COMPANY PROFILE / 水素エネルギー
ティッセンクルップ・ニューセラ
― 塩素アルカリ電解で培った技術を、ギガワット級のアルカリ水電解へ広げる専業メーカー
水素エネルギーの話題でthyssenkrupp nuceraの名前が出るのは、大型のアルカリ水電解(AWE)装置を、20MWの標準モジュールを並べて納める数少ない専業メーカーだからです。 会社が2026年9月の投資家向け資料で挙げる実行中の水素案件は、合計で約3.5GW(スウェーデン、サウジアラビア、オランダ、スペインなど)。 一方で、2026年8月の四半期報告では、水素部門は9か月累計でEBIT(営業損益)が1億700万ユーロの赤字で、 高温の固体酸化物形電解セル(SOEC)を自前で量産する計画も取りやめました。 本稿は、この会社が水素に何を投じ、どの案件がどの段階にあり、収益は何に支えられているかを、一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかるthyssenkrupp nuceraと、水素エネルギーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 水素エネルギーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
- 水素エネルギー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるティッセンクルップ・ニューセラと、水素エネルギーでの立ち位置
AG & Co. KGaAドイツの株式合資会社(KGaA)。小文字の社名表記が正式
thyssenkrupp AGが50.2%2026年9月の会社資料。De Noraが25.9%
(従:塩素アルカリ電解)水素の「装置とプラント」を売る会社
EBIT △1億700万ユーロ前年同期は売上3億7,700万ユーロ、EBIT △3,900万ユーロ
EBIT 3,800万ユーログループの黒字を支える事業
thyssenkrupp nuceraは「水素の会社」であると同時に、「塩素アルカリ電解の会社」です。 会社の資料では、売上は水素部門(gH2)と塩素アルカリ部門(CA)の2本立てで、2024/25年度は水素部門が売上の54%でした。 ところが2025/26年度の9か月では、水素部門の売上が8,000万ユーロ、塩素アルカリ部門が2億7,300万ユーロで、塩素アルカリが約77%を占めます 本稿の計算。 水素の大型案件は、案件の進み具合に応じて売上が計上されるため、すでに計上が進んだ案件(NEOMなど)の影響で年度ごとの振れが大きくなっています 事実。 そして、この水素部門の電解槽(セル)の設計の土台は、塩素アルカリ電解で長年使われてきた技術にあります(会社の資料では、塩素アルカリ電解の受注の累計は1977年から2025年まで、600件超)。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は thyssenkrupp nucera AG & Co. KGaA(合資会社の形態。ゼネラルパートナーは thyssenkrupp nucera Management AG)で、「thyssenkrupp」「nucera」とも小文字で書くのが同社の表記です。 親会社の thyssenkrupp AG(持分50.2%)とは別の上場企業で、会社の資料では「thyssenkrupp Uhde」「Industrie De Nora」(イタリアの電気化学の会社で、第2位株主)とも別の法人です。 ロゴ画像は同社の公式サイト(thyssenkrupp-nucera.com)のページに埋め込まれているロゴ(紫の地に白抜き)を取得したものです。
公式サイト:https://www.thyssenkrupp-nucera.com/3. 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
4. 会社の規模
会計年度は10月から翌年9月までです(2025/26年度は2026年9月30日に終了。年次報告書は2026年12月16日に公表予定) 事実。2025/26年度の通期結果はまだ出ていないので、ここでは2024/25年度までの通期と、2025/26年度の9か月累計を並べます。
| 指標(百万ユーロ) | 2023/24年度 | 2024/25年度 | 2025/26年度 9か月(前年同期) |
|---|---|---|---|
| グループ売上 | 862 | 845 | 354(663) |
| グループEBIT | △14 | 2 | △69(4) |
| 水素部門(gH2)売上 | 524 | 459 | 80(377) |
| 水素部門 EBIT | △76 | △56 | △107(△39) |
| 塩素アルカリ部門(CA)売上 | 338 | 386 | 273(286) |
| 塩素アルカリ部門 EBIT | 62 | 58 | 38(43) |
| 受注額(グループ) | 636 | 348 | 471(241) |
| 研究開発費 | 36 | 38 | 29(24) |
| その他の指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 受注残(グループ) | 6億3,800万ユーロ(うち水素部門 3億2,500万、塩素アルカリ 3億1,300万) | 2026年6月30日 |
