COMPANY PROFILE / ナノテクノロジー
ファースト・グラフェン
― 黒鉛を電気化学的にはがして多層グラフェン「PureGRAPH」を作り、セメント・複合材・ゴム・塗料に“微量の添加剤”として供給する、パース近郊の素材会社
First Graphene(以下FGR)は、スリランカ産の高品位黒鉛を電気化学剥離でグラフェンのナノ薄片(ナノプレートレット)にして、PureGRAPHの名前で売るオーストラリアのナノ素材メーカーです。粉体のほか、水系分散液、樹脂用のマスターバッチ(濃縮物)などの形で、セメント・コンクリート、複合材、エラストマー(ゴム)、コーティング、電池・太陽電池向けの材料として供給します。 同社の資料では、西オーストラリア州Hendersonの工場の公称能力は年100トンです。一方、2025年6月期の売上はA$468,397にとどまり、親会社持分の損失はA$5.40 millionでした。 2026年4月と6月には、米国と豪州の小さな会社(MITO Material Solutions、Ionic Industries、Imagine Intelligent Materials)の資産を買収し、酸化グラフェンや機能化グラフェン、コーティングの技術へ製品を広げています。 本稿は、同社のASX提出書類(年次・半期の財務報告)、投資家向け資料、プレスリリース、技術資料から、何を確認でき、何を確認できなかったかを整理し、素材技術者の視点で「大きな薄片を、ばらさずに入れる」ことの意味を書きます。

- 30秒でわかるFGRと、ナノテクノロジーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- ナノテクノロジーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- ナノテクノロジーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はナノテクノロジーで何を目指しているか
- ナノテクノロジー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集
- 出典
- 主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるFGRと、ナノテクノロジーでの立ち位置
(ACN 007 870 760)オーストラリアの会社。製品ブランドは PureGRAPH®(会社名とは別)
Henderson(パース近郊)本社と製造工場が同じ敷地。英国Manchesterに研究開発・マーケティングの拠点
OTCQB:FGPHFほかにフランクフルト(M11)で気配値。2026年5月29日の株価A$0.06、時価総額約A$50 million(同社の資料)
(多層グラフェン)グラフェン粉体・分散液・添加剤を供給。完成品は作らない
黒鉛を電気化学剥離平均厚さ10 nm未満、横寸法5〜50 µmの5グレード(メーカー公称)
(Henderson工場)会社の公称。実際の生産量・稼働率は非公表
(今回の資料で確認できず)研究開発の従業員費用はA$644,857(2025年6月期)
FGRの特徴は、黒鉛からグラフェンを「年100トン」の公称能力で作れる設備を持ち、それを少量添加の材料として複数の産業へ売り込んでいることです。一方で、売上はその設備の規模に比べてごく小さく(2025年6月期 A$468,397)、営業活動は赤字で、資金は増資と豪州のR&D税額控除に頼っています 事実。同社の資料には「世界で唯一」「競合に匹敵するものがない」といった表現が多く、これらはすべて会社の自己説明です。 また、2026年7月の資料にある見通し(約A$1.5 millionの収入見込み、18〜24か月でA$10 million超の機会)は会社の予測で、実現は確定していません 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

ロゴは同社の公式サイト(firstgraphene.net)で公開されているメインロゴ(六角形の記号と「FIRSTGRAPHENE」の文字)を、そのままSVGで取得して設置しています。生成画像による再現は行っていません。
表記の注意:社名は First Graphene Limited(略称 FGR、ASXコードも FGR)で、日本語では「ファースト・グラフェン」と書かれることがありますが、カタカナ表記は本稿の便宜表記です。 製品名の PureGRAPH(PureGRAPH®)は同社の登録商標で、会社名とは別です。同じ「グラフェン」を扱う別の会社(Graphene Manufacturing Group〔豪州の別会社〕など)と混同しないよう、社名は正式名で書きます。英国の子会社は First Graphene (UK) Ltd です。
