🌐 This site is also available in English Visit English Site →
🌐 English

イーライリリー|iPS細胞・再生医療 企業解説

技術・機関・企業解説の一覧へ戻る

COMPANY PROFILE / iPS細胞・再生医療

イーライリリー
― 肥満・糖尿病で稼いだ資金を、遺伝子編集・遺伝子治療・体内CAR-Tの買収へ振り向けている大手製薬

Eli Lilly(イーライリリー)は、iPS細胞や再生医療の会社ではありません。2025年の売上高は651億7,900万ドル(約652億ドル)で、主力は肥満・糖尿病の薬(Mounjaro、Zepbound)です。 それでも本シリーズで取り上げるのは、同社が遺伝子を直接書き換える治療(Verve Therapeutics、2025年7月)、 目の病気のAAV遺伝子治療(Adverum Biotechnologies、2025年12月)、体内でCAR-T細胞を作る治療(Orna、2026年5月/Kelonia、2026年6月)を、 相次いで買収・取得しているからです。細胞を体の外で作って戻す再生医療とは別の道で、同じ病気を狙う競合の方向を示しています。 本稿は会社全体の規模を簡潔にとどめ、この分野に何を買い、何がまだ初期段階かに絞ります。治療の推奨ではなく、開示資料の整理です。

構成:Eli Lillyが米国SECに提出した2025年12月期 Form 10-K(2026年2月12日提出)、2023年12月期 Form 10-K、2026年6月期 Form 10-Q(2026年8月5日提出)、買収先のVerve・Adverumの法定開示書類、ClinicalTrials.govを一次情報として使用/最終更新 2026年10月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるLillyと、iPS細胞・再生医療での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. iPS細胞・再生医療にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか
  9. iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるイーライリリーと、iPS細胞・再生医療での立ち位置

正式名称Eli Lilly and Company通称 Lilly。1901年設立(インディアナ州法人)
本社米国インディアナ州
インディアナポリス
Lilly Corporate Center
上場ニューヨーク証券取引所
LLY
従業員 約50,000人(2025年末)
主たる類型大手製薬・事業会社従たる類型:ゲノム編集・遺伝子治療(買収で参入)
治療の仕組み遺伝子編集(LNPで肝臓へ)
AAV/体内CAR-T
iPS細胞を使う取り組みは10-K・10-Qに記載なし
最大の買収Kelonia
(体内CAR-T)
2026年6月。取得時の公正価値 48.97億ドル
遺伝子編集Verve Therapeutics2025年7月。現金5.49億ドル(現金等差引)+CVR最大約3億ドル
最も進んだ品目Ixo-vec(AAV)
フェーズ3
Adverum由来。滲出型加齢黄斑変性
まず押さえるべき1点

Lillyの強みは資金力と販売網で、遺伝子編集・遺伝子治療・体内CAR-Tは自社で一から育てたのではなく、買収で取り込んだものです 事実。 そのうえ、取り込んだ品目の多くは初期の臨床段階(フェーズ1〜2)か前臨床で、10-K・10-Qに「iPS細胞」という語は出てきません。 したがって、Lillyの動きは「iPS細胞から作る細胞治療が広がる」ことの証拠ではなく、 「細胞を体の外で作らなくても、遺伝子を体内で書き換える・体内で免疫細胞を作る」という別のやり方に、大手が資金を投じているという証拠として読むのが適切です。 詳しくは本シリーズの技術解説「ゲノム編集」「脂質ナノ粒子」「ウイルスベクター」「CAR-T細胞」を参照してください。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は Eli Lilly and Company(正式)、通称は Lilly。EDGARの登録名は「ELI LILLY & Co」です。 日本法人は「日本イーライリリー株式会社」ですが、本稿は米国の親会社を扱います。 ロゴは公式サイトに掲載されている筆記体の「Lilly」を取得しました。

