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接着剤 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

接着剤
― 「濡らして、固めて、応力を逃がす」3つの仕事

接着剤は、2つの面のあいだで液体として広がり、そこで固体になって力を伝える材料です。 強い接着剤を選べば足りる、という話ではありません。表面を濡らせるか(界面)、きちんと固まるか(接着剤そのもの)、応力を逃がす形になっているか(設計)の3つが揃ってはじめて、接着は成立します。 この記事は、接着の原理、種類、被着体との相性、表面処理、硬化収縮と熱応力、継手の設計を、メーカーの解説書・規格・査読論文の記述にもとづいて整理します。

構成:ヘンケル「接着技術の解説書」(2022年)とプラスチック接着の設計ガイド(2008年)、ISO・ASTM・日本規格協会(JSA)の公式ページ、3M・ヘンケルの技術資料(メーカー公称値)、査読論文の要旨を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

ヒーロー画像:接着剤を塗布し、貼り合わせ、固めるまでの流れ
概念図(AI生成イメージ)。「塗布 → 貼り合わせ → 硬化」という接着作業の流れを、金属板を例に表現したものです。実際の接着剤・治具・作業条件を示すものではありません。
この記事の構成
  1. 接着剤とは何か(3行でつかむ)
  2. 接着の原理 ― 4つの仕組み
  3. 素材技術者の視点①:接着は「濡れ」が先、「強さ」は後
  4. 種類 ― 硬化・固化のしかたで3つの系統に分ける
  5. 素材技術者の視点②:「剛い接着剤」と「柔らかい接着剤」
  6. カタログの言葉を読む ― 可使時間・固着時間・完全硬化
  7. 表面処理とプライマー ― 接着の前に決まること
  8. 本稿の計算:硬化収縮と熱膨張差が作る内部応力
  9. 接着部の設計 ― 力の受け方を決める
  10. 選び方のチェックリスト
  11. 課題・確認できなかった点/用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・提案であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
強度・温度などの値は試験法・条件・出所とセットで書き、メーカーの資料の値はメーカー公称(代表値)と明記します。ヘンケルの解説書にある各種類の比較は、同社の定性的な整理であり、個別の製品やほかの会社の製品の優劣を示すものではありません。特定の製品や企業を推奨・非難する記事ではありません。

1. 接着剤とは何か(3行でつかむ)

ASTM D907(接着剤の用語規格)は、接着剤を「表面での付着によって材料を一緒に保持できる物質」と定義します。ヘンケルの解説書は、これに加えて、ドイツ規格 DIN EN 923 が接着剤を「付着(接着)と凝集によって働く非金属の結合材」と定義していることを紹介しています事実。 日本の用語規格は JIS K 6800「接着剤・接着用語」です事実。

  • 定義にある2つの力:「付着(adhesion)」は接着剤と被着体の界面の力、「凝集(cohesion)」は接着剤自体の内部の力です。どちらかが欠けると接着は成立しません。壊れ方(界面破壊か凝集破壊か)が、そのどちらが足りなかったかを教えます(本シリーズ「接着強度試験」編)
  • 3つの仕事:接着剤は ① 濡れる(被着体の表面に広がって密着する)、② 固まる(液体から、力を伝える固体になる)、③ 応力に耐える(形・厚さ・弾性率が、かかる力に合っている)の3つをこなします(本記事による整理)
  • 強い接着剤より、合った接着剤:ヘンケルの解説書は、接着剤の性質(せん断強さ、固着時間、環境耐性など)が、被着体、表面処理、塗布と硬化の方法、接着部の形と応力の分布に強く依存すると述べています事実
この記事でいちばん大事な一行

接着剤は「材料」である前に、「界面と工程と形」の組み合わせです。 同じ接着剤でも、濡れなければ界面で壊れ、固まりきらなければ内部で壊れ、形が悪ければ端から壊れます。

エポキシ樹脂の化学は本シリーズ「エポキシ樹脂」編、ウレタンは「ポリウレタンとエラストマー」編、シリコーンは「シリコーン」編、粘着剤は「テープ」編で詳しく扱います。この記事は、それらを接着剤という使い方から横断して見る位置づけです。

2. 接着の原理 ― 4つの仕組み

なぜ、液体を塗って固めるだけで、2つの面が離れなくなるのか。ヘンケルの解説書は、接着現象に関する理論として機械的結合(投錨)、静電気、拡散、濡れを挙げ、表面処理の方法はこれらの理論を利用して接着強さを高めるものだ、と述べています事実。 一方、高分子の接着を扱った Awaja らの総説(2009年)は、接着の仕組みを機械的な結合、化学結合、熱力学的な接着(濡れ)の3つで扱っています事実。 本稿は両者をあわせ、機械的結合・吸着(濡れ)・化学結合・拡散の4つに整理します(本記事による整理)。

接着の4つの仕組み(本記事による整理) ※ 実際の接着では、複数の仕組みが同時に働きます。 機械的結合 吸着(濡れ) 化学結合 拡散 凹凸に入り込んで固まる 広がって分子間力で引き合う 界面で結合をつくる 鎖が界面を越えて絡む 接着剤 被着体 接触角 小 接触角 大 被着体 実線=結合 点線=分子間力 被着体 界面(点線) 琥珀=接着剤の鎖 青=被着体の鎖 粗い面・多孔質の面で効く 前処理:研磨などで 凹凸を増やす 濡れて密着してはじめて 分子間力が働く 鍵は表面エネルギー 界面で化学反応が進む プライマー・接着促進剤が 橋渡しをする 動ける長い鎖どうしで効く 高分子どうしの接着や ホットメルトで話題になる ※ 静電気説(電子の移動で電気二重層ができ、引力が生じるという説)もありますが、図では省略しました。 ※ 各パネルの絵は模式図です。「効きやすい場面」は本記事による解説で、すべての系に当てはまるわけではありません。
図1 概念図(ベクター作図)。機械的結合・濡れ・拡散・静電気説はヘンケルの解説書[参考資料1]、機械的結合・化学結合・熱力学的接着は Awaja らの総説[参考資料6]の整理にもとづきます。4つに並べたのは本記事によるもので、定説的な分類ではありません。
仕組み何が起きるか(資料の記述)効かせる手段(本記事による解説)
機械的結合液体の接着剤が、被着体の凹凸や孔に入り込んで固まり、かぎ状に引っかかる。凹凸が多いほど面積も増える(ヘンケル)研磨・ブラストで粗くする。多孔質の被着体では特に重要
吸着(濡れ)被着体と接着剤が接触すると、分子間力(ファンデルワールス力)が働く。ヘンケルは、被着体の表面エネルギーが高く、接着剤の表面張力が低いと、よく濡れて強い接着になる、と説明する洗浄、表面エネルギーを上げる処理(プラズマ、コロナ、フレーム)
化学結合Awaja らの総説は、化学結合を接着の機構のひとつとして扱い、接着促進剤(プラズマ・化学処理)の効果を論じている。ヘンケルは、プライマーと接着促進剤を「接着しにくい面」向けの化学的な手段として挙げるプライマー、接着促進剤、反応性の接着剤の選択
拡散ヘンケルは、拡散説を動ける長鎖高分子に当てはまるとし、接着剤と被着体の分子が界面を越えて入り込むと説明する。高分子の界面での鎖の相互拡散による「治癒」は、Prager と Tirrell が理論として論じた(1981年)同種の高分子どうし、熱や溶剤で鎖が動ける条件(溶剤接着、ホットメルト)

