COMPANY PROFILE / バイオセンサー
ロシュ
― 検査室の大型分析装置で知られる体外診断の大手が、血糖測定と連続グルコース測定でも「現場で使うセンサー」を持つ
バイオセンサーの話題でRocheの名前が出るのは、体外診断(IVD)の事業規模が大きく、その中に血糖測定器・凝固測定・病院用の血糖測定、そして自社開発の連続グルコース測定(CGM)を持つからです。 2025年のFinance Reportによると、Diagnostics部門の売上は138億4,700万スイスフラン(CHF)。 血糖測定を含む「Near Patient Care」(検査室の外で使う診断)は、そのうちの14.3%でした。 本稿は、Diagnostics部門に限って(製薬部門は扱いません)、バイオセンサーに当たる製品群、規制上の位置づけ、投じた資金と買収を、一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかるRocheと、バイオセンサーでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- バイオセンサーの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- バイオセンサーにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はバイオセンサーで何を目指しているか
- バイオセンサー分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるロシュと、バイオセンサーでの立ち位置
(従:糖尿病・連続測定)製薬部門は本稿の対象外
皮下の間質液のグルコース自己測定・病院用・連続測定の3つの使い方
RocheのDiagnostics部門は、売上の55%(CHF 7,614百万)を検査室向けの大型分析装置と試薬(Core Lab)が占める会社で、 バイオセンサー(その場で測る小型のセンサー)に当たるのは、Near Patient Careに含まれる血糖測定・連続グルコース測定・凝固測定などの一部です 本稿の計算。 Near Patient Careは2025年に前年比で実質3%減(為替の影響を除く)、2026年上半期もCHF換算で11%減でした。会社は、2025年の減少の理由の1つに「血糖測定の売上減(競合圧力)」を挙げています 事実。 一方で、新しい連続グルコース測定「Accu-Chek SmartGuide」の立ち上げに費用をかけていることも、年次の財務資料に書かれています。 血糖測定器と連続測定のそれぞれの売上額は公表されていません 未確定/将来。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:上場会社は Roche Holding Ltd、医薬品・診断薬の事業を担う主な会社は F. Hoffmann-La Roche Ltd で、日本語では「ロシュ」と書きます。 本稿が扱う Roche Diagnostics は、Roche グループの2つの事業部門(Pharmaceuticals と Diagnostics)の一方の名前です。 Roche Diabetes Care は糖尿病向け事業の呼び名で、Finance Reportの子会社一覧には国ごとの「Roche Diabetes Care」の名を持つ会社が14社あります。製造者として取扱説明書に書かれているのは Roche Diabetes Care GmbH(ドイツ・マンハイム)です。 Accu-Chek、cobas、CoaguChek、mySugr は製品・ブランドの名前で、会社名ではありません。 ロゴ画像は同社の公式サイト(roche.com)のページに埋め込まれているロゴを取得しました。
公式サイト:https://www.roche.com/3. バイオセンサーの世界で、この会社はどこにいるか
4. 会社の規模
Rocheは医薬品(Pharmaceuticals)と診断(Diagnostics)の2部門からなり、本稿の主題はDiagnostics部門です。会社全体は簡潔に示します 事実。
| 指標(百万スイスフラン) | 2024年 | 2025年 | 前年比(為替の影響を除く) |
|---|---|---|---|
| グループ売上 | 60,495 | 61,516 | +7% |
| Diagnostics部門の売上 | 14,324 | 13,847 | +2%(CHF換算では-3%) |
| Diagnostics部門のコア営業利益 | 2,402 | 1,998 | -4% |
| Diagnostics部門のコア営業利益率 | 16.8% | 14.4% | -1.1ポイント |
| うち Near Patient Care の売上 | 2,160 | 1,983 | -3% |
「コア営業利益」は、リストラ費用や無形資産の償却などを除いたRoche独自の指標です。 Diagnostics部門のコア営業利益が減った理由として、会社は設置済みの機器の増加、新製品(特にAccu-Chek SmartGuide)の生産立ち上げ費用、米国の関税、中国の医療価格改革を挙げています 事実。
| Diagnostics部門の顧客領域(2025年) | 売上(百万CHF) | 実質成長率 | 会社の説明 |