公式サイト:https://firstgraphene.net/3. ナノテクノロジーの世界で、この会社はどこにいるか
FGRの主たる類型はナノ素材メーカーで、従たる類型はありません。完成品(セメントや靴)は顧客が作り、FGRは添加剤を供給します。中心は多層グラフェン(グラフェンナノプレートレット)で、同社の資料で確認できた範囲の用途は次のとおりです。
| 材料・用途 | FGRでの位置づけ | 確認できた一次情報 | 区分 |
|---|---|---|---|
| セメント・コンクリート添加剤(PureGRAPH-CEM) | 最も大きく扱われている用途。英国のBreedon Groupと提携し、Hope Cement Worksで約600 tのグラフェン入りセメントを製造(2025年7〜12月、同社の説明)。英国のFP McCannがコンクリート屋根瓦1万枚超を試作 | 半期報告書、投資家向け資料 | 事実(会社の説明) |
| 複合材(ガラス繊維・炭素繊維) | スイミングプール用FRPなどで繰り返し受注。2026年10月、トルコのAeropregと炭素繊維プリプレグの共同開発・商業化契約(3年、試験結果しだい) | 半期報告書、プレスリリース(2026年10月) | 事実/商業化は未確定/将来 |
| エラストマー・履物 | 安全靴・鉱山用の作業靴向けTPUマスターバッチ(500 kgの初回受注、インドネシアのPT Alasmas Berkat Utama)。2026年10月に米国のFlux Footwearからスポーツシューズ向けの初受注 | 半期報告書、プレスリリース(2026年10月) | 事実(会社の説明) |
| ペロブスカイト太陽電池向けの炭素ペースト | 豪州のHalocellと独占ライセンス契約(2025年11月、12か月、売上の10%をロイヤルティとして支払い) | プレスリリース(2025年11月) | 事実/未確定/将来 |
| コーティング・織物・防衛・航空宇宙 | MITOとIonicの資産を買収して機能化グラフェン・酸化グラフェン、ジオテキスタイル用コーティングを追加。防衛・航空宇宙向けの案件は『パイプライン』の段階 | プレスリリース(2026年4月・6月)、投資家向け資料 | 事実/売上は確認できず |
| 電池・スーパーキャパシタ | 同社の資料で用途として列挙。Ionicの資産には電池・スーパーキャパシタ材料の知的財産が含まれるとの記述。商業的な売上は確認できなかった | 投資家向け資料 | 確認できず |
4. 会社の規模
FGRはASXに上場する小型の会社で、財務は豪ドル建てで開示されています。最新の通期は2026年6月期ですが、年次報告書(2026年9月25日にASXへ提出)の本文は本稿では確認できませんでした。確認できた直近の数値を示します 事実。
| 項目(豪ドル) | 2025年6月期(通期) | 2025年12月期(上半期) |
|---|---|---|
| 売上(顧客との契約から) | 468,397(物品 349,611、サービス 118,786) | 313,777(前年同期比53%増。物品 164,138、サービス 149,639) |
| その他の収益(R&D税額控除・助成金) | 805,282(R&D税額控除 580,123、助成金 225,159) | 619,816(R&D税額控除 518,632、助成金 101,184) |
| 研究開発費 | 1,228,120 | 475,586 |
| 一般管理費 | 3,192,112 | 1,453,824 |
| 親会社持分の損失 | 5,401,029(持分に帰属する通常活動の損失。純損失は5,483,025) | 3,348,722(うち非現金の金融費用 1,729,010と株式報酬 165,328を除く営業損失 1,454,384と同社が説明) |
| 営業活動によるキャッシュフロー | 約△2.7 million | △836,687(第2四半期は△73千で、同社は『初めてほぼ収支均衡』と説明) |
| 現金及び現金同等物(期末) | 2,612,941 | 4,899,585(2025年11月にA$3.5 millionの第三者割当) |
| 総資産/純資産 | 8,083,525/4,493,179 | 9,786,298/8,815,098 |
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|---|