すべて事実(ヘンケル 解説書 2022年[参考資料1]、Awaja ら 2009年[参考資料6]、Prager・Tirrell 1981年[参考資料7])。右の列は本記事の解説です。

図2:接着部の断面と、金属表面の凹凸に入り込んだ接着剤
図2 概念図(AI生成イメージ)。2枚の金属板のあいだの接着層を切り欠いた断面と、その一部を拡大して、金属表面の細かい凹凸に接着剤が入り込む様子を表現したものです。実際の断面写真・凹凸の大きさ・接着層の厚さを示すものではありません。

3. 素材技術者の視点①:接着は「濡れ」が先、「強さ」は後

接着剤の強さがいくら高くても、被着体の表面に広がって密着しなければ、その強さは使われません。ヘンケルの解説書は、濡れの条件を次のように述べています事実。

  • 表面エネルギー(mN/m)は、固体の表面が液体を引きつける度合い。表面張力は、液体の表面の抵抗です。理想的な接着は、被着体の表面エネルギーが高く、接着剤の表面張力が低いときに成り立ちます
  • 濡れの度合いは接触角で見ます。解説書の図では、接触角が90°を超えると濡れが悪く、60°未満だと濡れが良いとされています。簡易には、表面張力を段階的に調整した「インク」で近似できますが、正確な値は接触角で測ります
  • 同社のプラスチック接着ガイド(2008年)は、接着剤の表面張力が、被着体の臨界表面張力より低いときに濡れると述べます。低いと液は広がらず、ワックスをかけた車の上の水のように、丸い滴になります
高分子材料などの表面エネルギー(ヘンケル解説書の表の値) 単位:mN/m。値が低いほど、多くの接着剤が濡れにくい。水は液体の表面張力(参考)。 PTFE(フッ素樹脂) シリコーン 天然ゴム ポリプロピレン(PP) ポリエチレン(PE) ポリスチレン(PS) ポリカーボネート(PC) ポリ塩化ビニル(PVC) PET ポリアミド6,6 エポキシ樹脂 ポリアミド ポリイミド 水(参考) 18 24 24 29 31 33 35 40 43 46 47 49 50 73 ← PE・PPは多くの接着剤で濡れの課題が大きい  (臨界表面張力 31、29 dyne/cm、ヘンケルのガイド) ※ 値はヘンケル解説書の表(同書は Ebnesajjad の便覧などを引用)。色分け(赤・橙・緑)は本記事によるもので、出典の分類ではありません。 ※ 1 dyne/cm = 1 mN/m。金属は同表で 1,000〜2,500 mN/m 台と、桁違いに高い値が示されています。
図3 概念図(ベクター作図)。値はヘンケルの解説書の表[参考資料1]によります(金属の値は省略)。色分けは本記事によるもので、「この値以下は接着できない」という基準ではありません。表面エネルギーは測り方・表面状態で変わります。
素材技術者の読みどころ:高分子どうしは、実は濡れにくい

金属は表面エネルギーが非常に高く、ほとんどの接着剤が広がります。ところがプラスチックと接着剤は、どちらも高分子で、表面エネルギーが近いのです。 ヘンケルのガイドは、プラスチックの接着は清浄な金属より濡れが複雑で、金属のように「基材と接着剤の臨界表面張力に大きな差がある」状況がないことを指摘しています事実。 Awaja らの総説も、工業用の高分子樹脂や複合材の多くは表面自由エネルギーが低く、表面に極性基が少ないため、もともと接着性が乏しい、としています事実。

つまり、PE や PP、PTFE の「接着しにくさ」は、接着剤が弱いからではなく、濡れないからです。分子レベルで見れば、無極性の炭化水素の面には、極性の接着剤が引き合う相手がいません(本記事による解説)。 だから処理は「強くする」のではなく、「濡れるようにする」ことになります(第7章)。 なお表面エネルギーが十分でも、汚れ(離型剤、油)が表面を覆っていれば濡れません。成形品の離型剤は典型的な原因です(本記事による解説)。

4. 種類 ― 硬化・固化のしかたで3つの系統に分ける

接着剤の種類は、化学名(エポキシ、ウレタン…)で分けることも、用途(構造用、弾性、瞬間…)で分けることもできます。 ヘンケルの解説書は、どうやって液体から固体になるかで3つの系統に分ける整理を示しています事実。

