会社の資料に書かれている内容です。
| 技術・サービス | 資料に書かれている内容 | 出典 |
|---|---|---|
| N2系(N2、N2P、N2X) | 2nm世代のナノシート・トランジスタ。HPC向けにN2X(2nm世代の中で最高の性能とクロック周波数を狙う)、スマートフォン向けにN2P。公式サイトは、N2が「性能と消費電力のフルノードの前進」を実現すると説明(数値の記載なし) | 1・2 |
| N3系(N3、N3E、N3P、N3X、N3A) | 3nm世代のFinFET。2022年に量産。N3Aは自動車向けで、2025年末に顧客にリリース。N3Xは3nm世代の中でHPC向けに最高性能 | 1・3 |
| A16、A14、A12 | ナノシートに裏面電源レールを組み合わせる(A16、A12)。A14は寸法の縮小でフルノードの電力・性能・面積の向上。リスク生産はA16が2026年の予定、A14・A12の時期は記載なし | 4・5・3・1 |
| 設計インフラ(OIP、3Dblox) | Open Innovation Platform(2008年)で、EDA・IP・設計キットを顧客に提供。2nm世代、A16のEDAとIPの準備完了を2025年に発表。3Dblox標準をIEEEに寄贈 | 1 |
| 先端パッケージ(3DFabric:SoIC、CoWoS、InFO) | シリコンの積層と先端パッケージで、同種・異種のチップを統合するサービス。HPC向けが中心 | 1 |
| 特殊技術 | RF、組み込みの不揮発性メモリ、PMIC、センサー、ディスプレイ用チップ。MRAMの16nm世代とRRAMの22ULLが、2025年に自動車用の「Grade-1」の要件を満たしたと会社が記載 | 1 |
TSMC自身は材料メーカーではありませんが、会社の資料から、素材が効く場所は大きく3つ読み取れます。(1) 調達する材料:製造には、シリコンウェハー、薬液、ガス、各種の貴金属を使うと、20-Fは書いています。ほとんどは複数の仕入先から買えますが、一部は単一の供給元から買っています。ウェハーは、台湾・日本・ドイツ・シンガポールの限られた数の供給元から調達しています 事実。ナノスケールの量産では、ウェハーの平坦性や欠陥、薬液・ガスの純度が歩留まりに直結する、と本稿は考えます 推測。(2) 装置と材料の組み合わせ:20-Fは、「装置の品質と技術が、プロセス技術の限界を事実上決める」と書きます。つまり、レジストや膜の材料を試す場は、装置メーカーとの共同開発の場でもあります 事実。(3) マスクの大判化:ASMLとの2026年9月の発表は、High NA EUV向けのフォトマスクを6インチから12インチへ移す構想で、パイロットラインを2031年まで、露光装置の準備を2033年までとしています 事実。マスクの基板や膜、検査の仕様が変わる大きな変化ですが、素材面の詳しい仕様は発表に書かれていません 未確定/将来。素材の基礎は、本シリーズの技術解説「ナノスケールのトランジスタ」「リソグラフィとEUV」「レジストとフォトマスク」を参照してください。
出典:出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典2 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_2nm 出典3 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic 出典4 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A16 出典5 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A14 出典10 https://pr.tsmc.com/english/news/3338
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 顧客の集中 | 上位10社が売上の78%(2025年)。最大顧客が19%、第2位が17%(前年は22%と12%)。売上の75%が北米。社名は非開示 | 事実 |
| 地政学・立地 | 主要な役員と生産拠点の多くは台湾にあり、売上の多くも台湾での事業に由来する、と20-Fが記載。軍事・政治・貿易の変化が事業に影響しうる | 事実 |
| 関税 | 2025年4月に米国が発表した関税は、半導体を除外していたが、米国での運営コストに影響した。2026年2月の米最高裁判決で、その関税の根拠が違法と判断された。2025年4月に始まった通商拡大法232条の調査は同年12月に終了し、一定の高性能計算チップに25%の関税を課す布告が出た。2026年1月に米台の貿易・投資協定(相互関税の上限15%)。詳細は不明確と会社は記載 | 事実(段階が異なる) |
| 輸出管理 | 2022年10月・2023年10月・2025年1月の米国の規則(16nm世代以下のプロセスの製品の一部は、特定の仕向地へのライセンスが必要)。南京工場のVEU(検証済みエンドユーザー)認可は2025年12月に失効し、年間の輸出ライセンスが付与された。更新の保証はない。現時点で業績に大きな影響はないと会社は記載 | 事実 |
| 補助金の条件 | CHIPS法などの補助金は、懸念国での拡張や共同研究の制限などの条件つき。条件違反は、返還の義務になりうる | 事実 |
| 設備投資の規模 | 2025年の設備投資は売上の約33%(本稿の計算)。2026年はUS$520〜560億。需要が弱まれば、固定費の負担が大きくなる | 事実/推測 |
| 先端技術の不確実性 | 先端技術は品質・歩留まりの確保が難しく、失敗すれば売上の損失になると20-Fが記載 | 事実 |
| 電力・水・材料 | 停電、水不足、電気料金の上昇、単一供給元の材料の調達が、生産に影響しうる | 事実 |
| 計画の実現 | N2P、A16、Arizonaの第2・第3工場、Sonyとの合弁、High NAの2030年の導入は、いずれも会社の計画で、達成は確認されていない | 未確定/将来 |
