🌐 This site is also available in English Visit English Site →
🌐 English

エッチング 技術解説

← ナノテクノロジーの解説一覧へ戻る

TECHNOLOGY EXPLAINER

エッチング
― 「どこまで削り、どこで止め、どんな形にするか」を決める技術

エッチングは、マスクで守られていない部分の膜を選んで削る工程です。プラズマ(ドライエッチング)では、イオンが縦方向に、ラジカルが化学反応を担い、異方性と選択比を両立させます。3D NANDのメモリホールでは、深さ10 µm超・アスペクト比約100の穴が報告され、原子層エッチング(ALE)は「1層だけ削る」ことを目指します。一方で、エッチングに使うフッ素系ガスは温室効果ガスであり、EUのPFAS制限案とも関わります。この記事は、仕組み・ガスの化学・高アスペクト比・ALE・規制を、数字と制度の段階を分けて整理します。

構成:査読論文(Leeら、Donnelly・Kornblit、Kanarikら、Georgeら、Jeongら、Kimら、Sudaら ほか)、EU規則・OECD・ECHA・米国の連邦規則を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

エッチングの構造・工程を示す解説画像
図1 概念図(AI生成イメージ)。エッチング装置を運転する場面を想像で描いたものです。実際の装置・メーカー・工場の外観やプラズマの色を示すものではありません。
この記事の構成
  1. エッチングとは何か(3行でつかむ)
  2. 湿式と乾式、等方性と異方性
  3. プラズマの中で何が起きるか ― イオンとラジカル
  4. 選択比とマスク ― 本稿の計算
  5. ガスの化学 ― フッ素系などの組み合わせ
  6. 3次元トランジスタの選択的な等方エッチング
  7. 高アスペクト比のエッチング(3D NAND)
  8. 原子層エッチング(ALE)
  9. ガスと規制 ― 温室効果ガスとPFAS
  10. 数字の読み方
  11. 課題・限界/用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・提案であり、採択・施行が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
エッチング速度・選択比などの数値は、何の膜・ガス・条件の値かとどの水準か(実験室/装置メーカー/量産)とセットで書きます。規制は、提案・採択・施行(適用開始)を区別して日付を添えます。

この記事の位置づけ

半導体製造のエッチング技術と、関連する規制の動きの解説です。エッチングガスにはフッ素系・塩素系の毒性・腐食性のものがあり、取扱いは供給者のSDSと法令によります。この記事は取扱いや法令順守の助言ではなく、特定の企業・装置・国の優劣を述べるものでもありません。

1. エッチングとは何か(3行でつかむ)

エッチングは、「マスク(レジストなど)に守られていない部分の膜を、選んで削り取る」工程です。『リソグラフィとEUV』編が「描く」、『原子層堆積』編が「積む」なら、これは「削る」工程で、リソグラフィで描いたパターンを、実際の膜や基板に移します。

  • 歴史:Donnelly・Kornblit(2013年の総説)は、プラズマエッチングが1960年代半ばに集積回路の製造に導入され、液体廃棄物を減らすこと、湿式では得にくい選択比を得ることを狙っていたと述べています。シリコン、アルミニウム、二酸化シリコンを異方的に削れるようになったことが、その後の約40年の微細化を可能にした、とされています事実
  • 管理する項目:Leeらの総説(2025年)は、エッチングの精密な制御として、エッチ深さ、エッチ形状、表面粗さ、均一性を挙げています事実
  • 規制との関係:エッチングや反応室の洗浄に使うフッ素系のガスは、温暖化係数(GWP)が大きく、EUのF-gas規則(規則(EU)2024/573)には、半導体のエッチングと化学気相成長(CVD)室の洗浄に関する条文があります事実。PFAS制限案は審議中で、採択・施行はされていません未確定/将来
この記事でいちばん大事な一行

エッチングは「削る速さ」より、「何をどこまで削り、何を残すか」の制御です。 それを表すのが、異方性(縦にだけ削る)、選択比(削る膜と残す膜の速度比)、均一性の3つです(Lee、Donnelly)。 EUVのレジストは約35 nmと薄いため(Hasanらの総説)、薄いマスクで深く削るには高い選択比が要り、これがガスと材料の選び方を決めます(本記事の解説と計算)。

本シリーズでは、『リソグラフィとEUV』編のマルチパターニング(スペーサーを削って残す)、『レジストとフォトマスク』編のマスクの吸収体(フッ素系プラズマでの加工性)、『原子層堆積』編の選択ALD(補正ステップに選択的エッチング)で、すでにエッチングに触れました。この編は、その共通部分をまとめます。

2. 湿式と乾式、等方性と異方性

Leeらの総説は、エッチングを湿式(液体の薬液の中での化学反応)と乾式(真空チャンバーの中での物理・化学反応)に分けています。湿式は低コストで実装が容易、ほとんどの材料に高い選択性があり、結晶でない材料では等方的に削れます。一方、この総説は、湿式は1 µm未満の寸法を定めるには不十分、ウエハ汚染を起こしうる、エッチ速度を一定に保ちにくい、と整理しています。乾式は典型的に異方的で、深く削れ、エッチ速度が高く自動化しやすく、100 nm未満の寸法を定められる一方、選択性が低い、スループットが低い、毒性・腐食性のガスを使う、放射線損傷の可能性がある、とされています事実。

エッチングの構造・工程を示す解説画像
図2 概念画像(ImageGenで生成)。左はマスクの下へ横にも削れる断面、右は縦方向に削る断面の例です。湿式・乾式すべての条件に当てはまる形状ではありません。 [参考資料 1]
形状・色・寸法は説明用です。数値・原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る

図の読み方・元図の説明:湿式エッチングと乾式エッチング:等方性と異方性(概念図) / 断面の模式図。マスクの開口は同じで、削れ方が違います。 / 湿式(液体の薬液):等方性 / 薬液(あらゆる向きに削る) / 横にも同じ速さで削れ、 / マスクの下に食い込む / 乾式(プラズマ):異方性 / イオン(垂直に入射) / 縦方向に削れ、 / マスクの開口に近い形が残る / マスク(レジストなど) / 削る膜 / 基板 / ※ 湿式は一般に等方的、乾式は典型的に異方的、という整理は、Leeらの総説[参考資料 1]の比較表によります。 / ※ 実際の乾式エッチングも、条件により横方向の削れ(等方成分)が生じます。形・寸法は模式的です。

湿式エッチングと乾式エッチング:等方性と異方性(概念図) 断面の模式図。マスクの開口は同じで、削れ方が違います。 湿式(液体の薬液):等方性 薬液(あらゆる向きに削る) 横にも同じ速さで削れ、 マスクの下に食い込む 乾式(プラズマ):異方性 イオン(垂直に入射) 縦方向に削れ、 マスクの開口に近い形が残る マスク(レジストなど) 削る膜 基板 ※ 湿式は一般に等方的、乾式は典型的に異方的、という整理は、Leeらの総説[参考資料 1]の比較表によります。 ※ 実際の乾式エッチングも、条件により横方向の削れ(等方成分)が生じます。形・寸法は模式的です。
図2 概念図(ベクター作図)。同じマスクの開口でも、湿式は横にも削れ(等方性)、乾式は縦に削れる(異方性)という関係です[参考資料 1]。形状・寸法は模式的で、実際の工程を示すものではありません。

