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パワーセル 企業解説

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COMPANY PROFILE / 水素エネルギー

パワーセル
― ボルボから生まれたスウェーデンの燃料電池専業が、船舶とデータセンターを2本柱に、Boschと組んで量産を目指している

水素エネルギーの話題でPowerCellの名前が出るのは、固体高分子形燃料電池(PEFC)のスタックとシステムを専業で作り、船舶・航空・定置用発電へ売っている、数少ない上場企業だからです。 2025年の売上高は385.0百万SEK(スウェーデン・クローナ。前年334.3百万SEK)、営業損益は-22.9百万SEKでした。 一方、2026年上半期は売上が83.9百万SEK(前年同期204.1百万SEK)に減り、営業損益は-92.6百万SEKに拡大しました。前年の第2四半期にBoschとの大型ライセンス収入があった影響が大きいものの、会社自身が「弱い四半期」と述べています。 本稿は、この会社が水素に何を投じ、何を受注し、どこまで公表しているかを、決算資料と会社の発表の範囲で整理します。

構成:Annual Report 2025(2026年4月20日)、2026年第1・第2四半期の報告書、2025年通期の報告書、会社のプレスリリース(2026年2月〜8月)を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるPowerCellと、水素エネルギーでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. 水素エネルギーにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は水素エネルギーで何を目指しているか
  9. 水素エネルギー分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるパワーセルと、水素エネルギーでの立ち位置

正式名称Powercell Sweden AB (publ)通称PowerCell Group。2008年創業と会社が記載
本社スウェーデン・ヨーテボリNasdaq Stockholmに上場
従業員161人Annual Report 2025の記載。拠点はノルウェー・スウェーデン・ドイツ・米国
水素での区分燃料電池・利用機器固体高分子形(PEFC)のスタックとシステム
売上高(2025年)385.0百万SEK前年334.3百万SEK。粗利率45.2%
営業損益(2025年)-22.9百万SEK前年-53.7百万SEK。2026年上半期は-92.6百万SEK
中心となる市場船舶・定置用発電ほか航空、オフロード、オンロード(Boschを通じて)
最大株主Bosch(11.22%)2025年末。製造パートナーでもある
まず押さえるべき1点

PowerCellは「水素の燃料電池に特化した小さな技術企業が、産業用の量産を大手のBoschに頼りながら、船舶とデータセンターの市場で最初の大型案件を取りはじめた段階」の会社です 本稿の計算。 2026年6月に液化水素船2隻向けの4 MW(約50百万SEK)、7月に米国データセンター向けの5 MW級(約30百万SEK)を受注しました 事実。 ただし、データセンター向けの「約300 MW」は拘束力のない覚書で、確定した量や売上ではないと会社が明記しています 未確定/将来。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Powercell Sweden AB (publ)(組織番号556759-8353)で、会社は PowerCell Group や PowerCell とも名乗ります。 製品名は Marine System 225(MS225)、PowerSystem 190(PS190)、M2Power 250、S3スタックなどです。 Boschは Robert Bosch GmbH で、PowerCellの製造パートナーかつ最大株主です。 ロゴ画像は同社の公式サイト(powercellgroup.com)で公開されているものを取得しました。

公式サイト:https://powercellgroup.com/

3. 水素エネルギーの世界で、この会社はどこにいるか

水素エネルギーに関わる企業の4つの類型 同じ「水素の会社」でも、つくる・運ぶ・使う・素材を作るで、強みと売り先が違う 水電解装置 燃料電池・利用機器 ガス・大型案件 材料・部品 水から水素をつくる 水素を電気や動力に変える 水素を大量に作り運ぶ 膜や触媒の素材を供給 nucera/ITM Power Plug Power/Nel Ballard/Bloom Energy トヨタ/川崎重工業 Air Products/Linde Air Liquide/ACWA Chemours/AGC Johnson Matthey ほか 装置の実績と量産体制 用途ごとの製品と実績 ガス供給網と資金力 素材性能と品質の安定 案件と政策に左右 用途の立ち上がりに左右 巨額投資の回収に左右 完成品の需要に左右 PowerCellは燃料電池・利用機器(PEFCのスタックとシステム)に特化した会社 売上は船舶とデータセンター向けが軸。2026年上期は受注の遅れで売上が減り、赤字が拡大
図1 水素エネルギーに関わる企業の4類型と、PowerCellの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。売上高と損益は、2025年の年次報告書と2026年第2四半期の報告書に基づきます。