|---|---|---|---|
| Core Lab | 7,614 | 0% | 検査室向けの免疫測定・臨床化学。売上の55.0% |
| Molecular Lab | 2,527 | +4% | 病原体の検出、ゲノム解析 |
| Near Patient Care | 1,983 | -3% | 救急室・診療所・個人向け。糖尿病管理の製品を含む。血糖測定の売上減(競合圧力)に言及 |
| Pathology Lab | 1,723 | +14% | 組織染色、コンパニオン診断 |
2026年上半期(1〜6月)は、Diagnostics部門の売上がCHF 6,735百万(実質+3%、CHF換算-3%)、Near Patient CareはCHF 909百万(実質-5%、CHF換算-11%)でした。 会社は、Near Patient Careの減少の主因を「呼吸器感染症の流行が短く、分子診断のPOC(現場検査)の売上が減ったこと」とし、 血糖測定製品の需要が増えて一部を相殺したと説明しています 事実。
Near Patient Careには、血糖測定・連続測定のほか、分子診断のPOC(PCR)や免疫測定のPOCが含まれます。 Near Patient Careの増減は、バイオセンサーの売上の増減ではありません。 血糖測定器、試験紙、SmartGuide、病院用血糖測定それぞれの売上額は、Finance Reportでも半期報告書でも開示されていません。本稿はその額を推計しません 未確定/将来。
5. バイオセンサーにかけているリソース
Rocheの開示は、事業部門(Diagnostics)単位です。バイオセンサー(血糖測定・連続測定)に限った人員・研究開発費・設備投資の額はありません。確認できた範囲を表にします。
| リソース | 一次情報で確認できた内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | Diagnostics部門の従業員は43,102人(2025年末。欧州の報告基準に合わせて見習い・インターン等を含む人数)。糖尿病・連続測定に限った人数は非公表。米国インディアナポリスの拠点は、米国の研究開発、研究室、製造、物流などを持つ(会社の説明)。製造者として取扱説明書に書かれているのはドイツ・マンハイムの Roche Diabetes Care GmbH | 事実/一部非公表 |
| 金(研究開発) | Diagnostics部門のコア研究開発費はCHF 1,844百万(2025年。売上比13.3%)。主な活動に「心代謝疾患、特に連続グルコース測定への継続投資」と明記。2026年上半期も、連続グルコース測定を主な活動に挙げる(CHF 870百万、売上比12.9%)。連続測定だけの研究開発費は非公表 | 事実/一部非公表 |
| 金(設備投資) | Diagnostics部門の有形固定資産の増加はCHF 352百万(2025年。前年CHF 307百万)。会社は、設備投資の増加に「機器の設置の増加とドイツの拠点への投資」を挙げる。さらに、2025年5月12日に、インディアナポリスの診断拠点へ2030年までに最大5億5,000万米ドルを投じ、連続グルコース測定の製造拠点にする計画を公表 | 事実/未確定/将来(計画) |
| 買収・出資 | 1997年 Corange/Boehringer Mannheim、2010年 Medingo(インスリンポンプ。2025年にのれん全額CHF 39百万を減損)、2017年 mySugr(糖尿病管理アプリ)、2024年7月26日 LumiraDxの一部子会社(現金US$353百万。Near Patient Careに計上、現場検査の測定プラットフォーム)。2026年にはSAGA Dx(US$408百万)、PathAI(契約済み)もあるが、いずれも病理・がん関連でバイオセンサーとは別 | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | Finance Report・年次報告書に、糖尿病・連続測定に関わる大学・公的助成の名前や額は確認できず。ClinicalTrials.govには、SmartGuideの臨床研究が2件あり、1件はRoche自身が主導(ポーランド・トルコの施設)、もう1件はドイツの糖尿病研究機関 FIDAM RDC が主導してRoche Diabetes Careが協力 | 確認できず(研究機関との臨床研究は確認) |
規制上の位置づけ(確認できた範囲)
| 製品 | 用途(intended use) | 区分 | 日付 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| Accu-Chek Guide(血糖測定器) | 指先・手のひら・上腕の毛細血管の全血のグルコースを定量。血糖コントロールの効果を見る補助(OTC=一般用) | FDA 510(k) clearance(K160944) | 2016年8月31日 | 出典9 |
| Accu-Chek Guide Me | 同上(毛細血管の全血、指・手のひら・上腕) | FDA 510(k) clearance(K181131) | 2018年12月13日 | 出典10 |