3. プラズマの中で何が起きるか ― イオンとラジカル

ドライエッチングの中心は、ガスを電離させたプラズマです。プラズマの中には、電荷をもつイオンと、中性で反応性の高いラジカルがあります。イオンは電界で加速されて表面にほぼ垂直に入射し、ラジカルはあらゆる向きに動いて化学反応を起こします(本記事の概念整理。Donnelly・Kornblit、Jeongらの議論に基づく解説)。

エッチングの構造・工程を示す解説画像
図3 概念画像(ImageGenで生成)。溝の底へ向かうイオンと、表面で反応する化学種を区別しています。側壁の薄い被覆は、横方向の反応を抑える保護膜の考え方を示します。 [参考資料 6・7]
形状・色・寸法は説明用です。数値・原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る

図の読み方・元図の説明:反応性イオンエッチングのしくみ:イオンとラジカルの役割(概念図) / プラズマ中のイオンは電界で加速され、ほぼ垂直に表面へ入射します。 / プラズマ(ガスが電離した状態) / シース(電界でイオンを加速) / マスクの開口から、溝の底へ / イオン(赤) / 電界で加速され、垂直に入射。 / 底の反応と除去を促す / ラジカル(青) / 中性で、あらゆる向きに動く。 / 化学反応の主役(等方的) / 側壁・マスク上の保護膜 / フルオロカーボン系などの / 重合膜が側壁を守る / ※ イオン・ラジカルの役割と重合膜による保護は、Jeongら[参考資料 6]とKimら[参考資料 7]の記述を概念図にしたものです。 / ※ イオンの角度分布、膜の厚さ、反応生成物の脱離は省略した模式図です。

反応性イオンエッチングのしくみ:イオンとラジカルの役割(概念図) プラズマ中のイオンは電界で加速され、ほぼ垂直に表面へ入射します。 プラズマ(ガスが電離した状態) シース(電界でイオンを加速) マスクの開口から、溝の底へ イオン(赤) 電界で加速され、垂直に入射。 底の反応と除去を促す ラジカル(青) 中性で、あらゆる向きに動く。 化学反応の主役(等方的) 側壁・マスク上の保護膜 フルオロカーボン系などの 重合膜が側壁を守る ※ イオン・ラジカルの役割と重合膜による保護は、Jeongら[参考資料 6]とKimら[参考資料 7]の記述を概念図にしたものです。 ※ イオンの角度分布、膜の厚さ、反応生成物の脱離は省略した模式図です。
図3 概念図(ベクター作図)。反応性イオンエッチングでの、イオン・ラジカル・側壁の保護膜の役割です[参考資料 6・7]。各種の割合・エネルギー・膜の厚さは模式的で、実際のプラズマの状態を示すものではありません。

Jeongら(2023年、査読論文。Samsung Electronicsの研究者を含む)は、二周波の容量結合プラズマ(Ar/C4F8)で、高アスペクト比のSiO2エッチングを調べ、イオンのエネルギーと流束を個別に制御して、それぞれの寄与を分けました。論文の導入では、高アスペクト比のエッチングで、ノッチング、ボーイング、ツイスト、テーパー、アスペクト比依存のエッチングが課題になること、メカニズムの理解が進んでいないことを述べています事実。同論文が紹介する先行研究では、中性粒子とイオンの流束比が重要で、比が低い領域では比とともにエッチ速度が上がり、高い領域では厚いフルオロカーボン膜ができてエッチ速度が下がること、深い溝の底へはイオンが側壁で中性化した高速の中性粒子がクヌーセン輸送で届き、主要なエッチャントになりうること、などが紹介されています事実(先行研究のシミュレーション・実験の紹介)。

素材技術者の読みどころ①:エッチングしやすさは「揮発性の生成物ができるか」で決まる

プラズマは「削る装置」というより、反応種の供給源です(本記事の解説)。膜の材料が削れるかどうかは、揮発性の反応生成物ができるかで決まります。『レジストとフォトマスク』編で見たように、Liらは、白金にフッ素系プラズマで揮発性の生成物を作るタングステンを加えて、エッチング性を高めました事実。 Kimら(2025年)のSiGe/Siの選択エッチングでは、CF4/N2の系で、GeFx種の表面濃度が増えるとSiGeのエッチングが進み、Si–N結合がSiのフッ素ラジカルによるエッチングを妨げた、とXPSで確認しています事実。 つまり、削りたい膜と残したい膜で、「揮発性生成物ができやすさ」を変える設計が選択比の中身です。Coburn・Winters(1979年)が提唱した「イオンと中性粒子の相乗効果」の考え方(Kanarikらの論文が紹介)も、この延長にあります事実。

4. 選択比とマスク ― 本稿の計算

選択比は、削りたい膜のエッチ速度とマスクのエッチ速度の比です(Leeらの総説は「異なる材料のエッチ速度の比」と定義)事実。選択比が低いと、深く削るあいだにマスクがなくなってしまいます。

本稿の計算

マスクが削られる量だけを見て、必要なマスクの厚さを エッチング深さ ÷ 選択比 で見積もります本稿の計算。

  • 深さ100 nm:選択比2で50 nm、5で20 nm、10で10 nm、20で5 nm。薄いEUVレジスト(約35 nm、Hasanらの総説)では、選択比が約3以上でないと100 nmの深さに足りません(100 ÷ 35 = 約2.9)
  • 深さ10 µm(アスペクト比約100のホールの深さ、Sudaらの報告):選択比10で1,000 nm、20で500 nm、50で200 nm

前提と限界:選択比の値は本記事の仮定の例で、実在のプロセスの値ではありません。マスクの横方向の後退、肩落ち(コーナーの削れ)、マスクと下地との選択比は計算に含めていません。実際のプロセスでは、レジストの下にハードマスク膜(炭素系・金属系など)を重ねて、必要な厚さを確保するのが一般的です(本記事の解説。個別の構成は本稿で確認していません)。

選択比とマスクの厚さ(本稿の計算) 必要なマスクの厚さ = エッチング深さ ÷ 選択比(マスクが削られる量だけを見た目安)。 深さ100 nmをエッチングする場合 選択比 2 50 nm 選択比 5 20 nm 選択比 10 10 nm 選択比 20 5 nm 薄いEUVレジストの例:約35 nm 深さ10 µmをエッチングする場合(アスペクト比約100のホールの深さ) 選択比 10 1000 nm 選択比 20 500 nm 選択比 50 200 nm ※ 選択比 = 削りたい膜のエッチ速度 ÷ マスクのエッチ速度。値は本記事の仮定の例で、実在のプロセスの値ではありません。 ※ 約35 nmはHasanらの総説[参考資料 2]の、EUVレジストの薄膜の例。10 µm・AR約100はSudaらの報告[参考資料 9]。 ※ マスクの横方向の後退、肩落ち、下地膜との選択比は含みません。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。選択比とマスクの必要な厚さの関係です[参考資料 2・9]。選択比は本記事の仮定の例で、実在のプロセスの値ではありません。