公式サイト:https://www.lilly.com/

3. iPS細胞・再生医療の世界で、この会社はどこにいるか

iPS細胞・再生医療に関わる企業の3つの類型 同じ「再生医療の会社」でも、治し方がまったく違う 大手製薬・事業会社 ゲノム編集・遺伝子治療 iPS細胞・細胞治療 提携・買収で参入し、販売網を持つ 遺伝子を直接書き換えて治す 細胞そのものを作り、移植する Vertex/Novartis Bristol Myers Squibb ほか CRISPR Therapeutics/Intellia Beam/Prime Medicine ほか Fate/Sana クオリプス/Heartseed ほか 後期臨床と販売網の資金力 編集ツールと安全性評価の深さ 細胞製造と品質管理の量産力 自社の細胞・遺伝子の基盤は薄い 提携先の方針転換に左右される 製造費と長期の安全性が重い 大手製薬。ゲノム編集・AAV・体内CAR-Tは買収で取り込み、iPS細胞は扱わない 2025〜2026年にVerve、Adverum、Orna、Keloniaを取得。大半は初期の臨床段階
図1 iPS細胞・再生医療に関わる企業の3類型と、Lillyの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。Lillyは大手製薬を主とし、遺伝子編集・遺伝子治療を買収で取り込む従の類型です(10-K・10-Q)。

Lillyは図1の左端(大手製薬・事業会社)を主とし、中央(ゲノム編集・遺伝子治療)を従として強調しました。 治療の仕組みの内訳は次のとおりです 事実。

仕組みの区分Lillyの該当状況
ゲノム編集(LNPで肝臓へ)VERVE-102(PCSK9遺伝子)、Lp(a)の編集プログラム(Verve協業由来)VERVE-102はフェーズ1b、フェーズ2は2026年10月開始予定
AAVによる遺伝子導入Ixo-vec(滲出型加齢黄斑変性)。以前の取得品(Prevail、Akouos由来)Ixo-vecはフェーズ3
体内CAR-T(in vivo)KLN-1010(Kelonia、多発性骨髄腫)、ORN-252(Orna、CD19、自己免疫疾患)いずれもフェーズ1
iPS細胞由来の細胞―10-K・10-Qに記載なし
自家/同種の細胞治療、間葉系幹細胞―10-K・10-Qに記載なし(体外で細胞を加工する細胞治療は主要パイプラインに見当たらない)

4. 会社の規模

大手製薬のため、会社全体は表1つにとどめます。金額は百万米ドル、会計年度は12月期です 事実。

指標(百万米ドル)2023年2024年2025年
売上高―45,04365,179
純利益―10,59020,640
研究開発費9,31310,99113,337
買収した仕掛研究開発費(費用計上分)―3,2802,910
設備投資―5,1007,800

売上は2025年に前年比45%増で、増加の主因は糖尿病・肥満の薬MounjaroとZepbound(10-K)です。 従業員は約50,000人(米国外約27,000人)で、うち約12,000人が研究開発に従事しています。

ここで注意

上の数字は会社全体のものです。遺伝子編集・遺伝子治療・体内CAR-Tへの専用の研究開発費、人員数は開示されていません 未確定/将来。 研究開発費133億ドルのうち、この分野がいくらかは不明です。また、会社は10-Kのリスクの項目で 「少数の製品・製品群に売上の大きな割合を依存している」ことを挙げています。

5. iPS細胞・再生医療にかけているリソース

リソース内容区分
人(研究拠点・人員)全社で約50,000人、研究開発に約12,000人。遺伝子医療の専任人員数は非開示事実/専任人数は確認できず
金(製造設備投資)2025年の設備投資は78億ドル(2024年は51億ドル)。「現在と将来の製品を製造するための世界の施設への投資」と説明。遺伝子医療向けの設備投資額は非開示事実/金額は確認できず
外部への出資・買収Prevail(2021年1月、現金7.474億ドル+CVR最大約1.6億ドル)、Akouos(2022年12月、現金3.272億ドル+CVR最大約1.22億ドル)、Verve(2025年7月、現金5.49億ドル+CVR最大約3億ドル)、Adverum(2025年12月)、Orna(2026年5月、仕掛研究開発費12.33億ドル)、Kelonia(2026年6月、公正価値48.97億ドル)事実
導入(ライセンス)・提携Verveとの5年の研究協業(2023年6月、Lp(a)の体内遺伝子編集)。2025年1〜3月に協業の最初の開発候補が選定され、Verveが2,000万ドルのマイルストーンを受領。PCSK9プログラムにはLillyのオプトイン(参加選択)権があった。2025年7月に買収事実(Verveの10-Qによる)
大学・研究機関・公的資金Lilly自身の10-K・10-Qに記載なし。買収先Verveの10-Qには、Harvard、Broad Institute、Beam Therapeutics、Novartisからの知的財産ライセンスの記載がある確認できず(Lilly側)/Verve側は事実
買収額の読み方

