COMPANY PROFILE / iPS細胞・再生医療
住友ファーマ
― iPS細胞由来の神経細胞製品「アムシェプリ」の承認取得者。研究と製造は住友化学との合弁会社に分けている
住友ファーマは、他人(健康な提供者)のiPS細胞から作ったドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」について、2026年3月6日に日本で条件及び期限付き製造販売承認を取得し、5月20日に薬価基準に収載、発売した製薬会社です。 同社はこれを「iPS細胞由来の再生・細胞医薬品として世界初の製品」と説明しており、厚生労働省の審査資料も2026年3月時点でいずれの国・地域でも未承認と記載しています。 ただし、iPS細胞の研究開発は合弁会社RACTHERA、製造は合弁会社S-RACMOが担い、住友ファーマは両社の株式を各33.4%持つ立場で、承認を取得して販売する役割です。 また、承認の根拠は7例の医師主導治験で、承認後も当面は製造販売後臨床試験に参加する医療機関にしか供給されません。 本稿では、何を投じ、誰と組み、どこまでが確認され、何が未確定かを一次資料の範囲で整理します。
- 30秒でわかる住友ファーマと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(大手製薬は簡潔に)
- iPS細胞・再生医療にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
- iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる住友ファーマと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
(東西両本社制)東京にも本社を置く。親会社は住友化学(被所有51.81%)
iPS細胞・細胞治療(従)iPS細胞の事業は合弁会社を通じて行う
神経細胞を脳へ移植パーキンソン病。ほかに網膜の細胞、培養ヒト胸腺組織
(期限7年)アムシェプリ。2026年3月6日。日本のみ
S-RACMO住友ファーマ33.4%、住友化学66.6%
住友ファーマは、類型でいえば大手製薬で、iPS細胞の事業は2025年2月に会社分割して合弁会社へ移したうえで、承認を取得して販売する立場に回っています 事実。 つまり「iPS細胞の会社」というより、iPS細胞の製品を販売網に載せる側です。 また、承認は少数例の治験に基づく条件及び期限付きで、期限は7年。その間に35例の製造販売後臨床試験を行い、65歳以下の患者での有効性を検証してから本承認を申請する計画です。 承認後も当面は、この試験に参加する医療機関にだけ供給する予定と、会社は発売の案内に書いています 事実。 本稿は製品の優劣や治療の適否を述べるものではなく、会社と製品の現状を一次資料で整理するものです。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「住友ファーマ株式会社」、英文名は Sumitomo Pharma Co., Ltd. です。2022年4月に「大日本住友製薬」から社名を変更しました。 RACTHERA(ラクセラ)とS-RACMOは住友化学との合弁会社で、住友ファーマの連結子会社ではなく、持分法適用の関連会社です。 親会社の住友化学(住友化学株式会社)とは別法人で、本稿では区別して書きます。 製品の販売名「アムシェプリ」の一般的名称は「ラグネプロセル」で、開発コードはCT1-DAP001(非凍結)とDSP-1083(凍結)です。
公式サイト:https://www.sumitomo-pharma.co.jp/3. iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
治療の仕組みの面では、住友ファーマの中心はiPS細胞由来の神経系の細胞を、他家(本人以外)の細胞として脳や目に移植するものです。 承認品のアムシェプリは、パーキンソン病で減ったドパミン神経の元になる細胞(ドパミン神経前駆細胞)を、手術で脳の両側の被殻に移植します 事実。 このほか、目の網膜の細胞(網膜色素上皮細胞、網膜シート)を開発中で、米国では培養ヒト胸腺組織「リサイミック」を販売しています。 iPS細胞そのものの解説は本シリーズの技術解説「iPS細胞」、神経細胞とパーキンソン病の関係は「iPS由来の神経細胞とパーキンソン病」を参照してください。
4. 会社の規模
大手製薬なので、会社全体は表1つにとどめます。この数字の大半は、iPS細胞とは別の医薬品の売上です 事実(金額は日本円、国際会計基準、会計年度は4月〜翌年3月)。