| Accu-Chek Guide Solo diabetes manager | 指先の毛細血管の全血のグルコースを定量する、個人が自宅で使う自己検査用。糖尿病の診断・スクリーニング、新生児には使わない | FDA 510(k) clearance(K213131) | 2023年8月10日 | 出典11 |
| Accu-Chek Solo micropump(参考:センサーではなく投与側) | インスリンの皮下投与(2歳以上、処方、自宅での単独患者用)。互換のデジタル機器と通信できる | FDA 510(k) clearance(K213134) | 2023年8月10日 | 出典12 |
| cobas pulse(病院用の血糖測定) | 医療従事者が複数の患者に使う現場検査。静脈・動脈・新生児の動脈/かかと採血の全血のグルコースを定量。指先の毛細血管の血液は対象外。糖尿病の診断・スクリーニングではなく、血糖異常(dysglycemia)の判定用 | FDA 510(k) clearance(K252323。同じ技術の先行品 K220272) | 2026年6月12日(K220272は2024年4月26日) | 出典8 |
| CoaguChek XS Plus | 医療従事者が、ワルファリン療法のモニタリングのためにプロトロンビン時間を定量する。毛細血管または抗凝固剤なしの静脈の全血 | FDA 510(k) clearance(K253188。Special 510(k)) | 2025年10月24日 | 出典13 |
| Accu-Chek SmartGuide CGM | 皮下の間質液のグルコースの連続測定。18歳以上の糖尿病の人と介護者向け(取扱説明書)。欧州では1型・2型糖尿病で柔軟なインスリン療法の成人向けと公表 | 欧州:CE マーク/米国:FDAのデータベースで確認できず(会社は2025年5月時点で510(k)申請中と資料に記載)/日本:確認できなかった | CE マーク取得の公表は2024年7月9日 | 出典4・5・7 |
FDAの「510(k) clearance」は、既に販売されている同等の機器との実質的同等性を認める区分で、新規性の高い機器に使う「De Novo認可」や「PMA承認(approval)」とは異なります。
Rocheの開示は、検査室の大型分析装置と試薬が中心の会社の形をしています。電極・酵素・膜といった素材の話は、FDAの審査文書と取扱説明書のほうにまとまって書かれています。 たとえば病院用のcobas pulseの試験紙は、FAD依存型のグルコース脱水素酵素(FAD-GDH)でグルコースを酸化し、流れる電流を測る方式(アンペロメトリー)で、試料量は0.6マイクロリットル、ヘマトクリットの範囲は5〜70%と、FDAの審査文書に書かれています 事実。 SmartGuideの取扱説明書は、センサーを「皮下に挿入した電気化学センサー」と説明しますが、酵素・電極材料・拡散を制限する膜の材質は書かれていません 未確定/将来。詳しくは第10章に書きます。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 1896年 | バーゼルで創業(会社の記載) | 本稿の対象は診断(Diagnostics)部門 |
| 1990年代 | FDAのデータベースに、Boehringer Mannheim社の「Accu-Chek」血糖測定(1996年)と「CoaguChek」凝固測定(1993年〜)の510(k)が残る。Finance Reportは1997年のCorange/Boehringer Mannheimの買収を「戦略的取引」として記載 | 血糖・凝固の現場測定の製品系統は、買収で引き継いだもの |
| 2010年 | Medingo(インスリンポンプ)を買収 | のれん(CHF 39百万)は2025年に全額減損(下記) |
| 2015〜2018年 | Accu-Chek Connect アプリ(2015年6月3日)、Accu-Chek Guide(2016年8月31日)、Guide Me(2018年12月13日)がFDAの510(k) clearanceを得る | 血糖測定器とアプリの接続が製品になった時期 |
| 2017年 | mySugr(糖尿病管理アプリ)を買収(Finance Reportの「技術取引」) | 後にSmartGuideのデータを見るアプリとして統合 |
| 2023年8月10日 | Accu-Chek Solo micropump と Guide Solo diabetes manager が510(k) clearance | センサー側ではなく、投与側と測定側の機器 |
| 2024年4月26日 | 病院用のcobas pulse(K220272)が510(k) clearance | 2026年に適用範囲が広がる(下記) |
| 2024年5月13日 | Accu-Chek Guide の一部(限られた製造番号)で、測定単位の表示が誤る可能性があるとして、会社がリコールを開始。FDAがクラスⅡとして分類(Z-2174-2024) | FDAの公表文書にある事実のみを記載。対象や対応は出典14を参照 |
| 2024年7月9日 | Accu-Chek SmartGuide CGM が CE マークを取得と公表。欧州の一部で発売予定 | 自社開発の連続グルコース測定の入口。年次報告書は「2024年に発売」と記載 |