PowerCellは水素を燃料として使う側の会社です。製品は水素(または水素に改質した燃料)で発電するPEFCで、水素の製造や輸送は行いません 事実。 市場は、船舶(液化水素船、貨物船)、定置用発電(データセンター、バックアップ電源)、航空、鉄道・オフロード・オンロードの5つで、自動車向けのS3スタックはBoschを通じて提供する形です。 方式は、本シリーズの技術解説「燃料電池車と固体高分子形燃料電池」「白金族金属と触媒」を参照してください。 メタノールを水素に改質して燃料電池に送る製品(M2Power)もあり、この場合の水素の出所はメタノールになります(本シリーズの技術解説「メタノール」を参照)。

4. 会社の規模

PowerCellは水素専業の小型の上場企業です。会社全体の数字を示します 事実。

指標(百万SEK)2024年2025年2026年上半期(前年同期)
売上高334.3385.083.9(204.1)
粗利116.2174.214.4(107.6)
粗利率34.8%45.2%17.1%(52.7%)
研究開発費110.9114.463.0(52.9)
営業損益-53.7-22.9-92.6(10.1)
当期損益-47.3-29.5-91.0(6.7)

2025年の売上の内訳は、プロジェクト(進捗度に応じて計上)が203.4百万SEK、サービス・ライセンスなどが残りで、国別ではドイツが149.1百万SEK、イタリアが133.3百万SEKでした。この2か国で売上の約73%です 本稿の計算。 2026年第2四半期の報告書は、売上減の理由を前年のBoschとの大型ライセンス取引(前年同期のロイヤルティ・ライセンス収入62.2百万SEK)と、納入の遅れ、受注の先送りと説明しています。 2026年6月末の現金は34.5百万SEK、未使用の与信枠を含めて使える流動性は76.0百万SEKです。 水素に限った区分は、会社全体が水素の燃料電池なので該当しません。

ここで注意

2025年の年次報告書の5年表では、2025年の1株当たり損益が「0.34」と印字されていますが、同じ報告書の損益計算書と2026年の報告書は-0.51 SEKです。本稿は損益計算書の値を採用し、1株当たり損益は表に載せていません 事実。

5. 水素エネルギーにかけているリソース

会社全体が水素の燃料電池なので、会社全体の数字がそのまま水素に関わる数字です。

リソース一次情報で確認できた内容区分
人従業員は161人(Annual Report 2025の記載)。拠点はヨーテボリ(本社)、ノルウェー、ドイツ、米国。2026年に最高商務責任者(CCO)としてVlad Månssonが就任(第3四半期から)事実
金(研究開発)研究開発費は2025年に114.4百万SEK、2026年上半期に63.0百万SEK。開発費の資産計上は上半期4.7百万SEK(主にPS200システム)。助成金収入は2025年に25.8百万SEK、2026年上半期に18.7百万SEK(大半はEUの航空分野)事実
外部への出資・買収・合弁・売却PowerCellが行った出資や買収は確認できず。外から入る関係は、Bosch(最大株主11.22%。S3スタックを2019年から自動車向けにライセンスし、2023年から製造を受託。2025年に中国向けのIPをBoschが取得)。第2四半期に「ライセンス収入」を計上した事実/出資・買収は確認できず
大学・研究機関・公的資金EUのMiNaMiプロジェクト(総額700万ユーロ。PowerCell分は約260万ユーロ、2028年末まで)。ドイツ連邦経済・エネルギー省が資金を出すzero4cruiseの一部としてDLR(ドイツ航空宇宙センター)から受注。EU資金の欧州航空宇宙研究機関からの追加受注(12百万SEK)事実

主要プロジェクトの状況

案件場所規模段階日付出典
ECL CSC-1(AIデータセンター)米国カリフォルニア州サンタクララPS190を5 MW級、約30百万SEK(35 MWのキャンパス)受注。引渡しは2026年末までの予定2026年7月13日出典7
ECL MV-1米国カリフォルニア州マウンテンビュー規模の記載なし稼働中(ECLは水素を主電源として2年以上運転と説明)2026年7月13日の発表時点出典6
LH2 Shippingの液化水素船2隻北海の近距離航路4 MW(MS225ベース)、約50百万SEK受注(引渡しは2028年まで)2026年6月25日出典5
MiNaMi(EU)欧州MW級の船舶用PEFC。目標は80,000時間・100万海里以上開発事業(2028年末まで)2026年2月27日出典9
DLR(キール)のFuel-to-Powerドイツ・キールMS225を2台、メタノール改質器2台受注(引渡しは2026年第4四半期、試運転は2027年前半の予定)2026年8月4日出典8
「約300 MW」の追加分米国約300 MW拘束力のない覚書(確定した量ではない)2026年7月13日出典6
素材技術者の視点:寿命は「スタック」だけでは決まらない