『レジストとフォトマスク』編で見たように、金属酸化物レジストの特長の一つは高いエッチング耐性です。Hasanらの総説は、金属酸化物レジストは、パターンを下の層へ移すエッチングに、より良く耐えると述べています事実。薄いレジストで深く削るという要求に、材料側(耐性の高いレジスト)とプロセス側(選択比の高いガス)の両方から応えている、ということです(解説)。

5. ガスの化学 ― フッ素系などの組み合わせ

エッチングのガスは、削る膜と残す膜の組み合わせで変わります。報告された例を、条件つきで整理します。

対象報告されたガス・条件(水準)特徴・狙い出所
SiO2の高アスペクト比エッチングAr/C4F8、二周波の容量結合プラズマ(実験室)フルオロカーボン膜の厚さが、中性粒子/イオンの流束比で変わるJeongら(2023年)
SiO2のアスペクト比エッチング(低温)CF4/H2/Ar、200 nmトレンチ(実験室)低温でエッチ速度とアスペクト比が上がり、ネッキング・ボーイングが減ったKwonら(2024年)
SiO2/SiNのONON積層(3D NAND)HFとリン含有ガス、極低温、二周波の容量結合プラズマ(実験室)深さ10 µm超、アスペクト比約100。従来のフルオロカーボン系より生産性が大幅に向上と報告Sudaら(2025年)
SiNx(ダブルパターニング)従来はCHF3/CF4。代替としてC2H2F4/CF4O(実験室)従来ガスは選択比が低くGWPが高い。代替は選択比向上とトレンチング解消(混合による)Kimら(2025年、Sci. Rep.)
SiGe/Siの選択エッチングCF4/N2、CF4/O2(実験室)CF4/N2で選択比・形状が良好。Si–N結合がSiのエッチングを抑制Kimら(2025年、Materials)
3D NANDのSiO2/SiN積層(高アスペクト比)C3HF5(CF3CHCF2)。光イオン化の基礎研究(実験室)GWPが1未満の低GWPガス候補と著者らが説明Nguyenら(2025年)

すべて事実(各論文の記述)。膜・条件・水準が異なるため、ガスの優劣を比べるものではありません。

素材技術者の読みどころ②:重合膜は「味方」でもあり「敵」でもある

フルオロカーボン系のガスは、エッチングと同時に側壁・マスクを覆う重合膜を作ります。Kimら(2025年、Sci. Rep.)は、C2H2F4がCHF3より強い重合を促し、マスクの保護が良くなる一方、重合物の堆積でトレンチング(溝の底の掘れ)が起きた、と報告しています。CF4Oを加えるとフッ素の解離が増え、重合物が減って、トレンチングが解消されました事実。Jeongらの先行研究紹介にあるように、重合膜が厚すぎればエッチ速度が下がります事実。 つまり、重合(堆積)と削り(エッチ)のバランスがガス設計の核心で、これは『原子層堆積』編の「堆積と削りが1つの工程の部品になる」見方と同じです(本記事の解説)。炭素とフッ素の比などで重合しやすさが変わるという一般的な傾向は、本稿の個別の一次情報では確認していません。

6. 3次元トランジスタの選択的な等方エッチング

ゲート・オール・アラウンド(GAA)のようなナノシートの構造は、SiとSiGeを交互にエピタキシャル成長させ、SiGeだけを選んで削ることで、積層したSiチャネルを作ります(Kimら、2025年)事実。ここで必要なのは、縦ではなく横方向(等方的)の選択的なエッチングです。

Kimら(2025年、Materials、Yonsei大学)の論文は、SiGeの選択エッチングの方法として、湿式(Si0.76Ge0.24の40 nmの層で選択比150超という先行報告)、HClによる熱エッチング(600 ℃超が必要で、ドーパントの拡散の恐れ)、プラズマによるドライエッチングを挙げています。湿式には、酸化が不十分だとSiGeがトンネル内に残る、乾燥時にパターン倒れが起きる、という限界があります事実。同論文は、CF4/N2とCF4/O2のプラズマで、イオン衝撃を遮る板(ルーフ)を試料の上に置いて、ラジカルだけの寄与を調べました。CF4/N2の方が選択比と形状に優れ、イオン衝突を減らすと選択比がさらに高まりました事実(実験室)。

素材技術者の読みどころ③:「イオンを減らす」ことが選択比を上げる

縦方向のエッチングでは、イオンが主役でした。一方、SiGeのような横方向の選択エッチングでは、イオンはむしろ邪魔で、ラジカルだけで化学的に削るほうが選択比が高い、というのがこの研究の示唆です(本記事の解説)。 同じ「プラズマ」でも、イオンとラジカルの比率を変えることで、異方的にも等方的にも使い分けることになります。さらに、等方的な原子層エッチング(熱ALE)が使えれば、選択性と深い構造への均一性を両立しうる、という期待があります(第8章)。

7. 高アスペクト比のエッチング(3D NAND)

3D NANDなどでは、積層膜を貫く深く細い穴(メモリホール)を開けます。Jeongらは、高アスペクト比のエッチングでノッチング、ボーイング、ツイスト、テーパー、アスペクト比依存のエッチング(ARDE)といった課題が出ること、これを抑えるために多周波の制御、電圧波形の整形、パルス変調などが開発されてきたこと、一方でガスの混合や工程数の増加で複雑化し、メカニズムの理解が追いついていないこと、を述べています事実。

高アスペクト比のエッチングで起きる形状の乱れ(概念図) メモリホールの断面の模式図。実際の欠陥の大きさ・位置を示すものではありません。 1 2 3 4 1 ① ネッキング(入口のくびれ) 入口の変形で、奥へ届くイオンが減る 2 ② ボーイング(途中のふくらみ) イオンの角度ずれなどで側壁が横へ削れる 3 ③ テーパー(底へ向けて細る) 底へ行くほど開口が狭くなる 4 ④ ツイスト(ねじれ・傾き) 帯電などでイオンの向きが曲がる 5 ⑤ ARDE(深さによる速度低下) 深いほどエッチ速度が下がる(穴全体の問題) ※ ネッキング・ボーイング・ツイスト・テーパー・ARDEは、Jeongら[参考資料 6]とKwonら[参考資料 8]が挙げる課題です。 ※ 各項目の原因の説明は本記事の解説です。実際には複数が同時に起き、条件で現れ方が変わります。 ※ 穴の形・位置は模式的で、縮尺を表しません。
図5 概念図(ベクター作図)。高アスペクト比のホールで起きる形状の乱れの分類です[参考資料 6・8]。形状は模式的で、実際の欠陥の大きさ・位置・発生率を示すものではありません。