| 2024年7月26日 | LumiraDxの一部子会社を現金US$353百万で取得 | 現場検査のプラットフォームの獲得 |
| 2025年 | SmartGuideを30か国超へ拡大。mySugr との統合(mySugr Glucose Insights)で CE マーク。5月12日にインディアナポリスへの最大US$550百万の投資を公表。Medingoののれんを全額減損 | CGM製造の増強と、アプリ側の連携 |
| 2025年4月14日 | SmartGuideと血糖自己測定(SMBG)を比べる無作為化臨床研究(NCT06704672)を開始 | 目標症例数270人(予定)。2027年5月30日完了予定 |
| 2026年2月1日 | 予測機能の心理・行動への影響を見る臨床研究(NCT07814508、FIDAM RDC主導)を開始 | 目標症例数89人(予定) |
| 2026年6月12日 | cobas pulse(K252323)が510(k) clearance。静脈全血で、集中治療を含む院内のすべての現場に使える範囲へ | ハードウェア・試験紙の変更はなく、ソフトウェアと表示(ラベル)の変更 |
7. 今後の計画
以下はいずれも会社の計画・目標であり、達成された事実ではありません。Diagnostics Day 2025(2025年5月20日)の資料と公式リリース、ClinicalTrials.govの予定日に基づきます 未確定/将来。
mySugrとの統合ペン型インスリン投与システムとの統合、30か国超での発売、製造の拡大
75か国超への展開追加の測定項目と、非侵襲/低侵襲の技術にも言及
- 米国での発売:2025年5月の資料は、SmartGuideを「米国では販売していない。FDAに510(k)申請中」と注記しています。本稿が2026年10月3日に行ったFDA 510(k)データベースの検索(出願者名と製品コードによる)では、Rocheの連続グルコース測定の掲載は確認できませんでした。申請の現状や承認時期の会社の発表は確認できませんでした。
- 臨床研究:NCT06704672は、目標症例数270人(予定)、一次評価項目の完了予定は2026年11月15日、全体の完了予定は2027年5月30日。NCT07814508の完了予定は2026年10月31日。
- 財務の目標:Diagnostics部門の中長期の目標は「売上の伸びが中位〜高位の1桁%」で、2025年は低位〜中位の1桁%の見込みと同じ資料に書かれています。事業全体の目標で、連続測定の目標ではありません。
連続グルコース測定・血糖測定器・試験紙それぞれの売上額、発売国ごとの出荷数/ユーザー数、SmartGuideのFDAへの申請の現状と時期、日本(PMDA)での位置づけ、 センサーの酵素・電極・膜の材料、SmartGuideの製造委託先や部材の供給元、研究開発費・人員の糖尿病分の内訳、大学・公的機関との共同研究の具体名(臨床研究の1件を除く)。
8. この会社はバイオセンサーで何を目指しているか
会社が資料に直接書いている部分と、本稿が読み取った部分を分けます。推測は一次情報から本稿が読み取った解釈です。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 血糖測定器の市場縮小を受けて、連続測定に軸足を移そうとしている | Finance Report 2025:Near Patient Careの減収に「血糖測定の売上減(競合圧力)」、EMEAで「血糖測定市場の縮小が続く」と記載。同じ資料で、連続グルコース測定への研究開発投資と、SmartGuideの生産立ち上げ費用に言及 | 推測 |
| センサー単体ではなく、アプリ・予測・医療従事者向けの管理システムまで一式で売ろうとしている | SmartGuideはセンサー、アプリ、予測アプリの3要素。医療従事者向けの Accu-Chek Care との連携、mySugr との統合(CEマーク)、ペン型インスリン投与・AIDシステムとの統合をロードマップに記載 | 事実(構成)/推測(狙い) |
| 米国を製造・販売の重要市場と見ている | インディアナポリスをCGM製造の拠点にする投資(最大US$550百万)、米国のFDA申請中との資料の記載 | 事実(投資・申請の記載)/推測(市場の位置づけ) |
| 病院向けの血糖測定を、院内の全場面へ広げる | cobas pulseの適用範囲を、2026年6月に静脈全血・集中治療を含む院内全体へ広げるクリアランス | 事実 |
| 将来は血糖以外の測定項目や、より侵襲の低い技術も視野に入れている | 2030年以降のロードマップに「追加の測定項目、非侵襲または低侵襲の技術」と記載(具体的な技術・時期は書かれていない) | 事実(記載)/推測(実現性は未確定) |
「測定器から連続測定へ」という読みの根拠は、財務資料の同じ年に出てくる2つの記述です。 2025年のFinance Reportは、Near Patient Careの売上が減った理由として「血糖測定の売上減(競合圧力)」を、地域別の説明では「血糖測定市場の縮小が続く」ことを書いています。 同じ資料が、Diagnostics部門の研究開発の重点として「心代謝疾患、特に連続グルコース測定への継続投資」を、原価の増加の理由として「SmartGuideの生産立ち上げ費用」を挙げています 事実。 つまり、主力の1つ(血糖測定器と試験紙)の売上が減る中で、費用の増える新しい製品に投資しているという並びです。 一方で、連続測定の売上や利益は開示されていないので、この投資が収益の柱になっているかは外部から確かめられません 未確定/将来。