| 指標(連結・百万円) | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 314,558 | 398,832 | 453,294 |
| 税引前当期利益(△は損失) | △323,114 | 17,611 | 100,344 |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益(△は損失) | △314,969 | 23,634 | 106,865 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | △241,893 | 16,500 | 71,715 |
| 従業員数(人) | 4,980 | 3,832 | 3,123 |
2026年3月期は、研究開発費の総額が440億円(前期比11.8%減)、コア営業利益が1,059億円でした。 北米の「オルゴビクス」(進行性前立腺がん)と「ジェムテサ」(過活動膀胱)の売上が連結売上収益の55%を占めます。 2024年3月期には大きな損失を計上し、事業を再編したうえで黒字に戻った経緯があります。
上の数字は会社全体のもので、iPS細胞・再生医療の規模を示す数字ではありません。 研究開発費は世界全体で管理され、セグメントにも品目にも配分して開示されていません。 また、RACTHERAとS-RACMOは持分法適用会社のため、両社の売上・損益・人員は連結の数字に含まれません。 iPS細胞・再生医療に使った研究開発費の累計額は、一次資料では確認できませんでした 未確定/将来。
5. iPS細胞・再生医療にかけているリソース
金額と人数の多くは、合弁会社に移っているため住友ファーマの開示だけでは追えません。確認できたものとできなかったものを分けます。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(人員) | 連結従業員3,123人、単体1,747人(2026年3月31日)。再生・細胞医薬の専任人数は非開示。RACTHERAとS-RACMOへの出向社員がいると記載されているが、人数は不明。両社自身の人員は連結に含まれない | 確認できず(専任人数) |
| 人(拠点) | 研究開発はRACTHERA(東京都中央区)、製造はS-RACMOの商業用製造施設「SMaRT」(大阪府吹田市、2018年竣工)。同社は、非自己iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初の施設と説明 | 事実 |
| 金(研究開発費) | 研究開発費の総額は2026年3月期に440億円(世界全体)。うちiPS細胞・再生医療の分は非開示 | 確認できず(内訳) |
| 金(資金調達と使途) | 2026年4月の公募増資の手取概算96,956百万円のうち、10,000百万円を「再生・細胞医薬事業の成長を目的とした投融資資金」に2029年3月末までに充当する予定(がん領域の研究開発に30,000百万円、神経変性疾患・感染症領域の研究開発に10,000百万円、設備投資・戦略投資に10,000百万円、残額は有利子負債の返済) | 事実 |
| 外部への出資・事業の切り出し | 2025年2月に再生・細胞医薬事業をRACTHERAに会社分割し、同社株式の66.6%を住友化学に譲渡。住友ファーマの持分はRACTHERA、S-RACMOとも33.4%。対価として2026年3月期末までに1,998百万円を受領済みで、開発マイルストンは最大3,996百万円(アムシェプリの承認で666百万円を2026年6月に受領予定と記載)、販売マイルストンは最大154,512百万円(条件がすべて満たされた場合の上限) | 事実 |
| 外部からの導入(技術・原料) | iPS細胞ストックは京都大学iPS細胞研究財団から、分化誘導と製造の技術は京都大学等から、細胞純化の技術の一部はエーザイから活用。支払条件は一次資料に記載なし | 事実 |
| 大学・研究機関・公的資金 | 京都大学(iPS細胞研究所、医学部附属病院)、カリフォルニア大学サンディエゴ校、マサチューセッツ眼科耳鼻科病院、ミネソタ大学、理化学研究所(網膜シートの製法)。アムシェプリは日本医療研究開発機構(AMED)の事業などから継続的に国の研究支援を受けていると会社が記載 | 事実 |
| スタートアップへの出資 | iPS細胞・再生医療分野のスタートアップへの出資は、有価証券報告書に記載なし | 確認できず |
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2012年 | 再生・細胞医薬事業への本格参入を決断(会社の記者会見資料の年表) | 山中伸弥氏のノーベル賞受賞と同じ年 |