温度を使った解決の例が、いくつか報告されています。

  • 低温(Kwonら、2024年、Nanomaterials):CF4/H2/Arのプラズマで、200 nmのトレンチのSiO2を調べ、温度が低いほどエッチ速度とアスペクト比が上がり、ネッキング比とボーイング比が下がったと報告しています。著者らは、エッチ前線に届く中性種の付着係数が低いこと、方向性のあるイオンが働いていることを示唆する、と述べています事実(実験室)
  • 極低温のHF系(Sudaら、2025年、JVST B):ONON(酸化シリコン/窒化シリコン)のホールを、HFとリン含有ガスを使い、極低温で、二周波の容量結合プラズマ装置で加工し、深さ10 µm超、アスペクト比約100を実証したと報告しています。副生成物のH2OとエッチャントのHFが極低温で表面に共吸着し、リン含有ガスがH2Oの吸着をさらに高めることが、エッチ速度を上げる鍵と解析されています。従来のフルオロカーボン系に比べ、生産性が大幅に向上したと述べています事実(実験室)
本稿の計算

Sudaらの「深さ10 µm超、アスペクト比約100」から、穴の直径を逆算します本稿の計算。

  • 直径 ≒ 深さ ÷ アスペクト比 = 10 µm ÷ 100 = 約100 nm(約0.1 µm)
  • 前章の計算では、選択比が20のマスクで深さ10 µmを削るには、マスクが約500 nm(0.5 µm)必要になります(直径の5倍)

前提と限界:アスペクト比は「約100」と論文で示された概数で、直径はそこから出した目安です。選択比20は本記事の仮定で、論文の値ではありません。

素材技術者の読みどころ④:高アスペクト比のエッチングは「輸送」と「吸着・脱離」の設計

細く深い穴では、イオンと中性粒子が穴の底まで届くことと、反応生成物が穴の外へ出ることが支配的になります(本記事の解説)。Jeongらの先行研究の紹介では、入口からのラジカルは側壁と反応して奥まで届かず、側壁で中性化した高速の中性粒子が底に届く、とされています。 温度は、表面での吸着・脱離のバランスを変えます。Kwonらの低温化、Sudaらの極低温化は、いずれも「膜の化学」より表面に何がどれだけ留まるかの設計です。 Fischerら(2021年)の熱ALEの総説も、飽和しない条件では、高アスペクト比の構造での反応物の供給と副生成物の除去の制約から、エッチングの異方性(深さによる差)が生じうるというモデルを紹介しています事実。 材料側からは、側壁を守る膜、マスクの耐性、副生成物の揮発性が3つの鍵です(解説)。

8. 原子層エッチング(ALE)

Kanarikら(2015年、査読論文)は、ALEを自己制限的な逐次反応の段階で薄い層を除く技術と定義し、半導体産業が連続エッチングの代替として推進していること、ALDの「不可欠な対」とみなされていることを述べています事実。表面を1層だけ変える段階と、その層だけを除く段階を分けるのが基本です。

エッチングの構造・工程を示す解説画像
図6 概念画像(ImageGenで生成)。左で表面層を改質し、右で改質された部分を取り除く、ALEの考え方です。粒の数や、一度に除く厚さを表してはいません。 [参考資料 3・4]
形状・色・寸法は説明用です。数値・原文の対応は下の元図で確認できます。
元のSVG模式図と正確な説明を見る

図の読み方・元図の説明:原子層エッチング(ALE)の1サイクル(概念図) / 表面を1層だけ変え、その層だけを除く、という2段階を繰り返します。 / ① 表面を改質する / 反応ガス(赤) / 自己制限で表面の1層が / 変わる(これ以上進まない) / ② パージ / 余剰のガスを排気する / ③ 改質層を除く / イオン照射または熱反応 / 改質した層だけが / 揮発・除去される / ④ パージ / 1層分だけ低くなった表面 / 生成物を排気し、 / 次のサイクルへ / ①〜④ を繰り返して、決めた量だけ削る / ※ 定義(自己制限の逐次反応):Kanarikら[参考資料 3]。除去の方式(イオン=異方的、熱=等方的):George[参考資料 4]。 / ※ 原子の大きさ・並び・1サイクルで除く量は材料で違い、この図は概念図です。

原子層エッチング(ALE)の1サイクル(概念図) 表面を1層だけ変え、その層だけを除く、という2段階を繰り返します。 ① 表面を改質する 反応ガス(赤) 自己制限で表面の1層が 変わる(これ以上進まない) ② パージ 余剰のガスを排気する ③ 改質層を除く イオン照射または熱反応 改質した層だけが 揮発・除去される ④ パージ 1層分だけ低くなった表面 生成物を排気し、 次のサイクルへ ①〜④ を繰り返して、決めた量だけ削る ※ 定義(自己制限の逐次反応):Kanarikら[参考資料 3]。除去の方式(イオン=異方的、熱=等方的):George[参考資料 4]。 ※ 原子の大きさ・並び・1サイクルで除く量は材料で違い、この図は概念図です。
図6 概念図(ベクター作図)。ALEの1サイクルの考え方です[参考資料 3・4]。原子の大きさ・配置・1サイクルで除く量は模式的です。

除去の方式で、2つに分かれます。George(2020年、査読論文)によれば、プラズマALEは、エネルギーのあるイオンや中性粒子で、改質された層をスパッタリングにより異方的に放出します。熱ALEは、ガスの熱反応で改質層を等方的に放出し、「ALDの逆」と見なせます。熱ALEの主な機構は、金属酸化物・窒化物に多いフッ化と配位子交換、および転換エッチです事実。Fischerら(2021年)は、金属、金属酸化物、金属窒化物、半導体とその酸化物の熱ALEを整理しています事実。

Kanarikら(2017年)は、Si、Ge、C、W、GaN、SiO2のプラズマALEで、理想のALEにどれだけ近いかを表す「ALEシナジー」を定義し、これが材料の表面結合エネルギーとともに増えると報告しました。材料ごとに方向性のあるALEへの向き不向きがあることの説明になる、とされています事実。Kanarikら(2018年、査読論文・展望)は、見通しが良いのはC、Ta、W、Ruのような強く結合した材料だと述べ、また、ALEは現在、生産で最も先進的なエッチング技術であり、かつて遅すぎるとされたが、プラズマを活用して以前の方法より約1,000倍速くなったと述べ、さらにALEの平滑化効果(表面が平らになる)と、ALDとの組み合わせによる10 nm未満の課題への対応を挙げています事実(著者らの説明)。

素材技術者の読みどころ⑤:ALEは「ALDの逆」で、選択ALDの補正にも使える

ALDが「飽和したら止まる吸着」を使うのに対し、ALEは「改質が飽和したら止まる」+「改質層だけが除かれる」という二段構えです(本記事の解説)。ここで大事なのは、除去の段階が改質層の結合の強さだけに反応し、下の未改質の層に及ばないことで、これが「1層ずつ」を実現します。 『原子層堆積』編で見たように、選択ALDの補正ステップには選択的エッチングが入ります(Mackusら)。つまり、ALDとALEを1つの装置・1つのレシピで切り替えて使う方向があります(Kanarikらも、ALEとALDの組み合わせに言及)。 一方で、1サイクルに時間がかかることはALDと同じで、使いどころは「最後の数nmの精密な仕上げ」のような場面に限られる、という見方が自然です(解説。個別の量産での使われ方は本稿で確認していません)。