9. バイオセンサー分野の提携マッピング
Rocheの資料で社名が確認できる関係は、買収だけです 事実。 Accu-Chek Solo micropumpのFDA文書は、「互換のデジタル接続機器(自動インスリン投与ソフトを含む)と通信できる」と書いていますが、相手の社名は書かれていません。 SmartGuideのセンサーの部材(電極、酵素、膜、電池など)の供給元や製造委託先も、確認した資料にはありません 未確定/将来。
10. 提供している技術・製品・サービス
Diagnostics部門の製品は、検査室の大型分析装置(cobas、Elecsys など)から現場検査まで広がります。本稿ではバイオセンサーに当たる範囲に絞ります。 性能値は取扱説明書やFDA文書にあるメーカー公称・審査文書の値で、参照法・対象・条件とセットで読む必要があり、異なる試験の値を並べて優劣をつけることはできません。
| 区分 | 公式資料に載っている内容 | ひとこと |
|---|---|---|
| 血糖測定器と試験紙(Accu-Chek Guide、Guide Me、Guide Solo など) | 指先の毛細血管の血液を試験紙につけて測る自己検査用。試験紙の酵素はFAD依存型グルコース脱水素酵素、測定原理は電流を測るアンペロメトリー(Guide Meの審査文書の比較表) | FDAでは「一般用(OTC)」の血糖測定器の区分(製品コードNBW)。本シリーズの技術解説「電気化学センサー」を参照 |
| 病院用の血糖測定(cobas pulse) | FAD-GDH、アンペロメトリー、試料量0.6マイクロリットル、ヘマトクリット5〜70%、underdose(試料不足)検知あり、充電式のリチウム電池(FDA審査文書の比較表) | 医療従事者が複数の患者に使う。個人向けではない |
| 凝固測定(CoaguChek XS Plus) | 医療従事者向け。ワルファリン療法のモニタリングのためのプロトロンビン時間の定量 | 2025年10月の510(k)は測定原理を変えない変更(Special 510(k)) |
| 連続グルコース測定(Accu-Chek SmartGuide) | センサー、アプリ、予測アプリの3要素。5分ごとにグルコース値を送信、装着14日、使い捨てのアプリケーター(一体型)。予測:30分以内の低血糖リスク、2時間先までの推移、夜間の低血糖リスク | 取扱説明書の用途は「皮下の間質液のグルコースの連続測定」 |
| アプリと医療従事者向けの管理 | mySugr(登録アカウント600万超)に統合する機能 mySugr Glucose Insights(CEマーク)。医療従事者向けの Accu-Chek Care との連携 | データの閲覧・分析の側。測定そのものとは別 |
| 分子診断・免疫測定などの現場検査 | cobas liat(PCR、STI検査は20分)など。Diagnostics Day資料はNear Patient Careに複数の現場検査プラットフォームを挙げる | 分子認識の方式がセンサーとは異なるため、本稿では詳しく扱わない |
SmartGuideの取扱説明書にある性能の値(メーカー公称)
| 項目 | 値 | 条件・出所 |
|---|---|---|
| 全体のMARD | 9.2% | 3施設の臨床試験、48人(1型または、インスリンを使う2型糖尿病の18歳以上)。1人が3個のセンサーを上腕の背側に14日間装着。グルコース操作を伴う3日間の採血日に、指先の毛細血管血と比較。15,993組、範囲40〜400 mg/dL、3ロット |
| グルコース範囲別 | 70〜180 mg/dLで9.8%、>180〜250で8.0%、>250〜350で7.3%、>350で4.9% | 同じ試験。70 mg/dL未満は相対差ではなく絶対差(54未満で7.5 mg/dL、54〜69で7.0 mg/dL) |
| 装着期間別のMARD | 開始8.3%/中間9.0%/終了10.8% | 同じ試験 |
| Parkesエラーグリッド | A・B領域に99.8% | 公式リリースの記載(ADA 2024のポスター演題の結果として引用)。インスリン投与量の判断には較正が必要との注記つき |
| 保管・使用条件 | 保管2〜27°C/使用10〜40°C | 未開封の保管。防水はIP28(水深1 mで60分まで)。滅菌は放射線 |
| センサーの寸法 | 高さ約5.9 mm、径約33.3 mm、重さ約5 g、針長さ約8.2 mm | 粘着パッドを含む高さ。取扱説明書の技術データ |
MARD(平均絶対相対差)は、センサーの値と比較値(ここでは指先の血液の測定値)の差の割合を平均した値で、小さいほど比較値に近いことを示します。 比較法、被験者、グルコースの操作、装着部位が違う試験の値は、そのまま並べて比べられません。 取扱説明書は、間質液のグルコースは血中の値と同じとは限らない(特に急な増減の間)こと、インスリン量などの治療判断には、アプリの求める較正を行った後の値に限ること、重症患者・透析中の患者は対象外であることを書いています 事実。本稿は測定値の読み方や使い方を助言するものではありません。