接着剤は「どうやって固まるか」で3つの系統に分けられる 分け方はヘンケルの解説書の整理にもとづく本記事の図。例は同書に登場する種類です。 化学反応で硬化する 接着剤自身が高分子になる 溶剤・水が抜けて固まる 乾燥して高分子が残る 溶融から冷えて固まる ホットメルト 2液を混ぜる エポキシ、2液ウレタン、 MMA系アクリル、2液シリコーン 1液・加熱 エポキシ(潜在性硬化剤) 1液・湿気 シアノアクリレート、1液ウレタン、 RTVシリコーン、SMP 1液・光(UV・可視光) アクリル、エポキシ、シリコーン 嫌気性(空気を遮断) ねじの緩み止め、はめ合い固定 固形(テープ・フィルム・粉) 使う前から固体の形 溶剤型 接触型接着剤(CR系、PU系) 引火性の溶剤、VOC規制に注意 水系 酢酸ビニル系エマルション アクリル系、天然ゴム、液状PU 感圧(粘着剤) ラベル・テープ(「テープ」編) 再活性型 乾燥後に溶剤などで粘着を戻す ポリオレフィン・EVA 紙・段ボール・木・布 非荷重用で約70℃まで ポリアミド 耐クリープ、耐熱に優れる 160℃まで安定な品種もある 反応型ウレタン(PUR) 冷えて仮固定、のち湿気で硬化 感圧型ホットメルト 粘着剤を熱で塗る方式 強さの目安 産業用で 1.5〜3.5 N/mm² (ヘンケルの記述) ※ 3つの系統と例は、ヘンケルの解説書[参考資料1]の分類と各章の記述にもとづきます。温度の数値も同書の記述(目安)です。 ※ 実際の製品では、複数の硬化方式をあわせ持つもの(光+湿気の2段階硬化など)もあります。
図4 概念図(ベクター作図)。硬化・固化のしかたによる3系統は、ヘンケルの解説書[参考資料1]の整理にもとづきます。種類の挙げ方は例示であり、網羅した一覧ではありません。日本接着剤工業会などの公式な分類は、本稿では確認できませんでした。

同書の整理を、系統ごとに補います事実。

  • 化学反応で硬化:2液混合、1液+触媒・硬化剤、湿気硬化、放射線(光・UV・電子線)硬化、基材が触媒になる嫌気性、固形(テープ・フィルム・粉)の6つに分かれます。たとえばエポキシは1946年に商業化され、2液の室温硬化、1液の室温硬化、1液の加熱硬化、1液の光硬化(カチオン)の選択肢があります
  • 溶剤・水の消失で固化:接触型接着剤、感圧接着剤(粘着剤)、再活性型。水系は水が蒸発するか被着体に吸われて固まり、通常は「硬化反応」を持たず、乾燥が硬化です。多孔質の被着体向きです。溶剤型は引火性の溶剤を含むものが多く、排出の環境規制があります
  • 冷却で固化:ホットメルトは、室温で固体の1液・無溶剤の熱可塑性接着剤で、塗布時は低〜中粘度(750〜10,000 mPa·s、一般に195 ℃超で塗布)になり、冷えて強さが急に立ち上がります。ポリオレフィン・EVA系は梱包や木工、ポリアミド系は耐熱・耐薬品、反応型ウレタン(PUR)は冷えて仮固定したあとに湿気で硬化します

同書の比較表(Table 21)から、種類ごとのメーカーの定性的な整理を抜き出します。個別の製品の値ではなく、この資料が「そのカテゴリーの代表的な特性」と述べるものです事実。

種類使用温度の目安最高温度の製品せん断はく離伸び・柔軟性硬さ
エラストマー系(SMP など)−54〜93 ℃93 ℃中中高軟
ウレタン−54〜121 ℃149 ℃中中高軟
2液アクリル−54〜121 ℃121 ℃高中中半硬
2ステップ(ノーミックス)アクリル−54〜149 ℃204 ℃高高中半硬
ハイブリッド(CA+エポキシなど)−40〜100 ℃150 ℃高中低硬
シアノアクリレート−54〜99 ℃121 ℃高低低硬
エポキシ−54〜87 ℃204 ℃高中低硬
ホットメルト−54〜121 ℃165 ℃低中高やや軟
光硬化−54〜149 ℃180 ℃高中中半硬
シリコーン−54〜204 ℃385 ℃低中高軟

すべて事実(ヘンケル 解説書 2022年、Table 21[参考資料1]。高・中・低、硬・軟は同表の定性的表現の日本語訳)。たとえばエポキシは、カテゴリーの代表的な範囲が87 ℃まで、カテゴリー内の最高温度の製品は204 ℃と、同表は両方を示しています。資料自身が「高レベルの概観」としており、個別の製品の値は技術資料(TDS)で確認するよう求めています。

種類ごとの要点(ヘンケルの解説書の記述から)

  • シアノアクリレート(瞬間接着剤):1液・無溶剤。表面の水分が安定剤を中和して硬化し、硬い熱可塑性樹脂になる。せん断・引張に強いが、衝撃・はく離に弱く、隙間硬化に限りがあり、ガラスでの耐久性が低い。ゴム強靭化品は耐衝撃とはく離を補う
  • 2ステップ(ノーミックス)アクリル:樹脂と活性剤を別々の面に塗って貼り合わせると反応が始まる。混合が不要で、開放時間が実質的に無制限。高いはく離・衝撃強さを持つが、深部の硬化は約1 mmに限られる
  • 2液MMA(構造用アクリル):室温硬化で、開放時間が長くても貼り合わせ後に「スナップ硬化」させられる。衝撃に強く低温での柔軟性もあり、汚れた面にも比較的強い。一方、臭気・可燃性があり冷蔵保管が必要
  • エポキシ:いろいろな被着体によく接着し、配合で性質を幅広く変えられる。室温硬化は収縮と内部応力が小さい一方、強さ・耐熱・耐薬品は加熱硬化より控えめ。1液加熱硬化は、収縮と熱膨張差のため内部応力が大きく、脆くなりやすい。2液室温硬化は「脆い→柔軟→強靭化」の3世代を経て発展した(本シリーズ「エポキシ樹脂」編)
  • ウレタン:非常に強靭で耐溶剤性が良く、凝集力が高い。ただし一部の被着体にはプライマーが必要で、高温では使いにくい(本シリーズ「ポリウレタンとエラストマー」編)
  • シリコーン:1液の湿気硬化(RTV)は深部硬化が1日に1〜3 mm程度で、全硬化に7〜14日かかる。2液の付加硬化は副生成物がなく収縮が0.1%未満、ただし硬化阻害を受けやすい(本シリーズ「シリコーン」編)
  • 光硬化:必要な瞬間に硬化し、自動化しやすい。ただし光が接着部に届くこと、酸素による表面の硬化阻害、ほかの技術に比べ収縮が大きい傾向がある