9. ガスと規制 ― 温室効果ガスとPFAS

エッチングやCVD室の洗浄に使われるフッ素系ガスは、温暖化係数(GWP)が大きいことが共通の課題です。Kimら(2025年、Sci. Rep.)は、SiNxのエッチングで従来使われたCHF3/CF4は、選択比が低く、GWPが高いため、代替ガスが必要になったと述べています事実。

エッチングの構造・工程を示す解説画像
図7 概念図(AI生成イメージ)。エッチング装置の排ガスを扱う設備を点検する場面を想像で描いたものです。実際の設備・メーカー・工場の外観を示すものではありません。

(1) 温暖化係数(GWP):資料で値が違う

米国の温室効果ガス報告規則(40 CFR Part 98)の表A-1(100年のGWP)では、SF6が23,500、NF3が16,100、CF4が6,630、C2F6が11,100、c-C4F8が9,540、トリフルオロメタン(HFC-23)が12,400です(2026年10月にeCFRから取得した版)事実。EU規則2024/573の附属書は、同じガスの値をCF4が7,380、C2F6が12,400、c-C4F8が10,200、SF6が24,300、NF3が17,400(GWP 100、第6次評価報告書にもとづく列)としています事実。同じ附属書でも、HFCの節(HFC-23の14,800)は第4次評価報告書にもとづく値で、評価報告書の版が混在しています事実。

エッチング・洗浄で使うガスの温暖化係数(GWP、100年):資料で値が違う 同じガスでも、IPCCのどの評価報告書にもとづくかで数値が違います(資料の値)。 CF4 6,630 7,380 C2F6 11,100 12,400 c-C4F8 9,540 10,200 SF6 23,500 24,300 NF3 16,100 17,400 米国 40 CFR 98 表A-1 EU規則2024/573の附属書 ※ 米国:eCFR、40 CFR Part 98の表A-1(2026年10月に取得した版)[参考資料 13]。EU:規則(EU)2024/573の附属書I・II[参考資料 14]。 ※ EU附属書のこれらの値は、同規則が第6次評価報告書にもとづくとする列(GWP 100)。米国の表は評価報告書の版を表に明記していません。 ※ GWPは「1 kgの排出がCO2の何kg相当の温暖化をもたらすか」の指標で、実際の排出量ではありません。
図8 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。米国の連邦規則の表と、EU規則の附属書にある、同じガスのGWP(100年)の比較です[参考資料 13・14]。値は各資料の記載で、実際の排出量ではありません。
本稿の計算

GWPは「1 kgの排出がCO2の何kg相当の温暖化をもたらすか」を表す指標です。上の値から計算します本稿の計算。

  • CF4 1 kgは、米国表で約6,630 kg、EU附属書で約7,380 kgのCO2に相当(差は 約11%:7,380 ÷ 6,630 = 1.11)
  • SF6はCF4の約3.5倍(23,500 ÷ 6,630。EUの値では約3.3倍)

前提と限界:米国の表は、評価報告書の版を表に明記しておらず、本稿は版を確認できていません。GWPは物質ごとの係数で、工場の排出量(使用量、利用効率、除害装置の効率)はここには含まれていません。それらは本稿の一次情報では確認できませんでした。

(2) EUのF-gas規則(規則(EU)2024/573)

2024年2月7日に採択された規則(EU)2024/573(2024年2月20日に官報掲載、公布の20日後に発効)は、フッ素系温室効果ガスを規制し、規則(EU)No 517/2014を廃止しました事実。半導体に関する条文は次のとおりです。

  • 表示(第12条):附属書I・IIのフッ素系温室効果ガスで、半導体材料のエッチングまたはCVD室の洗浄のために市場に出す容器には、その用途専用であることを表示します。第12条は2025年1月1日から適用されます事実
  • HFCの割当量(第16条):HFCの市場投入量を減らす割当(クォータ)の対象から、生産者・輸入者が、半導体材料のエッチングまたはCVD室の洗浄に使う事業者へ直接供給するHFCが除かれています事実
  • 見直し(第35条):委員会が、このHFC(半導体のエッチング・CVD洗浄用)を割当の対象に含める可能性を、見直しで検討するとしています。含めるかどうかは未確定です未確定/将来
  • 報告:生産者・輸入者・受け取る事業者に、この用途の数量の報告が求められています事実

(3) EUのPFAS制限案(REACH)

ECHAの記録による経過は次のとおりです(2026年10月9日時点)。デンマーク・ドイツ・オランダ・ノルウェー・スウェーデンの当局が準備した提案が2023年1月13日にECHAへ提出され、2023年2月7日に公表、2023年3月22日〜9月25日に協議が行われました。2025年8月20日に更新版が公表されました。2026年3月2日に、リスク評価委員会(RAC)が最終意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)が3月10日に意見案を了承、2026年5月25日まで意見案への協議が行われました。両委員会は、例外(特定の用途の適用除外)を設けたEU全域の制限を支持し、排出を最小化する措置の併用を勧めています事実。SEACは2026年末までに最終意見を採択する見込みで、その後、欧州委員会が二つの最終意見にもとづく制限案を作り、加盟国で構成するREACH委員会で議論・投票します未確定/将来。現時点で、採択・施行されたPFAS制限はありません。

2025年10月の更新版の概要資料(スウェーデン化学物質庁ほか五か国当局)は、「電子・半導体」の分野に、半導体製造(フォトリソグラフィ、エッチング、成膜、特殊流体、装置、先端パッケージ、MEMS)を含めています。この分野の評価は、全面禁止(RO1)は釣り合わない可能性が高く、時限の適用除外つきの禁止(RO2)と排出制御の継続(RO3)は釣り合う可能性が高いとされています(提案者の評価)事実。半導体製造の具体的な適用除外の期間は、本稿で確認できませんでした。

(4) PFASの定義と、エッチングガスの関係

OECD(2021年)は、PFASを「完全にフッ素化されたメチルまたはメチレンの炭素原子(H・Cl・Br・Iが結合していない)を少なくとも1つ含む、フッ素化された物質」と定義し、例外はあるが、パーフルオロ化したメチル基(–CF3)またはメチレン基(–CF2–)を持つ化学物質はPFASだとしています事実。同報告書は、HFC-23(CHF3)とHFC-32は、炭素にHが残るためPFASではないと明記しています事実。