| 上場・株式 | ASX:FGR。OTCQB(米国):FGPHF。フランクフルト:M11(気配値)。2026年7月の資料では、発行済み株式が約8.8億株、上場オプション約8,000万(行使価格A$0.085、期限2027年6月)、株価A$0.06、時価総額約A$50 million(2026年5月29日時点、同社の記載) |
| 生産能力 | Henderson工場で年100 t(公称。ウェブサイトは「年100,000 kg」)。実際の年間生産量は非公表。物品の売上が約A$350 thousand(2025年6月期)である点から、能力の大半は未使用とみられるが、単価・数量が非公表のため本稿は稼働率を計算しない |
| 顧客・販売網 | 同社の資料で「アクティブな顧客は35社超(別のページでは38社超)」、「ディストリビューター11社、20か国超」、「約50件の商業合意」。顧客名の多くは非公表 |
| 会社の見通し(2026年7月) | 既存顧客・開発・助成金から「約A$1.5 million」の収入を見込む。今後18〜24か月でA$10 million超の機会があると説明。「損益分岐点へ向けて現金消費を減らす」(会社の予測) |
| 従業員 | 人数は確認できなかった。拠点:豪州Henderson(本社・工場)、英国Manchester(研究開発・マーケティング)、買収した米国・豪州の拠点 |
2025年6月期の財務報告は、ASXへの提出時点では監査が進行中の速報値(Appendix 4E)と明記されていました。また、2024年6月期の数値は修正後の値で、「2024年の助成金収入をその他の収益へ分類し直した」との注記もあります。 なお、2025年12月期の半期報告書の純損失(A$3.35 million)には、2021年の資金調達契約に伴う非現金の金融費用(A$1.73 million)が含まれています。2026年6月期の通期の数値は本稿では確認できていません 未確定/将来。
5. ナノテクノロジーにかけているリソース
人・金・外部・大学の4点で、確認できたか/できなかったかを整理します。
| 項目 | 確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究開発拠点・人員) | 製造・本社はHenderson(西オーストラリア州)、研究開発・マーケティングは英国Manchester。研究開発の従業員費用は2025年6月期にA$644,857。従業員数・研究者数は確認できなかった | 事実/確認できず |
| 金(研究開発費・設備投資) | 研究開発費:2025年6月期A$1,228,120、2025年12月期(半期)A$475,586。設備の購入:2025年12月期の半期でA$19,312と小さい(既存の工場を使用)。在庫(主に黒鉛原料と製品):2025年12月末でA$2,882,650(うち非流動A$2,527,650) | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁・事業売却 | 買収:2026年4月、Ionic Industries・Imagine Intelligent Materialsの製造・知的財産・開発資産をA$250,000(現金と株式)で取得する契約。6月、MITO Material Solutionsの製品ライン・設備・知的財産を取得する契約(対価は現金と、販売目標を達成した場合の株式。金額は本稿では確認できなかった)。ライセンス:Halocell(炭素ペースト)。解散:66.67%子会社の2D Fluidics(技術が商業的に成り立たないと判断、2025年7月に登記を抹消)。資金調達:2021年5月に Specialty Materials Investments, LLC と最大A$8 millionの株式割当契約(2025年12月期に金融負債は消滅) | 事実/対価は確認できず(MITO) |
| 大学・研究機関・公的資金との連携 | 公式サイトは、アデレード大学(防火塗料・コンクリート添加剤)、フリンダース大学(合成プロセス)、Australian Research Councilのグラフェン研究拠点を連携先として掲載。Halocellとは共同開発契約(2022年6月)とCRC-P(共同研究センター・プロジェクト)パートナー契約(2023年8月)。豪州と英国のR&D税額控除(2025年6月期 A$580,123)、助成金(A$225,159) | 事実 |
主要な製造設備の状況
生産能力は会社の公称です。実際の生産量・稼働率・歩留まりは公開されていません。
| 設備・拠点 | 場所 | 規模(公称) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|