5. 素材技術者の視点②:「剛い接着剤」と「柔らかい接着剤」

ヘンケルの解説書は、エラストマー系の接着剤を「しばしば元の長さの数倍も変形してから降伏する」のに対し、剛いエポキシは降伏までの伸びが一桁%だと対比しています事実。

素材技術者の読みどころ:強さの代わりに、応力を逃がすという選択

剛い接着剤は、荷重をせん断で受ける設計に向きます。強さも耐熱性も高い代わりに、はく離や衝撃には弱くなります。 柔らかい接着剤は、同書によればはく離・へき開、不均一な荷重、曲げ、熱膨張差に強く(低弾性率と高い伸びのため)、振動減衰・遮音・シールにも向きます。ただし剛性と耐荷重が必要な構造接合には向かず、構造用途に使う場合は慎重な検討が必要だと述べています事実。

プラスチックやゴムの被着体は、金属に比べて柔らかく、弾性率が低く、熱膨張率が高く、異方性があるため、接着層の応力が不均一になりやすい。そのため、剛い接着剤より柔らかい接着剤を勧めるのが一般的ですが、柔らかい接着剤は耐荷重を下げることがあり、最適な折衷は用途ごとに異なる、とあります事実。

これは、本シリーズ「接着強度試験」編で見た「応力で比べる試験」と「エネルギーで比べる試験」の違いと同じ話です。強さの数字だけで接着剤を選ぶと、靭性(き裂を止める力)と弾性率(応力の逃がしやすさ)を見落とします(本記事による解説)。

6. カタログの言葉を読む ― 可使時間・固着時間・完全硬化

接着剤の技術資料(TDS)には、同じ言葉が違う意味で使われることがあります。ヘンケルの解説書は、主要な用語を次のように定義しています事実。

用語解説書の定義(要旨)
開放時間(オープンタイム)混合(2液)・活性化・塗布(ホットメルト)から、最終強度を損なわずに貼り合わせられるまでの最大時間
作業時間(ワーキングタイム)接着剤を面に塗ってから、最終強度を損なわずに貼り合わせるまでの最大時間
可使時間(ポットライフ)混合した2液の粘度が2倍になるまでの時間。硬化の速さの指標で、作業者が使える時間そのものとは限らない。例:初期粘度10,000 mPa·s が30分で20,000 mPa·s なら30分
固着時間(フィクスチャータイム)取り扱える強さが出る時間。標準法:重ね合わせ試験片(25.4 mm×101.6 mm、重ね代12.7 mm、隙間なし)に3 kg の質量をかけ、0.1 N/mm²を10秒保持できるまでの時間
ハンドリング強度動かす・クランプを外すのに十分な、比較的低い接着強さ。接着部ごとに異なる
完全硬化時間最終的に求める性質に達するまでの時間。硬化温度で変わる

すべて事実(ヘンケル 解説書[参考資料1]。日本語は本記事の要約)。ヘンケルの LOCTITE 401 の日本語版技術資料(2009年12月)も、固着時間を「0.1 N/mm²(1 kgf/cm²)の剪断強度が得られるまでの時間」と定義しています[参考資料12]。

「固着した」と「使える」は別

固着時間の0.1 N/mm² は、本シリーズ「接着強度試験」編で見た3Mのエポキシの最終強度(アルミニウムのエッチング処理で約31 MPa)の約300分の1です(0.1 ÷ 31.0 = 0.0032)本稿の計算。 「30秒で固着」という表示は、その時間で荷重をかけてよいという意味ではありません。ヘンケルの LOCTITE 401 の技術資料(2012年2月版)は、荷重をかける前に24〜72時間かけて完全に硬化させるよう求めています事実[参考資料10]。

7. 表面処理とプライマー ― 接着の前に決まること

ISO 17212(構造用接着剤―金属とプラスチックの接着前の表面処理の指針)は、実験室評価と実際の構造物の両方を対象に、一般的な金属・プラスチックの表面の処理手順を示します事実。 ASTM D2651 は、アルミニウム合金、ステンレス鋼、炭素鋼、チタン合金、マグネシウム合金、銅・銅合金の表面処理を、機械的・化学的方法で挙げています事実。 ヘンケルの解説書は、表面処理を「洗浄」「機械的処理(研磨・粗化)」「化学的処理(プライマー・接着促進剤)」「プラスチックの表面改質(プラズマ・コロナ・フレーム)」に分けています事実。

段階やること(資料の記述)ねらい(本記事による解説)
1. 洗浄汚染源は、製造(離型剤、引き抜き油)、取り扱い(油)、環境(水分、ほこり)、機械加工(切削液、防錆剤)、酸化層、めっきの残渣、洗浄工程の残留物。接触を妨げるものはすべて強さを下げる。溶剤系は油や水分に強いが、プラスチックを侵すことがある。水系は有機・無機の汚れに強いが、残留物とさびに注意濡れを妨げる「弱い境界層」をなくす
2. 研磨・粗化金属には120〜180番の紙やすりが目安(ヘンケルの解説書)。研磨の前と後に溶剤か水系で洗う(油を深く押し込まず、粉を除く)。水系洗浄は研磨直後の金属にはさびの恐れがあり避ける面積と凹凸(機械的結合)を増やし、酸化層を除く
3. 表面改質(プラスチック)プラズマ・コロナ・フレームで表面エネルギーを上げる。フレーム処理では、官能基が入る酸化の深さは約4〜9 nm、秒単位の曝露(ヘンケルのガイド)。コロナは表面を粗くし反応点を導入する低表面エネルギーのポリオレフィンなどを濡れるようにする
4. 化学的処理プライマーは、基材と接着剤の化学的な橋渡しをする(基材に反応する基と、接着剤に親和性のある基を持つ)。用途の例:アセタール、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ウレタン、シリコーン。ヘンケルの LOCTITE 401 の技術資料も、低表面張力のプラスチックには LOCTITE 770 または 7239 のプライマーを使うよう求めている反応や親和性の乏しい面に「接着の足場」を作る
5. 直後に接着洗浄後の部品は、すぐに接着するか、再汚染から守る。酸化しやすい金属は防錆処理する。3M の技術資料も、処理後はできるだけ早く接着かプライマー塗布をするよう求めている活性な表面は時間とともに劣化・汚染される