CVR(条件付き価値権)は、特定の成果を達成したときだけ支払われる追加の対価です。 VerveのCVRは最大1株3.00ドル(総額で最大約3億ドル)、Adverumは最大1株8.91ドル(2つの条件を両方達成した場合)で、 どちらも「達成した場合の上限」であり、確定した支払いではありません 事実。 Keloniaでも、2026年6月の10-Qに条件付き対価が最大37.5億ドルと記載され、取得時点の公正価値は17.65億ドルと見積もられています。 数字を引用するときは「確定額」と「上限額」を分けて読む必要があります。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2021年1月Prevail Therapeuticsを買収。AAV9ベースの神経変性疾患向け遺伝子治療(PR001、PR006)Lillyの遺伝子治療の起点。「新しいモダリティ」と説明
2022年12月Akouosを買収。難聴などの内耳疾患向け遺伝子治療耳の遺伝子治療へ拡大
2023年6月Verveと5年間の研究協業(Lp(a)を標的とする体内遺伝子編集)ゲノム編集への最初の関与
2025年3月Verve:VERVE-102のIND(臨床試験開始届)をFDAが受理、ファストトラック指定。協業の最初の開発候補が選定され、2,000万ドルのマイルストーンが発生。PCSK9プログラムのオプトイン資料をLillyに提出予定と記載協業が製品段階へ
2025年6月16日〜7月Verveの買収契約を締結し、株式公開買付けで取得(1株10.50ドル+CVR最大3.00ドル)ゲノム編集企業を丸ごと取得
2025年10月24日〜12月9日Adverumの買収契約を締結し、公開買付けで取得(1株3.56ドル+CVR最大8.91ドル)。Ixo-vecを獲得AAV遺伝子治療でフェーズ3品目を取得
2026年5月Orna Therapeuticsの資産を取得(ORN-252、CD19標的の体内CAR-T、フェーズ1)。仕掛研究開発費12.33億ドル自己免疫疾患向けの体内CAR-T
2026年6月25日Kelonia Therapeuticsを買収(体内CAR-T、KLN-1010)。取得時の公正価値48.97億ドル体内CAR-Tへの本格投資

VERVE-102の初期データを読むときの注意

Verve(買収前)は2025年4月、Heart-2試験(フェーズ1b)の14人のデータを発表しました(データ締め切り2025年3月13日)。 単回投与で、最高用量群(0.6 mg/kg、4人)の血中LDLコレステロールの平均低下率は53%(投与28日後から最終の追跡まで時間平均)でした。 ただしこれは非盲検・用量漸増の初期試験で、対照群との比較はありません。主要評価項目は安全性(有害事象)で、効果は副次的な確認です。 遺伝子編集は元に戻せない変化であり、長期の安全性はこれから検証される段階です。 本稿は特定の治療を勧めるものではありません。

7. 今後の計画

品目状況(ClinicalTrials.govと10-K・10-Q)区分
VERVE-102(PCSK9)フェーズ1b Heart-2(NCT06164730、推定85人、主要評価項目は有害事象、推定の主要評価完了2026年10月)。フェーズ2(NCT07839936、推定175人、主要評価項目はLDL-Cの90日後の変化率、2026年10月開始予定、推定の主要評価完了2028年8月)開発中(フェーズ1b→2)。承認見込みは未確定/将来
Ixo-vec(AAV、滲出型AMD)フェーズ3 ARTEMIS(NCT06856577、311人、主要評価項目は52・56週の視力変化の平均、推定の主要評価完了2026年12月)。AQUARIUS(NCT07482176、推定534人、2026年3月開始)開発中(フェーズ3)
KLN-1010(Kelonia、体内CAR-T)フェーズ1(NCT07075185、再発・難治性多発性骨髄腫、推定70人、推定の主要評価完了2027年3月)開発中(フェーズ1)
ORN-252(Orna、体内CAR-T)フェーズ1(NCT07439796、健康な成人20人、安全性の評価、推定の主要評価完了2026年12月)。10-QはCD19標的で、B細胞が関わる自己免疫疾患向けと説明開発中(フェーズ1)
確認できなかったこと

次はいずれも開示資料に記載がありません 未確定/将来。

各品目の承認申請時期/遺伝子医療向けの専用の研究開発費・人員/iPS細胞を使う社内計画/ Ixo-vecのフェーズ3の結果(試験は進行中)。2025年末の10-Kの主要パイプライン表には、以前のPrevail・Akouos由来の遺伝子治療(GBA1、GRN、OTOF)は載っておらず、その扱いは10-Kから確認できません。