素材技術者の読みどころ⑥:「温暖化」と「PFAS」は別の物差し。低GWPが、PFASから外れるとは限らない

この定義を、本稿が読んだ範囲で当てはめた本記事の読み取りです(法的判断ではありません)。

  • SF6、NF3:炭素を含まないので、OECDの定義の「フッ素化された炭素」に当てはまりません。一方、GWPは大きく、F-gas規則(EU)の附属書に掲載されています
  • CHF3:OECDの定義でPFASではない、と明記されています。ただしGWPは大きい(HFC-23)
  • CF4、C2F6、c-C4F8:完全にフッ素化された炭素を含むので、定義の字面には当てはまると読めます。EUの制限案がこれらの個別の物質をどう扱うかは、本稿では確認していません
  • 低GWPの候補ガス(C3HF5など):Nguyenら(2025年)はC3HF5(CF3CHCF2)を、GWPが1未満の候補としています。しかしCF3基を含むため、OECDの定義の字面ではPFASに当たりうると読めます。代替ガスの選択には、性能・GWP・PFAS上の扱いを同時に見る必要があります

規制は物質の「グループ」単位で来るため、代替ガスの開発は、1つの規制を避けると別の規制に当たる、という構造になりえます(解説)。EUの制限案の段階(協議中)と、F-gas規則の段階(施行済み)を、混同しないことが大切です。

10. 数字の読み方 ― 実験室・資料の値・計算・制度の段階を混ぜない

数字・事項何の値か区分注意点
深さ10 µm超、アスペクト比約100ONONのホールのエッチング査読論文(2025年、実験室)HFとリン含有ガスの極低温プロセス。量産の仕様ではない
約35 nmEUVレジストの膜厚の例総説(2024年)レジストの種類・工程で違う
選択比2〜50、50〜1,000 nm必要なマスク厚の計算本稿の計算選択比は仮定の例
約1,000倍プラズマALEが以前のALEより速くなった程度展望(2018年、著者らの説明)条件・基準は本稿で未確認
GWP:CF4 6,630/7,380米国の表/EU附属書(GWP 100)連邦規則・EU規則の記載評価報告書の版が違う。排出量ではない
2025年1月1日F-gas規則第12条(容器の表示)の適用開始EU規則(施行済み)半導体のエッチング・CVD洗浄用の表示。それ以外の条文は個別に確認が必要
2026年3月2日/10日/5月25日PFAS制限案:RAC最終意見/SEAC意見案/意見案協議の締切ECHAの記録(審議中)未確定/将来。採択・施行ではない
2026年末SEACの最終意見の採択見込みECHAの見込み未確定/将来。その後に欧州委員会の提案と加盟国の投票

11. 課題・限界/確認できなかったこと

(1) 量産で使われているガス・条件は確認できなかった

本稿のガスの例は、いずれも論文の実験室での報告です。特定の企業・デバイスの量産プロセスのガスや温度、選択比、エッチング速度は、一次情報で確認できませんでした。

(2) 半導体製造に対するPFAS制限案の具体的な適用除外は確認できなかった

更新版の概要資料に「電子・半導体」の分野と評価の概要はありますが、半導体製造の適用除外の具体的な期間・条件は、本稿の一次情報では確認できていません。個別のガス(CF4、C4F8など)が制限案のどの区分に入るかも確認していません。

(3) 米国・日本・中国・韓国などの規制は扱っていない

本稿が扱った規制は、EUのF-gas規則とPFAS制限案、および米国の報告規則のGWP表にとどまります。排出量の報告・削減の自主的な取り組みや、各国のPFAS規制は扱っていません。

(4) 排ガスの除害・ガスの利用効率は確認できなかった

実際の排出量は、ガスの使用量、反応での利用効率、除害装置の効率で決まります。これらの数値は本稿の一次情報では確認できていません。

(5) ALEの量産での使われ方は確認できなかった

Kanarikらは「現在、生産で最も先進的なエッチング」と述べていますが(2018年)、どの工程でどの程度使われているかは、本稿では確認していません。

この記事のまとめ
  • 湿式は等方的、乾式は典型的に異方的。プラズマが縦方向のエッチングを可能にし、微細化を支えました事実
  • イオンは縦方向、ラジカルは化学反応。重合膜は側壁を守る一方、厚すぎるとエッチングを止めます事実
  • 薄いマスクで深く削るには高い選択比が必要です。10 µm・AR約100の穴の直径は約100 nmの計算です本稿の計算
  • 高アスペクト比では温度が鍵。極低温HF系で深さ10 µm超・AR約100が報告されています(実験室)事実
  • ALEは自己制限の2段階で、プラズマALEは異方的、熱ALEは等方的。ALDの対です事実
  • F-gas規則は施行済み、PFAS制限案は審議中。GWPは資料で値が違い、低GWPガスもPFAS定義に当たりうると読めます未確定/将来

12. 用語集

エッチング
マスクに守られていない部分の膜を選んで削る工程。
湿式/乾式
液体の薬液で削る/真空中のプラズマやガスで削る。
等方性/異方性
あらゆる向きに同じ速さで削れる/特定の向き(縦)にだけ削れる。
選択比
削りたい膜とマスク(または下地)のエッチ速度の比。
RIE
反応性イオンエッチング。イオンとラジカルを併用するドライエッチング。
ラジカル
電荷を持たない反応性の高い粒子。化学反応の主役。
ARDE
アスペクト比依存のエッチング。深いほどエッチ速度が下がる現象。
ボーイング/ネッキング/テーパー/ツイスト
穴の途中のふくらみ/入口のくびれ/底へ細ること/ねじれ・傾き。
ALE
原子層エッチング。自己制限の逐次反応で1層ずつ除く。
熱ALE
ガスの熱反応で改質層を等方的に除くALE。「ALDの逆」。
GWP
地球温暖化係数。同じ質量のCO2を1とした温暖化の強さ。
PFAS
OECDの定義では、完全にフッ素化されたメチルまたはメチレンの炭素を持つ物質。
RAC/SEAC
ECHAのリスク評価委員会/社会経済分析委員会。
REACH
EUの化学物質の登録・評価・認可・制限の規則。

13. 参考資料(一次情報)