すべて事実(ヘンケル 解説書 2022年[参考資料1]、ヘンケル プラスチック接着ガイド 2008年[参考資料3]、ISO 17212[参考資料4]、ASTM D2651[参考資料5]、LOCTITE 401 技術資料[参考資料10]、3M DP460NS 技術資料[参考資料8])。右の列は本記事の解説です。

素材技術者の読みどころ:処理の効果は、数字で桁が変わる

表面処理が効く大きさは、技術資料の数字に表れています事実。

  • 3M の 2液エポキシ DP460NS:アルミニウムの重ね合わせせん断は、FPL エッチング約31.0 MPa、溶剤拭き+研磨約18.4 MPa、アルカリ脱脂のみ約15.9 MPa(メーカー公称、ASTM D1002、7日硬化、MPa は本稿の換算。詳しくは本シリーズ「接着強度試験」編)
  • ヘンケルのプラスチック接着ガイド:PTFE で、接着剤を塗った状態で研磨する「接着剤中研磨」により、接着強さが約700%増えたとする(同ガイドの表現)。理由は、研磨中にできるフリーラジカルが接着剤と直接反応するためと推測されている(同ガイド)

処理は「表面を綺麗にする」だけではありません。汚れを除き、濡れを上げ、反応する足場を作るという3つの仕事を分けて考えると、何が足りないのかが見えます(本記事による整理)。 なお、クロム酸エッチングやナトリウム処理のような化学処理は効果が大きい一方、同ガイドは、ナトリウム処理のエッチング液がきわめて危険で空気中で急速に劣化すると述べています。化学処理の安全と規制は、別途の確認が必要です。

8. 本稿の計算:硬化収縮と熱膨張差が作る内部応力

接着部には、荷重をかける前から応力が入っています。ヘンケルの解説書の記述から、その原因は3つに整理できます事実。

  • 硬化収縮:厚い接着層では、収縮と硬化の発熱で内部応力が増える(剛い接着剤は薄い層で硬化するよう設計される)。1液加熱硬化のエポキシは、室温硬化より収縮が大きい。光硬化は、ほかの技術より収縮が大きい傾向がある。2液付加硬化のシリコーンは、副生成物がなく収縮が0.1%未満
  • 熱膨張差:接合された2つの部材の熱膨張率が違うと、温度変化で一方がより大きく伸び縮みし、拘束されると熱応力になる。熱サイクルのたびに過大な応力は剥離を進める。広い温度範囲では、接着剤と被着体の熱膨張率の差がなるべく小さいこと、使用温度での弾性率が重要
  • 低温での弾性率上昇:接着剤は低温で硬く脆くなり、集中した応力を逃がせなくなる
本稿の計算:熱膨張差のひずみ

温度変化 ΔT のとき、接着剤と被着体が自由に伸び縮みするとしたときの長さの差は、熱膨張率の差 Δα × ΔT × 長さ L で見積もれます本稿の計算。

  • 接着剤側:3M DP460NS のガラス転移点(Tg)以下の熱膨張率 74.44×10⁻⁶ /℃(メーカー公称)事実
  • 被着体側(例):京セラのアルミナ「A440」7.1 ppm/K(室温〜400 ℃、代表値)事実。本シリーズ「熱膨張係数」編で使った値
  • Δα = 74.44 − 7.1 = 約67.3 ppm/℃
  • ΔT = 50 ℃、L = 10 mm とすると、ひずみの差 = 67.3×10⁻⁶ × 50 = 約0.34%、長さの差 = 10 mm × 0.0034 = 約34 µm

前提と限界:DP460NS の Tg は技術資料から確認できなかったため、この ΔT の範囲が Tg より下であると仮定しています(Tg を超えると熱膨張率は 166×10⁻⁶ /℃ に上がります)。 実際の接合は拘束されているため、「34 µm のずれ」ではなく、そのぶんが接着層のひずみと応力になります。必要なのは、この0.34%を接着層が吸収できるかどうかです。 剛くて薄い層は、ひずみを逃がしにくい(柔らかい接着剤や厚い層は逃がしやすい)。2つの部材の線膨張率の差が大きいときほど、第5章の「柔らかい接着剤」を考える理由になります。

素材技術者の読みどころ:接着層は「薄いほど良い」とは限らない

ヘンケルの解説書は、剛い接着剤の接着層の厚さ(隙間)について、できるだけ薄く、ただし被覆不足にならない範囲でとし、0.02〜0.20 mm(0.001〜0.008 in)が推奨で、この範囲では接着強さは大きく変わらないというデータがある、と述べます。最適な厚さは約0.1 mmとされます事実。 厚くすると、ボイドが入りやすくなり、端部の応力が増え、軸方向の荷重の線をそろえにくくなります。薄すぎると被覆が不足します。

さらに、隙間が不均一だと、軸方向の荷重がそろわず、接着剤にへき開応力がかかると同書は指摘します事実。均一にするには、治具、クランプの荷重、接着層内のシム(スペーサー)を使います。 接着層の厚さは、塗布量だけでなく、部品の平行度の設計でもあります(本記事による解説)。

9. 接着部の設計 ― 力の受け方を決める

ヘンケルの解説書は、理想の接着継手を、「あらゆる実用的な荷重条件で、接着剤が最も壊れにくい向きに応力を受けるもの」と定義し、接着継手の応力分布はボルトや溶接より均一で、疲労や衝撃に有利だと述べます事実。 一方、荷重の種類を整理し、はく離・へき開はもっとも多い破壊の原因で、避けることが肝心だとします。