血糖測定の試験紙では、酵素(FAD-GDH)が起こした反応を、電極で電流として読むのが基本です。 審査文書が、試料量0.6マイクロリットル、ヘマトクリット5〜70%、試料不足の検知を特徴として挙げていることは、電極の面積と流路、血球の影響の抑え方が素材設計の主題だと示しています 事実。 FAD-GDHは、酸素を電子の受け手にするグルコースオキシダーゼ(cobas pulseの比較対象StatStripの酵素)と違い、酸素の濃度の影響を受けにくい酵素として一般に説明されます 未確定/将来。本シリーズの技術解説「酵素と電極界面の材料」を参照してください。
SmartGuideは、14日間、皮膚の上の粘着パッドと皮下の針状センサーで体液に触れ続ける製品です。 取扱説明書の技術データからは、素材に関わる次の点が読み取れます 事実。
- 電気化学センサーの妨害物質:アスコルビン酸(1日500 mg超の経口、または静脈内の投与)、ゲンチジン酸を含む補助食品、メチルドパを摂取すると、CGM値が実際より高く出る可能性があると書かれています(摂取している場合は医療従事者に相談するよう記載)。電極で酸化されやすい物質が電流に混じる、電気化学方式に共通の課題です(本稿の解説)。
- 保管温度の幅が狭い:未開封で2〜27°C。酵素を含む部材の安定性が、保管と輸送の条件を決めている可能性があります(推測。理由は書かれていません)。
- 放射線滅菌:針と酵素を含むセンサーを、放射線で滅菌しています。滅菌後も酵素の活性や膜の性質が保たれる材料設計が必要です(本稿の解説)。
- 電池の物質:電池に、REACH規則の高懸念物質(SVHC)の候補リストにある1,2-ジメトキシエタンが0.1重量%超含まれると明記されています。使用中に直接触れることはないとの説明です。
- 防水と粘着:IP28(水深1 mで60分)と、14日間の装着に耐える粘着パッドの両立が必要です(本シリーズの技術解説「パッチ型センサーと皮膚接着」を参照)。
ただし、酵素の種類、メディエーター、電極材料、拡散を制限する膜の材質は、確認した資料に書かれていません。本稿は推測で補いません。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 血糖測定器・試験紙の縮小と競争 | Finance Report 2025は、Near Patient Careの減収に「血糖測定の売上減(競合圧力)」を、EMEAでは「血糖測定市場の縮小が続く」ことを挙げる。2026年上半期は血糖測定製品の需要が増えたとも説明している | 事実 |
| 米国での連続測定の位置づけ | SmartGuideは米国で販売していない(2025年5月時点の会社資料)。FDA 510(k)データベースでは本稿の検索で掲載を確認できず、申請の現状と時期は確認できなかった。米国向けの製造拠点への投資は先行している | 事実/未確定/将来 |
| 立ち上げ費用と利益率 | 2025年のDiagnostics部門のコア営業利益は-4%(為替の影響を除く)。原価率は51.9%(+3.4ポイント)で、会社は機器の増加、SmartGuideなど新製品の生産立ち上げ費用、米国の関税、中国の医療価格改革を理由に挙げる。2026年上半期も原価に新製品の費用と関税が含まれる | 事実 |
| 為替 | 2025年のDiagnostics部門の売上は、為替の影響を除くと+2%、CHF換算では-3%。2026年上半期も同様(+3%と-3%)。スイスフラン高の影響を受ける | 事実 |
| インスリンポンプ事業の不透明さ | Medingo(2010年買収)ののれんを、2025年の戦略見直しにより全額減損した。見直しの結果として事業をどうするかは、確認した資料に書かれていない | 事実/未確定/将来 |
| 品質に関する当局公表 | FDAのリコールデータベースには、Roche Diabetes Careを回収実施者とする記録が2017〜2024年に複数ある(試験紙のバイアル、メーターの電源、アプリの接続など。2024年はAccu-Chek Guideの一部で測定単位の表示が誤る可能性)。内容と対象は各記録による | 事実 |
| 開示の少なさ | 連続測定・血糖測定器それぞれの売上と費用、センサーの材料や部材の供給元がいずれも非開示のため、事業の規模と採算を外部から確かめにくい | 未確定/将来 |
| 材料に関する規制 | センサーの電池に、REACHのSVHC候補物質(1,2-ジメトキシエタン)が0.1重量%超含まれると取扱説明書が明記。将来の規制の動き次第で材料の見直しが必要になる可能性がある | 事実(含有の記載)/推測(見直しの可能性) |
12. 用語集
- Near Patient Care
- RocheがDiagnostics部門の顧客領域の1つとして使う名前。救急室、診療所、個人向けなど、検査室の外で使う診断。糖尿病管理の製品を含む。
- コア営業利益
- リストラ費用や無形資産の償却などを除いた、Rocheが業績の比較に使う指標。
- 実質成長率(CER)
- 為替の影響を除いた売上の伸び。CHF換算の伸びとは別に示される。
- 510(k) clearance
- FDAが、すでに販売されている同等の機器との実質的同等性を認める区分。De Novo認可やPMA承認(approval)とは異なる。
- OTC(一般用)
