TECHNOLOGY EXPLAINER
熱膨張係数(CTE)とは何か
― 後工程のほぼすべての不良が、ここから始まる
本シリーズのどの記事にも、必ず同じ言葉が出てきます。CTE差。 アンダーフィルも、ガラス基板も、ビルドアップフィルムも、最後はこの一語に行き着きます。 この記事では、そのCTEそのものを正面から扱います。
- 熱膨張係数とは何か(3行でつかむ)
- なぜ後工程でだけ大問題になるのか
- 数字で見る ― 実際の材料はどれだけ違うのか
- 素材技術者の視点①:ずれは何ミクロンか
- 素材技術者の視点②:CTEは「1つの数字」ではない
- 素材技術者の視点③:低ければ良い、ではない
- どう戦うか ― 応力の3要素を崩す
- 課題/用語集/参考資料/出典対応表
事実=各社の公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=開発段階であり、量産実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
1. 熱膨張係数とは何か(3行でつかむ)
- 熱膨張係数(CTE)とは、温度が1℃上がったときに材料が何割伸びるかを表した数字です。単位は ppm/℃(100万分のいくつ)。
- 問題になるのは「絶対値」ではなく「差」です。貼り合わせた2つの材料のCTEが違うと、温度が変わるたびに引っぱり合いが起きます。
- 後工程は260℃まで上げて常温まで戻す工程の連続です。だから、CTE差は必ず応力に変わります。
数字の感覚をつかんでおきます。CTEが 10 ppm/℃ の材料は、温度が 100℃ 上がると 長さが 1,000 ppm = 0.1 % 伸びます。 一辺 40 mm の基板なら 40 µm。髪の毛の直径の半分くらいです。
これだけなら大した話ではありません。問題は、隣にある材料が別の量だけ伸びることです。
2. なぜ後工程でだけ大問題になるのか
京セラは、セラミックパッケージの技術ページでこう書いています。 「実装の際に、材料間の熱膨張係数差が大きいと、加熱・冷却により熱応力が発生し、実装部が破断してしまうなどの問題があります。 熱応力を緩和しデバイスの信頼性を向上させるには、素子とパッケージ/パッケージとマザーボードの熱膨張係数を近づけることが重要です」事実。
レゾナックも、先端パッケージの課題としてこう述べています。 「CTEの異なる異種材料を積層する先端半導体パッケージでは、製造工程の熱履歴によって生じる各材料の収縮差が、 設計精度への影響を無視できないレベルの反りの要因となります」。 そしてそれは「接続不良や製品寿命の低下に直結する問題」だとしています事実。
CTE差が問題になるのは、温度が変わるときだけです。 そして後工程は、温度を上げて下げる工程の連続です。本シリーズで見てきた工程を並べてみます。
- はんだリフロー:レゾナックのCCLは「はんだ耐熱性(260 ℃)」を規格項目に持ちます事実
- 封止材の硬化:「アンダーフィル・封止材」編で見たとおり、硬化温度とTgが特性を決めます
- ビルドアップ層の硬化:レゾナックは感光性ポリイミドの「約200 ℃程度の低温硬化」を、反り抑制の手段として挙げています事実
- アンダーフィルのキュア:京セラは応力解析の条件として「150℃ → 20℃(アンダーフィルキュア条件)」を挙げています事実
前工程(ウェハプロセス)にも高温工程はありますが、そこで扱うのはほぼシリコン一色です。 後工程に入った瞬間、シリコン・銅・樹脂・ガラス・セラミックが同じ板の上に同居します。 CTE差が「後工程の問題」なのは、後工程が異種材料の世界だからです(本記事による解説)。
3. 数字で見る ― 実際の材料はどれだけ違うのか
ここからは、実際に公表されている数値だけを並べます。 推定値や一般論ではなく、メーカーがカタログに書いている値です事実。
| 材料/製品 | CTE | 条件・備考 | 出典 |
|---|---|---|---|
| LTCC「GL570」(京セラ) | 3.4 ppm/K | RT〜400℃。「熱膨張係数がSiに近い材料として開発」/先端半導体用途 | 京セラ[1][2] |
| 窒化アルミニウム「AN242」(京セラ) | 4.7 ppm/K | RT〜400℃。熱伝導率 150 W/m・K | 京セラ[2] |