| 正味の金融資産 | 6億2,700万ユーロ(2025年9月30日は6億5,600万) | 2026年6月30日 |
| 自己資本比率 | 61%(2025年9月30日は65%) | 2026年6月30日 |
| 従業員数 | 1,076人(2025年9月30日は1,092人) | 2026年6月30日 |
2024/25年度の水素部門の売上は、スウェーデンのStegraの案件が大きく寄与し、NEOMの寄与は完成度が高まったため小さくなった、と会社は説明しています 事実。 2025/26年度は、NEOMなど既存の大型案件の売上計上が進んだことと、第2四半期に新規建設案件で追加費用が生じたことで、水素部門の売上が大きく減りました。 塩素アルカリ部門の2024/25年度の売上は、会社の文書に386百万ユーロと387百万ユーロの両方の記載があります(四捨五入の差とみられます 推測)。
水素部門の売上は案件単位で大きく増減します。会社は、2025/26年度の減少の主因を「NEOMなど既存の大型案件で売上計上がすでに進んだこと」と「新規建設案件の追加費用」と説明しています。 新しい受注(2025/26年度の9か月で水素部門 1億8,400万ユーロ、前年同期は2,300万ユーロ。Moeveの案件が主因)が売上に大きく効くのは、2024/25年度の発表で「翌年度以降」と見込まれていました 事実。 年度や四半期の数字だけで、水素事業の良し悪しを判断することはできません。
5. 水素エネルギーにかけているリソース
金額・人数のうち、水素に限った数字は多くが非公表です。確認できたもの・できなかったものを分けます。
| リソースの種類 | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | グループの従業員は1,076人(2026年6月30日)で、世界10か所に拠点(会社の資料)。ドルトムント(本社)、アルンシュタット(SOEC関連で、8月の発表で今後の活用を検討中とされた拠点)、東京、岡山、ミラノ、ヒューストン、リヤド、ムンバイ、上海、パース。水素部門だけの人員は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 金(研究開発) | 研究開発費は2024/25年度に3,800万ユーロ(前年3,600万)、2025/26年度9か月で2,900万ユーロ(前年同期2,400万、+19%)。会社の資料は、開発の重点を「主にAWEとSOEC技術」と説明(一部は資産計上)。水素部門に限った研究開発費は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 金(設備投資) | 2025/26年度9か月のキャッシュフロー計算書で、有形固定資産への投資が1,100万ユーロ、無形資産への投資が1,100万ユーロ。会社は資産を持たない(アセットライト)事業モデルと説明。水素向けの工場投資額は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 買収・出資・合弁 | (1) Green Hydrogen Systems(デンマーク)の主要な技術資産を取得(2025年6月20日に契約を発表。知的財産と、デンマーク・スキーベにある実機大の試験設備を含む。取得額は秘密)。(2) 第2位株主のIndustrie De Nora(25.9%)とセル設計で協力(塩素アルカリ用セルの資料では、De Noraが電極コーティングとハーフシェルの製造を担当)。(3) SOECは自前の量産能力をつくらないと2026年8月に決定。パイロット設備などの減損で約3,000万ユーロの一時的なEBIT押し下げ | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | H2Giga(ドイツ連邦教育研究省 BMBF の水素先導プロジェクト)の「INSTALL AWE」で、AWEの量産化の研究開発に約850万ユーロの補助(会社の記載は「ほぼ850万ユーロ」)を受けると記載。Carbon2Chem(BMBF 支援)のデュースブルクのパイロットに2MWのAWE設備。SOECはドイツのFraunhofer IKTSと研究開発で戦略的に提携し、同研究所のSOEC技術のライセンスを受ける(2026年8月の決定後の扱いは確認できなかった) | 事実 |
| スタートアップへの出資 | 資料に記載なし | 確認できず |
次に、主要プロジェクトの状況です。段階は会社の資料の表現のままに整理しています。顧客側の資金調達や稼働時期は、各顧客の公表資料で確認する必要があり、本稿では確認していません。
| 案件 | 場所 | 規模 | 段階 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Stegra(グリーン鉄鋼工場向け) | スウェーデン・ボーデン | 740MW(会社の資料) | 電解モジュール37基の設置が完了し、予備試運転・試運転へ進む段階 | 2026年9月時点 | 出典1 |
| NEOM | サウジアラビア | 2.2GW(会社の資料) | 進行中。会社は「進捗している」とのみ記載。売上計上は大きく進んだ | 2026年9月時点 | 出典1・2 |