| 2017年2月 | パーキンソン病を対象に、再生医療等製品の先駆け審査指定制度の指定を受ける | 審査の優先対象になった |
| 2018年 | 製造施設「SMaRT」が竣工。8月に京都大学医学部附属病院で医師主導治験を開始 | 製造拠点と臨床試験が動き出した |
| 2025年2月 | 再生・細胞医薬事業をRACTHERAに会社分割し、株式の66.6%を住友化学に譲渡 | 事業の主導権が住友化学グループ側に移った |
| 2025年4月 | 京都大学の医師主導治験の結果がNature誌に掲載 | 承認申請の根拠データ |
| 2025年8月5日 | 製造販売承認を申請 | ― |
| 2025年12月12日 | 希少疾病用再生医療等製品に指定 | 薬価の加算の根拠にもなった |
| 2026年3月6日 | アムシェプリが条件及び期限付き製造販売承認を取得 | iPS細胞由来の再生・細胞医薬品として日本で承認 |
| 2026年3月 | 網膜シート(DSP-3077)が網膜色素変性の適応で米国FDAからオーファンドラッグ指定 | 米国での開発の後押し |
| 2026年4月 | 公募増資(払込978億円)。手取のうち100億円を再生・細胞医薬事業への投融資に充てる計画 | 資金の使途として明示 |
| 2026年5月13日・20日 | 中央社会保険医療協議会が薬価案を了承(13日)。20日に薬価基準へ収載され発売(算定薬価55,306,737円) | 保険診療で使える状態になったが、供給は試験参加施設に限る予定 |
| 2026年7月 | 製造販売後臨床試験(フェーズ4)を24日にjRCTへ登録し、被験者の募集を開始。京都大学医学部附属病院との契約締結も、5月14日〜7月31日の期間の開示事項として記載 | 本承認に向けた試験の開始 |
| 2026年8月13日 | 米国で網膜シート(DSP-3077)のフェーズ1/2試験の最初の被験者に移植 | SMaRTで製造した細胞が米国の試験に使われた |
承認の根拠になった治験(一次資料の範囲)
承認は京都大学医学部附属病院の医師主導治験(jRCT2090220384、試験コードIACT16049-01)に基づきます。 比較対象は他の治療や偽薬ではなく、各患者さんの移植前の状態で、評価時点は項目ごとに異なります。 結果は治療効果や安全性を保証するものではなく、医療上の助言でもありません。
| 項目 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 試験 | パーキンソン病に対するヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の医師主導治験(第I/II相)。単施設・非盲検・非対照。試験責任医師は京都大学医学部附属病院の髙橋良輔氏。結果はNature誌に掲載(Sawamoto他、2025年) | 事実 |
| 対象・例数 | 50歳以上70歳未満で罹病期間5年以上、薬物療法のみでは症状のコントロールが困難だが、レボドパへの反応は残っている患者。移植7例(効果の解析は6例)。低用量2〜3例目(両側で4.8×106個)、高用量4〜7例目(両側で8.4〜10.8×106個) | 事実 |
| 主要な目的 | 論文では、主要評価は安全性と有害事象で、運動症状の変化とドパミン産生は24か月の副次評価 | 事実 |
| 運動症状(24か月) | 薬を飲んでいない状態(オフ時)の運動症状スコア(MDS-UPDRS第III部)は、解析した6例中4例で改善、6例の平均で9.5点(20.4%)の改善。薬が効いている状態(オン時)は5例で改善、平均4.3点(35.7%)の改善。Hoehn-Yahr重症度は4例で改善。各患者の移植前との比較 | 事実 |
| 画像 | 脳内の取り込みを見る画像検査(18F-DOPA PET)で、被殻の取り込み速度定数が平均44.7%増加(高用量群でより大きい)。審査資料では6例全例で被殻に生着と判定 | 事実 |
| 安全性 | 重篤な有害事象はなく、軽度から中等度の有害事象が73件。MRIで移植片の過剰な増大なし。論文は、治療上の必要に応じた抗パーキンソン病薬の調整の結果としてジスキネジアが増えたと記載。免疫抑制剤(タクロリムス)は移植日から52週間服用し、その後12週かけて減らした | 事実 |
| 審査当局の見方 | 厚生労働省の資料は、少数例の探索的試験で統計学的検証が目的でなかったとしたうえで、自然経過(観察研究の24か月で平均5.2点の悪化)では説明しにくい改善が複数例で見られたことなどから、有効性を「推定できる」と判断した。比較は別の集団との参考比較で、直接比較ではない | 事実 |