出典:出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm 出典10 https://pr.tsmc.com/english/news/3338 出典9 https://pr.tsmc.com/english/news/3333
12. 用語集
- ファウンドリ
- 顧客が設計した半導体を、顧客に代わって製造する会社。TSMCは「専業ファウンドリ」と自称。
- FinFET
- チャネルを立体的な「ひれ」にして、ゲートで3面を囲むトランジスタ。3nm世代まで使われた。
- ナノシート/GAA
- チャネルを薄い板状(シート)にして重ね、ゲートが周囲を囲む構造(ゲート・オール・アラウンド)。2nm世代で採用。
- 裏面電源レール
- 電源の配線をウェハーの裏側に回し、表側の配線の混雑を減らす方式。A16、A12で採用。
- 世代名(ノード名)
- 「3nm」「2nm」「A16」などの呼び名。特定の寸法を指すとは、TSMCの資料に書かれていない。
- リスク生産
- 量産の前に、顧客の評価用に限って行う試験的な生産。
- High NA EUV
- 開口数を大きくして、より細かいパターンを描く極端紫外線露光。
- HPC
- 高性能計算。AI向けのGPUやサーバー用プロセッサーなど。
- 3DFabric
- TSMCの先端パッケージ・積層技術の総称。SoIC、CoWoS、InFOを含む。
- VEU
- 検証済みエンドユーザー。米国の輸出管理で、特定の工場への輸出に個別のライセンスを不要にする認可。

13. 出典
- TSMC(SEC提出) Annual Report on Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2025(2026年4月16日提出)。事業概要、工場と技術、売上の技術別・用途別構成、研究開発費、設備投資、子会社、CHIPS法の支援、リスク要因、従業員数。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1046179/000162828026025362/tsm-20251231.htm
- TSMC 公式サイト「2nm Technology」。N2とN2Pの位置づけ(2026年10月9日に確認)。 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_2nm
- TSMC 公式サイト「Logic Technology」。ロジック技術の一覧(N7からA12まで)(2026年10月9日に確認)。 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic
- TSMC 公式サイト「A16 Technology」(2026年10月9日に確認)。 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A16
- TSMC 公式サイト「A14 Technology」(2026年10月9日に確認)。 https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/logic/l_A14
- TSMC ニュース「TSMC Reports Second Quarter EPS of NT$27.25」(2026年7月16日)。2026年4〜6月の売上と、技術別のウェハー売上の構成。 https://pr.tsmc.com/english/news/3326
- TSMC 公式IRサイト「2026 Q2 Quarterly Results」。2026年4〜6月の実績と7〜9月の見通し。 https://investor.tsmc.com/english/quarterly-results/2026/q2
- TSMC ニュース「TSMC Board of Directors Meeting Resolutions」(2026年8月11日)。設備投資の承認、Sonyとの合弁。 https://pr.tsmc.com/english/news/3332
- TSMC ニュース「Sony Semiconductor Solutions and TSMC Agreed to Establish Joint Venture for Next-Generation Image Sensors」(2026年8月11日)。 https://pr.tsmc.com/english/news/3333
- TSMC ニュース「ASML and TSMC Announce Initiative to Pioneer Industry Transition to Large-Format Photomasks for High NA EUV」(2026年9月8日)。 https://pr.tsmc.com/english/news/3338
- TSMC 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.tsmc.com/english
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月9日/Troy Technical
本稿の数値は、TSMCのForm 20-F(2025年12月期の年次報告書)、公式の技術ページ、公式ニュースリリースに基づきます。調査会社の市場推計・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。会社の計画・見通し(設備投資、量産時期、新工場、合弁など)は未確定の将来の見通しです。「2nm」などの世代名は会社の呼称で、特定の寸法を示すとは書かれていません。関税・輸出管理などの記述は、20-Fの記載時点(2026年4月)のもので、その後の変化は反映していません。本稿は投資の助言ではありません。