| Shell(Holland Hydrogen 1) | オランダ・ロッテルダム | 200MW | 試運転を2026年に行い、運転の立ち上げは2027年の予定(会社の資料) | 2026年9月時点 | 出典1 |
| Moeve「Onuba」(Andalusian Green Hydrogen Valley の第1期) | スペイン・ウエルバ | 300MW(20MW×15基)。水素約4.5万トン/年(公称) | 顧客が2026年3月初めに最終投資決定(FID)を発表。同3月18日に設計・調達・製作・供給(EPF)契約を締結 | 2026年3月18日 | 出典6 |
| Juno Joule(グリーンアンモニア向け) | インド | 260MW | 基本設計(FEED)の契約のみ。FIDは2026/27年度を目標(計画) | 2026年3月17日 | 出典7 |
| 欧州の重工業企業の水素案件 | 欧州(社名は非開示) | 600MW | FEED調査の受注(2024/25年度) | 2025年12月17日 | 出典4 |
| 米国の20MWパイロット設備 | 米国 | 20MW | 契約が終了(2025/26年度の見通し修正の理由の一つ) | 2026年3月17日に見通し修正 | 出典2 |
会社は、検討中の水素案件の全体像も示しています。積極的に追う案件が35件・約14GW(契約額の見込み約70億ユーロ)、有償のエンジニアリング契約が約1.9GW分進行中で、「次の受注は2026暦年中の見込み」としています(2026年8月時点) 未確定/将来。
会社の資料によれば、AWEの20MWモジュールは約300枚のセルを4つのラックに分けて収めます(1ラックあたり74セル) 事実。 各セルは単独で取り外して交換でき、分解して再利用する(再整備して使う)設計だと説明されています。 材料の面で見ると、これは「セルが隔膜・電極・シールの劣化に最も弱い部位だ」という前提に立った設計と読めます 推測。 不具合が出た部品をセル単位で取り替えられれば、スタック全体を捨てずに済み、予備品の在庫も減ります。 ただし、実際の寿命・劣化率・交換頻度の数値は、会社の資料では確認できませんでした。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1960年 | Uhde(ウーデ)の電解部門が発足 | 会社の資料の沿革による |
| 1973年 | 日本のChlorine Engineers Corporationが発足 | 塩素アルカリ電解の源流の1つ |
| 2001年 | UhdeとDe Noraが合弁会社UHDENORAを設立 | De Noraとの関係の始まり |
| 2011年 | De NoraがChlorine Engineers Corp.を買収 | 会社の資料の沿革による |
| 2015年 | 各部門が統合し、thyssenkrupp Uhde Chlorine Engineersが発足 | 現在の会社の直接の前身 |
| 2018年4月〜 | デュースブルクのCarbon2Chemパイロットで2MWのAWEを運転。会社は約1,500トンの水素を製造したと概算(運転時間と稼働率からの会社の計算) | 再エネ変動を想定した負荷変動運転の実証 |
| 2022年 | 社名を thyssenkrupp nucera に変更 | ブランドの刷新 |
| 2023年7月7日 | フランクフルト証券取引所に上場(公募価格 1株20ユーロ) | 上場後も thyssenkrupp AG が約50%を保有 |
| 2025年6月20日 | Green Hydrogen Systems(デンマーク)の主要技術資産の取得契約を発表。2024/25年度の発表では「取得した」と記載 | 最大35barの加圧式アルカリ水電解(モジュール型)を取り込む |
| 2025年12月17日 | 2024/25年度の結果を発表。売上8億4,500万ユーロ、EBIT 200万ユーロ。受注は水素部門が2,600万ユーロにとどまる | 水素の新規受注が細った年度 |
| 2026年3月17〜18日 | インドJuno Joule(260MW)のFEEDを受注。Moeve(300MW)のEPF契約を締結。同時期に米国の20MWパイロット設備の契約終了などで見通しを下方修正 | 大型の新規案件が戻る一方、損益の見通しは悪化 |
| 2026年7月7日 | インドのBHELと、アルカリ電解モジュール製造の段階的な現地化で戦略的な協業契約 | インド市場向けの製造・入札での協力 |
| 2026年7月9日 | CEOが、ドイツ政府の国家水素評議会(NWR)の委員に任命される | 政策への助言の場に参加 |
| 2026年8月11〜12日 | SOECの自前の量産能力づくりをやめると決定。約3,000万ユーロの一時的なEBIT押し下げ。通期見通しを修正 | 今後は塩素アルカリ、産業規模のAWE、加圧式の電解に資源を集中 |
7. 今後の計画
上の数字は会社の見通しであり、実績ではありません 未確定/将来。ほかに、次の計画が会社の資料にあります。
- Shell(ロッテルダム、200MW):試運転は2026年、運転の立ち上げは2027年 未確定/将来