7. 今後の計画
(65歳以下30例+65歳超5例)7施設程度を予定。移植後96週間の追跡
改めて申請それまでは試験参加患者への移植が中心
推進中大学の医師主導治験と企業治験の2本立て
| 計画・開発中の品目 | 現在地(会社の記載) | 区分 |
|---|---|---|
| アムシェプリ(日本) | 製造販売後臨床試験(フェーズ4、jRCT2053260117)の主目的は、65歳以下の患者に被殻内移植したときの有効性の検証。主要評価項目は、移植後96週時のオフ時のMDS-UPDRS第III部合計スコアのベースラインからの変化量。2026年から2029年頃まではこの試験の参加患者にのみ移植し、完了後に施設と患者の範囲を拡大する | 未確定/将来 |
| アムシェプリ(製造の切り替え) | 本承認の申請時に、製造を「1ロット1患者」から「1ロット多患者」へ切り替える一部変更申請を行う計画(記者会見資料)。時期は非公表 | 未確定/将来 |
| ラグネプロセル(米国、パーキンソン病) | カリフォルニア大学サンディエゴ校の医師主導治験(非凍結、NCT06482268、フェーズ1、推定7例)と、住友ファーマの米国子会社の企業治験(凍結細胞DSP-1083、NCT06753331、フェーズ1/2、推定25例)を推進 | 未確定/将来 |
| 網膜シート(DSP-3077、米国) | 網膜色素変性を対象にフェーズ1/2試験(NCT06891885)を実施中。片眼の網膜下に単回投与し、用量漸増・単群・非遮蔽で3コホート各4名、計12名の予定。2026年8月13日に最初の被験者へ移植 | 未確定/将来 |
| 網膜色素上皮細胞(HLCR011、日本) | 網膜色素上皮裂孔を対象にフェーズ1/2試験を推進。連携先はヘリオスと九州大学など | 未確定/将来 |
| その他のiPS細胞由来品 | 脊髄損傷(神経前駆細胞)と腎不全(ネフロン前駆細胞、立体臓器)は前臨床の段階(2026年5月の決算説明資料の開発品目一覧) | 未確定/将来 |
次はいずれも一次資料に記載がないか、非公表です 未確定/将来。
本承認の申請・取得の具体的な時期(「7年以内」以上)/SMaRTの年間製造能力/米国での承認申請の時期/RACTHERAとS-RACMOの売上・損益・人員/1ロット多患者への切り替え時期/再生・細胞医薬に投じた研究開発費の累計額。 なお、厚生労働省の薬価算定資料には、収載希望者(住友ファーマ)の市場規模予測として、ピーク時(10年度)の予測投与患者数133人、予測販売金額74億円が記載されています。 これは薬価算定のための予測であって会社の業績予想ではないため、参考として示すにとどめ、他の数値とは混ぜません。
8. この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| iPS細胞事業の主導権は住友化学グループ側にあり、住友ファーマは承認取得者・販売者の役割に絞られた | RACTHERA株式の66.6%を住友化学へ譲渡し、RACTHERA、S-RACMOとも住友ファーマの持分は33.4%。承認時の発表で、販売は住友ファーマ、製造はS-RACMOと明記し、RACTHERAを「住友化学グループの再生・細胞医薬事業において研究開発の中核」と説明 | 推測 |
| アムシェプリは2029年頃まで大きな売上にならない可能性が高い | 2029年頃まではフェーズ4試験の参加患者にのみ移植する計画で、移植予定も2026年度1〜2例、2027年度10例程度、2028年度10〜20例程度 | 推測 |
| 住友ファーマにとっての見返りの一部は、マイルストンと持分法の利益として入る設計 | RACTHERAの株式譲渡の条件付対価に、開発マイルストン最大3,996百万円と販売マイルストン最大154,512百万円の記載 | 推測 |
| 会社全体の優先順位はがん領域が上で、再生・細胞医薬は外部資金と合弁で進める | 有価証券報告書に「がん2品目(enzomenibとnuvisertib)に資源を集中」と記載。公募増資の使途は、がん領域の研究開発に30,000百万円、再生・細胞医薬事業の投融資に10,000百万円 | 事実 |
| 製造は1ロット1患者の段階から量産型への移行が次の課題 | 記者会見資料が「1ロット1患者から1ロット多患者への一変申請」を挙げ、審査資料は「患者ごとにiPS細胞の分化誘導段階から製造を始めるため供給に限界がある」と記載 | 推測 |