8. この会社はiPS細胞・再生医療で何を目指しているか

会社が直接述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに示します。

読み取れること根拠となる一次情報区分
LillyはiPS細胞ではなく、体内で遺伝子を書き換える・免疫細胞を作る道を選んでいる取得した品目はすべて体内投与型(遺伝子編集、AAV、体内CAR-T)。iPS細胞への言及は10-K・10-Qにない推測(事実:取得品目の種類)
新しい技術は買収で取り込む方針2021〜2026年に6件(Prevail、Akouos、Verve、Adverum、Orna、Kelonia)の買収・取得。自社での立ち上げの記載はない推測(事実:買収の連続)
体内CAR-Tへの傾斜が最近になって急に強まった2026年5〜6月にOrna(12.33億ドル)とKelonia(48.97億ドル)。同時期に長期債務90億ドルを発行し、CentessaとKeloniaの買収資金の一部に充当と記載事実(金額と時期)/推測(傾斜)
長期の安全性が未確立の領域に分散して賭けているフェーズ1が3件、フェーズ3が1件。ほとんどが初期段階推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

2026年1〜6月に、LillyはCentessa、Kelonia、Orna、Ventyx、Ajaxの買収などに133億ドルを支出したと10-Qに書いています 事実。 そのうち体内CAR-Tの2社(Orna、Kelonia)の取得額が占める割合は大きいと読めますが、 この分野に会社がいくら投じるつもりかは開示されていません。 また、体内CAR-Tは「患者ごとに細胞を作る手間をなくす」点でiPS細胞由来の作り置き型と同じ課題を別の方法で解くものですが、 どちらが実用に至るかは臨床の結果次第です 未確定/将来。

9. iPS細胞・再生医療分野の提携マッピング

Lillyを中心とした遺伝子医療の取得関係 Lilly・Verve・Adverumの開示資料に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない Lilly 大手製薬 Verve Therapeutics 遺伝子編集。2025年7月に買収 Adverum AAV遺伝子治療。2025年12月に取得 Kelonia Therapeutics 体内CAR-T。2026年6月に買収 Orna Therapeutics 体内CAR-T(ORN-252)。2026年5月 Prevail Therapeutics AAV9遺伝子治療。2021年1月に買収 Akouos 内耳の遺伝子治療。2022年12月に買収 会社ごとの買収(実線) 資産取得(点線)
図2 Lillyを中心とした遺伝子編集・遺伝子治療・体内CAR-Tの取得関係。出典:Lillyの10-K・10-Q、Verve・Adverumの8-K。図に含めたのは開示資料に記載がある関係だけで、報道で語られる関係は含めていません。オレンジの実線は会社ごとの買収、点線は資産取得です。

10. 提供している技術・製品・サービス

この分野で承認された製品はありません。取得した技術基盤は次のとおりです 事実。

項目開示資料の記述
VERVE-102(遺伝子編集)PCSK9遺伝子を肝臓で恒久的にオフにするよう設計。Verve独自のGalNAc-LNP(脂質ナノ粒子)で送達。ベース編集技術を使う。Verve側は、血中LDLコレステロールを下げることを狙うと説明
Ixo-vec(AAV遺伝子治療)滲出型加齢黄斑変性向け。Adverumが開発し、フェーズ3(ARTEMIS、AQUARIUS)を実施中
KLN-1010/ORN-252(体内CAR-T)体内でT細胞にCARを持たせる治療。KLN-1010は多発性骨髄腫、ORN-252はCD19標的で自己免疫疾患向け。送達方式はLillyの開示には記載なし
製造世界の製造網へ投資(2025年の設備投資78億ドル)。遺伝子医療専用の製造設備は開示されていない
素材技術者の視点:体内で作る治療は「運ぶ材料」が主役になる