| アルミナ「A440」(京セラ) | 7.1 ppm/K | RT〜400℃。「最も汎用的」/熱伝導率 14 W/m・K | 京セラ[2] |
| LTCC「GL773」(京セラ) | 11.7 ppm/K | RT〜400℃。「二次実装性良好」/先端半導体用途 | 京セラ[2] |
| 無機コア基板(日本電気硝子) | 6.1〜8.9 ppm/℃ | 複数タイプ。曲げ強度 150〜340 MPa | 日本電気硝子[5] |
| 銅張積層板「MCL-E-795G」 面内(X・Y方向)(レゾナック) | 3.0〜5.0 ppm/℃ (LHタイプ 0.5〜3.0) | 30〜120℃。ビルドアップ用内層コア材 | レゾナック[4] |
| 同上 厚さ方向(Z方向) | 10〜15 ppm/℃(Tg以下) 70〜100 ppm/℃(Tg超) | Tg=260〜290℃(TMA法) | レゾナック[4] |
| 層間絶縁フィルム 4製品(積水化学工業) | 15〜27 ppm/℃ | 25〜150℃。NX04H=24.5/NQ07V=27/QX04=15/EL=17〜23 | 積水化学工業[6] |
| 有機基板用エポキシ封止材(レゾナック) | α1 6〜12 ppm/℃ α2 27〜45 ppm/℃ | α1=Tg以下、α2=Tg超。Tg 120〜155℃ | レゾナック[7] |
| 顆粒状EMC「CEL-400ZHF40」(レゾナック) | 10 ppm/℃以下 | 「10 ppm/℃以下の低熱膨張と20 GPa以下の低弾性率を両立」 | レゾナック[8] |
※ すべて各社の公表値(代表値・実測値)です。測定温度範囲・測定方法が社ごとに異なるため、この表の数値どうしを直接比較することはできません。京セラはRT〜400℃、レゾナックのCCLは30〜120℃、積水化学工業は25〜150℃です。
同じパッケージの中に、0.5 ppm/℃ の材料と 45 ppm/℃ の材料が同居している—— それがこの図の意味です。約90倍の開きがあります。
そして注目すべきは、この幅の大部分が「樹脂系」で占められていることです。 セラミックとガラスは 3〜12 ppm/K の狭い範囲に収まっているのに対し、 樹脂を主成分とする材料(層間絶縁フィルム、封止材)は 15〜45 ppm/℃ に広がっています。
裏を返せば、樹脂系材料はフィラーの種類・量・分散によってCTEを設計できるということでもあります (本記事による解説)。 実際、積水化学工業の4製品はCTEが 15〜27 ppm/℃ と2倍近く違いますが、 同じ「熱硬化型層間絶縁フィルム」という製品系列です事実。 CTEは材料の宿命ではなく、設計変数です。
4. 素材技術者の視点①:ずれは何ミクロンか
「CTE差が問題だ」という説明は、どの資料にも書いてあります。 しかしそれが何ミクロンの話なのかは、意外と書かれていません。計算してみます。
レゾナックが反り評価に使っているTEG条件を借ります。 チップサイズ 20 mm×20 mm、基板サイズ 40 mm×40 mm事実。
前提:
- 温度変化 ΔT = 235℃(はんだリフローの260℃から常温25℃まで冷える)
- シリコンのCTEは 3.4 ppm/℃ とする。京セラがCTE 3.4 ppm/K のLTCC「GL570」を「熱膨張係数がSiに近い材料」としていることから借りた値事実
- 相手側は、積水化学工業の層間絶縁フィルム「NX04H」の 24.5 ppm/℃事実
- チップ中心を固定点とし、ずれはチップ中心から端まで(10 mm)で評価する
- 自由に伸び縮みできると仮定した計算(実際には互いに拘束し合う)
計算:
- CTE差 Δα = 24.5 − 3.4 = 21.1 ppm/℃
- ずれ量 = 10 mm × 21.1 ppm/℃ × 235℃ = 10 mm × 0.00496
- = 0.0496 mm = 約 50 µm
では、低熱膨張の銅張積層板を使うとどうなるか。 レゾナック「MCL-E-795G」の面内CTEは 3.0〜5.0 ppm/℃(LHタイプは 0.5〜3.0)です事実。 下限の 3.0 ppm/℃ を使うと——
- CTE差 Δα = 3.4 − 3.0 = 0.4 ppm/℃
- ずれ量 = 10 mm × 0.4 ppm/℃ × 235℃ = 0.00094 mm = 約 0.9 µm
約50 µm と 約0.9 µm。50倍以上の差です。