PEFCのスタックは、膜、白金系の触媒、ガス拡散層、セパレーターを積んだものです(本シリーズの技術解説「燃料電池車と固体高分子形燃料電池」を参照)。 PowerCellは、MiNaMiプロジェクトの発表で、寿命はスタックの技術だけでなく、システム統合、制御の方法、運転パターン、保守の考え方に左右されると述べています 事実。 船舶用では、運転時間が長く、起動・停止や負荷変動が多いため、膜の劣化や触媒の溶出をどう抑えるかが課題とされます(一般論)。 同社は80,000時間を目標に掲げますが、これは目標値で、実績の寿命ではありません。 S3スタックの製造はBoschが担うため、膜・触媒・セパレーターの材料の選定や調達は、PowerCell自身の一次資料では確認できません 未確定/将来。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2008年創業(会社の説明)。ボルボグループからの産業的な分離を経た自動車向けの燃料電池の技術が出発点
2019年BoschがS3スタックを自動車向けにライセンスし、製造・販売の独占権を得る自動車は大手に任せる分業
2023年Boschとの供給契約で、BoschがS3スタックを受託製造量産能力を借りる
2024年Marine System 225を発売船舶用の主力製品
2025年6月MS225がLloyd's Registerの型式承認を取得。BoschがS3の中国向け適合のIPを取得船舶の型式承認と、Boschとの関係の拡大
2025年Hitachi Energyから「Hyflex」向けの水素燃料電池を初受注(月は年次報告書の記載から特定できず)ディーゼル発電機の置換え
2025年PS190を発売。AS9100D(航空の品質規格)を取得。米国のデータセンター事業者とPS190の実地検証の契約(12月)定置用発電への展開
2026年2月EU資金のMiNaMiプロジェクトに参加(27日)MW級・長寿命の船舶用
2026年3月9日SVTの報道に対し、「2世代前の技術に基づく」と会社が反論技術への指摘をめぐる開示
2026年4月第1四半期の報告で「注文への転換が遅い」と説明。コスト効率化策を開始需要の先送り
2026年6月25日LH2 Shippingから4 MWの船舶用燃料電池を受注(約50百万SEK)液化水素船向け
2026年7月13日ECLのCSC-1向けにPS190を5 MW級受注(約30百万SEK)。約300 MWは拘束力のない覚書AIデータセンター向けの初の大型案件
2026年7月16日第2四半期の報告:「弱い四半期」。売上37.0百万SEK(前年130.0)前年のBosch収入の反動を含む
2026年8月4日DLRからFuel-to-Powerシステムを約21百万SEKで受注メタノール改質との組合せ

7. 今後の計画

ECL CSC-1の引渡し2026年末までPS190を5 MW級。会社の予定
LH2 Shippingの引渡し2028年まで2隻・4 MW。長期保守契約も計画
DLRの試運転2027年前半引渡しは2026年第4四半期の予定
MiNaMi2028年末までMW級・80,000時間の船舶用FC。目標

ほかに、次の方針・計画が一次資料に書かれています 未確定/将来。

  • 船舶(Marine)を事業の土台に、定置用発電(Power Generation)を第2の柱にする方針
  • 次世代プラットフォームへの投資の一部を延期し、現行製品の寿命を延ばしつつ、ソフトウェア・システム統合・エネルギー制御(DMC)を強化
  • MS225について、Lloyd's RegisterとRINAの型式承認に加え、DNVの型式承認の取得を予定
  • コスト構造の調整(right-sizing)を継続。2026年は市場の不確実性が高いと会社が説明
  • ECLとの約300 MWは、拘束力のない覚書であり、実現には別途の確定契約が必要
確認できなかったこと

受注残の合計額/Bosch以外への出資・買収/スタックの材料(膜・触媒・セパレーター)の仕様/個別の寿命試験の公開データ/ECL以外のデータセンター顧客の名称/ SVTの報道そのものの内容。いずれも会社の報告書・発表に記載がないか、本稿では確認していません。