| グラフェン製造工場 | Henderson(西オーストラリア州) | 年100 t(年100,000 kg)。原料の黒鉛から1段階で製造。黒鉛からグラフェンへの変換率は95%超と同社が説明 | 稼働(西オーストラリア州政府の環境基準を満たすと説明)。新設・増設の計画は確認できなかった | 公式サイト、年次報告書(2024年6月期) |
| 英国の拠点 | Manchester(英国) | 研究開発・マーケティング | 稼働 | 公式サイト |
| 黒鉛の原料 | スリランカ(同社の鉱山) | 年次報告書は子会社MRL Graphene(スリランカ)を『鉱山・探鉱』と記載 | 公式サイトは『自社鉱山から採掘』と記載。一方、2025年12月期の半期報告書は『スリランカの鉱山は維持管理の状態(care and maintenance)』と記載。現在の採掘状況は確認できなかった | 公式サイト、半期報告書 |
| MITOの米国拠点 | 米国 | 委託製造(toll manufacturing)を含む商業拠点 | 買収後の統合段階と同社が説明(2026年7月の資料)。契約の締結は2026年6月 | プレスリリース(2026年6月) |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2021年5月 | Specialty Materials Investments, LLCと株式割当契約(最大A$8 million、最終的な割当額は約A$8.48 million) | 工場立ち上げ期の資金調達 |
| 2022年6月・2023年8月 | Halocellと共同開発契約(2022年6月)、CRC-Pのパートナー契約(2023年8月) | 太陽電池向けの炭素ペーストの開発の始まり |
| 2025年2月 | PureGRAPHの技術資料(5グレード)を更新 | 製品仕様の公開 |
| 2025年5月〜7月 | 66.67%子会社2D Fluidicsの登記抹消を申請(技術が商業的に成り立たないと判断) | 事業の整理 |
| 2025年7月〜12月 | Breedon Groupの工場でグラフェン入りセメント約600 tを製造(同社の説明で、世界でも最大級の商業生産) | セメントでの工業規模の実績 |
| 2025年11月 | A$3.5 millionの第三者割当。Halocellと炭素ペーストの独占ライセンス(12か月) | 資金の確保と太陽電池向け製品の追加 |
| 2026年4月28日 | Ionic Industries・Imagine Intelligent Materialsの資産を取得する契約(A$250,000) | ジオテキスタイル用コーティングの技術を追加 |
| 2026年6月4日 | MITO Material Solutionsの資産を取得する契約 | 酸化グラフェン・機能化グラフェンと米国の販売拠点を追加 |
| 2026年7月 | 投資家向け資料を更新(35社超のアクティブな顧客、11社の販売網) | 市場拡大の方針の提示 |
| 2026年9月〜10月 | 9月25日に年次報告書をASXへ提出。9月29日に英国の提携拡大とPureGRAPHを使った感熱センターの発売を発表(本稿では内容を確認していない)。10月4日にAeropregと炭素繊維の契約。10月6日にFlux Footwearから初受注 | 新用途の商業化 |
7. 今後の計画
(既存顧客・開発・助成金)2026年7月の同社の予測。18〜24か月でA$10 million超の機会があると説明
損益分岐点を目指す会社の方針。達成時期は確認できなかった
防衛・航空宇宙を開拓米国EPAへの登録は『進行中』と同社が説明(登録の結果と時期は確認できなかった)
同社は、設備の増設の計画ではなく、既存の設備の稼働を上げること(売上の拡大)と、買収による製品の拡充を主な方針としています。年100 tの公称能力に対して、新たな能力増強の計画は公式資料に記載がありません 未確定/将来。
次はいずれも一次資料に記載がありません、または本稿で本文を確認できませんでした 未確定/将来。
2026年6月期の通期の財務(年次報告書の本文)/従業員数/年間の実際の生産量と稼働率/黒鉛の原料の現在の調達先(スリランカの鉱山は維持管理の状態)/MITOの取得対価の金額/米国EPAの登録の結果/2026年9月29日の『英国の提携拡大』の中身/顧客別の売上/黒字化の時期/EUのREACHでの年100 tの区分の取得状況。