- 処方箋なしで買って使える区分。FDAの血糖測定器の製品コードNBWは「Over-the-Counter」の血糖測定システム。
- CGM(連続グルコース測定)
- 皮下の間質液のグルコースを、センサーで連続して測る方式。5分ごとなど一定間隔で値を送る。
- MARD
- 平均絶対相対差。センサーの値と比較値の差の割合を平均した、測定の近さの指標。試験の条件で値が変わる。
- アンペロメトリー
- 電極に一定の電圧をかけ、酵素の反応で流れる電流の大きさから濃度を求める電気化学の測定方式。
- FAD-GDH
- FAD依存型のグルコース脱水素酵素。グルコースを酸化し、電子を電極に渡す側の酵素として試験紙に使われる。
- SMBG
- 血糖自己測定。指先の血液を試験紙で測る方法。

13. 出典
- Roche Finance Report 2025。Diagnostics部門の売上・利益・顧客領域別の売上、研究開発費、設備投資、買収とのれん(Medingo、mySugr、LumiraDx)、子会社一覧、上場情報。 https://assets.roche.com/f/176343/x/fca190f63e/fb25e.pdf
- Roche Annual Report 2025。Diagnostics部門の事業の概観、SmartGuideの拡大とmySugr統合、従業員数(部門別)。 https://assets.roche.com/f/176343/x/fa3c863601/ar25e.pdf
- Roche Half-Year Report 2026(2026年7月)。2026年上半期のDiagnostics部門の売上・Near Patient Care・研究開発・原価。 https://assets.roche.com/f/176343/x/8a0b362d66/hy26e.pdf
- Roche Diagnostics Day 2025 資料(2025年5月20日)。SmartGuideのロードマップ、米国での状況の注記、財務の目標、Near Patient Careの構成。 https://assets.roche.com/f/176343/x/7656180b53/diagnostics-day-20-05-2025.pdf
- Roche Media & Investor Release「Roche receives CE Mark for its AI-enabled continuous glucose monitoring solution」(2024年7月9日)。 https://assets.roche.com/f/176343/caf466c9d0/09072024_mr_accu-chek-smartguide-cgm-solution_en.pdf
- Roche Diagnostics Media Release「Roche announces $550 million investment to expand its Indianapolis diagnostics manufacturing hub」(2025年5月12日)。 https://diagnostics.roche.com/content/dam/diagnostics/us/en/news-releases/pdf/indianapolis-investment-press%20release-051225.pdf
- Roche Diabetes Care User's Manual Accu-Chek SmartGuide device(2025年9月版)。用途、制限、技術データ、性能データ、製造者。 https://tools.accu-chek.com/documents/dms/en/smartguide_device_manual/smartguide_device_app_manual_en_2025-09.pdf
- FDA 510(k) K252323 cobas pulse blood glucose monitoring system(クリアランスの通知と510(k)要約、2026年6月12日)。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf25/K252323.pdf
- FDA 510(k) K160944 Accu-Chek Guide Blood Glucose Monitoring System(2016年8月31日)。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf16/K160944.pdf
- FDA 510(k) K181131 Accu-Chek Guide Me Blood Glucose Monitoring System(2018年12月13日)。試験紙の酵素・測定原理の比較表。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf18/K181131.pdf
- FDA 510(k) K213131 Accu-Chek Guide Solo diabetes manager blood glucose monitoring system(2023年8月10日)。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf21/K213131.pdf