- Stegra(ボーデン):37基の設置完了後、予備試運転・試運転へ(運転開始の時期は本稿で確認していない)
- Juno Joule(インド、260MW):最終投資決定(FID)は2026/27年度を目標。EPF契約に進むかどうかはFID次第 未確定/将来
- BHELとのインドでの製造現地化(段階的)。時期・数量は確認できず
- 製品面:加圧式の電解槽(最大35bar)、120MWのプラグアンドプレイ型の電解システム、360度のライフサイクルサービス。2026年の重点は「標準化・モジュール化・規模の経済」「コスト規律」「財務の安定」と会社は説明
- SOEC:自前の量産はやめるが、アルンシュタットの拠点と既存の知見をどう使うかは検討中(2026年8月時点)
水素部門に限った従業員数・研究開発費・工場投資額/AWEの電力原単位(kWh/kg H₂)や劣化率の公表値/NEOM・Stegraの運転開始日(顧客側の公表資料で確認が必要)/BHELとの現地化の時期と数量/ スタートアップへの出資の有無/SOEC資産(アルンシュタット)の今後の用途。いずれも、確認した会社資料に記載がありません。
8. この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
会社が「目指す」と書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 水素では「AWEを標準化し、大量に作る」路線に絞る | 20MWの標準モジュール、1GW/年のセル製造の供給網、2026年8月にSOEC量産をやめ「塩素アルカリ、産業規模のAWE、高圧水電解」に集中すると明記 | 事実 |
| 電解槽単体ではなく、プラントと運転まで含めて売る方向 | BoP(周辺設備)を含む統合システム、120MWのプラグアンドプレイ、360度のサービス。実行中の約3.5GWから、25年間で20億ユーロ超のサービス売上の潜在があると会社が試算(長期サービス契約を前提) | 事実(会社の説明)/推測(方向性) |
| 圧力を上げ、圧縮機を減らす方向へ製品を広げる | Green Hydrogen Systemsの資産取得(最大35bar)。「多くの場合、追加の圧縮が不要になる」と会社が説明 | 事実 |
| インドを次の拠点市場に据える | GIZとの協力(2026年2月)、Juno Jouleの260MW FEED、BHELとの協業契約、現地法人CEOの発言 | 事実/推測(位置づけ) |
| 水素の赤字を、塩素アルカリの黒字と手元資金で受け止める | 塩素アルカリのEBITが黒字、正味の金融資産6億2,700万ユーロ、会社が「財務の柔軟性を守る」と明記 | 事実/推測 |
「水素では路線を絞る」と読む根拠は、2026年8月の2つの発表が同時に出たことです。 会社は、SOEC量産への投資を、水素市場の立ち上がりの遅れと事業者の投資環境の不確実性を理由に、独立した量産能力への投資は経済的に魅力的でないと説明しています。 同じ文書で、案件を意図的に選別する姿勢とコスト規律も強調しています 事実。 一方で、同じ期間にMoeve(300MW)を受注し、インドで協業を結んでいます。 つまり「案件は取りにいくが、需要が確かでない新技術の設備投資はしない」という姿勢だと本稿は読みます 未確定/将来。 ただし、これは会社が述べた方針ではなく、本稿の解釈です。
9. 水素エネルギー分野の提携マッピング
会社の資料に社名が出る提携のうち、設計・製造面で実質的に協力しているのはDe Noraです。セルの設計、電極のコーティング、ハーフシェルの製造など、塩素アルカリ用セルの資料に具体的な分担が書かれています 事実。 水素のセルの量産化についても、H2Gigaの説明で「合弁パートナーのDe Noraとの関係が量産化の核」と書かれています。 このため、セルの供給網は株主でもあるDe Noraに強く依存している可能性がありますが、依存の度合いは会社の資料からは確認できません 推測。
10. 提供している技術・製品・サービス
製品の仕様は、会社の公式ページと投資家向け資料に載っているものだけを整理します。水電解の効率や寿命の数値は、条件(温度・圧力・電流密度・運転時間)と規模がそろわないと比べられないため、他社との比較には使いません。
| 区分 | 公式資料に載っている内容 | ひとこと |
|---|---|---|
| アルカリ水電解(AWE):scalum | 20MWの標準ユニット(1ユニットに約300セル)。単セルを個別に取り外せる構造。プラントはGW規模まで拡張可能。再エネの変動に合わせた動的な運転を想定。基本設計はTÜV Rheinlandが、ISO 22734:2019の第4章の要求事項に適合すると認証(会社の記載) | ISO 22734は水電解水素発生装置の国際規格。認証の対象は「基本設計」で、個々の納入設備の性能を保証するものではない |
| 加圧式のAWE | Green Hydrogen Systemsから取得した技術。最大35barで運転でき、用途によっては追加の圧縮が不要になると会社が説明。投資家向け資料に製品名「scalum vana」の記載 | 製品化・納入の実績は本稿では確認できなかった |
| プラグアンドプレイ型システム | 120MWの電解システムを完成プラントとして供給する新しい提案(2026年5月の発表) | 受注実績は確認できなかった |