注意:層間絶縁フィルムとコア材は、パッケージの中で同じ役割・同じ位置にある材料ではありません。 この計算は「この材料をあの材料に置き換えられる」という意味ではなく、 CTE差がどれだけの寸法差を生むかの感覚をつかむためのものです。 また自由膨張としての計算であり、実際には材料が互いを拘束するため、 このずれの大部分は変位ではなく応力に変わります。
この50 µmという数字を、本シリーズの他の記事と突き合わせてみます。
- 「バンプ」編:銅ピラーバンプのピッチは数十 µm の世界です
- 「ハイブリッドボンディング」編:imecは400 nm、さらに200 nmピッチの接合を実証しています
- 「シリコンフォトニクス」編:光ファイバの結合は位置精度がそのまま損失になります
50 µm ずれようとする力が、ピッチ数十 µm の接合部にかかっている。 これが後工程の「CTE問題」の正体です。 アンダーフィルが必要な理由も、低熱膨張の基板材料が開発され続ける理由も、 この一点に帰着します(本記事による解説)。
5. 素材技術者の視点②:CTEは「1つの数字」ではない
カタログに「CTE 20 ppm/℃」と書いてあったとき、それはいつ、どの方向の、どの温度域の値なのか。 この問いに答えられないと、数字は使えません。
レゾナックの銅張積層板「MCL-E-795G」のデータシートは、この点を鮮やかに示しています事実。
「MCL-E-795G」のLHタイプは、面内で 0.5〜3.0 ppm/℃。 シリコンよりも低い値です。ところが厚さ方向はTgを超えると 70〜100 ppm/℃事実。
同じ1枚の板が、方向と温度で最大200倍ちがう伸び方をするということです本稿の計算 (0.5 ppm/℃ と 100 ppm/℃ の比。公表された上限と下限を割ったもので、 同一サンプルで同時に測られた値ではありません)。
なぜこうなるのか。答えはガラスクロスです。 面内方向はガラス繊維が伸びを拘束するので低くなり、厚さ方向には繊維がないので樹脂そのものの値が出る。 レゾナックが「低熱膨張ガラスクロスとの組み合わせによりMCL-E-795G(LHタイプ)さらなる低熱膨張係数を実現します」 と書いているのは、まさにこの構造の話です事実。
樹脂系材料のCTEは、樹脂の物性そのものではなく「何で拘束されているか」で決まる—— これは繊維強化複合材料を扱う技術者には馴染みのある話ですが、 半導体パッケージの文脈で同じ原理が効いていることは見落とされがちです(本記事による解説)。
「α1」と「α2」が意味すること
「アンダーフィル・封止材」編でも触れましたが、樹脂材料のCTEはガラス転移温度(Tg)を境に不連続に変わります。 レゾナックの有機基板用エポキシ封止材は α1 6〜12、α2 27〜45 ppm/℃、Tg 120〜155℃ と公表しています事実。Tgを超えると3〜4倍になります。
ここが厄介なのは、後工程の温度がちょうどこのTgをまたぐことです。 はんだリフローは260℃。封止材のTgが120〜155℃なら、リフロー中は必ずα2の領域にいます。 CCLのTgは260〜290℃(TMA法)なので、こちらはリフロー温度あたりで境界にかかります事実。
- 測定温度範囲は? 京セラはRT〜400℃、レゾナックのCCLは30〜120℃、積水化学工業は25〜150℃。範囲が違えば値は比べられません事実
- 方向は? 面内(X・Y)か厚さ方向(Z)か。レゾナックは「X, Y:引張、Z:圧縮」と測定方法まで明記しています事実
- Tgの上か下か? α1かα2か。使用温度がTgをまたぐなら両方必要です
- 測定法は? 同じ材料でもTMA法で260〜290℃、DMA法で315〜345℃と、Tgの値そのものが変わります事実
- 代表値か実測値か保証値か? 京セラは「代表値」、レゾナックは「実測値であり、保証値ではありません」と明記しています事実
6. 素材技術者の視点③:低ければ良い、ではない
ここまで読むと、「CTEは低いほど良い」と思えてきます。しかしそうではありません。
京セラは、多層セラミックスの材料特性表で LTCC「GL570」を 3.4 ppm/K、LTCC「GL773」を 11.7 ppm/K と公表しています。 どちらも用途は「先端半導体」。GL570の主な特長は「一次実装性良好」、 GL773は「二次実装性良好」と書き分けられています事実。
そして京セラは、こう説明しています。 「京セラは、Siに近いものからマザーボードに近いものまで、さまざまな熱膨張係数を持つ材料を幅広くラインアップしています」事実。