- FDA 510(k) K213134 Accu-Chek Solo micropump system with interoperable technology(2023年8月10日)。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf21/K213134.pdf
- FDA 510(k) K253188 CoaguChek XS Plus System(2025年10月24日、Special 510(k))。 https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf25/K253188.pdf
- FDA Medical Device Recalls:Class 2 Device Recall Roche Diabetes Care, Inc., AccuChek Guide Meter(Z-2174-2024)。 https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfres/res.cfm?id=207936
- FDA(openFDA) 510(k) K944459 ACCU-CHEK INSTANT PLUS G-C/DM(Boehringer Mannheim Corp.、1996年4月17日)の登録情報。 https://api.fda.gov/device/510k.json?search=k_number:K944459
- FDA(openFDA) 510(k) K930454 BOEHRINGER MANNHEIM COAGUCHEK SYSTEM(1993年8月5日)の登録情報。 https://api.fda.gov/device/510k.json?search=k_number:K930454
- FDA(openFDA) 510(k) K150910 ACCU-CHEK Connect Diabetes Management App(2015年6月3日)の登録情報。 https://api.fda.gov/device/510k.json?search=k_number:K150910
- FDA(openFDA) 510(k) K220272 cobas pulse blood glucose monitoring system(2024年4月26日)の登録情報。 https://api.fda.gov/device/510k.json?search=k_number:K220272
- ClinicalTrials.gov NCT06704672:Accu-Chek SmartGuide CGM と血糖自己測定の比較(Hoffmann-La Roche主導、募集中)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06704672
- ClinicalTrials.gov NCT07814508:Accu-Chek SmartGuide CGM と Predict App の心理・行動への影響(FIDAM RDC主導、Roche Diabetes Careが協力、募集中)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07814508
- Roche 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.roche.com/
- Mader JK ほか 「1924-LB: Clinical Performance of a Novel CGM System」Diabetes 2024; 73 (Supplement_1)(ADA 2024のポスター演題。公式リリースが引用)。 https://doi.org/10.2337/db24-1924-LB
- FDA 510(k) Premarket Notification Database(検索ページ。本稿が出願者名・製品コードで2026年10月3日に検索)。 https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfpmn/pmn.cfm
- FDA(openFDA) Device Recall データベースでの Roche Diabetes Care の記録(検索結果)。 https://api.fda.gov/device/recall.json?search=recalling_firm:%22Roche+Diabetes+Care%22&limit=30
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月3日/Troy Technical
本稿の数値は、Rocheの財務資料・公式リリース・取扱説明書、FDAの公開文書、ClinicalTrials.govに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません(Roche自身の資料にある市場規模の数字は採用しません)。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は製品の使用を勧めるものではなく、測定値の読み方や治療に関する助言ではありません。