8. この会社は水素エネルギーで何を目指しているか

会社が直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。

読み取れること根拠となる一次情報区分
船舶を土台に、定置用発電を第2の柱にする2026年7月の発表で「Power Generationを船舶と並ぶ第2の中核事業にする」と記載事実(会社の目標)
産業用の量産はBoschに任せ、自社は応用設計に集中するBoschが製造を受託し、PowerCellは「システム組立、顧客への適合、次世代技術の開発」に注力すると年次報告書に記載事実
燃料電池を電力インフラの主電源として売るECLの案件を「バックアップではなく主電源」と説明事実(会社の説明)
売上は少数の大型案件とBoschの収入に左右される2025年の売上の73%がドイツ・イタリア。2026年第2四半期はBoschのライセンス収入が前年の62.2百万SEKから0.1百万SEKに推測
寿命と信頼性の実績の積み上げが最優先MiNaMiで80,000時間を目標とし、「200,000時間超の試験」を開示。報道への反論の中心も試験時間事実/推測(優先順位)
推測の根拠を1つだけ詳しく

「売上が少数の大型案件とBoschの収入に左右される」という読みの根拠は、四半期ごとの落差です。 2026年第2四半期の売上は37.0百万SEKで、前年同期の130.0百万SEKから72%減りました。前年のBosch関連収入(62.2百万SEK)を除いても46%の減少と、会社が示しています 事実。 CEOは、パワージェネレーションは「少数の顧客の決定が大きな事業機会を生むが、その時期は予測しにくい」と書き、四半期ごとの変動が今後も続くと述べています。 ただし、受注の累計や受注残の合計額は報告書から読み取れないため、変動の大きさを数字で確かめることはできません 未確定/将来。

9. 水素エネルギー分野の提携マッピング

PowerCellを中心とした水素分野の提携・顧客・公的資金の関係 年次報告書・四半期報告書・会社の発表に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない PowerCell PEFC Bosch S3スタックの製造・ライセンス 最大株主(11.22%、2025年末) ECL(米国データセンター) PS190を導入。5 MW級を受注 約300 MWは拘束力のない覚書 Hitachi Energy Hyflexの燃料電池を初受注 ディーゼル発電機の置換え向け LH2 Shipping(ノルウェー) 液化水素船2隻に4 MWを供給 引渡しは2028年までの予定 ドイツ航空宇宙センター メタノール改質+燃料電池の 試験設備(キール)に納入 EU(MiNaMi) MW級の船舶用FCの開発事業 PowerCell分は約260万ユーロ 受注額は、各発表に記載された範囲 顧客への導入・共同開発 製造・ライセンス 出資(株主) 公的資金
図2 PowerCellを中心とした水素分野の提携・顧客・公的資金の関係。出典:Annual Report 2025、2026年第2四半期の報告書、会社の発表(2026年2月27日、6月25日、7月13日、8月4日)。ECLの約300 MWは、拘束力のない覚書で、確定した量や売上ではないと会社が明記しています。図に含めたのは公式資料に記載がある関係だけで、ほかにも顧客があります。

PowerCellの関係は、製造・ライセンス・出資(Bosch)、顧客への導入(ECL、LH2 Shipping、Hitachi Energy、DLR)、公的資金を伴う開発(EUのMiNaMi、ドイツ連邦経済・エネルギー省の資金のzero4cruise)に分かれます 事実。 Boschは、最大株主、製造パートナー、自動車向けのライセンス先という3つの顔を持ちます。 PowerCellは、ECLの案件を「Boschの産業的な土台に支えられた提携」と説明しています。 Bosch以外の大手との資本関係は、今回確認した資料では確認できませんでした。

10. 提供している技術・製品・サービス

PowerCellの主な製品を整理します 事実。性能の数値は、すべて会社の公称値で、条件が異なるため優劣は付けません。

区分公式資料に載っている内容ひとこと
S3スタック最大145 kWの燃料電池スタック。Boschが自動車向けにライセンス・製造し、航空向けにも「100,000時間超の検証」と記載自動車向けはBoschが独占
Marine System 225(MS225)2024年発売の船舶用システム。並列にして数MWまで拡張でき、Lloyd's RegisterとRINAの型式承認液化水素船2隻に採用
M2Power 250メタノールを改質して水素をつくり、燃料電池で250 kWの電力を出す船舶用の発電機燃料はメタノール。DLRの設備にも類似構成
PowerSystem 190(PS190)/PowerPod定置用発電の系統。PS190はBoschの産業用燃料電池をPowerCellの制御(DMC)と統合。PowerPodは容器収納型で、バックアップ・離島・仮設電源向け5 kWから数MWまでの出力帯
Distributed Master Controller(DMC)複数の燃料電池モジュールを1つの発電システムとして制御するソフトウェア。ライセンスとしても販売ECLの案件でライセンスが付く
エンジニアリングサービス船舶の造船所・システム統合事業者への技術支援、保守契約LH2 Shippingでは長期保守契約を計画
素材技術者の視点:同じスタックを3つの市場に