この2製品の存在が示しているのは、CTEという特性には「良い方向」がないということです。
- チップに接する面では、Siに合わせる(低いほうへ)
- マザーボードに接する面では、PCBに合わせる(高いほうへ)
- パッケージはその両方を同時に抱えている
だから先端パッケージの材料開発は、「CTEを下げる競争」ではなく「狙った値に当てる競争」になります。 そして狙う値は、使われる場所ごとに違う。 レゾナックのCCLに標準/Xタイプ/LHタイプという3グレードがあるのも、 積水化学工業の層間絶縁フィルムに 15〜27 ppm/℃ の幅があるのも、同じ理由です事実。
ここが素材メーカーの勝負どころです。 ある値を実現するだけなら競合も出来ます。 「同じ製造ラインで、同じ品質で、複数の値を作り分けられるか」が差になります(本記事による解説)。
京セラが公開している検証
京セラは、この考え方をシミュレーションで検証した結果も公開しています。 アルミナ「A440」と、Siに近いCTEを持つLTCC「GL570」で、 150℃ → 20℃(アンダーフィルキュア条件)の応力解析を実施し、 「シリコンインターポーザー(シリコン)の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するGL570基板では、基板反りが低減された事を確認」 と述べています事実。
アルミナのCTEは 7.1 ppm/K、GL570 は 3.4 ppm/K事実。 7.1 から 3.4 へ、約半分にしただけで反りが減った——これが実測ではなく解析結果である点には注意が必要ですが、 CTEを合わせる効果が定量的に示された数少ない公開例です(本記事による解説)。
7. どう戦うか ― 応力の3要素を崩す
CTE差をゼロにできるなら、それが最善です。しかし現実にはできません。 シリコンと樹脂を同じCTEにすることは不可能だからです。
そこで材料メーカーは、発生する熱応力そのものを小さくする方向に向かいます。 熱応力はおおまかに、次の3つの掛け算で決まります。
レゾナックの顆粒状EMC「CEL-400ZHF40」は 「10 ppm/℃以下の低熱膨張と20 GPa以下の低弾性率を両立」とされています事実。 この「両立」がどれだけ効くのかを、簡略化した式で見積もります本稿の計算。
前提:熱応力 ≒ 弾性率 × CTE差 × 温度差。シリコンのCTEは 3.4 ppm/℃、温度差は 235℃(260℃→25℃)とする。
- 改善後(CTE 10、E 20 GPa):20,000 MPa × (10−3.4) ppm/℃ × 235℃ = 約 31 MPa
- 比較用(CTE 20、E 30 GPa と仮定):30,000 MPa × (20−3.4) ppm/℃ × 235℃ = 約 117 MPa
- 比 = 約 1/4
さらに、レゾナックは感光性ポリイミドについて 「約200 ℃程度の低温硬化が可能であり、熱履歴による材料間の収縮差を最小限に留め半導体パッケージの反りを抑制」としています事実。 硬化温度が 260℃ から 200℃ に下がれば、温度差は 235℃ → 175℃。 それだけで応力は約25%減る計算になります本稿の計算。
前提と限界:「比較用」の CTE 20 ppm/℃・E 30 GPa は本稿が置いた仮の値であり、 特定の従来品を指すものではありません。 また式は傾向を示す簡略化した関係で、実際の応力は形状・拘束条件・樹脂の粘弾性に強く依存します。 設計計算に使える式ではありません。
本シリーズの各記事で出てきた材料技術を、この3分類に当てはめ直すと見通しが良くなります(本記事による整理)。
- ①CTE差を小さくする:低熱膨張CCL、ガラスコア基板、低CTEフィラーの高充填、低熱膨張ガラスクロス
- ②弾性率を下げる:低弾性率の封止材、アンダーフィル、応力緩和層
- ③温度差を小さくする:低温硬化材料、低温はんだ、プロセス温度の見直し
面白いのは、①と②が正面から衝突することです。 CTEを下げるには無機フィラーを高充填するのが定石ですが、 フィラーを増やせば弾性率は上がります。 レゾナックが「10 ppm/℃以下の低熱膨張と20 GPa以下の低弾性率を両立」という書き方をしているのは、 この衝突を解いたという主張です(本記事による解説)。