売上が小さい時期が続くと読むのは、会社自身の移植計画から素直に計算できるからです。 薬価の55,306,737円に、会社の移植予定である2027年度10例程度・2028年度10〜20例程度を掛けると、年間で約5.5億円から約11億円の規模です 本稿の計算。 実際の売上は薬価と一致せず、移植が予定どおり進むとも限りません。 一方で、薬価算定資料の予測(10年度に133人・74億円)は、本承認を得て施設と患者の範囲を広げた後の姿を前提にしたものと読めます。 つまり、承認・発売が済んだ今も、アムシェプリは「売上を立てる段階」というより「本承認に向けたデータを集める段階」にあります 未確定/将来。 この推測は、製品の優劣や普及の可否を述べるものではありません。
9. iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
図の見方:住友ファーマは、研究開発(RACTHERA)と製造(S-RACMO)を合弁会社に任せ、自社は承認を取得して販売するという分業です。 iPS細胞の原料は京都大学iPS細胞研究財団のストック、分化誘導の技術は京都大学等のもので、製造工程の一部ではエーザイが保有する細胞純化の技術を活用しています 事実。 親会社の住友化学は、住友ファーマの議決権の51.81%を持つと同時に、両合弁会社の66.6%も持つため、二重の関係にあります。
10. 提供している技術・製品・サービス
| 項目 | 内容(有価証券報告書・公開資料の記載) |
|---|---|
| アムシェプリ | 健康な成人の末梢血単核球から作ったiPS細胞を分化させたドパミン神経前駆細胞を含む細胞加工製品。非凍結で、1容器(1mL)に1×106個を生理食塩液中に含む。片側5.4×106個を目標に、定位脳手術で両側の被殻に移植(18瓶1組)。移植の前後は免疫抑制剤(タクロリムス)を服用し、移植後1年を目安に12週かけて減らして中止する。有効期間は31時間で、手術の都度製造する |
| 製造施設SMaRT | 大阪府吹田市。2018年竣工。非自己iPS細胞由来の再生・細胞医薬品専用の商業用製造施設としては世界初と会社は説明。製造はS-RACMOが担う |
| 凍結細胞DSP-1083 | 米国の企業治験で使う凍結状態のドパミン神経前駆細胞。日本の承認品は非凍結 |
| 網膜の細胞 | 網膜シート(DSP-3077)は、多能性幹細胞から立体構造の網膜を作る自己組織化培養法(理化学研究所の笹井芳樹氏のグループが見いだしたSFEBq法)を基にした網膜組織で、視細胞の前駆細胞を豊富に含む。網膜色素上皮細胞(HLCR011)も開発中 |
| リサイミック | 小児先天性無胸腺症向けの培養ヒト胸腺組織。米国で販売し、2026年3月期の売上は6,322百万円(前期6,803百万円)。米国内の自社製造施設の立ち上げ準備を進めていると記載 |
この会社の製品づくりで材料・プロセスが効くのは、細胞を「いつ、どこまで」作り置きできるかです 事実。 アムシェプリは他家のiPS細胞ストックから作るので、原理的には多くの患者分を一度に作れる設計です。 しかし審査資料は、非凍結で有効期間が31時間、手術の都度製造であり、患者ごとに分化誘導の段階から製造を始めるため供給に限界がある、と書いています。 会社が「1ロット1患者から1ロット多患者へ」切り替えることを今後の課題に挙げているのはこのためです。 凍結細胞(DSP-1083)を米国で別に試験している点も、凍結保存液・凍結と解凍の工程・輸送容器が、量産化のカギを握ることを示しています 未確定/将来。
もう一つは細胞の純化です。未分化なiPS細胞が混じると腫瘍化の懸念があるため、製造工程で未分化細胞を除去し、出荷基準で混入率を管理しています。 病院側でも、投与前に製剤を遠心分離して濃縮し、投与デバイスに充填する手技が必要になります。 どの資材・装置を採用しているかは公表されていません。本シリーズの技術解説「細胞製造とセルバンク」「自家と同種」「GMP」もあわせて参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 承認が条件及び期限付き | 期限は7年。製造販売後臨床試験(35例)と使用成績調査を行い、期限内に改めて申請して本承認を得る必要がある。承認条件として、全症例を対象とした製造販売後調査と、パーキンソン病の診断・治療と定位脳手術に十分な経験を持つ医師が使うことが課されている | 事実 |
| 根拠となる治験が小さい | 単施設・非盲検・非対照で、移植7例(解析6例)。審査資料は、偽手術の倫理上の問題や休薬評価の負担から対照群の設定は困難だったと説明している。承認後の試験でも非盲検・非対照・多施設の単群で、再現性を確認する設計 | 事実 |