  1. Lee T ほか「Advances in core technologies for semiconductor manufacturing: applications and challenges of atomic layer etching, neutral beam etching and atomic layer deposition」Nanoscale Adv. 7(10), 2796–2817(2025年、査読論文・総説、オープンアクセス) — doi.org/10.1039/d4na00784k
  2. Hasan MW ほか「Recent Advances in Metal-Oxide-Based Photoresists for EUV Lithography」Micromachines 15(9), 1122(2024年、査読論文・総説) — doi.org/10.3390/mi15091122
  3. Kanarik KJ ほか「Overview of atomic layer etching in the semiconductor industry」J. Vac. Sci. Technol. A 33(2), 020802(2015年、査読論文・総説) — doi.org/10.1116/1.4913379
  4. George SM「Mechanisms of Thermal Atomic Layer Etching」Acc. Chem. Res. 53(6), 1151–1160(2020年、査読論文) — doi.org/10.1021/acs.accounts.0c00084
  5. Donnelly VM, Kornblit A「Plasma etching: Yesterday, today, and tomorrow」J. Vac. Sci. Technol. A 31(5), 050825(2013年、査読論文・総説) — doi.org/10.1116/1.4819316
  6. Jeong W ほか「Contribution of Ion Energy and Flux on High-Aspect Ratio SiO2 Etching Characteristics in a Dual-Frequency Capacitively Coupled Ar/C4F8 Plasma: Individual Ion Energy and Flux Controlled」Materials 16(10), 3820(2023年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.3390/ma16103820
  7. Kim K ほか「Effect of C2H2F4/CF4O with low global warming potentials on SiNx etching as a CHF3 replacement」Sci. Rep. 15, 40517(2025年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.1038/s41598-025-24378-w
  8. Kwon H ほか「Necking Reduction at Low Temperature in Aspect Ratio Etching of SiO2 at CF4/H2/Ar Plasma」Nanomaterials 14(2), 209(2024年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.3390/nano14020209
  9. Suda R ほか「Development for high-aspect-ratio hole etching with hydrogen fluoride gas based cryogenic process」J. Vac. Sci. Technol. B 43(6), 062210(2025年、査読論文) — doi.org/10.1116/6.0005035
  10. Kim J ほか「Selective Etching of Multi-Stacked Epitaxial Si1-xGex on Si Using CF4/N2 and CF4/O2 Plasma Chemistries for 3D Device Applications」Materials 18(18), 4417(2025年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.3390/ma18184417
  11. Nguyen TQ ほか「Valence fragmentation dynamics of a promising low global warming etching gas CF3CHCF2」Sci. Rep. 15, 9507(2025年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.1038/s41598-025-94119-6
  12. Kanarik KJ, Tan S, Gottscho RA「Atomic Layer Etching: Rethinking the Art of Etch」J. Phys. Chem. Lett. 9(16), 4814–4821(2018年、査読論文・展望) — doi.org/10.1021/acs.jpclett.8b00997
  13. 米国連邦規則(eCFR)40 CFR Part 98, Subpart A, Table A-1「Global Warming Potentials, 100-Year Time Horizon」(2026年10月にeCFRのAPIから取得した版) — ecfr.gov
  14. 欧州議会・理事会「Regulation (EU) 2024/573 of 7 February 2024 on fluorinated greenhouse gases」OJ L, 20.2.2024 — eur-lex.europa.eu
  15. OECD「Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance」OECD Series on Risk Management of Chemicals(2021年7月、PDF) — doi.org/10.1787/e458e796-en
  16. ECHA「ECHA supports PFAS restriction with targeted derogations」ニュースリリース ECHA/NR/26/17(2026年3月26日) — echa.europa.eu
  17. ECHA「Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS)」トピックページ(経過の一覧、2026年10月9日閲覧) — echa.europa.eu
  18. KemI(スウェーデン化学物質庁)ほか五か国当局「What you need to know about the updated PFAS restriction dossier」2025年10月23日更新(PDF) — kemi.se
  19. Fischer A ほか「Thermal atomic layer etching: A review」J. Vac. Sci. Technol. A 39(3), 030801(2021年、査読論文・総説) — doi.org/10.1116/6.0000894
  20. Kanarik KJ ほか「Predicting synergy in atomic layer etching」J. Vac. Sci. Technol. A 35(5), 05C302(2017年、査読論文) — doi.org/10.1116/1.4979019
  21. Li Z ほか「Evaluating an alternative Pt-W alloy as a low-n EUV mask absorber: Film properties and imaging performance」iScience 29(8), 116912(2026年、査読論文・オープンアクセス) — doi.org/10.1016/j.isci.2026.116912