PowerCellは、同じ系統のスタックを、自動車(Bosch)、船舶、航空、定置用発電で使い分けています。市場ごとに求められる性質は違います。 船舶・定置用は数万時間の連続運転が求められ、航空は軽さと高度での運転、自動車は低コストの量産が求められます (一般論。会社の発表は個別の要件を示していません)。 S3の説明は「航空で実証され、Boschが量産できる」という両面を強調しています 事実。 このため、同じ膜・触媒の設計をどこまで共通にできるかが、原価と寿命の両立の鍵になると考えられます。 ただし、個別の材料や設計の違いは一次資料に書かれていません 未確定/将来。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
売上の変動2026年第2四半期の売上は前年同期比72%減、Bosch関連を除いても46%減。粗利率は10.4%に低下。パワージェネレーションの顧客の決定時期は予測しにくいと会社が記載事実
Boschへの依存Boschは最大株主、スタックの製造者、自動車向けのライセンス先。ロイヤルティ・ライセンス収入の増減が売上と粗利率に直接効く(2025年の同収入は、年次報告書では「ロイヤルティ」10.4百万SEK、2026年の報告書の組み替え後は「ロイヤルティ・ライセンス」112.1百万SEK。2026年上半期は3.4百万SEK)事実/推測
資金2026年6月末の現金34.5百万SEK、使える流動性76.0百万SEK。2026年上半期の営業キャッシュフローは-88.1百万SEK。新たにプロジェクト融資と与信枠を利用事実
技術への指摘と報道2026年3月のSVTの報道が、顧客の期待を満たさないおそれを指摘。会社は「2世代前の技術に基づく」と反論し、2026年の報告書は、報道後の顧客・納入対応が粗利に影響したと記載事実(会社の主張)
寿命と信頼性80,000時間はMiNaMiの目標。船舶・定置用の長期の実績データは、今後の運転で確かめる段階未確定/将来
水素の入手会社は「特に米国で水素の入手性が高まっている」と述べる一方、水素の供給網は地域差が大きい事実(会社の認識)/推測
情報の見えにくさ受注残の合計や個別の試験データが公開されていない未確定/将来