| 年齢による効果の違い | 審査資料は、主要評価で著効とされなかった1例は年齢が高かったことから、非ドパミン神経の変性による症状が目立つ患者では十分に効果を発揮しない可能性が高いと考え、主コホートを65歳以下に限っている | 事実 |
| 免疫抑制剤の長期服用 | 他家細胞のため、移植日から約1年は免疫抑制剤(タクロリムス)を服用し、その後減らす。副作用で服用できない場合は他の免疫抑制剤に変更する規定を設ける予定 | 事実 |
| 製造・供給の制約 | 非凍結で有効期間31時間、手術の都度製造。患者ごとに分化誘導から始めるため供給に限界がある。審査資料は7年間で35例程度の使用を想定 | 事実 |
| 合弁会社への依存と情報の薄さ | 研究開発も製造も持分法適用の合弁会社が担い、住友ファーマの連結数値からは両社の収益・人員が見えない。販売マイルストンは上限値で、受け取れる額は確定していない | 推測 |
| 会社全体の収益構造 | 北米の「オルゴビクス」と「ジェムテサ」の2製品が連結売上収益の55%を占める。会社自身が、競合品や後発品の参入などで売上が減ると経営成績に重要な影響があると記載。iPS細胞事業の資金も、この収益に左右される | 事実 |
| 薬価制度・保険算定 | 国内では毎年の薬価改定など薬剤費の抑制策が続くと有価証券報告書に記載。アムシェプリは希少疾病用の指定を受け、革新的新薬薬価維持制度の対象と薬価算定資料に記載 | 事実 |
12. 用語集
- iPS細胞
- 人工多能性幹細胞。体の細胞に因子を入れて作る、さまざまな細胞に変えられる細胞。
- 他家(非自己)
- 患者本人ではなく、他の人(提供者)の細胞を使うこと。拒絶反応を抑える薬が必要になる。
- ドパミン神経前駆細胞
- ドパミンを作る神経細胞になる手前の細胞。パーキンソン病では、この神経細胞が減ることで運動症状が起きる。
- 条件及び期限付承認
- 少数例の治験で安全性が確認され、一定の有効性が見込まれる再生医療等製品を、条件と期限を付けて早く承認する制度。販売後に有効性を確かめる。
- MDS-UPDRS第III部
- パーキンソン病の運動症状を医師が診察で採点する指標。点数が下がるほど症状が軽い。
- オフ時・オン時
- 薬の効果が乏しい時間帯と、よく効いている時間帯。
- 定位脳手術
- 頭部を固定し、座標で位置を決めて脳の特定の場所に針を進める手術。
- 被殻
- 脳の深部にある、運動の制御に関わる部位。アムシェプリの移植先。
- 持分法適用会社
- 議決権の20%以上を持つなどで影響力のある会社。損益のうち持分に応じた分を取り込むが、売上や人員は連結に含めない。
- CDMO
- 医薬品や細胞の開発と製造を受託する事業者。
- IFRS
- 国際会計基準。住友ファーマはこの基準で連結決算を開示する。
- オーファンドラッグ指定
- 患者数の少ない病気の薬に対する、米国の優遇指定。
AI生成による概念図13. 出典
- 住友ファーマ 第206期 有価証券報告書(2026年3月期、2026年6月23日掲載)。関係会社、事業の状況、研究開発活動、リスク、従業員、連結財務諸表、条件付対価契約、後発事象(公募増資と資金使途)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/ir/library/securities_report/assets/pdf/securities_report_20260623.pdf
- 住友ファーマ・RACTHERA 「日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」の製造販売承認取得に関するお知らせ」(2026年3月6日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260306.html
- 住友ファーマ アムシェプリ 条件及び期限付承認取得 記者会見説明資料(2026年3月6日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/pr20260306.pdf
- 住友ファーマ 2025年度(2026年3月期)決算説明会資料(2026年5月13日)。製造販売後臨床試験の計画、開発品目一覧。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260513.pdf
- 住友ファーマ 2026年度第1四半期決算説明会資料(2026年7月31日)。フェーズ4試験のスケジュール。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/ir20260731.pdf