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
湿式と乾式の比較(湿式:低コスト・実装容易・高い選択性・等方的、1 µm未満の寸法・汚染・エッチ速度の維持に難、乾式:深く削れる・速い・自動化しやすい・100 nm未満を定められる・典型的に異方的、選択性が低い・スループットが低い・毒性腐食性ガス・放射線損傷)、エッチ深さ・形状・表面粗さ・均一性が制御項目、選択比の定義、ALE・NBEの位置づけLeeら(2025年、査読論文・総説、オープンアクセス) [参考資料 1]https://doi.org/10.1039/d4na00784k事実
EUVレジストが約35 nmの薄膜であること、金属酸化物レジストのエッチング耐性が高いことHasanら(2024年、査読論文・総説) [参考資料 2]https://doi.org/10.3390/mi15091122事実
ALEの定義(自己制限の逐次反応で薄い層を除く)、ALDの不可欠な対とみなされていることKanarikら(2015年、査読論文・総説の要旨) [参考資料 3]https://doi.org/10.1116/1.4913379事実
プラズマALE(イオン等でスパッタ、異方的)と熱ALE(ガスの熱反応、等方的、ALDの逆)、熱ALEの機構(フッ化と配位子交換、転換エッチ)George(2020年、査読論文の要旨) [参考資料 4]https://doi.org/10.1021/acs.accounts.0c00084事実
プラズマエッチングが1960年代半ばに導入され、液体廃棄物の削減と湿式では得にくい選択比が狙いであったこと、Si・Al・SiO2の異方的エッチングが約40年の微細化を可能にしたことDonnelly・Kornblit(2013年、査読論文・総説の要旨) [参考資料 5]https://doi.org/10.1116/1.4819316事実
二周波容量結合Ar/C4F8プラズマでのイオンエネルギーと流束の個別制御、高アスペクト比エッチングの課題(ノッチング・ボーイング・ツイスト・テーパー・ARDE)と複雑化、先行研究の紹介(中性粒子/イオン流束比、厚いフルオロカーボン膜でエッチ速度低下、高速中性粒子のクヌーセン輸送)Jeongら(2023年、査読論文・オープンアクセス)。先行研究の部分は論文導入の紹介 [参考資料 6]https://doi.org/10.3390/ma16103820事実
CHF3/CF4が従来のSiNxエッチングに使われ選択比が低くGWPが高いこと、代替のC2H2F4/CF4O(選択比向上、重合が強くマスク保護が良いがトレンチング、CF4O添加で解消)Kimら(2025年、Sci. Rep.、査読論文・オープンアクセス)。実験室 [参考資料 7]https://doi.org/10.1038/s41598-025-24378-w事実
CF4/H2/Arで200 nmトレンチのSiO2を低温化すると、エッチ速度とアスペクト比が上がりネッキング比・ボーイング比が下がったことKwonら(2024年、査読論文・オープンアクセス)。実験室 [参考資料 8]https://doi.org/10.3390/nano14020209事実
HFとリン含有ガスの極低温プロセスで、ONONのホールを深さ10 µm超・アスペクト比約100で加工、H2OとHFの共吸着が鍵、従来のフルオロカーボン系より生産性が大幅に向上Sudaら(2025年、査読論文の要旨)。実験室 [参考資料 9]https://doi.org/10.1116/6.0005035事実
SiGe/Siの選択エッチング:湿式の選択比150超(先行報告)と限界、HClの熱エッチングは600 ℃超、CF4/N2がCF4/O2より選択比・形状に優れる、ルーフでイオン衝突を減らすと選択比が向上、GeFx種とSi–N結合の働きKimら(2025年、Materials、査読論文・オープンアクセス)。実験室 [参考資料 10]https://doi.org/10.3390/ma18184417事実
C3HF5(CF3CHCF2)がGWP 1未満の低GWPのエッチングガス候補(3D flashの高アスペクト比SiO2/SiN積層向け)と著者らが説明Nguyenら(2025年、査読論文・オープンアクセス)。光イオン化の基礎研究 [参考資料 11]https://doi.org/10.1038/s41598-025-94119-6事実
ALEが現在の生産で最も先進的なエッチング技術であること、プラズマの活用で約1,000倍速くなったこと、平滑化効果、ALDとの組み合わせ、C・Ta・W・Ruなど強く結合した材料で見通しが良いことKanarikら(2018年、査読論文・展望の要旨)。著者らの説明 [参考資料 12]https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.8b00997事実
40 CFR Part 98 表A-1の100年GWP(SF6 23,500、NF3 16,100、CF4 6,630、C2F6 11,100、c-C4F8 9,540、HFC-23 12,400)米国連邦規則(2026年10月にeCFRから取得)。版の評価報告書は表に明記なし [参考資料 13]https://www.ecfr.gov/current/title-40/part-98/subpart-A/appendix-Table%20A-1%20to%20Subpart%20A%20of%20Part%2098事実
規則(EU)2024/573(2024年2月7日採択、2024年2月20日官報掲載、公布の20日後に発効、規則517/2014を廃止)、第12条の表示(半導体のエッチング・CVD室洗浄用の容器、2025年1月1日から適用)、第16条のHFC割当からの除外、報告義務、附属書のGWP(CF4 7,380、C2F6 12,400、c-C4F8 10,200、SF6 24,300、NF3 17,400。第6次評価報告書にもとづく列)、HFC節は第4次評価報告書にもとづく列EU規則の本文(官報) [参考資料 14]https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/573/oj/eng事実
EU規則第35条の見直しで、半導体のエッチング・CVD洗浄用HFCを割当の対象に含める可能性を検討するとされていること(含めるかは未確定)EU規則第35条の記述。結論は未確定 [参考資料 14]https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/573/oj/eng未確定/将来
PFASの定義(完全にフッ素化されたメチルまたはメチレンの炭素原子を少なくとも1つ含む物質)、HFC-23とHFC-32はHが残るためPFASではないことOECD(2021年) [参考資料 15]https://doi.org/10.1787/e458e796-en事実
PFAS制限案の経過(2023年1月13日提出、2月7日公表、協議2023年3月22日〜9月25日、更新版2025年8月20日、RAC最終意見2026年3月2日採択、SEAC意見案3月10日、意見案への協議は5月25日まで、SEAC最終意見は2026年末までの見込み、その後に欧州委員会の提案とREACH委員会の投票)ECHAのニュースとトピックページ(2026年10月9日時点)。審議中で、採択・施行ではない [参考資料 16]https://echa.europa.eu/-/echa-supports-pfas-restriction-with-targeted-derogations [参考資料 17]https://echa.europa.eu/hot-topics/perfluoroalkyl-chemicals-pfas未確定/将来
更新版の概要資料の「電子・半導体」分野に、半導体製造(フォトリソグラフィ、エッチング、成膜、特殊流体、装置、先端パッケージ、MEMS)が含まれること、RO1は釣り合わない可能性が高く、RO2・RO3は釣り合う可能性が高いという提案者の評価KemIほか五か国当局の概要資料(2025年10月23日更新)。提案者の評価 [参考資料 18]https://www.kemi.se/download/18.64e3bd9619a0f45982cfff/1761213262828/What%20you%20need%20to%20know%20about%20the%20updated%20PFAS%20restriction%20dossier-Updated-2025-10-23.pdf事実
熱ALEの総説:飽和しない条件で、高アスペクト比の構造で反応物の供給と副生成物の除去の制約から異方性(性能のばらつき)が生じうるモデルを紹介Fischerら(2021年、査読論文・総説の要旨) [参考資料 19]https://doi.org/10.1116/6.0000894事実
ALEシナジーの定義(Si・Ge・C・W・GaN・SiO2のプラズマALE)、材料の表面結合エネルギーとともに増えること、Coburn・Winters(1979年)のイオン・中性粒子の相乗効果の考え方Kanarikら(2017年、査読論文の要旨) [参考資料 20]https://doi.org/10.1116/1.4979019事実
白金にタングステンを加えるとフッ素系プラズマで揮発性の生成物ができ、エッチング性が高まることLiら(2026年、査読論文・オープンアクセス) [参考資料 21]https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.116912事実
選択比別の必要マスク厚(深さ100 nm:選択比2・5・10・20で50・20・10・5 nm、薄いレジスト約35 nmには選択比約3以上、100÷35=約2.9。深さ10 µm:選択比10・20・50で1,000・500・200 nm)、穴の直径 ≒ 10 µm÷100=約100 nm、GWP比(CF4で7,380÷6,630=1.11、SF6/CF4=3.5〔米国〕・3.3〔EU〕)本稿の計算。選択比は仮定の例。マスクの後退・肩落ち・下地との選択比は含まない。GWPは資料の値本稿の計算
プラズマの中のイオンとラジカルの役割の整理、揮発性生成物が選択比の中身であること、重合と削りのバランスがガス設計の核心であること、横方向の選択エッチングではイオンを減らすと選択比が上がるという読み取り、高アスペクト比が輸送と吸着・脱離の設計であること、ALEの位置づけ、ALDとの統合、SF6・NF3・CHF3・CF4等・低GWPガスのPFAS定義への当てはめ(法的判断ではない)、各素材技術者の視点公表内容にもとづく本記事の整理・解説。炭素・フッ素比と重合の一般傾向、ガスのPFAS該当性、各形状の乱れの原因は個別には確認していない解説
量産で使われるガス・条件、半導体製造の具体的な適用除外、米国・日本・中国・韓国の規制、排ガス除害とガスの利用効率、ALEの量産での使われ方本稿の調査範囲では一次情報で確認できなかったため記載していない解説
図2〜図6・図8が実際の設計図・測定図ではなく説明のための作図であること。図1と図7がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月9日/出典は一次情報(査読論文、EU規則・米国連邦規則、OECD・ECHAなどの公的資料)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 量産で使われるガス・条件、半導体製造の具体的なPFAS適用除外、他国の規制、排ガス除害、ALEの量産での使われ方は、確認できなかったため記載していません。 規制は、F-gas規則(施行済み)とPFAS制限案(審議中、採択・施行なし)の段階を分けて書いています。ガスのPFAS該当性は法的判断ではなく、OECDの定義の字面からの本記事の読み取りです。 図は説明用の概念図・作図です。図2〜図6・図8はベクター作図、図1と図7はAI生成イメージであり、いずれも実際の装置・工程・設備の写真や設計を示すものではありません。