だから③の「温度差を小さくする」が重要になります。 材料の物性をいじらずに応力を減らせる、唯一の手だからです。 低温硬化・低温プロセスが先端パッケージで繰り返し語られる理由は、ここにあります(本記事による解説)。
8. 課題
課題① CTEを合わせると、別の性能を失う
京セラの材料特性表は、この代償をはっきり見せています。 Siに近いCTEを持つLTCC「GL570」と、汎用のアルミナ「A440」を並べてみます事実。
| 項目 | GL570(LTCC) | GL773(LTCC) | A440(アルミナ) | AN242(AlN) |
|---|---|---|---|---|
| 熱膨張係数(RT〜400℃) | 3.4 ppm/K | 11.7 ppm/K | 7.1 ppm/K | 4.7 ppm/K |
| 熱伝導率 | 2.8 W/m・K | 1.9 W/m・K | 14 W/m・K | 150 W/m・K |
| 3点曲げ強度 | 200 MPa | 280 MPa | 400 MPa | 400 MPa |
| ヤング率 | 128 GPa | 95 GPa | 310 GPa | 320 GPa |
| 比誘電率(1 MHz) | 5.6 | 5.7 | 9.8 | 8.7 |
| 主な特長(公表) | 先端半導体/一次実装性良好 | 先端半導体/二次実装性良好 | 最も汎用的 | 高熱伝導率 |
※ すべて京セラの公表値(代表値)です[参考資料2]。
CTEをSiに近づけたGL570は、熱伝導率がアルミナの1/5、AlNの約1/54しかありません。 曲げ強度も半分です本稿の計算(公表値どうしの割り算。2.8÷14=0.2、2.8÷150≒0.019、200÷400=0.5)。
京セラの公表表を眺めると、CTEが低い材料ほど熱伝導率も低いという傾向が読み取れます (GL570=3.4/2.8、GL773=11.7/1.9、A440=7.1/14)。 ただしこれは4材料を見ただけの傾向であり、一般法則ではありません(本記事による読み取り)。
AlN が CTE 4.7 ppm/K と 熱伝導率 150 W/m・K を両立しているのは、 この一般傾向に対する例外的な材料だからこそ価値がある、とも読めます(本記事による解説)。
だから材料選定は、CTEだけを見ると必ず失敗します。 「アンダーフィル・封止材」編で見た放熱・流動性の要求と、 この記事の反りの要求は、同じ材料の上で取り合いになります(本記事による解説)。
課題② パッケージが大きくなるほど、ずれは比例して増える
第4章の計算は、ずれ量が距離に比例することを示していました。 チップが 20 mm角なら約50 µm。では、先端パッケージが向かう先はどうでしょうか。
第4章と同じ前提(CTE差 21.1 ppm/℃、ΔT 235℃、自由膨張)で、 評価する距離だけを変えます本稿の計算。
- 中心から 10 mm(20 mm角):約 50 µm
- 中心から 25 mm(50 mm角):約 124 µm
- 中心から 50 mm(100 mm角):約 248 µm
前提:第4章と同じ単純化した自由膨張の計算です。 実際には拘束・反り・粘弾性によってこのとおりにはなりません。 大型化が反りの問題を線形に悪化させる、という傾向を示すためだけの数字です。
「CoWoS」編・「PLP」編・「ガラス基板」編で見たとおり、先端パッケージは大型化の方向に進んでいます。 大型化は、CTE問題を確実に悪化させます。 ガラスコア基板が注目される理由のひとつが、日本電気硝子の言う 「高温・高湿度下での寸法変化と反りを低減」である事実のも、この文脈です。
課題③ 測定条件が揃っていない
この記事を書くにあたって最も苦労したのは、数値を比較できないことでした。
- 京セラ:RT〜400℃
- レゾナック(CCL):30〜120℃、X・Yは引張、Zは圧縮、昇温速度 10 ℃/min
- 積水化学工業:25〜150℃
- レゾナック(封止材):α1/α2 という区分
いずれも各社が条件を明記している点は誠実ですが、条件が違うため横並び比較はできません。 本記事の図2・図5を「桁の感覚をつかむため」と注記しているのは、このためです。 測定条件の標準化がどこまで進むかは、現時点では見通せません未確定/将来。
- CTE差は、後工程のほぼすべての不良の出発点です。京セラは「熱応力を緩和しデバイスの信頼性を向上させるには、素子とパッケージ/パッケージとマザーボードの熱膨張係数を近づけることが重要」としています事実