VERVE-102は、編集酵素のRNAとガイドRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に包み、肝臓へ運ぶ方式です(Verveの10-Qは「RNAの総投与量(mg)が薬力学の鍵になりつつある」と記載) 事実。 材料の面では、(1) RNAの合成と純度(編集酵素のmRNAとガイドRNA)、(2) 脂質の品質(イオン化脂質、PEG脂質など。粒子の安定性と肝臓への届き方を左右する)、 (3) 粒子の大きさをそろえる混合工程とシングルユース資材、(4) 凍結・保存条件が効いてきます (本シリーズの技術解説「脂質ナノ粒子」「mRNA」「ゲノム編集」)。 一方、Ixo-vecのようなAAVではウイルスベクターの製造(細胞培養、精製、力価)が律速になりやすく、体外で細胞を加工する細胞治療とは材料の顔ぶれが異なります (技術解説「ウイルスベクター」「GMP」「CDMO」)。 ただし、Lillyが各品目で使う具体的な材料・製造委託先は開示されていません 未確定/将来。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
初期段階の品目が大半体内CAR-Tはフェーズ1、遺伝子編集はフェーズ1b、フェーズ3はAAVのIxo-vecのみ事実
遺伝子編集の長期安全性編集は恒久的な変化。Verveの10-Qは「体内の遺伝子編集は、安全性と有効性がまだ臨床で確認されていない新しい技術」と記載。Verveは先行品VERVE-101のHeart-1試験を中止事実
買収の対価と成果条件CVRや条件付き対価(Keloniaは最大37.5億ドル)は成果次第。取得時の見積もりは変わりうる。10-Qは「取得前の情報が限られていた」ため、公正価値の算定は暫定と記載事実
会社全体が少数製品に依存売上の増加は糖尿病・肥満の薬が主因。遺伝子医療の成否は会社全体の業績に大きく響かない構造事実(依存)/推測(影響)
過去の遺伝子治療の整理2022年に旧品(GBA1遺伝子治療)の無形資産の減損を計上。2025年末の主要パイプライン表にPrevail・Akouos由来品は載っていない事実(減損)/確認できず(その後)
iPS細胞の知見が薄いiPS細胞や体外の細胞治療の社内計画は開示なし推測