接着継手の形と、力の受け方(概念図) 灰色=被着体、琥珀色=接着剤。厚さは誇張しています。 突き合わせ(避ける) 重ね合わせ ジョグル重ね スカーフ(斜め) 両側添え板 面取り重ね(テーパー) もっとも弱い継手。曲げ・衝撃に 弱く、設計では避ける もっとも広く使われる。力が平行 なら強い。薄い材料も貼れる 板を曲げて荷重の線をそろえ 板の変形を防ぐ 角度が小さいほど接着面が広い。 複合材の修理などに使われる 接着面積が増え曲げにも強い。 外観が課題になることがある 端を薄く削り応力集中をやわらげ、 端が引っかかって持ち上がるのを防ぐ ※ 各継手の説明はヘンケルの解説書[参考資料1]の記述の要約です。形は模式図で、寸法や接着層の厚さは実物を示しません。 ※ 「良い」継手でも、荷重の向きや被着体の厚さで強さは変わります。実際の部品で試験して確かめる必要があります。
図5 概念図(ベクター作図)。継手の分類と説明は、ヘンケルの解説書[参考資料1]の第5章の記述にもとづきます。6種類を並べたのは例示で、ほかの形(二重重ね、はめ合わせなど)もあります。
設計の原則資料の記述
せん断・圧縮で受ける接着剤が最も壊れにくい向きに応力を受けるようにする。重ね合わせ継手は荷重が被着体と平行なとき最も強く、突き合わせ継手は曲げや垂直方向の衝撃で接着剤が壊れる
はく離・へき開を避ける直角の接合は、はく離力が思わぬ場所にかかる。はく離・へき開は壊れる原因として最も多い。荷重の種類を設計の出発点にする
接着面積を広くする円筒どうしの突き合わせは、曲げ(はく離・座屈)に対して非常に敏感なので避け、接着面を大きくする形にする
薄い被着体は添え板と柔軟な接着剤被着体が薄いほどはく離力に弱い。添え板は被着体と同等の材料・強さ・柔軟性・厚さにする。接着剤は被着体と同じ柔軟性か、それ以上の柔軟性にする
接着層を均一に隙間が不均一だと軸方向の荷重がそろわず、へき開応力になる。クランプ荷重、専用の治具、シムで均一にする
接着だけに頼らない設計もある自動車では、接着とリベットやスポット溶接を組み合わせる「ハイブリッド接合」が使われる。すぐ取り扱える強さと、衝突時の高い強さの両方を得られる
試験片の数字は出発点TDS の値は、候補を選ぶ入口にすぎない。実際の部品・工程・使用条件で試験する。標準試験片は、実際の接合部と形と応力分布が異なる

すべて事実(ヘンケル 解説書 2022年[参考資料1]の要約)。標準試験の限界については、本シリーズ「接着強度試験」編を参照。

10. 選び方のチェックリスト

これまでの内容を、接着剤を選ぶときに確認する観点に整理します(本記事の提案で、規格の要求事項ではありません)。ヘンケルの解説書も、候補を絞るのは技術資料(TDS)でよいが、決める前に実際の条件での試験が不可欠だとしています事実。

観点確認することこの記事の章
被着体材質、表面エネルギー、汚れ(離型剤など)、熱膨張率と弾性率。プラスチックはプライマーや表面改質が必要か第3章・第7章
荷重の種類せん断・引張・はく離・へき開・衝撃・疲労・クリープ。静的か動的か第5章・第9章
使用温度・環境温度範囲(Tg)、熱サイクル、水分、薬品、紫外線第8章
隙間と厚さ接着層の厚さ、平行度、隙間を埋める必要第8章
硬化方式と工程2液の混合、加熱、湿気、光(光が届くか)、嫌気性(金属・空気遮断)。固着時間、作業時間、完全硬化までの時間第4章・第6章
保管と取り扱い保管温度(1液エポキシは冷蔵を要することがある)、使用期限、2液の混合比と静的ミキサー第4章
安全・規制安全データシート(SDS)、溶剤の引火性と VOC 規制、臭気、作業者の保護具と教育第4章
検証実際の部品・工程・使用条件での試験、破壊モードの確認、劣化試験第9章

根拠は本稿の各章に示した事実。観点の整理そのものは本記事の提案(解説)です。ヘンケルの解説書は、SDS に危険有害性の情報、取り扱いと保管、ばく露管理が記載され、メーカーに正確な表示を求めている、と述べます。

11. 課題・確認できなかった点

(1) 接着剤の公式な分類は確認できなかった

接着剤の分類は資料によって異なります。本稿が使ったのはヘンケルの解説書の整理(硬化・固化のしかた)で、日本接着剤工業会や日本接着学会などの公式な分類は、本稿の調査では確認できませんでした。

(2) 種類ごとの強さは、同じ条件で比べた資料を確認できなかった

第4章の比較表は、ヘンケルの定性的な整理です。同一の被着体・同一の試験法で、エポキシ、アクリル、ウレタン、シリコーンなどを並べて測った一次情報は確認できなかったため、本稿は種類の間の強さの序列を数字で示していません。

(3) 硬化収縮の数値は、多くの種類で確認できなかった

資料から数値が確認できたのは、2液付加硬化のシリコーン(0.1%未満)だけです。エポキシ、アクリル、光硬化の収縮率は定性的な記述(大きい・小さい)にとどまり、数値を示していません。

(4) 化学結合の関与は系によって異なる

Awaja らの総説の要旨は、接着理論に論争のある点が残ると述べています。本稿は、化学結合が実際にどの系でどの程度働くかを断定していません。

(5) 化学物質規制は扱っていない

イソシアネート、重クロム酸塩、VOC などの規制や、接着剤のリサイクル・解体性は、本記事では扱っていません。エポキシの再利用は本シリーズ「エポキシ樹脂」編、イソシアネートの安全は「ポリウレタンとエラストマー」編を参照してください。

この記事のまとめ
  • 接着剤の仕事は3つです。濡れる(界面)、固まる(接着剤自体)、応力に耐える(設計)事実(ヘンケルの解説書にもとづく本記事の整理)
  • 接着の仕組みは4つに整理できます。機械的結合、吸着(濡れ)、化学結合、拡散。実際には複数が同時に働きます
  • プラスチックの接着しにくさは、濡れにくさです。PE・PP の臨界表面張力は31、29 dyne/cm と低く、プラズマ・コロナ・フレーム・プライマーで「濡れるようにする」処理が必要です事実
  • 種類は、固まり方で3系統に分けられます。化学反応、溶剤・水の消失、溶融からの冷却事実
  • 剛い接着剤と柔らかい接着剤は、強さと応力の逃がしやすさの取引です。プラスチックには柔らかい接着剤が勧められます事実
  • 接着層には適した厚さがあります。剛い接着剤で0.02〜0.20 mm、最適約0.1 mm。熱膨張差のひずみは、アルミナとの例で約0.34%(ΔT 50 ℃)です本稿の計算
  • 設計は、せん断・圧縮で受けて、はく離・へき開を避けます。標準試験片の数字は出発点にすぎません事実