| 周辺設備(BoP)の統合 | 変圧器・整流器、KOHの精製・調整・貯蔵、冷却水系、配管、水素の圧縮・精製などを、電解槽と一体で設計する提案 | 水素のコストは電解槽だけでなくシステム全体で決まる、と会社が説明 |
| サービス・デジタル | 360度のライフサイクルサービス(予備品、整備、遠隔の負荷最適化、予知保全)、デジタルツイン、「nucera evaluator」「nucera load balancer」 | 水素部門のサービス売上の潜在は25年間で20億ユーロ超と会社が試算(長期サービス契約が前提) |
| 塩素アルカリ電解(CA) | BM(バイポーラ膜)、BiTAC、NaCl-ODC、塩酸電解(HCl-ODC)。600件超の実績、24万枚のセル要素、設置容量は10GW超(電解槽の容量換算)。最新世代のBMは6kA/m²で1,960kWh/t NaOH未満(会社の公称値。水素ではなく苛性ソーダ1トン当たりの電力量) | 塩素アルカリは、水素が副産物として出る電解。会社は市場シェア約50%と推計(会社の推計) |
| 実証設備 | デュースブルクのCarbon2Chemパイロット:2MW、水素最大440Nm³/h、水素純度99.95%超(乾燥ベース)。2018年4月から約1,500トンを製造と会社が概算 | 実証規模(2MW)の値で、商用の大型プラントの値ではない |
会社の投資家向け資料は、AWEセルの設計の要点を電気・水力・機械の3つに分けて説明しています 事実。
(1) ゼロギャップ構造:エキスパンドメタルの電流分配板と、編んだメッシュ状の陰極で、隔膜の全面を押さえ付けます。 弾性のある部材で面圧をかけ、その圧縮力をシールの面圧と切り離していると説明されています。会社は「隔膜の寿命と性能が上がる」としています。 (2) 電流の均一化:連続レーザー溶接で電流分布をそろえ、オーム損(抵抗による損失)を減らします。 (3) シール:フランジとボルトでガスケットを強く圧縮し、使用期間を通じて漏れのないセルを狙います。 材料の選定では、会社は耐食材料の選定、電流分配と電気接点、ガスと液体の流れの設計、シールを自社の担当に挙げ、 電極の触媒コーティングと、セルの半割り部品(ハーフシェル)の製造は、De Noraの担当としています(塩素アルカリ用セルの資料の記載)。
一般に、アルカリ水電解は高濃度のアルカリ水溶液(水酸化カリウムなど)を使うため、電解液に接する金属・樹脂・ガスケットには耐食性が求められます 未確定/将来(この段落は一般的な説明で、会社の資料の記述ではありません)。 なお、隔膜やシールの具体的な材質、電極の触媒の種類、劣化率は、確認した資料に載っていません。本シリーズの技術解説「アルカリ水電解」「水電解スタックと材料」も参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 水素部門の赤字 | 2025/26年度9か月で水素部門のEBITは△1億700万ユーロ。通期見通しも水素部門 △1億5,500万〜△1億3,500万ユーロ | 事実 |
| 案件による売上の波 | 売上は案件の進み具合で計上され、大型案件が一巡すると急減する。水素部門の売上は2024/25年度の4億5,900万ユーロから、2025/26年度の通期見通し1億〜1億3,000万ユーロへ | 事実(見通しは未確定/将来) |
| プロジェクト実行の費用 | 2025/26年度の第2四半期に、新規建設案件の追加費用と米国の20MWパイロット設備の契約終了で、売上・EBITに一時的な押し下げ(合計で数千万ユーロ規模(原文は mid-double-digit million euro)と会社が説明)。会社は、試運転に向けて、これまでの経験に基づく改良を前倒しで導入したためと説明 | 事実 |
| 市場の立ち上がりと政策環境 | 会社自身が「水素市場の立ち上がりの遅れ」「事業者の投資環境の不確実性」を、SOEC量産をやめた理由に挙げる。案件の最終投資決定(FID)は顧客と政策に左右される | 事実 |
| 技術選択の損失 | SOECのパイロット設備と開発費の減損など、約3,000万ユーロの一時的な損失 | 事実 |
| 顧客の資金と稼働に依存 | 受注残のうち水素部門は3億2,500万ユーロ。売上への転換は、顧客の建設・資金調達の進み具合に左右される(各顧客の状況は本稿で確認していない) | 推測 |
| 塩素アルカリへの収益依存 | グループの黒字は塩素アルカリ部門が支える。需要はGDPと連動すると会社が説明しており、化学産業の景気の影響を受ける | 事実/推測(景気の影響) |
| 株主・供給網への依存 | thyssenkrupp AG(50.2%)とDe Nora(25.9%)が株主で、De Noraはセルの設計・コーティング・製造で協力関係にある。依存の度合いは確認できず | 推測 |
| 外部からの検証の難しさ | 水素部門の従業員数・研究開発費・工場投資額、AWEの電力原単位や劣化率が公表資料にないため、技術の優劣や効率を外部から確かめにくい | 未確定/将来 |
本稿は企業の概要を整理したもので、水素の取扱い・運用についての助言ではありません。水素や水酸化カリウムなどの取扱いは、各国の法令・規格・事業者の安全基準に従います。
12. 用語集