- 20 mm角のチップの端は、約50 µm ずれようとします(CTE差 21.1 ppm/℃、ΔT 235℃の場合)本稿の計算
- CTEは1つの数字ではありません。同じ銅張積層板が、面内 0.5〜3.0、厚さ方向Tg超 70〜100 ppm/℃ です事実
- 低ければ良いのではありません。京セラは同じLTCC系列で 3.4 と 11.7 を作り分けています事実
- 戦い方は3つ:CTE差を小さくする/弾性率を下げる/温度差を小さくする(本記事による整理)
- CTEを合わせると別の性能を失います。GL570 の熱伝導率は 2.8 W/m・K、アルミナの1/5です事実
9. 用語集
- CTE
- Coefficient of Thermal Expansion。熱膨張係数。温度1℃あたりの寸法変化の割合。単位は ppm/℃ または ppm/K。
- ppm
- parts per million。100万分の1。10 ppm/℃ の材料は、100℃上がると 0.1 % 伸びる。
- 熱応力
- 温度変化によって材料内部に生じる応力。CTEの異なる材料が互いを拘束することで発生する。
- 反り(warpage)
- パッケージや基板が平らでなくなる変形。CTE差による収縮差が主因のひとつ。
- Tg
- ガラス転移温度。樹脂がガラス状態からゴム状態に変わる温度。Tgを境にCTEが大きく変わる。
- α1/α2
- Tg以下のCTE(α1)とTg超のCTE(α2)。樹脂材料ではこの2つを分けて表記する。
- TMA法/DMA法
- Tgの測定方法。熱機械分析(TMA)と動的粘弾性測定(DMA)。同じ材料でも得られる値が異なる。
- 面内/厚さ方向
- 板状材料の、板の広がる方向(X・Y)と厚み方向(Z)。繊維強化材では両者のCTEが大きく異なる。
- CCL
- Copper Clad Laminate。銅張積層板。基板の土台になる、銅箔を貼った板。
- プリプレグ
- ガラスクロスに樹脂を含浸させ、半硬化状態にしたシート。積層して基板をつくる。
- ガラスクロス
- ガラス繊維を織った布。基板の骨格となり、面内方向の熱膨張を拘束する。
- LTCC
- Low Temperature Co-fired Ceramics。低温同時焼成セラミックス。導体に銅が使える。
- 一次実装/二次実装
- チップをパッケージに載せる工程(一次)と、パッケージをマザーボードに載せる工程(二次)。
- EMC
- Epoxy Molding Compound。エポキシ封止材。チップを覆って保護する樹脂。
- フィラー
- 樹脂に混ぜる無機粒子(シリカなど)。CTEを下げ、熱伝導率を上げるが、弾性率も上げる。
- 弾性率(ヤング率)
- 材料の硬さ。同じひずみに対して、弾性率が高いほど大きな応力が生じる。
- アンダーフィル
- チップと基板の隙間を埋める樹脂。接合部の応力を分散させる(「アンダーフィル・封止材」編で詳述)。
- リフロー
- はんだを溶かして接合する工程。ピーク温度は260℃前後。
- 代表値/実測値/保証値
- カタログ値の性格。代表値は典型例、実測値は測った値、保証値は下回らないと約束された値。
10. 参考資料(一次情報)
- 京セラ「熱応力の緩和|素子の保護|セラミックパッケージ」 — kyocera.co.jp
- 京セラ「材料特性表から探す|セラミックパッケージ」 — kyocera.co.jp
- レゾナック「先端半導体パッケージの反り抑制と応力緩和に貢献する材料①」 — resonac.com
- レゾナック「MCL-E-795G」製品ページ — resonac.com
- 日本電気硝子「無機コア基板」製品ページ — neg.co.jp
- 積水化学工業「熱硬化型層間絶縁フィルム」製品ページ — sekisui.co.jp
- レゾナック「エポキシ樹脂封止材 有機基板用」製品ページ — resonac.com
- レゾナック「先端半導体パッケージの反り抑制と応力緩和に貢献する材料②」 — resonac.com
11. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| 「実装の際に、材料間の熱膨張係数差が大きいと、加熱・冷却により熱応力が発生し、実装部が破断してしまうなどの問題があります。熱応力を緩和しデバイスの信頼性を向上させるには、素子とパッケージ/パッケージとマザーボードの熱膨張係数を近づけることが重要です」。「京セラは、Siに近いものからマザーボードに近いものまで、さまざまな熱膨張係数を持つ材料を幅広くラインアップしています」。GL570が「熱膨張係数がSiに近い材料として開発された」こと。応力解析の条件が「150℃ → 20℃(アンダーフィルキュア条件)」であること。「シリコンインターポーザー(シリコン)の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するGL570基板では、基板反りが低減された事を確認」 | 京セラ「熱応力の緩和」[参考資料 1]https://www.kyocera.co.jp/prdct/semicon/search_problem/detail/te_matching.html | 事実 |
| 多層セラミックスの材料特性(RT〜400℃の熱膨張係数、熱伝導率、3点曲げ強度、ヤング率、比誘電率):GL570=3.4 ppm/K・2.8 W/m・K・200 MPa・128 GPa・5.6、GL773=11.7・1.9・280・95・5.7、A440=7.1・14・400・310・9.8、AN242=4.7・150・400・320・8.7。主な特長がGL570「一次実装性良好」、GL773「二次実装性良好」、A440「最も汎用的」、AN242「高熱伝導率」であること。用途がGL570・GL773とも「先端半導体」であること。これらが「代表値」であること | 京セラ「材料特性表から探す」[参考資料 2]https://www.kyocera.co.jp/prdct/semicon/material/ | 事実 |
| 「CTEの異なる異種材料を積層する先端半導体パッケージでは、製造工程の熱履歴によって生じる各材料の収縮差が、設計精度への影響を無視できないレベルの反りの要因となります」。それが「接続不良や製品寿命の低下に直結する問題」であること | レゾナック「先端半導体パッケージの反り抑制と応力緩和に貢献する材料①」[参考資料 3]https://www.resonac.com/jp/solution/column/007.html | 事実 |
| MCL-E-795Gの特性:熱膨張係数 X・Y(30〜120℃)=3.0〜5.0 ppm/℃(Xタイプ 2.0〜4.0、LHタイプ 0.5〜3.0)、Z方向=Tg以下 10〜15 ppm/℃・Tg超 70〜100 ppm/℃、Tg=TMA法 260〜290℃/DMA法 315〜345℃、はんだ耐熱性(260℃)300秒以上。測定条件が「昇温速度:10 ℃/min(X, Y:引張, Z:圧縮)」であること。「上記値は実測値であり、保証値ではありません」。「X,Y方向の熱膨張係数(α1, α2)が小さく、弾性率が高いことから大幅なそり低減を可能にします」「低熱膨張ガラスクロスとの組み合わせによりMCL-E-795G (LH タイプ) さらなる低熱膨張係数を実現します」。反り評価のTEG条件がチップ 20 mm×20 mm・厚み0.775 mm、基板 40 mm×40 mm であること | レゾナック「MCL-E-795G」製品ページ[参考資料 4]https://www.resonac.com/jp/products/pwb-materials/base/005.html | 事実 |
| 無機コア基板のCTEが 6.1〜8.9 ppm/℃、曲げ強度が 150〜340 MPa であること。「高温・高湿度下での寸法変化と反りを低減」すること | 日本電気硝子「無機コア基板」[参考資料 5]https://www.neg.co.jp/products/inorganic-core-substrate/index.html | 事実 |
| 熱硬化型層間絶縁フィルム4製品の熱膨張係数(25〜150℃)が NX04H=24.5、NQ07V=27、QX04=15、EL=17〜23 ppm/℃ であること | 積水化学工業「熱硬化型層間絶縁フィルム」[参考資料 6]https://www.sekisui.co.jp/electronics/ja/semicon/Insulationfilm.html | 事実 |