12. 用語集

PEFC(固体高分子形燃料電池)
固体高分子の膜を電解質に使う燃料電池。船舶・車両・定置用発電で使われる。
スタック
燃料電池のセルを何枚も積み重ねたもの。システムはこれに空気・水素の供給系や制御を加えたもの。
M2Power
メタノールを水素に改質して燃料電池に送る、PowerCellの発電機の製品名。
DMC(Distributed Master Controller)
複数の燃料電池モジュールを束ねて制御するPowerCellの制御ソフト。
型式承認
船級協会(Lloyd's Register、RINA、DNVなど)が、機器が船に搭載できる基準を満たすと認める手続き。
SEK
スウェーデン・クローナ。本稿は為替換算をしていない。
覚書(MOU)
将来の合意に向けた意思表示。拘束力のないものは、数量や売上を確定させない。
液化水素(LH2)
水素を-253℃まで冷やして液体にしたもの。LH2 Shippingは液化水素を燃料に使う貨物船を計画している。
PowerCellのheroを示す概念画像
図3 コンテナ型の燃料電池発電装置と、液化水素を燃料にする貨物船の組合せの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. PowerCell Sweden AB Annual Report 2025(2026年4月20日公表)。会社概要、従業員数、売上・損益、製品、Boschとの関係、大株主、2025年の主な出来事 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
  2. PowerCell Sweden AB Interim report second quarter 2026(2026年7月16日)。2026年上半期の売上・損益・資金、Bosch関連収入、研究開発費、助成金、売上の内訳 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
  3. PowerCell Sweden AB Interim report first quarter 2026(2026年4月23日)。第1四半期の受注(Minami案件を含む)と、コスト効率化策 https://storage.mfn.se/5dccb7f5-21db-41e1-b5e2-b5ded9cc1d0e/powercell-q1-2026-en.pdf
  4. PowerCell Sweden AB Year-end report 2025(2026年2月4日)。2025年通期の説明、受注、市場環境 https://storage.mfn.se/bc04bc6b-260a-47d1-87bf-7558b0297254/powercell-q4-2025-en.pdf
  5. PowerCell Sweden AB プレスリリース「PowerCell secures 4 MW marine fuel cell order valued at SEK 50 million」(2026年6月25日)。LH2 Shipping向けの4 MWの船舶用燃料電池の受注 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-4-mw-marine-fuel-cell-order-valued-at-sek-50-million
  6. PowerCell Sweden AB/ECL プレスリリース「PowerCell and ECL Announce 300 MW+ Hydrogen Power Partnership for AI Data Centers, Supported by Bosch」(2026年7月13日)。ECLとの提携。拘束力のない約300 MWの覚書 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-and-ecl-announce-300-mw-hydrogen-power-partnership-for-ai-data-centers-supported-by-bosch
  7. PowerCell Sweden AB プレスリリース「PowerCell secures multi-MW Power Generation order for AI data center, valued at approximately SEK 30 million」(2026年7月13日)。ECLのCSC-1向けのPS190の受注(5 MW級、約30百万SEK) https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-multi-mw-power-generation-order-for-ai-data-center-valued-at-approximately-sek-30-million
  8. PowerCell Sweden AB プレスリリース「PowerCell secures SEK 21 million DLR order for integrated Fuel-to-Power system」(2026年8月4日)。ドイツ航空宇宙センター(DLR)向けのFuel-to-Powerシステム https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-sek-21-million-dlr-order-for-integrated-fuel-to-power-system
  9. PowerCell Sweden AB プレスリリース「PowerCell joins EU project MiNaMi targeting ultra-long lifetime megawatt fuel cell systems for maritime applications」(2026年2月27日)。EU資金のMiNaMiプロジェクトへの参加 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-joins-eu-project-minami-targeting-ultra-long-lifetime-megawatt-fuel-cell-systems-for-maritime-applications
  10. PowerCell Sweden AB プレスリリース「PowerCell Group responds to claims regarding deficient technology」(2026年3月9日)。SVTの報道に対する会社の説明 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-group-responds-to-claims-regarding-deficient-technology
  11. PowerCell Group 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。ロゴ画像(PCG-Logocombo.png)の取得元 https://powercellgroup.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称Powercell Sweden AB (publ)、ヨーテボリに本社、Nasdaq Stockholm上場、2008年創業、ボルボからの分離事実創業年は会社の説明文による。 出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf 出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
従業員161人。子会社はノルウェー・スウェーデン・ドイツ・米国事実出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
2025年の売上高384.958百万SEK(2024年334.278)、粗利率45.2%、営業損益-22.943百万SEK(-53.743)事実出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
2025年の研究開発費114.363百万SEK(2024年110.877)。助成金収入25.787百万SEK事実出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf 出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