- アルカリ水電解(AWE)
- 高濃度のアルカリ水溶液を電解液として、水を水素と酸素に分ける電解方式。大型設備で実績が長い。本シリーズの技術解説「アルカリ水電解」を参照。
- SOEC(固体酸化物形電解セル)
- 高温(数百℃以上)で水蒸気を電気分解するセラミックス系の電解セル。thyssenkrupp nuceraは自前の量産計画を2026年8月に取りやめた。
- 塩素アルカリ電解(CA)
- 食塩水を電気分解して、塩素・苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)・水素をつくる電解。水素は副産物。
- BM/BiTAC/ODC
- 塩素アルカリ電解のセル方式。BMは単一要素のバイポーラ膜電解槽、BiTACはTosohとChlorine Engineersに由来するバイポーラ式(会社資料の略語説明)、ODCは酸素を使う陰極(電力を減らす方式)。
- FEED
- 基本設計(Front-End Engineering Design)。最終投資決定の前に、仕様と費用を詰める段階。
- EPF
- 設計(Engineering)・調達(Procurement)・製作(Fabrication)。工事(建設)までは含まない契約形態。
- FID(最終投資決定)
- プロジェクトの事業者が、建設に進むことを正式に決める段階。
- BoP(周辺設備)
- 電解槽の本体以外の設備。電源、精製、冷却、圧縮など。
- KGaA
- 株式合資会社。ドイツの会社形態で、経営を担うゼネラルパートナーと一般株主からなる。
- ISO 22734
- 水電解による水素発生装置の国際規格。thyssenkrupp nuceraは第4章(2019年版)への基本設計の適合を、TÜV Rheinlandに認証されたと記載している。

13. 出典
- thyssenkrupp nucera General Investor Presentation, September 2026(投資家向け資料)。実行中の水素案件(約3.5GW)と各案件の状況、株主構成、沿革、AWEセルの設計、単セル構造、製品・市場の説明、案件の引き合い(パイプライン)、2025/26年度の見通し。 https://investors.thyssenkrupp-nucera.com/media/document/53d3feca-7650-4f33-9cf6-23c2b25c5e96/assets/thyssenkrupp_nucera_General_Investor_Presentation_September_2026.pdf?disposition=inline
- thyssenkrupp nucera Quarterly Statement Q3/9M 2025/26(2026年8月12日)。受注、売上、EBIT、受注残、正味の金融資産、従業員数、キャッシュフロー、見通し修正の理由。 https://investors.thyssenkrupp-nucera.com/media/document/8d3a9471-c7e2-418f-bc60-a1b7104d8241/assets/DE000NCA0001-Q3-2025-EQ-E-00.pdf
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera Doubles Order Intake in the First Nine Months of 2025/2026」(2026年8月12日)。9か月の業績、SOEC量産能力づくりの中止、見通しの修正、研究開発費。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-doubles-order-intake-in-the-first-nine-months-of-2025/2026
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「Fiscal Year 2024/2025: thyssenkrupp nucera Performs Solidly…」(2025年12月17日)。2024/25年度の業績、部門別の数値、Green Hydrogen Systemsの技術取得、600MWのFEED、見通し。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/fiscal-year-2024/2025-thyssenkrupp-nucera-performs-solidly-in-a-challenging-market-environment-and-significantly-increases-ebit
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera reports significant new orders and quadruples order intake in the second quarter」(2026年5月12日)。第2四半期の業績と一時的影響、120MWのプラグアンドプレイ、360度のサービス。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-reports-significant-new-orders-and-quadruples-order-intake-in-the-second-quarter