8. この会社はナノテクノロジーで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 当面の目標は、設備の増強ではなく、受注の拡大と用途の拡大である | 2026年7月の資料:能力は年100 tで『確立済み』、重点は約50件の商業合意の実現と、2件の買収の統合。助成金・R&D税額控除と増資で運営 | 事実(会社の説明)/推測 |
| セメント・コンクリートを量の柱に、複合材・履物・コーティングで用途を広げようとしている | 半期報告書:セメント・複合材・履物が収益の中心。2026年の買収は複合材・コーティング・米国市場へ | 推測 |
| 米国の防衛・航空宇宙市場と、非中国の供給網を足がかりにしようとしている | 投資家向け資料:MITOの米国拠点、ITAR対応の委託製造、『Buy American』など。ただしこれらの政策環境の記述は会社の見方 | 推測 |
| 単なるグラフェン粉体の販売から、用途ごとに調整した添加剤(マスターバッチ・分散液・機能化品)へ移そうとしている | 製品ラインにPureGRAPH Aqua、Custom Masterbatches、酸化グラフェン、E-GO、LIGRAを追加(投資家向け資料) | 事実(会社の説明) |
「設備の増強より受注の拡大が先」と読む根拠は、能力と売上の差です。公称能力は年100 tですが、物品の売上は2025年6月期でA$349,611、半期(2025年12月期)でA$164,138と小さく、同社自身も「顧客の製品の発売が遅れた」ことが売上に影響したと書いています。 2026年7月の資料では、収入の見込みも約A$1.5 millionにとどまります。この状況で新たな設備投資を計画する理由は小さく、実際、設備の購入は半期でA$19,312です。 代わりに、2件の買収(合計でも数十万豪ドル規模)で製品と販売先を増やしています。これは公式資料の記述の組み合わせから本稿が読み取った解釈で、将来の増設の意思があるかは確認できません 未確定/将来。
9. ナノテクノロジー分野の提携マッピング
FGRの関係の特徴は、用途ごとに別々の顧客・提携先がいて、顧客数は多いが一件の規模が小さいことです。公式資料で数量・金額が確認できる案件は少なく(例:Breedonの約600 tのセメント)、主要顧客への売上の集中度は確認できません 未確定/将来。
10. 提供している技術・製品・サービス
以下は、同社の技術資料、公式サイト、投資家向け資料の記述です。数値はすべてメーカー公称(会社の主張)で、測定法を併記しています。他社の製品との優劣を示すものではありません 事実。
| グレード | 平均粒径 D50 | かさ密度 | タップ密度 |
|---|---|---|---|
| PureGRAPH 5 | 5 µm | 0.036 g/cm³ | 0.038 g/cm³ |
| PureGRAPH 20 | 20 µm | 0.074 g/cm³ | 0.084 g/cm³ |
| PureGRAPH 50 | 50 µm | 0.144 g/cm³ | 0.177 g/cm³ |
グレードは5・7・10・20・50 µmの5種類(上表は技術資料に数値のある3つ。7 µmと10 µmの数値は本稿では確認していません)。測定法(同社の記載):粒子径はレーザー回折(Malvern Mastersizer 3000E)で、水と界面活性剤に分散した粉体。かさ密度はASTM D6683、タップ密度はASTM D7481。同社は、層数はラマン分光で「多層のグラフェンナノプレートレット」と確認したと書いていますが、層数の分布や酸素含有量、欠陥の指標(ID/IG比)などの数値は公開されていません。公式サイトは「平均厚さ10 nm未満」と書いています。
| 製品・用途 | 同社の説明(会社の主張) | 条件・注意 |
|---|---|---|
| セメント・コンクリート(PureGRAPH-CEM) | 結合材の0.1%未満の添加で、圧縮強度・曲げ強度が25〜30%向上。クリンカーを減らしてCO₂を16〜20%削減できると説明。透水性(空隙)は12〜19%低下。Breedonでは約600 tのセメントを製造し、炭素排出を最大20%削減と説明。屋根瓦では最大14%のCO₂削減 | 強度は『28日モルタル』の値(資料のグラフ)。CO₂の削減率は、クリンカー置換の前提と算定範囲が資料に書かれておらず、他社品との比較はできない |
| 複合材・ポリマー | 靭性が230%超、引張弾性率が45%超、最終引張強度が140%超向上。軽量化30%超と強度向上30%超を同時に達成と説明 | 母材・添加量・試験規格は資料に記載なし。最良の事例の値と読むべきもの |
| エラストマー(履物・鉱山のライナー) | TPUマスターバッチ(500 kgの初回受注)。耐摩耗・耐引裂・耐久性の向上を狙う | 数値の根拠は資料に記載なし |