12. 用語集

接着剤
被着体の表面に付着して、材料を一緒に保持する物質(ASTM D907 の定義)。
被着体
接着される側の材料。
付着と凝集
付着は接着剤と被着体の界面の力、凝集は接着剤自体の内部の力。
濡れ
液体が固体の表面に広がること。接触角が小さいほどよく濡れる。
表面エネルギー
固体の表面が液体を引きつける度合い(mN/m)。低いと濡れにくい。
臨界表面張力
これより表面張力の低い液体は固体を濡らす、という境の値(dyne/cm)。
プライマー
基材と接着剤のあいだの化学的な橋渡しをする下塗り剤。
1液・2液(1C・2C)
1液は混合不要、2液は樹脂と硬化剤(活性剤)を混ぜて使う。
可使時間(ポットライフ)
混合した2液の粘度が2倍になるまでの時間。
固着時間
取り扱える強さ(0.1 N/mm²)が出るまでの時間。最終強度ではない。
ホットメルト
熱で溶かして塗り、冷えて固まる1液・無溶剤の熱可塑性接着剤。
接着層(ボンドライン)
接着剤が硬化して被着体のあいだに挟まっている層。

13. 参考資料(一次情報)

  1. ヘンケル(Henkel) How to Create Reliable and Effective Bonded Joints(Adhesive Technologies Expert Bonding Collection)、2022年(PDF、232ページ) — dm.henkel-dam.com
  2. ASTM International ASTM D907-15(2023) Standard Terminology of Adhesives — store.astm.org
  3. ヘンケル(Henkel) The Loctite Design Guide for Bonding Plastics, Volume 5, 2008(PDF、100ページ) — dm.henkel-dam.com
  4. ISO ISO 17212:2012 Structural adhesives — Guidelines for the surface preparation of metals and plastics prior to adhesive bonding — iso.org
  5. ASTM International ASTM D2651-01(2024) Standard Guide for Preparation of Metal Surfaces for Adhesive Bonding — store.astm.org
  6. Awaja, F.; Gilbert, M.; Kelly, G.; Fox, B.; Pigram, P.J. Adhesion of polymers. Progress in Polymer Science 34(9), 948–968 (2009). DOI 10.1016/j.progpolymsci.2009.04.007(要旨は大学の研究情報ページで確認) — doi.org
  7. Prager, S.; Tirrell, M. The healing process at polymer–polymer interfaces. The Journal of Chemical Physics 75(10), 5194–5198 (1981). DOI 10.1063/1.441871 — doi.org
  8. 3M 3M Scotch-Weld Epoxy Adhesive DP460NS, Technical Data Sheet, English-US, last revision September 2024 — multimedia.3m.com
  9. 3M Scotch-Weld Adesivo Epóxi DP460 Off-White e DP460NS, Boletim técnico(ポルトガル語)、2020年4月 — multimedia.3m.com
  10. ヘンケル(Henkel) LOCTITE 401 Technical Data Sheet(スロバキア語版)、2012年2月 — datasheets.tdx.henkel.com
  11. 京セラ 「材料特性表から探す|セラミックパッケージ」 — kyocera.co.jp
  12. ヘンケル(Henkel) LOCTITE 401 Technical Data Sheet(日本語版)、2009年12月 — datasheets.tdx.henkel.com
  13. 日本規格協会(JSA) JIS K 6800:1985 接着剤・接着用語 — webdesk.jsa.or.jp