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera Supplies Electrolyzers for Moeve…」(2026年3月18日)。Moeve「Onuba」300MWのEPF契約、顧客のFID。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-supplies-electrolyzers-for-moeve-to-build-southern-europes-largest-green-hydrogen-project
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera to Conduct FEED Study for 260 MW Green Hydrogen Project in India」(2026年3月17日)。Juno Joule案件のFEED、FID目標、GIZとの協力。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-to-conduct-feed-study-for-260-mw-green-hydrogen-project-in-india
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera and Bharat Heavy Electricals Limited Sign Strategic Collaboration…」(2026年7月7日)。BHELとの協業契約。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-and-bharat-heavy-electricals-limited-sign-strategic-collaboration-to-advance-green-hydrogen-electrolysis-in-india
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「thyssenkrupp nucera Signs an Agreement to Acquire Key Technology Assets from Green Hydrogen Systems」(2025年6月20日)。取得する資産、最大35barの加圧式技術。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/thyssenkrupp-nucera-signs-an-agreement-to-acquire-key-technology-assets-from-green-hydrogen-systems
- thyssenkrupp nucera 公式の技術ページ「Alkaline Water Electrolysis」。scalum 20MWユニット、単セルの設計、TÜV RheinlandによるISO 22734:2019 第4章への基本設計の認証。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/technologies/alkaline-water-electrolysis
- thyssenkrupp nucera 公式の技術ページ「Future Solutions」。Carbon2Chem(2MW AWE)、H2Giga(補助約850万ユーロ)、HTEM300、Fraunhofer IKTSとのSOEC提携。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/technologies/future-solutions
- thyssenkrupp nucera プレスリリース「Dr. Werner Ponikwar Becomes a Member of the Federal Government's National Hydrogen Council」(2026年7月9日)。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/newsroom/news-press-releases/dr-werner-ponikwar-becomes-a-member-of-the-federal-governments-national-hydrogen-council
- thyssenkrupp nucera 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.thyssenkrupp-nucera.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月6日/Troy Technical
本稿の数値は、thyssenkrupp nuceraの公式資料(投資家向け資料、四半期報告、プレスリリース、技術ページ)に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。