| PureGRAPH Aqua・分散液・マスターバッチ | 水系の分散ペースト、カスタムの分散液、LDPE・EVAなどのマスターバッチ | 製品の仕様書(Aqua)は同社サイトに掲載。数値は個別に確認が必要 |
| 機能化グラフェン・酸化グラフェン(MITO由来) | E-GO、LIGRA、OMEGA、DELTAの各ライン。熱硬化樹脂・熱可塑性樹脂・コーティング・樹脂への添加剤 | 2026年6月に買収した資産。FGRとしての販売実績は確認できなかった |
| ジオテキスタイル用コーティング(Ionic由来) | 貯水池・埋立地の遮水シートなどに、バリア性と導電性を付与するコーティング | 2026年4月に買収。売上は確認できなかった |
(1) 作り方:電圧で黒鉛の層の間にイオンを入れ、押し広げる。 同社の方式は、黒鉛に電圧をかけ、イオンを層の間に入り込ませて(インターカレーション)層を押し広げる電気化学剥離です。一般に、この方式は、化学的な酸化を使う方法に比べて穏やかな条件で薄片を得やすい一方、端や面に酸素を含む官能基ができる、層数や厚さにばらつきが出るといった課題が知られています(一般的な整理。同社の製品では確認できません)。同社は「欠陥の少ない(defect-free)」と書きますが、ラマンのID/IG比や酸素含有量は資料にありません。 詳しくは、本シリーズの技術解説『グラフェン』を参照してください。
(2) 「大きな薄片」の意味:バリアと補強。 同社のグレードは、横寸法が5〜50 µmで、厚さは平均10 nm未満とされます。厚さに対して横幅が大きい(アスペクト比が高い)薄片は、樹脂やセメントの中で水や気体の通り道を遠回りさせ(バリア性)、荷重を受け持つ面積も増やします。同社が透水性の低下と強度向上を同時に挙げるのは、この形状を使うためと読めます(推測)。一方、薄片が大きいほど、ばらけにくく、混ぜにくくなる面もあります。
(3) かさ密度が低いことの意味。 PureGRAPH 5のかさ密度は0.036 g/cm³、PureGRAPH 50でも0.144 g/cm³と、ふわふわの粉です。体積あたりの重さが小さいため、輸送・保管・計量の効率や、粉じんの扱いが課題になります。同社が水系ペースト(Aqua)やマスターバッチを用意するのは、粉のまま顧客に使わせず、顧客の工程で使える形に前処理するためと考えられます(推測)。
(4) 規制:ナノ材料として新規物質の登録が必要。 同社は、PureGRAPHの平均厚さが10 nm未満のため、ナノ材料として新規化学物質の登録が必要だと説明します。EUではREACHで年10 tの区分を取得し、100 tの区分を目指している途中、豪州ではAICISの認証、米国は登録が進行中です(同社の説明)。公称能力(年100 t)をEUで売るには、年100 tの区分が必要になるという関係がありますが、取得状況は確認できませんでした。 本シリーズの技術解説『ナノ材料の定義と規制』『ポリマーブレンドとフィラー』も参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 資金調達への依存 | 営業活動は赤字で、同社は『事業の継続は追加の増資の成功に依存する』と半期報告書に記載(取締役は、2025年11月の増資で重要な不確実性はないと判断)。株価は低く(2026年5月29日にA$0.06)、増資は希薄化を伴う | 事実(会社の説明) |
| 売上に対して能力が大きい | 公称能力は年100 tだが、物品の売上は2025年6月期でA$349,611。顧客の製品の発売の遅れが売上に影響したと同社が説明。実際の生産量は非公表 | 事実 |
| 原料の供給 | 黒鉛の原料はスリランカの自社鉱山と説明されるが、半期報告書は鉱山が維持管理の状態であると記載。また、2017年6月期に関する損害賠償がスリランカの裁判所で評価中で、金額は確定していない | 事実/確認できず(現在の調達先) |
| 規制の段階 | EUのREACHの年10 tの区分(100 tを申請中)、米国の登録は進行中。登録が遅れると、販売できる量・地域が制限される | 事実(会社の説明)/未確定/将来 |
| 2021年の資金調達契約 | Specialty Materials Investments, LLCとの株式割当契約(最大A$8 million、約A$8.48 millionの株式)に伴う非現金の金融費用が損益を押し下げている(2025年12月期にA$1.73 million)。2025年12月末に金融負債は解消 | 事実 |
| 買収の統合 | MITOとIonicを短期間で統合する必要がある。MITOの対価は販売目標の達成に連動する株式を含む。買収の対象の売上・利益は確認できなかった | 事実/未確定/将来 |