2026年上半期の売上高83.937百万SEK(204.089)、粗利率17.1%、営業損益-92.588百万SEK(10.060)事実出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
2026年第2四半期:Bosch関連のロイヤルティ・ライセンス収入は0.1百万SEK(前年同期62.2百万SEK)。前年のBoschとの大型ライセンス取引を除くと売上は46%減事実出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
2026年6月30日の現金34.5百万SEK、使える流動性76.0百万SEK(未使用の与信枠41.5百万SEKを含む)、自己資本比率52.8%事実出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
2026年上半期の研究開発費63.038百万SEK。開発費の資産計上4.7百万SEK(主にPS200システム)。助成金収入18.693百万SEK、その大半はEUで航空分野事実出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
2025年の国別売上:ドイツ149.055百万SEK、イタリア133.320百万SEK。合計は売上の約73%本稿の計算出典2の表の値から本稿が計算。 出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf
BoschはPowerCellの最大株主で11.22%(2025年末)。2019年からS3スタックを自動車向けにライセンスし、2023年から製造を受託事実出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
2025年6月:BoschがS3スタックの中国向け適合のIPを取得。MS225が英国のLloyd's Registerの型式承認を取得事実出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
S3スタックは最大145 kW、MS225は数MWまで並列化でき、PS190はデータセンター・分散電源向けの容器収納型の系統事実会社の公称値。条件の記載なし。 出典1 https://storage.mfn.se/ef23ad34-7d4d-48ea-8860-b7913cffab62/powercell-ar2025-eng.pdf
LH2 Shippingから液化水素船2隻向けに4 MW(約50百万SEK、引渡しは2028年まで)を受注(2026年6月25日)事実出典5 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-4-mw-marine-fuel-cell-order-valued-at-sek-50-million
ECLのCSC-1向けにPS190を5 MW級、DMCライセンスと合わせて約30百万SEKで受注。引渡しは2026年末までの予定(2026年7月13日)事実引渡しは会社の予定。 出典7 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-multi-mw-power-generation-order-for-ai-data-center-valued-at-approximately-sek-30-million
ECLとの約300 MWの追加は、拘束力のない覚書。確定した量や売上ではない未確定/将来会社が明記。 出典6 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-and-ecl-announce-300-mw-hydrogen-power-partnership-for-ai-data-centers-supported-by-bosch
ECLのMV-1で水素を主電源として2年以上運転しているとのECLの説明事実ECLの発言。 出典6 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-and-ecl-announce-300-mw-hydrogen-power-partnership-for-ai-data-centers-supported-by-bosch
DLR向けに約21百万SEKの受注(2026年8月4日)。MS225を2台、メタノール改質器2台。引渡しは2026年第4四半期、試運転は2027年前半の予定未確定/将来引渡し・試運転は会社の予定。 出典8 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-secures-sek-21-million-dlr-order-for-integrated-fuel-to-power-system
EU資金のMiNaMi事業(総額700万ユーロ)。PowerCell分は約260万ユーロ(2028年末まで)。目標は80,000時間・100万海里以上未確定/将来目標。 出典9 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-joins-eu-project-minami-targeting-ultra-long-lifetime-megawatt-fuel-cell-systems-for-maritime-applications
2026年第1四半期の受注は合計約50百万SEK、うちMinami案件は約28百万SEK(10 MW超の設置、想定寿命80,000時間)事実想定寿命は想定値。 出典3 https://storage.mfn.se/5dccb7f5-21db-41e1-b5e2-b5ded9cc1d0e/powercell-q1-2026-en.pdf
2026年3月9日:SVTの報道に対し、会社は「2世代前の技術に基づく」と反論。200,000時間超の試験とBoschとの合計500,000時間超の現場データ事実会社の主張。報道の内容そのものは本稿で未確認。 出典10 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-group-responds-to-claims-regarding-deficient-technology
取締役会がコメント。2026年の第1・第2四半期の報告書は、報道をめぐる顧客対応が粗利に影響したと説明事実出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf 出典3 https://storage.mfn.se/5dccb7f5-21db-41e1-b5e2-b5ded9cc1d0e/powercell-q1-2026-en.pdf 出典10 https://mfn.se/a/powercell-sweden/powercell-group-responds-to-claims-regarding-deficient-technology
コスト効率化策(right-sizing)と次世代プラットフォームへの投資の一部延期未確定/将来会社の方針。 出典2 https://storage.mfn.se/a9851c76-d89e-4d15-9767-a8f4b8cfbfea/powercell-q2-2026-en.pdf 出典3 https://storage.mfn.se/5dccb7f5-21db-41e1-b5e2-b5ded9cc1d0e/powercell-q1-2026-en.pdf
水素専用の売上区分、受注残の合計、Bosch以外の出資や買収、個別の寿命試験の公開データ未確定/将来本稿では確認できなかった。会社の報告書に記載がない。存在しないとも断定しない。
類型の区分(燃料電池・利用機器)と企業名の例示本稿の計算本稿による整理。
売上が少数の大型案件とBoschの収入に左右される構造という読み推測売上の内訳と国別の値(出典1、2)からの本稿の解釈。
船舶とデータセンターを成長の2本柱とする会社の方針と、実際の受注額の落差についての読み推測第2四半期のCEOコメントと受注額(出典2、5、7)からの本稿の解釈。

最終更新:2026年10月5日/Troy Technical
本稿の数値は、PowerCellの年次報告書・四半期報告書・公式発表に基づきます。金額はSEK(スウェーデン・クローナ)のままで、為替換算はしていません。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。製品の性能値は会社の公称値または目標値で、条件が異なるため優劣を示すものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は水素の取扱いの助言ではありません。