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
接着剤の定義(ASTM D907:表面での付着で材料を保持できる物質。DIN EN 923:付着と凝集で働く非金属の結合材)。接着剤の性質が被着体・表面処理・塗布と硬化・形と応力分布に強く依存すること。日本の用語規格 JIS K 6800 があることヘンケル 解説書(6.1、第4章冒頭)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022 ほか[参考資料 2・13]事実
接着理論として機械的結合・静電気・拡散・濡れが挙げられ、表面処理がこれを利用すること。機械的結合:凹凸や孔に入り込んで固まる。拡散:動ける長鎖高分子に当てはまる。濡れ:被着体の表面エネルギーが高く接着剤の表面張力が低いとよく濡れる。接触角90°超で濡れが悪く、60°未満で良い。インクテスト、dyne ペンヘンケル 解説書(4.1)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
Awaja らの総説:接着機構として機械的結合・化学結合・熱力学的接着を扱い、プラズマ・化学処理の接着促進を論じること。工業用高分子樹脂・複合材の多くは表面自由エネルギーが低く極性基が少ないこと。接着理論に論争のある点が残ること。Prager と Tirrell:高分子界面の治癒(鎖の相互拡散)の理論(1981年)Awaja ら(2009)の要旨[参考資料 6]https://doi.org/10.1016/j.progpolymsci.2009.04.007 と Prager・Tirrell の題名[参考資料 7]https://doi.org/10.1063/1.441871事実
図3の表面エネルギー(PTFE 18、シリコーン24、天然ゴム24、PP 29、PE 31、PS 33、PC 35、PVC 40、PET 43、ポリアミド6,6 46、エポキシ樹脂47、ポリアミド49、ポリイミド50、水73 mN/m、金属は1,000〜2,500台)。接着剤の表面張力が被着体の臨界表面張力より低いと濡れること。PE・PP の臨界表面張力が31、29 dyne/cm で濡れの課題が大きいこと。プラスチックと接着剤は表面エネルギーが近いことヘンケル 解説書の表8とプラスチック接着ガイド[参考資料 3]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/Design-Guide-Bonding-Plastics ほか[参考資料 1]事実
表面処理の整理(洗浄・機械的処理・化学的処理・プラズマ/コロナ/フレーム)。汚染源、溶剤系と水系の特徴、120〜180番、研磨の前後の洗浄、水系洗浄とさび。フレーム処理の酸化深さ4〜9 nm、コロナ処理、プライマー、接着剤中研磨でPTFEの強さが約700%増、ナトリウム処理液の危険性ヘンケル 解説書(4.3)と プラスチック接着ガイド(表面処理、接着剤の設計)[参考資料 3]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/Design-Guide-Bonding-Plastics ほか[参考資料 1]事実
ISO 17212:2012 が金属・プラスチックの接着前の表面処理の指針で、有効(2022年に再確認)であること。ASTM D2651 が各種金属の機械的・化学的処理を挙げることISO・ASTM 公式ページ[参考資料 4]https://www.iso.org/standard/50596.html ほか[参考資料 5]事実
接着剤を化学反応・溶剤水の消失・冷却の3系統に分ける整理と各系統の例。エポキシの商業化(1946年)と硬化の選択肢、各種類の特徴(CA、2ステップアクリル、MMA、エポキシ、ウレタン、シリコーン、光硬化、水系、溶剤型、ホットメルト)。ホットメルトの粘度範囲、強さ1.5〜3.5 N/mm²、EVA・PO(約70℃)、PA(160℃)、PUR の2段階硬化ヘンケル 解説書(1.1.13、第6章)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
各種類の使用温度の目安、最高温度の製品、せん断・はく離・伸び・硬さの定性的な評価(Table 21)。資料自身が高レベルの概観とし、個別の値はTDSで確認するよう求めることヘンケル 解説書(5.2.3、Table 21)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
エラストマー系接着剤が数倍変形してから降伏し、剛いエポキシは一桁%であること。柔らかい接着剤が構造接合に向かないこと。プラスチック・ゴムの被着体の特徴と、柔らかい接着剤の推奨およびその制約ヘンケル 解説書(1.1.13.2.4、5.1.6)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
可使時間・固着時間(3 kg、0.1 N/mm²、10秒、25.4×101.6 mm、重ね代12.7 mm)ほかの用語の定義。LOCTITE 401 の日本語版技術資料(2009年12月)が固着時間を0.1 N/mm²(1 kgf/cm²)で定義し、スロバキア語版(2012年2月)が24〜72時間の硬化を求めることヘンケル 解説書(6.1.1)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022 と LOCTITE 401 技術資料[参考資料 10]https://datasheets.tdx.henkel.com/LOCTITE-401-sk_SK.pdf と[参考資料 12]https://datasheets.tdx.henkel.com/LOCTITE-401-ja_JP.pdf事実
3M DP460NS:アルミニウムの重ね合わせせん断(FPLエッチング316、MEK/研磨/MEK 188、Oakite 脱脂162 kgf/cm²)、熱膨張率(Tg以下 74.44×10⁻⁶ /℃、Tg超 166×10⁻⁶ /℃)、表面処理後すぐ接着かプライマー塗布を求める注記3M 技術資料(英語版 2024年9月・ポルトガル語版 2020年4月)[参考資料 8]https://multimedia.3m.com/mws/media/2365896O と[参考資料 9]https://multimedia.3m.com/mws/media/1857254O/product-data-sheet-structural-adhesives-dp460ns-460-off-white.pdf事実
京セラのアルミナ「A440」の熱膨張係数 7.1 ppm/K(RT〜400℃、代表値)京セラ 材料特性表[参考資料 11]https://www.kyocera.co.jp/prdct/semicon/material/事実
硬化収縮と熱膨張差に関する記述(厚い層の内部応力、1液加熱エポキシは収縮が大きい、光硬化は収縮が大きい傾向、付加硬化シリコーンの収縮0.1%未満、熱膨張率の差が小さいほどよい、低温で弾性率が上がる)。剛い接着剤の接着層0.02〜0.20 mm、最適約0.1 mm、不均一な隙間はへき開応力になることヘンケル 解説書(4.5.2、5.2.2、6.4.2、6.3.7)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
継手の形と設計の原則(理想の継手、突き合わせ・重ね合わせ・ジョグル・スカーフ・添え板・面取り、はく離・へき開の回避、薄い被着体、接着層の均一性、ハイブリッド接合、TDS は出発点)ヘンケル 解説書(第5章、4.4、5.2.2)[参考資料 1]https://dm.henkel-dam.com/is/content/henkel/ACM-Bonding-Manual_Creating-Reliable-and-Effective-Bonded-Joints--07-08-2022事実
固着時間の0.1 N/mm² が最終強度(31.0 MPa)の約0.3%であること。熱膨張差のひずみ(Δα = 74.44 − 7.1 = 約67.3 ppm/℃、ΔT 50 ℃で約0.34%、10 mm で約34 µm)。MPa 換算本稿の計算。参考資料1・8・9・11の値を、1 kgf/cm² = 0.0980665 MPa で換算し、ΔT・長さは本稿が置いた前提(Tg は確認できていないため Tg 以下と仮定)本稿の計算
接着の4つの仕組みへの整理、「効かせる手段」の列、「濡れが先」という整理、処理を3つの仕事に分ける整理、図3の色分け、選び方のチェックリスト、柔らかい接着剤と応力の関係づけ公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各団体・各社が表明した見解ではない解説
日本接着剤工業会などの公式分類。同一条件での種類間の強さの比較。エポキシ・アクリル・光硬化の収縮率。化学結合の寄与の程度。DP460NS の Tg本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない解説
図1・図3・図4・図5が実際の断面・測定結果ではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図2がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月3日/出典は一次情報(ヘンケルの解説書とプラスチック接着ガイド、ISO・ASTM・日本規格協会の公式ページ、3M・ヘンケルの技術資料、査読論文の要旨)に限定しています。メーカーの値はメーカー公称(代表値)で、規格値ではありません。ヘンケルの解説書の種類ごとの比較は同社の定性的な整理で、他社製品や個別グレードの値ではありません。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 日本接着剤工業会などの公式な接着剤の分類、種類ごとの強さを同じ条件で比べた資料、エポキシ・アクリル・光硬化の硬化収縮率、化学結合の寄与の程度、3M DP460NS の Tg は、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 図1・図3・図4・図5はベクター作図、ヒーロー画像と図2はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面・顕微鏡像・製品の実物・測定結果を示すものではありません。