| 会社の主張の強さ | 『世界で唯一』『競合に匹敵するものがない』などの表現が多く、比較の根拠(他社の数値)は資料にない。市場規模の数値は調査会社の推計(Fortune Business Insightsなど)で、本稿は採用しない | 事実(会社の説明) |
| 公的支援・助成への依存 | その他の収益の大半はR&D税額控除と助成金(2025年6月期 A$805,282、売上の約1.7倍)。制度の変更や資格の喪失は収入を減らす | 事実/本稿の計算 |
| 競合・代替材料 | 他のグラフェン企業、カーボンブラック・カーボンナノチューブなどの代替材料との競合。同社の資料に競合の数値はなく、本稿は評価しない | 推測 |
12. 用語集
- グラフェンナノプレートレット
- グラフェンが数層〜十数層重なった薄片。FGRのPureGRAPHは多層(厚さ平均10 nm未満)。
- 電気化学剥離
- 黒鉛に電圧をかけ、層の間にイオンを入れて押し広げ、薄片をはがす方法。
- D50
- 粒子径の分布で、体積の50%がこれより小さくなる粒子径。
- かさ密度/タップ密度
- 粉を自然に積んだときの密度/容器を軽くたたいて詰めたときの密度。
- ラマン分光
- 光の散乱から、炭素材料の層数や欠陥を調べる方法。ID/IG比は欠陥の指標。
- マスターバッチ
- 樹脂に高濃度の添加剤を練り込んだ粒。顧客が薄めて使う。
- REACH
- EUの化学物質規則。製造・輸入量に応じた登録が必要(年1 t以上)。ナノ材料は物質ごとに情報が求められる。
- AICIS
- 豪州の工業化学品の導入制度。新規の化学物質は登録が必要。
- Appendix 4E
- ASX上場企業が、通期決算の速報として提出する書類。監査前の数値を含みうる。
- R&D税額控除
- 豪州などで、研究開発費の一部が税額控除や還付として戻る制度。FGRの収益の一部を占める。
- メーカー公称/会社の主張
- メーカー自身が示す性能値や説明。試験条件と版が一緒でないと、他の製品と比べられない。

13. 出典
- First Graphene Investor Presentation, July 2026(2026年7月の投資家向け説明資料。ASX:FGR)。生産能力、顧客数、買収、販売網、見通し。 https://firstgraphene.net/wp-content/uploads/2026/07/FGR-Corporate-Presentation-July-2026.pdf
- First Graphene Interim Financial Report for the half year ended 31 December 2025(2026年2月25日、ASXに提出)。半期の業績、資金調達、財政状態。 https://announcements.asx.com.au/asxpdf/20260225/pdf/06wrjp2nrhdxnh.pdf
- First Graphene ASX Appendix 4E – Preliminary Financial Report for the year ended 30 June 2025(2025年8月29日、ASXに提出)。通期の業績、財政状態、注記。 https://announcements.asx.com.au/asxpdf/20250829/pdf/06nl9dx84x3tnm.pdf
- First Graphene FGR Annual Report FY2023/24(2024年6月期の年次報告書)。事業、リスク、規制、子会社。 https://firstgraphene.net/wp-content/uploads/2024/10/FGR-ANNUAL-REPORT-2024.pdf
- First Graphene PureGRAPH Data Sheet(2025年2月13日版)。グレード、粒子径、かさ密度、測定法。 https://firstgraphene.net/wp-content/uploads/2025/02/PureGRAPH-Data-Sheet-V1_13Feb25.pdf
- First Graphene 公式サイト「Graphene Manufacturing Process & Technology」。電気化学剥離、原料の黒鉛、年100,000 kgの能力、研究連携。 https://firstgraphene.net/about-us/technology/
- First Graphene 公式サイト「Regulatory」。ナノ材料の新規物質登録、REACH(年10 t)、AICIS、米国の登録の状況。 https://firstgraphene.net/about-us/regulatory/