12. 用語集

ゲノム編集(遺伝子編集)
DNAの特定の場所を書き換える技術。VERVE-102はベース編集で、DNAの二本鎖を切らずに塩基を変える方式。
AAV
アデノ随伴ウイルス。遺伝子を細胞へ運ぶ運び屋(ベクター)として使われる。
LNP(脂質ナノ粒子)
RNAを脂質で包んで細胞へ届ける微小な粒子。
体内(in vivo)CAR-T
体の外で細胞を加工せず、体内でT細胞にCARを持たせる方式。
PCSK9
血中LDLコレステロールの量に関わるタンパク質。これを作る遺伝子が編集の標的。
CVR(条件付き価値権)
買収後に特定の成果が出たときだけ支払われる追加の対価。
仕掛研究開発費(IPR&D)
買収した開発中の資産の対価。資産取得の場合は費用として計上される。
資産取得と企業結合
会計上、事業ごとの取得は企業結合、資産だけの取得は資産取得として扱いが分かれる。
Form 10-K/10-Q/8-K
米国SECに提出する年次/四半期/臨時の報告書。
概念図:脂質の粒子に包まれた遺伝子編集の道具が、肝臓の細胞へ届く流れAI生成による概念図
図3 Lillyが取り込んだ「体内で遺伝子を書き換える」治療の考え方の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. Eli Lilly and Company Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月12日)。売上・研究開発費・従業員・Verve買収・Ixo-vec。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
  2. Eli Lilly and Company Form 10-Q for the quarter ended June 30, 2026(米国SEC提出、2026年8月5日)。Kelonia・Orna・事業開発の支出。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
  3. Eli Lilly and Company Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2023(米国SEC提出、2024年2月21日)。Prevail・Akouosの買収。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947824000065/lly-20231231.htm
  4. Verve Therapeutics Form 10-Q for the quarter ended March 31, 2025(米国SEC提出、2025年5月14日)。Lillyとの研究協業、VERVE-102、Heart-2の初期データ。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000095017025070911/verv-20250331.htm
  5. Verve Therapeutics Form 8-K(2025年6月17日提出)。Lillyとの合併契約の条件。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000119312525141748/d30505d8k.htm
  6. Verve Therapeutics Form 8-K(2025年7月25日提出)。公開買付けの成立。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000119312525165462/d71385d8k.htm
  7. Adverum Biotechnologies Form 8-K(2025年10月24日提出)。Lillyとの合併契約の条件。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1501756/000119312525249438/d70157d8k.htm
  8. Adverum Biotechnologies Form 8-K(2025年12月9日提出)。公開買付けの成立。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1501756/000119312525312722/d96637d8k.htm
  9. ClinicalTrials.gov NCT06164730(VERVE-102、フェーズ1b Heart-2)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06164730
  10. ClinicalTrials.gov NCT07839936(VERVE-102、フェーズ2)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07839936
  11. ClinicalTrials.gov NCT06856577(Ixo-vec、フェーズ3 ARTEMIS)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06856577
  12. ClinicalTrials.gov NCT07482176(Ixo-vec、フェーズ3 AQUARIUS)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07482176
  13. ClinicalTrials.gov NCT07075185(KLN-1010、フェーズ1)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07075185
  14. ClinicalTrials.gov NCT07439796(ORN252、フェーズ1)。 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07439796
  15. Eli Lilly and Company 公式サイト(社名・ロゴの確認用)。 https://www.lilly.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本社、上場市場、従業員約50,000人(研究開発約12,000人)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
売上高、純利益、研究開発費、仕掛研究開発費、設備投資事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
Verve買収の条件(現金5.49億ドル、CVR最大約3億ドル、2025年7月)とVERVE-102が主な取得資産であること事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
Verve買収の契約日(2025年6月16日)と公開買付けの完了(2025年7月)事実出典5・出典6 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000119312525141748/d30505d8k.htm
Verveとの研究協業(2023年6月)、2,000万ドルのマイルストーン、VERVE-102のIND受理・ファストトラック、Heart-2の初期データ(14人)事実出典4 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000095017025070911/verv-20250331.htm
Adverum買収の条件(1株3.56ドル+CVR最大8.91ドル)と取得完了(2025年12月9日)事実出典7・出典8 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1501756/000119312525249438/d70157d8k.htm
Ixo-vecがフェーズ3で、Adverum買収で取得されたこと事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
Orna(ORN-252、2026年5月、12.33億ドル)とKelonia(KLN-1010、2026年6月25日、48.97億ドル、条件付き対価最大37.5億ドル)事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
2026年に事業開発へ133億ドルを支出、長期債務90億ドルの発行事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
Prevail買収(2021年1月)とAkouos買収(2022年12月)の条件事実出典3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947824000065/lly-20231231.htm
VERVE-102のHeart-2(NCT06164730)の試験デザインと主要評価項目事実出典9 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06164730
VERVE-102のフェーズ2(NCT07839936)の試験デザインと開始予定事実出典10 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07839936
ARTEMIS(NCT06856577)とAQUARIUS(NCT07482176)の試験デザイン事実出典11・出典12 https://clinicaltrials.gov/study/NCT06856577
KLN-1010(NCT07075185)とORN252(NCT07439796)の試験デザイン事実出典13・出典14 https://clinicaltrials.gov/study/NCT07075185
体内の遺伝子編集が臨床で未確認の新技術であること、Heart-1試験(VERVE-101)の中止事実出典4 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1840574/000095017025070911/verv-20250331.htm
2022年のGBA1遺伝子治療の無形資産減損事実出典3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947824000065/lly-20231231.htm
Kelonia取得の公正価値の算定が暫定であること事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000081/lly-20260630.htm
ロゴ・社名表記の確認事実出典15 https://www.lilly.com/
図1の3類型の区分本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
遺伝子医療専用の研究開発費・人員・設備投資額、各品目の承認申請時期、Orna・Keloniaの送達方式、iPS細胞の社内計画未確定/将来Lillyの開示資料に記載なし。本稿では推計しない https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/59478/000005947826000013/lly-20251231.htm
iPS細胞ではなく体内で遺伝子を書き換える道を選んでいるという読み推測取得品目の種類とiPS細胞への言及がないことからの本稿の解釈
新しい技術は買収で取り込む方針という読み推測2021〜2026年の買収の連続からの本稿の解釈
体内CAR-Tへの傾斜が最近強まったという読み推測2026年5〜6月の取得額からの本稿の解釈
初期段階の品目に分散して賭けているという読み、遺伝子医療の成否が会社全体に響きにくいという見方推測フェーズの分布と売上構成からの本稿の解釈

最終更新:2026年10月1日/Troy Technical
本稿の数値はすべて、Eli Lilly・Verve Therapeutics・Adverum Biotechnologiesが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類とClinicalTrials.govに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。本稿は医療上の助言ではなく、特定の治療を勧めるものでも、他の治療との優劣を示すものでもありません。