| 有機基板用エポキシ樹脂封止材(CELシリーズ)の α1=6〜12 ppm/℃、α2=27〜45 ppm/℃、Tg=120〜155℃ | レゾナック「エポキシ樹脂封止材 有機基板用」[参考資料 7]https://www.resonac.com/jp/products/semi-backend-process/76/012.html | 事実 |
| 顆粒状EMC「CEL-400ZHF40」が「10 ppm/°C以下の低熱膨張と20 GPa以下の低弾性率を両立」すること。感光性ポリイミドが「約200 °C程度の低温硬化が可能であり、熱履歴による材料間の収縮差を最小限に留め半導体パッケージの反りを抑制」すること。「層間のCTE差により生じる応力緩和や基板の反り制御が重要な課題」であること | レゾナック「先端半導体パッケージの反り抑制と応力緩和に貢献する材料②」[参考資料 8]https://www.resonac.com/jp/solution/column/008.html | 事実 |
| 20 mm角チップの端が約50 µm、低熱膨張CCLなら約0.9 µm ずれるという計算。距離を25 mm・50 mmに変えると約124 µm・約248 µmになるという計算 | 本稿の計算。シリコンのCTEを3.4 ppm/℃(京セラがSiに近いとするGL570の値を借用)、温度差235℃(260℃→25℃)、自由膨張と仮定。相手側のCTEは積水化学工業 NX04H の24.5 ppm/℃ およびレゾナック MCL-E-795G 面内の下限3.0 ppm/℃。層間絶縁フィルムとコア材は同じ位置にある材料ではなく、置き換え可能性を示すものではない。実際には材料が互いを拘束するため、ずれの大部分は応力に変わる | 本稿の計算 |
| 同じ銅張積層板の面内下限(0.5)と厚さ方向Tg超の上限(100)の比が約200倍であるという計算。熱応力を「弾性率×CTE差×温度差」と置いたときの 31 MPa と 117 MPa、および低温硬化による約25%減という試算。GL570の熱伝導率がアルミナの1/5、AlNの約1/54、曲げ強度が半分であるという計算 | 本稿の計算。公表された上限・下限を割ったものであり、同一サンプルで同時に測られた値ではない。応力の式は傾向を示す簡略化した関係で、設計計算に使えるものではない。「比較用」の CTE 20 ppm/℃・弾性率 30 GPa は本稿が置いた仮の値であり、特定の従来品を指すものではない | 本稿の計算 |
| 後工程が異種材料の世界だからCTE差が問題になるという整理。樹脂系材料のCTEが「何で拘束されているか」で決まるという読み取り。CTEには「良い方向」がなく、合わせる相手で決まるという評価。熱応力を「弾性率・CTE差・温度差」の3要素に分け、それぞれに対策材料を割り当てた整理。低CTE化(フィラー高充填)と低弾性率化が衝突するという指摘。温度差を下げることが材料物性をいじらずに応力を減らせる手だという指摘。京セラの4材料からCTEと熱伝導率にトレードオフの傾向が読み取れるという指摘。カタログ値を読むときのチェックリスト。図1〜図8の描き方と分類 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社が表明した見解ではない | 解説 |
| CTEの測定条件(温度範囲・方向・測定法)の標準化がどこまで進むかは現時点では見通せないこと | 公開情報の範囲では確認できないため、見通しとして記載。本記事による判断 | 未確定/将来 |
| 図1〜図8が実際の観察像・設計図ではなく説明のための作図またはAI生成イメージであること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年9月20日/出典は一次情報(材料メーカー・部品メーカーの公式製品ページおよび技術コラム)に限定しています。 数値の換算や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「本稿の計算」「解説」として出典付きの事実と区別しています。 各社の公表値は測定温度範囲・測定方法・値の性格(代表値/実測値)が異なるため、社をまたいだ直接比較はできません。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図4・図5・図7・図8はベクター作図、図3・図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・顕微鏡像・製品の実物を示すものではありません。