- First Graphene 公式サイト「Locations」。本社・製造拠点(Henderson)と英国の拠点。 https://firstgraphene.net/about-us/locations/
- First Graphene FGR accelerates USA expansion & defence sector exposure with strategic acquisition of MITO Material Solutions(2026年6月4日のプレスリリース、PR Newswire配信)。 https://www.aap.com.au/aapreleases/cision20260603ae75719/
- First Graphene FGR enters agreement to acquire advanced graphene coatings companies(2026年4月28日のプレスリリース、PR Newswire配信)。Ionic Industries・Imagine Intelligent Materials。 https://www.aap.com.au/aapreleases/cision20260427ae43646/
- First Graphene FGR secures exclusive global graphene carbon paste production and sale rights(2025年11月25日のプレスリリース、PR Newswire配信)。Halocellとの独占ライセンス。 https://www.prnewswire.com/news-releases/fgr-secures-exclusive-global-graphene-carbon-paste-production-and-sale-rights-302626371.html
- First Graphene FGR advances carbon fibre commercialisation with Aeropreg agreement(2026年10月4日のプレスリリース、PR Newswire配信)。 http://www.prnewswire.com/news-releases/fgr-advances-carbon-fibre-commercialisation-with-aeropreg-agreement-302897732.html
- First Graphene First PureGRAPH production order secured with global sports shoes company(2026年10月6日のプレスリリース、PR Newswire配信)。 https://www.prnewswire.com/news-releases/first-puregraph-production-order-secured-with-global-sports-shoes-company-302899581.html
- ASX First Graphene Limited(ASX:FGR)の会社発表一覧(ASX公式サイト)。2026年9月25日の年次報告書の提出など。 https://www.asx.com.au/markets/trade-our-cash-market/announcements.fgr
- First Graphene 公式サイト(トップページ。ロゴ画像の取得元、会社の概要)。 https://firstgraphene.net/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月9日/Troy Technical
本稿の内容は、FGRのASX提出書類(2025年6月期の速報財務報告、2025年12月期の半期報告書)、2024年6月期の年次報告書、2026年7月の投資家向け資料、プレスリリース、技術資料に基づきます。調査会社の市場推計や報道ベースの数値は使用していません(投資家向け資料にある市場規模の記述は調査会社の推計のため採用していません)。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。製品の性能値は同社の主張で、測定法の異なる他の値とは比較できません。会社の計画・目標は未確定で、実現を保証するものではありません。2026年6月期の通期の財務は本稿では確認できていません。本稿は、ナノ材料の取扱い・安全、投資の判断について、読者個人に助言するものではありません。