- 住友ファーマ 2026年度第1四半期決算(IFRS)補足資料(2026年7月31日)。再生・細胞医薬の連携先。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/assets/pdf/br20260731_2.pdf
- 住友ファーマ 「米国における「他家iPS細胞由来網膜シート(立体網膜)を用いた網膜色素変性治療」フェーズ1/2試験における最初の被験者への移植のお知らせ」(2026年8月13日)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20260813-1.html
- 住友ファーマ 「製造販売承認・薬価基準収載のご案内」(アムシェプリ、2026年6月26日)。 https://sumitomo-pharma.jp/hubfs/product/package_notification/2026/amchepry_info_20260626.pdf
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総-11 参考2「再生医療等製品3品目の条件及び期限付き承認について」(2026年4月8日)。アムシェプリの承認審査の概要(20〜39ページ)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001687611.pdf
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総-5「新再生医療等製品一覧表(令和8年5月20日収載予定)」ほか(2026年5月13日)。算定薬価、算定方式、市場規模予測。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001699508.pdf
- Sawamoto N. ほか Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease. Nature 641, 971–977 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08700-0
- 厚生労働省 臨床研究等提出・公開システム(jRCT)jRCT2090220384「パーキンソン病に対するヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の細胞移植による安全性及び有効性を検討する医師主導治験(第I/II相)」。 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2090220384
- 厚生労働省 jRCT2053260117「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(ラグネプロセル)のパーキンソン病患者を対象とした検証的試験(製造販売後臨床試験)」。 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2053260117
- 米国国立医学図書館 ClinicalTrials.gov NCT06753331(DSP-1083の米国多施設試験)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06753331
- 米国国立医学図書館 ClinicalTrials.gov NCT06482268(カリフォルニア大学サンディエゴ校の医師主導治験)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06482268
- 米国国立医学図書館 ClinicalTrials.gov NCT06891885(網膜シートDSP-3077のフェーズ1/2試験)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06891885
- 住友ファーマ 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://www.sumitomo-pharma.co.jp/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月1日/Troy Technical
本稿の数値は、住友ファーマの有価証券報告書・決算資料・発表資料、厚生労働省の公開資料、Nature掲載論文、jRCT・ClinicalTrials.govに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は特定の治療や製品を勧めるものではなく、医療上の助言ではありません。